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JP4965761B2 - 水素吸蔵合金とその製造方法、およびそれを用いたニッケル−水素二次電池 - Google Patents

水素吸蔵合金とその製造方法、およびそれを用いたニッケル−水素二次電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マグネシウム、ニッケルおよびR元素(R元素:Yを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種)を主要構成元素とする水素吸蔵合金とその製造方法、およびそれを用いたニッケル−水素二次電池、さらにはニッケル−水素二次電池の応用装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ニッケル(Ni)−水素二次電池としては、CaCu5型結晶を主相とする希土類−Ni系金属間化合物であるLaNi5系の水素吸蔵合金、あるいはTi、Zr、VおよびNiを構成元素として含有するラーべス相を主相とする水素吸蔵合金を含む負極を備えた構造のものが実用化されている。
【0003】
希土類−Ni系金属間化合物は、LaNi5系以外にも多数存在としている。例えば、希土類元素をAB5型よりも多量に含む金属間化合物が、AB5型よりも常温付近で多量の水素を吸蔵する合金として知られている。また、希土類−Ni系合金の希土類元素の一部をMgで置換した組成を有するMg−Ni−希土類系合金は、多量の水素ガスを吸蔵することが報告されている。
【0004】
上記したMg−Ni−希土類系合金のうち、例えばLa1-xMgxNi2系合金は水素との安定性が高いために、水素の放出速度が非常に小さいという問題を有している。また、特開平11-217643号公報には、Mg2LaNi9組成でPuNi3型結晶構造を有する水素吸蔵合金が記載されているが、このMg−Ni−希士類系合金も水素吸蔵量は多いものの、水素の放出速度が非常に小さいという問題を有している。
【0005】
一方、特開平11-323469号公報には、Mg、Niおよび希土類元素を主要構成元素とし、LaNi5系水素吸蔵合金に比べて体積および質量当りの水素吸蔵量がいずれも多く、かつラーベス相系水素吸蔵合金より活性化が速く、高率充放電特性に優れている水素吸蔵合金が記載されている。このような水素吸蔵合金を負極材料として用いることによって、LaNi5系水素吸蔵合金を含む負極を備えた二次電池に比べて高容量で、しかもラーベス相系水素吸蔵合金を含む負極を備えた二次電池よりも優れた高率充放電特性を有する二次電池(Ni−水素二次電池)を製造することが可能となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、従来のMg、Niおよび希土類元素を主要構成元素とする水素吸蔵合金(特開平11-323469号公報記載の水素吸蔵合金)は、比較的大きな水素吸蔵量を有するものの、その主要な用途であるNi−水素二次電池のさらなる高容量化などを実現する上で、可逆的水素吸蔵量をより一層高めることが求められている。さらに、従来の水素吸蔵合金は水素の吸蔵・放出を繰り返すと可逆的水素吸蔵量が低下するという問題を有しており、例えばNi−水素二次電池の負極材料として用いた際に、充電容量の経時的な低下を招いてしまう。
【0007】
Ni−水素二次電池は、リチウムイオン二次電池などに比べて電池容量の点で優れていることから、ハイブリッド自動車(ハイブリッドカー)や電気自動車などの駆動電源として期待されており、一部で実用化されている。これらNi−水素二次電池の応用装置については、駆動電源の高容量化と高寿命化を両立させることが強く望まれている。
【0008】
本発明はこのような課題に対処するためになされたもので、Mg、Niおよび希土類元素を主要構成元素とする合金の可逆的水素吸蔵量をより一層向上させ、さらには水素の吸蔵・放出に伴う可逆的水素吸蔵量の低下を抑制することを可能にした水素吸蔵合金とその製造方法を提供することを目的としており、またそのような水素吸蔵合金を負極材料として用いることによって、高い電池容量と充放電の繰り返しに耐え得る寿命特性を共に満足させたNi−水素二次電池、およびそれを駆動電源とする応用装置(ハイブリッド自動車や電気自動車など)を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の水素吸蔵合金は、請求項1に記載したように、
一般式:(Mg1−x)(Ni1−y …(1)
(式中、RはYを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を、TはCo、Mn、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、Cr、Ti、V、NbおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x、yおよびzはそれぞれ0.3≦x≦0.95、0.005≦y≦0.8、3.0<z<4.5を満足する数である)で表される組成を有する水素吸蔵合金であって、前記合金の組織内に存在する上記一般式の範囲外である組成外析出相の面積比が1〜20%であり、前記合金は、平均粒子径が50〜200μmの範囲の粉体からなり、前記合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が3〜30体積%、粒子径250μm以上の成分が1〜10体積%の粒度分布を有することを特徴としている。
【0010】
このように、本発明の第1の水素吸蔵合金においては、組成外析出相(上記した(1)式の組成範囲外の析出相)の析出量を大幅に低減しているため、(1)式で表される水素吸蔵合金の本質的な特性、すなわち大きな可逆的水素吸蔵量を十分に発揮させることができる。従って、上記した組成を有する水素吸蔵合金の可逆的水素吸蔵量をより一層高めることができると共に、その再現性を大幅に向上させることが可能となる。このような水素吸蔵合金は、後述する本発明の製造方法を適用することで安定して得ることができる。
【0012】
また、このような平均粒子径並びに粒度分布によって、水素吸蔵合金の容量特性とサイクル特性(寿命特性)を両立させることが可能となる。
【0013】
本発明の水素吸蔵合金の製造方法は、請求項に記載したように、上記した(1)式で表される組成を有する水素吸蔵合金の製造方法において、前記合金に対して800℃以上で前記合金の融点より10℃低い温度以下の温度範囲で熱処理した後、前記熱処理温度から500℃までを5〜1000℃/分の温度勾配で冷却する熱処理工程を有することにより、上記一般式の範囲外である組成外析出相の面積比を1〜20%にするとともに、前記熱処理後の合金を、平均粒子径が50〜200μmの範囲となるように粉砕して粉体化する工程を有し、前記粉砕後の合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が3〜30体積%以下、粒子径250μm以上の成分が1〜10体積%以下の粒度分布を有することを特徴としている。さらに、上記した熱処理温度での処理時間は、請求項に記載したように、0.5〜100時間の範囲とすることが好ましい。
【0015】
上述したように、Mg、NiおよびR元素を主要構成元素とする水素吸蔵合金の熱処理温度、熱処理時間、熱処理後の冷却速度などを所定の範囲に制御することによって、合金組成を均質化して偏析などの発生を抑制することができる。具体的には、上述した組成外析出相の量を大幅に低減することができる。従って、可逆的水素吸蔵量が大きい水素吸蔵合金を再現性よく得ることが可能となる。さらに、このような水素吸蔵合金を例えば平均粒子径が50〜200μmの範囲となるように粉砕することによって、サイクル特性(寿命特性)も向上させることができる。
【0016】
本発明のニッケル−水素二次電池は、上記した水素吸蔵合金を負極材料として有するものであって、請求項に記載したように、水素吸蔵合金を含む負極と、前記負極とセパレータを介して配置され、ニッケル酸化物を含む正極と、前記負極、セパレータおよび正極を収容する電池缶と、前記電池缶内に充填される電解液とを具備するニッケル−水素二次電池において、前記負極は上記した本発明の水素吸蔵合金を含むことを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明のニッケル−水素二次電池の応用装置、すなわちハイブリッド自動車は請求項に記載したように、駆動電源を有する電気駆動手段と、燃焼駆動手段とを具備するハイブリッド自動車において、前記駆動電源は上記した本発明のニッケル−水素二次電池を有することを特徴としている。本発明の電気自動車は請求項に記載したように、駆動電源として二次電池を有する電気自動車において、前記二次電池は上記した本発明のニッケル−水素二次電池からなることを特徴とするものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0019】
本発明の水素吸蔵合金は、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)およびR元素を主要構成元素として含む合金からなるものであって、
一般式:(Mg1−x)(Ni1−y …(1)
(式中、RはYを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を、TはCo、Mn、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、Cr、Ti、V、NbおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x、yおよびzはそれぞれ0.3≦≦0.950.005≦≦0.8、3.0<z<4.5を満足する数である)で表される組成を有するものである。
【0020】
上述したような組成を有する水素吸蔵合金は、LaNi5系の水素吸蔵合金などに比べて、例えば120%以上の水素吸蔵量を示すものである。ここで、上記した(1)式において、R元素は水素吸蔵能を担い、かつNiおよびその置換元素(T元素)と水素の吸蔵・放出を行うのに適した結晶構造を形成するものである。R元素としてはYを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を用いることができるが、特に希土類元素(R1)を使用することが好ましい。
【0021】
さらに、水素吸蔵合金を高性能化する上で、R元素にはLa、Ce、Pr、NdおよびYから選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましい。また、希土類元素はその単体に限らず、希土類混合物であるミッシュメタルを用いることができ、これにより水素吸蔵合金の低コスト化などを図ることができる。このようなミッシュメタルとしては、例えばCeリッチなミッシュメタル(Mm)やLaリッチなミッシュメタル(Lm)などを挙げることができる。
【0022】
Mgに対するR元素の置換量xは0.3以上0.95以下の範囲とする。R元素による置換量xをこのような範囲にすることによって、Mg−Ni−R系合金の水素吸蔵・放出量を高めると共に、初期活性化を向上させることができる。置換量xは0.4〜0.93の範囲とすることが好ましい。R元素による置換量xを0.4以上とすることで、より大きな水素吸蔵量を得ることができる。一方、置換量xを0.93以下とすることによって、水素の放出特性を向上させることができる。
【0023】
また、上述したR元素のうち、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素(R2元素)は、希土類元素(R1)と同様な効果が期待できる元素であるが、さらに希土類元素(R1)と併用することによって、合金の水素吸蔵量を著しく減少させることなく、水素放出速度などを高めることができると共に、水素の吸蔵・放出に伴う合金の微粉化を抑制することが可能となる。このようなR2元素によるMgの置換量は0〜0.4の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜0.3の範囲である。
【0024】
このようなことから、本発明の水素吸蔵合金は、
一般式:(Mg1-a-bR1aR2b)(Ni1-yyz …(2)
(式中、R1はYを含む希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素を、R2はZr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、aおよびbはそれぞれ0.3≦a≦0.95、0≦b≦0.4、0.3≦a+b≦0.95を満足する数である。これら以外は(1)式と同じである)
で実質的に表される組成を有することがさらに好ましい。
【0025】
上記した(1)および(2)式において、T元素は合金内に侵入した水素の拡散や表面での触媒作用を高める成分である。Ni成分の一部を上記したT元素、すなわちCo、Mn、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、Cr、Ti、V、NbおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素で置換することによって、合金の水素吸蔵・放出速度を向上させることができる。これは、T元素が発熱的に水素と反応しない元素、すなわち自発的に水素化物を作りにくい元素であることから、T元素の添加により水素吸蔵合金の吸蔵・放出が容易になることなどに起因するものと推測される。さらに、Ni−水素二次電池のサイクル特性を改善することも可能となる。
【0026】
このような置換効果は、T元素による置換量yが0.005以上の範囲から得ることができる。ただし、Ni成分のT元素による置換量yが0.8を超えると、Mg−Ni−R系合金の結晶構造が著しく変化して、合金本来の特性が損われるおそれがある。従って、置換量yは0.005以上0.8以下の範囲とする。置換量yは0.005〜0.5の範囲とすることが好ましい。
【0027】
上記した(1)式および(2)式で示されるMg−Ni−R系合金において、NiとT元素の合計含有量z(原子比)は3.0を超え4.5未満の範囲とする。このように、NiとT元素の合計含有量zを、3.0を超え4.0未満の範囲とすることによって、合金の水素吸蔵・放出量、初期活性化などの水素吸蔵・放出特性が著しく向上し、大きな放電容量を得ることが可能となる。NiとT元素の合計含有量zは3.2〜4.4の範囲とすることがより好ましく、さらに望ましくは3.2〜3.8の範囲である。
【0028】
さらに、本発明の水素吸蔵合金は、その母結晶がCe 型結晶相、GdCo型結晶相、PuNi型結晶相、および類似の結晶構造を有する相から選ばれる少なくとも1つの結晶相を含む構造を有する合金であることが好ましい。なお、ここで言う類似の結晶構造とは、X線回折パターンにおいて各結晶系の面指数で指数付けが可能な結晶構造を意味する。
【0029】
上述した結晶相のうち、Ce 型の結晶構造もしくは類似の結晶構造は六方晶系に属するものであり、またGdCo型の結晶構造やPuNi型の結晶構造、もしくはこれらに類似の結晶構造は菱面体晶系に属するものである。そして、Mg−Ni−R系合金の母結晶が上記したような結晶構造を有する場合に、特に良好な水素吸蔵量を得ることができる。
【0030】
本発明の水素吸蔵合金は、上述したような組成を有するMg−Ni−R系合金の組織内に存在する組成外析出相の量を低減したものであり、具体的には合金組織内に存在する組成外析出相の量を面積比で30%以下としている。ここで、本発明で規定する合金組織は、上記した(1)式や(2)式で表される組成範囲内の相(母結晶相)を主とし、この合金相(主相)内に析出した組成外析出相、すなわち上記した(1)式の組成範囲から外れる析出相の量(析出量)を面積比で30%以下としたものである。なお、析出相であっても組成が本発明の範囲内であれば、主相としての合金相と同一の効果を有するものと見なすことができる。
【0031】
このように、本発明の組成範囲内の合金相に比べて水素吸蔵能力が劣る組成外析出相の量を低減することによって、上記した(1)式や(2)式で表される組成を有するMg−Ni−R系合金の特性、すなわち可逆的水素吸蔵量が大きいという特性を十分に発揮させることができる。従って、上記した組成を有する水素吸蔵合金の可逆的水素吸蔵量をより一層高めることができると共に、その再現性を大幅に向上させることが可能となる。このような合金組織を有する水素吸蔵合金は、後に詳述する本発明の製造方法を適用して、MgやT元素などの偏析を抑制し、組織を均質化することによって、再現性よく得ることができる。
【0032】
組成外析出相の析出量が面積比で30%を超えると、この水素吸蔵能力が劣る組成外析出相の特性が水素吸蔵合金に大きく影響を及ぼすことになり、水素吸蔵合金全体としての可逆的水素吸蔵量などが低下することになる。すなわち、上記した(1)式や(2)式で表される組成を有するMg−Ni−R系合金本来の特性を十分に発揮させることができない。これによって、Mg−Ni−R系合金を負極材料として用いたNi−水素二次電池の容量低下などを招くことになる。合金組織内における組成外析出相の析出量は、面積比で20%以下とすることがより好ましい。
【0033】
上述した組成外析出相の面積比は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された反射電子像のコントラストや、X線マイクロアナライザー(EPMA)のマッピングの元素の濃淡などに基づいて測定、評価することができる。特に簡便なSEMによる反射電子像を用いることが好ましい。組成外析出相と組成内合金相(組成内析出相を含んでいてもよい)とは、例えばエネルギー分散X線分光法(EDX)で組成を評価することにより判定することができる。組成外析出相の面積比は、反射電子像で観察された平面写真の全体面積に対するコントラストの異なる組成外析出相の面積の比から求められる。
【0034】
図1は水素吸蔵合金のSEM観察による反射電子像の一例を模式的に示す図である。図1はマトリックスとしての組成内合金相1中に、それとはコントラストが異なる組成外析出相2が存在していることを示している。このような反射電子像で観察された平面写真において、[(組成外析出相2の面積)/(観察範囲全体の面積)×100(%)]を算出することにより、組成外析出相2の面積比が求められる。
【0035】
ここで、図1において、3は組成が本発明の範囲内である析出相(組成内析出相)であり、これは組成内合金相1の一部として見なすものとする。また、観察範囲内に空孔4などが存在する場合には、その面積を観察範囲全体の面積から差し引いて、組成外析出相2の面積比を求めるものとする。また、SEMの測定倍率は、SEMで観察した反射電子像写真において、組成外析出相2の面積が計測しやすい大きさであれば任意の倍率でよいが、好ましくは100〜1000倍の範囲である。ただし、測定数は精度に関わるため、3〜10回程度測定し、これらの平均値として求めることが好ましい。
【0036】
上述したような本発明の水素吸蔵合金は、例えば平均粒子径が50〜200μmの範囲の粉体として用いられる。この水素吸蔵合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が30体積%以下、粒子径250μm以上の成分が10体積%以下の粒度分布を有することがさらに好ましい。本発明の水素吸蔵合金は、上記したような粒子形状を有する粉体として用いることによって、大きな可逆的水素吸蔵量に加えて、水素の吸蔵・放出に伴う可逆的水素吸蔵量の低下を抑制することが可能となる。すなわち、放電容量とサイクル特性を両立させることができる。
【0037】
水素吸蔵合金粉体の平均粒子径が50μm未満であると、放電容量は増えるものの、サイクル特性が短くなる傾向にある。つまり、平均粒子径が小さいと粉末の比表面積が大きくなり、アルカリ電解液中に溶出する合金成分が増えるため、サイクル特性が短くなると推測される。一方、水素吸蔵合金粉体の平均粒子径が200μmを超えると、放電容量が減少する傾向にある。つまり、平均粒子径が大きいと粉末の比表面積が小さくなり、触媒活性能力が低くなって水素の吸蔵量が減少するものと推測される。
【0038】
本発明による水素吸蔵合金粉体は、後述するように、所定の製造工程を経た合金材を粉砕することにより得ることができ、このような粉砕粉末は必ず大きさの分布を持つ多数の粒子群からなっている。本発明の合金粉末において、平均粒子径が50〜200μmの範囲であったとしても、粒子径22μm以下の成分が30体積%を超えて含まれていると、同様な理由からサイクル特性が短くなる傾向にある。一方、粒子径250μm以上の成分が10体積%を超えて含まれている場合には、放電容量が減少する傾向にある。このようなことから、本発明の水素吸蔵合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が30体積%以下、粒子径250μm以上の成分が10体積%以下の粒度分布を有することが好ましい。
【0039】
本発明の水素吸蔵合金粉体の平均粒子径は50〜150μmの範囲であることがより好ましい。また、水素吸蔵合金粉体の粒度分布は、粒子径22μm以下の成分が25体積%以下、粒子径250μm以上の成分が8体積%以下であることがより好ましい。このような粉末は分級して得るようにしてもよい。なお、水素吸蔵合金粉体の平均粒子径は、粉体の粒度分布を測定した場合に、粒子の累積が50体積%(D50体積%)のときの粒子径を示すものとする。粉体の粒度分布は、レーザ回折・散乱法により測定することが好ましい。
【0040】
上述したように、(1)式や(2)式で示される組成を有するMg−Ni−R系合金において、組成外析出相の面積比を30%以下とし、さらに粉体の平均粒子径や粒度分布を上記したような範囲とすることによって、可逆水素吸蔵量を増加させることができると共に、水素の吸蔵・放出に伴う結晶格子の膨張・収縮を抑え、合金の微粉化を低減することで、経時的な可逆的水素吸蔵量の低下を抑制することが可能となる。すなわち、水素吸蔵合金の容量特性と寿命特性を共に向上させることが可能となる。
【0041】
次に、本発明の水素吸蔵合金の製造方法について述べる。
【0042】
本発明の水素吸蔵合金の製造方法は、合金組成を均質化して偏析を少なくすることで、組成外析出相の量を低減することを可能にしたものである。合金の製造は、通常の鋳造法にしたがって実施される。例えば、まずR元素(例えば希土類元素)とMgを所望の組成比となるように秤量し、例えばアルゴンガス雰囲気のような不活性ガス雰囲気中でマグネシアるつぼなどを用いて高周波誘導加熱により溶解し、この溶湯を金型などに鋳造してMg−R系母合金を作製する。
【0043】
次に、上記したMg−R系母合金とNiおよびR元素などを用いて、これらを所望のMg−Ni−R系合金組成となるように秤量し、これを鋳造して合金化する。鋳造にあたっては、まずNiのみを真空中で高周波誘導加熱により溶解した後、炉内をアルゴンガス雰囲気のような不活性ガス雰囲気中とし、Mg−R系母合金やR元素を添加して溶解し、この合金溶湯を金型などに鋳造することによりMg−Ni−R系合金を作製する。鋳造後の冷却は、合金内部の偏析を抑制する上で水冷回転鋳型などを用いて行うことが好ましい。
【0044】
また、合金化の手法としては、上記したMg−Ni−R系合金溶湯を100℃/sec以上の速度で冷却して凝固させる急冷法を適用することも可能である。具体的には、Mg−Ni−R系合金をその溶融状態から高速移動する冷却体上に射出して、板厚10〜300μm程度の薄帯を得る方法が挙げられる。このような急冷法としては、単ロール法や双ロール法が挙げられる。これらの方法では溶湯温度、冷却ロールの材質や表面性、冷却ロールの回転数、冷却ロールの冷却水温、ノズル径、ガス圧などの条件を適宜設定することによって、合金を安定して製造することができる。また、単ロール法や双ロール法以外に、ガスアトマイズ法などの手法を用いてもよい。
【0045】
本発明の組成を有する水素吸蔵合金は、MgやT元素などの偏析が発生しやすく、それを負極材料として用いた場合に、電池容量などが低下しやすいことから、鋳造後に均質化のための熱処理を実施する。この熱処理は、800℃以上で合金の融点Mpより10℃低い温度(Mp−10℃)以下の温度範囲で実施する。さらに、1×10-4Pa程度まで真空排気した後に300〜500℃まで昇温し、脱ガス処理を施した後に、炉内に不活性ガスを導入して、上記した温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0046】
熱処理温度が800℃未満であると、原子の拡散能力が不十分であり、これにより合金の均質化効果を十分に得ることができない。一方、熱処理温度が(Mp−10℃)を超えると、R元素の酸化やMgの蒸発による組成変動などを引き起こすことになる。熱処理温度は850℃以上で(Mp−20℃)以下の温度範囲とすることがより好ましい。また、熱処理時間は0.5〜100時間の範囲とすることが好ましい。熱処理時間が0.5時間未満の場合には、原子の拡散時間が不足して均質化が不十分となるおそれがある。一方、熱処理時間が100時間を超えると合金表面の酸化、Mg蒸発による組成変動が大きくなるおそれがある。熱処理時間は1〜80時間の範囲とすることがさらに好ましい。
【0047】
そして、上述したような温度で熱処理した後は、熱処理温度から500℃までを1℃/分以上の温度勾配で冷却する。このように、熱処理後の冷却速度を高めることによって、組成外析出相の析出などを抑制することが可能なる。熱処理後の冷却速度は5〜1000℃/分の範囲とすることがより好ましい。なお、冷却速度は、[(熱処理温度−500℃)/(冷却開始から500℃までに費やした時間)(℃/分)]に基づくものとする。
【0048】
上述したような熱処理工程を経た水素吸蔵合金は、平均粒子径が50〜200μmの範囲となるように粉砕して、例えばNi−水素二次電池用の負極材料として使用される。合金の粉砕は、湿式粉砕および乾式粉砕のいずれを適用して行ってもよい。湿式粉砕はボールミルや遊星型ボールミルなどを用いて実施される。また、乾式粉砕としては、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが挙げられる。例えば、ハンマーミルを使用した場合、不活性ガス雰囲気中で試料の投入速度やスクリーンおよびハンマーの回転数などを調整することにより、所望の平均粒子径ならびに粒度分布を有する合金粉末を得ることができる。また、合金粉末の粒度分布は分級することにより調製してもよい。
【0049】
さらに、得られた合金粉末に対して表面処理を施すことによって、電極特性などを改善することができる。表面処理には、酸処理、アルカリ処理、フッ化処理、メッキ処理などを適用することができ、特にKOH溶液やNaOH溶液を用いたアルカリ処理を適用することが好ましい。表面処理時の温度は最高で処理液の沸点であり、また処理時間は5〜24時間とすることが好ましい。このような表面処理は、得られた合金そのものの形状に対して行ってもよいし、また粉砕した後に実施してもよい。
【0050】
次に、本発明のNi−水素二次電池の実施形態について説明する。図3は本発明のNi−水素二次電池を円筒型Ni−水素二次電池に適用した実施形態の構成を一部断面で示す斜視図である。同図において、1は例えばステンレスからなる有底円筒状の容器(電池缶)である。なお、容器1の形状は有底円筒状に限られるものではなく、有底角筒状などを適用してもよい。本発明は円筒形二次電池および角型二次電池のいずれにも適用することができ、さらにコイン型やボタン型などへの適用も可能である。
【0051】
容器1は負極端子を兼ねており、このような容器1内に発電要素として電極群2が収納されている。電極群2は、水素吸蔵合金を含む負極3とセパレータ4とニッケル酸化物を含む正極5とを、この順序で積層した帯状物を負極3が外側に位置するように、例えば渦巻き状に巻回した構造を有している。電極群3は渦巻き型に限らず、負極3、セパレータ4および正極5を、この順序で複数積層したものであってもよい。
【0052】
電極群2が収納された容器1内には、アルカリ電解液などの電解液が収容されている。容器1内の電極群2の上方には、中央部に孔6が設けられた封口板7が配置されている。封口板7と容器1の上部開口部内面との間には、絶縁性ガスケット8が配置されている。封口板7は、容器1の上部開口部を内側に縮径するカシメ加工することにより、絶縁性ガスケット8を介して容器1の上部開口部に気密固定されている。
【0053】
さらに、封口板7には一端部が正極5に接続された正極リード9の他端部が接続されている。封口板7の上には、帽子形状を有する正極端子10が取り付けられており、この正極端子10の突起部内にはゴム製の安全弁11が、封口板7の孔6を覆うように配置されている。正極端子10は押え板12を介して絶縁チューブ13により固定されている。
【0054】
次に、上記した電極群2を構成する負極3、セパレータ4および正極5とアルカリ電解液について、さらに詳しく述べる。
【0055】
負極3は前述した本発明の水素吸蔵合金(合金粉体)を含むものであり、ペースト式および非ペースト式のいずれであってもよい。ペースト式負極(水素吸蔵合金電極)は、前述した本発明の水素吸蔵合金の粉末と高分子結着剤と必要に応じて添加される導電性粉末とを混合してペースト状とし、このペーストを集電体である導電性基板に塗布、充填、乾燥した後、ローラープレスなどを施すことにより作製されるものである。
【0056】
また、非ペースト式負極(水素吸蔵合金電極)は、前述した本発明の水素吸蔵合金の粉末と高分子結着剤と必要に応じて添加される導電性粉末とを撹拌し、これを集電体である導電性基板に散布した後、ローラープレスなどを施すことにより作製されるものである。
【0057】
負極構成材料のうち、水素吸蔵合金粉末は前述した通りである。高分子結着剤としては、例えばポリアクリル酸ソーダ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)などを用いることができる。これらの高分子結着剤は、質量比で水素吸蔵合金粉末100部に対して0.1〜5部の範囲で配合することが好ましい。非ペースト式負極を作製する場合には、撹拌により繊維化して、水素吸蔵合金粉末や必要に応じて添加される導電性粉末を三次元状(網目状)に固定することが可能なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが好ましい。
【0058】
また、導電性粉末としては、例えば黒鉛粉末、ケッチェンブラックなどのカーボン粉末、あるいはNi、Cu、Coなどの金属粉末を使用することができる。このような導電性粉末は、質量比で水素吸蔵合金粉末100部に対して0.1〜5部の範囲で配合することが好ましい。
【0059】
導電性基板としては、例えばパンチドメタル、エキスパンドメタル、金網などの二次元基板、あるいは発泡メタル基板、網目状焼結繊維基板、不織布に金属をメッキしたフェルトメッキ基板などの三次元基板などが用いられる。非ペースト式負極を作製する場合には、水素吸蔵合金粉末を含む合剤を散布することから、二次元基板を使用することが好ましい。
【0060】
上述した負極(水素吸蔵合金電極)3と組合される正極5は、ニッケル酸化物を含むものであり、例えば以下に示すような非焼結式ニッケル電極などが用いられる。非焼結式ニッケル電極は、例えば水酸化ニッケルと必要に応じて添加される水酸化コバルト(Co(OH)2)、一酸化コバルト(CoO)、金属コバルトなどとの混合物に、ポリアクリル酸ソーダやカルボキシルメチルセルロース(CMC)などのポリアクリル酸塩を適宜配合してペースト化し、このペーストを上記したような三次元基板に充填して乾燥した後、ローラープレスなどを施すことにより作製されるものである。
【0061】
セパレータ4には、高分子繊維不織布、ポリエチレン製多孔質フィルム、ポリプロピレン製多孔質フィルムなどを用いることができる。高分子繊維不織布としては、例えばナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの単体高分子繊維、あるいはこれら高分子繊維を混紡した複合高分子繊維などを用いたものが挙げられる。さらに、アルカリ水電解液としては、例えば6規定から9規定の濃度を有する水酸化カリウム溶液やこれに水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどを混合したものが使用される。
【0062】
上述したような構成を有するNi−水素二次電池においては、負極3の構成材料として本発明の水素吸蔵合金、すなわち可逆水素吸蔵量を増加させると共に、その経時的な劣化を抑制した水素吸蔵合金を用いていることから、電池容量の増大とサイクル特性の向上を図ることが可能となる。すなわち、本発明によれば、高い電池容量と充放電の繰り返しに耐え得る寿命特性を共に満足させたNi−水素二次電池を提供することができる。
【0063】
本発明のNi−水素二次電池は、種々の用途に使用することができるが、特に電池容量の大きさを生かしてハイブリッド自動車や電気自動車などの駆動電源として好適である。本発明のハイブリッド自動車や電気自動車は、上述したような本発明のNi−水素二次電池を駆動電源として具備するものである。
【0064】
すなわち、本発明のハイブリッド自動車は、駆動電源を有する電気駆動手段と、外燃機関や内燃機関からなる燃焼駆動手段とを具備するものであって、電気駆動手段の駆動電源として上述した本発明のNi−水素二次電池を有するものである。ここで、ハイブリッド自動車には、外燃機関や内燃機関で発電機を駆動し、発電した電力と二次電池からの電力により車輪を駆動するものと、電気駆動手段と燃焼駆動手段の双方の駆動力を使い分けて車輪を駆動するものとがあり、
本発明はこれらのいずれにも適用可能である。
【0065】
また、本発明の電気自動車は、駆動電源として二次電池を有するものであって、この二次電池に上述した本発明のNi−水素二次電池を用いたものである。このような本発明のハイブリッド自動車や電気自動車によれば、Ni−水素二次電池の高容量特性や長寿命特性に基づいて、燃費などの走行性能や信頼性の向上を図ることができる。
【0066】
【実施例】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。
【0067】
実施例1〜39、参考例1〜21、および比較例1〜6
下記の表1、表2および表3に示す各Mg−Ni−R系水素吸蔵合金の組成となるように、それぞれMg−R系合金とR元素とニッケルとT元素を秤量した。まず、Niのみを真空中で高周波誘導加熱により溶解し、炉内をアルゴンガス雰囲気とした後、各合金組成に応じてMg−R系母合金やR元素やT元素を添加して溶解した。これらの合金溶湯を十分に撹拌した後に、水冷鋳型に鋳造することによって、それぞれMg−Ni−R系合金を作製した。
【0068】
次に、得られた各合金インゴットをグラファイト製タイトボックス内に収容し、1×10-4Pa程度まで真空排気した後に300℃まで昇温し、脱ガス処理を0.5時間行った後、炉内を0.1MPaのアルゴン雰囲気として、各表に示す温度および時間で熱処理を行った。また、熱処理後はそれぞれ各表に示す温度勾配で冷却した。冷却速度は熱処理温度から500℃までの温度変化を熱電対を用いて計測し、その時間から算出した。
【0069】
このようにして得た各合金を粗粉砕した後に15mmの篩を通し、さらにハンマーミル(アルゴン雰囲気)で微粉砕することによって、それぞれ水素吸蔵合金粉末を得た。これら水素吸蔵合金粉末をSEM観察することによって、組成外析出相の析出量(面積比)を求めた。組成外析出相は、SEMにより観察された反射電子像のコントラストで判断した。析出相の組成はEDXにより確認した。組成外析出相の面積比は、前述した方法にしたがって求めた。SEM観察は200〜500倍の倍率で行い、測定数は3回とした。これらの平均値を組成外析出相の面積比として、表1、表2および表3に示す。
【0070】
また、組成外析出相の析出量は、水素吸蔵特性から相対的に判断することができる。そこで、各合金粉末の可逆水素吸蔵特性として、ジーベルツ法(JIS H 7201)に基づいて、60℃で10気圧未満の水素圧下で圧力−組成等温線を測定し、1サイクル目の水素吸蔵量([H/M])をそれぞれ測定した。この値も併せて表1に示す。
【0071】
なお、比較例1〜6は本発明の水素吸蔵合金との比較として掲げたものであり、本発明の組成範囲外の水素吸蔵合金、あるいは組成外析出相の析出量が本発明の範囲外の水素吸蔵合金について、同様な測定を行った結果を示したものである。比較例6の従来の典型的なAB5型水素吸蔵合金は、母合金を使用せずに作製した。
【0072】
次に、実施例1〜39、参考例1〜21、および比較例1〜6による各水素吸蔵合金の電池材料としての特性を評価するために、以下に示すような手順で各水素吸蔵合金を用いた電極を作製し、それら各電極の放電容量と充放電サイクル寿命を測定した。電極容量は単極評価で測定し、充放電サイクル数(寿命)は円筒型Ni−水素二次電池を作製して評価した。
【0073】
単極評価用負極については、まず各合金粉末と電解銅粉末を質量比で3:1の割合で混合し、この混合体1gを錠剤成形機(内径10mm)を用いて、1000MPaの圧力で5分間加圧することによりペレットをそれぞれ作製した。これら各ペレットをNi製網体で挟み込み、周囲をスポット溶接すると共に、Niのリード線をスポット溶接することにより、合金電極(負極)をそれぞれ作製した。
【0074】
得られた各負極をそれぞれ対極である焼結式ニッケル電極と共に、6規定の水酸化カリウム水溶液に浸漬して負極容量規制の電池をそれぞれ構成した。これらを25℃の恒温槽中で、水素吸蔵合金1g当たり100mAの電流(100mA/g)で5時間充電し、10分間休止した後、水素吸蔵合金1g当たり100mAの電流で酸化水銀電極に対して-0.6Vになるまで放電を行う、充放電サイクル試験を行い、最大放電容量をそれぞれ測定した。この値を表1、表2および表3に示す。
【0075】
次に、各合金粉末とPTFE粉末とカーボン粉末とを、それぞれ質量比で95.5%、4.0%、0.5%となるように秤量し、これらを混練圧延して各電極シートを作製した。これら電極シートを所定の大きさに切り出してNi製集電体に圧着し、水素吸蔵合金電極(負極)をそれぞれ作製した。
【0076】
一方、水酸化ニッケル90質量%と酸化コバルト10質量%の混合物に、少量のCMCと水を添加し、これを十分に撹拌して混合してペーストを調製した。このペーストを三次元構造を有するNi多孔体に充填して乾燥させた後、ローラープレスで圧延することによって、Ni電極(正極)を作製した。
【0077】
そして、上記した各水素吸蔵合金電極(負極)とNi電極(正極)とを組合せて、前述した実施形態で示したNi−水素二次電池(4/3Aサイズ、4000mAh)を組立てて寿命評価を行った。ここで、電解液としては6規定の水酸化カリウム水溶液を使用した。電池寿命(サイクル寿命)は、各電池について4Aの電流で1.1時間充電した後、電池電圧が0.9Vになるまで1Aの電流で放電する充放電サイクルを繰り返し、電池容量が初期容量の80%になるまでのサイクル数を45℃の恒温槽内で評価した。測定結果を表1、表2および表3に併記する。
【0078】
【表1】
Figure 0004965761
【表2】
Figure 0004965761
【表3】
Figure 0004965761
表1、表2および表3から明らかなように、実施例1〜39による各水素吸蔵合金は、組成外析出相の析出量が少なく、これに伴って水素吸蔵量[H/M]が高い値を示している。また、各実施例の水素吸蔵合金を負極に用いたNi−水素二次電池は、それぞれ高容量でかつ長寿命を示し、優れた電池性能を発揮できることが確認された。
【0079】
一方、比較例1〜2および比較例6の合金は、いずれも本発明の合金組成から外れていることから水素吸蔵量が少なく、また電池としたときの放電容量が小さいと共に、サイクル寿命も短いことが分かる。また、比較例3〜5は本発明の合金組成を満足しているものの、熱処理条件が本発明の範囲外であることから、組成外析出相の析出量が多く、これに伴って水素吸蔵量が少なく、また電池としたときの放電容量が小さいと共に、サイクル寿命も短いことが分かる。
【0080】
ここで、図2は比較例3による水素吸蔵合金をSEM観察した際の反射電子像を模式的に示す図である。図2においては、図1に示した反射電子像の模式図(参考例1によるSEM観察結果)に比べて、組成外析出相2の量が圧倒的に多いことが分かる。このような状態では上述したように、水素吸蔵合金としての特性、ならびにそれを負極に用いた電池の特性が大幅に低下してしまう。
【0081】
実施例4050、参考例22〜25、および比較例7〜10
下記の表4にそれぞれ組成を示すMg−Ni−R系水素吸蔵合金を、実施例1と同様にして作製した。熱処理条件は、熱処理温度900〜1100℃、熱処理時間5〜10時間、500℃までの冷却速度10〜50℃/分とした。
【0082】
得られた各合金粉末の平均粒子径と粒度分布(粒子径22μm以下の成分と粒子径250μm以上の成分の比率)を、レーザ回折・散乱法により測定した。また、実施例1と同様にして、水素吸蔵量[H/M]、各水素吸蔵合金の負極材料として用いた電池の放電容量とサイクル寿命を測定、評価した。これらの値を表4に示す。
【0083】
【表4】
Figure 0004965761
表4から明らかなように、実施例40〜50による各水素吸蔵合金は、組成外析出相の析出量が少ないと共に、適切な平均粒子径および粒度分布を有することから、水素吸蔵量[H/M]が高い値を示している。また、各実施例の水素吸蔵合金を負極に用いたNi−水素二次電池は、それぞれ高容量でかつ長寿命を示し、優れた電池性能を発揮できることが確認された。
【0084】
一方、比較例7〜10の合金は、平均粒子径や粒度分布が本発明の範囲外であることから、それを用いて電池を作製した際の放電容量が小さかったり(比較例8、10)、あるいはサイクル寿命が短い(比較例7、9)ことが分かる。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の水素吸蔵合金によれば、水素吸蔵量をより一層高めることができ、さらには水素の吸蔵・放出に伴う可逆的水素吸蔵量の低下を抑制することが可能となる。このような水素吸蔵合金を負極材料として用いることによって、高い電池容量と充放電の繰り返しに耐え得る寿命特性を共に満足させたNi−水素二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】素吸蔵合金(参考例1)をSEM観察した際の反射電子像を模式的に示す図である。
【図2】比較例3による水素吸蔵合金をSEM観察した際の反射電子像を模式的に示す図である。
【図3】本発明のNi−水素二次電池の一実施形態の構成を一部断面で示す斜視図である。
【符号の説明】
1……電池缶
2……電極群
3……負極
4……セパレータ
5……正極

Claims (7)

  1. 一般式:(Mg1−x)(Ni1−y
    (式中、RはYを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を、TはCo、Mn、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、Cr、Ti、V、NbおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x、yおよびzはそれぞれ0.3≦x≦0.95、0.005≦y≦0.8、3.0<z<4.5を満足する数である)で表される組成を有する水素吸蔵合金であって、
    前記合金の組織内に存在する上記一般式の範囲外である組成外析出相の面積比が1〜20%であり、前記合金は、平均粒子径が50〜200μmの範囲の粉体からなり、前記合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が3〜30体積%、粒子径250μm以上の成分が1〜10体積%の粒度分布を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
  2. 請求項1記載の水素吸蔵合金において、
    前記合金の母結晶は、Ce 型結晶相、GdCo型結晶相、PuNi型結晶相、および類似の結晶構造を有する相から選ばれる少なくとも1つの結晶相を含む構造を有することを特徴とする水素吸蔵合金。
  3. 一般式:(Mg1−x)(Ni1−y
    (式中、RはYを含む希土類元素、Zr、HfおよびCaから選ばれる少なくとも1種の元素を、TはCo、Mn、Fe、Al、Ga、Zn、Sn、Cu、Si、Cr、Ti、V、NbおよびBから選ばれる少なくとも1種の元素を示し、x、yおよびzはそれぞれ0.3≦x≦0.95、0.005≦y≦0.8、3.0<z<4.5を満足する数である)で表される組成を有する水素吸蔵合金の製造方法において、
    前記合金に対して800℃以上で前記合金の融点より10℃低い温度以下の温度範囲で熱処理した後、前記熱処理温度から500℃までを5〜1000℃/分の温度勾配で冷却する熱処理工程を有することにより、上記一般式の範囲外である組成外析出相の面積比を1〜20%にするとともに、前記熱処理後の合金を、平均粒子径が50〜200μmの範囲となるように粉砕して粉体化する工程を有し、前記粉砕後の合金粉体は、粒子径22μm以下の成分が3〜30体積%以下、粒子径250μm以上の成分が1〜10体積%以下の粒度分布を有することを特徴とする水素吸蔵合金の製造方法。
  4. 請求項記載の水素吸蔵合金の製造方法において、
    前記熱処理温度での処理時間は0.5〜100時間の範囲であることを特徴とする水素吸蔵合金の製造方法。
  5. 水素吸蔵合金を含む負極と、前記負極とセパレータを介して配置され、ニッケル酸化物を含む正極と、前記負極、セパレータおよび正極を収容する電池缶と、前記電池缶内に充填される電解液とを具備するニッケル−水素二次電池において、
    前記負極は、請求項1または2記載の水素吸蔵合金を含むことを特徴とするニッケル−水素二次電池。
  6. 駆動電源を有する電気駆動手段と、燃焼駆動手段とを具備するハイブリッド自動車において、
    前記駆動電源は、請求項記載のニッケル−水素二次電池を有することを特徴とするハイブリッド自動車。
  7. 駆動電源として二次電池を有する電気自動車において、
    前記二次電池は、請求項記載のニッケル−水素二次電池からなることを特徴とする電気自動車。
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