(第1の実施形態)
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。具体的には、本実施形態のステアリングシャフト3は、自在継手7a,7bを介して、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなり、上記ラックアンドピニオン機構4は、ピニオンシャフト10の一端に形成されたピニオン歯10aとラック軸5側のラック歯5aとを噛合させることにより構成される。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更されるように構成されている。
本実施形態のEPS1は、モータ21を駆動源としてステアリングシャフト3を回転駆動することにより操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22と、該EPSアクチュエータ22の作動を制御するECU23とを備えている。
詳述すると、本実施形態のEPSアクチュエータ22は、コラムシャフト8にアシスト力を付与する所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されており、駆動源であるモータ21は、減速機構24を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。本実施形態では、減速機構24は、コラムシャフト8に対して相対回転不能に設けられたリダクションギヤ25と、モータ軸21aに対して相対回転不能に設けられたモータギヤ26とを噛合することにより構成されている。尚、本実施形態では、第1のギヤとしてのリダクションギヤ25にはウォームホイールが用いられ、第2のギヤとしてのモータギヤ26にはウォームギヤが用いられている。即ち、本実施形態の減速機構24は、所謂ウォーム&ホイールにより構成されている。そして、操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ22は、駆動源であるモータ21の回転を減速機構24により減速してコラムシャフト8に伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与するように構成されている。
一方、制御手段としてのECU23は、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に対して駆動電力を供給する。そして、その駆動電力の供給を通じてモータ21の回転、即ちEPSアクチュエータ22の作動を制御するように構成されている。
さらに詳述すると、ECU23には、コラムシャフト8に設けられたトルクセンサ31が接続されている。本実施形態では、コラムシャフト8は、ステアリング2側の第1シャフト8aとインターミディエイトシャフト9(ピニオンシャフト10)側の第2シャフト8bとを、トーションバー33を介して連結することにより形成されている。そして、トルクセンサ31は、トーションバー33、及び同トーションバー33の両端(第1シャフト8aの端部及び第2シャフト8bの端部)に設けられた一対の角度センサ34a,34b(レゾルバ)により構成されている。
即ち、本実施形態のトルクセンサ31は、図16に示されるトルクセンサ73と同様、ツインレゾルバ型のトルクセンサとして構成されており、ECU23は、第1の角度センサ34aにより第1シャフト8aの回転角(操舵角θs)を検出するとともに、第2の角度センサ34bにより第2シャフト8bの回転角(ピニオン角θp)を検出する。そして、これら両角度センサ34a,34bにより検出された両回転角の差分、即ちトーションバー33の捻れ角に基づいて、操舵トルクτを検出する。
また、本実施形態では、ECU23には、車速センサ35により検出された車速V、ヨーレイトセンサ36により検出されたヨーレイトγ、及びブレーキ操作の有無を示すブレーキ信号Sbkが入力される。そして、ECU23は、これらの各センサにより検出される車両状態量に基づいて、操舵系に付与すべき目標アシスト力を決定し、当該目標アシスト力をEPSアクチュエータ22に発生させるべく、モータ21に対する駆動電力の供給を実行する。
次に、本実施形態のEPSにおけるアシスト制御の態様について説明する。
図2に示すように、ECU23は、モータ制御信号を出力するマイコン41と、そのモータ制御信号に基づいて、EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21に駆動電力を供給する駆動回路42とを備えて構成されている。
本実施形態では、ECU23には、モータ21に通電される実電流値Iを検出するための電流センサ43、及びモータ回転角θmを検出するための回転角センサ44(図1参照)が接続されている。そして、マイコン41は、上記各車両状態量、並びにこれら電流センサ43及び回転角センサ44の出力信号に基づき検出されたモータ21の実電流値I及びモータ回転角θmに基づいて、駆動回路42に出力するモータ制御信号を生成する。
尚、以下に示す各制御ブロックは、マイコン41が実行するコンピュータプログラムにより実現されるものである。そして、同マイコン41は、所定のサンプリング周期で上記各状態量を検出し、所定周期毎に以下の各制御ブロックに示される各演算処理を実行することにより、モータ制御信号を生成する。
詳述すると、マイコン41は、操舵系に付与するアシスト力の目標値、すなわち目標アシスト力に対応した電流指令値Iq*を演算する電流指令値演算部45と、電流指令値演算部45により算出された電流指令値Iq*に基づいてモータ制御信号を出力するモータ制御信号出力部46とを備えている。
本実施形態の電流指令値演算部45は、目標アシスト力の基礎的制御成分である基本アシスト制御量Ias*を演算する基本アシスト制御部47と、その補償成分として、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づくトルク慣性補償量Iti*を演算するトルク慣性補償制御部48とを備えている。
本実施形態では、基本アシスト制御部47には、操舵トルクτ及び車速Vが入力されるようになっている。そして、該基本アシスト制御部47は、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが小さいほど、より大きな基本アシスト制御量Ias*を演算する。
一方、本実施形態のトルク慣性補償制御部48には、操舵トルク微分値dτに加え、車速Vが入力される。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各状態量に基づいてトルク慣性補償制御を実行する。尚、「トルク慣性償補制御」は、モータやアクチュエータ等、EPSの慣性による影響を補償する制御、即ちステアリング操作における「切り始め」時の「引っ掛かり感(追従遅れ)」、及び「切り終わり」時の「流れ感(オーバーシュート)」を抑制するための制御である。
具体的には、図3に示すように、本実施形態のトルク慣性補償制御部48は、操舵トルク微分値dτと基礎補償量εtiとが関連付けられたマップ48a、及び車速Vと補間係数Aとが関連付けられたマップ48bを備えている。マップ48aにおいて、基礎補償量εtiは、入力される操舵トルク微分値dτの絶対値が大きいほど、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*(の絶対値)をより増加させる値となるように設定されている。また、マップ48bにおいて、補間係数Aは、低車速領域では車速Vが大きくなるほど大きな値となるように、高車速領域では、車速が大きくなるほど小さな値となるように設定されている。そして、トルク慣性補償制御部48は、これらの各マップ48a,48bを参照することにより求められた基礎補償量εti及び補間係数Aを乗ずることによりトルク慣性補償量Iti*を演算する。
図2に示すように、基本アシスト制御部47において演算された基本アシスト制御量Ias*、及びトルク慣性補償制御部48において演算されたトルク慣性補償量Iti*は、加算器49に入力される。そして、電流指令値演算部45は、この加算器49において基本アシスト制御量Ias*にトルク慣性補償量Iti*を重畳することにより、目標アシスト力としての電流指令値Iq*を演算する。
電流指令値演算部45が出力する電流指令値Iq*は、電流センサ43により検出された実電流値I、及び回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmとともに、モータ制御信号出力部46に入力される。そして、モータ制御信号出力部46は、この目標アシスト力に対応する電流指令値Iq*に実電流値Iを追従させるべくフィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を演算する。
具体的には、本実施形態では、モータ21には、三相(U,V,W)の駆動電力の供給により回転するブラシレスモータが用いられている。そして、モータ制御信号出力部46は、実電流値Iとして検出されたモータ21の相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q座標系のd,q軸電流値に変換(d/q変換)することにより、上記電流フィードバック制御を行う。
即ち、電流指令値Iq*は、q軸電流指令値としてモータ制御信号出力部46に入力され、モータ制御信号出力部46は、回転角センサ44により検出されたモータ回転角θmに基づいて相電流値(Iu,Iv,Iw)をd/q変換する。また、モータ制御信号出力部46は、そのd,q軸電流値及びq軸電流指令値に基づいてd,q軸電圧指令値を演算する。そして、そのd,q軸電圧指令値をd/q逆変換することにより相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を演算し、当該相電圧指令値に基づいてモータ制御信号を生成する。
そして、本実施形態のECU23は、上記のように生成されたモータ制御信号をマイコン41が駆動回路42に出力し、該駆動回路42がその当該モータ制御信号に基づく三相の駆動電力をモータ21に供給することにより、EPSアクチュエータ22の作動を制御する構成となっている。
[ラトル音抑制補償制御]
次に、本実施形態のEPSにおけるラトル音(歯打ち音)抑制補償制御の態様について説明する。
上述のように、モータトルクをステアリングシャフトに伝達することにより操舵系にアシスト力を付与する所謂コラム型(ピニオン型)EPSの多く、即ち第1及び第2のギヤを噛合してなる減速機構を介してモータとステアリングシャフトとが駆動連結されたEPSには、逆入力応力印加時、減速機構において歯打ち音が発生するという問題がある。
この点を踏まえ、本実施形態のEPS1では、ECU23は、減速機構24を構成する第1のギヤとしてのリダクションギヤ25及び第2のギヤとしてのモータギヤ26の回転角速度(換算角速度)を検出する。そして、その回転角速度差に基づいて、上記のような減速機構24における歯打ち音の発生を抑制するためのラトル音抑制補償制御を実行する。
具体的には、ECU23は、コラムシャフト8とともに一体回転するリダクションギヤ25の回転角速度(ピニオン角速度ωp)を第1の角速度として検出するとともに、他方、モータ21により回転駆動されるモータギヤ26の回転角速度をリダクションギヤ25の回転角速度に換算した第2の角速度(換算ピニオン角速度ωp_cnv)を検出する。そして、これら第1及び第2の角速度の差分値(角速度Δωp)を演算し、その差分値(の絶対値)が所定の閾値を超える場合には、操舵系に付与するアシスト力を低減するようにEPSアクチュエータ22の作動を制御する。
即ち、減速機構24における歯打ち音は、第1のギヤとしてのリダクションギヤ25(の歯)と第2のギヤとしてのモータギヤ26(の歯)とが衝突することにより発生する。そして、逆入力応力印加時には、リダクションギヤ25とモータギヤ26とが相反する方向に高速で回転、即ち両者間の回転角速度差が大きい状態で繰り返し衝突することにより、大きな歯打ち音が発生する。
この点に着目し、本実施形態のECU23は、逆入力応力の印加に対応する回転角速度差が検出された場合には、操舵系に付与するアシスト力を低減することにより、モータギヤ26がリダクションギヤ25と反対方向に回転する際の回転角速度を抑制する。そして、両者が衝突する際の回転角速度差を小さくすることにより、歯打ち音の発生を抑制するように構成されている。
詳述すると、図2に示すように、マイコン41は、トルクセンサ31を構成する角度センサ34b(角度センサ34a,34bのうち、第2シャフト8bに設けられたもの、図1参照)により検出されるピニオン角θpを微分することにより、ピニオン角速度ωp、即ち第2シャフト8bとともに一体回転するリダクションギヤ25の回転角速度を検出する。
また、マイコン41は、回転角センサ44により検出されるモータ回転角θm、即ちモータ軸21aに設けられたモータギヤ26の回転角に基づいて、同モータギヤ26の回転角をリダクションギヤ25の回転角、即ちピニオン角θpに換算した換算ピニオン角θp_cnvを演算する。尚、本実施形態のマイコン41には、回転角変換部44aが設けられており、回転角センサ44により検出されたモータ回転角θm(電気角)は、この回転角変換部44aにおいて、換算ピニオン角θp_cnvに変換される。そして、マイコン41は、この換算ピニオン角θp_cnvを微分することにより、リダクションギヤ25の回転角速度に換算した場合のモータギヤ26の回転角速度、即ち換算ピニオン角速度ωp_cnvを検出する。
このようにして演算された第1の角速度としてのピニオン角速度ωp、及び第2の角速度としての換算ピニオン角速度ωp_cnvは、減算器50に入力される。そして、マイコン41は、この減算器50において、ピニオン角速度ωpから換算ピニオン角速度ωp_cnvを減算することにより、その差分値、即ち角速度差分値Δωpを演算する。
また、本実施形態では、上記電流指令値演算部45には、ラトル音抑制補償演算部51が設けられており、減算器50において演算された角速度差分値Δωpは、このラトル音抑制補償演算部51に入力される。そして、ラトル音抑制補償演算部51は、入力された角速度差分値Δωpの絶対値が所定の閾値を超える領域において、電流指令値演算部45が出力する電流指令値Iq*(の絶対値)を低減する、即ちEPSアクチュエータ22が発生するアシスト力を小さくするようなラトル音抑制補償量Ira*を演算する。
ラトル音抑制補償量Ira*において演算されたラトル音抑制補償量Ira*は、基本アシスト制御部47が出力する基本アシスト制御量Ias*(及びトルク慣性補償制御部48が出力するトルク慣性補償量Iti*)とともに、加算器49に入力される。そして、電流指令値演算部45は、この加算器49において基本アシスト制御量Ias*(及びトルク慣性補償量Iti*)にラトル音抑制補償量Ira*を重畳した値を、電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部46に出力し、これにより、EPSアクチュエータ22の発生するアシスト力が低減される構成となっている。
次に、ラトル音抑制補償演算部の構成について説明する。
図4に示すように、本実施形態のラトル音抑制補償演算部51は、角速度差分値Δωpに基づいて、ラトル音抑制補償量Ira*の基礎成分である基礎補償量εraを演算する基礎補償量演算部52を備えている。図5に示すように、基礎補償量演算部52は、角速度差分値Δωpと基礎補償量εraとが関連付けられたマップ52aを有している。そして、同基礎補償量演算部52は、入力された角速度差分値Δωpを、このマップ52aに参照することにより、基礎補償量εraを演算する。
詳述すると、マップ52aは、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が所定の閾値α1を超える領域にある場合において所定の基礎補償量εraが演算されるように構成されている。具体的には、同マップ52aにおいて、基礎補償量εraは、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が閾値α1以下である場合には「0」に設定されている。そして、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が閾値α1を超える領域においては、当該角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が大となるほど、その絶対値(|εra|)が大、即ち、電流指令値演算部45が出力する電流指令値Iq*(の絶対値)を大きく低減する値となるように設定されている。
そして、これにより、本実施形態の基礎補償量演算部52は、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が閾値α1を超える領域において、該角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が大きいほど、操舵系に付与されるアシスト力を大きく低減するような基礎補償量εraを演算するように構成されている。
また、本実施形態のラトル音抑制補償演算部51は、車両状態量に基づき補正ゲインを演算する複数の補正ゲイン演算部を有している。そして、これら各補正ゲイン演算部により演算された各補正ゲインを上記基礎補償量εraに乗ずることにより、車両状態に応じたラトル音抑制補償量Ira*を演算する。
具体的には、ラトル音抑制補償演算部51は、車速ゲインKvを演算する車速ゲイン演算部53、舵角ゲインKθを演算する舵角ゲイン演算部54、操舵速度ゲインKωを演算する操舵速度ゲイン演算部55、トルクゲインKτを演算するトルクゲイン演算部56、及びヨーレイトゲインKγを演算するヨーレイトゲイン演算部57を備えている。これら各補正ゲイン演算部より演算された補正ゲイン、即ち車速ゲインKv、舵角ゲインKθ、操舵速度ゲインKω、トルクゲインKτ及びヨーレイトゲインKγは、基礎補償量演算部52が出力する基礎補償量εraとともに乗算器58に入力される。そして、これらの各補正ゲイン(Kθ,Kω,Kτ,Kγ)は、この乗算器58において、基礎補償量εraに乗ぜられる。
次に、上記各補正ゲイン、及び各補正ゲイン演算部の構成について説明する。
車速ゲインKvは、車速Vに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための補正ゲインである。図6に示すように、車速ゲイン演算部53には、車速Vと車速ゲインKvとが関連付けられたマップ53aが設けられている。具体的には、このマップ53aにおいて、車速ゲインKvは、車速Vが所定の車速V1以下である場合(V≦V1)及び所定の車速V2以上である場合(V≧V2)には「0」、車速Vが所定の車速V1´以上、所定の車速V2´以下である場合(V1´≦V≦V2´)には「1」となるように設定されている。尚、車速Vが車速V1から車速V1´までの範囲にある場合(V1<V<V1´)には、車速ゲインKvは、車速Vが速いほど大となるように(「0」→「1」)、また車速Vが車速V2´から車速V2までの範囲にある場合(V2´<V<V2)には、車速ゲインKvは車速Vが速いほど小となる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、車速ゲイン演算部53は、入力される車速Vを、このマップ53aに参照することにより車速ゲインKvを演算する。
即ち、操舵系に振動として残留する逆入力応力の振幅は、転舵輪12を支承するサスペンションの振動特性に依存し、当該サスペンションに共振が発生する所定の車速領域(V1<V<V2)において増幅される。そして、減速機構24において発生する歯打ち音もまた、この所定の車速領域において特に顕著となる傾向がある。つまり、逆説的にいえば、車速Vが当該所定の車速領域にない場合(V≦V1又はV≧V2)には、減速機構24における歯打ち音は特に問題にならない。
この点を踏まえ、本実施形態では、車速ゲイン演算部53は、車速Vが上記所定の車速領域にない場合には、車速ゲインKvとして「0」を演算する。即ち、ラトル音抑制補償量Ira*を「0」に補正することで操舵系に付与するアシスト力を低減させない。そして、これにより、操舵フィーリングを損ねることなく、効果的に減速機構24における歯打ち音の発生を抑制する構成となっている。
また、舵角ゲインKθは、操舵角θsに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための補正ゲインである。図7に示すように、舵角ゲイン演算部54には、操舵角θsと舵角ゲインKθとが関連付けられたマップ54aが設けられている。具体的には、このマップ54aにおいて、舵角ゲインKθは、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θ1以上である場合(|θs|≧θ1)には「0」、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θ1´以下である場合(|θs|≦θ1´)には「1」となるように設定されている。尚、操舵角θsの絶対値が閾値θ1から閾値θ1´までの範囲にある場合(θ1<θs<θ1´)には、舵角ゲインKθは、操舵角θsの絶対値が大となるほど小さくなる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、舵角ゲイン演算部54は、入力される操舵角θsを、このマップ54aに参照することにより舵角ゲインKθを演算する。
操舵速度ゲインKωは、操舵速度ωsに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための補正ゲインである。図8に示すように、操舵速度ゲイン演算部55には、操舵速度ωsと操舵速度ゲインKωとが関連付けられたマップ55aが設けられている。具体的には、このマップ55aにおいて、操舵速度ゲインKωは、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値ω1以上である場合(|ωs|≧ω1)には「0」、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値ω1´以下である場合(|ωs|≦ω1´)には「1」となるように設定されている。尚、操舵速度ωsの絶対値が閾値ω1から閾値ω1´までの範囲にある場合(ω1<ωs<ω1´)には、操舵速度ゲインKωは、操舵速度ωsの絶対値が大となるほど小さくなる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、操舵速度ゲイン演算部55は、入力される操舵速度ωsを、このマップ55aに参照することにより操舵速度ゲインKωを演算する。
トルクゲインKτは、操舵トルクτに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための補正ゲインである。図9に示すように、トルクゲイン演算部56には、操舵トルクτとトルクゲインKτとが関連付けられたマップ56aが設けられている。具体的には、このマップ56aにおいて、トルクゲインKτは、操舵トルクτの絶対値が所定の閾値τ1以上である場合(|τ|≧τ1)には「0」、操舵トルクτの絶対値が所定の閾値τ1´以下である場合(|τ|≦τ1´)には「1」となるように設定されている。尚、操舵トルクτの絶対値が閾値τ1から閾値τ1´までの範囲にある場合(τ1<τ<τ1´)には、トルクゲインKτは、操舵トルクτの絶対値が大となるほど小さくなる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、トルクゲイン演算部56は、入力される操舵トルクτを、このマップ56aに参照することによりトルクゲインKτを演算する。
ヨーレイトゲインKγは、ヨーレイトγに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための補正ゲインである。図10に示すように、ヨーレイトゲイン演算部57には、ヨーレイトγとヨーレイトゲインKγとが関連付けられたマップ57aが設けられている。具体的には、このマップ57aにおいて、ヨーレイトゲインKγは、ヨーレイトγの絶対値が所定の閾値γ1以上である場合(|γ|≧γ1)には「0」、ヨーレイトγの絶対値が所定の閾値γ1´以下である場合(|γ|≦γ1´)には「1」となるように設定されている。尚、ヨーレイトγの絶対値が閾値γ1から閾値γ1´までの範囲にある場合(γ1<γ<γ1´)には、ヨーレイトゲインKγは、ヨーレイトγの絶対値が大となるほど小さくなる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、ヨーレイトゲイン演算部57は、入力されるヨーレイトγを、このマップ57aに参照することによりヨーレイトゲインKγを演算する。
即ち、運転者による積極的なステアリング操作が発生している場合には、歯打ち音の抑制よりも当該ステアリング操作のアシストを優先することが望ましい。この点を踏まえ、本実施形態では、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θ1以上(|θs|≧θ1)、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値ω1以上(|ωs|≧ω1)、又は操舵トルクτの絶対値が所定の閾値τ1以上(|τ|≧τ1)、ヨーレイトγの絶対値が所定の閾値γ1以上(|γ|≧γ1)である場合には、運転者による積極的なステアリング操作が発生しているものと推定する。
つまり、本実施形態では、上記の各閾値θ1、ω1、τ1、γ1は、運転者による積極的なステアリング操作によるものと推定可能な値に設定されている。そして、このような運転者による積極的なステアリング操作が発生しているものと推定される場合、上記の各補正ゲイン演算部(54,55,56,57)は、その出力する補正ゲイン(Kθ,Kω,Kτ,Kγ)として、それぞれ「0」を演算する。即ち、ラトル音抑制補償量Ira*を「0」に補正することで操舵系に付与するアシスト力を低減させない。そして、これにより、操舵フィーリングを損ねることなく、効果的に減速機構24における歯打ち音の発生を抑制する構成となっている。
特に、ステアリング操作方向を反転する所謂「切り返し操舵」が発生した場合にも、上記角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)は大きな値となるが、操舵トルクτを監視することで、こうした切り返し操舵の発生と転舵輪12への逆入力の印加の発生とを識別することができる。
また、図4に示すように、本実施形態のラトル音抑制補償演算部51には、切り替え制御部59が設けられている。そして、乗算器58において上記の各補正ゲイン(Kθ,Kω,Kτ,Kγ)が乗ぜられた後の基礎補償量εra´は、ブレーキ信号Sbkとともに、この切り替え制御部59に入力される。
本実施形態の切り替え制御部59は、入力されたブレーキ信号Sbkが「オフ」である場合、即ち非車両制動時には、その出力として基礎補償量εra´を選択し、ブレーキ信号Sbkが「オン」である場合、即ち車両制動時には、その出力として「0」を選択するように構成されている。そして、ラトル音抑制補償演算部51は、この切り替え制御部59から出力される基礎補償量εra´又は「0」を、ラトル音抑制補償量Ira*として、上記加算器49に出力する。
即ち、車両制動時には、歯打ち音の抑制よりも、当該制動に伴い操舵系に伝達される振動に対処するために、操舵系へのアシスト力付与を優先すべきである。そして、本実施形態では、車両制動時には、ラトル音抑制補償量Ira*を「0」として、操舵系に付与するアシスト力を低減しないことにより、該車両制動時における良好な操舵フィーリングを確保する構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)EPSアクチュエータ22の駆動源であるモータ21は、コラムシャフト8に設けられたリダクションギヤ25及びモータ軸21aに設けられたモータギヤ26を噛合してなる減速機構24を介してコラムシャフト8に連結される。ECU23は、リダクションギヤ25の回転角速度(ピニオン角速度ωp)を第1の角速度として検出するとともに、モータギヤ26の回転角速度をリダクションギヤ25の回転角速度に換算した第2の角速度(換算ピニオン角速度ωp_cnv)を検出する。そして、これら第1及び第2の角速度の差分値(角速度Δωp)を演算し、その差分値(角速度差分値Δωpの絶対値)が所定の閾値を超える場合には、操舵系に付与するアシスト力を低減するようにEPSアクチュエータ22の作動を制御する。
即ち、減速機構24における歯打ち音は、第1のギヤとしてのリダクションギヤ25(の歯)と第2のギヤとしてのモータギヤ26(の歯)とが衝突することにより発生する。そして、逆入力応力印加時には、リダクションギヤ25とモータギヤ26とが相反する方向に高速で回転、即ち両者間の回転角速度差が大きい状態で繰り返し衝突することにより、大きな歯打ち音が発生する。
しかしながら、上記構成のように、逆入力応力の印加に対応する大きな角速度差分値Δωp(の絶対値)が検出された場合には、操舵系に付与するアシスト力を低減することにより、モータギヤ26がリダクションギヤ25と反対方向に回転する際の回転角速度を抑えることができる。これにより、両者が衝突する際の回転角速度差を小さくすることでき、その結果、減速機構24における歯打ち音の発生を効果的に抑制することができる。
(2)電流指令値演算部45は、角速度差分値Δωpに基づき目標アシスト力に対応する電流指令値Iq*(の絶対値)を低減するためのラトル音抑制補償量Ira*を演算するラトル音抑制補償演算部51を備え、該ラトル音抑制補償演算部51は、ラトル音抑制補償量Ira*の基礎成分である基礎補償量εraを演算する基礎補償量演算部52を備える。そして、基礎補償量演算部52は、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が閾値α1を超える領域において、該角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が大きいほどアシスト力を大きく低減するような基礎補償量εraを演算する。
上記構成によれば、リダクションギヤ25とモータギヤ26とが強く衝突することになる角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が大きい場合ほど、リダクションギヤ25の回転角速度を抑えて、その衝撃を緩和することができる。その結果、より効果的に歯打ち音の発生を抑制することができる。
(3)ラトル音抑制補償演算部51は、車速Vに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための車速ゲインKvを演算する車速ゲイン演算部53を備える。そして、車速ゲイン演算部53は、車速Vが所定の車速領域にない場合(V≦V1又はV≧V2)には、車速ゲインKvとして「0」を演算する。
上記構成によれば、減速機構24における歯打ち音が特に問題にならない車速では、ラトル音抑制補償量Ira*は「0」に補正され、これにより操舵系に付与するアシスト力は低減されない。つまり、アシスト力の低減は、車速Vが所定の車速領域にある場合(V1<V<V2)に限定して行われる。その結果、操舵フィーリングを損ねることなく、効果的に減速機構24における歯打ち音の発生を抑制することができる。
(4)ラトル音抑制補償演算部51は、操舵角θsに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するための舵角ゲインKθを演算する舵角ゲイン演算部54を備える。そして、舵角ゲイン演算部54は、操舵角θsの絶対値が所定の閾値θ1以上である場合(|θs|≧θ1)には、舵角ゲインKθとして「0」を出力する。
(5)ラトル音抑制補償演算部51は、操舵速度ωsに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するため操舵速度ゲインKωを演算する操舵速度ゲイン演算部55を備える。そして、操舵速度ゲイン演算部55は、操舵速度ωsの絶対値が所定の閾値ω1以上である場合(|ωs|≧ω1)には、操舵速度ゲインKωとして「0」を出力する。
(6)ラトル音抑制補償演算部51は、操舵トルクτに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するためのトルクゲインKτを演算するトルクゲイン演算部56を備える。そして、トルクゲイン演算部56は、操舵トルクτの絶対値が所定の閾値τ1以上である場合(|τ|≧τ1)には、ヨーレイトゲインKγとして「0」を出力する。
(7)ラトル音抑制補償演算部51は、ヨーレイトγに応じてラトル音抑制補償量Ira*を補正するためのヨーレイトゲインKγを演算するヨーレイトゲイン演算部57を備える。そして、ヨーレイトゲイン演算部57は、ヨーレイトγの絶対値が所定の閾値γ1以上である場合(|γ|≧γ1)には、ヨーレイトゲインKγとして「0」を出力する。
即ち、運転者による積極的なステアリング操作が発生している場合には、歯打ち音の抑制よりも当該ステアリング操作のアシストを優先することが望ましい。そして、所定の閾値θ1以上の操舵角θs、所定の閾値ω1以上の操舵速度ωs、所定の閾値τ1の操舵トルクτ、或いは所定の閾値γ1以上のヨーレイトγの存在は、運転者による積極的なステアリング操作によるものとみなすことができる。
従って、上記(4)〜(7)の構成によれば、運転者による積極的なステアリング操作が発生している場合には、ラトル音抑制補償量Ira*を「0」に補正して、当該ステアリング操作のアシストを優先することができる。その結果、操舵フィーリングを損ねることなく、効果的に減速機構24における歯打ち音の発生を抑制することができる。
(8)ラトル音抑制補償演算部51は、切り替え制御部59を備え、同切り替え制御部59には、各補正ゲイン(Kθ,Kω,Kτ,Kγ)が乗ぜられた後の基礎補償量εra´とともに、ブレーキ信号Sbkが入力される。そして、切り替え制御部59は、ブレーキ信号Sbkが「オン」である場合、即ち車両制動時には、その出力として「0」を選択し、ラトル音抑制補償演算部51は、当該切り替え制御部59から出力された「0」を、ラトル音抑制補償量Ira*として出力する。
上記構成によれば、車両制動時には、ラトル音抑制補償量Ira*を「0」として、操舵系へのアシスト力付与を優先することにより、当該制動に伴い操舵系に伝達される振動にも対処することができる。その結果、操舵フィーリングを損ねることなく、効果的に減速機構24における歯打ち音の発生を抑制することができる。
(9)電流指令値演算部45は、基本アシスト制御量Ias*の補償成分として、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づくトルク慣性補償量Iti*を演算するトルク慣性補償制御部48とを備える。そして、電流指令値演算部45は、このトルク慣性補償量Iti*を基本アシスト制御量Ias*に重畳することにより、目標アシスト力としての電流指令値Iq*を演算する。
即ち、このような操舵トルク微分値dτに基づく補償制御を実行することにより、モータギヤ26(モータ21)は、その位相がずれる(90°進む)ことになる。このため、こうした操舵トルク微分値dτに基づく補償制御を実行するものにおいては、上記角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が大となりやすく、これにより生ずる歯打ち音もまた顕著となりやすい傾向がある。従って、このような補償制御を行うものについて、上記(1)〜(8)の構成を適用することで、より顕著な効果を得ることができる。
(第2の実施形態)
以下、本発明をコラム型の電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、ラトル音抑制補償制御の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
図11に示すように、本実施形態では、電流指令値演算部60には、上記第1の実施形態の電流指令値演算部45におけるラトル音抑制補償演算部51に相当するものとして、ラトル音抑制ゲイン演算部61が設けられている。そして、ラトル音抑制ゲイン演算部61は、入力された角速度差分値Δωpの絶対値が所定の閾値β1を超える領域において、電流指令値演算部60が出力する電流指令値Iq*(の絶対値)を低減する、即ちEPSアクチュエータ22が発生するアシスト力を小さくするようなラトル音抑制補ゲインKraを演算するように構成されている。
ラトル音抑制ゲイン演算部61により演算されたラトル音抑制補ゲインKraは、加算器62においてトルク慣性補償量Iti*が重畳された後の基本アシスト制御量Ias**とともに、乗算器63に入力される。そして、本実施形態の電流指令値演算部60は、この乗算器63において、基本アシスト制御量Ias**にラトル音抑制補ゲインKraを乗じた値を、電流指令値Iq*としてモータ制御信号出力部46に出力し、これにより、EPSアクチュエータ22の発生するアシスト力が低減される構成となっている。
次に、ラトル音抑制ゲイン演算部の構成について説明する。
図12に示すように、ラトル音抑制ゲイン演算部61は、上記第1の実施形態におけるラトル音抑制補償演算部51の基礎補償量演算部52に相当するものとして基礎ゲイン演算部64を備えており、同基礎ゲイン演算部64は、入力された角速度差分値Δωpに基づいてラトル音抑制補ゲインKraの基礎成分である基礎ゲインKbsを演算する。
基礎ゲイン演算部64において演算された基礎ゲインKbsは、乗算器65に入力される。この乗算器65には、該基礎ゲインKbsとともに、車速ゲイン演算部53が出力する車速ゲインKv、舵角ゲイン演算部54が出力する舵角ゲインKθ、操舵速度ゲイン演算部55が出力する操舵速度ゲインKω、トルクゲイン演算部56が出力するトルクゲインKτ、及びヨーレイトゲイン演算部57が出力するヨーレイトゲインKγが入力される。また、ラトル音抑制ゲイン演算部61は、加速度センサ(図示略)により検出された車両の前後加速度Gに基づいて加速度ゲインKgを演算する加速度ゲイン演算部66を備えており、同加速度ゲイン演算部66により演算された加速度ゲインKgもまた乗算器65に入力される。そして、これらの各補正ゲイン演算部(53,54,55,56,57,66)が出力する各補正ゲイン(Kv,Kθ,Kω,Kτ,Kγ,Kg)は、乗算器65において基礎ゲインKbsに乗ぜられる。
ここで、本実施形態では、乗算器65において各補正ゲイン(Kv,Kθ,Kω,Kτ,Kγ,Kg)が乗ぜられた後の基礎ゲインKbs´は、減算器67に入力される。そして、ラトル音抑制ゲイン演算部61は、この減算器67において演算される「1」から基礎ゲインKbs´を減算した値(1−Kbs´)をラトル音抑制補ゲインKraとして、上記の乗算器63に出力する。従って、基礎ゲイン演算部64により演算される基礎ゲインKbsは、その値が「1」に近いほど、より大きく電流指令値演算部60が出力する電流指令値Iq*(の絶対値)を低減する、即ちEPSアクチュエータ22が発生するアシスト力を小さくするものとなっている。
図13に示すように、基礎ゲイン演算部64は、角速度差分値Δωpと基礎ゲインKbsとが関連付けられたマップ64aを有している。そして、基礎ゲイン演算部64は、入力された角速度差分値Δωpを、このマップ64aに参照することにより、基礎ゲインKbsを演算する。
詳述すると、マップ64aにおいて、基礎ゲインKbsは、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が所定の閾値β1以下である場合(|Δωp|≦β1)には「0」、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が所定の閾値β1´以上である場合(|Δωp|≧β1´)には「1」となるように設定されている。そして、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が閾値β1から閾値β1´までの範囲にある場合(β1<|Δωp|<β1´)にある場合には、該絶対値(|Δωp|)が大となるほど大となるように設定されている。
即ち、本実施形態の基礎ゲイン演算部64は、角速度差分値Δωpの絶対値(|Δωp|)が所定の閾値β1を超える領域にある場合において、より大きく電流指令値演算部60が出力する電流指令値Iq*(の絶対値)を低減するような基礎ゲインKbsを演算するように構成されている。そして、これにより、逆入力応力の印加に対応する大きな角速度差分値Δωp(の絶対値)が検出された場合には、操舵系に付与するアシスト力を低減、即ちモータギヤ26がリダクションギヤ25と反対方向に回転する際の回転角速度を抑えて、減速機構24において発生する歯打ち音の抑制を図る構成となっている。
また、図14に示すように、加速度ゲイン演算部66は、前後加速度Gと加速度ゲインKgとが関連付けられたマップ66aを有している。このマップ66aにおいて、加速度ゲインKgは、前後加速度Gが所定の閾値G1より「−」側の値である場合には「0」、前後加速度Gが所定の閾値G1´より「+」側の値である場合には「1」となるように設定されている。ここで、上記の閾値G1には、車両が制動状態にあると推定可能な「−」の値が設定されている。尚、前後加速度Gが閾値G1から閾値G1´までの範囲にある場合(G1<G<G1´)には、加速度ゲインKgは、前後加速度Gがより大きな「−」の値をとるほど小さくなる(「1」→「0」)ように設定されている。そして、加速度ゲイン演算部66は、入力される前後加速度Gを、このマップ66aに参照することにより加速度ゲインKgを演算する。
即ち、本実施形態では、加速度ゲイン演算部66は、入力される前後加速度Gが、車両が制動状態にあると推定可能な領域にある場合には、加速度ゲインKgとして「0」を演算するように構成されている。そして、これにより、車両制動時には、同加速度ゲインKgを乗じた後の基礎ゲインKbs´を「0」とする、即ち操舵系へのアシスト力付与を優先することにより、当該制動に伴い操舵系に伝達される振動にも対処可能な構成となっている。
以上、本実施形態のように電流指令値演算部60及びラトル音抑制ゲイン演算部61を構成しても、上記第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、第1及び第2のギヤを噛合してなる減速機構を介してモータとステアリングシャフトとが駆動連結される構成を有するものであれば、例えばピニオンシャフトに対してアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPSに適用してもよい。
・上記各実施形態では、本発明を、操舵トルクτの微分値(操舵トルク微分値dτ)に基づく補償制御(トルク慣性補償制御)を行うEPS1に具体化したが、本発明は、このような操舵トルクτの微分値に基づく補償制御を行わないものについて適用してもよい。
・上記各実施形態では、リダクションギヤ25を第1のギヤとし、モータギヤ26を第2のギヤとしたが、これを逆転させてもよい。即ち、上記各実施形態では、リダクションギヤ25の回転角速度であるピニオン角速度ωpを基準(第1の角速度)として、モータギヤ26の回転角速度をリダクションギヤ25の回転角速度に換算することにより第2の角速度(換算ピニオン角速度ωp_cnv)を検出した。しかし、これに限らず、モータギヤ26の回転角速度であるモータ角速度を第1の角速度として、リダクションギヤ25の回転角速度をモータギヤ26の回転角速度に換算することにより第2の角速度(換算モータ角速度)を検出する構成としてもよい。
・上記第1の実施形態におけるラトル音抑制補償演算部51、並びに上記第2の実施形態におけるラトル音抑制ゲイン演算部61において実行された各補正演算(補正ゲイン演算)については、必ずしもこれらの全てを実行する必要はなく、適宜、選択或いは任意に変更してもよい。
例えば、車速ゲイン演算部53、舵角ゲイン演算部54、操舵速度ゲイン演算部55、並びにヨーレイトゲイン演算部57のような機能が略等しいものについては、必ずしもこれらの全ての補正演算を実行する必要はなく、適宜選択し任意に組み合わせてもよい。
また、第1の実施形態においてラトル音抑制補償演算部51に設けられた切り替え制御部59、及び第2の実施形態においてラトル音抑制ゲイン演算部61に設けられた加速度ゲイン演算部66についても、これらのうちの何れを選択してもよい。例えば、上記第1の実施形態のようなラトル音抑制補償量Ira*を重畳することによりアシスト力の低減させる構成において、加速度ゲイン演算部66を設けることにより、車両制動時におけるアシスト力付与の優先を図る構成としてもよい。
・さらに、直接的に、積極的なステアリング操作の有無を判定し、該積極的なステアリング操作がある場合には、アシスト力の低減を行わない構成としてもよい。
・上記各実施形態では、ラトル音抑制補償演算部51、及びラトル音抑制ゲイン演算部61におけるマップ演算において、アシスト力低減制御を実行するか否かの判定を行うこととした。しかし、これに限らず、より直接的に、角速度差分値Δωpに基づく判定を行う構成としてもよい。
即ち、図15のフローチャートに示すように、角速度差分値Δωpの絶対値が所定の閾値ω0を超えるか否かを判定する(ステップ101)。そして、所定の閾値ω0を超える場合(|Δωp|>ω0、ステップ101:YES)には、アシスト力低減制御を実行し(ステップ102)、閾値ω0を超えない場合(|Δωp|≦ω0、ステップ101:NO)には、アシスト力の低減を実行しない(通常制御、ステップ103)構成としてもよい。
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、8…コラムシャフト、8a…第1シャフト、8b…第2シャフト、9…インターミディエイトシャフト、10…ピニオンシャフト、12…転舵輪、21…モータ、21a…モータ軸、22…EPSアクチュエータ、23…ECU、24…減速機構、25…リダクションギヤ、26…モータギヤ、31…トルクセンサ、33…トーションバー、34a…第1の角度センサ、34b…第2の角度センサ、35…車速センサ、36…ヨーレイトセンサ、41…マイコン、42…駆動回路、44…回転角センサ、45,60…電流指令値演算部、46…モータ制御信号出力部、47…基本アシスト制御部、48…トルク慣性補償制御部、51…ラトル音抑制補償演算部、52…基礎補償量演算部、53…車速ゲイン演算部、54…舵角ゲイン演算部、55…操舵速度ゲイン演算部、56…トルクゲイン演算部、57…ヨーレイトゲイン演算部、59…切り替え制御部、61…ラトル音抑制ゲイン演算部、64…基礎ゲイン演算部、66…加速度ゲイン演算部、Iq*…電流指令値、Ias*,Ias**…基本アシスト制御量、Iti*…トルク慣性補償量、Ira*…ラトル音抑制補償量、εra,εra´…基礎補償量、Kra*…ラトル音抑制ゲイン、Kbs,Kbs´…基礎ゲイン、θp…ピニオン角、ωp…ピニオン角速度、θm…モータ回転角、θp_cnv…換算ピニオン角、ωp_cnv…換算ピニオン角速度、Δωp…角速度差分値、α1,β1,β1´,ω0…閾値、θs…操舵角、θ1,θ1´…閾値、Kθ…舵角ゲイン、ωs…操舵速度、ω1,ω1´…閾値、Kω…操舵速度ゲイン、V,V1,V1´,V2,V2´…車速、Kv…車速ゲイン、τ…操舵トルク、τ1,τ1´…閾値、dτ…操舵トルク微分値、Kτ…トルクゲイン、γ…ヨーレイト、γ1,γ1´…閾値、Kγ…ヨーレイトゲイン、G…前後加速度、Kg…加速度ゲイン、G1,G1´…閾値、Sbk…ブレーキ信号。