以下、添付図面を参照して本発明の無段変速機の制御装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の無段変速機の制御装置が適用される車両の概略構成図である。図1に示すように、この車両は、エンジン(駆動源)1と、トルクコンバータ2と、無段変速機(以下、「CVT」ともいう)3と、前後進切替装置4と、ディファレンシャル機構6とを備える。
エンジン1の駆動はクランクシャフト11に出力される。このクランクシャフト11の回転は、トルクコンバータ2を介してCVT3に入力される。トルクコンバータ2は流体(作動油)を介してトルクの伝達を行うものであり、フロントカバー21と、このフロントカバー21と一体に形成されたポンプ翼車(ポンプインペラ)22と、フロントカバー21とポンプ翼車22との間でポンプ翼車22に対向配置されたタービン翼車(タービンランナ)23と、ステータ24とを有する。図1に示すように、クランクシャフト11はトルクコンバータ2のポンプ翼車22に接続され、タービン翼車23はメインシャフト(CVT入力軸)12に接続される。
なお、タービン翼車23とフロントカバー21との間には、ロックアップクラッチ25が設けられている。ロックアップクラッチ25は、後述するAT−ECU20の指令に基づく油圧制御装置7による制御により、フロントカバー21の内面に向かって押圧されることによりフロントカバー21に係合し、押圧が解除されることによりフロントカバー21との係合が解除されるロックアップ制御を行う。フロントカバー21およびポンプ翼車22により形成される容器内には作動油(ATF:Automatic Transmission Fluid)が封入されている。
ロックアップ制御がなされていない場合では、ポンプ翼車22とタービン翼車23の相対回転が許容される。この状態において、クランクシャフト11の回転トルクがフロントカバー21を介してポンプ翼車22に伝達されると、トルクコンバータ2の容器を満たしている作動油は、ポンプ翼車22の回転により、ポンプ翼車22からタービン翼車23に、次いでステータ24へと循環する。これにより、ポンプ翼車22の回転トルクがタービン翼車23に伝達され、メインシャフト12を駆動する。
一方、ロックアップ制御中には、ロックアップクラッチ25が係合されている状態となり、フロントカバー21からタービン翼車23へと作動油を介して回転させるのではなく、フロントカバー21とタービン翼車23とが一体的に回転し、クランクシャフト11の回転トルクがメインシャフト12に直接伝達される。
無段変速機3は、トルクコンバータ2と同様に、後述するAT−ECU20からの指令に基づく油圧制御装置7による油圧の制御により、その変速動作が制御されるものである。無段変速機3は、メインシャフト12上に配置されたドライブプーリ31と、メインシャフト12に平行なカウンタシャフト13上に配置されたドリブンプーリ35と、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の間に掛け回される金属製のベルト39とを有する。
ドライブプーリ31は、メインシャフト12上に固定して配置された固定プーリ半体32と、この固定プーリ半体32に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体33とからなる。可動プーリ半体33の側方には、ドライブ側シリンダ室(油室)34が形成されている。ドリブンプーリ35は、カウンタシャフト13に固定して配置された固定プーリ半体36と、この固定プーリ半体36に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体37とからなる。可動プーリ半体37の側方には、ドリブン側シリンダ室(油室)38が形成されている。ドライブ側シリンダ室34およびドリブン側シリンダ室38に後述する油圧制御装置7により作動油を供給することにより、可動プーリ半体33および37をそれぞれ軸方向に移動させることができ、これにより、ベルト39のドライブ側圧およびドリブン側圧が発生される。なお、油圧制御装置7の詳細については図3を用いて後述する。ドライブプーリ31の固定プーリ半体32は、メインシャフト12上に配置される前後進切替装置4に接続される。
前後進切替装置4は、前進クラッチ46と、後進ブレーキ47と、それらの間に配置されるプラネタリギヤ機構41とを備える。プラネタリギヤ機構41は、メインシャフト12に連結されたサンギヤ42と、ドライブプーリ31の固定プーリ半体32に連結されたリングギヤ45と、サンギヤ42とリングギヤ45との間に設けられ、それらと噛み合うピニオンギヤ43とを備える。ピニオンギヤ43は、プラネタリキャリヤ44を介して後進ブレーキ47に連結される。
前後進切替装置4において前進クラッチ46が作動(係合)されると、プラネタリギヤ機構41のリングギヤ45はメインシャフト12と連結され、サンギヤ42およびリングギヤ45はメインシャフト12と一体に回転する。そのため、エンジン1の回転駆動により、ドライブプーリ31はメインシャフト12と同方向(前進方向)に回転駆動される。また、前後進切替装置4において後進ブレーキ47が作動(係合)されると、プラネタリキャリヤ44が固定保持されるので、リングギヤ45はサンギヤ42と逆の方向に回転駆動される。そのため、エンジン1の回転駆動により、ドライブプーリ31はメインシャフト12と逆方向(後進方向)に回転駆動される。
無段変速機3では、ドライブプーリ31とドリブンプーリ35との間で変速制御が行われ、カウンタシャフト13が回転駆動される。カウンタシャフト13の回転は、減速ギヤ51、52を介してセカンダリシャフト14に伝達される。そして、セカンダリシャフト14の回転は、減速ギヤ53、54を介してディファレンシャル機構6に伝達され、ディファレンシャル機構6により分割されて左右のドライブシャフト15、16を介して左右の駆動輪(図示せず)に伝達される。
次に、図2を参照して、本実施形態の車両の制御系を説明する。図2は、エンジン1および無段変速機3の制御系を主に示すブロック図である。本実施形態では、車両は、上述の構成に加えて、エンジン1を制御するためのエンジン−ECU10と、トルクコンバータ2、無段変速機3、前後進切替装置4および油圧制御装置7を制御するためのAT−ECU20とを備える。また、車両は、発電機(オルタネータ、以下、「ACG」という)30と、図示しないライト、カーステレオ等の電気負荷に電力を供給する低圧バッテリ40とをさらに備える。ACG30は、エンジン1からのエンジン出力トルクによるオルタネータの回転により発電し、バッテリ40を充電する。
エンジン1のクランクシャフト11の近傍には、エンジン1の出力回転数を検出するための回転数センサ101が設けられる。トルクコンバータ2の出力側のメインシャフト12の近傍には、無段変速機3の入力回転数を検出する回転数センサ102が設けられる。また、無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のそれぞれ近傍には、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の回転数を検出するための回転数センサ103、104が設けられる。減速ギヤ52の近傍には、無段変速機3の出力軸であるカウンタシャフト13の回転数に対応する減速ギヤ52の回転数を検出するための回転数センサ105が設けられる。各回転数センサ101〜105で検出された回転数に応じた電気信号がAT−ECU20に出力される。なお、回転数センサ105の検出信号は車両の車速Vを検出(算出)するために用いられてもよい。
エンジン1の冷却水路(図示せず)の近傍には、エンジン1の冷却水の温度であるエンジン冷却水温TWを検出するための水温センサ106が設けられる。水温センサ106により検出されたエンジン冷却水温TWに応じた電気信号がエンジン−ECU10に出力される。また、エンジン1への吸気管(図示せず)には、エンジン1の吸気行程で発生する負圧(吸気負圧)PBを計測する圧力センサ(吸気負圧センサ)107が設けられる。圧力センサ107により計測された吸気負圧PBに応じた電気信号がエンジン−ECU10に出力される。なお、図示を省略したが、エンジン1の吸気管には、吸入空気量を計測するエアーフローセンサ等が設けられている。
さらに、本実施形態の車両は、車両の走行中や駐車時に運転者によって操作されるシフトレバー8およびアクセルペダル9を備える。シフトレバー8の近傍には、運転者によって操作されるシフトレバー8のポジションPOSを検出するためのシフトレバーポジションセンサ108が設けられる。シフトレバー8のポジションPOSには、公知のように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(前進走行)などがある。シフトレバーポジションセンサ108は、運転者によって選択されたR、N、DなどのポジションPOSに応じた電気信号をAT−ECU20に出力する。
また、アクセルペダル9の近傍には、アクセルペダル9の踏み込みに応じたアクセルペダル開度APATを検出するためのアクセルペダル開度センサ109と、アクセルペダル9の踏み込みに応じて開度が設定されるエンジン1のスロットルの開度(スロットル開度)THを検出するためのスロットル開度センサ110とが設けられる。アクセルペダル開度センサ109により検出されたアクセルペダル開度APATおよびスロットル開度センサ110により検出されたスロットル開度THに応じた電気信号はエンジン−ECU10に出力される。
ACG30の近傍には、ACG30による発電量ACGFを検出するためのACG発電量センサ(発電量検出手段)111が設けられる。ACG30により発電された電気エネルギーは、バッテリ40を充電するためにバッテリ40に出力される。また、バッテリ40の近傍には、バッテリ40の電圧VBを検出するためのバッテリ電圧センサ(バッテリ電圧検出手段)112が設けられる。ACG発電量センサ111により検出されたACG30の発電量ACGFおよびバッテリ電圧センサ112により検出されたバッテリ40の電圧VBに応じた電気信号がAT−ECU20に出力される。
なお、エンジン−ECU10の動作については本発明の特徴部分ではないので、詳細な説明を省略する。また、AT−ECU20の動作については、図4のブロック図および図5のフローチャートに基づいて詳細に後述する。
次に、図3を参照して、油圧制御装置7の構成を詳細に説明する。図3は、図2に示す無段変速機3およびトルクコンバータ2の油圧機構、すなわち、油圧制御装置7の具体的構成を示す油圧回路図である。
図3に示すように、油圧制御装置7は、油圧制御装置7全体に作動油を供給するための油圧ポンプ71を含む。油圧ポンプ71は、エンジン1により駆動され、オイルタンク(油圧供給源)70に貯留された作動油を汲み上げて、油路81を介してライン圧レギュレータバルブ72に圧送する。
ライン圧レギュレータバルブ72は、油圧ポンプ71から圧送された作動油を調圧してライン圧PLを生成するものである。ライン圧レギュレータバルブ72により調圧されたライン圧PLの作動油は、油路82、83を介して第1および第2のレギュレータバルブ76a、76bに供給されるとともに、油路84を介してCRバルブ74に供給される。
CRバルブ74は、作動油のライン圧PLを減圧して、CR圧(制御圧)を生成し、油路86〜88を介して第1〜第3のリニアソレノイドバルブ(電磁バルブ)75a〜75cにCR圧の作動油を供給する。第1および第2のリニアソレノイドバルブ75a、75bは、それぞれ対応するソレノイドの励磁制御に応じて決定される出力圧を発生させ、第1および第2のレギュレータバルブ76a、76bに作用させる。これにより、油路82、83から供給されるライン圧PLの作動油は、油路91、92を介して無段変速機3のドライブ側およびドリブン側の可動プーリ半体33、37のシリンダ室(油室)34、38に供給され、それに応じてベルト39の滑りが発生することのないプーリ側圧を発生させる。
このように、ライン圧PLの作動油をドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に供給して、可動プーリ半体33、37を軸方向に移動させることにより、適切なプーリ側圧を発生させるとともに、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のプーリ幅を変化させ、ベルト39の巻掛け半径を変化させる。したがって、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35のプーリ側圧を調整することにより、エンジン1の出力を駆動輪(図示せず)に伝達させる変速比を無段階に変化させることができる。
第3のリニアソレノイドバルブ75cは、そのソレノイドの励磁制御に応じて決定される出力圧を油路93、94に発生させる。油路93に供給された作動油は、CRシフトバルブ78aを介してマニュアルバルブ80に供給される。CRシフトバルブ78aは、第1(電磁)オン・オフソレノイド79aによりオン・オフ制御される。なお、運転者によってシフトレバー8のD(前進)のシフトポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブ80の図示しないスプールが移動し、後進ブレーキ47から作動油が排出される一方、前進クラッチ46に油圧が供給されて前進クラッチ46が係合(締結)される。また、運転者によってシフトレバー8のR(後進)のシフトポジションが選択されると、前進クラッチ46から作動油が排出される一方、後進ブレーキ47に油圧が供給されて後進ブレーキ47が係合(締結)する。
また、このライン圧PLの作動油は、油路85を介してTCレギュレータバルブ73にも供給される。TCレギュレータバルブ73は、トルクコンバータ2への作動油の供給を制御するものであり、ライン圧レギュレータバルブ72から供給されたライン圧PLの作動油を、油路95を介してLC制御バルブ77に供給する。LC制御バルブ77は、TCレギュレータバルブ73および油路95を介して供給されるライン圧PLの作動油を、油路96を介してLCシフトバルブ78bに供給する。このように供給されるライン圧PLの作動油はトルクコンバータ2のロックアップ制御に用いられる。
LCシフトバルブ78bは、第2(電磁)オン・オフソレノイド79bによりロックアップクラッチ25の締結(オン)・開放(オフ)を制御するものである。ロックアップクラッチ25には、LCシフトバルブ78bおよび油路97を介して作動油が前面側から供給され、この作動油は背面側から油路98に排出される。これにより、ロックアップクラッチ25が係合(締結)される。一方、作動油が前面側から油路97に排出されると、ロックアップクラッチ25が解放(非締結)される。ロックアップクラッチ25のスリップ量、すなわち、係合(ロックアップ時)と解放の間でトルクコンバータ2がスリップさせられるときの係合容量は、前面側と背面側に供給される作動油の圧力(油圧)によって決定される。
また、第3のリニアソレノイドバルブ75cは、油路94およびLC制御バルブ77を介してCR圧の作動油をLCシフトバルブ78bに供給する。このように供給されるCR圧の作動油により、ロックアップクラッチ25の係合容量(滑り量)は、第3のリニアソレノイドバルブ75cのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
このように、本実施形態の油圧制御装置7では、油圧ポンプ71はオイルタンク70からの作動油をライン圧レギュレータバルブ72に供給し、ライン圧レギュレータバルブ72は、供給された作動油でライン圧PLを生成する。このライン圧PLの作動油をドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に供給することにより、無段変速機3の可動プーリ半体33、37を作動させる。また、ライン圧PLの作動油またはCR圧の作動油をトルクコンバータ2に供給することにより、トルクコンバータ2のロックアップ制御および係合容量(滑り量)の制御が行われる。さらに、マニュアルバルブ80を介してCR圧の作動油を前後進切替装置4の前進クラッチ46または後進ブレーキ47に供給することにより、メインシャフト12と同方向(前進方向)または逆方向(後進方向)となるようにエンジン1の回転駆動を左右の駆動輪(図示せず)に伝達する。
次に、本実施形態の無段変速機の制御装置の動作を説明する。従来の手法では、エンジン1の回転数NEおよびACG30の発電量ACGFを用いてACGトルク最小値を算出していたが、本実施形態では、さらにバッテリ40の電圧VBを用いてACGトルクを補正するものである。図4を参照して、図2に示すAT−ECU20による油圧制御装置7のライン圧PLを設定するライン圧設定処理を説明する。図4は、走行時にエンジン出力トルクに応じたライン圧を設定するライン圧設定処理を示すブロック図である。
まず、AT−ECU20は、エンジン−ECU10を介して、圧力センサ107により検出されたエンジン1の吸気負圧PBを取得するとともに(ブロックB1)、回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数NEを取得する(ブロックB2)。そして、AT−ECU20は、予め実験や演算等により得られ、AT−ECU20内の図示しないメモリに格納されているエンジン回転数NE−吸気負圧PB−エンジン出力トルク(理論値)TQの三次元マップ(三次元テーブル)を用いて、これらの検出値に対応した基準トルクTQTBを算出する(ブロックB3)。この基準トルクTQTBは、基準運転パラメータ、例えば、ストイキ(理論空燃比)状態で所定の排ガス還流率でリタード無しという運転パラメータの下での運転状態(基準運転状態)でエンジン1から得られるトータルトルクを、吸気負圧PBと回転数NEとに対応して予め三次元テーブルに設定されたものである。AT−ECU20は、検出された吸気負圧PBと回転数NEに対応する基準トルクTQTBをこのテーブルから読み取り、基準トルクTQTBを決定する。
上記説明から分かるように、この基準トルクTQTBは、基準運転パラメータの下でエンジン1から発生するトータルトルクであり、実際の運転パラメータが基準運転パラメータと相違するときにはこの相違に対応して実際のトルクも相違する。このため、AT−ECU20は、実際の運転パラメータを測定して、これに基づく補正係数KTQを算出し(ブロックB5)、基準トルクTQTBに補正係数KTQを乗じて(ブロックB6)、実トルクTQTRを算出する。
なお、この補正係数KTQは、基準運転パラメータと実際の運転パラメータとの比に対応する基準トルクと実トルクとの比である。例えば、空燃比に基づく補正係数KTQAF、排ガス還流制御での排気ガス還流率に基づく補正係数KTQEGR、リターダ量に基づく補正係数KTQIG、外気温に基づく補正係数KTQTA、外気圧に基づくKTQPA、部分気筒運転状態に基づくKTQCYL等が用いられるが、ここでは詳細な説明を省略する。このように実トルクTQTRを算出しているので、基準運転状態での基準トルクと運転パラメータに対応する補正係数KTQとを必要とするだけであり、実トルク算出に必要なデータ量が少なくて済む。これにより、AT−ECU20内の図示しない記憶媒体(メモリ)の容量(ROM容量)を小さくすることができる。
一方、実トルクの算出と並行して、AT−ECU20は、予め実験や演算等により得られ、AT−ECU20内の図示しないメモリに格納されているエンジン回転数NE−吸気負圧PB−エンジンフリクショントルクTQFRの三次元マップ(三次元テーブル)を用いて、検出したエンジン1の回転数NEおよび吸気負圧PBに対応するエンジンフリクショントルクTQFRを算出する(ブロックB4)。フリクショントルクTQFRは、ピストンの往復動やシャフト回転の抵抗トルクと吸排気ポンピングロスによる抵抗トルクから発生するものであり、上記運転パラメータに影響されず、エンジン1の吸気負圧(エンジン負荷)PBおよびエンジン1の回転数NEに対応して決まるものである。したがって、AT−ECU20は、検出された吸気負圧PBと回転数NEに対応するフリクショントルクTQFRをこのテーブルから読み取り、フリクショントルクTQFRを決定する。
そして、AT−ECU20は、上記のようにして算出された実トルクTQTRからフリクショントルクTQFRを減算して(ブロックB7)、正味トルクTQOBを算出する。次いで、AT−ECU20は、エンジンアクセサリ機器(エアコンディショナー用コンプレッサ、油圧ポンプ71、ACG30等の補機類)の駆動トルクTQACを算出し(ブロックB8)、正味トルクTQOBからアクセサリ駆動トルクTQACを減算して(ブロックB9)、基準出力トルクTQOPBを算出する。なお、エンジンアクセサリ機器の駆動トルクの算出において、ACG30の駆動トルク(ACG30で消費される駆動トルク)を算出する方法については、本発明の特徴部分であり、その詳細を後述する。
そして、AT−ECU20は、このようにして算出された基準出力トルクTQOPBを無段変速機(トランスミッション)3の入力軸に伝達される駆動トルクとして決定し(ブロックB10)、この無段変速機3の入力軸トルクに基づいて、油圧制御装置7のライン圧レギュレータバルブ72により設定されるべきライン圧PLを設定(決定)する(ブロックB11)。このように設定されるライン圧PLは、エンジン1のクランクシャフト11からメインシャフト12に実際に伝達されるトルクと正確に対応している。このため、このライン圧PLを用いて設定されるドライブプーリ31およびドリブンプーリ35におけるベルト39の側圧を正確に(適正に)設定することができる。これにより、各プーリ31、35とベルト39との間のエネルギー伝達ロスを低減することができるとともに、各プーリ31、35やベルト39の摩耗等を低減して、ベルト39の耐久性を向上させることができる。また、ライン圧PLを作り出すために用いられるエンジンエネルギー(油圧ポンプ駆動エネルギー)を必要最小限に抑えることにより、油圧ポンプ71のフリクションを低減させて、エンジン1の燃費向上を図ることができる。
次に、図2および図5を参照して、ACG30の駆動トルク(ACG30で消費される駆動トルク)を算出する方法(ACG駆動トルク算出処理)を説明する。図5は、ACGの発電量およびエンジンの回転数に基づいてACG駆動トルクを算出するACG駆動トルク算出処理を示すフローチャートである。このACG駆動トルク算出処理は、AT−ECU20によって、例えば、前進クラッチ46または後進ブレーキ47のインギヤ時に所定時間(例えば、10m秒)毎に実行される。
ACG駆動トルク算出処理では、AT−ECU20は、まず、ACG発電量センサ111により検出されたACG30の発電量ACGFを取得するとともに(ステップS1)、回転数センサ101により検出されたエンジン1の出力回転数(エンジン回転数)NEを取得する(ステップS2)。
次いで、AT−ECU20は、所定の運転状態においてエンジン1への燃料供給が停止されているか否か、すなわちフュエルカット(FC)中であるか否かを判断する(ステップS3)。FC中であると判断した場合には、処理フローはステップS4に移行し、FC中ではないと判断した場合には、処理フローはステップS8に移行する。
具体的には、FC中であると判断した場合には、AT−ECU20は、ステップS1で取得したACG30の発電量ACGFに基づいて、ACGトルク係数を取得し(ステップS4)、ステップS2で取得したエンジン1の回転数NEに基づいて、最大ACGトルクを取得する(ステップS5)。
そして、AT−ECU20は、バッテリ電圧センサ112により検出されたバッテリ40の電圧VBを取得し(ステップS6)、このバッテリ40の電圧VBおよびエンジン1の回転数NEに基づいて、電圧係数を取得し(ステップS7)、処理フローはステップS12に移行する。
一方、FC中ではないと判断した場合には、エンジン1に燃料が供給されているフュエルインジェクション(FI)中であり、AT−ECU20は、ステップS1で取得したACG30の発電量ACGFに基づいて、ACGトルク係数を取得し(ステップS8)、ステップS2で取得したエンジン1の回転数NEに基づいて、最大ACGトルクを取得する(ステップS9)。
そして、AT−ECU20は、バッテリ電圧センサ112により検出されたバッテリ40の電圧VBを取得し(ステップS10)、このバッテリ40の電圧VBおよびエンジン1の回転数NEに基づいて、電圧係数を取得し(ステップS11)、処理フローはステップS12に移行する。
最終的に、AT−ECU20は、ステップS5またはS9および後述する図6のグラフに基づいて得られたバッテリ40の電圧VBが12.5Vのときの最大ACGトルクと、ステップS7またはS11にて得られた電圧係数とを乗算することにより、ACGトルクを取得して(ステップS12)、このACG駆動トルク算出処理を終了する。
なお、図示していないが、AT−ECU20は、このACG駆動トルク算出処理により得られたACGトルクに基づいて、油圧制御装置7で用いられるライン圧PLを算出・決定し、ライン圧レギュレータバルブ72においてライン圧PLが発生されるように、油圧制御装置7を制御する。
また、ステップS4、S5、S7〜9およびS11において、ACGトルク係数、最大ACGトルクおよび電圧係数を求める際には、AT−ECU20は、例えば、予め実験等により計測されたエンジン1の回転数NE、最大ACGトルク、最小ACGトルク、ACG30の発電量ACGF、バッテリ40の電圧VB等をそれぞれ対応付けてマップ化したデータ(テーブル)を用いればよい。
フュエルインジェクション(FI)中とフュエルカット(FC)中の2つの運転状態によりバッテリ40の電圧VBによるACGトルクの補正を行ったのは、以下のような理由による。すなわち、エンジン1のFI中では、エンジン1からの駆動トルクは無段変速機3に伝達されている状態であり、エンジン1のFC中に比べて、ACGトルクが小さくなる。そのため、エンジン1のFI中では、ACGトルクを下げる方向、すなわちライン圧PLを低下させる方向にACGトルクが補正されるものである。これにより、エンジン1のFI中には、ベルト39の側圧が低減されることになり、車両の燃費向上に寄与する。一方、エンジン1のFC中では、図示しない駆動輪からディファレンシャル機構6を介して無段変速機3に伝達されるトルクにより、ベルト39が各プーリ31、35に対して滑りやすい状態となる。そのため、ベルト39の側圧を増加させる方向、すなわちライン圧PLを増加させる方向にACGトルクが補正されるものである。
なお、上述のACG駆動トルク算出処理は、回転数センサ101により検出されるエンジン1の回転数NE、ACG発電量センサ111により検出されるACG30の発電量ACGF、バッテリ電圧センサ112により検出されるバッテリ40の電圧VB、およびACGトルクの4次元データマップを予めAT−ECU20内の図示しないメモリに格納することにより、AT−ECU20により実行されてもよい。しかしながら、このような4次元データマップを作成したり、メモリに保存したりするのは、相当煩雑となるだけでなく、大きなメモリ容量を必要とするため、ACG駆動トルク算出処理は、複数の2次元データマップ、すなわち、ACG30の発電量ACGFとACGトルク係数の2次元データマップ(ステップS4またはS8)、エンジン1の回転数NEと最大ACGトルクの2次元データマップ(ステップS5またはS9)、並びに、エンジン1の回転数NE、バッテリ40の電圧VBおよび電圧係数の3次元データマップ(ステップS7またはS11)により代用して実行されてもよい。
次に、上記のような電圧係数テーブルを作成する元となるバッテリ40の電圧VBに対するACG30により消費されるACGトルクとエンジン1の回転数NEとの関係を説明する。図6は、バッテリ電圧に対するACGトルクとエンジン回転数との関係を示すグラフである。
図6から分かるように、ACG30による発電量ACGFが一定値の場合、バッテリ40の電圧VBが高いほどACG30により消費されるACG駆動トルクが大きくなる。バッテリ40の電圧VBとして考えられる電圧範囲が例えば12.5V〜14.5Vのときには、このACG駆動トルクには、12.5VのときのACG駆動トルクに対して10〜20%程度の変動幅がある。本実施形態のACG駆動トルク算出処理を行うことにより、ACG駆動トルクは、ACG30の発電時のバッテリ40の電圧VBによる補正を行うことができるので、ACGトルク補正の精度を向上させることができる。これにより、無段変速機3への入力トルク(正味トルク)を精度よく算出・推定することができるので、油圧制御装置7におけるライン圧PLを適正な値(フュエルインジェクション中においては、従来よりも低圧)に設定することができる。したがって、油圧制御装置7の油圧ポンプ71のフリクションを低減させることができるとともに、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35に対するベルト39の滑りを的確に防止して、ベルト39や各プーリ31、35の耐久性を向上させることができる。
以上説明したように、本発明の無段変速機3の制御装置(AT−ECU20等)は、エンジン1の回転を変速するドライブプーリ31とドリブンプーリ35とを有するベルト39式の無段変速機3の制御装置において、エンジン1によって駆動され、オイルタンク70の作動油をドライブプーリ31とドリブンプーリ35のそれぞれの可動プーリ半体33、37のドライブ側およびドリブン側シリンダ室34、38に接続される油路82、83に圧送する油圧ポンプ71と、油路82、83と油路81との間に介挿され、各シリンダ室34、38に供給される作動油の圧力を調整するライン圧レギュレータバルブ72と、エンジン1から伝達される駆動力により駆動されるACG30を含む補機類と、エンジン1の回転数NEを検出する回転数センサ101と、ACG30の発電量ACGFを検出するACG発電量センサ111と、バッテリ40の電圧VBを検出するバッテリ電圧センサ112とを備え、AT−ECU20は、回転数センサ101により検出されたエンジン1の回転数NE、ACG発電量センサ111により検出されたACG30の発電量ACGFおよびバッテリ電圧センサ112により検出されたバッテリ40の電圧VBに基づいて、ACG30において消費される駆動トルク(ACG駆動トルク)を算出し(ACG駆動トルク算出処理)、算出したACG駆動トルクに基づいて、ドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の各シリンダ室34、38に供給される供給油圧を補正することとした。無段変速機3の制御装置をこのように構成することにより、ACG30の発電時におけるバッテリ40の電圧VBの違いによるACG駆動トルクの変動分を補償(補正)することができ、これにより、ライン圧レギュレータバルブ72で生成されるライン圧PLを適正な値(FI中には、従来よりも低い値)に設定することができる。したがって、ライン圧PLを低圧にすることができるので、油圧ポンプ71のフリクションを低減することができる。また、無段変速機3のドライブプーリ31およびドリブンプーリ35の間に掛け回されたベルト39の各プーリ31、35に対する側圧がライン圧PLに基づいて設定されるので、このベルト39の側圧を適正な値に設定することができ、これにより、各プーリ31、35やベルト39の耐久性を向上させることができる。
本実施形態の無段変速機3の制御装置では、AT−ECU20は、図6に示すように、バッテリ電圧センサ112により検出されたバッテリ40の電圧VBが高いほど、大きくなるようにACG駆動トルクを算出すればよく、このようにACG駆動トルクが大きいほど低くなるように各シリンダ室34、38に供給される供給油圧を補正すればよい。
また、本実施形態の無段変速機3の制御装置では、AT−ECU20は、エンジン1がフュエルカットまたはエンジンブレーキを行っているときには、通常のエンジン運転状態のときよりも各シリンダ室34、38に供給される供給油圧が高くなるように補正すればよく、ライン圧レギュレータバルブ72は、この供給油圧の増減に応じて、ライン圧PLを増減させればよい。
以上、本発明の無段変速機の制御装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は、これらの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書および図面に記載のない形状・構造・機能を有するものであっても、本発明の作用・効果を奏する以上、本発明の技術的思想の範囲内である。すなわち、無段変速機3や前後進切替装置4等を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。
なお、上述の実施形態では、無段変速機3としてベルト式のものを用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は、ベルト式の無段変速機3に限定されるものではなく、他の形式の無段動変速機にも適用することができる。