JP4971926B2 - 高強度高導電性二相銅合金圧延条 - Google Patents
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ところが、複相合金の圧延材においては,圧延直角方向の曲げ加工性が圧延平行方向に比べて劣るという問題がある。これは上述した第二相の延伸方向と強度との関係(異方性)に起因する。特に,第二相を微細に分散させて強度を向上させることを目的として複相合金を強加工すると、材料組織の異方性が顕著となり曲げ加工性が低下する。
従って,従来の複相合金は強度と曲げ加工性を両立することができなかった。
つまり、Cu-Fe系複相合金は,溶解が困難であるだけでなく充分な特性が得られず、現実的に製造が困難であるとされている。従来、Feを10%を超えて添加しないと一般の銅合金程度の強度が得られないとされてきた。しかしながら、多量(15%程度)のFeを添加すると溶解温度が高くなり、適切な炉材が少ないと共に、冷却時間が長くなるためにFe晶出物が粗大になるという問題があり、Cu-Fe系合金は実際には製造が困難である。一方、溶解温度を低減するにはFe添加量を 4-6%程度に低減することが有効であるが、この場合には第二相による強度向上効果が不充分となる。
又、本発明の高強度高導電性二相銅合金圧延条は、質量%でFeを4%以上10%以下含有し0.01〜0.5%のMgが合金中に固溶し、残部Cu及び不可避的不純物からなり、0.2%耐力が700MPa以上であって、圧延直角方向の曲げ加工性(MBR/t)が圧延平行方向の曲げ加工性(MBR/t)と同一であり、Cu母相と第二相とからなる。
圧延直角断面から見たとき、隣接する前記第二相の間隔が1μm以下であることが好ましい。
上記銅合金はFeを4%以上10%以下含有する。Feが4%以上含有されるとCu母相中に第二相として晶出し、いわゆる「複相合金」を構成する。Fe含有量が4%未満であるとFeはまったく晶出せず、第二相による複合強化の効果が少ない。
なお、Cu-Fe系合金として報告された文献においては、Fe10-30%まで添加した例がほとんどであり、強度はFe濃度に比例して高くなる傾向が見られる。しかしながらFe濃度が高くなるにつれて溶解温度が高くなり,晶出相が粗大になるため、Fe濃度が10%を超えても強度はほとんど向上せず効果が飽和する。
そこで本発明においては,合金中にMgを固溶させることにより、合金の強度及び曲げ加工性の向上に成功した。
第二相は、Cu及び他の化学成分を含む合金溶湯から鋳造時にこれらの元素が晶出したものであり、晶出の際、第二相にFeが多く分配される。Cu,Feは互いに固溶する元素であり,Cu母相中に晶出する第二相はCuとFeを含むが、X線による定性分析によれば、第二相中のFe濃度は約80%以上と考えられる。但し、これに限定されるものではない。
又、第二相は,Cu母相内に例えば針状に晶出するが,晶出形態はこれに限定されない。第二相は、最終工程終了後の圧延組織の断面を研磨した後、SEM(走査型電子顕微鏡)のBSE(反射電子)像により、母相と異なる組成として観察することができる。組織が観察しにくい場合は、エッチング又は電解研磨を行ってもよい。
0.01〜0.5%のMgを合金中に添加すると、Mgが主にCu母相に固溶し、溶解鋳造時に晶出相を微細化する.微細化された晶出相は加工によって延伸し,さらに相間の界面積が増大することで高強度が得られる.その際,固溶したMgは第二相を延伸しやすくする効果がある。Mgは状態図から見て、第二相にはほとんど固溶せず、本発明の合金を実際にEPMAを用いた特性X線分析したところ、Mgが検出限界以下であったことを本発明者らは確認している。MgはFe晶出物(第二相)を微細化する。Mgの添加濃度を0.01〜0.5%とする。Mgの添加濃度が0.01%未満であると、Fe第二相を微細化する効果が得られず、0.5%を超えるとMgがCu母相へ固溶し難くなって酸化物(MgOなど)として晶出する。なお、Mgの添加濃度が0.3%を超えると粗大な粒子(酸化物、ノロ)が発生して曲げ加工性の劣化を招くと共に、この粗大粒子の粒径が第二相間の間隔よりも大きいため第二相を分断し,結果的に第二相の延伸を抑制してしまうため,強度が低下する。従って、好ましくはMg の含有量を0.3%以下とする。
又、波長分散型(WDS;Wave-length Dispersive Spectroscopy)のEPMAを用いて、合金の定量分析を行うこともできる。
なお、同一供試材においても析出物の含有割合には、ばらつきがある。そこで、例えば1つの合金試料において50点に対し固溶元素の含有割合を測定し,その最大値を固溶元素の含有割合とすることができる。
なお、上記したように、本発明においては、Mgによる微細化効果によって、充分な強度と導電性が得られる。
これらの不純物としては、Gd,Y,Yb,Nd,In,Pd,Teを挙げることができる。
iii)については,従来の複相合金と同様、加工度を大きくすればよく、複相合金に通常用いられる加工度で十分な強度が得られる。例えば,加工度80%以上とすると、0.2%耐力で700MPa程度まで高強度化される。但し、本発明においては、Mgによる晶出物の微細化効果により,低加工度でも高強度が得られる。
図1において、圧延直角断面から見たとき、第二相の厚み(圧延方向の第二相長さに相当)t1とし、隣接する第二相の間隔(圧延方向の距離)をdとする。圧延直角断面とは、圧延直角方向Tに沿い圧延表面に垂直な面で圧延材を切断した時の断面をいう。圧延平行方向は、例えば圧延表面に形成された圧延ロールの目を圧延平行方向と定めればよい。
第二相の厚みt1が小さくなるほど、強度が高くなる。又、dは、圧延加工度を高くすることで小さくすることができる。但し、本発明においては、Mgによる晶出物の微細化効果により、加工度を過度に高くする必要はないが,加工度を高くすることでより大きな効果が得られる。
本発明の合金の場合、t1を1μm以下とすることで、より高い強度が得られ、t1を0.3μm以下とするとさらに好ましい。
又、上記したように、圧延直角断面から見て、隣接する第二相の間隔dが小さいほど高強度が得られるため、dを1μm以下とすることが好ましい。厚さt1が減少するのと同様の理由により、強度は界面積に依存する。すなわち,組織写真上の第二相の積層方向(圧延による圧下がかかる方向)に垂直に線を引いた際、この線を通過する母相と第二相(リボン状組織)の界面の数に強度が依存する。そして、加工した際に第二相がすべて剪断されるだけの強度がこの材料の強度を示し、上記界面の数が多いほど強度が高くなると考えられる。
dを0.2〜0.65μm以下とするとさらに好ましい。
電気銅又は無酸素銅を主原料とし、上記化学成分その他を添加した組成を溶解炉にて溶解し、インゴットを作製する。インゴットを例えば均質化焼鈍、熱間圧延、冷間圧延、焼鈍、冷間圧延、焼鈍(歪取焼鈍)を順次行うことで、圧延材が得られる。冷間圧延は、例えば総加工度95%以上で行うことが好ましい。但し、製造方法は上記に限定されない。
本発明の銅合金は、ばね用材料(条)、箔等の種々の形態とすることができる。例えば、本発明の銅合金をばね材用の条とした場合、コネクタ等の電子機器に適用可能である。コネクタとしては、公知のあらゆる形態、構造のものに適用できるが、通常はオス(ジャック、プラグ)とメス(ソケット、レセプタクル)からなっている。端子は、例えば串状の多数のピンが並設され、他のコネクタと嵌合した際に端子同士が電気的に接触するよう、適宜折り曲げられてバネのようになっていることがある。そして、通常、コネクタの端子が上記電子機器用銅合金で構成されている。
以上のように、本発明の銅合金は、端子,コネクタ,スイッチ,リレー等の電気・電子機器用のばね材として有効である。
電気銅に表1、表2に示す組成の元素をそれぞれ添加して真空溶解してインゴットを鋳造し、これを800℃の温度で3時間の条件で均質化焼鈍し、950℃で溶体化処理後、熱間圧延を施した。さらに面削して冷間圧延を行い、仕上げ冷間圧延を行い、板厚0.080mmのばね材用試料を作製した。冷間圧延の総圧延加工度を99.7%とした。なお、必要に応じて最後に歪取焼鈍を行った(500℃で15秒)。歪取焼鈍を行うことで曲げ加工性が向上する。
又、第二相の形態(厚みt1、d)は、試料の断面SEMのBSE像から求めた。析出物の粒径は、最終冷間圧延前の合金条を圧延方向に平行に厚み直角に切断し、断面の析出物を走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡により10視野観察して求めた。
合金中の固溶元素の含有割合の測定方法は、試料の断面を波長分散型(WDS;Wave-length Dispersive Spectroscopy)のEPMA(日本電子株式会社製のFE-EPMA)により分析して求めた。この場合、予め、各元素の純物質に対して検量線を作成しておき、定量を行った。
(1)強度の評価
JIS-Z2241に従い、試料の引張強度を測定し、0.2%耐力(YS:yielding strength)を求めた。試料はJISに従って作製した。
(2)導電性の評価
四端子法にて、試料の導電率を求めた。単位の%IACS(international annealed copper standard)は、焼鈍標準軟銅に対する電気伝導度の比である。ただし、合金に上記添加元素(Sn等)を含む場合,導電率が低下するので、添加元素を含まない場合は50%IACS以上,添加元素を含む場合は45%IACS以上であれば、導電性が良好であると評価した。
日本伸銅協会技術標準(JBMA T307)に従ってW曲げ試験を行った。圧延直角方向に延びる10mm幅の試料(t:試料厚さ)について最小曲げ半径(MBR)を求めた。基準例のMBR/tは1程度であり、MBR/tの値が小さいほど曲げ加工性が良好である。
特に、最後に歪取焼鈍を行った実施例1、9、10、14、15の場合、圧延直角方向の曲げ加工性が著しく向上した。
Mgを含まない比較例2の場合、第二相が粗大化し(厚さ3.4μm以上)、強度が低下した。
Mgの含有量が0.5%を超えた比較例5、7の場合、酸化物が大量に発生して100nmを超える粗大粒が析出し、曲げ加工性が低下した。
Mgを含有しなかった比較例6の場合、強度が低下した。
4 第二相
Claims (4)
- 質量%でFeを4%以上10%以下含有し0.01〜0.5%のMgが合金中に固溶し、残部Cu及び不可避的不純物からなり、0.2%耐力が700MPa以上であって、圧延直角方向の曲げ加工性(MBR/t)が1以下であり、Cu母相と第二相とからなる高強度高導電性二相銅合金圧延条。
- 質量%でFeを4%以上10%以下含有し0.01〜0.5%のMgが合金中に固溶し、残部Cu及び不可避的不純物からなり、0.2%耐力が700MPa以上であって、圧延直角方向の曲げ加工性(MBR/t)が圧延平行方向の曲げ加工性(MBR/t)と同一であり、Cu母相と第二相とからなる高強度高導電性二相銅合金圧延条。
- 圧延直角断面から見たときの前記第二相の厚みが1μm以下である請求項1又は2に記載の高強度高導電性二相銅合金圧延条。
- 圧延直角断面から見たとき、隣接する前記第二相の間隔が1μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の高強度高導電性二相銅合金圧延条。
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