JP4931305B2 - マグネットユニット - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気バネ機構として用いられるマグネットユニットに関し、例えば、自動車、電車、船舶などの乗物のシートに用いられるサスペンションユニットやエンジンマウント等における除振構造に組み込むことが可能なマグネットユニットに関する。
【0002】
【従来の技術】
剛性を確保するために、内部減衰の少ない材料で構成されることが多い機械や構造物の振動・騒音対策として、様々な制振材、制振器、制御方法が提案されている。
【0003】
特に、乗物については高速化が進み、人体の振動暴露による肉体や神経系の損傷が問題とされている。これらは、疲労、頭痛、肩こり、腰痛、視力低下などの症状として表れる。通常、振動絶縁については、金属バネ、空気バネ、ゴム、粘弾性材料、ダンパといったバネと減衰材を最適に組み合わせて用いるが、この組合せは、動倍率と損失係数のように背反関係にあることが多い。すなわち、低周波特性を改善するために動倍率を小さくすれば、損失係数の小さい硬いバネになり高周波特性が悪くなる。高周波特性を改善するために損失係数を上げれば、減衰材に近く動倍率の大きい柔らかいバネになり、低周波特性が悪くなる。そのため、動吸振器を含めた受動制振装置や準能動・能動制御により振動を抑制する試みが数多くなされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
このような中で、近年、減衰装置として磁気バネ機構を使用し、これに、金属バネやゴム等の弾性部材や緩衝部材を組み合わせることにより、全体のバネ定数を擬似的に略0に設定できる除振構造が知られており、本出願人も種々の磁気バネ機構及びこれを利用した除振構造を提案している。
【0005】
磁気バネ機構は、入力振動によって生じる固定側磁石と可動側磁石の相対変位に伴う磁界の変化を利用して減衰特性を生じさせるものであるが、従来提案されている磁気バネ機構においては、固定側磁石又は可動側磁石は、それらを保持する固定側保持部又は可動側保持部に対して接着剤により固着されている。
【0006】
従って、磁気バネ機構を製造するにあたっては、いずれにしても、各磁石を保持部に接着する接着工程が必須となる。接着剤により固定すると、接着剤が硬化するまで少なくとも約1日は放置する必要があり、製造効率の点で問題があった。また、磁気バネ機構が備えるバネ特性(バネ定数)や減衰力を調整するには、従来、使用する永久磁石の磁力、大きさ、厚さ、磁極数等によって決まってしまい、その他の手段により、これらを調整する手段が提案されていない。特に、本発明においては、固定側磁石又は可動側磁石を接着剤により固定するものではないため、バネ定数や減衰力の調整を行うに当たって、各磁石を取り外して、他の磁石と交換することが容易ではない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、接着工程を不要とし、製造工程を簡素化して製造効率を向上させることができる磁気バネ機構として用いられるマグネットユニットを提供することを課題とする。また、本発明は、製造効率を向上させることができることに加え、磁石自体を交換することなく、磁石以外の他の構成部材の調整によって、バネ定数や減衰力を調整することができるマグネットユニットを提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明では、固定側磁石を保持する固定側保持部を有する固定部と、可動側磁石を保持する可動側保持部を有する可動部とを備え、前記可動部が、互いに離間して対向配置される2個一対の前記固定部間に相対移動可能に設けられるマグネットユニットであって、前記固定側保持部及び可動側保持部が非磁性材料から形成され、前記固定側磁石と可動側磁石のいずれか少なくとも一方が、非磁性材料からなる固定側保持部又は可動側保持部の成形時に一体的に組み込まれた磁性材料を、一体的に組み込まれた状態で着磁したものであり、かつ、前記固定部を構成する前記固定側磁石は、異極同士を隣接させた2極磁石として構成され、前記固定側磁石及び前記固定側保持部の外面に、少なくとも一部がヨーク部として機能する外枠部が積層され、前記可動部との対向面側において隣接する前記固定側磁石同士間で漏れ磁束を生じるようにした構造であることを特徴とするマグネットユニットを提供する。
請求項2記載の本発明では、前記固定側保持部の厚みと略均一にするため、前記固定側磁石と前記外枠部との間に、磁性材料からなる厚み調整板が積層されていることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニットを提供する。
請求項3記載の本発明では、前記外枠部として、厚さ、大きさ、配設枚数のいずれか少なくとも一つの要素を異ならせることにより、漏れ磁束量を変化させ、固定側磁石の可動側磁石に対する磁力を調整可能であることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニットを提供する。
請求項4記載の本発明では、前記可動部と固定部のいずれか少なくとも一方に、相対移動時に相手方に摺接する摺動部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニットを提供する。
請求項5記載の本発明では、前記摺動部材が磁性材料からなり、該磁性材料の形状や大きさによって、前記可動側磁石及び固定側磁石の磁界により作られる磁束を制御し、減衰力を調整可能である請求項4記載のマグネットユニットを提供する。
請求項6記載の本発明では、前記摺動部材として、非磁性材料か磁性材料かを選択することによって減衰力を調整可能である請求項4記載のマグネットユニットを提供する。
請求項7記載の本発明では、前記固定部を構成する前記固定側保持部は、非磁性材料から略コ字状に形成された2個一対からなり、その開口端側同士を対向させて配置されると共に、それぞれの凹部に前記固定側磁石を異極同士が隣接するように配置し、この2個の固定側磁石により前記2極磁石が構成され、前記可動部との対向面側における隣接する前記固定側磁石同士間での漏れ磁束が、隣接する前記固定側磁石同士及び固定側保持部同士の配設位置の固定に利用された構造である請求項1記載のマグネットユニットを提供する。
請求項8記載の本発明では、前記可動部が、前記2個一対の固定部の対向面の面方向に沿って、かつ互いに略直交する2方向に相対移動可能な2自由度系の磁気バネ機構であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のマグネットユニットを提供する。
請求項9記載の本発明では、3個以上の前記固定部が、それぞれが対向するように離間して配置され、隣接する2個一対の固定部間に前記可動部が配置され、各可動部が、隣接する2個一対の固定部の対向面の面方向に沿って、かつ互いに略直交する2方向に相対移動可能な2自由度系の磁気バネ機構であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のマグネットユニットを提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づき本発明をさらに詳細に説明する。図1は、本発明の一の実施形態にかかるマグネットユニット10を示す分解斜視図であり、この図に示したように、マグネットユニット10は、固定部20と可動部30とを有して構成される。
【0010】
固定部20は、本実施形態では2個一対として用いられており、それらが所定間隔をおいて対面するように離間して配置されている。各固定部20は、それぞれ、2つの固定側保持部21,22を有し、この固定側保持部21,22のそれぞれに固定側磁石23,24が一体的に保持されている。
【0011】
2つの固定側保持部21,22は、略コ字状に形成され、凹部21a,22aを有する開口端側を対向させて図1において上下方向に配置し、ピン部材40により連結される。そして、この凹部21a,22aのそれぞれに、固定側保持部21,22の厚み方向に異なる磁極を有するように固定側磁石23,24が配置されている。この際、上側に配置される固定側磁石23と下側に配置される固定側磁石24とは、ほとんどクリアランスを生じさせることなく配設され、両者間に生じる2極磁石特有の漏れ磁束により、上下方向に隣接する両者の配設位置が確実に固定される。
【0012】
固定側磁石23,24をこの凹部21a,22a内に配置する手段として、本発明では、接着剤を用いることなく保持させたことを特徴とするものである。固定側保持部21,22は、非磁性材料である合成樹脂材料から形成される。従って、固定側磁石23,24を凹部21a,22a内に、接着剤を用いることなく保持させる手段としては、次のような手段を用いることが好ましい。
【0013】
まず、固定側保持部21,22を成形する金型内に、所望の大きさ、形状の磁性材料を挿入し、インサート成形により、固定側保持部21,22の凹部21a,22a内に磁性材料がはめ込まれた状態で一体的に成形し、その後、この磁性材料を、例えば、固定側保持部21,22の厚み方向に着磁して固定側磁石23,24とする手段が挙げられる。
【0014】
また、凹部21a,22aを形成可能な形状の金型を用いて、固定側保持部21,22を成形する工程において、冷却して固化する前の所定のタイミングで、所望の大きさ、形状の磁性材料を、凹部21a,22aが形成されている部位に圧入して、さらに合成樹脂材料を固化させる手段を採用することもできる。合成樹脂材料の固化の進行に伴う熱収縮により、圧入した磁性材料が、凹部21a,22a内に確実に保持されることになる。その後は、上記と同様、例えばその厚み方向に着磁して固定側磁石23,24を形成する。なお、上記した例では、非磁性材料として合成樹脂材料を用いているが、アルミニウム等の非磁性の金属を用いることもできる。この場合には、鋳造の際に磁石材料を一体的に組み込むことにより、接着剤を用いることなく成形することもできるし、また、材料の熱収縮を利用して仮固定した後、かしめ等の塑性変形を利用した手段により、さらに固着力を大きくすることができ、これにより磁石材料を接着剤を用いることなく確実に一体化することができる。
【0015】
図1に示した態様では、固定側磁石23,24に対して磁性材料からなる鉄板などの厚み調整板23a,24aが積層され、この厚み調整板23a,24aも固定側磁石23,24と同様に固定側保持部21,22に接着剤を用いることなく一体的に保持されている。これは、上記した固定側保持部21,22の各成形手段において、固定側磁石23,24を形成する磁性材料を装填する際に、厚み調整板23a,24aを該磁性材料に積層して装填し、一体的に成形したものである。厚み調整板23a,24aは、固定側磁石23,24として厚みの薄いものを採用する場合であっても、固定側保持部21,22を成形する金型を変更することなく、固定側磁石23,24に厚み調整板23a,24aを積層した状態の厚みを、固定側保持部21,22の厚みと略均一にさせ、固定側保持部21,22の表面及び裏面に対してほぼ面一にするために設けたものである。また、厚み調整板23a,24aは磁性材料からなるため磁気回路を形成するヨークとして機能する。もちろん、固定側磁石23,24のみで、その厚みが固定側保持部21,22とほぼ同じである場合には、厚み調整板23a,24aを配設する必要はない。
【0016】
固定側磁石23,24は、上記したように、それぞれ厚み方向に着磁されると共に、異極同士が図1において上下方向に隣接するように固定側保持部21,22に保持されて配設される。また、対向して配置された2個一対の固定部20,20は、上側の固定側磁石23,23同士、及び下側の固定側磁石24,24同士で、同極面が対向するように配置される。固定側磁石23,24の着磁方向や磁極数等は、これに限定されるものではなく、また、後述する可動側磁石32の着磁方向や磁極数等によっても任意に設定されるものであるが、いずれにしても、本実施形態の場合には、可動側磁石32を、固定側磁石23,24の対向面の面方向に沿って、かつ互いに直交する2方向に、すなわち、図1において上下方向と前後方向に付勢する磁界を形成できればよい。この結果、固定側磁石23,24と可動側磁石32との上下方向又は前後方向の相対位置の変化に伴い、吸引力の作用が大きくなったり、反発力の作用が大きくなったりして、両者により構成される磁気バネの動的バネ定数が変化する。
【0017】
厚み調整板23a,24a(厚み調整板23a,24aを配設しない構造の場合には固定側磁石23,24)及び固定側保持部21,22の外面には、鉄板等の板状の磁性材料からなる外枠部25が配設されている。外枠部25は、固定側保持部21,22に対して、ねじ止め等により固定されるが、厚み調整板23a,24a(厚み調整板23a,24aを配設しない構造の場合には固定側磁石23,24)上に積層される部位は、ヨーク部25aとして機能し、固定側磁石23,24から外部に漏れる漏れ磁束量を低減している。図1に示した態様では、このヨーク部25aを、外枠部25の他の部位よりも厚く形成しているが、ヨーク部25aの厚みを増すことにより漏れ磁束量をより低減することができる。従って、ヨーク部25aの厚みが異なる外枠部25を取り付けることにより、漏れ磁束量を任意に変化させ、固定側磁石23,24の可動側磁石32に及ぼす磁力を調整することができ、異なるバネ特性(バネ定数)を有するマグネットユニットを容易に形成することができる。なお、ヨーク部25aは、外枠部25の本体部分とは別の板状部材から形成しておき、該本体部分に磁力を利用して、あるいは貼着するなどの手段により配設することもできる(図5参照)。
【0018】
2個一対の固定部20,20は、所定間隔をおいて、上記したように同極を対面させた状態で、下部プレート50及び上部プレート51間に、四隅にピン部材40を挿通することにより、固定配置される。そして、可動部30がこの固定部20,20間に配置される。この際の固定部20,20間の間隔は、可動部30に形成した摺動部材保持凹部31bに回転自由に支持される摺動部材35が摺接可能な程度に設定され、固定側磁石23,24と可動側磁石32との磁石間距離が小さいほど好ましい。これにより、固定側磁石23,24と可動側磁石32の磁力を有効に利用し、両者間の静磁エネルギー変換効率を上げることができる。
【0019】
可動部30は、可動側保持部31と可動側磁石32とを有し、振動や衝撃等によってその位置が相対的に変位する負荷質量体等と直接又は間接に連結される。可動側保持部31は非磁性材料である合成樹脂材料、あるいはアルミニウム等の非磁性の金属から形成される。可動側保持部31の形状は任意であるが、本実施形態では、略中央部に可動側磁石32を保持する略方形に開口された磁石保持孔31aを有し、全体として図1において前後方向に長い長尺部材から形成され、その両端には、負荷質量体等を直接又は間接に支持するためのボルト部材33,34が一体的に取り付けられている。なお、可動側保持部31は、ボルト部材33,34を固定部20,20よりも前後方向に突出させることができる程度の長さを有している。もちろん、図1に示した可動部30の構成はあくまで一例であり、ボルト部材33,34を可動側保持部31のいずれか一方のみに設けることもできるし、その場合に、ボルト部材を有する端部のみを固定部20,20間の前後いずれかに突出させて配設する構成等とすることもできる。また、下部プレート50及び上部プレート51に形成した開口部のいずれか少なくとも一方から、上記のボルト部材33,34とは別途に、あるいは上記のボルト部材33,34と共に、負荷質量体等を支持する他のボルト部材を突出させる構造とすることもできる。
【0020】
可動側磁石32は、図1において上下方向に着磁し、上面側にN極を、下面側にS極を位置させているが、これは、上下合わせて2極磁石を構成させた本実施形態の固定側磁石23,24の磁極配置に対して、所望のバネ定数を得るための好ましい態様の一つとして示したものであり、着磁方向や磁極数等は、上記したように限定されるものではない。
【0021】
磁石保持孔31aに装填される可動側磁石32と可動側保持部31の厚みは任意であり、可動側磁石32及び固定側磁石23,24のそれぞれの磁界の強さ等との関係から任意に設定されるが、いずれにしても、上記したように、対向配置された2個一対の固定部20,20間において、各固定側磁石23,24と可動側磁石32との間に僅かな隙間を有する程度となるように設定される。
【0022】
この僅かな隙間を維持した状態で、2個一対の固定部20,20間の対向面の面方向に沿って可動部30を上下方向及び前後方向に移動可能とするため、可動側保持部31における磁石保持孔31aの周縁部には、摺動部材保持凹部31bが形成され、この摺動部材保持凹部31bに摺動部材35が支持されている。この摺動部材35は、本実施形態では球状に形成され、摺動部材保持凹部31b内で回転自由に支持されており、その表面が固定側保持部21,22の対向面に転がりながら摺接し得るように設定されている。摺動部材35を配設することにより、例えば、可動側磁石32よりも可動側保持部31自体の厚みを厚く成形して、可動側保持部31と固定側保持部21,22とを直接面接触させつつ摺動させる場合と比較して摩擦抵抗を小さくすることができる。なお、摺動部材35としては、可動側保持部31と固定側保持部21,22とが直接接した場合よりも摺動摩擦を小さくできるものであればよく、上記した球状のものに限定されず、板状の部材であってもよい。
【0023】
摺動部材35は、非磁性材料から形成した場合には、可動側保持部31と固定側保持部21,22とを直接面接触させる場合よりも摩擦抵抗を小さくする機能を発揮するのみであるが、磁性材料から形成した場合には、可動側磁石32又は固定側磁石23,24の磁界の影響によって、抵抗が大きくなり減衰比を上げることができる。特に、磁性材料からなる摺動部材35を用いた場合には、その形状の選択により、例えば、球状のものか、あるいは板状のものかによって、可動側磁石32又は固定側磁石23,24の磁界により作られる磁束を制御(渦電流あるいは磁束の集約)することができ、すなわち、例えば、球状のものであれば磁束を収束し、板状のものであれば磁束を発散させるレンズ効果によって空隙間の磁界を変動させることができることから、摺動部材35の摩擦を容易に変化させることが可能となる。この結果、制御対象となる負荷質量体等の重量や除振しようとする振動や衝撃の大きさ等に応じて、非磁性材料からなるものと磁性材料からなるものとを選択して用いることができると共に、磁性材料からなるものを選択した場合には、さらにその形状や大きさ等によっても種々の摩擦特性(減衰力)を有する構成とすることができる。
【0024】
ここで、非磁性材料である合成樹脂材料等からなる可動側保持部31と可動側磁石32とは、接着剤を用いることなく、一体的に形成される。その手段は、上記した固定側保持部21,22及び固定側磁石23,24を一体的に形成する場合と同様に、インサート成形により磁石材料を一体的に形成することもできるし、可動側保持部31を成形する際の冷却固化時の熱収縮を利用して磁石材料を一体化することもできる。磁石材料を一体化した後、上記と同様に、着磁処理を施し、可動側磁石32を形成する。また、本実施形態では、可動側保持部31の両端部に配設されたボルト部材33,34もそれらの基部(図示せず)が、可動側保持部31の両端部に埋設されるように、可動側磁石32を一体化する際に、同時に一体化するよう成形される。これにより、製造工程が簡素化され、製造効率を向上させることができる。なお、本実施形態では、固定側磁石23,24及び可動側磁石32のいずれも、固定側保持部21,22及び可動側保持部31のそれぞれに、接着工程を経ることなく固着させているが、両者とも接着剤を用いて固着していた従来の手法と比較すれば、いずれか少なくとも一方を上記の成形時に一体化する手段を用いて製造することによって、製造効率を向上させることができる。
【0025】
本実施形態によれば、可動部30が、固定部20,20間で、その対向面の面方向に沿って上下方向だけでなく、前後方向にも移動可能に設けられている。すなわち、固定側磁石23,24の対向面に沿った方向のうち、互いに直交する2方向に移動可能な2自由度系でありながら、極めて簡易な構造で、いずれの方向に相対変位した場合でも、固定側磁石23,24の可動側磁石32に対する吸引力又は反発力の作用を変化させ、両者により構成される磁気バネの動的バネ定数を変化させることができる。
【0026】
図2は、可動部30を、固定部20,20間で対向面の面方向に沿って上下方向に変位させた場合の荷重−変位特性を示す図である。なお、摺動部材35としては非磁性材料からなるものを用い、該摺動部材35によって、各固定側磁石23,24と可動側磁石32の各対向面間の距離を1mmで維持しつつ摺接可能に設定した。図2において、荷重の正の値は、固定側磁石23,24により可動側磁石32が上方向に力を受けていることを示し、負の値は、固定側磁石23,24により可動側磁石32が下方向に力を受けていることを示している。また、変位量0mmの位置が、可動側磁石32が上側に配置された固定側磁石23と下側に配置された固定側磁石24との境界付近で対峙する位置であり、それよりも上方の位置を負の値で、下方の位置を正の値で示している。
【0027】
この図から明らかなように、可動部30を、固定部20,20間で上下方向に変位させることにより、曲線の傾きで表されるバネ定数の大きさ及び正負符号が変化する全体として非線形のバネ定数が得られることが分かる。従って、例えば、変位量−10mmから変位量+10mmの範囲に現れる部分的に線形の負のバネ定数の範囲を利用し、これと傾きが同じ線形の正のバネ定数値を有する金属バネ(図示せず)を、可動部30に連結して配置することにより、この変位量範囲において、両者の重畳したバネ定数が略0の除振構造を提供することができる。
【0028】
図3及び図4は、本発明の他の実施形態にかかるマグネットユニット10を示す図である。なお、上記実施形態と同じ部材については同一の符号で示す。本実施形態は、上記実施形態よりも固定側磁石23’,24’の磁力を弱くしたものを採用して、軽量化を図った点に特徴を有し、上記実施形態と同様の製造方法を採用することができるが、固定側磁石23’,24’として上記実施形態のものよりも厚みが薄く小さいものを採用している。このため、固定側保持部21,22に形成される凹部21a,22aも固定側磁石23’,24’に対応して、上記実施形態よりも厚みが薄く小さくなっている。
【0029】
また、外枠部25’としては、均一な厚みであるが、固定側保持部21,22に形成された凹部21a,22aの厚みが薄くなっており、該固定側保持部21,22の幅方向略中央部が窪んだ形状となっているため、この形状に合わせて、該外枠部25’の幅方向略中央部が固定側磁石23’,24’に接する方向に突出するように折り曲げ形成されている。上記実施形態の外枠部25のように、他の部位よりも厚いヨーク部25aを有していないが、固定側磁石23’,24’の磁力が低下したことにより、外枠部25’の厚みが均一であっても、外部に漏れる漏れ磁束量を低減する機能を十分に果たすと共に、軽量化を図ることができる。
【0030】
さらに、本実施形態では、固定側保持部21,22の内面であって、可動部30の摺動部材35が摺動する相手方の面に、ステンレス製の薄板部材60を貼着やはめ合わせなどにより取り付けている。これにより、上下に隣接する固定側保持部21,22間の境界(段差)を解消すると共に、合成樹脂から形成される固定側保持部21,22に摺動部材35が直接接した場合よりも摩擦抵抗を低減することができる。このように摩擦抵抗を低減するためにステンレス製の薄板部材60を取り付ける構成については、上記した実施形態で採用することもできることはもちろんである。
【0031】
また、図5に示したさらに他の実施形態のように、両サイドに配置される固定部20,20間に、さらにほぼ同様の構成の固定部(中央固定部)20’をそれぞれに対向するように設け、一方のサイドに配置される固定部20と中央固定部20’との間、及び他方のサイドに配置される固定部20と中央固定部20’との間のそれぞれに、可動部30を設ける構成とすることもできる。但し、中央固定部20’は、各可動部30の摺動部材35との摩擦を低減するため、その両面に、ステンレス製の薄板部材60を貼着やはめ合わせなどにより取り付けている。このような構成とすることにより、各可動側磁石と各固定側磁石とにより構成される磁気バネのバネ定数を、上記各実施形態のように可動部30が一つしか配設されていない場合と異なる特性とすることができる。なお、固定部及び可動部の配設数をさらに増加させた構成とすることももちろん可能である。
【0032】
なお、上記した各実施形態では、2自由度の磁気バネ機構を構成するマグネットユニット10を例にとり説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、1自由度あるいは3自由度以上の磁気バネ機構においても、固定側磁石及び/又は可動側磁石をそれらの保持部に一体的に組み込む際に適用可能である。また、上記した説明では外枠部25,25’の厚さの調整によって漏れ磁束量を変化させる場合について説明しているが、外枠部25,25’自体の厚みを変更する場合のほか、外枠部25,25’の配設枚数(積層枚数)や大きさ(面積)を変更することによっても調整することができる。
【0033】
【発明の効果】
本発明の磁気バネ機構を構成するマグネットユニットは、固定側保持部及び可動側保持部が合成樹脂材料等の非磁性材料から形成され、固定側磁石と可動側磁石のいずれか少なくとも一方が、合成樹脂材料等の非磁性材料からなる固定側保持部又は可動側保持部の成形時に一体的に組み込まれた磁性材料から形成されている。また、本発明の製造方法は、合成樹脂材料等の非磁性材料からなる固定側保持部又は可動側保持部の成形時に磁性材料を一体的に組み込む工程を有することを特徴としている。従って、従来のように、固定側磁石と可動側磁石を接着剤を用いて固着する必要がなく、製造工程を簡素化し、製造効率を向上させることができる。
【0034】
また、2個一対の固定部を離間して対向配置すると共に、この2個一対の固定部間に、可動部を、対向面の面方向に沿って、かつ互いに略直交する2方向に相対移動可能に設けることにより、簡易な構成の2自由度系の磁気バネ機構を提供することができる。
また、固定側磁石に積層される外枠部の厚さ、大きさ、配設枚数のいずれか少なくとも一つの要素を異ならせることにより、漏れ磁束量を変化させ、固定側磁石の可動側磁石に対する磁力を容易に調整可能とし、これによりバネ特性を任意に調整可能なマグネットユニットを提供することができる。また、可動部と固定部のいずれか少なくとも一方に設けられる摺動部材として、磁性材料から形成されたもの又は非磁性材料から形成されたものを選択して設けることにより、減衰力を容易に調整可能なマグネットユニットを提供することができる。さらに、固定部及び可動部の配設数の調整によって、バネ特性を任意に調整可能なマグネットユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一の実施形態にかかるマグネットユニットを示す分解斜視図である。
【図2】図2は、上記実施形態にかかるマグネットユニットの荷重−変位特性を示す図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施形態にかかるマグネットユニットを示す分解斜視図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施形態にかかるマグネットユニットを示す外観斜視図である。
【図5】図5は、本発明のさらに他の実施形態にかかるマグネットユニットを示す分解斜視図である。
【符号の説明】
10 マグネットユニット
20 固定部
21,22 固定側保持部
23,24 固定側磁石
23’,24’ 固定側磁石
23a,24a 厚み調整板
25 外枠部
25’ 外枠部
25a ヨーク部
30 可動部
31 可動側保持部
32 可動側磁石
35 摺動部材
Claims (9)
- 固定側磁石を保持する固定側保持部を有する固定部と、可動側磁石を保持する可動側保持部を有する可動部とを備え、前記可動部が、互いに離間して対向配置される2個一対の前記固定部間に相対移動可能に設けられるマグネットユニットであって、
前記固定側保持部及び可動側保持部が非磁性材料から形成され、前記固定側磁石と可動側磁石のいずれか少なくとも一方が、非磁性材料からなる固定側保持部又は可動側保持部の成形時に一体的に組み込まれた磁性材料を、一体的に組み込まれた状態で着磁したものであり、かつ、
前記固定部を構成する前記固定側磁石は、2個の磁石の異極同士を隣接させた2極磁石として構成され、前記固定側磁石及び前記固定側保持部の外面に、少なくとも一部がヨーク部として機能する外枠部が積層され、前記可動部との対向面側において隣接する前記固定側磁石同士間で漏れ磁束が生じるようにした構造であることを特徴とするマグネットユニット。 - 前記固定側保持部の厚みと略均一にするため、前記固定側磁石と前記外枠部との間に、磁性材料からなる厚み調整板が積層されていることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニット。
- 前記外枠部として、厚さ、大きさ、配設枚数のいずれか少なくとも一つの要素を異ならせることにより、漏れ磁束量を変化させ、固定側磁石の可動側磁石に対する磁力を調整可能であることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニット。
- 前記可動部と固定部のいずれか少なくとも一方に、相対移動時に相手方に摺接する摺動部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載のマグネットユニット。
- 前記摺動部材が磁性材料からなり、該磁性材料の形状や大きさによって、前記可動側磁石及び固定側磁石の磁界により作られる磁束を制御し、減衰力を調整可能である請求項4記載のマグネットユニット。
- 前記摺動部材として、非磁性材料か磁性材料かを選択することによって減衰力を調整可能である請求項4記載のマグネットユニット。
- 前記固定部を構成する前記固定側保持部は、非磁性材料から略コ字状に形成された2個一対からなり、その開口端側同士を対向させて配置されると共に、それぞれの凹部に前記固定側磁石を異極同士が隣接するように配置し、この2個の固定側磁石により前記2極磁石が構成され、前記可動部との対向面側における隣接する前記固定側磁石同士間での漏れ磁束が、隣接する前記固定側磁石同士及び固定側保持部同士の配設位置の固定に利用された構造である請求項1記載のマグネットユニット。
- 前記可動部が、前記2個一対の固定部の対向面の面方向に沿って、かつ互いに略直交する2方向に相対移動可能な2自由度系の磁気バネ機構であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のマグネットユニット。
- 3個以上の前記固定部が、それぞれが対向するように離間して配置され、隣接する2個一対の固定部間に前記可動部が配置され、各可動部が、隣接する2個一対の固定部の対向面の面方向に沿って、かつ互いに略直交する2方向に相対移動可能な2自由度系の磁気バネ機構であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のマグネットユニット。
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