半導体製造施設等で利用されるEB(Electron Beam、電子ビーム)露光装置やEBステッパーは、100nT(1mG)程度の磁気ノイズ(環境磁気)でも影響を受ける。また、医療施設等で利用される脳磁波や心磁波といった超微弱な磁気を計測するSQUID(Superconducting QUantum Interference Device、超電導量子干渉素子)装置は1nT(0.01mG)以下の磁気ノイズでも影響を受け、MRI装置やNMR装置等も磁気ノイズの影響を受ける。従ってこれらの装置を利用する施設では、装置を磁気ノイズから保護して所要性能が得られる磁気環境に制御するため高性能な磁気シールドルームが必要とされる。
従来の磁気シールドルームは、例えば特許文献1が開示するように、透磁率の高いPCパーマロイ材(Ni合金)、電磁鋼板、軟磁性鋼板、アモルファス等の磁性材料板(以下、これらを纏めて磁性板ということがある)によってシールド対象空間の天井・床・壁の6面を覆う構造(以下、密閉型シールド構造ということがある)が一般的である。磁性板に隙間があると磁気抵抗となって磁気の漏洩が発生するので、密閉型シールド構造では対象空間をできるだけ隙間なく磁性板で覆うことが必要である。例えば隣接する磁性板の隙間を所要幅の当て板材やアングル材で塞ぐ、隣接する磁性板同士でラップを取る、各磁性板が2層以上で構成される場合は各層の隙間をずらして千鳥配置とする等の接合処理を施す。ただし、これらの接合処理は非常に手間がかかると共にコストアップの原因になる。
これに対し、例えば特許文献2及び3が開示するように、シールド対象空間の周囲に複数の短冊形磁性板(磁気シールド用ブレード材)を簾状又はルーバー状に並べた磁気シールド簾体を配置し、開放性を有しながらも高い磁気シールド性能を示す構造(以下、開放型シールド構造ということがある)が開発されている。開放型シールド構造は、空間の外から中及び中から外を目視で確認できる透視性、外光を取り入れた明るい空間が構築できる透光性、空間中で発生した熱を外へ逃がすことができる熱透過性(通気性)といった密閉型シールド構造にない特長を有している。
開放型シールド構造を、図7(A)を参照して本発明の理解に必要な程度において説明する。例えば長さ310mm、幅30mm、厚さ1mmの4枚のPCパーマロイ材製の短冊形磁性板(磁気シールド用ブレード材)12a、12b、12c、12dを長手方向端で重ね合わせながら長手方向に接合し、更にその一端側のブレード材12aの未接合端を他端側のブレード材12dの未接合端と重ね合わせて接合することにより、磁気的に閉じた環状(井桁状)の磁気シールド用フレーム11を形成する。図中の符号14は、各ブレード材12a、12b、12c、12dの重ね合わせ部(30mm×30mmの面接合部)を示す。なお、フレーム11を構成するブレード12の数は4枚に限らず、3枚又は5枚以上のブレード材12を用いて三角形状又は多角形状としてもよい。
図7(A)の開放型シールド構造10は、複数(例えば20枚)のフレーム11を、各フレーム11の対応するブレード材12a、12b、12c、12dの長手方向の中心軸Cが同一簾面F上にほぼ平行に並ぶように板厚方向に間隔d=30mmで重ねることで、シールド対象空間(内容積250mm×250mm×570mm)を複数面の磁気シールド簾体15a、15b、15c、15dで囲んだものである。各簾体15のブレード材12の長手方向と直角方向における間隔dの断面積Saを各ブレード材12の断面積Sm及び比透磁率μsの積に対して十分小さくし(Sa/Sm・μs<1)、その間隔dにおける磁束の通りやすさ(間隔のパーミアンス)に比してブレード材12における磁束の通りやすさ(ブレード材のパーミアンス)を十分大きくする。なお、各ブレード材12の厚さ及び間隔dはシールド性能に応じて適宜調整することができ、例えば複数の磁性板を積層することでブレード材12を必要な厚さに調整する。
開放型シールド構造10のシールド性能を確認するため、図8に示す環状コイル(例えばヘルムホルツ・コイル)Lの中央部に磁束密度B0のほぼ一様な磁場Mを発生させつつ図7(A)のシールド構造10を設置し、そのシールド構造10の内側に設けた磁気センサ19(例えばガウスメータ)で磁束密度Bを測定してシールド係数SE(=シールド前の磁束密度B0/シールド後の磁束密度B)を算出した。また比較のため、長さ250mm×高さ570mm×厚さ1mmの4枚の方形磁性板(PCパーマロイ製)21a、21b、21c、21dを用いて図7(B)のような立方体形の密閉型シールド構造20を作製し、同様に環状コイルLの中央部の磁場M中に設置してシールド係数SEを算出した。密閉型シールド構造20の各方形磁性板21の間の隙間(コーナー部)にはそれぞれ、30mm×30mmのL字型アングル材22(高さ570mm)を設けて磁気の漏洩を防止した。同図(B)の密閉型シールド構造20の内容量及び用いた磁性材料量は、同図(A)の開放型シールド構造10の内容量及び磁性材料量とほぼ同等である。
図9(A)は開放型シールド構造10及び密閉型シールド構造20のシールド係数SEを比較したグラフを示し、その横軸は磁束密度B0(印加磁場Mの強さ)を表す。同グラフから、開放型シールド構造10は密閉型シールド構造20より高いシールド性能を示すことが分かる。両シールド構造10、20の理論上のシールド性能は同等であり、両シールド構造10、20のシールド性能の相違は主にコーナー部の接合処理の違いによるものと考えられる。すなわち、開放型シールド構造10では各ブレード材12が30mm×30mmの重ね合わせ部14で面接合されており、コーナー部の接合処理が比較的うまく機能しているのに対し、密閉型シールド構造20では磁性板21とアングル材22との間に多少隙間が残っており、コーナー部の接合処理が十分に機能していないと想定される。このことから開放型シールド構造10は、単に透光性・通気性が得られるだけでなく、密閉型シールド構造20に比してコーナー部の効率的な接合処理(ブレード材の面接合)が可能であり、磁気の漏洩を小さく抑えてシールド性能の向上を図ることができる利点を有していることが分かる。
特開平9−162585号公報
特許第3633475号公報
特開2007−103854号公報
しかし、開放型シールド構造10においても、コーナー部以外にブレード材12の接合部が存在すると、その接合部から磁気の漏洩が生じてシールド性能が低下する問題点がある。図7(A)の開放型シールド構造10はシールド対象空間の各側面と同じ長さのブレード材12を用いているが、その側面の長さ以上の磁性板が入手できない場合は、例えば同図(C)に示すように比較的短い磁性板を接合したブレード材12(接合部のあるブレード材12)を用いざるを得ない。同図(C)のブレード材12aは、短い2枚の磁性板13(PCパーマロイ材)を長さ方向の端面同士で芯合わせして突き合わせ、その突き合わせ部に両側の磁性板13に跨る当て板材(幅30mm×長さ60mm)16を重ね合わせて接合したものである。
図7(C)の開放型シールド構造10を図8の環状コイルLの中央部の磁場M中に設置してシールド係数SEを算出し、算出したシールド係数SEを同図(A)の開放型シールド構造10のシールド係数SEと比較して図9(B)のグラフに示す。図9(B)のグラフは、接合部のあるブレード材12を用いた開放型シールド構造10(図7(C))のシールド性能が、接合部のないブレード材12を用いた開放型シールド構造10(図7(A))に比して劣化することを示している。すなわち、開放型シールド構造10においてもブレード材12に多くの接合部が存在すると、密閉型シールド構造10の場合と同様に磁気漏洩が大きくなり、シールド性能が低下してしまう。開放型シールド構造のシールド性能の向上を図るためには、シールド性能の低下に繋がるブレード材12の接合部をできるだけ減らすことが重要である。
そこで本発明の目的は、接合部を減らして磁気漏洩を小さくできる開放型磁気シールド用のブレード材及びその製造方法を提供することにある。
開放型シールド構造10におけるブレード材12の接合部を減らすためには、シールド対象空間の大きさに応じた長さの短冊形磁性板を用いることが有効である。しかし、磁気シールドに用いるPCパーマロイ材等の磁性板は、裁断・穴明け・折曲げ等の全ての加工処理が終了したのち、シールド性能を発揮させるために磁気焼鈍炉にて焼鈍処理(例えば、水素雰囲気中の1100℃の条件下で数時間保持する焼き鈍し処理)を施す必要がある。磁気焼鈍炉には大きさの限界があり、現状における最大規模の磁気焼鈍炉(φ1000mm×高さ1000mm程度の円筒形)で処理できる最大サイズは900mm程度である。このため従来の開放型シールド構造10で用いることができる磁性板の長さは最大でも900mm程度であり、一辺が900mmより長い磁気シールドルームを構築する場合は磁性板を接合して用いざるを得ず、多くの接合部を有する開放型シールド構造10となっているのが現状である。
本発明者は、PCパーマロイ材等の磁性板をできるだけ薄くしてロール状に巻き、ロール状態で磁気焼鈍炉に収納して処理することに着目した。ロール状に巻いた状態で焼鈍処理を施せば、たとえ1000mm程度の径の磁気焼鈍炉であっても、直径900mmのロール状とすることにより1巻きで2826(≒900×3.14)mm、2巻きで5652mm、3巻きで8478mmの長尺形の磁性板を処理することができる。また、磁性板を薄くすれば、ロール状に巻きやすくなると共に磁気焼鈍後に平板状に延ばすことも容易になる。本発明はこの着想に基づく実験研究の結果、完成に至ったものである。
図1の実施例を参照するに、本発明による磁気シールド用ブレード材は、長さ方向にロール状に巻いて焼鈍された所定幅W0及び長さL0の長尺形磁性薄板2(同図(A)参照)の複数枚を、その磁性薄板2と同じ幅W0及び長さL0の剛性支持板3上に重ね合わせて積層し、各磁性薄板2の長さ方向両端に所定幅W0以上の長さR1L、R1Rの非固定部7を残しつつ長さ方向中間部8を相互に密着させて支持板3上に固定してなるものである(同図(B)参照)。
また図1の実施例を参照するに、本発明による磁気シールド用ブレード材の製造方法は、所定幅W0及び長さL0の長尺形磁性薄板2(同図(A)参照)の複数枚をそれぞれ長さ方向にロール状に巻いて焼鈍したのち、その磁性薄板2と同じ幅W0及び長さL0の剛性支持板3上に重ね合わせて積層し、各磁性薄板2の長さ方向両端に所定幅W0以上の長さR1L、R1Rの非固定部7を残しつつ長さ方向中間部8を相互に密着させて支持板上に固定してなるものである(同図(B)参照)。
好ましくは、図1(C)及び(D)に示すように、剛性支持板3の少なくとも長さ方向片側を磁性薄板2のその片側の非固定部7と同じ長さR1L又はR1Rだけ磁性薄板2より短くし、各磁性薄板2の少なくとも長さ方向片側の非固定部7を支持板3から食み出させる。或いは、図2(A)及び(B)に示すように、剛性支持板3の少なくとも長さ方向片側を磁性薄板2のその片側の非固定部7(長さ=R2R又はR2L)の半分長さ(R2R×1/2又はR2L×1/2)だけ磁性薄板2より短くし、各磁性薄板2の少なくとも長さ方向片側の非固定部7の半分長さを支持板3から食み出させる。更に好ましくは、磁性薄板をPCパーマロイ製とする。
本発明による磁気シールド用ブレード材1は、所定幅W0及び長さL0の長尺形磁性薄板2の複数枚をそれぞれ長さ方向にロール状に巻いて焼鈍したのち、その磁性薄板2と同じ幅W0及び長さL0の剛性支持板3上に延ばしつつ重ね合わせて積層し、各磁性薄板2の長さ方向両端に所定幅W0以上の長さR1L、R1Rの非固定部7を残しつつ長さ方向中間部8を相互に密着させて支持板3上に固定するので、次の有利な効果を奏する。
(イ)ロール状に巻いたうえで焼鈍処理することにより、磁気焼鈍炉の大きさに限定されない長尺形の磁性薄板2を調製することができ、シールド対象空間の大きさに応じた所要長さのブレード材1とすることができる。
(ロ)また、シールド対象空間の大きさに応じた長尺形のブレード材1とすることにより、そのブレード材1を用いて構築する開放型シールド構造のシールド性能の低下に繋がるブレード材1の接合箇所を大幅に減らし、磁気漏洩の極めて小さい開放型シールド構造を構築することができる。
(ハ)複数の磁性薄板2を積層してブレード材1とするので、要求されるシールド性能に応じた積層枚数によってブレード材1毎のシールド性能を容易に調整することができ、最適な積層枚数を選択してコストダウンに繋げることが期待できる。
(ニ)また、PCパーマロイ材等の磁性板は薄板化することで磁気特性が向上するので、複数の磁性薄板2を積層してブレード材1とすることによりブレード材1の単体当たりのシールド性能を高めることができる。
(ホ)磁性薄板2を長さ方向両端に非固定部7を残しつつ支持板3上に固定するので、その非固定部7の相互に重ね合わせながら複数のブレード材1を接合することができ、ブレード材11の接合部からの磁気漏洩も小さく抑えることができる。
図1(B)〜(D)は、所定幅W0及び長さL0の複数枚の長尺形磁性薄板2と、各磁性薄板2を積層して支持する剛性支持板3と、積層された各磁性薄板2を相互に密着させて支持板3上に固定する固定材5とを備えた本発明の磁気シールド用ブレード材1a、1b、1cの実施例を示す。本発明で用いる磁性薄板2の厚さは例えば1mm以下であり、必要な枚数の磁性薄板2を支持板3上に積層することで所要シールド性能の積層厚のブレード材とする。支持板3は、磁性薄板2の剛性の弱さを補うための部材であり、例えば適当な厚さの木材、プラスチック等の非磁性材料製とすることができる。
図1(B)は、磁性薄板2と同じ所定幅W0及び長さL0の剛性支持板3を用いたブレード材1aを示す。支持板3上に複数の磁性薄板2をそれぞれ重ね合わせて積層し、各磁性薄板2の長さ方向両端に長さR1L、R1Rの非固定部7を設けつつ、その非固定部7、7の中間の固定部8を固定材5によって相互に密着させて支持板3に固定する。各磁性薄板2の長さ方向両端の非固定部7は固定材5によって支持板3に固定されないフリー部分であり、後述するようにブレード材1aを他のブレード材1b、1c、1e(図1(C)、(D)、図2(A)参照)等と接合する際に、他のブレード材の磁性薄板2と重ね合わせる部分である。非固定部7の長さR1L、R1Rは、図7(A)の重ね合わせ部14と同様に磁性薄板2の所定幅W0全体にわたる重ね合わせ(面接合)を確保するため、磁性薄板2の所定幅W0と同じ長さ又はそれ以上の長さとすることが望ましい。
図1(C)は、図1(B)の支持板3の長さ方向片側をその片側の磁性薄板2の非固定部7と同じ長さR1Rだけ短くし、各磁性薄板2をその長さ方向片側の非固定部7が支持板3から食み出すように支持板3に固定したブレード材1bを示す。また図1(D)は、図1(B)の支持板3の長さ方向両側をそれぞれ磁性薄板2の非固定部7と同じ長さR1L、R1Rだけ短くし、各磁性薄板2を長さ方向両側の非固定部7が支持板3から食み出すように支持板3に固定したブレード材1cを示す。ブレード材1b、1cの長さ方向片側又は両側に食み出した非固定部7は、図4(A)及び(C)に示すようにブレード材1b、1cをブレード材1a、1b等と接合する際に、ブレード材1a、1b等の食み出していない非固定部7と重ね合わせる部分である。
各ブレード材1a、1b、1cで用いる磁性薄板2は、透磁率の高い適当な磁性材料とすることができるが、好ましくはPCパーマロイ(Ni合金)のように薄くなるほど磁気特性が向上する磁性材料製とする。図3(A)は、厚さ1mm及び厚さ0.2mmのPCパーマロイ材の磁気特性を示すB−H曲線図(横軸が磁化力[Oe]、縦軸が磁束密度[G])である。同図から厚さ0.2mmのPCパーマロイ材の磁気特性は厚さ1mmのPCパーマロイ材に比して優れており、とくに磁場M(磁束密度)の弱い領域でその差が大きくなることが分かる。また図3(B)は、ブレード材12として厚さ0.2mm×5枚のPCパーマロイ材を用いて図7(A)と同様の開放型磁気シールド構造10を作製し、図8の環状コイルLの中央部に設置してシールド係数SEを算出した結果を示す。図3(B)に示された厚さ1mm×1枚のPCパーマロイ材を用いた開放型シールド構造10のシールド係数SEとの比較から分かるように、シールド係数SEには磁気特性の相違がそのまま反映され、厚さ0.2mm×5枚のPCパーマロイ材を用いる方が厚さ1mm×1枚のPCパーマロイ材を用いるよりもシールド性能が向上することが分かる。
各ブレード材1a、1b、1cの磁性薄板2の厚さは、後述するようにロール状に巻いて焼鈍処理できるように例えば1mm以下とするが、PCパーマロイ製の磁性薄板2を用いる場合はできるだけ薄くすることが望ましい。例えば積層厚を1mm程度とする場合に厚さ0.5mm×2枚の磁性薄板2としてもよいが、好ましくは厚さ0.35mm×3枚の磁性薄板2とし、望ましくは厚さ0.2mm×5枚の磁性薄板2とし、更に好ましくは厚さ0.1mm×10枚の磁性薄板2とする。図3(B)に示すように、できるだけ薄い磁性薄板2の複数枚を積層して所要厚さのブレード材1とすることにより、同じ厚さの1枚のブレード材1を用いた場合に比してブレード材1の単体当たりのシールド性能を高めることが期待できる。
各ブレード材1a、1b、1cの磁性薄板2の所定長さL0、幅W0、積層枚数等は、後述するようにブレード材1を用いて構築する開放型シールド構造10(図6(A)参照)の形状やシールド性能の設計に応じて、ブレード材1a、1b、1c毎に定めることができる。また各ブレード材1a、1b、1cの長さ方向両端の非固定部7の長さR1L、R1Rも、開放型シールド構造10の形状やシールド性能に応じた各ブレード材1a、1b、1cの重なり幅を考慮して定めることができる。なお、図1では各ブレード材1a、1b、1cの長さ方向両端の非固定部7を同じ長さR1L=R1Rとしているが、例えば図2(A)に示すように長さ方向両端の非固定部7は異なる長さ(R1L≠R2R)としてもよい。また、図示例の磁性薄板2は何れも中心軸を直線状としているが、必要に応じて磁性薄板2の中心軸を曲線とすると共に支持材3を同じ曲線形状とし、曲線形状のブレード材1a、1b、1cとすることも可能である。
図4(A)は、ブレード材1a(又は1b)における非固定部7が食み出していない長さ方向端(以下、非食み出し端ということがある)と、ブレード材1c(又は1b)における非固定部7が食み出した長さ方向端(以下、食み出し端ということがある)とを、各ブレード材1の中心軸方向に接合する方法を示す。ブレード材1a(又は1b)の支持材3の非食み出し端面とブレード材1c(又は1b)の支持板3の食み出し端面とを中心軸で芯合わせしながら突き合わせたのち、同図(B)に示すように食み出し端の非固定部7の磁性薄板2を非食み出し端の非固定部7の磁性薄板2に一枚ずつ交互に重ね合わせて長さR1の重ね合わせ部(面接合部)9を形成し、最後に接着剤又は粘着テープ6等により重ね合わせ部9を密着させて支持材3に固定する。このように中心軸方向に接合させるブレード材1a、1b、1cの非固定部7は、接合させる食み出し端の非固定部7の長さR1と非食み出し端の非固定部7の長さR1とが一致するように設計する。
また図4(C)は、ブレード材1a(又は1b)の非食み出し端とブレード材1c(又は1b)の食み出し端とを、中心軸が互いに交差する方向に接合する方法を示す。この場合は、ブレード材1a(又は1b)の非食み出し端の支持材3の側面にブレード材1c(又は1b)の支持板3の食み出し端面を突き合わせたのち、同図(D)に示すように非食み出し端の非固定部7の磁性薄板2と食み出し端の非固定部7の磁性薄板2とを、磁性薄板2の所定幅W0全体にわたり交差するように一枚ずつ交互に重ね合わせて長さW0の重ね合わせ部(面接合部)9を形成して固定する。このように中心軸を交差して接合させるブレード材1a、1b、1cの非固定部7は、図示例のように、食み出し端及び非食み出し端の非固定部7の長さR1を磁性薄板2の所定幅W0と同じ長さ又はそれ以上の長さとすることが望ましい。図4(A)及び(C)のように非固定部7の磁性薄板2を一枚ずつ交互に重ね合わせて面接合することで、例えば図7(C)又は(A)のように所要厚さのブレード材12を1回だけ重ね合わせる接合方法に比して接合部の接触面積を増やすことができ、ブレード材1a、1b、1cの接合部からの磁気漏洩を一層小さく抑えることができる。
ブレード材1a、1b、1cを製造する際には、先ず構築する開放型シールド構造10(図6(A)参照)の磁気シールド用フレーム11(図6(E)参照)を設計し、そのフレーム11を構成するために必要な各ブレード材1の磁性薄板2の長さL0、幅W0、積層枚数等を決定する。図示例の開放型シールド構造10は、複数台の電子顕微鏡を設置する検査室に適用した一例であり、シールド対象空間のサイズ(開放型シールド構造10の内側有効サイズ)は6000mm(X方向)×3000mm(Y方向)×12000mm(Z方向)である。例えばシールド性能の設計に際して磁場解析による数値シミュレーションを実施することにより、図6(E)に示すように内径が6000mm×3000mmで幅=50mmの矩形フレーム11を、間隔d=100mmで配置するという開放型シールド構造10の仕様を決定する。
図6(E)に示すようなフレーム11の設計仕様に基づき、磁性薄板2の重ね合わせ部9の長さを考慮して、フレーム11を構成する各ブレード材1の磁性薄板2の長さL0、幅W0、磁性薄板2の積層厚(磁性薄板2の積層枚数)の仕様が決定される。図示例では、コーナー部の重ね合わせ部9を50mm×50mmとし、水平方向(X方向)の中間部の重ね合わせ部9を100mm×50mmとし、フレーム11を6枚の同じ長さの磁性薄板2(長さL0=3100mm、幅W0=50mm)で構成している。このように重ね合わせ部9の長さを適当に調節することで、フレーム11を構成する各ブレード材1の磁性薄板2の長さL0を揃えることが可能である。
なお、フレーム11を構成する各ブレード材1の磁性薄板2の積層枚数は、開放型シールド構造10における各ブレード材1の配置部位又は位置に応じて最適枚数を選択することが望ましい。例えば図示例の開放型シールド構造10では、シールド対象空間のZ方向とほぼ平行に電車線が走っていることから、外乱ノイズはX方向磁場Mx及びY方向磁場Myが支配的であり、Z軸方向磁場Mzは無視できる程度であった。また、対象空間内の電子顕微鏡の設置位置に応じた詳細な数値シミュレーションにより、電子顕微鏡の設置位置周辺にはシールド性能を高めるために積層厚1mmの磁性薄板2を用いたフレーム11aが必要であるが、その他は少し劣るシールド性能が許容されるので積層厚0.6mmの磁性薄板2を用いたフレーム11bで足りることが判明した。このため、フレーム11aを構成するブレード材1には0.2mmの磁性薄板2を5枚積層し、フレーム11bを構成するブレード材1には0.2mmの磁性薄板2を3枚積層することとした。このように本発明のブレード材1は、その配置部位又は位置に応じて磁性薄板2の積層枚数を容易に調整することが可能であり、ブレード材1毎に最適枚数を選択することで磁気シールドに必要な磁性材料を削減すると共にコストダウンを図ることができる。
次いで、例えば幅640mmのロール材として提供される厚さ0.2mmの磁性薄板から、予め設計した長さL0=3100mm、幅W0=50mmの複数枚の磁性薄板2を裁断したのち、図1(A)に示すよう各磁性薄板2をロール状に巻いた状態で磁気焼鈍炉に収納して焼鈍処理する。磁性薄板2を薄くすることで比較的簡単にロール状に巻くことが可能となり、焼鈍処理後にロール状態から平板状に延ばすことも容易になる。また、ロール状に巻いた状態とすることで、磁気焼鈍炉の径(例えば1000mm)より長い磁性薄板2を焼鈍処理することが可能となり、例えば長さL0=3100mmの長尺形磁性薄板2を処理することができる。焼鈍処理の終了後、ロール状に巻かれた磁性薄板2の必要枚数を、例えば幅50mmの木製又はプラスチック製の支持板3上に延ばして重ね合わせつつ積層し、各磁性薄板2の長さ方向両端に予め定めた長さR1L、R1Rの非固定部7を設けつつ、その非固定部7、7の中間の固定部8を固定材5によって相互に密着させて支持板3に固定することによりブレード材1を製造する。
なお、図示例では各ブレード材1cの固定部8にその両端を含む適当な間隔で設けた帯状の拘束ベルトを固定材5としているが、固定材5は図示例に限定されるものではない。拘束バンドを用いることで、開放型シールド構造10の構築現場等において磁性薄板2の積層枚数や非固定部7の長さを比較的簡単に調整することが可能となるが、磁性薄板2の固定部8と支持板3との間及び各磁性薄板2の固定部8の相互間にそれぞれ接着剤又は粘着テープ6を塗布して固定材5としてもよい。ただし、固定材5として接着剤又は粘着テープ6を用いる場合は、その熱膨張率が磁性薄板2と同程度のものとすることが望ましい。
図6(B)は、3種類のブレード材1a、1b、1cをそれぞれ2本ずつ用いて同図(E)のフレーム11を構成する場合を示す。この場合は、長さ方向両端の非固定部7が同じ長さR1L=R1R=50mmのブレード材1a(支持板3の長さ=3100mm)と、長さ方向両端の非固定部7が異なる長さR1L=100mm、R1R=50mmのブレード材1b(支持板3の長さ=3050mm)と、同じく長さ方向両端の非固定部7が異なる長さR1L=50mm、R1R=100mmのブレード材1c(支持板3の長さ=2950mm)とを製造し、例えばフレーム11の設計形状に合わせてベニヤ下地を設けたうえで、先ず垂直用のブレード材1aの支持板3をベニヤ下地に堅固に取り付け、次に水平用のブレード材1b、1cの支持板3を同様にベニヤ下地に取り付けてフレーム11を構築する。各ブレード材1a、1b、1cの接合部には、図中の楕円IVA及びIVCで示すように前述した図4(A)又は(C)に示す何れかの方法で、各ブレード材1a、1b、1cの非食み出し端と食み出し端との突き合わせによって重ね合わせ部9を形成する。
ただし、フレーム11を構成するブレード材1a、1b、1cの種類及び接合順序は図6(B)の例に限定されるものではなく、例えば同図(C)に示すようにブレード材1bのみを用いてフレーム11を構成することも可能である。この場合は、長さ方向両端の非固定部7が同じ長さR1L=R1R=50mmのブレード材1b(支持板3の長さ=3050mm)と、異なる長さR1L=50mm、R1R=100mmのブレード材1b(支持板3の長さ=3000mm)と、異なる長さR1L=100mm、R1R=50mmのブレード材1b(支持板3の長さ=3050mm)との3種類を製造してフレーム11を構築する。また、図6(B)のブレード材1c及び1bの接合長さに対応する長さL0=6100mmの磁性薄板2を用いることにより、フレーム11における接合部の数を更に減らして開放型シールド構造10のシールド性能の向上を図ることもできる。図6(B)のようにブレード材1a、1b、1cを環状に接合したフレーム11を、各フレーム11の対応するブレード材1a、1b、1cの長手方向中心軸が同一面上にほぼ平行に並ぶように設計間隔d=100mmで配置することにより、同図(A)に示すような開放型シールド構造10を構築する。
本発明によるブレード材1は、ロール状に巻いて焼鈍処理することで磁気焼鈍炉の径より長い長尺形の磁性薄板2を用いることができ、そのような長尺形の磁性薄板2を用いることで接合部の少ない開放型シールド構造10を組み立てることができる。また、磁性体を薄板化することで磁気特性の向上を図り、その磁性薄板2を所要枚数積層することでブレード材1の単体当たりのシールド性能を高めることができる。更に、ブレード材1の接合部においても、その非食み出し端の非固定部7の磁性薄板2と食み出し端の非固定部7との磁性薄板2を一枚ずつ交互に重ね合わせ面接合することにより、接合部からの磁気漏洩も極めて小さく抑えることができる。
こうして、本発明の目的である「接合部を減らして磁気漏洩を小さくできる開放型磁気シールド用のブレード材及びその製造方法」の提供が達成できる。
以上説明したように、本発明のブレード材1は開放型シールド構造10のフレーム11の設計仕様に基づいて種類や長さを適宜選択できるが、例えば図6(B)及び(C)を参照して前述したようにフレーム11を構成するブレード材1が3種類にもなると、ブレード材1の製造や管理が煩雑になると共に、施工手順が煩雑になるので施工の効率化が難しくなる。開放型シールド構造10の施工の効率化を図るためには、フレーム11をできるだけ少ない種類のブレード材1で構成することが有効である。図6(B)においてブレード材1の種類が増える原因の1つは、水平方向(X方向)に2種類のブレード材1b、1cを用いているからである。同じ種類のブレード材1を長さ100mmで重ね合わせてフレーム11の水平方向(X方向)を構成すれば、フレーム11を構成するブレード材1の種類を減らすことができる。
図2(A)は、支持板3の長さ方向片側をその片側の磁性薄板2の非固定部7(長さ=R2R)の半分長さ(R2R×1/2)だけ磁性薄板2より短くし、各磁性薄板2を長さ方向片側の非固定部7の半分長さ(R2R×1/2)が支持板3から食み出すように支持板3上に重ね合わせた本発明のブレード材1dを示す。また同図(B)は、支持板3の長さ方向両側をその両側の磁性薄板2の非固定部7(長さ=R2L、R2R)の半分長さ(R2L×1/2、R2R×1/2)だけ磁性薄板2より短くし、各磁性薄板2の長さ方向両側の非固定部7の半分長さ(R2L×1/2、R2R×1/2)が支持板3から食み出すように支持板3上に重ね合わせた本発明のブレード材1eを示す。
図5(A)は、図2(A)又は(B)のようにそれぞれ長さR2の非固定部7の半分長さ(R2×1/2)が支持板3から食み出したブレード材1d(又は1e)の食み出し端どうしを、各ブレード材1d(又は1e)の中心軸方向に接合する方法を示す。両ブレード材1d(又は1e)の支持材3の食み出し端面を中心軸で芯合わせしながら突き合わせたのち、同図(B)に示すように両ブレード材1d(又は1e)の非固定部7の磁性薄板2を一枚ずつ交互に重ね合わせて長さR2の重ね合わせ部(面接合部)9を形成し、最後に接着剤又は粘着テープ6等により重ね合わせ部9を密着させて固定する。すなわち、非固定部7の半分長さ(R2×1/2)が食み出したブレード材1d(又は1e)を用いれば、同じ種類のブレード材によって任意の長さR2の重ね合わせ部9を形成することができる。
図6(D)は、2種類のブレード材1a(支持板3の長さ=3100mm)とブレード材1d(支持板3の長さ=3000mm)とを用いて同図(E)のフレーム11を構成した一例を示す。同図のブレード材1dは、図2(A)に示すように、支持板3の長さ方向片側をその片側の磁性薄板2の非固定部7と同じ長さR1R(=50mm)だけ短くして各磁性薄板2の片側の非固定部7を支持板3から食み出させ、支持板3の長さ方向反対側をその反対側の磁性薄板2の非固定部7(長さR2R=100mm)の半分長さR2R×1/2(=50mm)だけ磁性薄板2より短くして各磁性薄板2を反対側の非固定部7の半分長さを支持板3から食み出させたものである。図中の楕円IVCで示すように上述した図4(B)に示す方法でブレード材1a、1dの非食み出し端と食み出し端とを突き合わせてコーナー部の重ね合わせ部9(50mm×50mm)を形成すると共に、図中の楕円VAで示すように上述した図5(A)に示す方法でブレード材1d、1dの食み出し端を相互に突き合わせて水平方向の重ね合わせ部9(100mm×50mm)を形成することにより、フレーム11を構築する。図6(D)のように2種類のブレード材1a、1dでフレーム11を構成すれば、同図(B)のように3種類のブレード材1a、1b、1cを用いた場合に比して、開放型シールド構造10の効率的な施工が期待できる。