JP4942241B2 - 非水系二次電池 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、非水系電解液を用いる二次電池に関し、特にリチウムをプリドーピングした新規な負極材料を用いる非水系電解液二次電池に関する。本発明によれば、リチウム二次電池の性能を著しく向上させることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年、携帯電話に代表される小型携帯機器用の電源、深夜電力貯蔵システム、太陽光発電に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車のための蓄電システムなどに関連して、各種の高エネルギー密度電池の開発が精力的に行われている。特に、リチウムイオン電池は、350Wh/lを超える体積エネルギー密度を有すること、金属リチウムを負極として用いるリチウム二次電池に比べて、安全性、サイクル特性などの信頼性が優れることなどの理由により、小型携帯機器用の電源として、その市場が飛躍的に拡大している。
【0003】
リチウムイオン電池は、正極としてLiCoO2、LiMn2O4などに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物を用い、負極として黒鉛に代表される炭素系材料を用いている。現在、リチウムイオン電池のより一層の高容量化が進められているが、正極酸化物および負極炭素系材料の改良による高容量化は、ほぼ限界に達しており、450Wh/lを超えるエネルギー密度を達成することは、困難である。また、今後予測される大型化のニーズに応える為には、材料コストの低減も、強く望まれている。
【0004】
特に、電池の高エネルギー密度化および大型化のためには、安全性の確保が最重要課題であり、この観点からも、電極材料のさらなる特性改善が望まれている。
【0005】
負極材料においては、種々の黒鉛系材料、炭素系材料および多環芳香族系共役構造物質(一般に、低温処理炭素材料あるいはポリアセン系材料と呼ばれている)が、開発されている。特に、550〜1000℃程度の比較的低温で、種々の原料を熱処理して得られる多環芳香族系共役構造物質は、グラファイトの理論容量であるC6Li(372mAh/g)を超える材料として、特に注目を浴びている。
【0006】
現在開発されている種々の多環芳香族系共役構造物質の原料としては、フェノール樹脂、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンスルフィド、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系繊維、コークスなどが用いられており、いずれの多環芳香族系共役構造物質においても、400mAh/gを超える容量が得られている(“ポリマーバッテリーの最新技術”、シーエムシー社発行(1998)p22-p30)。
【0007】
これらの多環芳香族系共役構造物質の中でも、フェノール樹脂などの合成樹脂を出発原料としたものが、比較的高い容量を示している。例えば、Synth. Mat.、73 (1995)、p273-277には、フェノール樹脂を原料とするポリアセン系有機半導体が報告されている。この報告によれば、1100mAh/gのリチウムがドーピング可能であり、850mAh/gのリチウムを脱ドープできるとされている。また、この材料は、150℃付近で起こる電解液との反応による発熱ピークも小さく、安全性の高い材料である(第8回電池討論会予稿集(1997)p213-214)。しかしながら、この様な合成樹脂を出発原料とする材料は、その原料費が高いので、負極材料として実用化するためには、大幅なコスト低下が必要である。
【0008】
一方、ピッチあるいはコークスは、安価でかつ大量に製造されており、大型リチウム二次電池用負極材料の原料として有望である。しかしながら、該材料を原料とした多環芳香族系共役構造物質については、容量、初期効率などが未だ不十分であり、更なる高容量化、高効率化が望まれている。例えば、8th International Meeting on Lithium Batteries、Extend Abstracts (1996) p174-175には、石油ピッチ原料を700℃で熱反応した多環芳香族系共役構造物質が開示されているが、その容量は600mAh/gであり、効率は60%以下と低い。
【0009】
Electrochemica Acta、 vol. 38 No.9 (1993) p1179-1191によれば、石油ピッチを550℃或いは900℃で熱反応することにより、多環芳香族系共役構造物質が得られているが、この物質ではC6Li(372mAh/g)を超える容量は、達成されていない。
【0010】
特開平8-115723号公報記載の方法によれば、不融化石油ピッチ原料を800℃で熱反応することにより、H/C=0.12の多環芳香族系共役構造物質が得られているが、そのリチウムドープ容量は951mAh/g、脱ドープ量は546mAh/g(放電効率57.4%)と容量および効率ともに低い。
【0011】
さらに、J. Electrochem. Soc. Vol. 142 No.4 (1995) p1041-1046には、メソカーボンマイクロビーズを700℃で熱反応した多環芳香族系共役構造物質が開示されている。この物質によれば、リチウムドープ容量750mAh/gが得られているが、初期効率は62%と低い。
【0012】
さらにまた、メソフェーズピッチ系炭素繊維前駆体を800〜1000℃で熱処理する試みもあるが、性能面だけでなく、コスト面からも、ピッチ二次成形材料を原料とすることは、実用的でない。
【0013】
上述から明らかなように、製造コストが低く、高容量かつ高効率であるリチウム二次電池用負極材料は、未だ見出されていない。そして、正極材料開発においても、大きな進展が見られないため、現行のリチウムイオン電池を超える超高エネルギー密度二次電池は、完成されていない。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、製造コストの低化を可能とする安価な原料を用いて製造され且つ大量のリチウムのドープを可能とする負極材料を用いて、高エネルギー密度二次電池を得ることを主な目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の様な技術の現状に留意しつつ、研究を重ねた結果、ピッチを原料とした特定の構造を持つ負極材料にリチウムをプリドーピングすることにより、従来の正極材料を用いた場合においても、非水系二次電池のエネルギー密度を飛躍的に向上させ得ることを見出した。すなわち、本発明は、下記の非水系二次電池を提供する。
1.正極、負極および非水系電解液を備えた非水系二次電池において、
(1)正極が、リチウムを電気化学的に吸蔵および放出し得る材料からなり、
(2)負極が、(a)ピッチを主成分とする原料を熱反応させることにより得られ、(b)水素/炭素の原子比が0.35〜0.05であり、(c)BET法による比表面積が50m2/g以下であり、(d)1000mAh/g以上のリチウムをドープ可能である多環芳香族系炭化水素にリチウムをプリドーピングした材料からなり、
正極から放出可能なリチウム量をCp(mAh)とし、負極へのリチウムのプリドーピング量をCn(mAh)とし、負極中の多環芳香族系炭化水素の重量をW(g)とする時、50<Cn/W、かつ1000≦(Cn+Cp)/Wであることを特長とする非水系二次電池。
2.上記項1に記載の非水系二次電池において、1100≦(Cn+Cp)/Wであることを特徴とする非水系二次電池。
3.上記項1又は2に記載の非水系二次電池において、前記ピッチを主成分とする原料は、軟化点が150〜300℃であることを特徴とする非水系二次電池。
4.上記項1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池において、前記多環芳香族系炭化水素は、(a)軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を、不融化処理あるいは表面酸化処理しない状態で熱反応させることにより得られ、(b)水素/炭素の原子比が0.35〜0.05であり、(c)BET法による比表面積が50m 2 /g以下であり、(d)1000mAh/g以上のリチウムをドープ可能であることを特徴とする非水系二次電池。
5.上記項1〜4のいずれかに記載の非水系二次電池において400<Cp/Wであることを特徴とする非水系二次電池。
6.負極材料が、負極と金属リチウムとを電池内で電気化学的に接触させることにより、リチウムをプリドーピングした材料である上記項1〜5のいずれかに記載の非水系二次電池。
7.電池外装体の厚みが0.2mm以下であり、電池内圧が大気圧以下の状態で封止されている上記項1〜6のいずれかに記載の非水系二次電池。
8.上記項1〜3及び5〜7のいずれかに記載の非水系二次電池の製造方法であって、軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を熱反応させる工程を備える、非水系二次電池の製造方法。
9.上記項1〜7のいずれかに記載の非水系二次電池の製造方法であって、軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を、不融化処理あるいは表面酸化処理しない状態で熱反応させる工程を備える、非水系二次電池の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明による非水系二次電池は、基本的要素として負極、正極、セパレーターおよび非水系電解質を備えている。
【0017】
本発明による非水系二次電池の負極は、ピッチを熱反応して得られる多環芳香族系共役構造物質(以下、「本発明の負極材料」という)にリチウムをプリドーピングした材料からなる。
【0018】
本発明の負極材料の製造原料となるピッチは、所定の物性を備えた負極材料を得ることができれば、特に限定されるものではないが、大別して石油系ピッチと石炭系ピッチとに分けられる。例えば、石油系ピッチとしては、原油の蒸留残査、流動性接触分解残査(デカントオイルなど)、サーマルクラッカーからのボトム油、ナフサクラッキングの際に得られるエチレンタールなどが例示される。これら原料を熱処理により重縮合させることにより、負極材料が得られる。
【0019】
また、石炭系ピッチとしては、石炭の乾留で得られる油分であるコールタールを蒸留して、軽質分を流出させた残査であるストレートピッチ、これにさらにアントラセン油、タールなどを添加したものなどが例示される。また、これらピッチを原料として合成されるメソフェーズピッチも、本発明の負極材料の製造原料として使用することができる。
【0020】
これらのピッチは、現在安価で大量に生産されており、主な用途としては、製鉄用コークスバインダー、電極用含浸材、コークス用原料、炭素繊維製造原料、成形炭素材料用バインダーなどとして、広く用いられている。
【0021】
本発明の負極材料は、上記ピッチの少なくとも1種を熱反応させることにより、製造され、(1)水素/炭素の原子比が0.35〜0.05であり、(2)BET法による比表面積が50m2/g以下であることを必須とする。
【0022】
原料ピッチの熱反応は、窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気(真空を含む)中で行う。原料ピッチの熱反応温度、昇温速度、反応時間などは、原料の種類、目標とする負極材料のH/C比と比表面積などに応じて適宜決定される。熱反応温度は、通常550〜750℃程度であり、より好ましくは600〜700℃程度である。昇温速度は、通常10〜1000℃/時間程度の範囲内にある。昇温速度は、一定である必要はなく、例えば、300℃までは100℃/時間の速度で昇温し、300〜650℃までは50℃/時間の速度で昇温することも可能である。反応時間は、通常1〜100時間の範囲内にある。
【0023】
かくして得られる本発明の負極材料は、水素/炭素の原子比(以下「H/C」という)が、通常0.35〜0.05程度であり、好ましくは0.30〜0.10程度であり、さらに好ましくは0.30〜0.15程度である。H/C値が高すぎる場合には、生成物中の多環芳香族系共役構造が十分に発達していないので、容量および効率が低くなる。一方、H/C値が低すぎる場合には、炭素化が進行し過ぎているので、充分な容量が得られない。
【0024】
なお、本発明の負極材料には、原料ピッチに由来する酸素、硫黄、窒素などの不純物が、種々の化合物の形態で含まれていることがある。これらの化合物が過剰に存在する場合には、負極材料の特性を阻害することがあるので、これら不純物の合計量が20重量%以下(元素として)、より好ましくは10重量%以下となる様に、原料を選択し、熱反応条件を設定することが望ましい。
【0025】
本発明の負極材料のBET法による比表面積は、通常50m2/g以下であり、より好ましくは30m2/g以下である。負極材料の比表面積が高すぎる場合には、リチウムのドープおよび脱ドープの初期効率が悪くなり、かつプリドーピングするリチウム量が多くなるので、実用上好ましくない。従来報告されている多環芳香族系共役構造物質においては、その比表面積は、一般に炭素系材料および黒鉛系材料に比べて大きく、50m2/gを超える。比表面積を低下させて効率を高めるために、炭素系材料および黒鉛系材料を再度表面処理する技術も開発されているが、この技術は、煩雑な操作を必要とし、負極材料コストを著しく高めるので、実用的に不利である。これに対し、本発明の負極材料は、ピッチ原料の1回の熱反応により、比表面積50m2/g以下とすることが可能であり、製造が容易である。一般に、負極材料の比表面積は、熱処理反応温度を上昇させると低下して、リチウムのドープおよび脱ドープの初期効率が高くなるが、その反面比表面積の低下に伴って、容量は急激に減少する。本発明の負極材料は、上述のH/C比の範囲において、比表面積を50m2/g以下とすることを特徴とする。比表面積の下限値は、特に限定されないが、0.1m2/g程度である。
【0026】
本発明の負極材料を得るための具体的な方法の一例を説明する。ピッチを原料とする本発明の負極材料は、熱反応条件(熱反応時間、昇温速度、雰囲気、圧力、反応時に生成するガス成分の反応系外への除去速度など)を制御することにより、上記特定の構造を得ることができる。特に、ピッチ原料を適切に選択することにより、熱反応条件による制約を緩和することができる。一般に、ピッチを原料とする炭素材料は、空気中でピッチを100〜400℃程度の温度で加熱するか、或いは硝酸、硫酸などの酸化性液体により処理して、ピッチ全体あるいはその表面を不融化処理(架橋処理)した後、不活性雰囲気中で熱処理することにより、製造される。しかしながら、本発明においては、ピッチを不融化処理あるいは表面酸化処理しない状態で、熱反応に供することにより、容易に本発明の負極材料を得ることができる。
【0027】
本発明において使用する原料ピッチの軟化点は、好ましくは70〜400℃程度、より好ましくは100〜350℃程度、特に好ましくは150〜300℃程度である。原料ピッチの軟化点が低すぎる場合には、負極材料の収量が低下するのに対し、高すぎる場合には、負極材料の比表面積が増大しやすい傾向にある。
【0028】
この様なピッチを原料として、窒素、アルゴン、真空下などの不活性雰囲気下において550〜750℃以下で熱反応を行うことにより、本発明の負極材料が得られる。この熱反応における生成物の収率は、原料ピッチの種類などによっても異なるが、60%以上の値が得られることが望ましい。
【0029】
熱反応により得られる本発明の負極材料は、不定形を呈するので、ボールミル、ジェットミルなどの粉砕器で粉砕した後、さらに必要に応じて、分級するすることにより、所定の粒径に整粒する。負極材料の平均粒径は、目的とする電池の形状、特性、電極の厚み、密度などを考慮して決定されるものであるが、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。平均粒径は、電極製造時の操作性を考慮して、0.1μm以上とすることが好ましく、1μm以上とすることがより好ましい。
【0030】
得られた本発明の負極材料の容量(リチウムのドープ量および脱ドープ量)は、以下の様にして測定することができる。例えば、当該負極材料を用いた電極を作用極とし、対極および参照極としてリチウム金属を用いる電気化学セルを組み立て、後述の非水系電解液中において、リチウム金属電位に対し1mVの電位で定電圧を印加し、電流値が充分に小さく(例えば0.01mA/cm2)なるまでリチウムをドープした後、充分に遅い速度(例えば0.25mA/cm2)でリチウム金属電位に対し、2Vまで脱ドープすることにより、測定する。本発明の負極材料は、上述の方法で測定した場合、1000mAh/g以上のリチウムをドープ可能であり、かつその内65%以上のリチウムが脱ドープ可能である。
【0031】
本発明における負極は、上記本発明の負極材料にリチウムをプリドーピングした材料からなる。本発明の負極材料へのリチウムのプリドーピングの手法は、特に限定されるものではないが、本発明の負極材料を電極に成形した後に行うのが実用的である。
【0032】
本発明の負極材料を用いる電極の成形は、所望の非水系二次電池の形状、特性などを考慮しつつ、公知の方法により行うことができる。例えば、負極材料と結着剤樹脂と、必要に応じて導電剤とを混合し、成形することにより、電極を得ることができる。結着剤樹脂は、特に限定されるものではないないが、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ四フッ化エチレンなどのフッ素系樹脂;フッ素ゴム、SBRなどのゴム系材料;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;アクリル樹脂などが例示される。
【0033】
負極成形混合物における結着剤配合量は、本発明の負極材料の種類、粒径、形状、目的とする電極の厚み、強度などに応じて適宜決定すれば良く、特に限定されるものではないが、通常本発明の負極材料重量の1〜30%程度とすることが好ましい。
【0034】
本発明において、負極を集電体上に形成するに際し使用する集電体は、特に限定されるものではないが、銅箔、ステンレス鋼箔、チタン箔などが挙げられる。さらに、金属箔上あるいは金属の隙間に電極が形成可能であるもの、例えば、エキスパンドメタル、メッシュなどを用いることもできる。
【0035】
本発明の負極材料へのリチウムのプリドーピングは、本発明の負極材料を電極に成形した後、電気化学的に行う。具体的には、電池組立前に、対極としてリチウム金属を用いる電気化学システムを組み立て、後述の非水系電解液中において、プリドーピングする方法、電解液を含浸した負極にリチウム金属を張り合わせる方法が挙げられる。また、電池組立後に、リチウムのプリドーピングを行うには、リチウム金属などのリチウム源と負極とを張り合わせなどの方法により、電気的に接触させておき、電池内に電解液を注液することにより、リチウムをプリドーピングすることが可能である。
【0036】
本発明の負極材料へのリチウムプリドーピング量は、正極から放出可能なリチウム量をCp(mAh)とし、負極へのリチウムのプリドーピング量をCn(mAh)とし、負極中の多環芳香族系炭化水素の重量をW(g)とする時、50<Cn/Wかつ800<(Cn+Cp)/Wという関係が成り立つことが好ましい。ここに、「正極から放出可能なリチウムCp量(mAh)」とは、電池組立時に正極中に含まれるリチウムであって、充電操作中に放出されて負極に取りこまれるリチウム量を意味する。例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム含有複合酸化物などが、正極中に含まれるリチウムを含有する正極材料の代表例である。一方、MnO2、V2O5などのリチウムを含まない酸化物などにおいては、Cpの値は0である。
【0037】
負極材料重量に対するリチウムプリドーピング量Cn/Wが50以下の場合には、電池を組み立てたときに、充分な容量が得られない。プリドーピング量は、より好ましくは100<Cn/Wであり、さらに好ましくは150<Cn/Wであり、特に好ましくは200<Cn/Wである。また、負極中のリチウムの内、2V(vs. Li/Li+)までに放出不可能なリチウム量(一般的に不可逆リチウム)をCirr(mAh)とする時、Cirr(mAh)+50<Cn/W<Cirr(mAh)+300とすることが好ましい。
【0038】
また、(Cn+Cp)/Wが800以下である場合には、負極の利用率が低い為、電池を組み立てたときに充分な容量が得られないので、好ましくない。(Cn+Cp)/Wは、より好ましくは900以上であり、特に好ましくは1000以上である。
【0039】
本発明において負極重量に対する正極から放出可能なリチウム量Cp/Wは、400<Cp/Wなる関係を満たすことが好ましい。この場合に、上述の様に、正極材料は、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4などのリチウム含有複合酸化物である。Cp/W値は、より好ましくは550以上であり、更に好ましくは700以上である。Cp/Wが400未満である場合には、プリドーピング量が大きくなるので、実用上の問題が生じやすい。
【0040】
本発明において、上述の通り、簡便なプリドーピング法の1例として、負極にリチウム金属箔を張り合わせて電池を組立て、電池内に電解液を注液することにより、リチウムをプリドーピングする方法が挙げられる。この場合、リチウムのプリドーピング完了後に、リチウム金属部分に隙間が形成されて、内部抵抗が大きくなる傾向がある。この場合には、電池外装体の厚みが0.2mm以下として、電池内圧を大気圧以下の状態として封止することにより、リチウムのプリドーピング完了後に生じた隙間を大気圧と電池内圧との差圧で圧して、解消させることが可能である。また、プリドーピング完了後に再度封止することも可能である。0.2mm以下の電池外装体としては、公知のアルミ-樹脂ラミネートフィルムが代表的であり、これは本発明においても適用可能である。
【0041】
本発明において使用する正極活物質としては、リチウムの吸蔵/放出が可能な正極材料であれば、特に限定されず、例えば、リチウム複合コバルト酸化物、リチウム複合ニッケル酸化物、リチウム複合マンガン酸化物、或いはこれらの混合物、更にはこれら複合酸化物に異種金属元素を一種以上添加した系などを用いることができる。また、マンガン、バナジウム、鉄などの金属酸化物、ジスルフィド系化合物、ポリアセン系物質、活性炭などを用いることも、可能である。
【0042】
本発明において使用する非水系電解質としては、リチウム塩を含む非水系電解液、ポリマー電解質、ポリマーゲル電解質などの公知の非水系電解質を用いることが可能であり、正極材料の種類、負極材料の性状、充電電圧などの使用条件などに対応して、適宜決定される。リチウム塩を含む非水系電解液としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4などのリチウム塩をプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチルラクトン、酢酸メチル、蟻酸メチルなどの1種または2種以上からなる有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、電解液の濃度は、特に限定されるものではないが、一般的に0.5〜2mol/l程度が実用的である。電解液は、当然のことながら、水分が100ppm以下のものを用いることが好ましい。なお、本明細書で使用する「非水系電解質」という用語は、非水系電解液および有機電解液を含む概念を意味するものであり、また、ゲル状および固体の電解質を含む概念をも意味するものである。
【0043】
本発明の非水系二次電池の形状、大きさなどは、特に限定されるものではなく、それぞれの用途に応じて、円筒型、角型、フィルム電池、箱型などの任意の形状および寸法のものを選択すればよい。
【0044】
【実施例】
以下に、実施例を示し、本発明の特徴とするところをさらに明確にする。
実施例1
1)大阪ガス株式会社製石炭系等方性ピッチ(軟化点280℃)を、コーヒーミルで粉砕し、粒度1mm以下のピッチ原料を得た。該ピッチ粉末1000gをステンレス鋼製の皿に入れ、電気炉(炉内有効寸法300mm×300mm×300mm)内に設置して、熱反応を行った。熱反応は、窒素雰囲気下で行い、窒素流量を10l/分とした。熱反応に際しては、室温から100℃/時間の速度で634℃(炉内温)まで昇温した後、この温度で4時間保持し、続いて自然冷却により、60℃まで冷却し、反応生成物を電気炉から取り出した。得られた生成物は、原料の形状を留めず、不定形な不溶不融性固体であった。収量は801gであり、収率は80重量%であった。
【0045】
得られた生成物をジェットミルにより粉砕し、平均粒度6μmに分級して、負極材料を得た。該負極材料を用いて、元素分析(測定使用機:パーキンエルマー製、元素分析装置“PE2400シリーズII、CHNS/0”)およびBET法による比表面積測定(測定使用機:ユアサアイオニクス社製、“NOVA1200”)を行ったところ、H/C=0.22であり、比表面積は18m2/gであった。
【0046】
次いで、上記の負極材料粉末90重量部、PVdF10重量部およびN-メチルピロリドン(NMP)120重量部を混合し、負極合材スラリーを得た。該スラリーを厚さ14μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥した後、プレスを行うことにより、厚さ90μmの電極を得た。
【0047】
次いで、上記で得られた電極を作用極とし、金属リチウムを対極および参照極に用い、電解液としてエチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液を用いて、電気化学セルをアルゴンドライボックス中で作成した。リチウムのドーピングは、リチウム電位に対して1mVになるまで0.25mA/cm2の速度で行い、更にリチウム電位に対して1mVの定電圧を40時間印可し、ドーピングを終了した。続いて、0.25mA/cm2の速度でリチウム電位に対して2Vまで脱ドーピングを行った。
【0048】
ドーピング量は1451mAh/gであり、脱ドーピング量は1109mAh/gであり、初期効率は76.4%であった。
【0049】
2)LiCoO2(セイミケミカル製、品番C-012)100重量部、アセチレンブラック4重量部、PVdF5重量部およびNMP80重量部を混合し、正極合材スラリーを得た。次いで、該スラリーを集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスを行って、正極を得た。
【0050】
正極は、図1および図2に示すように、電極塗布部分1は50×30mm2であり、厚さ20μmのアルミニウム箔両面に140μmの厚さで塗布されている。また、電極の一方の端に電極が塗布されていない正極集電体2の耳部分が設けられている。
【0051】
3)上記1)項で得られた本発明の負極材料100重量部、アセチレンブラック10重量部およびPVdF10重量部をNMP200重量部と混合して、負極合材スラリーを得た。次いで、該スラリーを集電体となる厚さ14μmの銅箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスを行って、負極を得た。
【0052】
負極は、図3および図4に示すように、電極塗布部分3は51×31mm2であり、厚さ14μmの銅箔両面に100μmの厚さで塗布されている。また、電極の一方の端に電極が塗布されていない負極集電体4の耳部分が設けられている。
【0053】
更に、同様の手法で片面だけに塗布し、それ以外は同様の方法で片面電極を作成した。片面電極は、下記4)項の電極積層体において外側に配置される。
【0054】
4)上記2)および3)項で得られた正極6枚、負極5枚(内片面電極2枚)をセパレーター(東燃タピルス製、多孔性ポリエチレン:52×32mm2)を介して、交互に積層し、電極積層体を作成した。この際、負極表面には厚さ20μmのリチウム金属箔が張りつけられており(合計12枚:750mAh分)、下記5)項における電解液注液後に、負極に対しプリドーピングされる。
【0055】
5)得られた電極積層体の正極耳部分および負極耳部分をタブ(正極:アルミニウム、負極:ニッケル)と溶接し、電解液としてエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLIPF6を溶解した溶液を含浸した後、厚さ0.11mmのアルミニウム-樹脂ラミネートフィルム(アルミニウム層:0.02mm)を外装体として、減圧下(0.1気圧)真空封止することにより、電池を得た。
【0056】
6)次いで、上記で作成した電池を200mAの電流で4.2Vまで充電し、その後4.2Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を8時間行った。続いて、200mAの定電流で2.5Vまで放電した。放電容量は1002mAhであり、10サイクルにおいてその容量劣化はわずかであった。
【0057】
これに対し、負極に黒鉛材料を用いる同型の市販リチウムイオン電池の容量は500〜600mAh程度である。従って、本発明によるリチウムイオン電池においては、市販電池に比べて、1.5倍以上の容量向上が見られる。
【0058】
下記表1は、実施例1〜3および比較例1〜2によるに各電池の性能をまとめて示したものである。
実施例2
実施例1においてプリドーピングするリチウム量を600mAh分とするとともに、電池組立前に対極としてリチウム金属を用いた電気化学システムを組み立て、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液中においてプリドーピングする以外は実施例1と同様にして、電池を試作した。
実施例3
実施例1においてプリドーピングするリチウム量を450mAh分とするとともに、電池組立前に対極としてリチウム金属を用いた電気化学システムを組み立て、エチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートを3:7重量比で混合した溶媒に1mol/lの濃度にLiPF6を溶解した溶液中においてプリドーピングする以外は実施例1と同様にして、電池を試作した。
比較例1
実施例1においてプリドーピングするリチウム量を0mAh分(負極にリチウムを張りつけない)とする以外は実施例1と同様にして、電池を試作した。
比較例2
比較例1において正極電極層厚みを170μmとし、負極電極層厚みを70μmとする以外は比較例1と同様にして、電池を試作した。
【0059】
【表1】
【0060】
【発明の効果】
本発明によれば、安価なピッチを原料として得られた特定の構造を有する負極材料に、リチウムをプリドーピングした材料を負極材料として用いることにより、得られる電池は、負極に黒鉛などを用いる従来のリチウムイオン電池に比べて、容量が大巾に向上する。また、本発明の負極材料は、電池の安全性確保および低コスト化に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1により得られた電池正極を示す平面図である。
【図2】図1に示す電極正極の側面図である。
【図3】実施例1により得られた電池負極を示す平面図である。
【図4】図1に示す電極負極の側面図である。
【符号の説明】
1…正極電極塗布部分
2…正極集電体
3…負極電極塗布部分
4…負極集電体
Claims (9)
- 正極、負極および非水系電解液を備えた非水系二次電池において、
(1)正極が、リチウムを電気化学的に吸蔵および放出し得る材料からなり、
(2)負極が、(a)ピッチを主成分とする原料を熱反応させることにより得られ、(b)水素/炭素の原子比が0.35〜0.05であり、(c)BET法による比表面積が50m2/g以下であり、(d)1000mAh/g以上のリチウムをドープ可能である多環芳香族系炭化水素にリチウムをプリドーピングした材料からなり、
正極から放出可能なリチウム量をCp(mAh)とし、負極へのリチウムのプリドーピング量をCn(mAh)とし、負極中の多環芳香族系炭化水素の重量をW(g)とする時、50<Cn/W、かつ1000≦(Cn+Cp)/Wであることを特長とする非水系二次電池。 - 請求項1に記載の非水系二次電池において、1100≦(Cn+Cp)/Wであることを特徴とする非水系二次電池。
- 請求項1又は2に記載の非水系二次電池において、前記ピッチを主成分とする原料は、軟化点が150〜300℃であることを特徴とする非水系二次電池。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の非水系二次電池において、前記多環芳香族系炭化水素は、(a)軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を、不融化処理あるいは表面酸化処理しない状態で熱反応させることにより得られ、(b)水素/炭素の原子比が0.35〜0.05であり、(c)BET法による比表面積が50m2/g以下であり、(d)1000mAh/g以上のリチウムをドープ可能であることを特徴とする非水系二次電池。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の非水系二次電池において400<Cp/Wであることを特徴とする非水系二次電池。
- 負極材料が、負極と金属リチウムとを電池内で電気化学的に接触させることにより、リチウムをプリドーピングした材料である請求項1〜5のいずれかに記載の非水系二次電池。
- 電池外装体の厚みが0.2mm以下であり、電池内圧が大気圧以下の状態で封止されている請求項1〜6のいずれかに記載の非水系二次電池。
- 請求項1〜3及び5〜7のいずれかに記載の非水系二次電池の製造方法であって、軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を熱反応させる工程を備える、非水系二次電池の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の非水系二次電池の製造方法であって、軟化点150〜300℃のピッチを主成分とする原料を、不融化処理あるいは表面酸化処理しない状態で熱反応させる工程を備える、非水系二次電池の製造方法。
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