JP5004032B2 - 高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
そして、高温強度の向上を目途に、Cu,Mg,Mn,Ni等の第三成分量の調整や、製造条件の調整による組織のコントロールを図っている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、共晶温度が比較的低いAl‐Si系の鋳造材を基本としているため、高い温度での溶体化処理ができず、十分な析出強化が得られない。したがって、第三成分量の調整や組織のコントロールによっても、高温強度の向上には限界がある。
そこで、例えば特許文献2に見られるように、Al‐Cu‐Mg系の鍛造材を用いることも試みられている。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、高温特性に優れたAl‐Cu系合金を基本にして、線膨張係数が小さいアルミニウム基合金を提供することを目的とする。
また、前記アルミニウム基合金中のFeが0.6質量%以上で、Ni/Fe比が0.5〜3となるように成分調整されていることが好ましい。
さらに、9%以上の占有面積率で金属間化合物を晶出させていることが好ましい。
その過程で、適量のFe,Niを複合添加しAl‐Ni系,Al‐Cu‐Ni系,Al‐Cu‐Ni‐Fe系の化合物を9%以上、晶出させるとともに、比較的高温で人工時効処理を施すことが有効であることを見出し、特許請求の範囲に記載したような事項の選定に到達したものである。
特にFeが0.6質量%以上で、Ni/Fe比が0.5〜3となるように成分調整されているものが好ましい。
アルミニウム基合金において低熱膨張化を図るに当たっては、Si添加が最も代表的な手法である。しかしながら、Siを添加すると、溶体化温度を低くせざるを得ず、十分な析出組織が得られなくなる。このため、本発明ではSiに替え、Fe,Niの添加により優れた高温強度を維持した状態で低熱膨張化を図ることができた。
機械的特性は、基本的には、添加されたCuの固溶強化と時効処理時に析出するAl2Cuによる析出強化に依存するものである。また必要に応じてZr,V,Tiを添加して固溶強化を図っている。
以下、各成分の作用、好ましい含有量等について説明する。
Siを多量に含有し、Si粒子を晶出させることで低熱膨張化が図れるが、マトリックス中への固溶量も増加するため固相線温度が低下し、高強度を得るための析出強化が得られない。溶体化温度が510℃を達成するために添加量は1質量%以下に規制する。
Cuは機械的強度の向上に資する。添加されたCuは、Al相中に固溶して強度向上に資する他、時効処理時にθ’‐Al2Cuを形成して、あるいはさらに含まれるMgと、S’‐Al2CuMgを形成して、析出強化による高強度化に貢献する。その含有量が5.0質量%に満たないと所望の強化は達成できない。通常CuはAl相中に5.8質量%程度しか固溶しないため、Cu量を、5.8質量%を超えて添加しても強度アップは期待できないが、本発明では低熱膨張化のためにFe、Ni等を含有させており、含ませたCuがFe,Ni系の金属間化合物に取り込まれるため、5.8質量%を超えて含有させても強度に寄与することになる。ただし、12.0質量%を超えると、再なる強度アップに寄与しない。したがって、本発明では、Cu含有量は5.0〜12.0質量%とする。
Mgの添加によりS’‐Al2CuMgを形成して、析出強化による高強度化に貢献する。室温から200℃までの高強度化に有効である。一方で200℃を越える温度域に対してはθ’‐Al2Cu形成が有効であり、よって、上下限を規制する必要がある。200℃以下で高強度を得るにはMg:0.1質量%が必要であり、250℃以上で高強度を得るには1.0質量%以下の添加に抑える必要がある。
Mnは鋳造時にマトリックスに固溶し、HO処理時にMn系の析出物(Al‐Cu‐Mn系)を生成する。その析出物は押出や鍛造後のT6処理時に粒界の移動を妨げ、結晶粒の粗大化を防止する効果がある。強度,靭性,耐食性を高める効果がある。また、高温の引張強さを高める効果があり添加する。0.1質量%未満では効果が得られない。一方で1.0質量%を超えて添加すると粗大な晶出物を形成し、熱間加工性やT6処理後の部品の靭性を阻害する。
Al‐Ni系金属間化合物を形成し、低熱膨張化に寄与する。目標とする線膨張係数(22×10-6/℃)を得るには0.5質量%以上の添加が必要である。但し、Niは高価な元素であり、素材のコストアップとなるので4.0%質量以下とする。
Niとの共存により優れた高温強度を維持した状態で低熱膨張化が図れる。この効果はFe:0.1質量%以上の含有で顕著となる。Fe含有量が少ない成分組成で目標の線膨張係数を満足するには多量のNiの添加が必要であり、素材コストが高まる。Feを添加し、Al‐Cu‐Fe‐Ni系金属間化合物を形成させることでNi単独添加よりも効果的に低熱膨張化に寄与させることができる。Feは多量に添加すると粗大な金属間化合物を生成し、熱間加工性やT6処理後の製品の靭性を低下させることから、1.5質量%を上限とする。なお、Niは高価であり多量の添加は素材コストを高める。低コストでより効果的に低熱膨張化が図るために、Feを比較的多く、0.6質量%以上でNi/Fe比を0.5〜3の範囲で調整することが好ましい。
上記したとおり、Fe添加量が少ない場合にはNi量を多くする必要があり、両者は合量で1.7質量%以上含ませる必要がある。
鋳造中に固溶し、HO処理でAl‐Zr系析出物を生成し、押出または鍛造材の溶体化処理後の粒界の移動を妨げ、結晶粒の粗大化を抑止する効果がある。強度,靭性,耐食性を高めるため、必要に応じて添加する。また、Al‐Zr系析出相は微細であり、高温強度にも寄与する。0.05質量%未満では効果は得られず、0.25質量%を超えて添加すると鋳造時に粗大な金属間化合物を生成し、加工性や靭性を阻害する。
Ti:0.05〜0.20質量%
V,Tiは固溶強化により強度を高める作用を有し、高温での強度維持が図れるので、必要に応じて添加する。いずれも添加量が0.05質量%に満たないと顕著な効果は得られない。逆に0.20質量%を超える程に多く含ませると、鋳造時に粗大な金属間化合物を生成し、加工性や靭性を阻害する。
本発明に係るアルミニウム基合金は、所定の成分組成を有する合金の鋳塊に、従来と同様に均質化処理を施した後、必要に応じて押出加工を施し、鋳塊もしくは押出材に、熱間もしくは冷間の鍛造加工を施して所望形状の加工品を得、さらにその後、適正に制御された溶体化処理と時効処理を組み合わせて施されることにより製造される。
すなわち、成分組成と適正に制御された溶体化処理および時効処理の組み合わせにより所望の線膨張係数(室温〜200℃の範囲での平均線膨張係数が22×10-6/℃以下)と高温特性(200℃×100時間保持後の引張強さが250MPa以上、250℃×100時間保持後の引張強さが150MPa以上)を呈するようになる。
鋳造は、従来どおりDC鋳造で構わない。
押出加工や鍛造加工に特段の制限はない。従来通りの方法で、押出加工や鍛造加工を行う。
溶体化処理はCu,Mgを固溶させるために行う。5%以上のCuを固溶させるには510℃以上の溶体化温度が必要である。固溶量を高めることで時効処理後の析出量が高まり、強度に寄与させることができる。一方で545℃を超えて溶体化処理すると局部的に融解し、強度,延性を低下させる。
高温保持後に速やかに室温まで冷却することで過飽和固溶体となり、その後の時効処理で十分な析出強化を得ることができる。望ましくは80℃以下の温水または室温水への焼入れにより、十分な固溶状態を得ることができる。
時効処理でθ'‐Al2Cu或いはS'‐Al2CuMgの析出物を形成させ、析出強化で強度に寄与する。比較的低い185℃未満で処理すると、析出密度が高まり、比較的低温域では優れた強度が得られるが、高温に曝露されると析出に伴い体積膨張し、製品の寸法変化が大きく、低熱膨張が達成されない。時効時間が1時間未満で短いと、析出物が十分に成長せず、強度が得られない。185℃以上の温度で時効処理すると固溶量を減らすことができ、高温環境化での体積膨張を抑制することが可能である。ただし、235℃超える程に高い温度では析出物が粗大化し、比較的低温域(200℃以下)で強度が得られない、あるいは20時間を超えるほどの長時間の処理を施すと、強度を低下させることになるとともに経済的にも適していない。
得られた押出材に表2に示す条件で溶体化処理および時効処理を施した後、30〜200℃の線膨張係数と200℃で100時間保持した後の200℃での高温引張特性および250℃で100時間保持した後の250℃での高温引張特性を調査した。
線膨張係数の測定方法:
試験片形状φ10mm×長さ50mm、昇温速度約2℃/分で加熱しながら、試験片の長さを測定し、所定の温度範囲における長さの変化/温度で線膨張係数を示した。
引張試験:
試験片形状JIS14A号とし、炉内で試験片を所定の温度に加熱したまま、引張試験を実施した。
なお、No.19は粗大晶生成により調査を中止した。
また、熱処理条件を満たしても、Cu量,Mn量が規制範囲を満たさない場合も高温強度は満足できない(No.21,18)。なお、Mn量を、規定値を超えて添加すると粗大な晶出物を生成し、製品の伸びや靭性を低下させるため好ましくない(No.19)。
さらに高温強度を高める元素としてZr,V,Tiがある。無添加でも目標とする高温強度を得ることはできるので、必要に応じて添加し高温強度を高めることができている(No.25,26)。
目標とする線膨張係数を得るためには低Fe含有の場合にはNi量を2.5%以上添加する必要がある(No.2)。なお、Ni添加量を高めるほど低熱膨張化が得られるが(No.4)、コストが高まるため、本発明では上限を4%以下としている。
Fe,Ni比で0.6〜1.6の範囲でFe,Niを添加すると、Ni添加量が低くても目標の線膨張係数を得ることができる。その場合の添加量は総量で1.7%以上が必要となる(No.8,9,10,12,13,14,15,16)。
高温時効条件により線膨張係数は低下する。成分規制値を満足しても20時間までの時効時間においては、時効温度185℃未満では目標値を満足できないことがわかる(No.1,3,5,7)。
Claims (5)
- Cu:5.0〜12.0質量%、Mg:0.1〜1.0質量%、Mn:0.1〜1.0質量%、Fe:0.1〜1.5質量%およびNi:0.5〜4.0質量%を、Fe+Ni:1.7質量%以上の関係で含有するとともに、Si含有量を1質量%以下に規制し、残部がAlと不可避不純物からなる成分組成と、200℃×100時間保持後の200℃での引張強さが250MPa以上、および250℃×100時間保持後の250℃での引張強さが150MPa以上なる機械的特性と、室温〜200℃の範囲での平均線膨張係数が22×10-6/℃以下なる熱膨張特性を有することを特徴とする高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金。
- 前記アルミニウム基合金が、さらに、V:0.05〜0.20質量%、Zr:0.05〜0.25質量%、Ti:0.05〜0.20質量%の少なくとも一種以上を含む請求項1に記載の高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金。
- 前記アルミニウム基合金中のFeが0.6質量%以上で、Ni/Fe比が0.5〜3である請求項1または2に記載の高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金。
- 晶出物の占有面積率が9%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の成分組成を有するアルミニウム基合金の押出材に510〜545℃×1時間以上の溶体化処理を施し、その後に185〜235℃で1〜20時間の時効処理を施すことを特徴とする高温強度に優れ、低熱膨張性を有するアルミニウム基合金の製造方法。
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