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JP4908594B2 - 強誘電体材料の分極方向検出装置および分極方向検出方法 - Google Patents

強誘電体材料の分極方向検出装置および分極方向検出方法 Download PDF

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Description

本発明は、強誘電体材料の分極方向を検出する分極方向検出装置および分極方向検出方法に関する。
近年、 情報量の増大から高速且つ大量に情報を蓄積する技術への要求が高まっている。 現在最も広く情報記録に使用されている磁気記録の記録密度は理論限界に近づきつつあり、垂直磁気記録を用いても、1Tbit/inch2の記録密度を達成することが限界だと考えられている。一方、強誘電体は自発分極を持ち、その分極方向は、外部から電界を印加することにより反転させることができる。従って、デジタルデータをこの分極の向きに対応させて情報を記録することができる。また、強誘電体の分域壁は1、2単位格子程度で、強磁性体のそれより格段に薄いことはよく知られており、そのドメインサイズも強磁性体のドメインサイズよりはるかに小さいので、強誘電体の極微細なドメインを人工的に制御できれば超高密度情報記録素子が得られると考えられる。しかし、強誘電材料中の分極は、材料の表面に付着した電子やイオン等の表面電荷によって遮蔽され、これを測定すること、すなわち、記録された情報を読み出すことは困難であった。
強誘電体の分極分布を純電気的に検出する装置として、SNDM(走査型非線形誘電率顕微鏡)が知られている。図1はこのSNDMを応用した公知の強誘電体の分極方向検出装置のブロック図である。この装置は、強誘電体材料の非線形誘電率すなわちプローブ3直下の静電容量Cpを測定することで強誘電体の分極方向を判別するものである。かかる装置において強誘電体材料1の分極方向を検出するには、ステージ2とリングプローブ4およびプローブ3間に外部から交番電界Epを印加する。すると発振器5の発振周波数が交番電界に伴って変化する。このときの符号を含めた発振周波数の変化の割合は、プローブ直下の非線形誘電率すなわち静電容量Cpによって決定されるので、その周波数変化の割合をプローブ3が2次元スキャンすることによって強誘電体材料1の分極分布が検出される。発振器5の周波数変化はFM復調器6で復調した後、PSK復調器7で印加電界の周波数で同期検波することによって検出される。
特開2004−127489号公報
上記した如き構成の装置においては、再生時におけるデータ転送レートの高速化を図ろうとした場合、強誘電体材料に印加する交番電界Epの発振周波数を高く設定する必要がある。しかし、強誘電体材料に高周波の交番電界を印加すると、強誘電体材料に付随した電極等をアンテナとしてノイズが放射されやすい状況となる。このノイズは空中を伝播しインダクタ成分を有する発振器に飛びついて、発振器の出力信号にノイズ成分が重畳し、その結果、信号に歪みが生じることとなる。すると、PSK復調器による同期検波が適切に行われず、強誘電体材料の分極方向の検出感度が低下し、強誘電体材料に記録されたデータの再生精度の悪化を招くこととなる。
本発明は、上記した点に鑑みてなされたものであり、強誘電体材料に比較的高い周波数の交番電界を印加した際に発生するノイズの影響を抑制し、高い信号検出感度を維持することができる強誘電体材料の分極方向検出装置および分極方向検出方法を提供することを目的とする。
本発明の強誘電体材料の分極方向検出装置は、強誘電体の表面に接触若しくは近接して配置されるべき少なくとも1つのプローブと、前記強誘電体に電界信号を供給し前記強誘電体内部における前記プローブ直下のキャパシタ成分に交番電界を印加する電界印加手段と、を含み、前記交番電界印加に伴う前記キャパシタ成分の静電容量変化に基づいて前記プローブ直下における前記強誘電体の分極方向を検出する強誘電体材料の分極方向検出装置であって、前記プローブを介して供給される測定信号から前記交番電界印加に伴う前記静電容量変化に応じた信号レベルを有する検出信号を生成する復調手段と、前記検出信号を同期信号に基づいて同期検波し、前記強誘電体の分極方向に対応した分極方向検出信号を生成する同期検波手段と、前記電界信号の周波数と同一の周波数であり且つ位相および振幅が異なる擬似ノイズ信号を生成する擬似ノイズ信号生成手段と、を含み、前記復調手段は、前記測定信号に含まれるノイズ成分を前記擬似ノイズ信号との信号演算処理によって除去するノイズ成分除去手段を含むことを特徴としている。
また、本発明の強誘電体材料の分極方向検出方法は、少なくとも1つのプローブを強誘電体の表面に接触若しくは近接して配置し、前記強誘電体に電界信号を供給し前記強誘電体内部における前記プローブ直下のキャパシタ成分に交番電界を印加して、前記交番電界印加に伴う前記キャパシタ成分の静電容量変化に基づいて前記プローブ直下における前記強誘電体の分極方向を検出する強誘電体材料の分極方向検出方法であって、前記プローブを介して供給される測定信号から前記交番電界印加に伴う前記静電容量変化に応じた信号レベルを有する検出信号を生成する復調ステップと、前記検出信号を同期信号に基づいて同期検波し、前記強誘電体の分極方向に対応した分極方向検出信号を生成する同期検波ステップと、前記電界信号の周波数と同一の周波数であり且つ位相および振幅が異なる擬似ノイズ信号を生成する擬似ノイズ信号生成ステップと、を含み、前記復調ステップは、前記測定信号に含まれるノイズ成分を前記擬似ノイズ信号との信号演算処理によって除去するノイズ成分除去ステップを含むことを特徴としている。
従来の検出装置の構成を示すブロック図である。 本発明の実施例である強誘電体材料の分極方向検出装置の構成を示すブロック図である。 本発明の実施例であるFM復調器のより詳細な構成を示すブロック図である。 本発明の実施例である信号発生器のより詳細な構成を示すブロック図である。 本発明の実施例である同期検出器のより詳細な構成を示すブロック図である。 本発明の実施例である分極方向検出装置によって生成される各信号のタイミングチャートである。 本発明の第2実施例である強誘電体材料の分極方向検出装置の構成を示すブロック図である。 本発明の第3実施例である強誘電体材料の分極方向検出装置の構成を示すブロック図である。 本発明の第3実施例である直列共振回路の周波数伝達特性を示す図である。 本発明の他の実施例である分極方向検出装置によって生成される各信号のタイミングチャートである。
符号の説明
10 媒体(強誘電体材料)
11 プローブ
20 発振器
30 FM復調器
40 減算器
50 同期検出器
60 低域通過フィルタ
70 信号発生器
80 基準位相発振器
90 位相比較器
100 帯域通過フィルタ
以下、本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。尚、以下に示す図において、実質的に同一又は等価な構成要素、部分には同一の参照符号を付している。
(第1実施例)
図2は、本発明に係る強誘電体材料の分極方向検出装置の構成を示すブロック図である。媒体10は、本発明の分極方向検出装置の測定対象であり、例えばLiTaO等の強誘電体材料からなる。媒体10に外部から抗電界以上の電界を印加することで分極方向を変化させることができ、データに対応させて媒体10の分極方向を定めることによって媒体10にデータ記録を行うことが可能である。すなわち、本発明の分極方向検出装置は、強誘電体材料の分極方向を検出することで媒体10に記録されたデータの再生を行う再生装置として利用することができる。媒体10の分極方向は強誘電体材料の非線形誘電率、つまり媒体内に形成されるキャパシタCの静電容量Cpに反映される。
プローブ11はその先端が媒体10に接触あるいは近接して配置される。媒体10への電界信号V3(t)の印加に伴うプローブ11直下におけるキャパシタCの静電容量Cpの変化は、プローブ11によって読み取られ、記録データの読み出しが行われる。尚、プローブ11と媒体10との相対的な位置の移動は例えば媒体10の形状がディスク状である場合には媒体10が回転することにより行うこととしてもよい。また、媒体10の形状がカード状である場合には探針11と記録媒体10のいずれか一方が直線的に移動することにより行うこととしてもよい。
発振器20は、インダクタLを含み、このインダクタLとプローブ11直下に形成されているキャパシタCとでLC共振回路を構成し、キャパシタCの静電容量Cpの変化によって周波数変調された発振信号V1(t)を生成する。尚、静電容量Cpは例えばpF(ピコファラド)のオーダであり、インダクタLのインダクタンスはnH(ナノヘンリー)のオーダであり、発振信号V1(t)の周波数は数百MHzから数GHzとなるように発振器20は設計されている。発振器20としては、プローブ11およびキャパシタCを含み、キャパシタCの静電容量Cpに応じた発振信号V1(t)を生成する発振ループが形成されていればよい。
FM復調器30は、発振信号V1(t)を局部発振信号との混合により低周波信号に変換し、発振信号V1(t)の周波数f1に応じた電圧レベルを有する周波数検出信号V2(t)を生成する。周波数検出信号V2(t)は、減算器40に供給される。FM復調器30のより詳細な構成については後述する。
信号発生器70は、周波数feの電界信号V3(t)を生成する。電界信号V3(t)は、媒体10の裏面側から供給される。電界信号V3(t)の周波数feにおいて発振器20のインダクタLのインピーダンスは十分小さく、インダクタLの一端は接地されているので周波数feにおいてプローブ11は、接地されているとみなせる。従って、電界信号V3(t)が媒体10の裏面側から印加されると媒体10とプローブ間に交番電界が印加されることとなる。媒体10に交番電界が印加されることによって媒体10の非線形誘電率が変化する。これに伴いプローブ11直下のキャパシタCの静電容量Cpが変化する。交番電界印加に伴う静電容量Cpの変化の態様は、記録媒体10の分極状態によって異なる。具体的には、電界信号V3(t)が正極性のときの静電容量をCpp、負極性のときの静電容量をCpnとすると、記録媒体10の分極方向によってCppとCpnの大小関係が逆転する。換言すれば、電界信号V3(t)の極性変化に伴って、プローブ11直下の静電容量Cpが増加するか減少するかは、媒体10の分極方向によって全く逆の反応を示すのである。本発明に係る強誘電体材料の分極方向検出装置は、電界信号V3(t)の印加に基づく静電容量Cpの変化を検出することによって媒体10の分極方向の検出すなわち媒体10に記録されたデータの再生をなすものである。尚、電界信号V3(t)の印加に伴う静電容量Cpの変化量はaF(アトファラド:10−18F)のオーダであり、極めて僅かな容量変化を検出することとなる。また、電界信号V3(t)の周波数feは、発振信号V1(t)の周波数f1よりも十分小さく、例えば数KHzから数百KHzに設定され、f1>>feの関係が成立している。また、信号発生器70は、電界信号V3(t)と同一の周波数であり、電界信号V3(t)に対し所定の遅延時間が付加された同期信号V4(t)を生成し、これを同期検出器50に供給する。また、信号発生器70は、電界信号V3(t)と同一の周波数を有し、且つ電界信号V3(t)とは振幅および位相が異なるキャンセル信号V5(t)を生成し、これを減算器40に供給する。キャンセル信号V5(t)は、その位相および振幅を調整することにより媒体10への交番電界印加に伴って媒体10より放射されるノイズを略再現したものとなる。信号発生器70の詳細な構成については後述する。
減算器40は、FM復調器30より供給される周波数検出信号V2(t)からキャンセル信号V5(t)を減算する信号演算処理を行う。これにより、周波数検出信号V2(t)に含まれる媒体10への交番電界印加に伴うノイズ成分が除去される。減算器40は、かかる信号演算処理によって得られた信号を補正信号V6(t)として出力し、これを同期検出器50に供給する。
同期検出器50は、同期信号V4(t)に同期して補正信号V6(t)を同期検波し、その結果を検波信号V7(t)として出力し、これを低域通過フィルタ60に供給する。同期検出器50の詳細な構成については後述する。
低域通過フィルタ60は、検波信号V7(t)から電界印加周波数(fe)成分や高調波成分を除去し、再生信号V8(t)を生成する。再生信号V8(t)は、媒体10の分極方向に応じた信号レベルを呈しており、従って再生信号V8(t)が生成されることによって媒体10の分極方向が検出されたことになる。
図3は、FM復調器30のより詳細な構成を示すブロック図である。FM復調器30は、混合器31と、f−v変換器32と、減算器33と、帯域通過フィルタ34と、制御器35と、電圧制御発振器36と、を含む。
混合器31は、例えばダブルバランスドミキサと、低域通過フィルタと、増幅器とを含む(いずれも図示せず)。ダブルバランスドミキサは、発振器20から供給される周波数f1の発振信号V1(t)と、電圧制御発振器36から供給される周波数f2の局部発振信号とを混合することにより互いに周波数が異なる2つのビート信号を生成する。すなわち、ダブルバランスドミキサは、その周波数がf1+f2で示される第1ビート信号および|f1-f2|で示される第2ビート信号を生成する。低域通過フィルタ(図示せず)は、高周波である第1ビート信号を除去し、低周波である第2ビート信号のみを通過させる。第2ビート信号は、上記の如く|f1-f2|で示される信号であり、発振信号V1(t)の周波数f1と局部発振信号の周波数f2との差分に相当する周波数を有する信号である。従って、第2ビート信号は発振信号V1(t)よりも低周波となる。第2ビート信号は、増幅器(図示せず)によって増幅され、周波数変換信号として出力される。つまり、混合器31は、発振器20より供給される発振信号V1(t)の周波数を低周波信号に変換したものを周波数変換信号Δfとして出力するのである。
f−v変換器32は、混合器31で生成された周波数変換信号Δfの周波数(|f1-f2|)に比例した電圧レベルを有するf−v変換信号を生成する。f−v変換器32は、例えばコンパレータと、単安定マルチバイブレータと、低域通過フィルタと、増幅器とにより構成される(いずれも図示せず)。コンパレータは、周波数変換信号Δfと所定の基準レベルとを比較し、周波数変換信号Δfの信号レベルが基準レベルよりも大きいときはデジタル値1を出力し、周波数変換信号Δfの信号レベルが基準レベルよりも小さいときはデジタル値0を出力する。単安定マルチバイブレータは、コンパレータにより2値化判定された信号の立ち上がりエッジをトリガとして一定のパルス幅を有するパルス信号列を発生させる。低域通過フィルタは、周波数変換信号Δfの周波数をキャリア成分として除去するべく通過帯域が設定され、単安定化マルチバイブレータから出力されたパルス列を平均化する。かかるf−v変換器32による信号処理により、混合器31より供給される周波数変換信号Δfはその周波数に応じた電圧信号に変換される。f−v変換器32からのf−v変換信号は、減算器33およびバンドパスフィルタ34にそれぞれ供給される。
帯域通過フィルタ34は、その通過帯域の中心周波数が電界信号V3(t)の周波数feに設定されており、f−v変換信号に含まれる交番電界印加に伴う変化分以外の信号成分、例えばハム等のノイズ成分を不要な成分として除去し、これをFM復調器30の出力信号たる周波数検出信号V2(t)として出力する。
減算器33には、f−v変換器32からのf−v変換信号および目標周波数信号が入力される。目標周波数信号とは、f−v変換信号の目標値を示すものである。減算器33は、f−v変換信号から目標周波数信号を減算し、その結果を誤差信号として出力する。つまり、誤差信号は、f−v変換信号の目標値からのずれ量に応じたものとなる。減算器33によって生成された誤差信号は、制御器35に供給される。
制御器35は、例えば反転積分器によって構成され、減算器33より供給された誤差信号を積分し、f−v変換信号が目標値に一致するべく、誤差信号に対して、位相補償し、位相反転させ、これを制御信号として出力する。すなわち、制御器35は誤差信号が負の場合は制御信号の出力レベルを上昇させ、誤差信号が正の場合には制御信号の出力レベルを下降させる。制御信号は電圧制御発振器50に供給される。
電圧制御発振器36は、例えばインダクタと可変容量ダイオードと能動素子とを含み(いずれも図示せず)、制御器35より供給される制御信号に応じて可変容量ダイオードの容量値を変化させる。その結果、電圧制御発振器36は、制御信号の電圧レベルに応じた発振周波数f2で発振する局部発振信号を出力する。
このように、FM復調器30は混合器31、f−v変換器32、減算器33、制御器35、電圧制御発振器36によってフィードバック制御ループを形成することにより、f−v変換信号が、目標周波数信号と一致するように局部発振信号の周波数が制御される。かかるフィードバック制御によって、例えばプローブ11が媒体10上を移動することによりプローブ11直下のキャパシタCの静電容量Cpが大きく変動し、これに伴って発振信号V1(t)の周波数が大きく変動しても、局部発振信号がその変動に追従するように変化するので周波数変換信号Δfおよびf−v変換器32の出力信号は一定となる。従って、データ再生位置の変化等によって生じた周波数の変動成分は除外され、高精度の信号検出が可能となる。詳述すると、発振信号V1(t)の発振周波数が例えば1GHzの場合、データ再生位置の変化に伴う発振信号V1(t)の周波数変動は、1MHz以上に及ぶ場合がある。混合器31から出力される周波数変換信号Δf(=|f1-f2|)の周波数を数百KHzとして選択した場合、仮にフィードバック制御を行わず局部発振信号の周波数f2を固定値に設定すると、媒体10の再生位置の変化に伴う発振信号V1(t)の発振周波数f1の変化量が周波数変換信号Δfの周波数を上回ることとなり周波数検出が破綻する。そこで、本発明においては、フィードバック制御ループを構成し、周波数変換信号Δfおよびf−v変換信号が一定範囲に収まるように発振信号V1(t)の周波数ずれに追従するように局部発振信号の周波数を制御することにより、再生位置変化等によってプローブ11直下の静電容量Cpが大きく変化した場合でも、安定した周波数検出を行うことが可能となるのである。
次に、図4に信号発生器70のより詳細な構成を示す。水晶発振器71は例えば10MHzの安定した発振周波数のクロック信号を生成し、これを分周器72および後述の位相調整器75および76に供給する。分周器72は入力クロック信号を例えば1/1000に分周し、周波数10KHzの基準周波数信号を出力し、これを帯域通過フィルタ73および位相調整器75および76に供給する。帯域通過フィルタ73は、電界信号V3(t)の発信周波数fe(例えば10KHz)を通過帯域の中心周波数とするバンドパスフィルタであり、分周器72より供給される矩形波状の基準周波数信号を正弦波に成形する。矩形波状の基準周波数信号はそのエッジ部分において多様な周波数成分を含むので、これを電界信号V3(t)として媒体10にそのまま印加すると高精度な信号検出を行う上で好ましくない。そこで、本実施例においては基準周波数信号を帯域通過フィルタ73を通過させ単一周波数成分からなる正弦波に変換することで信号検出感度の向上を図っている。振幅調整器74は、正弦波状に成形された基準周波数信号の振幅およびオフセット電圧を調整し、例えば振幅±5V、周波数10KHzの電界信号V3(t)を生成し、これを媒体10に供給する。振幅調整器74の作用によって、電界信号V3(t)のレベル調整がなされ、媒体10には適切な強度の交番電界が印加されることとなる。具体的には、電界信号V3(t)は、振幅調整器76によって、媒体10に記録されたデータの読出しに必要な振幅レベルであり、かつデータ書き込みには至らない振幅レベルに調整される。
位相調整器75は、シフトレジスタによって構成され、基準周波数信号をクロック信号に従って位相シフトさせることにより同期信号V4(t)を生成する。つまり、同期信号V4(t)は、電界信号V3(t)の出力時から同期検出器50による同期検波までの遅延量に相当する時間Tdだけ、電界信号V3(t)に対して遅延されて出力される。同期信号V4(t)は、同期検出器50に供給される。
位相調整器75も同様に、シフトレジスタによって構成され、基準周波数信号をクロック信号に従って位相シフトさせ、所定の遅延時間が付加される。帯域通過フィルタ77は、電界信号V3(t)の発信周波数fe(例えば10KHz)を通過帯域の中心周波数とするバンドパスフィルタであり、位相調整器76によって位相調整された矩形波状の基準周波数信号を電界信号V3(t)と同じ単一周波数成分からなる正弦波に成形する。振幅調整器78は、帯域通過フィルタ77の出力信号に対して振幅およびオフセット電圧を調整し、これをキャンセル信号V5(t)として出力する。すなわち、キャンセル信号V5(t)は、電界信号V3(t)に対して同一の周波数を有する同一形状の信号であって、位相および振幅が電界信号V3(t)とは異なった信号となる。キャンセル信号V5(t)は、位相調整器76および振幅調整器78によって位相および振幅を調整されることにより、高周波の交番電界の媒体10への印加に伴って媒体10から放射され、発振信号V1(t)等に重畳するノイズ成分を略再現することができる。かかるノイズ成分は、媒体10への交番電界印加に伴って発生するため、電界信号V3(t)と同一の周波数成分からなり、その位相および振幅は、発振器20や媒体10の構成および配置等が固定されていれば概ね安定したものとなる。従って、上記の如く電界信号V3(t)に対して周波数は維持したまま位相および振幅を調整することにより、上記ノイズ成分を擬似的に再現することができるのである。本発明においては、信号発生器70によってこの擬似的に再現した擬似ノイズ信号をキャンセル信号V5(t)として生成している。尚、上記の如く発振器20や媒体10の構成および配置等が固定されていれば、ノイズ成分は位相および振幅が安定しており殆ど変動しないことから、キャンセル信号V5(t)は、固定的なものであってもよいが、何らかのノイズ成分の変動要因、例えば温度変化等に備えて位相および振幅を調整する機構を設けることとしてもよい。
減算器40は、FM復調器30から出力される周波数検出信号V2(t)からキャンセル信号V5(t)を減算することにより、周波数検出信号V2(t)に含まれるノイズ成分を除去し、これを補正信号V6(t)として出力する。このように、本実施例においては、周波数検出信号V2(t)からノイズ成分を除去するべく、減算器40を設け、キャンセル信号V5(t)を減算する構成としているが、加算器で構成することも可能である。この場合、キャンセル信号として上記したものから極性反転させた信号を生成する必要がある。
次に、図5に同期検出器50のより詳細な構成を示す。同期検出器50は、極性反転器51と、アナログスイッチ52と、を含む。減算器40より供給される補正信号V6(t)は、極性反転器51およびアナログスイッチ52にそれぞれ入力される。極性反転器51は、補正信号V6(t)の極性を反転させ、これをアナログスイッチ52に供給する。すなわち、アナログスイッチ52には極性反転器51を介して極性反転された信号と、極性反転器51を介さず元の極性を維持した信号が入力されることとなる。更にアナログスイッチ52には信号発生器70によって生成された同期信号V4(t)が入力される。アナログスイッチ52は、同期信号V4(t)をコントロール信号として例えば同期信号V4(t)が高レベルのときは補正信号V6(t)に反転処理を施さない信号を検波信号V7(t)として出力し、同期信号V4(t)が低レベルのときは補正信号V6(t)に反転処理を施した信号を検波信号V7(t)として出力する。つまり、アナログスイッチ52は、いわゆるチョッパ回路を構成しており、補正信号V6(t)のうちの同期信号V4(t)に同期した成分のみを検出し、検波信号V7(t)として出力する。
次に本発明に係る強誘電体材料の分極方向検出装置の動作について図6に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図6において区間1および区間2は媒体10の分極ドメインを示しており、区間1にはデータ「1」が記録され、区間2にはデータ「0」が記録されているものとする。つまり、記録媒体10は、区間1および区間2において各データに対応した互いに異なる分極状態を呈している。
信号発生器70は、図6に示す如く、周期的にその極性が変動する正弦波状の電界信号V3(t)を媒体10に印加する。これにより、媒体10のプローブ11直下のキャパシタCに交番電界が印加され、交番電界の印加極性に応じてその静電容量Cpが変化する。ここで、電界信号V3(t)が正極性のとき、媒体10には正方向の電界が印加され、このときのキャパシタCの静電容量をCppとし、電界信号V3(t)が負極性のとき、媒体10には負方向の電界が印加され、このときのキャパシタCの静電容量をCpnとする。上記の如く、区間1と区間2とでは、媒体10の分極方向が互いに異なっており、これに起因して区間1ではCpp<Cpnの関係が成立し、区間2ではCpp>Cpnの関係が成立している。このため発振器20より出力される発振信号V1(t)は、区間1においては正方向の電界印加時の方が、負方向の電界印加時に比べ発振周波数が高くなる。一方、区間2においては、正方向の電界印加時の方が、負方向の電界印加時に比べ発振周波数が低くなる。このように、交番電界印加に伴う静電容量Cpの変化は、発振器20によって周波数変化に変換されて発振信号V1(t)として出力される。
FM復調器30は、発振信号V1(t)の交番電界印加に伴う周波数変化を電圧変化に変換し、これを周波数検出信号V2(t)として出力するが、電界信号V3(t)の周波数が比較的高い場合、媒体10の電極等をアンテナとしてノイズが放射され、これが発振器30によって受信された結果、このノイズ成分が発振信号V1(t)に重畳し、図6に示す如くFM復調器30の出力信号である周波数検出信号V2(t)に歪みが生じる。減算器40にはこの歪みが生じた周波数検出信号V2(t)と、信号発生器70によって生成されたキャンセル信号V5(t)が入力される。減算器40は、歪みを有する周波数検出信号V2(t)からキャンセル信号V5(t)を減算することにより歪み成分を抑圧し、これを補正信号V6(t)として出力する。尚、キャンセル信号V5(t)は、補正後の周波数検出信号V2(t)の歪み成分が最小となるように位相および振幅が調整される。歪み成分が除去された周波数検出信号V2(t)すなわち補正信号V6(t)は、電界信号V3(t)に対して時間Tdだけ遅延し、且つ区間1においては正方向の電界印加に対応して高レベルを呈し、負方向の電界印加に対応して低レベルを呈する。一方、補正信号V6(t)は、区間2においては、これとは逆の信号レベルを呈し、正方向の電界印加に対応して低レベルを呈し、負方向の電界印加に対応して高レベルを呈する。信号発生器70は、電界信号V3(t)の印加から同期検波までの遅延量に相当する時間Tdだけ電界信号V3(t)の出力時から遅延させた同期信号V4(t)を生成し、これを同期検出器50に供給する。その結果、補正信号V6(t)は区間1においては同期信号V4(t)と同位相となり、区間2においては逆位相となる。
同期検出器50を構成するアナログスイッチ52は、同期信号V4(t)をコントロール信号として同期信号V4(t)が高レベルのときは極性反転器51を通過せず反転処理が施されていない補正信号V6(t)をそのまま出力し、同期信号V4(t)が低レベルのときは極性反転器51を通過して極性反転された補正信号V6(t)を出力して検波信号V7(t)を生成する。つまり、同期検出器50は、区間1においては、高レベルの補正信号V6(t)に対しては反転処理を施さず、低レベルの補正信号V6(t)に対しては、反転処理を施したものを検波信号V7(t)として出力し、区間2においては、高レベルの補正信号V6(t)に対しては、反転処理を施し、低レベルの補正信号V6(t)に対しては反転処理を施さないものを検波信号V7(t)として出力する。かかる同期検出器50の信号処理によって得られる検波信号V7(t)は、区間1においては正極性の信号のみによって構成され、区間2においては負極性の信号のみによって構成される。
検波信号V7(t)は、低域通過フィルタ60によりキャリア成分が除去され、再生信号V7(t)が生成される。再生信号V7(t)は、区間1において高レベルを呈し、区間2においては低レベルを呈する信号となる。つまり媒体10に記録されたデータ「1」および「0」は、再生信号V7(t)において電圧レベルの違いとして出力され、純電気的に再生される。換言すれば、強誘電体材料の分極方向が純電気的に検出されたことになる。
このように、本発明の強誘電体材料の分極方向検出装置においては、媒体10に交番電界を印加するための電界信号V3(t)に対して同一の周波数を有する同一形状の信号であって、位相および振幅が電界信号V3(t)とは異なったキャンセル信号V5(t)を生成する。キャンセル信号V5(t)はその位相および振幅を調整することにより、高周波の交番電界を媒体10に印加したときに媒体10から放射され、発振信号V1(t)に重畳するノイズ成分を略再現することができる。本発明の強誘電体材料の分極方向検出装置においては、かかるノイズ成分を擬似的に再現した擬似ノイズ信号をキャンセル信号V5(t)として装置内部で生成し、フィードフォワード制御により該ノイズ成分を除去するのである。これにより、強誘電体材料からなる媒体の分極方向を検出する際に比較的高い周波数の交番電界を印加する場合でも、高い信号検出感度を維持することが可能となる。
(第2実施例)
図7に本発明の強誘電体材料の分極方向検出装置の第2実施例を示す。第2実施例の検出装置は、キャンセル信号V5(t)による補正対象となる信号が上記第1実施例と異なる。すなわち、第1実施例の検出装置においては、FM復調器30の後段に減算器40が設けられ、FM復調器30から出力される周波数検出信号V2(t)がキャンセル信号V5(t)による補正対象となっていた。本実施例においては、FM復調器30の周波数制御ループ内で信号補正処理が行われる。すなわち、本実施例の検出装置においては、FM復調器30の周波数制御ループ内に設けられた制御器35の後段に減算器40が設けられ、減算器40には制御器35からの制御信号および信号発生器70からのキャンセル信号V5(t)が入力される。減算器40aは、制御器35より供給される制御信号からキャンセル信号V5(t)を減算し、これを補正信号V6(t)として電圧制御発振器36に供給する。電圧制御発振器36は、通常のフィードバック制御ループに基づく制御偏差と、キャンセル信号V5(t)とによって周波数変調された局部発振信号を生成し、これを混合器31に供給する。尚、本実施例においても、電界信号V3(t)に対して同一周波数を有する同一波形の信号であって、位相および振幅が電界信号V3(t)とは異なる信号をキャンセル信号V5(t)として用いることができる。混合器31は、高周波の交番電界印加に伴って媒体10から放射されたノイズによって周波数変調された発振信号V1(t)と、キャンセル信号V5(t)によって周波数変調がなされた局部発振信号を混合し、周波数変換信号Δfを生成する。このとき、キャンセル信号V5(t)の位相および振幅を適切に調整することにより、ノイズ成分が除去された周波数変換信号Δfを得ることができる。以降の処理は、上記第1実施例と同様である。このように、FM復調器30の周波数制御ループ内部でキャンセル信号V5(t)を用いた信号補正を行うことによってもノイズ成分を除去することが可能であり、上記第1実施例と同様の効果を得ることができる。
(第3実施例)
図8に本発明の強誘電体材料の分極方向検出装置の第3実施例を示す。第3実施例の検出装置は、媒体10の分極方向の検出原理が上記第1および第2実施例と異なっている。すなわち、上記第1および第2実施例の検出装置は、プローブ11直下に形成されるキャパシタCの交番電界印加に基づく静電容量Cpの変化を、キャパシタCを構成要素に持つ発振器を構成することにより周波数変化に変換し、これをFM復調器によって復調することにより、媒体10の分極方向を検出するものであった。本実施例に係る検出装置は、かかる静電容量Cpの変化を、位相変化に変換することにより媒体10の分極方向を検出する構成となっている。具体的には、本実施例の検出装置は、第1実施例における検出装置と比較して発振器20およびFM復調器30が除去され、基準位相発振器80、位相比較器90、帯域通過フィルタ100およびインダクタLが新たに追加された構成となる。以下、本実施例の検出装置について上記第1実施例に係る検出装置と異なる部分を中心に説明する。
プローブ11はその先端が媒体10に接触あるいは近接して配置される。電界信号V3(t)の印加に伴うプローブ11直下におけるキャパシタCの静電容量Cpの変化は、プローブ11によって読み取られ、記録データの読み出しが行われる。プローブ11には、インダクタLが直列接続される。これにより、インダクタL、プローブ11直下のキャパシタCからなる直列共振回路が形成される。
基準位相発振器80は、上記直列共振回路の共振周波数f0で発振する基準位相信号V10(t)を生成し、これを直列共振回路および位相比較器90に供給する。直列共振回路に印加された基準位相信号V10(t)は、インダクタLとプローブ11(キャパシタC)との接続点から共振信号V11(t)として取り出され、位相比較器90に供給される。尚、基準位相発振器80および信号発生器70の出力インピーダンスは、共振周波数f0においてインダクタLおよびキャパシタCのインピーダンスと比較して十分低く、その結果、インダクタLおよびキャパシタCによりQ値の高い直列共振回路が形成される。
位相比較器90は、基準位相信号V10(t)と共振信号V11(t)との位相差に応じた信号レベルを有する出力信号を生成し、これを帯域通過フィルタ100に供給する。位相比較器90は、例えばダブルバランストミキサで構成することができ、乗算器として動作するため入力された2信号の発信周波数が同じ場合、2信号の位相差に対応した直流電圧を出力する。
帯域通過フィルタ100は、信号発生器70より出力される電界信号V3(t)の周波数feを通過帯域の中心周波数とするバンドパスフィルタであり、位相比較器90の出力信号から電界印加周波数成分のみ抽出し、これを位相差信号V12(t)として出力する。位相差信号V12(t)は、減算器40に供給される。
信号発生器70は、上記第1実施例と同様に電界信号V3(t)、キャンセル信号V5(t)および同期信号V4(t)を生成し、これらをそれぞれ媒体10、減算器40、同期検出器50に供給する。尚、電界信号V3(t)の周波数feは、基準位相位相信号V10(t)の周波数に対して十分低く設定される。
減算器40は、帯域通過フィルタ100より供給される位相差信号V12(t)からキャンセル信号V5(t)を減算し、その結果を補正信号V6(t)として出力する。これにより、媒体10へ高周波の交番電界を印加することによって媒体10から放出され、基準位相信号V10(t)等に重畳したノイズ成分によって歪みが生じた位相差信号V12(t)からノイズ成分が除去されて、歪みのない補正信号V6(t)が生成される。補正信号V6(t)は、同期検出器50に供給される。同期検出器50は、同期信号V4(t)に同期して補正信号V6(t)を同期検波し、その結果を検波信号V7(t)として出力し、これを低域通過フィルタ60に供給する。低域通過フィルタ60は、検波信号V6(t)から電界印加周波数(fe)成分や高調波成分を除去し、再生信号V8(t)を生成する。
図9は、インダクタLおよびキャパシタCによって構成される直列共振回路の周波数伝達特性を示したものである。図9に示す如く、直列共振回路の共振周波数f0においてゲインはピークとなり、位相は急激に回転する。ここで、媒体10に交番電界が印加されると、プローブ直下に形成されるキャパシタCの静電容量Cpが変化する。かかる静電容量Cpの変化の態様は、上記したように媒体10の分極方向すなわち記録データに応じて異なる。例えば、印加電界が正極性のときCp=Cpp、負極性のときCp=Cpnとすると、媒体10に記録されたデータが「1」のときCpp<Cpnとなり、媒体10に記録されたデータが「0」のときCpp>Cpnとなる。図9は、媒体10に記録されたデータが「1」であり、Cpp<Cpnの関係が成立している場合の伝達特性を示したものであり、印加電界が正(Cp=Cpp)のときの伝達特性を実線で示し、印加電界が負(Cp=Cpn)のときの伝達特性を点線で示している。この場合、Cpp<Cpnであるから、印加電界が負のときは印加電界が正のときに比べて直列共振回路の共振周波数がΔfだけ低くなり、基準位相信号V10(t)の発振周波数f0における位相はΔΦだけ遅れることとなる。すなわち、共振信号V11(t)は、交番電界の極性が正のときと負のときで、周波数f0における位相がΔΦだけ変化する。一方、媒体10に記録されたデータが「0」の場合においても、交番電界印加に伴う位相変化は生じ、この場合、印加電界が負のときは印加電界が正のときに比べて周波数f0における位相がΔΦだけ進む。つまり、交番電界印加時の共振信号V11(t)の位相変化を検出することにより、媒体10の分極方向を検出でき、記録データの再生が可能となる。本発明に係る分極方向検出装置は、かかる共振信号V11(t)の位相変化を基準位相信号V10(t)との位相比較を行うことにより検出し、媒体10の分極方向の検出すなわち記録データの再生を行うものである。
次に本実施例に係る検出装置の動作について図10に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。図10において区間1および区間2は媒体10の分極ドメインを示しており、区間1にはデータ「1」が記録され、区間2にはデータ「0」が記録されているものとする。つまり、媒体10は、区間1および区間2において各データに対応した互いに異なる分極状態を呈している。信号発生器70は、図10に示す如く、周期的にその極性が変動する正弦波状の電界信号V3(t)を媒体10に印加する。これにより、媒体10のプローブ11直下のキャパシタCに交番電界が印加され、交番電界の印加極性に応じてその静電容量Cpが変化する。ここで、電界信号V3(t)が正極性のとき、媒体10には正方向の電界が印加され、このときのキャパシタCの静電容量をCppとし、電界信号V3(t)が負極性のとき、媒体10には負方向の電界が印加され、このときのキャパシタCの静電容量をCpnとする。上記の如く、区間1と区間2とでは、媒体10の分極方向が互いに異なっている。そして、これに起因して区間1ではCpp<Cpnの関係が成立し、区間2ではCpp>Cpnの関係が成立している。このため、交番電界の印加極性が反転するのに伴って直列共振回路の共振周波数は変化し、これに伴って共振信号V11(t)の位相が交番電界の印加極性に応じて変動する。具体的には区間1においては共振信号V11(t)は、負方向の電界印加時の方が、正方向の電界印加時に比べ位相が遅れる。一方、区間2においては、共振信号V11(t)は、媒体10への正方向の電界印加時の方が、負方向の電界印加時に比べ位相が遅れる。位相比較器90は、基準位相信号V10(t)と共振信号V11(t)の位相差に応じた信号レベルを有する出力信号を生成するが、基準位相信号V10(t)の位相は変動しないので、その出力信号は共振信号V11(t)の位相変動に応じたものとなる。帯域通過フィルタ100は、通過帯域の中心周波数が電界信号V3(t)の周波数feに設定されており、位相比較器90の出力信号から交番電界印加により変化した成分のみを抽出し他の周波数成分をノイズ成分として除去した位相差信号V12(t)を出力する。かかる位相比較器90および帯域通過フィルタ100の信号処理により、位相差信号V12(t)は、区間1においては、媒体10への正方向の電界印加に対応して高レベルを呈し、負方向の電界印加に対応して低レベルを呈し、区間2においては、媒体10への正方向の電界印加に対応して低レベルを呈し、負方向の電界印加に対応して高レベルを呈する。
ここで、媒体10に印加した電界信号V3(t)の周波数が比較的高い場合、媒体10に高周波の交番電界が印加され、媒体10からノイズが放射され、そのノイズが共振信号V11(t)等に重畳し、図10に示す如く、位相差信号V12(t)には歪みが生じる。減算器40にはこの歪みが生じている位相差信号V12(t)と、信号発生器70によって生成されたキャンセル信号V5(t)が入力される。減算器40は、歪みを有する位相差信号V12(t)からキャンセル信号V5(t)を減算することにより歪み成分を抑圧し、これを補正信号V6(t)として出力する。尚、キャンセル信号V5(t)は、補正後の位相差信号V12(t)の歪み成分が最小となるように位相および振幅が調整される。
信号発生器70は、電界信号V3(t)の印加から同期検波までの遅延量に相当する時間Tdだけ電界信号V3(t)の出力時に対して遅延させた同期信号V4(t)を生成し、これを同期検出器50に供給する。その結果、補正信号V6(t)は区間1においては同期信号V4(t)と同位相となり、区間2においては逆位相となる。
同期検出器50を構成するアナログスイッチ52は、同期信号V4(t)をコントロール信号として同期信号が高レベルのときは極性反転器51を通過せず反転処理が施されていない位相差信号V5(t)をそのまま出力し、同期信号が低レベルのときは極性反転器51を通過して極性反転された位相差信号V5(t)を出力して検波信号V7(t)を生成する。つまり、同期検出器50は、区間1においては、高レベルの補正信号V6(t)に対しては反転処理を施さず、低レベルの補正信号V6(t)に対しては、反転処理を施したものを検波信号V7(t)として出力する。一方、同期検出器50は、区間2においては、高レベルの補正信号V6(t)に対しては、反転処理を施し、低レベルの補正信号V6(t)に対しては反転処理を施さないものを検波信号V7(t)として出力する。かかる同期検出器50の信号処理によって得られる検波信号V7(t)は、図10に示すように、区間1においては正極性の信号のみによって構成され、区間2においては負極性の信号のみによって構成される。
検波信号V7(t)は、低域通過フィルタ60によりキャリア成分が除去され、再生信号V7(t)が生成される。再生信号V7(t)は、区間1において高レベルを呈し、区間2においては低レベルを呈する信号となる。つまり媒体10に記録されたデータ「1」および「0」は、電圧レベルの違いとして検出され、純電気的に再生される。換言すれば、強誘電体材料の分極方向が純電気的に検出されたことになる。
上記したように、本実施例においては、プローブ11直下に形成されているキャパシタCを含む直列共振回路を構成し、この直列共振回路に外部から基準位相信号V10(t)を印加するとともに媒体10に交番電界を印加して、直列共振回路のキャパシタC(実際にはプローブ11)とインダクタLの接続点から共振信号V11(t)を抽出し、交番電界印加に伴う共振信号V11(t)の位相変化を基準位相信号V10(t)との位相比較によって抽出することにより、媒体10の分極方向の検出、すなわち記録データの再生を行う。このように、交番電界印加に伴う静電容量変化を位相変化に変換し、これを抽出することによっても媒体10の分極方向を検出することができ、FM復調器30が不要となり、上記第1および第2実施例の検出装置に比べ装置構成を簡略化することができる。そして、かかる検出原理を用いる本実施例の如き装置においても、上記第1および第2実施例の検出装置と同様、高周波の交番電界印加にともなって発生するノイズ成分をキャンセル信号V5(t)を用いて除去することが可能である。
尚、本実施例においては、インダクタLとプローブ直下に形成されるキャパシタCとで直列共振回路を構成する場合を例に説明したが、インダクタLとキャパシタCとで並列共振回路を構成することとしてもよい。

Claims (10)

  1. 強誘電体の表面に接触若しくは近接して配置されるべき少なくとも1つのプローブと、前記強誘電体に電界信号を供給し前記強誘電体内部における前記プローブ直下のキャパシタ成分に交番電界を印加する電界印加手段と、を含み、前記交番電界印加に伴う前記キャパシタ成分の静電容量変化に基づいて前記プローブ直下における前記強誘電体の分極方向を検出する強誘電体材料の分極方向検出装置であって、
    前記プローブを介して供給される測定信号から前記交番電界印加に伴う前記静電容量変化に応じた信号レベルを有する検出信号を生成する復調手段と、
    前記検出信号を同期信号に基づいて同期検波し、前記強誘電体の分極方向に対応した分極方向検出信号を生成する同期検波手段と、
    前記電界信号の周波数と同一の周波数成分を含む擬似ノイズ信号を生成する擬似ノイズ信号生成手段と、を含み、
    前記復調手段は、前記測定信号に含まれるノイズ成分を前記擬似ノイズ信号との信号演算処理によって除去するノイズ成分除去手段を含むことを特徴とする強誘電体材料の分極方向検出装置。
  2. 前記復調手段は、前記プローブと前記キャパシタ成分とを含み、前記キャパシタ成分の静電容量に応じた周波数の発振信号を生成する発振ループと、
    前記発振信号の周波数に応じた信号レベルを有する周波数検出信号を生成する周波数検出器と、を含み、
    前記ノイズ成分除去手段は、前記周波数検出信号から前記擬似ノイズ信号を減算する演算器を含むことを特徴とする請求項1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  3. 前記復調手段は、前記プローブと前記キャパシタ成分とを含み前記キャパシタ成分の静電容量に応じた周波数の発振信号を生成する発振ループと、
    供給される制御信号に応じた周波数の局部発振信号を生成する電圧制御発振器と、
    前記発振信号と前記局部発振信号とを混合し、前記発振信号を低周波信号に変換する混合器と、
    前記低周波信号の周波数に応じた信号レベルを有する周波数検出信号を生成する周波数検出器と、
    前記周波数検出信号の目標値からのずれに応じた信号レベルを有する出力信号を生成する制御器と、を含む制御ループを有し、
    前記ノイズ成分除去手段は、前記制御ループに対して前記擬似ノイズ信号を注入して得た信号を前記制御信号として前記電圧制御発振器に供給する演算器からなることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  4. 前記復調手段は、前記キャパシタ成分と、前記プローブに付随したインダクタ成分と、からなる共振回路と、
    前記共振回路に高周波交流信号を印加する基準位相発振器と、
    前記高周波交流信号の前記共振回路への印加に伴って前記インダクタ成分と前記キャパシタ成分とによる共振により発生した共振信号と前記高周波交流信号との位相差に応じた信号レベルを有する位相差信号を生成する位相比較器と、を含み、
    前記ノイズ成分除去手段は、前記位相差信号から前記擬似ノイズ信号を減算する演算器からなることを特徴とする請求項1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  5. 前記電界信号および前記擬似ノイズ信号は、単一周波数成分からなる正弦波であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  6. 前記電界信号と前記擬似ノイズ信号と前記同期信号とは、前記電界信号の周波数と同一の周波数で発振する共通の基準周波数信号に基づいて生成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  7. 前記擬似ノイズ信号生成手段は、前記基準周波数信号に遅延時間を付加して位相を変化せしめる位相調整器と、
    前記電界信号の周波数と同一の周波数を通過帯域の中心周波数とし、前記基準周波数信号の前記通過帯域以外の周波数成分を遮断する帯域通過フィルタと、
    前記基準周波数信号の振幅を変化せしめる振幅調整器と、を含むことを特徴とする請求項6に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  8. 前記擬似ノイズ信号の位相および振幅は可変であることを特徴とする請求項7に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  9. 前記復調手段は、前記電界信号の周波数と同一の周波数を通過帯域の中心周波数とする帯域通過フィルタを更に含むことを特徴とする請求項2乃至8のいずれか1に記載の強誘電体材料の分極方向検出装置。
  10. 少なくとも1つのプローブを強誘電体の表面に接触若しくは近接して配置し、前記強誘電体に電界信号を供給し前記強誘電体内部における前記プローブ直下のキャパシタ成分に交番電界を印加して、前記交番電界印加に伴う前記キャパシタ成分の静電容量変化に基づいて前記プローブ直下における前記強誘電体の分極方向を検出する強誘電体材料の分極方向検出方法であって、
    前記プローブを介して供給される測定信号から前記交番電界印加に伴う前記静電容量変化に応じた信号レベルを有する検出信号を生成する復調ステップと、
    前記検出信号を同期信号に基づいて同期検波し、前記強誘電体の分極方向に対応した分極方向検出信号を生成する同期検波ステップと、
    前記電界信号の周波数と同一の周波数成分を含む擬似ノイズ信号を生成する擬似ノイズ信号生成ステップと、を含み、
    前記復調ステップは、前記測定信号に含まれるノイズ成分を前記擬似ノイズ信号との信号演算処理によって除去するノイズ成分除去ステップを含むことを特徴とする強誘電体材料の分極方向検出方法。
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