以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る負極10の構成を表したものである。負極10は、例えば、一対の対向面を有する負極集電体11と、負極集電体11の片面に設けられた負極活物質層12とを有している。なお、図示しないが、負極集電体11の両面に負極活物質層12を設けるようにしてもよい。
負極集電体11は、良好な電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度を有することが好ましく、銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料により構成されている。特に、銅は高い電気伝導性を有するので好ましい。
負極活物質層12は、例えば、リチウムなどと反応可能であり、構成元素として、スズとコバルトとを含む負極活物質を含有している。スズは単位質量あたりのリチウムの反応量が高く、高い容量を得ることができるからである。また、スズ単体では十分な充放電サイクル特性を得ることは難しいが、コバルトを含むことにより充放電サイクル特性を向上させることができるからである。
この負極活物質におけるコバルトの含有量は、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合で、30質量%以上70質量%以下の範囲内であることが好ましく、30質量%以上60%質量以下の範囲内であればより好ましい。割合が低いとコバルトの含有量が低下し十分なサイクル特性が得られず、また、割合が高いとスズの含有量が低下し、従来の負極材料、例えば炭素材料を上回る容量が得られないからである。
この負極活物質は、また、構成元素として、スズおよびコバルトに加えて炭素を含んでいる。炭素を含むことにより充放電サイクル特性をより向上させることができるからである。炭素の含有量は、9.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内であることが好ましく、14.9質量%以上29.7質量%以下の範囲内、特に16.8質量%以上24.8質量%以下の範囲内であればより好ましい。この範囲内において高い効果を得ることができるからである。
この負極活物質は、構成元素として、これらに加えて、ケイ素を含んだ方が好ましい場合もある。ケイ素は単位質量あたりのリチウムの反応量が高く、容量をより向上させることができるからである。ケイ素の含有量は、0.5質量%以上7.9質量%以下の範囲内であることが好ましい。少ないと容量を高くする効果が十分でなく、多いと充放電に伴い微粉化して充放電サイクル特性を低下させてしまうからである。
この負極活物質は、また、構成元素として、鉄,ニッケルおよびクロム(Cr)からなる群のうちの少なくとも1種を含んだ方が好ましい場合もある。サイクル特性をより向上させることができるからである。鉄の含有量は、0.3質量%以上5.9質量%以下の範囲内であることが好ましい。また、ニッケルおよびクロムの含有量は、0.1質量%以上3.0質量%以下の範囲内であることが好ましい。少ないと充放電サイクル特性を向上させる効果が十分でなく、また、多いとスズの含有量が低下し十分な容量が得られないからである。これらの元素は、ケイ素と共に含まれていてもよい。
この負極活物質は、更にまた、構成元素として、インジウム,ニオブ,ゲルマニウム,チタン,モリブデン,アルミニウム,リン,ガリウムおよびビスマスからなる群のうちの少なくとも1種を含んだ方が好ましい場合もある。サイクル特性をより向上させることができるからである。これらの含有量は、14.9質量%以下の範囲内であることが好ましく、2.4質量%以上14.9質量%以下の範囲内、特に4.0質量%以上12.9質量%以下の範囲内であればより好ましい。少ないと十分な効果が得られず、多いとスズの含有量が低下して十分な容量が得られず、また充放電サイクル特性も低下してしまうからである。これらの元素は、ケイ素,鉄,ニッケルあるいはクロムと共に含まれていてもよい。
また、この負極活物質は、結晶性の低いまたは非晶質な相を有している。この相は、リチウムなどと反応可能な反応相であり、これにより優れたサイクル特性を得ることができるようになっている。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用い、挿引速度を1°/minとした場合に、回折角2θで1.0°以上であることが好ましい。リチウムなどをより円滑に吸蔵および放出させることができると共に、電解質との反応性をより低減させることができるからである。
なお、X線回折により得られた回折ピークがリチウムなどと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムなどとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較することにより容易に判断することができる。例えば、リチウムなどとの電気化学的反応の前後において回折ピークの位置が変化すれば、リチウムなどと反応可能な反応相に対応するものである。この負極活物質では、結晶性の低いまたは非晶質な反応相の回折ピークが例えば2θ=20°〜50°の間に見られる。この結晶性の低いまたは非晶質な反応相は、例えば上述した各構元素を含んでおり、主に炭素により低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
なお、この負極活物質は、この結晶性の低いまたは非晶質な相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を有している場合もある。
更に、この負極活物質は、構成元素である炭素の少なくとも一部が、他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。サイクル特性の低下はスズなどが凝集あるいは結晶化することによるものであると考えられるが、炭素が他の元素と結合することにより、そのような凝集あるいは結晶化を抑制することができるからである。
元素の結合状態を調べる測定方法としては、例えばX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)が挙げられる。このXPSは、軟X線(市販の装置ではAl−Kα線、またはMg−Kα線を用いる)を試料表面に照射し、試料表面から飛び出してくる光電子の運動エネルギーを測定することによって、試料表面から数nmの領域の元素組成、および元素の結合状態を調べる方法である。
元素の内殻軌道電子の束縛エネルギーは、第1近似的には、元素上の電荷密度と相関して変化する。例えば、炭素元素の電荷密度が近傍に存在する元素との相互作用により減少した場合には、2p電子などの外殻電子が減少しているので、炭素元素の1s電子は殻から強い束縛力を受けることになる。すなわち、元素の電荷密度が減少すると、束縛エネルギーは高くなる。XPSでは、束縛エネルギーが高くなると、高いエネルギー領域にピークはシフトするようになっている。
XPSでは、炭素の1s軌道(C1s)のピークは、グラファイトであれば、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正された装置において、284.5eVに現れる。また、表面汚染炭素であれば、284.8eVに現れる。これに対して、炭素元素の電荷密度が高くなる場合、例えば炭素が金属元素または半金属元素と結合している場合には、C1sのピークは、284.5eVよりも低い領域に現れる。すなわち、負極活物質について得られるC1sの合成波のピークが284.5eVよりも低い領域に現れる場合には、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合している。
なお、負極活物質のXPS測定に際しては、表面が表面汚染炭素で覆われている場合、XPS装置に付属のアルゴンイオン銃で表面を軽くスパッタすることが好ましい。また、測定対象の負極活物質が後述のように電池の負極中に存在する場合には、電池を解体して負極を取り出した後、炭酸ジメチルなどの揮発性溶媒で洗浄するとよい。負極の表面に存在する揮発性の低い溶媒と電解質塩とを除去するためである。これらのサンプリングは、不活性雰囲気下で行うことが望ましい。
また、XPS測定では、スペクトルのエネルギー軸の補正に、例えばC1sのピークを用いる。通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているので、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、これをエネルギー基準とする。なお、XPS測定では、C1sのピークの波形は、表面汚染炭素のピークと負極活物質中の炭素のピークとを含んだ形として得られるので、例えば市販のソフトウエアを用いて解析することにより、表面汚染炭素のピークと、負極活物質中の炭素のピークとを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
この負極活物質は、例えば各構成元素の原料を混合して電気炉,高周波誘導炉あるいはアーク溶解炉などにより溶解しその後凝固することにより、また、ガスアトマイズあるいは水アトマイズなどの各種アトマイズ法、各種ロール法、またはメカニカルアロイング法あるいはメカニカルミリング法などのメカノケミカル反応を利用した方法により製造することができる。中でも、メカノケミカル反応を利用した方法により製造することが好ましい。負極活物質を低結晶化あるいは非晶質な構造とすることができるからである。この方法には、例えば、遊星ボールミル装置を用いることができる。
原料には、各構成元素の単体を混合して用いてもよいが、炭素以外の構成元素の一部については合金を用いることが好ましい。このような合金に炭素を加えてメカニカルアロイング法により合成することにより、低結晶化あるいは非晶質な構造を有するようにすることができ、反応時間の短縮も図ることができるからである。なお、原料の形態は粉体であってもよいし、塊状であってもよい。
原料として用いる炭素には、難黒鉛化炭素,易黒鉛化炭素,グラファイト,熱分解炭素類,コークス,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,活性炭およびカーボンブラックなどの炭素材料のいずれか1種または2種以上を用いることができる。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがあり、有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子化合物を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。これらの炭素材料の形状は、繊維状,球状,粒状あるいは鱗片状のいずれでもよい。
負極活物質層12は、また、リチウムなどを吸蔵および放出することが可能な炭素材料を含んでいることが好ましい。上述した負極活物質は充放電に伴い膨張・収縮し、負極10における電子伝導性を低下させてしまうが、この炭素材料を含むことにより、電子伝導性の低下を抑制することができるからである。
このような炭素材料について、具体的に例を挙げれば、鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛あるいは土状黒鉛などの天然黒鉛類、石油コークス,石炭コークス,メソフェーズピッチ,あるいはポリアクリロニトリル(PAN),レーヨン,ポリアミド,リグニン,ポリビニルアルコールなどを高温で焼成したもの,気相成長炭素繊維あるいはカーボンナノチューブなどの人造黒鉛類が挙げられる。
この炭素材料の真比重は、2.23g/cm3 以上であることが好ましい。導電性を高くすることができるからである。また、タップ密度は、0.8g/cm3 以下であることが好ましく、0.1g/cm3 以上であることがより好ましい。この範囲で、負極活物質が充放電に伴い膨張・収縮しても接触性を保つことができるからである。よって、これらの範囲で、負極10における電子伝導性の低下を抑制する効果がより向上する。なお、真比重の上限値は、例えばグラファイトであれば、2.26g/cm3 〜2.28g/cm3 である。また、タップ密度は、例えば、150mLのメスシリンダーに100cm3 の炭素材料を投入し、粉体減少度測定器を用いることにより測定することができる。
また、この炭素材料の含有量は、上述した負極活物質に対して15質量%以上50質量%以下の範囲内、特に20質量%以上40質量%以下の範囲内が好ましい。少ないと、負極活物質の充放電に伴う膨張・収縮による電子伝導性の低下を抑制する効果が低下していしまい、多いと負極活物質の含有量が低下するので、容量が低下してしまうからである。
負極活物質層12は、必要に応じて結着剤を含んでいてもよい。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンを成分とする共重合体が好ましい。上述した負極活物質あるいは炭素材料などの負極活物質層12を構成する材料の結着性を向上させることができ、負極活物質の膨張・収縮に伴う電子伝導性の低下をより抑制することができるからである。共重合体の具体例としては、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体,フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、あるいはこれらに更に他のエチレン性不飽和モノマーを共重合したものなどが挙げられる。共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸エステル,メタクリル酸エステル,酢酸ビニル,アクリロニトリル,アクリル酸,メタクリル酸,無水マレイン,ブタジエン,スチレン,N−ビニルピロリドン,N−ビニルピリジン,グリシジルメタクリレート,ヒドロキシエチルメタクリレートあるいはメチルビニルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
結着剤の含有量は、負極活物質層12を構成する材料全体に対して1質量10質量%以下の範囲内、特に2質量%以上5質量%以下の範囲内が好ましい。少ないと負極活物質の膨張・収縮に伴う電子伝導性の低下を抑制する効果が低下してしまい、多いと負極活物質の含有量が低下するので、容量が低下してしまうからである。
負極活物質層12は、また、上述した負極活物質あるいは炭素材料に加えて他の負極活物質を含んでいてもよい。
負極10は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、上述した負極活物質と、炭素材料と、必要に応じて結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤を分散媒に分散して負極合剤スラリーとする。分散媒としては、例えば、純水,N−メチル−2−ピロリドン,トルエン,キシレン,メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロピルアルコール,イソブチルアルコール,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノン,酢酸エチル,酢酸ブチル,テトラヒドロフランあるいはジオキサンが挙げられる。中でも、純水あるいはN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
なお、この負極合剤スラリーには、必要に応じて増粘剤などを添加してもよい。増粘剤としては、例えば、でんぷん、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩,ナトリウム塩あるいはカリウム塩、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、またはジアセチルセルロースが挙げられる。中でも、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩あるいはナトリウム塩が好ましい。安定したスラリー特性を得ることができ、また、電極の反応を損なわないからである。増粘剤は1種類を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
負極活物質、炭素材料および結着剤などの混合、混練、あるいは分散媒への分散には、公知のニーダー、ミキサー、ホモジナイザー、ディゾルバー、プラネタリミキサー、ペイントシェイカー、あるいはサンドミルなどのいずれの混合攪拌機を用いてもよい。
次いで、この負極合剤スラリーをドクターブレード法などにより負極集電体11に均一に塗布し、塗布層を形成する。続いて、この塗布層を乾燥させて分散媒を除去したのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極活物質層12を形成する。これにより、図1に示した負極10が得られる。
この負極10は、例えば、次のようにして二次電池に用いられる。
(第1の電池)
図2はその二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池はいわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶21の内部に、帯状の正極31と帯状の負極10とがセパレータ32を介して積層し巻回された巻回電極体30を有している。電池缶21は、例えばニッケルのめっきがされた鉄により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶21の内部には、液状の電解質である電解液が注入され、セパレータ32に含浸されている。また、巻回電極体30を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板22,23がそれぞれ配置されている。
電池缶21の開放端部には、電池蓋24と、この電池蓋24の内側に設けられた安全弁機構25および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)26とが、ガスケット27を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶21の内部は密閉されている。電池蓋24は、例えば、電池缶21と同様の材料により構成されている。安全弁機構25は、熱感抵抗素子26を介して電池蓋24と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板25Aが反転して電池蓋24と巻回電極体30との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子26は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット27は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体30は、例えば、センターピン33を中心に巻回されている。巻回電極体30の正極31にはアルミニウムなどよりなる正極リード34が接続されており、負極10にはニッケルなどよりなる負極リード35が接続されている。正極リード34は安全弁機構25に溶接されることにより電池蓋24と電気的に接続されており、負極リード35は電池缶21に溶接され電気的に接続されている。
図3は図2に示した巻回電極体30の一部を拡大して表すものである。負極10は上述した構成を有している。これにより、高い容量を保ちつつ、充放電サイクル特性を向上させることができるようになっている。なお、図3では、負極活物質層12は、負極集電体11の両面に形成されているように表されている。
正極31は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体31Aの両面あるいは片面に正極活物質層31Bが設けられた構造を有している。正極集電体31Aは、例えば、アルミニウム箔などの金属箔により構成されている。正極活物質層31Bは、例えば、正極活物質として、リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料のいずれか1種または2種以上を含んでおり、必要に応じて人造黒鉛あるいはカーボンブラックなどの導電助剤およびポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
リチウムを吸蔵および放出することが可能な正極材料としては、TiS2 ,MoS2 ,NbSe2 あるいはV2 O5 などのリチウムを含有しない金属硫化物あるいは酸化物などや、化学式がLix M1O2 (M1は1種以上の遷移金属を表す。xは電池の充放電状態によって異なり、一般に0.05≦x≦1.10である。)で表される化合物を主体とするリチウム複合酸化物、または特定のポリマーなどが挙げられる。正極材料は、1種類を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
中でも、化学式Lix M1O2 において、遷移金属M1としてコバルト,ニッケルおよびマンガンからなる群のうちの少なくとも1種を含むリチウム複合酸化物が好ましい。具体的には、LiCoO2 ,LiNiO2 ,Liy Niz Co1-z O2 (yおよびzは電池の充放電状態によって異なり、一般に0<y<1、0.7<z<1.0である。)あるいはスピネル型構造を有するリチウムマンガン複合酸化物などが挙げられる。これらリチウム複合酸化物は、高電圧および高エネルギー密度を得ることができるからである。
セパレータ32は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン,ポリプロピレンあるいはポリエチレンなどの合成樹脂製の多孔質膜、またはセラミック製の多孔質膜により構成されており、これら2種以上の多孔質膜を積層した構造とされていてもよい。
セパレータ32には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、例えば有機溶媒などの非水溶媒と、この非水溶媒に溶解された電解質塩とを含んでいる。非水溶媒には、例えば、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ビニレン、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γーブチロラクトン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、アニソール、酢酸エステル、酪酸エステル、あるいはプロピオン酸エステルが用いられる。これらは単独で使用してもよく、複数種を混合して用いてもよい。
電解質塩には、例えば、LiClO4 ,LiAsF6 ,LiPF6 ,LiBF4 ,LiB(C6 H5 )4 ,CH3 SO3 Li,CF3 SO3 Li,LiClあるいはLiBrが用いられる。これらは単独で使用してもよく、複数種を混合して用いてもよい。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、例えば、上述したようにして負極10を作製する。次いで、例えば、正極材料と、必要に応じて導電助剤および結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの分散媒に分散してペースト状の正極合剤スラリーとする。この正極合剤スラリーを正極集電体31Aに塗布し分散媒を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極活物質層31Bを形成し、正極31を作製する。
続いて、正極集電体31Aに正極リード34を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体11に負極リード35を溶接などにより取り付ける。そののち、正極31と負極10とをセパレータ32を介して積層して巻回し、正極リード34の先端部を安全弁機構25に溶接すると共に、負極リード35の先端部を電池缶21に溶接して、巻回した正極31および負極10を一対の絶縁板22,23で挟み電池缶21の内部に収納する。次いで、例えば、電解質を電池缶21の内部に注入し、セパレータ32に含浸させる。そののち、電池缶21の開口端部に電池蓋24,安全弁機構25および熱感抵抗素子26をガスケット27を介してかしめることにより固定する。これにより、図2および図3に示した二次電池が形成される。
この二次電池では、充電を行うと、正極活物質層31Bからリチウムイオンが放出され、セパレータ32に含浸された電解質を介して、負極活物質層12に吸蔵される。次いで、放電を行うと、負極活物質層12からリチウムイオンが放出され、セパレータ32に含浸された電解質を介して、正極活物質層31Bに吸蔵される。ここでは、負極10が、スズ,コバルトおよび炭素を上述した割合で含む負極活物質を含有しているので、高い容量を保ちつつ、充放電サイクル特性が改善される。また、上述した真比重およびタップ密度を有する炭素材料を含有しているので、負極活物質の充放電に伴う膨張・収縮による電子伝導性の低下が抑制される。
このように本実施の形態に係る負極10によれば、構成元素として、スズを含む負極活物質を含有するようにしたので、高容量を得ることができる。また、この負極活物質が構成元素としてコバルトを含み、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合を30質量%以上70質量%以下とするようにしたので、高容量を保ちつつ、充放電サイクル特性を向上させることができる。更に、この負極活物質が構成元素として炭素を含み、その含有量を9.9質量%以上29.7質量%以下とするようにしたので、充放電サイクル特性をより向上させることができる。加えて、真比重が2.23g/cm3 以上であり、かつタップ密度が0.8g/cm3 以下である炭素材料を含むようにしたので、充放電に伴う負極活物質の膨張・収縮による電子伝導性の低下を抑制することができる。よって、この負極10を用いた本発明の電池によれば、高容量を得ることができると共に、優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
また、負極10における炭素材料の含有量を、負極活物質に対して15質量%以上50質量%以下とするようにすれば、高い効果を得ることができる。
更に、負極10にポリフッ化ビニリデンおよびフッ化ビニリデンを成分として含む共重合体からなる群のうちの少なくとも1種の結着剤を含有するようにすれば、高い効果を得ることができ、負極活物質層12におけるこの結着剤の含有量を1質量%以上10質量%以下とするようにすれば、特に好ましい。
(第2の電池)
図4は、第2の二次電池の構成を表すものである。この二次電池は、正極リード41および負極リード42が取り付けられた巻回電極体40をフィルム状の外装部材50の内部に収容したものであり、小型化,軽量化および薄型化が可能となっている。
正極リード41,負極リード42は、それぞれ、外装部材50の内部から外部に向かい例えば同一方向に導出されている。正極リード41および負極リード42は、例えば、アルミニウム,銅,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によりそれぞれ構成されており、それぞれ薄板状または網目状とされている。
外装部材50は、例えば、ナイロンフィルム,アルミニウム箔およびポリエチレンフィルムをこの順に貼り合わせた矩形状のアルミラミネートフィルムにより構成されている。外装部材50は、例えば、ポリエチレンフィルム側と巻回電極体40とが対向するように配設されており、各外縁部が融着あるいは接着剤により互いに密着されている。外装部材50と正極リード41および負極リード42との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム51が挿入されている。密着フィルム51は、正極リード41および負極リード42に対して密着性を有する材料、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,変性ポリエチレンあるいは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂により構成されている。
なお、外装部材50は、上述したアルミラミネートフィルムに代えて、他の構造を有するラミネートフィルム,ポリプロピレンなどの高分子フィルムあるいは金属フィルムにより構成するようにしてもよい。
図5は、図4に示した巻回電極体40のI−I線に沿った断面構造を表すものである。巻回電極体40は、正極43と負極10とをセパレータ44および電解質層45を介して積層し、巻回したものであり、最外周部は保護テープ46により保護されている。
正極43は、正極集電体43Aの片面あるいは両面に正極活物質層43Bが設けられた構造を有している。負極10は、負極集電体11の片面あるいは両面に負極活物質層12が設けられた構造を有しており、負極活物質層12の側が正極活物質層43Bと対向するように配置されている。正極集電体43A,正極活物質層43B,およびセパレータ44の構成は、それぞれ上述した正極集電体31A,正極活物質層31B,およびセパレータ32と同様である。
電解質層45は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル状の電解質層45は高いイオン伝導率を得ることができると共に、電池の漏液を防止することができるので好ましい。電解液(すなわち溶媒および電解質塩)の構成は、図2に示した円筒型の二次電池と同様である。高分子化合物は、例えばポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体などのフッ素系高分子化合物、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、またはポリアクリロニトリルなどが挙げられる。特に、酸化還元安定性の観点からは、フッ素系高分子化合物が望ましい。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、正極43および負極10のそれぞれに、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶剤とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶剤を揮発させて電解質層45を形成する。そののち、正極集電体43Aの端部に正極リード41を溶接により取り付けると共に、負極集電体11の端部に負極リード42を溶接により取り付ける。次いで、電解質層45が形成された正極43と負極10とをセパレータ44を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、最外周部に保護テープ46を接着して巻回電極体40を形成する。最後に、例えば、外装部材50の間に巻回電極体40を挟み込み、外装部材50の外縁部同士を熱融着などにより密着させて封入する。その際、正極リード41および負極リード42と外装部材50との間には密着フィルム51を挿入する。これにより、図4および図5に示した二次電池が完成する。
また、この二次電池は、次のようにして作製してもよい。まず、上述したようにして正極43および負極10を作製し、正極43および負極10に正極リード41および負極リード42を取り付けたのち、正極43と負極10とをセパレータ44を介して積層して巻回し、最外周部に保護テープ46を接着して、巻回電極体40の前駆体である巻回体を形成する。次いで、この巻回体を外装部材50で挟み、一辺を除く外周縁部を熱融着して袋状とし、外装部材50の内部に収納する。続いて、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物とを用意し、外装部材50の内部に注入する。
電解質用組成物を注入したのち、外装部材50の開口部を真空雰囲気下で熱融着して密封する。次いで、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることによりゲル状の電解質層45を形成し、図4に示した二次電池を組み立てる。
この二次電池は、第1の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
(第3の電池)
図6は、第3の二次電池の断面構成を表すものである。この二次電池は、正極リード61が取り付けられた正極62と、負極リード63が取り付けられた負極10とを、電解質層64を介して対向配置させた平板状の電極体60をフィルム状の外装部材65に収容したものである。外装部材65の構成は、上述した外装部材50と同様である。
正極62は、正極集電体62Aに正極活物質層62Bが設けられた構造を有している。負極10は、負極活物質層12の側が正極活物質層62Bと対向するように配置されている。正極集電体62A,正極活物質層62Bの構成は、それぞれ上述した正極集電体31A,正極活物質層31Bと同様である。
電解質層64は、例えば、固体電解質により構成されている。固体電解質には、例えば、リチウムイオン導電性を有する材料であれば無機固体電解質、高分子固体電解質のいずれも用いることができる。無機固体電解質としては、窒化リチウムあるいはヨウ化リチウムなどを含むものなどが挙げられる。高分子固体電解質は、主に、電解質塩と電解質塩を溶解する高分子化合物とからなるものである。高分子固体電解質の高分子化合物としては、例えば、ポリエチレンオキサイドあるいはポリエチレンオキサイドを含む架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレートなどのエステル系高分子化合物、アクリレート系高分子化合物を単独あるいは混合して、または共重合させて用いることができる。
高分子固体電解質は、例えば、高分子化合物と、電解質塩と、混合溶剤とを混合したのち、混合溶剤を揮発させて形成することができる。また、電解質塩と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを、混合溶剤に溶解させ、混合溶剤を揮発させたのち、熱を加えてモノマーを重合させて高分子化合物とすることにより形成することもできる。
無機固体電解質は、例えば、正極62あるいは負極10の表面にスパッタリング法,真空蒸着法,レーザーアブレーション法,イオンプレーティング法,あるいはCVD(Chemical Vapor Deposition )法などの気相法、またはゾルゲル法などの液相法により形成することができる。
この二次電池は、第1または第2の二次電池と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
更に、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
(実施例1−1)
まず、負極活物質を作製した。原料としてコバルト粉末と、スズ粉末と、グラファイト粉末とを用意し、コバルト粉末とスズ粉末とを合金化してコバルト・スズ合金粉末を作製したのち、この合金粉末にグラファイト粉末を加えて乾式混合した。その際、原料比は、質量比で、コバルト粉末:スズ粉末:グラファイト粉末=29.6:50.4:20とした。なお、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合(以下、Co/(Sn+Co) 比という)は37質量%とした。続いて、この混合物20gを直径9mmの鋼玉約400gと共に、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中にセットした。次いで、反応容器中をアルゴン雰囲気に置換し、毎分250回転の回転速度による10分間の運転と、10分間の休止とを運転時間の合計が30時間になるまで繰り返した。そののち、反応容器を室温まで冷却して合成された負極活物質粉末を取り出し、200メッシュのふるいを通して粗粉を取り除いた。
得られた負極活物質について組成の分析を行った。炭素の含有量は、炭素・硫黄分析装置により測定し、コバルトおよびスズの含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分析により測定した。その結果、コバルトの含有量は29.3質量%、スズの含有量は49.9質量%、炭素の含有量は19.8質量%であった。また、得られた負極活物質についてX線回折を行ったところ、2θ=20°〜50°の間に広い半値幅を有する回折ピークが観察された。この回折ピークの半値幅を測定したところ、1.0°以上であった。更に、この負極活物質についてXPSを行ったところ、図7に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、ピークP2よりも低エネルギー側に負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られた。このピークP3は、284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質中の炭素が他の元素と結合していることが確認された。
得られた負極活物質と、炭素材料と、結着剤であるポリフッ化ビニリデンと、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースとを混合して負極合剤を調製したのち、この負極合剤を分散媒である純水を用いてプラネタリーミキサーにより混合し、負極合剤スラリーを調製した。炭素材料は、真比重が2.24g/cm3 であり、タップ密度が0.6g/cm3 の人造黒鉛を用いた。なお、真比重は、セイシン企業製のMAT−7000により分散媒にブタノールを使用して測定した。更にまた、タップ密度は、筒井理化学器械株式会社製の粉体減少度測定器(TPM)により150mLのメスシリンダーに100cm3 の炭素材料を静かに投入し、20回運転後の密度を読み取った。加えて炭素材料の混合量は、負極活物質に対して20質量%とした。結着剤の混合量は、負極合剤全体に対して4.0質量%とした。増粘剤の混合量は、負極合剤全体に対して1質量%とした。
続いて、この負極合剤スラリーを帯状の銅箔よりなる負極集電体11の上に塗布し、乾燥させたのちロールプレス機で圧縮成型し、更に、真空雰囲気中において200℃で2時間熱処理を行うことにより負極活物質層12を形成し、負極10を作製した。そののち、負極集電体11の一端にニッケル製の負極リード35を取り付けた。
また、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とを0.5:1のモル比で混合し、空気中において900℃で5時間焼成してリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。このLiCoO2 91質量部と、導電助剤としてグラファイト6質量部と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン3質量部とを混合し、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーとした。そののち、この正極合剤スラリーを帯状のアルミニウム箔よりなる正極集電体31Aの両面に均一に塗布して乾燥させ、圧縮成型して正極活物質層31Bを形成し正極31を作製した。そののち、正極集電体31Aの一端にアルミニウム製の正極リード34を取り付けた。
正極31および負極10をそれぞれ作製したのち、厚み25μmの微孔性ポリプロピレンフィルムからなるセパレータ32を用意し、負極10,セパレータ32,正極31,セパレータ32の順に積層してこの積層体を渦巻状に多数回巻回して巻回電極体30を作製した。
巻回電極体30を作製したのち、巻回電極体30を一対の絶縁板22,23で挟み、負極リード35を電池缶21に溶接すると共に、正極リード34を安全弁機構25に溶接して、巻回電極体30をニッケルめっきした鉄製の電池缶21の内部に収納した。そののち、電池缶21の内部に電解液を減圧方式により注入した。電解液には、炭酸エチレンと炭酸ジメチルとを1:1の体積比で混合した溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/lとなるように溶解させたものを用いた。
電池缶21の内部に電解液を注入したのち、表面にアスファルトを塗布したガスケット27を介して電池蓋24を電池缶21にかしめることにより図2に示した円筒型の二次電池を得た。
実施例1−1に対する比較例1−1として、グラファイト粉末を用いなかったことを除き、他は実施例1−1と同様にして負極活物質を合成し、二次電池を作製した。コバルト粉末とスズ粉末との原料比は、質量比で、コバルト粉末:スズ粉末=37.0:63.0とした。また、この負極活物質について、実施例1−1と同様にして組成の分析を行ったところ、コバルトの含有量は36.6質量%、スズの含有量は62.4質量%であった。更に、XPSを行ったところ、図8に示したようにピークP4が得られ、これを解析したところ、表面汚染炭素のピークP2のみが得られた。
また、比較例1−2として、コバルトとスズと炭素とを含む負極活物質を用いずに負極10を作製したことを除き、すなわち、炭素材料の混合量を、負極合剤全体に対し95質量%としたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例1−1および比較例1−1,1−2の二次電池について充放電試験を行い、放電容量、および充放電サイクル特性をそれぞれ求めた。その際、充電は、23℃で0.5Cの定電流充電を上限4.2Vまで行った後、4.2Vで4時間にわたり定電圧充電を行い、放電は、0.5Cの定電流放電を終止電圧2.5Vまで行った。なお、放電容量は、1サイクル目の放電容量について実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。また、充放電サイクル特性は、上述した条件で100サイクル充放電を行い、1サイクル目の放電容量を100としたときの100サイクル目の放電容量の割合から求めた。それらの結果を表1に示す。なお、負極活物質の各構成元素の前に記載した数値は、各構成元素の含有量を質量比で表したものである。また、0.5Cは、理論容量を2時間で放出できる電流値である。
表1から分かるように、スズとコバルトと炭素とを含有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下で、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が30質量%以上70質量%以下である負極活物質を用いた実施例1−1によれば、炭素を含有しない負極活物質を用いた比較例1−1、あるいはスズとコバルトと炭素とを含有する負極活物質を用いていない比較例1−2よりも放電容量および容量維持率が飛躍的に向上した。
すなわち、スズとコバルトと炭素とを含有し、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下で、かつスズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が30質量%以上70質量%以下である負極活物質と、真比重が2.24g/cm3 、タップ密度が0.6g/cm3 である炭素材料とを用いた場合に、高容量で優れた充放電サイクル特性を得ることができることが分かった。
(実施例2−1,2−2)
炭素材料として、真比重が2.26g/cm3 であり、タップ密度が0.5g/cm3 である人造黒鉛、または真比重が2.23g/cm3 であり、タップ密度が0.8g/cm3 である人造黒鉛を用いて負極10を作製したことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。
実施例2−1,2−2に対する比較例2−1〜2−6として、炭素材料の真比重およびタップ密度を表2に示したように変化させて負極10を作製したことを除き、他は実施例2−1,2−2と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例2−1,2−2および比較例2−1〜2−6について、実施例1−1と同様にして放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表2に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。また、真比重またはタップ密度と、充放電サイクル特性との関係を図9,10に示す。図9,10では、真比重が2.23g/cm3 以上である領域、およびタップ密度が0.8g/cm3 以下である領域は梨子地で表している。
表2および図9,10から分かるように、真比重が2.23g/cm3 以上であり、かつタップ密度は0.8g/cm3 以下である炭素材料を用いた実施例2−1,2−2によれば、これらの範囲外にある炭素材料を用いた比較例2−1〜2−6よりも、放電容量および容量維持率について高い値が得られた。
すなわち、炭素材料の真比重を2.23g/cm3 以上とし、かつタップ密度を0.8g/cm3 以下とすれば、高容量で、優れたサイクル特性を得ることができることが分かった。
(実施例3−1,4−1)
コバルト粉末とスズ粉末とグラファイト粉末との原料比を変えて負極活物質を合成したことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。コバルト粉末とスズ粉末とグラファイト粉末との原料比(質料比)は、実施例3−1では、コバルト粉末:スズ粉末:グラファイト粉末=33.3:56.7:10とし、実施例4−1では、コバルト粉末:スズ粉末:グラファイト粉末=25.9:44.1:30とした。なお、Co/(Sn+Co) 比という)は37質量%とした。また、炭素材料の真比重は2.23g/cm3 、タップ密度は0.8g/cm3 とし、実施例2−2で用いたものと同一のものを用いた。
得られた実施例3−1,4−1の負極活物質について、実施例1−1と同様にして組成の分析を行った。その結果、実施例3−1では、コバルトの含有量は33.0質量%、スズの含有量は56.1質量%、炭素の含有量は9.9質量%であった。また、実施例4−1では、コバルトの含有量は25.6質量%、スズの含有量は43.7質量%、炭素の含有量は29.7質量%であった。更に、これらの負極活物質についてX線回折を行ったところ、2θ=20°〜50°の間に広い半値幅を有する回折ピークが観察された。これらの回折ピークの半値幅を測定したところ、いずれも1.0°以上であった。更にまた、XPSを行ったところ、実施例3−1,4−1では、図7に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析したところ、実施例1−1と同様に表面汚染炭素のピークP2と、負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、ピークP3は、いずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部は、他の元素と結合していることが確認された。
実施例3−1,4−1に対する比較例3−1〜3−6,4−1〜4−6として、炭素材料の真比重およびタップ密度を表3,4に示したように変化させて負極10を作製したことを除き、他は実施例3−1,4−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例3−1,4−1および比較例3−1〜3−6,4−1〜4−6の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表3,4に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表3,4から分かるように、実施例1−1,2−1,2−2と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質における炭素の含有量を9.9質量%以上29.7質量%とすれば、容量および充放電サイクル特性を向上させることができ、この負極活物質と、真比重が2.23g/cm3 以上であり、かつタップ密度は0.8g/cm3 以下である炭素材料とを用いるようにすれば、高容量で、優れた充放電サイクル特性を得ることができることが分かった。
(実施例5−1,6−1)
コバルト粉末とスズ粉末とグラファイト粉末との原料比を変えて負極活物質を合成したことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。コバルト粉末とスズ粉末とグラファイト粉末との原料比(質料比)は、実施例5−1では、コバルト粉末:スズ粉末:グラファイト粉末=27.0:63.0:10とし、実施例4−1では、コバルト粉末:スズ粉末:グラファイト粉末=63.0:27.0:10とした。なお、Co/(Sn+Co) 比は、30質量%、または70質量%とした。また、炭素材料の真比重は2.23g/cm3 、タップ密度は0.8g/cm3 とし、実施例2−2で用いたものと同一のものを用いた。
得られた実施例5−1,6−1の負極活物質について、実施例1−1と同様にして組成の分析を行った。その結果、実施例5−1では、コバルトの含有量は26.7質量%、スズの含有量は62.4質量%、炭素の含有量は9.9質量%であった。また、実施例5−1では、コバルトの含有量は62.4質量%、スズの含有量は26.7質量%、炭素の含有量は9.9質量%であった。更に、これらの負極活物質についてX線回折を行ったところ、2θ=20°〜50°の間に広い半値幅を有する回折ピークが観察された。これらの回折ピークの半値幅を測定したところ、いずれも1.0°以上であった。更にまた、XPSを行ったところ、実施例5−1,6−1では、図7に示したようにピークP1が得られた。ピークP1を解析したところ、実施例1−1と同様に表面汚染炭素のピークP2と、負極活物質中におけるC1sのピークP3とが得られ、ピークP3は、いずれについても284.5eVよりも低い領域に得られた。すなわち、負極活物質に含まれる炭素の少なくとも一部は、他の元素と結合していることが確認された。
実施例5−1,6−1に対する比較例5−1〜5−6,6−1〜6−6として、炭素材料の真比重およびタップ密度を表5,6に示したように変化させて負極10を作製したことを除き、他は実施例5−1,6−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例5−1,6−1および比較例5−1〜5−6,6−1〜6−6の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表5,6に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表5,6から分かるように、実施例1−1,2−1,2−2と同様の結果が得られた。すなわち、負極活物質におけるCo/(Sn+Co) 比を30質量%以上70質量%以下とすれば、容量および充放電サイクル特性を向上させることができ、この負極活物質と、真比重が2.23g/cm3 以上であり、かつタップ密度は0.8g/cm3 以下である炭素材料とを用いるようにすれば、高容量で、優れた充放電サイクル特性を得ることができることが分かった。
(実施例7−1〜7−6)
負極活物質に対する炭素材料の混合量を、表7に示したように10質量%以上60質量%以下の範囲内で変化させたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。その際、炭素材料は、実施例1−1と同様に、真比重が2.24g/cm3 であり、タップ密度が0.6g/cm3 であるものとした。
得られた実施例7−1〜7−6の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表7に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表7から分かるように、放電容量は、負極活物質に対する炭素材料の混合量が増大するに伴い大きくなり、極大値を示したのち低下した。また、容量維持率は、炭素材料の添加量が増大するに伴い大きくなり、ほぼ一定の値を示すようになった。
すなわち、負極10における炭素材料の含有量は、負極活物質に対して15質量%以上50質量%以下の範囲内、特に20質量%以上40質量%以下の範囲内が好ましいことが分かった。
(実施例8−1〜8−6)
負極活物質に対する炭素材料の添加量を、表8に示したように10質量%以上60質量%以下の範囲内で変化させたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。その際、炭素材料は、実施例2−1と同様に、真比重が2.26g/cm3 であり、タップ密度が0.5g/cm3 であるものとした。
得られた実施例8−1〜8−6の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表8に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表8から分かるように、実施例7−1〜7−6と同様の結果が得られた。すなわち、真比重が2.23g/cm3 以上であり、かつタップ密度が0.8g/cm3 以下である要件を満たす他の炭素材料を用いた場合にも、炭素材料の含有量は、負極活物質に対して15質量%以上50質量%以下の範囲内、特に20質量%以上40質量%以下の範囲内が好ましいことが分かった。
(実施例9−1〜9−3)
結着剤としてフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、またはフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体を用いたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例9−1〜9−3の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表9に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表9から分かるように、実施例1−1と同様の結果が得られた。すなわち、結着剤にポリフッ化ビニリデンあるいはフッ化ビニリデンを成分として含む共重合体を用いるようにすれば、好ましいことが分かった。
(実施例10−1〜10−7)
負極合剤における結着剤の混合量を、表10に示したように0.5質量%以上12.0質量%以下の範囲内で変化させたことを除き、他は実施例1−1と同様にして二次電池を作製した。
得られた実施例10−1〜10−7の二次電池についても、実施例1−1と同様にして、放電容量および充放電サイクル特性を調べた。それらの結果を表10に示す。なお、放電容量は、実施例1−1の値を100とした場合の相対値で求めた。
表10から分かるように、放電容量は、負極合剤における結着剤の混合量が増大するに伴い大きくなり、極大値を示したのち低下した。また、容量維持率は、結着剤の混合量が増大するに伴い大きくなり、ほぼ一定の値を示すようになった。
すなわち、結着剤の含有量は、1質量%以上10質量%以下の範囲内、特に2質量%以上5質量%以下の範囲内が好ましいことが分かった。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、シート型,および巻回構造を有する二次電池を具体的に挙げて説明したが、本発明は、コイン型,ボタン型あるいは角型などの外装部材を用いた他の形状を有する二次電池、または正極および負極を複数積層した積層構造を有する二次電池についても同様に適用することができる。
また、実施の形態および実施例では、電極反応物質としてリチウムを用いる場合について説明したが、負極活物質と反応可能であればナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの長周期型周期表における他の1族の元素、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などの長周期型周期表における2族の元素、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、本発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、電極反応物質を吸蔵および放出することが可能な正極活物質あるいは非水溶媒などは、その電極反応物質に応じて選択される。
10…負極、11…負極集電体、12…負極活物質層、21…電池缶、22,23…絶縁板、24…電池蓋、25…安全弁機構、25A…ディスク板、26…熱感抵抗素子、27…ガスケット、30,40…巻回電極体、31,43,62…正極、31A,43A,62A…正極集電体、31B,43B,62B…正極活物質層、32,44…セパレータ、33…センターピン、34,41,61…正極リード、35,42,63…負極リード45,64…電解質層、46…保護テープ、50,65…外装部材、51…密着フィルム、60…電極体。