図1は、図9に示す送受波器1の中央段の振動子2で水平に切断したときの断面図であり、送受波器1の方位別周波数を示す図である。図の上方が船首方向である。図では各領域A1〜A12に含まれる振動子2(超音波トランスデューサ)の図示は省略されているが、各領域A1〜A12にはそれぞれ5個の振動子2が送受波器1の周方向に沿って等間隔で配されている。図1(a)は、ある探知サイクルでの方位別周波数を示す。図1(b)は、次の探知サイクルでの方位別周波数を示す。
まず、図1(a)を参照して、送信ビームと受信ビームの概要について説明する。送受波器1は中心角(開口角)が30度である12の領域(送信開口ともいう)A1〜A12に分けられている。各領域A1〜A12の振動子2は、それぞれ周波数f1〜f12の信号で駆動される。これにより、各方位D1〜D12にそれぞれ周波数f1〜f12の超音波が一斉に水中に送信され(放射され)、送受波器1の周囲に傘状の送信ビームが形成される。ここで、周波数f1〜f12は、f1<f2<・・・<f11<f12の関係が成立するように決められており、例えば、f1は24kHz、f12は26kHzであり、f1〜f12の間では周波数差が略同じになるようになっている。また、最も高い周波数f12を最大周波数fH、最も低い周波数f1を最低周波数fL、中位の周波数f6またはf7を中位周波数fMとよぶことにする。
超音波の受信時には、所定の角度、例えば90度の受信開口に含まれる振動子2の受信信号から受信ビーム信号が形成される。例えば、方位D1(領域A1の中心角の2等分線方向)に指向性主軸を有する受信ビームB1の受信ビーム信号B1は、3つの領域A12〜A2の振動子2の受信信号から形成される。以下でも、受信ビームと受信ビーム信号とで同じ符号を使用することにする。この受信開口を反時計回りに30度ずつ回転させる(方位方向で移動させる)ことにより、方位D2〜D12の受信ビーム信号B2〜B12も形成される。1つの探知サイクル内で上記の受信ビーム信号B1〜B12を繰り返し形成し、各受信ビーム信号B1〜B12に含まれるエコー信号を解析することにより、全方位の近距離から遠距離までの魚群などを探知する。
次の探知サイクルでは、図1(b)に示すように、図1(a)とは異なる態様で方位別周波数f1〜f12が領域A1〜A12に割り当てられ、同様にして魚群などを探知する。本発明では、探知サイクルごとに方位別周波数f1〜f12を変えることで、他の船舶から送信される超音波によって干渉が生じた場合に、干渉による偽像と魚群などの画像とを識別できるようにし、または干渉による偽像が表示されないようにする。この点の詳細については後述する。また、探知サイクルごとに各振動子2を駆動する信号の周波数を変えているので、ある程度の周波数帯域にわたって送受信特性が均一な広帯域振動子を振動子2として用いてる。
図2は、本発明に係る水中探知装置の1つであるスキャニングソナー(以下、装置ともいう)の構成を示すブロック図である。制御部20は、CPU、メモリーなどから構成され、不図示の操作部から入力されたデータ、予めメモリーに設定されているデータ、装置の各部から受信したデータなどに基づいて、装置の各部を制御する。また、制御部20は、メモリーに記憶された乱数発生プログラムをCPUが実行することにより、乱数を発生する機能(乱数発生器20a)を備えている。
送信ビーム形成部5は、送信信号生成回路5bと位相調整回路5aとからなる。送信信号生成回路5bは、互いに周波数の異なる複数の正弦波、すなわち周波数f1〜f12の正弦波を生成する。振動子2ごとに設けられた位相調整回路5aは、傘状の送信ビームの俯角が制御部20から指示された角度になるように振動子2の段方向の位置に応じて上記の正弦波の位相を調整する。この位相調整された送信信号は、送信アンプ4で増幅され、送受信切換回路3を介して送受波器1の振動子2を駆動する。これにより、各振動子2からそれぞれ周波数f1〜f12の超音波が一斉に水中に送信され、送受波器1の周囲に送信ビームが形成される。以下の説明では、振動子2ごとの送信または受信の系統をチャンネルとよび、受信ビーム信号が形成される前の受信信号をチャンネル信号とよぶことにする。
次に、受信系について説明する。各振動子2が受信した受信信号(チャンネル信号)は、チャンネルごとに送受信切換回路3を介して受信アンプ6で増幅される。増幅された受信信号は、第1BPF7(バンドパスフィルタ)で上述の最低周波数fL〜最大周波数fHを含む所定の帯域幅以外の周波数の信号成分がノイズとして除去された後、A/D変換器8でデジタル信号(時系列データ)に変換される。
A/D変換器8は、所定のタイミングで、例えば、上述の中位周波数fMの内部的な正弦波信号の第1位相と、第1位相と90度だけ位相の異なる第2位相とで1周期ごとに受信信号をサンプリングする。第1位相でサンプリングされた信号をI信号、第2位相でサンプリングされた信号をQ信号、I+jQ(jは虚数単位)をIQ信号とよぶ。このI信号とQ信号とで表される受信信号に対して後続の回路で各種の演算が施される。例えば、後述の受信ビーム信号の形成時には、受信信号にexp(jθ)を乗算することによって、受信信号の位相をθだけ補正する。
ゲイン調整部9は、水中の同一の反射物(例えば、探知対象物である魚群)からのエコー信号の振幅が送受波器1と反射物との距離に依存することなく一定となるように、受信信号の増幅率を調整する。すなわち、受信信号の時系列データのそれぞれに送信ビームを送信してからの経過時間に応じた増幅率を乗算することによって、受信信号の振幅を調整する。このゲイン調整部9から出力される各チャンネルの時系列データは、チャンネルごとに一旦バッファメモリー10に格納される。
受信ビーム形成部11は、位相補正回路11aと加算回路11bとからなり、バッファメモリー10に格納されているチャンネル信号から、公知の方法により受信ビーム信号を形成する。まず、受信ビームを形成するための受信開口に含まれる振動子2の数だけ設けられている位相補正回路11aは、各チャンネル信号の位相が一致するように、各チャンネルの振動子2の送受波器1における段方向の位置および周方向の位置に応じた補正量で各チャンネル信号の位相を補正する。加算回路11bは、位相補正された各チャンネル信号を加算することによって受信ビーム信号を形成する。
第2BPF12(バンドパスフィルタ)は、船舶の航行のドプラー効果による受信信号の周波数変動を考慮して、受信ビーム信号から、制御部20によって指定される選択周波数(例えば、周波数f1〜f12のいずれか)の信号成分のみを抽出する。選択周波数としては、受信ビームB1〜B12と同じ方位D1〜D12に送信される超音波の方位別周波数f1〜f12が指定される。例えば、受信ビーム信号B1をフィルタリングする場合には、制御部20は、選択周波数f1、領域A1の船首方向に対する位置、航行速度などのデータを第2BPF12に設定する。
第2BPF12の不図示のDSP(デジタルシグナルプロセッサ)は、設定されたデータから中心周波数f1+Δf(Δfはドプラー効果による周波数変動量)を算出し、中心周波数f1+Δfに対して所定の帯域幅を持つ第2BPF12のフィルタ係数を求める。このフィルタ係数に設定された第2BPF12は、中心周波数f1+Δfに対して所定の帯域幅の周波数成分の信号のみを通過させる。つまり、第2BPF12は、方位別に周波数選択して各方位の受信ビーム信号を形成する。尚、受信ビーム信号が入力される中心周波数検出部13については後述する。
検波部14は、第2BPF12の出力信号の振幅、すなわち当該出力信号の実数成分(I信号)の2乗と虚数成分(Q信号)の2乗との和の平方根を求め、これから受信ビーム信号(エコー信号)の包絡線を得る。この振幅の大きさは、魚群の粗密の度合いなどに比例する。検波部14から出力される検波信号は、過去データ記憶部15および画像処理部16に送られる。過去データ記憶部15は、1つまたは複数の探知サイクルの検波信号を記憶する。画像処理部16は、検波部14からの検波信号に対して所定の画像処理を施すことによって、魚群の粗密、方位、距離に応じて魚群の画像を表示部17に表示する。また、これに代えて、画像処理部16は、検波部14からの検波信号および過去データ記憶部15に記憶された検波信号から表示用信号を生成し、この表示用信号に対して所定の画像処理を施すことによって、魚群の画像を表示部17に表示することもできる。この過去データ記憶部15に記憶される検波信号は、干渉による偽像が表示されないようにするために用いられるが、詳細については後述する。
次に、本発明にかかるスキャニングソナーの動作について説明する。まず、図1(a)に示すように、送受波器1の領域A1〜A12に方位別周波数f1〜f12を割り当てる方法について説明する。制御部20のメモリーには、図3(a)に示す方位別周波数割り当て表31aが予め設定されている。この方位別周波数割り当て表31aは、送受波器1の領域A1〜A12(方位D1〜D12)と各領域A1〜A12に割り当てられる送信信号の周波数f1〜f12との関係を規定する。最左列の番号は方位別周波数割り当てパターンの番号を示す。番号1の方位別周波数割り当てパターンを図示したものが図1(a)に相当し、番号2の方位別周波数割り当てパターンを図示したものが図1(b)に相当する。
制御部20は、ある探知サイクルで超音波を送信するときに、いずれかの番号の方位別周波数割り当てパターンをメモリーから取り出し、これを送信ビーム形成部5に送る。送信ビーム形成部5の送信信号生成回路5bは、方位別周波数割り当てパターンに含まれる周波数の正弦波の送信信号を生成し、各周波数の送信信号を該当する領域A1〜A12の振動子2ごとの位相調整回路5aに送る。この結果、例えば、番号1の方位別周波数割り当てパターンが使用される場合には、図1(a)に示すように、領域A1〜A12の振動子2はそれぞれ周波数f1〜f12の正弦波で駆動され、方位D1〜D12にそれぞれ周波数f1〜f12の超音波が送信される。番号2の方位別周波数割り当てパターンが使用される場合には、図1(b)に示すように、領域A1〜A12の振動子2はそれぞれ周波数f10〜f9の正弦波で駆動され、方位D1〜D12にそれぞれ周波数f10〜f9の超音波が送信される。
図4は超音波の送受信を示すタイムチャートである。まず、最初の探知サイクルDC1では、方位別周波数割り当て表31aの番号1の方位別周波数割り当てパターンを使用して所定時間だけ超音波を送信する。このとき、送信ビーム形成部5は、送信ビームの俯角が制御部20から指定された俯角となるように各チャンネルの送信信号の位相を調整する。この結果、図1(a)に示すように、方位D1〜D12にそれぞれ周波数f1〜f12の超音波が送信され、全方位に所定の俯角の傘状の送信ビームが送信される。
超音波を送信した後の受信期間においては、各振動子2で受信された受信信号は、受信アンプ6で増幅され、第1BPF7でノイズ成分が除去され、A/D変換器8によって所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換される。受信ビーム形成部11は、図4に示すように、受信期間が終了するまでチャンネル信号から方位D1〜D12の受信ビーム信号B1〜B12を順番に繰り返し形成して出力する。例えば、3つの領域A12〜A2に含まれる振動子2のチャンネル信号から、方位D1に指向性主軸方向を有する受信ビームB1の受信ビーム信号B1を形成する。このようにして、送受波器1の全方位D1〜D12の近距離から遠距離までの各断面の受信ビーム信号B1〜B12が出力される。
第2BPF12には、受信ビーム形成部11から順次出力される受信ビーム信号B1〜B12に応じて、選択周波数f1〜f12が制御部20によって設定される。例えば、受信ビーム信号B1が出力されるときには選択周波数f1が設定され、受信ビーム信号B2が出力されるときには選択周波数f2が設定される。従って、受信ビーム信号B1〜B12から、それぞれ方位D1〜D12から到来した信号、すなわち受信ビームB1〜B12の指向性主軸方向から到来した信号が抽出される。検波部14は、第2BPF12から順次出力される受信ビーム信号B1〜B12を検波する。画像処理部16は、検波部14から出力される検波信号に基づいて、表示部17の中央から外側に向けて反時計回りに螺旋状に魚群などの画像を描画していく。
最初の探知サイクルDC1において、方位D9に魚群が位置しており、方位D1に位置している他の船舶から全方位に周波数f1の超音波が送信されていて、この超音波を受信したとする。この探知サイクルDC1では、方位D1の受信ビーム信号B1に対しては、選択周波数f1が第2BPF12に設定されるので、他の船舶からの周波数f1の超音波による干渉信号を第2BPF12で除去することができない。このため、図5(a)に示すように、方位D1に干渉による偽像52が表示される。また、方位D9には魚群の画像51が表示される。尚、図中の「R=400m」は探知距離が400mであることを示し、「T=0°」は送信ビームの俯角が0度であることを示す。また、魚群の位置、他の船舶の位置、他の船舶が送信する超音波の周波数は以降の探知サイクルDC2〜DC5でも同じであるとする。
次の探知サイクルDC2では、方位別周波数割り当て表31aの番号2の方位別周波数割り当てパターンを使用して所定時間だけ超音波を送信する。これにより、図1(b)に示すように、周波数f1〜f12の超音波が送信される方位が図1(a)に比べて反時計方向に90度だけ回転する。探知サイクルDC2では、他の船舶の位置する方位D1の受信ビーム信号B1に対しては、方位D1の方位別周波数f10が選択周波数として第2BPF12に設定されるので、他の船舶からの周波数f1の超音波による干渉信号を第2BPF12で除去することができる。この結果、図5(b)に示すように、方位D9に魚群の画像51のみが表示され、干渉による偽像52は表示されない。
次の探知サイクルDC3、DC4では、それぞれ方位別周波数割り当て表31aの番号3、4の方位別周波数割り当てパターンを使用し、選択周波数f7、f4がそれぞれ第2BPF12に設定されるので、他の船舶からの周波数f1の超音波による干渉信号を第2BPF12で除去することができ、図5(b)に示すように、方位D9に魚群の画像51のみが表示される。次の探知サイクルDC5では、方位別周波数割り当て表31aの番号1の方位別周波数割り当てパターンを再び使用するので、図5(a)に示すように、方位D1に干渉による偽像52が表示され、方位D9に魚群の画像51が表示される。
上述のように、方位D1〜D12別に異なる周波数f1〜f12の超音波を送信し、受信ビーム信号B1〜B12に対しては該当する方位D1〜D12の周波数f1〜f12の信号成分のみを第2BPF12で通過させるようにしているので、図5(a)に示すように、他の船舶の位置する方位D1にのみ干渉による偽像52が表示され、隣接する方位D2,D12などには干渉による偽像は表示されない。この結果、干渉による偽像52が魚群などの画像51を覆い隠してしまうケースが減少する。すなわち、魚群などの探知情報の欠落が防止される。
また、探知サイクルごとに各方位D1〜D12に送信する超音波の周波数f1〜f12を変えているので、超音波の送信タイミングが他の船舶の超音波の送信タイミングと同期している場合であっても、干渉による偽像52は、特許文献1のように同じ位置に継続して表示されることはなく、上述のように表示されたり消滅したりする。他の船舶の位置、使用する方位別周波数パターンの内容などによっては、干渉による偽像52の表示位置が探知サイクルごとに移動することもある。いずれにしろ、干渉による偽像52の表示状態が探知サイクルごとに変化する。それに対し、魚群などの画像は、探知サイクルが変っても略同じ位置に表示される。これにより、スキャニングソナーの操作者は干渉による偽像52と魚群などの画像51とを容易に識別することができ、魚群などの画像を間違いなく認識することができる。
次に、過去データ記憶部15に記憶された検波信号を用いて、干渉による偽像52が表示部17に表示されないようにする方法について説明する。上述の探知サイクルDC4の検波信号61は、図6(a)に示すように、魚群信号61aのみを含む。上述の探知サイクルDC5の検波信号62は、図6(b)に示すように、魚群信号62aと干渉信号62bとを含む。ここで、図の不図示の横軸が時間軸であり、魚群信号61a,62aの発生時間は略同じである。探知サイクルDC4では、検波部14から出力される検波信号61は過去データ記憶部15に順次書き込まれる。
探知サイクルDC5では、検波部14から出力される検波信号62は過去データ記憶部15に順次書き込まれる。このとき、画像処理部16は、過去データ記憶部15に記憶されている探知サイクルDC4の検波信号61を順次読み出し、両検波信号61,62を時間軸に沿って逐次比較し、レベルの小さい方の信号、すなわち最大レベルではない信号を逐次抽出し、抽出した信号を表示用信号63(図6(c))とし、この表示用信号63に基づいて表示部17に画像を描画する。ここでは魚群信号62aのレベルの方が魚群信号61aのレベルよりも小さく、干渉信号62bの時刻では検波信号61は無信号状態であるので、干渉信号62bを含まない表示用信号63が抽出される。この結果、探知サイクルDC5でも干渉による偽像52は表示されなくなる。この点については、他の探知サイクルDC1〜DC4でも同様である。上記のようにして今回の探知サイクルDC5の検波信号62と過去の探知サイクルDC4の検波信号61とを大小比較して表示用信号63を生成する処理を画像相関処理とよぶ。
上記のように、超音波の送信タイミングが他の船舶の超音波の送信タイミングと同期している場合であっても、干渉による偽像52が表示されなくなるので、装置の操作者は、画像の表示状態の変化から、その画像が干渉による偽像52か魚群などの画像51であるかを判断しなくともよい。これにより、干渉による偽像52を魚群などの画像51と間違うという人為的ミスを低減することができる。
上記の説明では、2つの探知サイクルDC4,DC5の検波信号61,62から表示用信号63を生成する場合について説明したが、特許文献1に示されるように、前回および前々回の探知サイクルの検波信号を過去データ記憶部15に記憶させておき、前回、前々回および今回の探知サイクルの検波信号を時間軸に沿って逐次比較し、3つの検波信号の内で中間レベルの信号、すなわち最大レベルではない信号を抽出し、抽出した信号を表示用信号とするようにしてもよい。
次に、先に説明した状況とは異なる状況について考える。先の状況では、方位D1に位置する他の船舶から全方位に周波数f1の超音波が送信される場合について説明した。ここでは、方位D1に本発明の装置と同じ装置を搭載した他の船舶が位置しているとする。送受波器1の状態は図1(a)の状態(方位別周波数割り当て表31aの番号1の方位別周波数割り当てパターンが使用されている)とする。他の船舶は方位D7に周波数f1の超音波を送信する(方位別周波数割り当て表31aの番号3の方位別周波数割り当てパターンが使用されている)とする。そうすると、方位D1で受信信号の干渉が発生し、しかも周波数が共にf1であるので、第2BPF12で干渉信号を除去することができず、図5(a)に示すように、方位D1に干渉による偽像52が表示される。
自船および他船の装置は同じプログラムで制御されているので、次の探知サイクルでは、それぞれ方位別周波数割り当て表31aの番号2および4の方位別周波数割り当てパターンが使用され、自船の方位D1には周波数f10が割り当てられ、他船の方位D7にも周波数f10が割り当てられるので、自船と他船の超音波の送信タイミングが同期してしる場合(例えば、自船と他船の探知距離が共に400mである場合)は、次の探知サイクルでも方位D1の同じ距離位置に干渉による偽像52が表示される。さらに、その後の探知サイクルでも方位D1の同じ距離位置に引き続き干渉による偽像52が表示される。このため、操作者は表示される偽像52を魚群の画像51であると判断してしまう。また、偽像52が引き続き同じ位置に表示されるので、上述の画像相関処理によって干渉による偽像52を除去することもできない。
そこで、以下のようにして上記の問題を解決する。まず、制御部20は、上述の乱数発生器20aが発生する乱数の値に所定の係数を掛け、例えば、0〜0.2秒程度のディレイ時間を生成する。そして、ある探知サイクルが終了した直後に次の探知サイクルの超音波の送信を開始せずに、上記のディレイ時間が経過してから次の探知サイクルの超音波の送信を開始するようにする。このようにすることで、自船と他船の超音波の送信タイミングが同期しなくなり、干渉が発生しても、干渉による偽像52の表示状態は探知サイクルごとに変化する。従って、操作者は、表示される偽像52が干渉による偽像52であると判断することができる。また、上記の画像相関法によって干渉による偽像52を除去することもできる。
また、本実施形態では、探知サイクルごとに方位別周波数割り当て表31aの方位別周波数割り当てパターンを番号順に切り換えて使用するようにしているが、乱数発生器20aが発生する乱数に値に基づいて方位別周波数割り当て表31aの番号を決め、その番号の方位別周波数割り当てパターンを使用するようにしてもよい。このようにすることで、自船と他船の超音波の送信タイミングが同期している場合であっても、2つの船舶の間で各方位D1〜D12に割り当てられる方位別周波数f1〜f12の相対的位置関係が探知サイクルごとにずれるので、干渉が発生しても、干渉による偽像52の表示状態は探知サイクルごとに変化する。この結果、上記のディレイ時間を使用する場合と同様な効果が得られる。尚、方位別周波数割り当てパターン数の少ない方位別周波数割り当て表31aでは、乱数を使用した効果が十分に得られないので、図3(b)に示すように、方位別周波数割り当てパターン数の多い方位別周波数割り当て表31bを用いることが望ましい。
本発明の第2の実施形態について説明する。先の実施形態では、干渉が発生した場合に、表示された画像が干渉による偽像52または魚群などの画像51のいずれであるかを装置の操作者が判断できるようにする方法、および干渉による偽像52が表示されないようにする方法について説明したが、本実施形態では干渉による偽像52が表示されるのを未然に防止するようにしている。本実施形態でも、図2に示すスキャニングソナーが使用される。図7は、第2の実施形態の超音波の送受信を示すタイムチャートである。各探知サイクルDC1,DC2において、超音波を送信する前に他の船舶からの超音波の有無および周波数を調べるために干渉チェックを行う点で図4に示すものと異なる。
干渉チェックは以下のようにして行われる。受信アンプ6、第1BPF7、A/D変換器8およびバッファメモリー10は、受信期間と同様の動作をする。ゲイン調整部9は、制御部20の指示によって、一定の増幅率で受信信号を増幅するように動作する。他の船舶からの超音波は主に水平方向から到来するので、受信ビーム形成部11は、制御部20の指示によって、俯角が比較的小さい(例えば、0度)送信ビームが送信されたときに形成される受信ビーム信号を形成するように動作する。そして、受信ビーム形成部11は、各方位D1〜D12の受信ビーム信号B1〜B12を順次出力する。他の船舶からの超音波を受信している場合には、受信ビーム信号B1〜B12は干渉信号を含むことになる。中心周波数検出部13は、受信ビーム信号B1〜B12の中心周波数を検出することによって、各方位D1〜D12から到来する干渉信号の中心周波数を検出する。中心周波数をリアルタイムに検出するいくつかの方法があるが、本実施形態では特許文献5に示される複素自己相関法を用いる。
複素自己相関法によれば、下記の式(1)の複素数形式で表される受信ビーム信号Z(t)の中心周波数fCは、下記の式(2)から算出される。
Z(t)=I(t)+j・Q(t) (1)
fC=(1/2πT)・tan−1{Ri(t)/Rr(t)} (2)
ここで、TはA/D変換器8のサンプリング周期である。Rr(t)およびRi(t)は、自己相関関数R(t)=Rr(t)+j・Ri(t)の実数部および虚数部であって、下記の式(3)、(4)で表される。
Rr(t)=I(t)・I(t−1)+Q(t)・Q(t−1) (3)
Ri(t)=I(t−1)・Q(t)−I(t)・Q(t−1) (4)
中心周波数検出部13では、上記の式(2)の演算を各方位D1〜D12の受信ビーム信号B1〜B12について行い、方位D1〜D12ごとの中心周波数、すなわち他の船舶から送信される超音波の周波数をリアルタイムに求める。このとき、受信ビーム信号B1〜B12の信号レベルが所定値以下であれば、中心周波数は0として扱われる。
そして、検出された各方位D1〜D12の中心周波数が制御部20に送られる。全ての方位D1〜D12の中心周波数が0である場合は、制御部20は、方位別周波数割り当て表31aの次の番号の方位別周波数割り当てパターンを用いて先の実施形態と同様にして魚群などの探知を行う。それに対し、いずれかの方位の中心周波数が0ではない場合には、当該方位に検出された中心周波数と同じ周波数、または近似する周波数が割り当てられないように方位別周波数割り当てパターンを選択する。例えば、方位D5の中心周波数がf2であるときは、方位別周波数割り当て表31aの番号2以外の方位別周波数割り当てパターンを用いる。
例えば、番号4の方位別周波数割り当てパターンが用いられた場合には、受信期間中に方位D5から他の船舶の周波数f2の超音波が到来しても、方位D5の受信ビーム信号B5に対しては選択周波数f8が第2BPF12に設定されるので、周波数f2の干渉信号が除去され、干渉による偽像52は表示部17に表示されない。このように、超音波を送信する前に干渉チェックを行い、他の船舶からの超音波が検出された場合には、干渉信号を第2BPF12で除去できるように各方位D1〜D12に方位別周波数f1〜f12を割り当てるので、干渉による偽像52が表示部17に表示されるのを未然に防止することができる。
また、干渉チェックが行われたときには他の船舶から超音波が送信されていなかったが、受信期間に入ってから他の船舶から超音波が送信されることがある。この場合でも、先の実施形態に示されるように探知サイクルごとに方位別周波数f1〜f12を切り換えることにより、干渉による偽像52と魚群の画像51とを識別することが可能となる。さらに、先の実施形態に示される画像相関処理を用いることで、干渉による偽像52が表示部17に表示されないようにすることもできる。
上記実施形態では、1つの探知サイクルごとに方位別別周波数f1〜f12を切り換えるようにしたが、複数の探知サイクルごとに方位別別周波数f1〜f12を切り換えるようにしても1つの探知サイクルごとに切り換える場合と略同様の効果が得られる。
また、上記実施形態では、送受波器1を12の領域A1〜A12に分割し、各領域A1〜A12にそれぞれ異なる周波数f1〜f12を割り当てるようにしたが、領域A1〜A12の数は12より多くても少なくてもよい。また、各領域に割り当てられる周波数は互いに全て異なる周波数である必要はなく、例えば、図3(c)の方位別周波数割り当て表31cの番号1に示すように、異なる領域(例えば、領域A3とA11)に同じ周波数の方位別周波数(例えば、周波数f3)を割り当てるようにしても本発明を実施することができる。
さらに、上記実施形態では、受信ビームB1〜B12を形成する受信開口角を90度とし、各方位の受信ビームB1〜B12を形成する際に受信開口を30度ずつ回転させて12の受信ビームB1〜B12を形成するようにしたが、受信開口角は90度に限定されるものではないし、受信開口の回転角を小さくし、より多くの本数の受信ビームを形成するようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、各振動子2から単一周波数の超音波を送信する場合について説明したが、所定の周波数帯域を持つ超音波、例えば、中心周波数をfとし、周波数がf−Δf(または、f+Δf)からf+Δf(または、f−Δf)まで連続的に変化するFM変調された超音波などを送信する場合にも、本発明を適用することができる。
さらに、上記実施形態では、傘状の送信ビームが用いられる場合について説明したが、本発明は図10に示す扇形の送信ビームBtを使用する場合でも実施することができる。この場合、本発明の方位は扇形の送信ビームBtの鉛直面内における方位となる。さらに、上記実施形態では、円柱状の送受波器1を用いた場合について説明したが、他の形状の送受波器、例えば球形の本体の表面に多数の振動子が設けられた送受波器を用いても本発明を実施することができる。さらに、上記実施形態では、波浪などによる船舶のローリング、ピッチングの影響について説明しなかったが、これらの影響をキャンセルするために、ローリング角、ピッチング角に基づいて、送信ビーム形成時の位相調整量および受信ビーム形成時の位相補正量が適宜修正される。
以上述べた実施形態においては、水中探知装置がスキャニングソナーである場合について説明したが、本発明はセクタースキャニングソナーやサーチライトソナー、ドップラー潮流計(以下、潮流計という)などの水中探知装置でも実施することができる。まず、セクタースキャニングソナーにおける本発明の動作を説明する。スキャニングソナーでは、図8に示すように、送受波器1の全周に傘形の送信ビームBtが形成されたが、セクタースキャニングソナーでは、送受波器の周囲に所定の中心角(ここでは、中心角を90度とする)および俯角を有する扇形の送信ビームが形成される。そして、扇形の送信ビーム内をペンシル状の受信ビームで走査することにより、送信ビーム内の各方位の水中情報の探知が行われる。尚、1回の超音波の送信で探知できるのは扇形の範囲だけであるので、送受波器を機械的に回転させることで全周の探知が行われる。また、送信ビームの俯角の制御も機械的に行われる。
まず、第1の探知サイクル(第1の探知工程)について説明する。第1の探知サイクルでは、例えば、図1(a)に示す各方位の方位別周波数を用いて水中情報の探知が行われ、まず、方位D2を中心とした90度の範囲に扇形の送信ビームが形成される。そして、方位D1〜D3の受信ビームB1〜B3を用いて各方位D1〜D3の水中情報の探知が行われる。このとき、スキャニングソナーの場合と同様にして、受信ビームB1〜B3は、それぞれバンドパスフィルタによって方位別周波数f1〜f3で周波数選択が行われる。さらに、送受波器を機械的に90度ずつ回転させて送信ビームの送信方向を変えることで、方位D4〜D6、方位D7〜D9および方位D10〜D12の水中情報の探知が引き続き行われ、第1の探知サイクルが終了する。第2の探知サイクル(第2の探知工程)では、例えば、図1(b)に示す各方位の方位別周波数を用いて、第1の探知サイクルと同様にして各方位D1〜D12の水中情報の探知が行われる。さらに、第3、第4、・・・の探知サイクルが引き続き実行される。
次に、サーチライトソナーにおける本発明の動作を説明する。サーチライトソナーでは、送受波器の振動子から1つの方位へ所定の俯角でペンシル状の超音波が送信される。そして、振動子で受信された受信信号に基づいて当該方位の水中情報の探知が行われる。尚、1回の超音波の送信で探知できるのはペンシル状の狭い範囲だけであるので、送受波器を機械的に回転させることで全周の探知が行われる。また、超音波が送信される俯角の制御も機械的に行われる。
まず、第1の探知サイクルについて説明する。第1の探知サイクルでは、例えば、図1(a)に示す各方位の方位別周波数を用いて、まず、方位D1に周波数f1の超音波を送信し、当該方位から帰来するエコー信号を振動子で受信し、この受信信号を方位別周波数f1で周波数選択した信号に基づいて方位D1の水中情報の探知が行われる。同様にして、送受波器を機械的に30度ずつ回転させて超音波の送信方向を変えることで、方位D2〜D12の水中情報の探知も行われ、第1の探知サイクルが終了する。第2の探知サイクルでは、例えば、図1(b)に示す各方位の方位別周波数を用いて、第1の探知サイクルと同様にして各方位D1〜D12の水中情報の探知が行われる。さらに、第3、第4、・・・の探知サイクルが引き続き実行される。
上述のように、方位D1〜D12別に異なる周波数f1〜f12の超音波を送信し、各方位の受信信号を該当する方位D1〜D12の方位別周波数f1〜f12で周波数選択しているので、干渉による偽像が表示される方位が限定され、干渉による偽像が魚群などの画像を覆い隠してしまうケースが減少する。また、探知サイクル(探知工程)ごとに各方位D1〜D12に送信する超音波の周波数f1〜f12を変えているので、超音波の送信タイミングが他の船舶の超音波の送信タイミングと同期している場合であっても、干渉による偽像の表示状態は探知サイクルごとに変化する。それに対し、魚群などの画像は、探知サイクルが変っても略同じ位置に表示されるので、セクタースキャニングソナーやサーチライトソナーの操作者は干渉による偽像と魚群などの画像とを容易に識別することができ、魚群などの画像を間違いなく認識することができる。
次に、潮流計における本発明の動作を説明する。潮流計は、所定の俯角を有する超音波を船舶の前後左右の4つの方位に送信し、各方位の受信信号に含まれる、海水中の散乱物や海底からのエコー信号、すなわち水中情報を検出することで潮流の速度や方向を求め、これらを表示部に表示する。第1の探知サイクルでは、送受波器の振動子から4つの方位にそれぞれ方位別周波数f1〜f4の超音波が送信され、各方位から帰来するエコー信号を振動子で受信し、この受信信号を方位別周波数f1〜f4でそれぞれ周波数選択した信号に基づいて各方位の水中情報が検出される。第2の探知サイクルでは、方位別周波数が第1の探知サイクルとは異なるように、例えば、上記の4つの方位に方位別周波数f3、f4、f1、f2の超音波を送信することによって、各方位の水中情報が検出される。
ここで、他の船舶から送信された超音波によって受信信号の干渉が発生すると、各方位の水中情報の内で1つの方位の水中情報が第1の探知サイクルと第2の探知サイクルとで大きく相違する。このような水中情報の相違が検出された場合は、再び第1および第2の探知サイクルが行われ、上記の水中情報の相違の有無が判定される。一方、上記の水中情報の相違が検出されなかった場合は、第1または第2の探知サイクルで得られた4つの方位の水中情報から潮流の速度や方向が求められる。上記のように、第1と第2の探知サイクルでそれぞれ互いに異なる方位別周波数を用いるので、他の船舶から送信された超音波による干渉の発生を検出することができ、正しくない潮流の速度や方向が求められるのを防止することができる。尚、船舶の前後左右の4つの方位ではなく、120度ずつ離角した3つの方位に超音波を送信する潮流計でも、同様に潮流の速度や方向を求めることができる。