以下、図面とともに本発明による蛍光解析装置、及び蛍光解析方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
図1は、本発明による蛍光解析装置の一実施形態の構成を概略的に示す図である。本実施形態による蛍光解析装置1Aは、測定試料S中の蛍光プローブについて、測定試料Sに対して設定された測定領域内にある蛍光プローブから発生する蛍光を検出して時系列の光子数測定データを取得し、得られた光子数測定データに対して所定の蛍光解析を行うことで測定試料Sについての情報を取得するものである。以下においては、測定試料S中にあって測定対象となる蛍光物質(蛍光物質によって標識された分子等を含む)を「蛍光プローブ」とする。
本蛍光解析装置1Aによる解析対象の一例としては、図2に示す標的分子(ターゲット物質)T、及び蛍光プローブP1、P2を含むものが挙げられる。図2の模式図は、生体分子などの標的分子Tに対する蛍光プローブPの特異的結合を利用して標的分子Tについての情報を取得するホモジニアス・アッセイの一例を示すものである。
具体的には、図2においては、3個所の認識部位t1〜t3を有する標的分子Tを含む試料(図2(a))に対し、認識部位t1に特異的に結合する認識部位を有する蛍光標識された分子プローブP1、及び認識部位t2に特異的に結合する認識部位を有する蛍光標識された分子プローブP2(図2(b))を蛍光プローブとして混合し、図2(c)に示すようにそれらを反応させて、蛍光解析の対象となる測定試料Sとする。このような測定試料Sに対して、後述するように蛍光プローブの個数についての蛍光解析(フォトンバースト解析)を行うことにより、標的分子Tの情報を取得することができる。以下、本実施形態による蛍光解析装置1Aの構成について、蛍光解析方法とともに説明する。
図1に示す蛍光解析装置1Aは、試料ホルダ10と、還流装置12と、対物レンズ20と、ダイクロイックミラー21と、励起光源22と、反射ミラー23と、光フィルタ24と、結像レンズ25と、ピンホール26と、光検出器27とを備えており、これらの各要素が本蛍光解析装置1Aにおける蛍光顕微鏡部を構成している。また、この蛍光顕微鏡部の各要素に加えて、本蛍光解析装置1Aは、検出信号処理部30と、光子計数部35と、測定制御部50とを備えて構成されている。
試料ホルダ10は、蛍光測定及び解析の対象となる蛍光プローブを含む測定試料Sを保持する試料保持手段であり、その底面がスライドグラスとして機能する容器状の流路部材によって構成されている。また、本実施形態の蛍光解析装置1Aでは、流路部材10内に保持された測定試料Sに対して、還流装置12が設けられている。また、図1に示すように、流路部材10と還流装置12との間には、溶液状の測定試料Sが流れる循環流路が設けられている。還流装置12は、このような試料の循環流路において、流路部材10とともに、試料Sの液体試料に対して所定の方向及び流速で流れを付与する流れ付与手段として機能する。
図3は、試料ホルダとして用いられる流路部材10の構成の一例を示す図であり、図3(a)は側面図、図3(b)は底面図を示している。本構成例の流路部材10は、その上方部分を構成する流路本体13と、下方部分を構成するカバー部材18とによって構成されている。流路本体13は、例えばガラス基板からなり、その上面と下面との間で貫通する導入流路14、排出流路15と、導入流路14及び排出流路15の間に下方に開放された状態で形成された溝状の主流路16とを有している。
また、カバー部材18は、例えばカバーガラスからなり、流路本体13の溝状の主流路16を下方から覆うように設けられている。このような構成において、導入流路14、主流路16、及び排出流路15によって、流路部材10内での試料流路11が構成されている。また、これらのうちで主流路16は、試料Sの蛍光測定に用いられる測定流路となっている。測定流路16の構成の一例としては、その幅が100μm、高さが25μmの矩形の断面形状を有する流路構造が挙げられる。このような流路構造は非常に小さいため、流路部材10及び還流装置12によって流れが付与される測定試料Sは、微量の液体試料となる。また、還流装置12は、測定制御部50によって駆動制御されている。
測定試料Sを保持する流路部材の試料ホルダ10に対し、所定位置に対物レンズ20が設置されている。対物レンズ20としては、例えば水浸(液浸)系の対物レンズを好適に用いることができる。また、このような対物レンズ20に対し、試料ホルダ10は、その形状が対物レンズ20の作動距離に対応するように構成されている。図1に示すように、試料ホルダ10として流路部材を用いた構成では、対物レンズ20は流路部材10内の試料流路11に対して所定位置に配置される。
図1に示す構成では、対物レンズ20、ダイクロイックミラー21、及び励起光源22によって、測定試料Sに対して設定された測定領域に励起光を照射する励起光照射手段が構成されている。また、励起光源22としては、例えばレーザ光源を好適に用いることができる。励起光源22から供給された励起レーザ光は、ダイクロイックミラー21によって反射され、対物レンズ20を介して集光されつつ、試料ホルダ10内の測定試料Sへとビームスポットとして集光、照射される(励起光照射ステップ)。ここで、励起光源22の具体的な一例としては、波長473nm、532nm、または635nmのレーザ光を供給するレーザ光源を用いることができる。
また、図1に示す構成では、対物レンズ20、反射ミラー23、光フィルタ24、結像レンズ25、ピンホール26、及び光検出器27によって、励起光が照射された測定試料Sの測定領域内にある蛍光プローブから発生する蛍光を検出する蛍光検出手段が構成されている。測定試料Sの蛍光プローブからの蛍光は対物レンズ20によって収集され、ダイクロイックミラー21を透過した後、反射ミラー23によって光検出器27に向けて反射される。反射ミラー23によって光路が変更された蛍光は、光フィルタ24を通過し、結像レンズ25によって結像されつつ光検出器27に入射する。
光フィルタ24としては、例えば、試料Sからの散乱光、迷光等の余分な光成分を除去するための、測定対象の蛍光プローブの蛍光スペクトルに合わせて選択されたバンドパスフィルタを用いることができる。また、結像レンズ25と光検出器27との間には、ピンホール26が設置されている。ピンホール26は、結像レンズ25によって集光される蛍光に対して共焦点となる位置に設置されており、焦点外れの光を除去して、試料S中に形成されたビームスポットの測定領域からの蛍光のみを通過させる構成となっている。
ピンホール26を通過した蛍光は光検出器27によって検出され、その検出結果を示す電気信号である検出信号が出力される(蛍光検出ステップ)。以上の励起光照射手段及び蛍光検出手段により、測定試料Sにおいて微小な測定領域を設定し、試料Sの測定領域に励起光を照射するとともに、測定領域内にある蛍光プローブからの蛍光を検出する共焦点光学系による蛍光顕微鏡が構成されている。光検出器27の具体的な一例としては、光電子増倍管を用いることができる。
ここで、上記構成の蛍光顕微鏡によって測定試料S中に設定される測定領域は、例えば1fl(フェムトリットル)程度の極微小領域である。また、試料Sに含まれる蛍光プローブの分子濃度の一例として、その濃度を1nMとすると、測定領域内での蛍光プローブの平均分子数は6・1023×1・10−9×1・10−15=0.6個である。また、図2に例示したようなホモジニアス・アッセイでは、その標的分子の濃度は例えば1pM程度である。ただし、これらの数値は測定領域等についての設定の一例であり、具体的な設定は個々の場合で異なる。
蛍光検出手段の光検出器27から出力された検出信号は、検出信号処理部30へと入力される。検出信号処理部30は、例えばプリアンプなどの信号増幅回路、及びディスクリミネータ(波高弁別器)などの信号処理回路によって構成され、光検出器27からのアナログの検出信号に対して所定の信号処理を行って、光検出器27での個々の単一光子検出イベントを示す検出パルス信号列を生成し出力する。
検出信号処理部30から出力される検出パルス信号列は、光子計数部35へと入力される。光子計数部35は、光検出器27からの検出信号(検出信号処理部30で信号処理された検出パルス信号列)に基づいて、蛍光検出手段の光検出器27で検出された光子数を所定の計数時間幅(時間分解能)で時系列的に計数して、時系列の光子数測定データを生成する光子計数手段である(光子計数ステップ)。このような構成により、測定試料Sに対する単一光子計数による蛍光測定が可能となる。
ここで、本蛍光解析装置1Aにおいては、この光子計数部35での計数時間幅が、蛍光解析におけるビン幅の初期条件(最小ビン幅)となる。また、光子計数部35において計数される光子数測定データは、測定試料Sからの蛍光による光子検出イベントに加えて、光検出器27等によるノイズイベント、及びバックグラウンドイベント等を含んでいる。
光子計数部35としては、具体的には例えば、マルチチャンネルスケーラ(MCS)を用いることができる。また、光子計数部35での計数時間幅となるMCSの計数時間分解能は、例えば200nsec(ナノ秒)程度である。
光子計数部35において生成された時系列の光子数測定データは測定制御部50に入力され、この測定制御部50において、測定データに対して蛍光解析が行われる。本実施形態においては、測定制御部50は、解析条件設定部51と、測定結果解析部52とを有しており、光子数測定データに対して測定試料Sの測定領域内にある蛍光プローブの個数についての蛍光解析(フォトンバースト解析)を行って、測定試料Sについての情報を取得するように構成されている。このような測定制御部50は、例えば、蛍光解析用のソフトウェアが動作する制御用コンピュータによって構成することができる。
解析条件設定部51は、光子計数部35において所定の計数時間幅(初期ビン幅)で取得される時系列の光子数測定データに対して実行すべき蛍光解析について、その解析条件を設定する設定手段である(解析条件設定ステップ)。また、測定結果解析部52は、解析条件設定部51によって設定された解析条件に基づき、蛍光プローブを含む測定試料Sについての測定結果を示す光子数測定データに対する蛍光解析としてフォトンバースト解析を行う解析手段である(測定結果解析ステップ)。
解析条件設定部51は、測定データに対する解析条件として、光子数測定データをビニングするためのビン幅(各ビンの時間幅)と、そのビン幅における蛍光プローブ1分子に対する基準光子数とを設定する。ここで、光子数測定データに対するビン時間幅は、好ましくは光子計数部35での初期ビン幅の整数倍に設定される。この場合、時間的に連続する所定個数の計数データを加算することで、光子数測定データのビニングを容易に行うことができる。また、このビニングのビン幅は、解析部52で実行される蛍光解析に対応して、フォトンバースト解析を精度良く実行する上で好適な値に設定する必要がある。
具体的には、設定部51は、光子数測定データでの光子数のSN比である測定SN比のビン幅による変化と、ショットノイズ特性を仮定した場合の光子数のSN比である基準SN比のビン幅による変化とを用いてビニングのビン幅を設定する。また、設定部51は、設定されたビン幅に対し、そのビン幅における蛍光プローブ1分子に対する基準光子数を求める。すなわち、設定されたビン幅でのビニング後の測定データについて、各ビンの計数データに対して蛍光プローブ1分子に相当する光子数を求め、フォトンバースト解析における基準光子数とする。
測定結果解析部52は、上記のように設定された解析条件に基づき、設定されたビン幅で光子数測定データをビニングして蛍光解析用の測定データを生成し、そのビニング後の測定データに対して基準光子数を適用、参照して、測定試料Sの測定領域内にある蛍光プローブの個数についてのフォトンバースト解析を行う。これにより、例えば測定試料S中にある標的分子の情報など、測定試料Sについての情報を取得することができる。
上記実施形態による蛍光解析装置、及び蛍光解析方法の効果について説明する。
図1に示す蛍光解析装置1A、及び蛍光解析方法においては、対物レンズ20、励起光源22、及び光検出器27等を含む励起光照射系及び蛍光検出系によって測定試料S中に微小な測定領域を設定する。また、その測定領域内にある蛍光プローブ(例えば蛍光プローブを標識している蛍光物質)から発生する蛍光を光検出器27で検出して、その検出信号から光子計数部35において時系列の光子数測定データを生成する。
そして、解析条件設定部51において、測定結果の光子数測定データに対してビニングのビン幅と、蛍光プローブ1分子当たりの測定光子数に対応する基準光子数とを解析条件として設定するとともに、測定結果解析部52において、それらの解析条件に基づいて、測定領域内での蛍光プローブの個数についての蛍光解析であるフォトンバースト解析を行っている。
このように、測定試料Sに対して所定の計数時間幅(初期ビン幅)で取得された光子数測定データを設定されたビン幅でビニングし直し、そのビニング後の測定データに基準光子数を適用してフォトンバースト解析を行うことにより、例えば測定試料S中での標的分子と蛍光プローブとの反応についての解析など、測定領域内にある蛍光プローブからの蛍光を測定することによる測定試料Sの蛍光解析を容易化することが可能となる。
さらに、このような測定試料Sの蛍光解析において、光子数測定データに対するビン幅の設定について、測定されたSN比のビン幅依存性に対して、ショットノイズ特性を仮定した場合の基準SN比のビン幅依存性を求め、それらの関係からビニングのビン幅を設定している。このような構成によれば、フォトンバースト解析で光子数測定データに適用されるビン幅について、測定試料Sに対して実際に取得された測定データの特性に合わせて好適に設定することができる。これにより、測定試料Sに対する蛍光測定の感度、及びフォトンバースト解析の解析精度を向上することが可能となる。
また、図1の蛍光解析装置1Aでは、光子計数部35で取得された時系列の光子数測定データを、解析条件設定部51及び測定結果解析部52を含む測定制御部50に入力し、この測定制御部50において、上記構成に対応した蛍光解析プログラム等を動作させることによって、測定データに対する蛍光解析を実行する構成としている。これにより、光子数測定データに対するビン幅の設定、変更を含む蛍光解析を、測定データの内容に応じて好適に実行することができる。
また、本実施形態による蛍光解析装置1Aでは、試料ホルダ10の流路部材内に保持された測定試料Sに対して、測定試料Sに流れを付与する流れ付与手段として還流装置12を設けている。上記構成による光子数測定データに対するフォトンバースト解析法、及びその解析条件の設定法は、蛍光プローブを含む測定試料Sに対して還流装置12等の流れ付与手段によって流れを付与した状態で蛍光測定を行う構成において、特に有効に用いることができる。
すなわち、測定試料Sに流れを付与する構成では、蛍光測定の測定感度が向上する一方で、蛍光相関分光法を用いた自己相関関数による並進拡散運動についての解析が困難になるという問題がある。これに対して、上記構成による解析条件の設定、及びフォトンバースト解析法を適用することにより、このような蛍光測定データについても好適に解析を実行することが可能となる。また、試料Sに流れを付与する流れ付与手段については、上記のように試料流路11を有する流路部材10、及び還流装置12を用いることで、測定試料Sに対して簡易に流れを付与することができる。
図1に示した蛍光解析装置1A、及び解析装置1Aにおいて実行される蛍光解析方法について、さらに具体的に説明する。
まず、流路部材10及び還流装置12による測定試料Sに対する流れの付与について説明する。上述したように、測定試料Sに流れを付与する構成では、試料S中において分子が並進拡散運動に加えて流れによる移動運動をする。これにより、測定試料S中で設定された微小な測定領域に対する分子の通過頻度を高めることができ、試料Sに対する測定感度を向上することが可能となる。
図4は、光子数測定データに対して蛍光相関分光法を適用して得られた自己相関関数を示すグラフである。このグラフは、蛍光プローブ濃度が4.5×10−11Mの測定試料Sに対して60秒間の蛍光測定を行うとともに、その測定結果の光子数測定データに対して蛍光相関分光法による解析を行って得られた自己相関関数G(τ)を示している。
この図4のグラフにおいて、横軸は自己相関関数を算出する際の時間遅れのパラメータに対応する時間τ(sec)を示し、縦軸は規格化された自己相関関数を示している。また、グラフA1は、試料Sに対する流れの付与を行わなかった場合(フローなし)の自己相関関数を示し、グラフA2は、流れを付与した場合(フローあり)の自己相関関数を示している。
グラフA1は、試料Sに対する流れの付与なしの状態における、試料S中での蛍光プローブの並進拡散運動を示している。また、流れの付与を行ったグラフA2では、測定試料S中で、並進拡散運動を上回る移動速度で規則的な流れが発生し、それが自己相関関数において観測されている。また、試料Sの流速を制御することで、グラフA1、A2の中間となる波形を得ることができ、この場合、並進拡散運動及び試料Sの流れによる移動運動の両者の効果が自己相関関数において観測される。
これらのグラフA1、A2からわかるように、フローありのグラフA2では、フローなしのグラフA1に比べて、蛍光プローブの移動速度が1桁程度大きくなっている。これにより、上記したように試料Sでの測定領域に対する分子の通過頻度を高め、その測定感度を向上することができる。
また、蛍光プローブの蛍光色素分子の励起状態については、上記のように蛍光プローブの移動速度を向上させた場合、測定領域の通過時間が短くなることにより、蛍光プローブに対する励起光照射による励起時間が短くなる。このため、フローなしの条件では三重項状態への遷移が頻繁に確認されるものでも、フローありとすることによってその頻度が減少し、1分子当たりに対する蛍光強度を好適に測定することが可能となる。
このように、還流装置12を用いた流れの付与によって試料Sでの測定領域に対する蛍光プローブの通過頻度を高めた場合、試料S中での蛍光プローブの濃度は変化しないために測定領域内での平均滞在プローブ数は変動せず、測定領域に対する蛍光プローブの出入りの速さが変化する。これに対して、上記構成の蛍光解析装置1Aでは、蛍光プローブの移動速度に応じて光子数測定データのビニングのビン幅を設定して、精度良くフォトンバースト解析を行うことができる。このような構成では、試料Sに対する流れの付与のあり・なし、及び流れの付与ありの場合の流速などの測定条件に応じて、最適な解析条件を設定して蛍光解析を行うことが可能である。
ここで、蛍光相関分光法によって求められる自己相関関数G(τ)について、簡単に説明しておく。自己相関関数G(τ)は、時系列の光子数測定データをF(t)として、下記の式(2)
によって求めることができる。また、自己相関関数の算出においては、上記の式(2)において、自己相関関数を求める際の時間遅れτを測定データF(t)の時間分解能の整数倍、図1に示した構成では光子計数部35での計測時間幅(初期ビン幅)の整数倍に設定すれば、単純に時系列の光子数測定データF(t)でのビン間の積によって、自己相関関数G(τ)を求めることができる。
また、時間遅れτ=0の場合の自己相関関数G(τ=0)については、自分自身のビンの積であるために、光検出器27のノイズの影響等を無視することができない。したがって、このG(0)を求める場合には、τ>0の範囲でのG(τ)の波形から推定することが好ましい。また、G(0)の推定においては、τ=0の近傍では光検出器27のアフターパルスによる固定ノイズの重畳等の問題が発生する可能性があるので、G(τ)の波形全体を取り扱って波形解析を行うことが好ましい。
一般に、蛍光相関分光法において1成分系の波形解析では、自己相関関数G(τ)は、下記の式(3)
によって求められる。この式(3)によれば、時間遅れτ=0のときに、G(τ)のy切片について
G(τ=0)=1/n
の関係が得られる。
ここで、上記の式(3)において、nは測定試料Sの測定領域内における蛍光プローブの平均分子数を示し、また、τDは拡散時定数、r0、z0は構造パラメータ(ストラクチャパラメータ)をそれぞれ示している。これらの変数は、式(2)によって算出された自己相関関数G(τ)に対して、フィッティング計算による波形解析を行うことによって求めることができる。また、このとき、上記したG(τ)のy切片により、測定試料S中での蛍光プローブの濃度を示す平均分子数nが求められる。このようにして得られる平均分子数nは、後述するように、フォトンバースト解析に用いられる基準光子数の設定において参照することができる。
上記した自己相関関数G(τ)について詳述すると、自己相関関数G(τ)は、光子数測定データF(t)に対し、下記の式(4)
によって定義される。ここで、δF(t)は蛍光ゆらぎを示すものであり、
によって定義される。
このδF(t)を用い、また、蛍光ゆらぎδF(t)と平均蛍光強度<F>との積の和が0に収束すると仮定すると、上記した式(2)の右辺は下記のように変形できる。
すなわち、この式(6)に示すように、上記仮定のもとでは、自己相関関数G(τ)の定義式(4)は、式(2)のように表すことができる。また、自己相関関数の波形解析に用いられる式(3)は、定義式(4)に対してレーザ光強度分布式、拡散方程式などを用いてパラメータを導入して式を解くことで得られるものである。
なお、自己相関関数の式(3)に関しては、三重項状態に遷移する過程をも含めると式はさらに複雑化し、また、多成分系、フロー系などの因子が増えていった場合、そのパラメータを正確に決定することが困難となる。一方、1成分系の解析では、同一の試料Sを測定する場合、拡散時定数τDを固定することができる。また、構造パラメータは、測定領域が再現性良く構築できているかを示すため、共焦点光学系と、蛍光プローブとが標準状態であることを確認する上でも有効である。
蛍光プローブを含む測定試料Sに対して流れを付与する流れ付与手段については、図1に示した実施形態では流路部材10及び還流装置12を用いて構成された液体試料の循環流路を例示したが、具体的には、このような構成以外にも様々な構成の流れ付与手段を用いて良い。
次に、光子数測定データに対するフォトンバースト解析の解析条件であるビン幅の設定方法について説明する。
光子数測定データに対してフォトンバースト解析を行う際の解析条件であるビニングのビン幅の具体的な設定方法については、解析条件設定部51において、光子数測定データでの測定シグナル量Sに対して、光子数測定データでの測定ノイズ量N、及びショットノイズ特性を仮定した場合の基準ノイズ量N’を求め、測定SN比S/Nと、基準SN比S/N’とを用いて定義される式(1)のビン幅設定用の評価量dN/S
を参照して、ビン幅を設定することが好ましい。
このように、測定SN比S/Nと、基準SN比S/N’とを比較することで得られる評価量dN/Sを用いることにより、光子数測定データに対するビン幅を好適に評価、設定することが可能となる。また、この場合の具体的なビン幅の設定方法の一例としては、評価量dN/Sのビン幅(時間幅)依存性において、評価量dN/Sが最大となる時間幅によってビン幅を設定することが好ましい。
上記した評価量dN/S、及びそれを用いたビン幅の設定について具体的に説明する。図5は、光子数測定データにおけるSN比のビン幅依存性を示すグラフである。この図5のグラフにおいて、横軸は光子数測定データをビニングする際のビン時間幅(sec)を示し、縦軸はそれぞれのビン幅に対して得られたSN比S/Nを示している。また、グラフB1は、フローなしの場合の測定SN比を示し、グラフB2は、フローありの場合の測定SN比を示している。
ここで、光子数測定データにおけるSN比の算出において、シグナル量Sについては、光子計数部35によって所定の測定時間(例えば60秒間)で記録された光子数のビン時間幅当たりの平均値を測定シグナル量Sとしている。また、ノイズ量Nについては、ビン時間幅に対する光子数のばらつき度合、すなわち測定光子数の標準偏差を測定ノイズ量Nとしている。これらの測定シグナル量S及び測定ノイズ量Nにより、測定SN比S/Nを求めることができる。
図5における測定SN比のグラフB1、B2において、ビン幅が1μsec程度と小さい場合には、SN比は蛍光プローブの運動速度等の影響をほとんど受けず、発光現象そのもののSN比を示す。このとき、測定時間内の各ビンでの光子数は、ショットノイズ特性と同様のポアソン分布を示し、ビン時間幅をwtとすると、光子数の平均値である測定シグナル量Sは、時間幅wtに比例して増加する。また、光子数の標準偏差である測定ノイズ量Nは、ポアソン分布の特性から時間幅の平方根√wtに比例する。
したがって、測定SN比のビン幅依存性において、ビン時間幅が小さくショットノイズ特性と同様の特性を示す領域では、測定SN比S/Nはビン時間幅wtの平方根√wtに比例する。また、このようにショットノイズ特性が成り立つ領域では、ビン幅が2桁大きくなると、S/N比は1桁向上する。
一方、光子数測定データのビン幅を大きくしていくと、各ビンで計数される光子数、及びそのSN比は、測定試料S内での蛍光プローブの運動速度、及びそれによる測定領域に対する蛍光プローブの出入りの影響を受け、それが光子数測定データにおける蛍光ゆらぎとして観測される。このとき、測定SN比のビン幅依存性は、蛍光ゆらぎによってショットノイズ特性から外れることとなる。したがって、蛍光ゆらぎによるSN比のショットノイズ特性からの外れ度合を評価することにより、蛍光プローブの移動運動についての情報を取得するために好適なビン時間幅wtを評価することができる。
その具体的な方法としては、例えば、測定シグナル量Sに対し、光子数測定データで実際に測定されたノイズ量Nに加えて、ショットノイズ特性を仮定した場合のノイズ量を基準ノイズ量N’として求める。そして、測定ノイズ量NによるSN比S/Nが、基準ノイズ量N’によるSN比S/N’からどれくらい外れているかを評価することにより、光子数測定データの蛍光解析において適用すべきビン時間幅を好適に設定することができる。また、この場合のショットノイズ特性からのSN比のずれの評価においては、上記した式(1)の評価量dN/Sを好適に用いることができる。
ここで、測定ノイズ量Nに対する基準ノイズ量N’の算出においては、光子数測定データで得られている測定ノイズ量Nのビン幅による変化に対して基準ビン幅を設定し、その基準ビン幅における測定ノイズ量Nを初期値として、ショットノイズ特性による基準ノイズ量N’のビン幅による変化を求めることが好ましい。図6は、このような方法で求められた測定SN比及び基準SN比のビン幅依存性を示すグラフである。
この解析例では、ビン時間幅が小さい領域で測定SN比がショットノイズ特性と同様の特性を示すことを考慮して、最小ビン幅(例えば、光子計数部35で光子数を計数する際の初期ビン幅)を基準ビン幅としている。そして、最小ビン幅での光子数測定データから得られる光子数の標準偏差である測定ノイズ量Nを初期値とし、ショットノイズ特性においてノイズ量が√wtに比例することを利用して基準ノイズ量N’のビン幅依存性を求めている。
図6においては、このようにして求められたノイズ量について、測定シグナル量S及び測定ノイズ量Nによって算出されるSN比S/NのグラフC1、及び基準ノイズ量N’によって算出されるSN比S/N’のグラフC0を示している。これらのグラフC0、C1により、ビン時間幅wtが大きくなるにつれて、測定SN比S/Nがショットノイズ特性による基準SN比S/N’から外れていくことがわかる。
図6に示した測定SN比S/N、及び基準SN比S/N’を用いることにより、上記したビン幅設定用の評価量dN/S=(N−N’)/Sを求めることができる。図7は、ビン幅設定用の評価量dN/Sのビン幅依存性を示すグラフである。この図7のグラフにおいて、横軸は光子数測定データをビニングする際のビン時間幅(sec)を示し、縦軸はそれぞれのビン幅に対して得られた評価量dN/Sを示している。また、グラフD1は、フローなしの場合のdN/Sを示し、グラフD2は、フローありの場合のdN/Sを示している。
このような評価量dN/Sのビン幅依存性を参照することにより、光子数測定データに対してフォトンバースト解析を行う際に好適なビン時間幅を設定することができる。すなわち、dN/Sのビン幅による変化において、測定SN比がショットノイズ特性と同様の特性を示している領域では、上記した評価量dN/Sの値は小さくなる。一方、測定試料S中での蛍光プローブの移動運動による蛍光ゆらぎの影響が大きい領域では、dN/Sの値は大きくなる。また、このようにdN/Sの値が大きくなることは、そのビン幅を適用した光子数測定データにおいて、蛍光プローブに対する測定感度が高くなっていることを示している。
光子数測定データの蛍光解析におけるビニングのビン幅の設定においては、このような評価量dN/Sの特性を考慮し、評価量dN/S=(N−N’)/Sが最大となる時間幅によってビン幅を設定することが好ましい。このような設定方法では、図7に示す例において、フローなしの場合、グラフD1を参照して、光子数測定データに対するビニングのビン幅はwt=0.73msecに設定される。また、フローありの場合、グラフD2を参照して、ビン幅はwt=0.10msecに設定される。
あるいは、評価量dN/Sを用いたビン幅の具体的な設定方法については、上記のようにdN/Sが最大となる時間幅によってビニングのビン幅を設定する方法に限らず、具体的には様々な構成を用いることが可能である。そのような構成としては、例えばdN/Sが最大となるピーク位置から所定割合以上、例えば70%以上のdN/S値を有する範囲を設定し、その範囲内で選択した時間幅によってビン幅を設定する構成等を用いることができる。
次に、光子数測定データに対するフォトンバースト解析の解析条件である基準光子数の設定方法について説明する。
光子数測定データに対してフォトンバースト解析を行う際の解析条件である蛍光プローブ1分子に対する基準光子数については、解析条件設定部51において、光子数測定データ、及び解析条件として設定されたビン幅から蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数を求め、得られた平均光子数を基準光子数とすることが好ましい。
また、光子数測定データからの平均光子数の算出においては、光子数測定データに対して蛍光相関分光法を適用して得られる自己相関関数を利用し、測定データから蛍光相関分光法によって求められた自己相関関数の波形と、測定データで測定された単位時間当たりの蛍光強度と、設定されたビン幅とによって、そのビン幅における基準光子数となる蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数を設定することが好ましい。この場合、光子数測定データから求められた自己相関関数G(τ)の波形によって測定領域内での蛍光プローブの平均分子数を求めるとともに、算出された平均分子数と、測定された単位時間当たりの蛍光強度とを参照して、ビン幅に対する基準光子数を好適に設定することができる。
このような設定方法の一例としては、自己相関関数G(τ)の波形から測定領域内にある蛍光プローブの平均分子数を求めるとともに、その蛍光プローブの平均分子数と、単位時間当たりの蛍光強度とによって、単位時間当たりの蛍光プローブ1分子当たりの蛍光強度を求める。そして、求められた単位時間当たりの蛍光プローブ1分子当たりの蛍光強度と、設定されたビン幅とによって、そのビン幅での基準光子数となる蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数を設定する方法を用いることができる。
基準光子数の設定の具体例について説明する。まず、光子数測定データから図4に示した自己相関関数G(τ)を求める。ここで、上述したように、測定試料Sの測定領域内における蛍光プローブの平均分子数をnとすると、G(τ=0)=1/nが成り立つ。したがって、自己相関関数G(τ)に対して波形解析を行って、そのy切片を求めることにより、蛍光プローブの平均分子数nを求めることができる。また、この平均分子数は測定試料Sのフローのあり・なりによって変化することはないので、実際の蛍光測定条件にかかわらず、例えばフローなしでの光子数測定データから平均分子数nを求めれば良い。
次に、実際の蛍光測定条件で得られた光子数測定データから、単位時間当たりの平均蛍光強度を求める。そして、得られた平均分子数n及び平均蛍光強度から、蛍光プローブ1分子当たりの蛍光強度(FPM:Fluorescence Intensity Per Molecule)が算出され、さらに、このFPMの値と、設定されたビン時間幅とによって、そのビン幅での基準光子数となる蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数が求められる。
例えば、図4に示した測定例では、フローなしの測定(グラフA1)での平均蛍光強度は2.73kcpsであり、また蛍光相関分光法を適用して求められた測定領域内における蛍光プローブの平均分子数はn=0.15個であった。また、実際の蛍光測定条件をフローあり(グラフA2)とすると、その条件での蛍光強度は5.24kcpsであった。このとき、バックグラウンドが300cpsであることを考慮して、蛍光プローブ1分子当たりの蛍光強度がFPM=32.9kcpsと求められる。
また、この蛍光測定条件での光子数測定データに対して、図7のグラフD2を参照して測定データのビニングのビン幅を0.1msecに設定すると、このビン幅における蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数は3.29カウントとなる。すなわち、光子数測定データにおいてビン幅を0.1msecに設定すると、測定試料S中で蛍光プローブ1分子が測定領域内に入った場合、平均で3.29カウントの光子計数値が得られる。
したがって、この平均光子数3.29カウントを基準光子数として、光子数測定データをビニングして得られたデータにおける各ビンでの光子数を解析することにより、測定領域内にある蛍光プローブの個数についてのフォトンバースト解析を実行することが可能となる。例えば上記の例では、ビン幅0.1msecでビニングされた光子数測定データにおいて、ビンの光子数(計数されたイベント数)が3〜4カウントであれば、測定領域内に蛍光プローブが1分子存在すると推定できる。また、ビンの光子数が6〜7カウントであれば、測定領域内に蛍光プローブが2分子存在すると推定できる。また、蛍光プローブが3分子以上存在する場合についても、同様の方法で推定が可能である。
例えば、図2に示した分子系を測定対象として蛍光解析を行った場合、上記方法でフォトンバースト解析を行うことにより、標的分子Tについての定量的な測定が可能となる。また、標的分子に対して2種類の異なる蛍光プローブが関与する場合でも、それぞれを同一の蛍光色素で標識し、それらの蛍光プローブを等量として上記方法で蛍光解析を行うことにより、標的分子の定量が可能である。
このような方法は3種類以上の異なる蛍光プローブが関与する場合も同様に適用可能である。このように蛍光プローブ数が多い場合には、フォトンバースト解析による標的分子の識別精度が高くなる。また、例えば上記のように、測定領域内における蛍光プローブの平均分子数が0.15個と小さい場合には、標的分子と反応していないフリーの蛍光プローブが偶然2個以上、測定領域に入ってくる確率は低い。したがって、蛍光プローブに対してフォトンバースト解析を行って2個以上の蛍光プローブの計数イベントを識別することにより、標的分子の情報を確実に取得することができる。また、上記方法は、異なる蛍光色素で標識された複数種類の蛍光プローブが関与する場合にも適用が可能である。
蛍光プローブ1分子に対して設定される基準光子数を用いた光子数測定データの解析方法については、具体的には様々な方法を用いて良い。そのような方法の一例として、例えば、基準光子数に基づいて測定データに対して光子数の閾値を設定し、その閾値を適用して標的分子によるイベントを識別する方法を用いることができる。あるいは、光子数測定データでの各ビンの光子数を基準光子数で規格化し、得られた規格化光子数データを参照して測定領域内での蛍光プローブの個数、及びその時間変化を評価する方法を用いることができる。
次に、図1に示した蛍光解析装置1Aにおいて実行される蛍光解析方法について、その具体例とともにさらに説明する。図8〜図15は、本発明による蛍光解析方法の一例を示すフローチャートである。
図8は、光子数測定データの取得方法の一例を示すフローチャートである。図8に示す測定方法は、例えば解析条件設定用の測定データを取得する際に用いられる。この方法では、まず、蛍光測定に用いる蛍光標識された分子プローブを、測定試料Sとして試料ホルダ10に入れる(ステップS101)。そして、この測定試料Sに対して、図1に示した蛍光解析装置1Aにおいてフローなしの条件で測定を行い、光子計数部35によって光子数測定データを取得する(S102)。取得された測定データは測定制御部50に入力され、データ格納部のメモリ等に保存される(S103)。
次に、フローありの条件で蛍光測定を行うかどうかが確認される(S104)。測定を行う必要がある場合には、還流装置12によって試料Sに流れを付与し(S105)、フローありの状態で蛍光測定(S106)、及び測定データの取得、保存(S107)を行う。なお、この蛍光解析方法では、蛍光測定の際に励起光源22から供給される励起光の強度について、全ての測定で励起光強度を同一とすることが好ましい。また、光検出器27による蛍光の検出については、光検出器27が飽和しないように最高計数値以下となる条件で測定を行うことが好ましい。
続いて、測定制御部50の解析条件設定部51において、取得された光子数測定データを用い、測定データに対してフォトンバースト解析を行うために必要な解析条件が設定される(S108)。ここでの解析条件の設定は、フローなしの蛍光測定のみが行われている場合には、その測定データを用いて行われる。また、フローなし・ありでそれぞれ蛍光測定が行われている場合には、それら両者の測定データを用いて解析条件の設定が行われる。また、解析条件の設定が不要であれば、このステップS108は行う必要はない。
図9は、図8のステップS108で行われる解析条件設定方法の一例を示すフローチャートである。この方法では、まず、解析条件設定用に取得された光子数測定データに対して、分子数についての解析を行って、測定試料Sの測定領域内における蛍光プローブの平均分子数nを求める(S121)。次に、ビン幅についての解析を行って、蛍光解析に用いるビニングのビン幅を設定する(S122)。
さらに、ステップS121で求められた平均分子数n、及び測定データでの平均蛍光強度から、蛍光プローブ1分子当たりの蛍光強度(FPM)を算出し(S123)、このFPMの値と、ステップS122で設定されたビン幅とによって、そのビン時間幅での基準光子数となる蛍光プローブ1分子当たりの平均光子数を求める。これにより、光子数測定データに対するフォトンバースト解析の解析条件のビン幅及び基準光子数が設定され(S124)、設定された解析条件を保存して(S125)、解析条件の設定を終了する。
図9の解析条件設定方法に示すステップS121の分子数解析(蛍光プローブの濃度解析)は、例えば図10に示す手順で実行することができる。
図10の解析例では、まず、フローなしの条件で取得された光子数測定データをデータ格納部から読み込み(S131)、その時系列の測定データに蛍光相関分光法を適用して自己相関関数G(τ)を導出する(S132)。そして、単成分のフィッティング計算などによって自己相関関数の波形解析を行って(S133)、そのy切片のG(τ=0)を算出する(S134)。このG(0)の値の逆数により、上述したように、測定試料Sの測定領域内における蛍光プローブの平均分子数nを導出することができる(S135)。
また、図9の解析条件設定方法に示すステップS122のビン幅解析(測定データの時間分解能についての解析)は、例えば図11に示す手順で実行することができる。
図11の解析例では、まず、試料解析において実際に適用される蛍光測定条件に応じてフローなし、またはフローありの条件で取得された光子数測定データを読み込むとともに(S141)、ビン幅の解析処理のための処理条件を読み込む(S142)。この場合の処理条件としては、例えば、図7に示した評価量dN/Sを用いてビン幅解析を行う場合に、解析を実行するビン時間幅の範囲(例えば初期ビン幅から1秒程度まで)、及びその解析間隔、解析点数などの条件がある。このような処理条件は、例えば解析を実行するビン時間幅のテーブルとして用意しても良い。
次に、光子数測定データに対して、測定SN比についてのデータ処理を実行する(S143)。この測定データ処理は、図6のグラフC1に示す測定SN比S/Nのビン幅による変化を導出する処理である。図12は、測定データ処理の一例を示すフローチャートである。
図12に示す測定データ処理では、まず、最初に測定SN比の導出を行うビン幅(例えば最小ビン幅である光子数測定データの初期的なビン幅)を設定する(S151)。そして、そのビン幅について、必要に応じて時系列の測定データに対してビニングを行う(S152)。さらに、得られたデータから測定シグナル量Sとなる測定光子数の平均値、及び測定ノイズ量Nとなる標準偏差を算出して(S153)、それらの値からそのビン幅での測定SN比S/Nを導出する(S154)。
測定SN比S/Nを導出したら、測定データ処理に必要な全てのビン幅についてSN比の導出を終了したかどうかが確認され(S155)、終了していなければ、ビン幅を変更して(S156)、測定SN比S/Nの導出処理を繰り返す。全てのSN比の導出を終了していれば、測定データ処理を終了する。具体的に、例えば最小ビン幅200nsに対してビン幅1μsで解析を行う場合、連続するビンを5個ずつ積算することで光子数測定データをビニングし、得られたビニング後の測定データから測定SN比が求められる。
図11に戻って、測定データ処理が終了したら、さらに、光子数測定データに対して、基準SN比についてのデータ処理を実行する(S144)。この基準データ処理は、図6のグラフC0に示す基準SN比S/N’のビン幅による変化を導出する処理である。図13は、基準データ処理の一例を示すフローチャートである。
図13に示す基準データ処理では、まず、光子数測定データに対して基準SN比の初期値を決めるための基準ビン幅(例えば最小ビン幅)が設定され、その基準ビン幅における測定シグナル量Sとなる測定光子数の平均値、及び測定ノイズ量Nとなる標準偏差を算出して(S161)、それらの値から基準SN比S/N’の初期値となる基準ビン幅でのSN比S/Nを導出する(S162)。さらに、続いて基準SN比の導出を行うビン幅を設定し(S163)、そのビン幅について、ショットノイズ特性による基準SN比S/N’を、上記初期値に基づいて導出する(S164)。
基準SN比S/N’を導出したら、基準データ処理に必要な全てのビン幅についてSN比の導出を終了したかどうかが確認され(S165)、終了していなければ、ビン幅を変更して(S166)、基準SN比S/N’の導出処理を繰り返す。全てのSN比の導出を終了していれば、基準データ処理を終了する。具体的に、例えば基準ビン幅200nsに対してビン幅1μsで解析を行う場合、ビン幅が5倍となっているため、5の平方根を初期値に積算することで基準SN比が求められる。
図11に戻って、測定データ処理、及び基準データ処理が終了したら、求められた測定SN比S/N、及び基準SN比S/N’を用いて差分計算を行って、ビン幅設定用の評価量dN/S=(N−N’)/Sを算出する(S145)。そして、この評価量dN/Sのビン幅による変化(図7参照)に基づいて、フォトンバースト解析に用いるビン幅を決定する(S146)。
図14は、光子数測定データの取得方法の他の例を示すフローチャートである。図14に示す測定方法は、例えば標的分子及び蛍光プローブを含む測定試料Sについて蛍光解析を行うための測定データを取得する際に用いられる。この方法では、まず、解析対象となる標的分子を含む解析対象試料を試料ホルダ10に入れ(S201)、さらに蛍光プローブを混合して標的分子と反応させて、測定試料Sを準備する(S202)。
次に、フローありの条件で蛍光測定を行うかどうかが確認される(S203)。試料Sに対する流れの付与ありの条件で測定を行う場合には、還流装置12によって試料Sに流れを付与し(S204)、その状態で蛍光測定を行って光子数測定データを取得する(S205)。一方、フローなしの条件で測定を行う場合には、還流装置12を動作させない状態で蛍光測定を行って光子数測定データを取得する(S206)。
取得された光子数測定データは測定制御部50に入力され、データ格納部に保存される(S207)。さらに、得られた光子数測定データについての蛍光解析を続けて実行する必要がある場合には、測定制御部50の測定結果解析部52において、先に解析条件設定部51によって設定された解析条件に基づいて蛍光解析が行われる(S208)。
図15は、図14のステップS208で行われる測定結果解析方法の一例を示すフローチャートである。この方法では、まず、解析対象となる光子数測定データを読み込むとともに(S221)、フォトンバースト解析のために設定された解析条件を読み込む(S222)。次に、解析条件設定部51で解析条件として設定されたビン幅を参照し、そのビン幅で光子数測定データに対してビニング処理を行い(S223)、さらに、ビニング後の測定データに基準光子数を適用して、フォトンバースト解析を行う(S224)。
このフォトンバースト解析について、例えば基準光子数に基づいてイベント識別の閾値を設定して解析を行う場合を例として説明すると、ビニング後の光子数データの各ビンでの計数値に対して閾値を適用し、測定光子数が閾値を超えている場合をバースト条件に適合した1イベントとして識別して、そのイベント数をカウントする。
続いて、この測定データが校正用のものかどうかが確認される(S225)。そして、校正用の測定データであった場合には、フォトンバースト解析の結果から校正曲線(蛍光解析において用いられる検量線)が作成される(S226)。ここで、校正用の蛍光測定は、解析対象の標的分子の濃度等の値が既知の試料を測定試料Sとし、濃度が異なる複数の試料Sに対して蛍光測定及び解析を行う。そして、標的分子の濃度値と、フォトンバースト解析で得られたイベント数とを関連付けることで、標的分子の量を見積もるための検量線となる校正曲線が作成される。
また、測定データが標的分子の濃度が未知であって解析対象となる試料Sに対するものであった場合には、作成済の校正曲線と、フォトンバースト解析で得られたイベント数とによって、その試料Sでの蛍光プローブの反応量、あるいは標的分子の濃度などの必要な数値を算出する(S227)。なお、上記した校正曲線の作成においては、フォトンバースト解析での閾値を可変とし、最適な校正曲線が得られるように解析条件の閾値を調整、設定する構成としても良い。
本発明による蛍光解析装置、及び蛍光解析方法は、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、蛍光測定に用いられる蛍光顕微鏡等の装置構成については、図1はその一例を示すものであり、具体的には様々な構成を用いて良い。また、試料Sに対する流れの付与については、上記実施形態はフローの方向を限定するものではなく、どの方向性においても上記構成を適用することができる。
また、測定対象となる試料Sについては、図2に示す標的分子及び蛍光プローブを混合した試料に限られるものではなく、一般にフォトンバースト解析を適用可能のものであれば、蛍光物質を含む様々な測定試料に対して上記構成を適用可能である。また、上記構成の蛍光解析装置は、低ランニングコストを実現可能なことから、多数の検査を低額で行う必要がある臨床診断分野や食品検査分野、あるいはさらに創薬等で大量の処理を必要とするスクリーニング分野など、様々な分野に適用することが可能である。
1A…蛍光解析装置、S…測定試料(液体試料)、10…試料ホルダ(流路部材)、11…試料流路、12…還流装置、13…流路本体、14…導入流路、15…排出流路、16…主流路(測定流路)、18…カバー部材、20…対物レンズ、21…ダイクロイックミラー、22…励起光源、23…反射ミラー、24…光フィルタ、25…結像レンズ、26…ピンホール、27…光検出器、30…検出信号処理部、35…光子計数部、50…測定制御部、51…解析条件設定部、52…測定結果解析部。