本発明は、吐出口から液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
圧力室内のインクに圧力を付与することによってノズルの吐出口からインクを噴射するインクジェットヘッド(液滴噴射装置)において、圧力室内のインクに圧力を付与すると圧力室内において圧力波が発生する。圧力波は、圧力室に連通する共通液室に伝播する。この圧力波を共通液室内において減衰させ、圧力波がさらに他の圧力室に伝播するのを防止することにより、液滴速度の変化などインク噴射特性のばらつきを抑制する。例えば、特許文献1(特開2003−127354号公報)に記載のインクジェット式記録ヘッド(インクジェットヘッド)では、ノズルに連通する複数の圧力発生室(圧力室)はインク供給路を介してインク貯留室(共通液室)に連通しており、ヘッドケースのインク貯留室に対応する部分には凹部が形成されている。そして、凹部が形成された部分に重なる金属製の振動板の領域が、インク貯留室内において圧力変動を逃がす(圧力波を減衰させる)ダンパとして作用する。
特開2003−127354号公報
特開平11−309877号公報
しかしながら、特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、インクジェットヘッドの高密度化、小型化を実現しようとすると、共通液室の大きさを小さくする必要がある。共通液室の大きさが小さくなると、共通液室において圧力波を十分に減衰させることができない虞がある。ここで、振動板などダンパとして機能する部材をポリイミドのような弾性係数の低い材料により構成することも考えられる。しかし、この部材と金属製の他の部材とを加熱接着する際に、両者の線膨張係数の違いから反り変形を起こしてしまうという問題が発生する。
また、特許文献2(特開平11−309877号公報)に記載のインクジェット式記録ヘッドでは、ノズルに連通する圧力発生室にインクを供給するための2つのリザーバが、上下方向に重ねて設けられている。2つのリザーバは仕切板によって仕切られ、仕切板には、インク滴吐出時に発生しノズル開口と反対側へ向かう圧力波を吸収するための圧力吸収部が設けられている。仕切板は、薄肉板と、凹部が形成された封止板とを接合することにより構成され、薄肉板と、凹部を構成する薄肉壁によって、前記圧力が吸収される。しかし、この構成では充分に圧力を吸収しきれず、クロストークを生じてしまう虞が存在した。
本発明の目的は、共通液室において効率よく圧力波を減衰させることが可能な液滴噴射装置を提供することである。
課題を解決するための手段及び発明の効果
本発明の第1の態様に従えば、本体を有し、液体の液滴を噴射する液滴噴射装置であって、複数の第1圧力室と、前記複数の第1圧力室が第1方向に配設された第1圧力室列と、複数の第2圧力室と、前記複数の第2圧力室が前記第1方向に配設された第2圧力室列と、前記第1方向に延在し、前記複数の第1圧力室のそれぞれに連通する第1共通液室と、前記第1方向に延在し、前記複数の第2圧力室のそれぞれに連通する第2共通液室と、前記本体の厚み方向において、前記第1共通液室と前記第2共通液室の間に位置し、前記第1方向に延在するダンパとを備え、前記第1共通液室は、前記厚み方向において前記第2共通液室と重なるように、前記第1方向と直交する第2方向の幅を有し、前記ダンパは、前記厚み方向において前記第1共通液室および前記第2共通液室のそれぞれと重なるように、前記第2方向の幅を有し、前記第1共通液室、前記第2共通液室、および前記ダンパはそれぞれ、前記厚み方向において前記第1圧力室列および前記第2圧力室列のそれぞれと重なるように、前記第2方向の幅を有し、前記ダンパは、前記第1共通液室の壁面を構成する第1薄肉膜と、前記第1薄肉膜によって壁面の一部が画定されており且つ前記第1薄肉膜よりも剛性の低い第1ダンパ室と、前記第2共通液室の壁面を構成する第2薄肉膜と、前記第2薄肉膜によって壁面の一部が画定されており且つ前記第2薄肉膜よりも剛性の低い第2ダンパ室とを備え、前記第1薄肉膜が前記第1共通液室の前記第2共通液室に面した壁面を構成し、前記第2薄肉膜が前記第2共通液室の前記第1共通液室に面した壁面を構成し、前記第1ダンパ室と前記第2ダンパ室とが一体となって統合ダンパ室を形成する液滴噴射装置が提供される。
ダンパの圧力波を減衰する能力は、その平面積に大きく依存する。ダンパがある方向に延在する場合には、同じ面積でもダンパの短いほうの幅(第2方向の長さ)が大きいほど圧力波に対する減衰能力が高い。本発明の構造によれば、第2共通液室を少なくともその一部が前記本体の厚み方向に関して第1共通液室に重なるように形成するので、第1および第2共通液室の、前記第2方向の長さを大きくすることができる。したがって、第1および第2共通液室が重なる部分に形成されるダンパの、前記第2方向の長さも大きくすることができる。さらに、第1および第2共通液室、並びにダンパはそれぞれ、前記厚み方向に関して、それらの幅が第1圧力室および第2圧力室のそれぞれと、部分的に重なるように形成されているので、十分な大きさの幅を確保することができ、第1共通液室及び第2共通液室の音響容量を著しく増加させ、第1共通液室及び第2共通液室において効率よく圧力波を減衰させることができる。
また、この構成によれば、第1薄肉膜および第1ダンパ室、並びに第2薄肉膜および第2ダンパ室の、前記第2方向の長さを大きくすることができるので、第1共通液室および第2共通液室の音響容量を著しく増加させ、第1共通液室および第2共通液室において効率よく圧力波を減衰させることができる。
また、この場合、第1共通液室と第2共通液室との間に第1薄肉膜及び第2薄肉膜を形成することにより、第1薄肉膜と第2薄肉膜との間に第1ダンパ室と第2ダンパ室とが一体となった統合ダンパ室を形成することができる。したがって、第1ダンパ室及び第2ダンパ室を別々に形成する場合よりも部品点数を減らすことができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記第1薄肉膜は、前記第1共通液室と反対側の面に第1凹部が形成された第1平板における、前記第1凹部が形成されて厚みが薄くなった部分であってもよく、前記第2薄肉膜は、前記第2共通液室と反対側の面に第2凹部が形成された第2平板における、前記第2凹部が形成されて厚みが薄くなった部分であってもよい。この場合、第1平板に第1凹部を形成することにより第1薄肉膜が形成されるとともに、第1凹部が第1ダンパ室となるため、第1薄肉膜と第1ダンパ室とを1つの部材により形成することができる。また、第2平板に第2凹部を形成することにより第2薄肉膜が形成されるとともに第2凹部が第2ダンパ室となるため、第2薄肉膜と第2ダンパ室とを1つの部材により形成することができる。したがって、部品点数を減らすことができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記第1薄肉膜と前記第2薄肉膜との間にスペーサが介在してもよく、前記スペーサの厚みが前記統合ダンパ室の厚みと同じになっていてもよい。この場合、第1薄肉膜と第2薄肉膜との間にスペーサを設けることによって統合ダンパ室を容易に形成することができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記第1ダンパ室及び前記第2ダンパ室が外気に連通していてもよい。この場合、製造時の加熱などにより、第1ダンパ室及び第2ダンパ室内の空気が熱膨張して液滴噴射装置が破損してしまうのを防止することができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1圧力室のそれぞれに連通する複数の第1液滴吐出口と、前記複数の第2圧力室のそれぞれに連通する複数の第2液滴吐出口とが、前記本体の一側面に形成されていてもよい。この構造によれば、複数の吐出口が同一平面に形成されているので、複数の吐出口において液滴の噴射特性がばらつきにくくなる。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1圧力室および前記複数の第2圧力室はそれぞれ、前記本体の一側面に沿って形成されてもよい。この構造によれば、複数の圧力室が同一面に沿って形成されているため、各圧力室の壁部を構成するエネルギー付与機構を同一面上に配置でき、部品点数を減らすことができる。
本発明の液滴噴射装置は、前記複数の第1圧力室および前記複数の第2圧力室のそれぞれに、液滴噴出エネルギーを付与するエネルギー付与機構をさらに備えてもよく、前記エネルギー付与機構は、前記複数の第1圧力室および前記複数の第2圧力室のそれぞれに対向する圧電層と、前記圧電層に電界を印加する一対の電極とを含んでもよい。この場合、圧電層と一対の電極を含む簡単な構成により複数の圧力室内の液体に吐出エネルギーを付与することができる。
本発明の液滴噴射装置は、前記第2方向に複数の前記第1共通液室が形成され、前記複数の第1共通液室それぞれの壁面を構成する複数の前記第1薄肉膜と、前記複数の第1薄肉膜のそれぞれによって壁面の一部が画定される複数の前記第1ダンパ室とが形成されてもよく、前記第2方向に複数の前記第2共通液室が形成され、前記複数の第2共通液室それぞれの壁面を構成する複数の前記第2薄肉膜と、前記複数の第2薄肉膜のそれぞれによって壁面の一部が画定される複数の前記第2ダンパ室とが形成されてもよい。この構造によれば、複数の第1共通液室が、前記本体の厚み方向において同じ位置に形成されているため、複数の第1共通液室周辺の剛性が均一化される。したがって、複数の第1共通液室に連通する吐出口から吐出される液滴の吐出特性が均一化される。同様に、複数の第2共通液室が、前記本体の厚み方向において同じ位置に形成されているため、複数の第2共通液室周辺の剛性が均一化される。したがって、複数の第2共通液室に連通する吐出口の液滴の吐出特性が均一化される。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1共通液室および前記複数の第2共通液室には、それぞれ種類の異なる液体が供給されてもよい。この場合においても、同一の共通液室に連通する複数の液滴吐出口の液滴吐出特性は均一化されているので、同一の液滴を噴射する吐出口の噴射特性が均一化される。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1共通液室と前記第2方向に隣接し、前記第1方向に延在する第1ダミー共通液室と、前記複数の第2共通液室と前記第2方向に隣接し、前記第1方向に延在する第2ダミー共通液室と、前記第1ダミー共通液室の壁面を構成する第1ダミー薄肉膜と、前記第1ダミー薄肉膜によって壁面の一部が画定され且つ前記第1ダミー薄肉膜よりも剛性の低い第1ダミーダンパ室と、前記第2ダミー共通液室の壁面を構成する第2ダミー薄肉膜と、前記第2ダミー薄肉膜によって壁面の一部が画定され且つ前記第2ダミー薄肉膜よりも剛性の低い第2ダミーダンパ室と、をさらに備えてもよく、前記複数の第2共通液室のうちのいずれか1つは、前記厚み方向において、前記第1ダミー共通液室と少なくともその一部が重複するように前記第2方向にも延在してもよく、前記複数の第1共通液室のうちのいずれか1つは、前記厚み方向において、前記第2ダミー共通液室と少なくともその一部が重複するように前記第2方向にも延在してもよい。
この構造によれば、前記本体の厚み方向に関して第1共通液室と重ならない第2共通液室に重なるように第1ダミー共通液室、第1ダミー薄肉膜及び第1ダミーダンパ室が形成されるので、前記第2共通液室周辺の剛性を、第1共通液室と重なった第2共通液室周辺の剛性に近づけることができる。したがって、複数の第2共通液室周辺の剛性が均一化され、複数の第2共通液室に連通する吐出口の液滴の噴射特性が均一化される。同様に、前記本体の厚み方向に関して第2共通液室と重ならない第1共通液室に重なるように第2ダミー共通液室、第2ダミー薄肉膜及び第2ダミーダンパ室が形成されるので、前記第1共通液室周辺の剛性を、第2共通液室と重なった第1共通液室周辺の剛性に近づけることができる。したがって、複数の第1共通液室周辺の剛性が均一化され、複数の第1共通液室に連通する吐出口の液滴の吐出特性が均一化される。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1共通液室、前記複数の第2共通液室、前記第1ダミー共通液室、および前記第2ダミー共通液室はいずれも、前記第2方向に関する長さが等しい等幅領域と、前記等幅領域に連続し、前記第1方向の一端に近づくほど前記第2方向に関する長さが短くなる先鋭領域とを有してもよい。この場合、第1共通液室及び第2共通液室が前記第1方向の一端に近づくほど前記第2方向に関する長さが狭くなっているのでこの部分に液体の流れが発生しやすく前記第1方向の端部において第1及び第2共通液室に連通している接続口にも液体が確実に供給される。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数の第1共通液室の前記先鋭領域のそれぞれと前記第1方向に隣接する複数の第3ダミー共通液室と、前記複数の第2共通液室の前記先鋭領域のそれぞれと前記第1方向に隣接する複数の第4ダミー共通液室と、をさらに備えてもよく、前記第3ダミー共通液室、および前記第1共通液室の前記先鋭領域における前記第2方向に関する長さの合計はそれぞれ、前記第1共通液室の前記等幅領域の前記第2方向に関する長さと略等しくてもよく、前記第4ダミー共通液室、および前記第2共通液室の前記先鋭領域における前記第2方向に関する長さの合計はそれぞれ、前記第2共通液室の前記等幅領域の前記第2方向に関する長さと略等しくてもよい。この場合、第3ダミー共通液室が形成されているため、第1共通液室に連通する複数の圧力室のうち先鋭領域付近に連通する圧力室周辺の剛性が等幅領域付近に連通する圧力室周辺の剛性に近づき、第1共通液室に連通する複数の圧力室に連通する吐出口からの液滴の噴射特性が均一化される。また、第4ダミー共通液室が形成されているため、第2共通液室に連通する複数の圧力室のうち先鋭領域付近に連通する圧力室周辺の剛性が等幅領域付近に連通する圧力室周辺の剛性に近づき、第2共通液室に連通する複数の圧力室に連通する吐出口からの液滴の噴射特性が均一化される。
本発明の第2の態様に従えば、本体を有する液滴噴射装置であって、複数の第1圧力室と、前記複数の第1圧力室が第1方向に配設された第1圧力室列と、複数の第2圧力室と、前記複数の第2圧力室が前記第1方向に配設された第2圧力室列と、前記第1方向に延在し、前記複数の第1圧力室のそれぞれに連通する第1共通液室と、前記第1方向に延在し、前記複数の第2圧力室のそれぞれに連通する第2共通液室と、前記本体の厚み方向において、前記第1共通液室と前記第2共通液室の間に位置し、前記第1方向に延在するダンパとを備え、前記複数の第1圧力室および前記複数の第2圧力室はそれぞれ、前記第1方向と直交する第2方向に延在し、前記第1共通液室は、前記厚み方向において前記第2共通液室と重なるように、前記第2方向の幅を有し、前記ダンパは、前記厚み方向において前記第1共通液室および前記第2共通液室のそれぞれと重なるように、前記第2方向の幅を有し、前記第1共通液室、前記第2共通液室、および前記ダンパはいずれも、それらの前記第2方向の幅が、前記第1圧力室の前記第2方向の寸法よりも大きく、且つ前記第2圧力室の前記第2方向の寸法よりも大きく、前記ダンパは、前記第1共通液室の壁面を構成する第1薄肉膜と、前記第1薄肉膜によって壁面の一部が画定されており且つ前記第1薄肉膜よりも剛性の低い第1ダンパ室と、前記第2共通液室の壁面を構成する第2薄肉膜と、前記第2薄肉膜によって壁面の一部が画定されており且つ前記第2薄肉膜よりも剛性の低い第2ダンパ室とを備え、前記第1薄肉膜が前記第1共通液室の前記第2共通液室に面した壁面を構成し、前記第2薄肉膜が前記第2共通液室の前記第1共通液室に面した壁面を構成し、前記第1ダンパ室と前記第2ダンパ室とが一体となって統合ダンパ室を形成する液滴噴射装置が提供される。
本発明の構造によれば、第2共通液室を少なくともその一部が前記本体の厚み方向に関して第1共通液室に重なるように形成するので、第1および第2共通液室の、前記第2方向の長さを大きくすることができる。したがって、第1および第2共通液室が重なる部分に形成されるダンパの、前記第2方向の長さも大きくすることができる。さらに、第1および第2共通液室、並びにダンパは、その幅寸法が、第1圧力室および第2圧力室の長さ寸法よりも大きいので、十分な大きさの幅を確保することができ、第1共通液室及び第2共通液室の音響容量を著しく増加させ、第1共通液室及び第2共通液室において効率よく圧力波を減衰させることができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記第1共通液室、前記第2共通液室、および前記ダンパはいずれも、それらの前記第2方向の幅が、前記第1圧力室の前記第2方向の寸法と前記第2圧力室の前記第2方向の寸法の和と略等しくてもよく、前記ダンパは、前記第1共通液室が前記厚み方向において前記第2共通液と重なる部分の略全域と、前記厚み方向において重なるように前記第2方向の幅を有してもよい。この場合、前記第1共通液室、前記第2共通液室、および前記ダンパは、十分な大きさの幅を確保することができ、前記第1共通液室および前記第2共通液室の音響容量を著しく増加させ、前記第1共通液室および前記第2共通液室において効率よく圧力波を減衰させることができる。
本発明の液滴噴射装置において、前記ダンパは、通気孔を介して外気に連通してもよい。この場合、製造時の加熱などにより、第1ダンパ室及び第2ダンパ室内の空気が熱膨張して液滴噴射装置が破損してしまうのを防止することができる。
本発明の液滴噴射装置は、前記第1共通液室は前記第2方向に複数形成されてもよく、前記第2共通液室は前記第2方向に複数形成されてもよく、前記本体の厚み方向において、前記複数の第1共通液室と前記複数の第2共通液室とのそれぞれの間に位置し、前記第1方向に延在する複数のダンパが形成されてもよい。この構造によれば、複数の第1共通液室が前記厚み方向において同じ位置に形成されているため、複数の第1共通液室周辺の剛性が均一化される。したがって、複数の第1共通液室に連通する複数の吐出口から吐出される液滴の吐出特性が均一化される。同様に、複数の第2共通液室が前記厚み方向において同じ位置に形成されているため、複数の第2共通液室周辺の剛性が均一化される。したがって、複数の第2共通液室に連通する複数の吐出口から吐出される液滴の吐出特性が均一化される。
本発明の液滴噴射装置において、前記複数のダンパは、各々が通気孔を介して連通することにより、外気に連通してもよい。この場合、製造時の加熱などにより、各ダンパ内の空気が熱膨張して液滴噴射装置が破損してしまうのを防止することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、本発明をノズルからインクを噴射するインクジェットヘッドに適用した一例である。
図1は本実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の概略斜視図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、走査方向(図1の左右方向:第2方向)に移動可能なキャリッジ2、キャリッジ2とともに移動可能に構成された本体を有し、記録用紙Pにインクを噴射するシリアル式のインクジェットヘッド(液滴噴射装置)3、記録用紙Pを紙送り方向(図1の手前方向:第1方向)に搬送する用紙搬送ローラ4などを備えている。そして、インクジェットヘッド3は、キャリッジ2と一体的に走査方向に移動しつつその下面に配置されたノズル16(図3参照)の吐出口から記録用紙Pに印字を行うように構成されている。また、インクジェットヘッド3により印字が行われた記録用紙Pは、用紙搬送ローラ4により紙送り方向に排出される。
次に、インクジェットヘッド3について図2〜図5を用いて説明する。図2は、図1のインクジェットヘッド3の平面図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。図4A〜図4Cは、図3の一部を拡大した断面図であり、図4Aは図3のインクジェットヘッド3の中央部付近、図4Bは図3のインクジェットヘッド3の左端部付近、図4Cは図3のインクジェットヘッド3の右端部付近をそれぞれ拡大した図である。図5A〜図5Dはそれぞれインクジェットヘッド3を構成するマニホールドプレート25、ダンパプレート26、ダンパプレート27及びマニホールドプレート28の平面図である。
図2〜図4Cに示すように、インクジェットヘッド3は、マニホールド流路11、12から圧力室10を経てノズル16に至る複数の個別インク流路が形成された流路ユニット5と、流路ユニット5の上面に配置され、圧力室10内のインクに圧力を付与する(吐出エネルギーを付与する)圧電アクチュエータ(エネルギー付与機構)6とを有する。
流路ユニット5は、キャビティプレート21、ベースプレート22、アパーチャプレート23、サプライプレート24、マニホールドプレート25、マニホールドプレート28、ダンパプレート(第1平板)26、ダンパプレート(第2平板)27、カバープレート29及びノズルプレート30を有しており、これら10枚のプレート21〜30が積層状態で接合されている。このうち、ノズルプレート30を除く9枚のプレート21〜29は、ステンレス鋼などの金属材料により構成されている。そして、プレート21〜29には、圧力室10、マニホールド流路11、12などのインク流路がエッチングなどの方法により形成されている。ノズルプレート30は、ポリイミドなどの合成樹脂材料により構成されており、カバープレート29の下面に接着されている。図2に示すように、ノズルプレート30には、複数の圧力室10と1対1に対応する複数のノズル16がレーザ加工(後述)により形成されており、紙送り方向(図2の上下方向)に8列に配列されている。なお、ノズルプレート30も他の9枚のプレート21〜29と同様、金属材料により構成されていてもよい。これにより、線膨張係数の違いによる流路ユニット5の反りや、プレート21〜29内に形成されている流路とノズル16との位置ずれがなくなる。
図2〜図4Cに示すように、キャビティプレート21には、紙送り方向(図2の上下方向:第1方向)に8列に配列された複数の圧力室10が形成されている。圧力室10は走査方向(図2の左右方向:第2方向)に長い略矩形状になっている。より詳しくは、前記第2方向に延在し、後述するマニホールド流路(第1共通液室)11に連通する複数の圧力室(第1圧力室)10が、前記第1方向に並設された第1圧力室列と、前記圧力室(第1圧力室)10の長手方向に隣接して前記第2方向に延在し、且つ後述するマニホールド流路(第2共通液室)12に連通する複数の圧力室(第2圧力室)10が、前記第1方向に並設された第2圧力室列とが、前記第2方向に配列されて、本実施形態では8列の圧力室列が形成されている。
ベースプレート22には、平面視で各圧力室10の長手方向の両端部付近と重なる領域に、各圧力室10と後述するアパーチャ13とを連通させる複数の連通孔14、及び、各圧力室10と対応するノズル16とを連通させる複数の流路15の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。
アパーチャプレート23には、圧力室10の長手方向に延び、複数の圧力室10とマニホールド流路11、12とを連通させる複数のアパーチャ13、及び、前記流路15の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。アパーチャ13は、圧力室10とマニホールド流路11、12との間において流路断面が小さくなっており、マニホールド流路11、12から圧力室10に流れ込むインクの量を調整する。また、圧力室10からマニホールド流路11、12にインクが逆流するのを防止し、圧力室10において発生した圧力波がマニホールド流路11、12に伝播するのを抑制する。
サプライプレート24には、前記流路15の一部を形成する複数の連通孔、アパーチャ13とマニホールド流路12とを連通させる複数の流路17の一部を形成する複数の連通孔、及び、アパーチャ13とマニホールド流路11とを連通させる複数の連通孔18が形成されている。
マニホールドプレート25には、前記紙送り方向(第1方向)に延在し、前記複数の圧力室(第1圧力室)10のそれぞれに連通するマニホールド流路(第1共通液室)11が、前記走査方向(第2方向)に4つ並んで形成されている。4つのマニホールド流路11のうち、図2の左側の2つにはインク流入口9bからインクが供給され、図2の右側の2つにはインク流入口9dからインクが供給される。各マニホールド流路11は、図5Aに示すように、図5Aの上下方向にほぼ一定の幅(図5Aの左右方向の長さ)で延びた等幅領域11aと、インク流入口9b、9dと反対側の端部において等幅領域11aに連通し、インク流入口9b、9dから離れる(図5Aの上方)ほど幅が狭くなった先鋭領域11bとを有する。つまり、キャビティプレート21に平行でマニホールドプレート25(マニホールド流路11)を含む平面を仮想したときに、この仮想平面内において、各マニホールド流路11は、前記紙送り方向と直交する方向の長さがほぼ等しい等幅領域11aと、前記紙送り方向の下流側先端部に形成され先細り形状をした先鋭領域11bとから構成されている。等幅領域11aと先鋭領域11bとは滑らかに連結されている。これにより、インク流入口9b、9dから流入したインクは、マニホールド流路11全体に確実に流れ込む。なお、マニホールド流路11は、図2の左から3、4、7、8列目の圧力室10にインクを供給する。
さらに、マニホールドプレート25には、平面視で後述する4つのマニホールド流路(第2共通液室)12のうち、図2に示す最も左に形成されたマニホールド流路12と重なる領域に、マニホールド流路11の等幅領域11aと同じ幅で図5Aの上下方向に延び、図5Aの上方の端部が先鋭領域11bとほぼ同じの形状のダミーマニホールド流路(第1ダミー共通液室)51が形成されている。つまり、図8Aおよび8Bに示すように、4つのマニホールド流路(第2共通液室)12を、前記キャビティプレート21と平行な仮想の第1平面100に対して投影してなる4つの領域(第2領域)112のうち、最も左の1つは、前記ダミーマニホールド流路51を前記第1平面に対して投影してなる領域151のみと、部分的に重複する。このように、マニホールドプレート25には、インクの流れない1つのダミーマニホールド流路51とインクの流れる4つのマニホールド流路11が、図2の左から右に順に貫通孔として形成されている。いずれの貫通孔も、流路ユニット5を構成するプレートの積層方向(本体の厚み方向)に、ダンパプレート26(後述)のダンパ部(ダンパ室と薄肉部)との重なり領域を有している。また、マニホールドプレート25には、前記流路15、及び流路17の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。
ダンパプレート(第1平板)26の下面には、平面視でマニホールド流路11及びダミーマニホールド流路51に重なる部分に、それぞれ複数の凹部(第1ダンパ室、第1凹部)19、及び凹部(第1ダミーダンパ室、第1ダミー凹部)49が形成されている。そして、図4A及び4Cに示すように、ダンパプレート26の凹部19が形成されて厚みが薄くなった部分が薄肉部(第1薄肉膜)26aとなっている。また図4Bに示すように、凹部49が形成されて厚みが薄くなった部分が薄肉部(第1ダミー薄肉膜)26bとなっている。各凹部19、49は、図5Bに示すように、その上方に位置するマニホールド流路11やダミーマニホールド流路51とほぼ同じ形状とサイズを有している。薄肉部26aは、マニホールド流路11の下方の壁面となり、薄肉部26aの変形によりマニホールド流路11内の圧力波を減衰させる。さらに、ダンパプレート26には、図5Bに示すように、複数の凹部19及び凹部49を互いに連通させるとともにダンパプレート26の側面において外気に連通した通気孔8が形成されている。また、ダンパプレート26には、複数の流路15及び流路17の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。
ダンパプレート(第2平板)27の上面には、平面視でマニホールド流路12に重なる部分及び後述するダミーマニホールド流路52に重なる部分に、それぞれ凹部(第2ダンパ室、第2凹部)20及び凹部(第2ダミーダンパ室、第2ダミー凹部)48が形成されている。そして、図4A及び4Bに示すように、ダンパプレート26の凹部20が形成されて厚みが薄くなった部分が薄肉部(第2薄肉膜)27aとなっており、図4Cに示すように、凹部48が形成されて厚みが薄くなった部分が薄肉部(第2ダミー薄肉膜)27bとなっている。各凹部20、48は、図5Cに示すように、その下方に位置するマニホールド流路12やダミーマニホールド流路52とほぼ同じ形状とサイズを有している。薄肉部27aはマニホールド流路12の上方の壁面となっており、薄肉部27aの変形によりマニホールド流路12内の圧力波を減衰させる。また、ダンパプレート27には、前記流路15及び流路17の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。
そして、ダンパプレート26とダンパプレート27とが積層されることにより、互いに互いの凹部の開口が封止され、それぞれに形成されたダンパ部(ダンパ室と薄肉部)が統合されている。凹部19と凹部20との間、凹部20と凹部49との間、及び、凹部19と凹部48との間にはそれぞれ空間が形成され、これらの空間は、通気孔8を介して互いに連通するとともに外気に連通している。ここで、凹部19と凹部20とにより形成される複数の空間31が、本発明に係る第1ダンパ室と第2ダンパ室とが一体となった複数の統合ダンパ室であり、凹部20と凹部49とにより形成される空間32が本発明に係る第2ダンパ室と第1ダミーダンパ室とが一体となった統合ダンパ室であり、凹部19と凹部48とにより形成される空間33が本発明に係る第1ダンパ室と第2ダミーダンパ室とが一体となった統合ダンパ室である。つまり、前記統合ダンパ室(ダンパ)はそれぞれ、前記本体の厚み方向において、前記複数のマニホールド流路11、および後述する複数のマニホールド流路12の間に位置し、前記第1方向に延在している。
マニホールドプレート28には、紙送り方向(第1方向)に延在し、前記複数の圧力室(第2圧力室)10のそれぞれに連通するマニホールド流路(第2共通液室)12が、前記走査方向(第2方向)に4つ並んで形成されている。ここで、4つのマニホールド流路12のうち図2における右から3つのマニホールド流路12が、それぞれ、平面視で4つのマニホールド流路11のうち図2における左から3つのマニホールド流路11と重なる位置に形成されている。4つのマニホールド流路12のうち、図5Dの左側の2つにはインク供給口9aからインクが供給され、図5Dの右側の2つには、インク供給口9cからインクが供給される。各マニホールド流路12は、図5Dの上下方向にほぼ一定の幅で延びた等幅領域12aと、図5Dの上方の端部において等幅領域12aに連通し、インク流入口9a、9cから離れるほど(図5Dの上方ほど)幅が狭くなった先鋭領域12bとを有する。つまり、キャビティプレート21に平行で、マニホールドプレート28(マニホールド流路12)を含む平面を仮想したときに、この仮想平面内において、各マニホールド流路12は、前記紙送り方向と直交する方向の長さがほぼ等しい等幅領域12aと、前記紙送り方向の下流側先端部に形成され先細り形状をした先鋭領域12bとから構成されている。等幅領域12aと先鋭領域12bとは滑らかに連結されている。これにより、インク流入口9a、9cから流入したインクは、マニホールド流路12全体に確実に流れ込む。なお、マニホールド流路12は、図2の左から1、2、5、6列目の圧力室10にインクを供給する。
さらに、マニホールドプレート28には、平面視でマニホールド流路11のうち図2に示す最も右に形成されたマニホールド流路11と重なる領域に、マニホールド流路12の等幅領域12aと同じ幅で図5Dの上下方向に延び、図5Dの上方の端部が先鋭領域12bとほぼ同じの形状のダミーマニホールド(第2ダミー共通液室)52が形成されている。つまり、図8Aおよび8Bに示すように、4つのマニホールド流路(第1共通液室)11を前記第1平面100に対して投影してなる4つの領域(第1領域)111のうち、最も右の1つは、前記ダミーマニホールド流路52を前記第1平面100に対して投影してなる領域152のみと、部分的に重複する。このように、マニホールドプレート28には、インクの流れない1つのダミーマニホールド流路52とインクの流れる4つのマニホールド流路12とが、図2の右から左に順に貫通孔として形成されている。いずれの貫通孔も、流路ユニット5を構成するプレートの積層方向に、ダンパプレート26(前述)のダンパ部(ダンパ室と薄肉部)との重なり部分を有している。つまり、図8A〜8Cに示すように、前記複数の統合ダンパ室を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した複数の第3領域113はそれぞれ、複数のマニホールド流路(第1共通液室)11を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した複数の前記第1領域111と、複数の第マニホールド流路(2共通液室を)12を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した複数の前記第2領域112とが重複する複数の領域と、部分的に重複する。また、マニホールドプレート28には、前記流路15の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。
ここで、ダミーマニホールド流路51、52、凹部48、49が形成されていることによって、図2の流路ユニット5の左右両端部分の剛性を、その内側の部分の剛性に近づけ、後述する複数のノズル16におけるインクの噴射特性が均一化されている。つまり、ダミーマニホールド流路51は、図5Aに示すように、ダミーマニホールド51及び複数のマニホールド流路11からなる複数の列のうち、最も左側に位置する。また、ダミーマニホールド流路52は、図5Dに示すように、ダミーマニホールド流路52及び複数のマニホールド流路12からなる複数の列のうち、最も右側に位置する。図2及び図4Bに示すように、ダミーマニホールド流路51と重なるマニホールド流路12には、キャビティプレート21において、隣接する圧力室列(図2の右方向)に向かって延びる圧力室10が連通する。また、図2及び図4Cに示すように、ダミーマニホールド流路52と重なるマニホールド流路11には、キャビティプレート21において、隣接する圧力室列(図2の左方向)に向かって延びる圧力室10が連通している。プレート21〜30の積層方向に見ると、圧力室10は、その配設位置に関わらず、インクが供給される側の端部が、2つのマニホールド流路と2つのダンパ部に重なっている。一方、ノズル16に連通する側の端部は、ノズル16に連通する側で隣接する圧力室列に属する圧力室10のノズル16側の端部と対向している。本実施形態では、隣接するノズル列に属するノズル16は、図2に示すように、千鳥配列を形成している。これに対応して、1つのインク供給口を共有する2つのマニホールド流路から各圧力室10を経てノズル16に至る複数の個別インク流路において、各圧力室10からノズル16に至る複数の連通孔も、千鳥配列を形成している。以上のように、全ての圧力室10は、流路ユニット5中で同様の立体構造を有しており、その周囲の剛性はほぼ同じに構成されている。なお、インクの噴射特性とは、ノズル16からのインク滴の噴射速度、噴射されるインク滴の体積などを意味する。
カバープレート29には、前記流路15の一部を形成する複数の連通孔が形成されている。ノズルプレート30には、平面視で前記流路15に重なる位置に、複数のノズル16が形成されている。つまり、複数のノズル16は図2の上下方向に8列に配置されており、平面状のノズルプレート30の下面には複数のノズル16の吐出口が形成されている。複数のノズル16は、ノズルプレート30が合成樹脂材料から構成されている場合には、エキシマレーザ加工などにより形成することができる。また、ノズルプレート30が金属材料により構成されている場合には、プレスなどの方法により形成することができる。ここで、前述のインク供給口9a〜9dからはそれぞれブラック(K)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)のインクが供給される。図2の左から1列目及び2列目に形成されたノズル16からはブラックのインク、3列目及び4列目に形成されたノズル16からは、イエローのインク、5列目及び6列目に形成されたノズル16からは、シアンのインク、7列目及び8列目に形成されたノズル16からはマゼンタのインクがそれぞれ噴射される。
以上に示すように、マニホールド流路(第2共通液室)12は流路17、アパーチャ13及び連通孔14を介して圧力室(第2圧力室)10に連通し、さらに、その圧力室10は連通孔15を介して、図2の左から1列目、2列目、5列目及び6列目のいずれかに形成された複数のノズル16の吐出口(第2液滴吐出口)に連通している。また、マニホールド流路(第1共通液室)11は連通孔18、アパーチャ13及び連通孔14を介して圧力室(第1圧力室)10に連通し、さらに、その圧力室10は流路15を介して図2の左から3列目、4列目、7列目及び8列目のいずれかに形成された複数のノズル16の吐出口(第1液滴吐出口)に連通している。このように、流路ユニット5には、マニホールド流路11の出口(接続口)から圧力室10を経てノズル16に至る第1個別インク流路(第1個別液体流路)と、マニホールド流路12の出口(接続口)から圧力室10を経てノズル16に至る第2個別インク流路(第2個別液体流路)がそれぞれ複数形成されている。
ここで、マニホールド流路(第1共通液室)11、マニホールド流路(第2共通液室)12、統合ダンパ室(ダンパ)、および前記第2方向に隣接する2つの圧力室(第1圧力室、および第2圧力室)10を前記積層方向に見た場合の、前記第2方向に関する相対的な位置、および大きさについて説明する。まず、マニホールド流路11およびマニホールド流路12は、図8Aおよび図8Bに示すように、マニホールド流路11を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した第1領域111が、マニホールド流路12を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した第2領域112と部分的に重複するような、前記第2方向の位置関係を有している。つまり、マニホールド流路11は、前記積層方向において、マニホールド流路12と重なるように、前記第2方向の幅を有している。
さらに、図8A〜8Cに示すように、マニホールド流路11、マニホールド流路12、および前記統合ダンパ室は、前記第1領域111と前記第2領域112とが重複する領域が、前記統合ダンパ室を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した第3領域113と部分的に重複するような、前記第2方向の位置関係を有している。つまり、前記統合ダンパ室は、前記積層方向において、マニホールド流路11、およびマニホールド流路12のそれぞれと重なるように、前記第2方向の幅を有している。より詳しくは、前記第3領域113のほぼ全域は、前記第1領域111と前記第2領域112とが重複する領域の略全域と重複する位置関係を有している。
また、前記第1領域111、前記第2領域112、および前記第3領域113はいずれも、前記第1圧力室を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した領域114、および前記第2圧力室を前記第1平面100に対して前記積層方向に投影した領域115のそれぞれと重複する位置関係を有している。つまり、マニホールド流路11、マニホールド流路12、および前記統合ダンパ室はそれぞれ、前記積層方向において、前記第1圧力室列、および前記第2圧力室列のそれぞれと重なるように、前記第2方向の幅を有している。
なお、マニホールド流路11、マニホールド流路12、およびダンパ部はいずれも、それらの幅寸法が前記第1圧力室の長さ寸法よりも大きく、且つ前記第2圧力室の長さ寸法よりも大きい。さらに、マニホールド流路11、マニホールド流路12、およびダンパ部はいずれも、それらの幅寸法が前記第1圧力室の長さ寸法と第2圧力室の長さ寸法との和と略等しい。
流路ユニット5の上面には、流路ユニット5の上面に積層された5枚の圧電層43と、複数の圧電層43の間に交互に形成された個別電極41及び共通電極42とを有する圧電アクチュエータ6が形成されている。
複数の圧電層43のうち、最も下側に配置されているものは、複数の圧力室10にわたって、複数の圧力室10を覆うようにキャビティプレート21の上面に配置され、キャビティプレート21の上面に接合されている。図2に示すように、キャビティプレート21には、4つのインク供給口9a〜9dが下方端部に配列形成されており、圧電層43はこれらインク供給口9a〜9dを避けるように配置されている。それ以外の4枚の圧電層43は、この圧電層43の上に積層されている。圧電層43は、後述する圧電シートを所定の大きさに切断し、流路ユニット5の上に配置することにより形成される。圧電シートは、チタン酸鉛とグルコン酸鉛の固溶体であり、強誘電性を有するチタン酸グルコン酸鉛(PZT)を主成分とする圧電材料のグリーンシートを焼成することによって得られる。
個別電極41及び共通電極42は、積層された複数の圧電層43の間に交互に、平面視で、互いに図3の左右方向にずれ、両者が完全に重ならないように形成されている。また、最も下に配置されたものを除く4枚の圧電層43には、図4A〜4Cに示すように、平面視で個別電極41に重なり且つ共通電極42には重ならない領域に貫通穴43aが形成されている。また、平面視で共通電極42に重なり且つ個別電極41には重ならない領域に、貫通孔43bが形成されている。そして、貫通孔43a、43bの中には、それぞれ導電性材料44、45が充填されている。
圧電アクチュエータ6の上面には図示しないフレキシブルプリント基板(FPC)が配置されている。個別電極41は、導電性材料44及びFPCを介して図示しないドライバICに接続されており、ドライバICによってその電位が制御される。共通電極42は、導電性材料45及びFPCを介してドライバICに接続されており、ドライバICによって常にグランド電位に保持されている。
次に、圧電アクチュエータ6の駆動方法について説明する。ドライバICからFPC及び導電性材料44を介して、複数の個別電極41に選択的に所定の電位が付与されると、所定の電位が付与された個別電極41とグランド電位に保持された共通電極42との間に電位差が生じる。このとき、個別電極41と共通電極42との間に挟まれた圧電層43にその分極方向である厚み方向と平行な方向の電界が生じるため、圧電縦効果により圧電層43が厚み方向に伸びる。これにより、圧力室10内の容積が減少することから、圧力室10内のインクの圧力が増加して、圧力室10に連通するノズル16からインク滴が噴射される。なお、圧電アクチュエータ6は5枚の圧電層41を有しており、駆動時にはこれら5枚の圧電層43のうち、最も下に配置されているものを除く4枚がそれぞれが厚み方向に伸びるため、圧電アクチュエータ6全体の変形量は大きくなり、1回の駆動で圧力室10内のインクに大きな圧力を付与することが可能である。
このとき、圧電室10内の圧力が増加することによって、圧力室10内では圧力波が発生する。この圧力波の一部は、圧力室10からマニホールド流路11あるいはマニホールド流路12に伝播する。圧力波がマニホールド流路11に伝播した場合、ダンパプレート26の薄肉部26aが変形して、この圧力波を減衰させる。一方、圧力波がマニホールド流路12に伝播した場合、ダンパプレート27の薄肉部27aが変形して、この圧力波を減衰させる。
ここで、マニホールド流路11、12における圧力波の減衰効果は、マニホールド流路11、12の音響容量が大きいほど大きくなる。マニホールド流路11、12の音響容量は、マニホールド流路11、12の容積とインクの弾性係数による音響容量Cvと、ダンパの弾性変形による音響容量Cdとの和になるが、CvはCdに比べて非常に小さい値になるので、ここでは、音響容量Cdについてのみ考える。音響容量Cdは、[ld・Wd5(1−vd)]/[60Ed・td3]の式で表される。ここで、ldは薄肉部26a、27aの図2の上下方向に関する長さ、Wdは薄肉部26a、27aの幅(図2の左右方向に関する長さ)、tdは薄肉部26a、27aの厚さ、Edは薄肉部26a、27aの弾性係数、vdは薄肉部26a、27aのポアソン比である。
このように、マニホールド流路11、12の音響容量はWdの5乗に比例し、tdの3乗に反比例する。つまり、Wdを大きくする又はtdを小さくすることによって効率よくマニホールド流路11、12の音響容量を大きくすることができる。本実施の形態の場合、平面視でマニホールド流路11とマニホールド流路12とが重なるように配置されているため、マニホールド流路11とマニホールド流路12とが重なっている分だけ薄肉部26a、27aの幅Wdを大きくとることができる。したがって、マニホールド流路11、12の音響容量を大きくすることができ、マニホールド流路11、12において圧力波を効率よく減衰させることができる。
以上に説明した実施の形態によると、平面視でマニホールド流路12がマニホールド流路11に重なるように形成されているため、共に同じ平面上に並設される場合に比べて、薄肉部26a、27aの幅を大きくすることができる。したがって、マニホールド流路11、12の音響容量が大きくなり、マニホールド流路11、12内の圧力波を効率よく減衰させることができる。これにより、マニホールド流路11及びマニホールド流路12に伝播した圧力波がさらに他の圧力室10に伝播しにくくなりクロストークが抑制される。
また、ダンパプレート26、27に凹部19、20を形成することにより、薄肉部26a及び薄肉部27aが形成されるとともに、凹部19と凹部20との間の空間が薄肉部26a、27aが変形するための空間であるダンパ室となる。したがって、薄肉部26a、27aとダンパ室となる空間とを別々に形成する必要がなく、部品点数を減らすことができる。
また、ノズル16の吐出口(第1液滴吐出口、第2液滴吐出口)が全て平面状のノズルプレート30の下面に形成されている。つまり、部品点数としては1で済み、ノズル16は同一部材に形成されるので、相互の位置関係を高い加工精度で保つことができる。そのため、インクジェットヘッド3の低コスト化に寄与し、ノズル16においてインクの噴射特性が均一になる。
また、マニホールド流路11に連通する複数の圧力室10、及び、マニホールド流路12に連通する複数の圧力室10が全て図3の上下方向に関して同じ高さに形成されているため、全ての圧力室10周辺の剛性が均一になり、エネルギー付与機構を同一面上に配置できる。したがって、部品点数を減らすことができ、個別電極41と圧力室10との位置合わせ精度も向上する。さらに、これらの圧力室10に連通する複数のノズル16においてインクの噴射特性が均一になる。
また、図2に示すように、同色のインクを噴射するノズル16に連通している圧力室10は、マニホールド流路11及びマニホールド流路12のいずれか一方のみに連通しているため、同色のインクは同様の構造のインク流路を経てノズル16に至る。これにより、同色のインクを噴射するノズル16においてインクの噴射特性が均一になる。
なお、マニホールド流路11とマニホールド流路12とは、重なりを持つ関係上、プレートの積層方向で互いに異なる高さで位置している。そのため、圧力室10に至る流路長に差があり、それぞれのマニホールド流路に連通する圧力室10の間でインクの吐出特性に差が生じることがある。この場合、各マニホールド流路11、12に連通する圧力室10をそれぞれ1塊のグループとみなして駆動すればよい。また、高解像度化に対応するために、各マニホールド流路11、12毎に1つの色のインクを割り当てるのも、印字品質の向上に有効である。
また、ダミーマニホールド流路51、52、及び、凹部48、49が形成されていることにより、図2の流路ユニット5の左右両端と中央部とで、圧力波に対する減衰特性がほぼ同じになり、ノズル16からのインクの噴射特性が均一になる。
また、図5Bに示すように、凹部19と凹部20、凹部19と凹部48及び凹部20と凹部49により形成される空間は、通気孔8を介して外気に連通しているため、流路ユニット5の製造時の加熱などにより、これらの空間内の空気が膨張して、ダンパプレート26、27間の接着不良が生じたり、さらには、流路ユニット5が破損してしまうのを防止することができる。
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた、変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
一変形例では、図6に示すように、マニホールドプレート25とマニホールドプレート28との間に、合成樹脂材料からなる2枚の合成樹脂プレート71、及び73が配置されている。さらに、合成樹脂プレート71と合成樹脂プレート73との間には、平面視でマニホールド流路11及びマニホールド流路12に重なる領域に貫通穴74が形成されたスペーサプレート72が配置されている(変形例1)。この場合でも、合成樹脂プレート71の平面視で貫通穴74に対向する部分(第1薄肉膜)の変形によってマニホールド流路11内の圧力波を減衰させ、合成樹脂プレート73の平面視で貫通穴74に重なる部分(第2薄肉膜)の変形によってマニホールド流路12内の圧力波を減衰させることができる。また、この場合には、合成樹脂プレート71と73との間に、スペーサプレート72を配置することにより、合成樹脂プレート71及び73が変形するための空間(統合ダンパ室)を正確な間隙を有して容易に形成することができる。さらに、ダンパ部の圧力波に対する減衰力が均一になる。なお、合成樹脂プレート71、73に用いられる合成樹脂としては、耐ガス透過性を有するか、すくなくともマニホールド流路11、12に対向する領域に耐ガス透過性処理が施されているとよい。
別の一変形例では、図7Aに示すように、マニホールドプレート85のマニホールド流路11の先鋭領域11bにマニホールド流路11の延在方向に隣接する位置にダミーマニホールド流路(第3ダミー共通液室)91が形成されている。また、図7Dに示すように、マニホールドプレート88のマニホールド流路12の先鋭領域12bにマニホールド流路12の延在方向に隣接する位置にダミーマニホールド流路(第4ダミー共通液室)96が形成されている(変形例2)。このとき、マニホールド流路11の先鋭領域11bの幅とダミーマニホールド流路91の幅との合計が、マニホールド流路11の等幅領域11aの幅と同じ長さになっており、マニホールド流路12の先鋭領域12bの幅とダミーマニホールド流路96の幅との合計が、マニホールド流路12の等幅領域12aの幅と同じ長さになっている。
さらに、図7Aに示すように、マニホールドプレート85にはマニホールド流路11とダミーマニホールド流路91とを合わせたものとほぼ同じ略矩形の平面形状を有するダミーマニホールド流路(第1ダミー共通液室)92が形成されている。そして、図7Bに示すように、ダンパプレート86の平面視でダミーマニホールド92に重なる位置には、ダミーマニホールド流路92と同様の略矩形の平面形状を有する凹部93が形成されている。一方、マニホールドプレート88には、図7Dに示すように、マニホールド流路12とダミーマニホールド流路96とを合わせたものとほぼ同じ略矩形の平面形状を有するダミーマニホールド(第2ダミー共通液室)97が形成されている。そして、図7Cに示すように、ダンパプレート87の平面視でダミーマニホールド97に重なる位置には、ダミーマニホールド流路97と同様の略矩形の平面形状を有する凹部94が形成されている。
この場合、ダミーマニホールド流路91、96が形成されていることにより、インク供給口9a〜9dと離れた先鋭領域11b、12b側の位置にある圧力室10(図2参照)周辺の剛性が他の圧力室10周辺の剛性とほぼ同じになるので、複数の圧力室10に連通するノズル16(図2参照)においてインクの噴射特性が均一になる。なお、この場合も、ダンパプレート86とダンパプレート87とが積層されたときに、凹部19、20、93及び94によって形成される空間は、ダンパプレート86に形成された通気孔8を介して外気に連通しているため、製造時の加熱などによりこれらの空間内の空気が膨張して生じる接着不良や、流路ユニットの破損を防止することができる。
以上説明した実施形態では、圧電アクチュエータ6は、圧電縦効果を利用したアクチュエータであったが、これに限定するものではない。例えば、圧電横効果を利用し、振動板と組み合わせたユニモルフ型のアクチュエータであってもよい。この場合、振動板が導電体であれば、圧電層を挟んで対向配置された個別電極とで一対の電極を構成する。また、振動板が絶縁体であれば、この上に共通電極を設ければよい。また、圧電層の表面に一対の電極を圧力室毎に形成し、これを複数積層したアクチュエータとしてもよい。この場合、電界と分極の方向が、交差するように構成することで、すべり変形を起こす。
以上説明した実施形態では、エネルギー付与機構として、圧電アクチュエータを利用したが、これに限定するものではない。例えば、エネルギー付与機構として、圧力室内に駆動信号によりジュール熱を発生する抵抗線を設けてもよい。この場合、圧力室のインクに熱を加えて気化させることにより気泡を発生させ、気泡の圧力によってインクを噴射させることができる。
また、ダンパ室には、気体の代わりに、薄肉部を浸食したり変質したりしなければ、液体が封入してあってもよい。さらに、求められるダンパ性能にもよるが、内部空孔を有する多孔質性の樹脂、例えばスポンジ部材が封入してあってもよい。
本実施の形態では、本発明をインクジェットヘッドに適用した一例について説明したが、このほか、試薬、生体溶液、配線材料溶液、電子材料溶液、冷媒用、燃料用などインク以外の液体を噴射する液滴噴射装置に適用することも可能である。
本発明の実施の形態に係るインクジェットプリンタの概略斜視図である。
図1のインクジェットヘッドの平面図である。
図2のIII−III線断面図である。
図3のインクジェットヘッドの一部を拡大した図であり、図4Aは中央部、図4Bは左端部、図4Cは右端部をそれぞれ拡大した図である。
図3の2枚のマニホールドプレート及び2枚のダンパプレートの平面図である。
変形例1における図4A相当の断面図である。
変形例2における図5A〜5D相当の平面図である。
本発明の実施形態に係る第1共通液室、第2共通液室、第1圧力室、第2圧力室、および統合ダンパ室をそれぞれ、装置本体の厚み方向に投影した図である。
符号の説明
3 インクジェットヘッド
10 圧力室
11 マニホールド流路
12 マニホールド流路
19 凹部
20 凹部
26a、26b 薄肉部
27a、27b 薄肉部
48、49 凹部
51、52 ダミーマニホールド流路
71、73 合成樹脂プレート
72 スペーサプレート
91、96 ダミーマニホールド流路