無線通信システムにおいては、移動体端末(端末)は、周囲の基地局から受信する電力や受信品質等に基づいて接続する基地局を最適な基地局に選択的に切り替えることにより、受信電力等が低下した場合であっても通信を継続することができる(例えば、特許文献1、2、3および4、および非特許文献1)。無線通信システムとしては、例えば、近年急速に普及してきているW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)システムが挙げられる。
図21は、W−CDMA方式を採用する通信システムの構成例である。端末(MS、Mobile Station)は、複数の基地局(BTS、Base Transmission Station)BTSa、BTSb、BTSc、…BTSnから信号を受信している。端末は、複数の基地局のうち、最も受信電力の大きい基地局を通信に最適な基地局として選択し、その基地局を介してネットワークに接続する。例えば端末の移動等により、接続中の基地局よりも周辺の(隣接)基地局からの受信電力が大きくなると、その基地局へと接続先を切り替えるハンドオーバを実施し、通信を継続する。MIMO技術によって、基地局と端末との間で複数のデータストリームを同時に送受信する場合においても同様に、端末の通信環境に応じてハンドオーバが行われる。以下、W−CDMAの一規格であるHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)を採用する無線通信システムにおいて、MIMO技術を用いる際のハンドオーバ処理について説明する。
図22は、従来技術に係るハンドオーバ処理を概略的に示した図である。HSDPAシステム100の下での下り伝送、すなわち基地局から端末へのデータ伝送におけるハンドオーバ処理を模式的に示している。図22の例では、基地局と端末とは、2×2のアンテナ構成を採るものとする。
ハンドオーバ前には、図22(a)に示すように、端末102は基地局103Aを介してデータストリームを受信している。端末102において基地局103Aから受信する電力よりも基地局103Bから受信する電力の方が大きくなると、図22(b)に示すように、ハンドオーバ処理により、データストリームを伝送するために使用する基地局を、より受信電力の大きい基地局103Bに切り替える。このとき、基地局103Aから送信されていた2本のデータストリームは、同時に切り替えられる。ハンドオーバ処理後、端末102は、2本のデータストリームを基地局103Bを介して受信することになる。
図23および図24は、それぞれ従来技術に係る受信側装置および送信側装置の構成例である。ここでは、端末102が受信側装置であり、基地局103が送信側装置であるものとする。また、図23および図24の例においては、端末102、基地局103は送受信用のアンテナをそれぞれ3本ずつ備えており、3本のストリームを同時に送受信することのできる構成とされている。なお、図23および図24においては、図面を見やすくするために、基地局103から端末102へのデータストリームを伝送するために利用されるアンテナ(Tx1〜Tx3、Rx1〜Rx3)と、端末102から基地局103へ信号を伝送するためのアンテナ(Tx0、Rx0)とを別個に描いている。しかし、実際の構成においては、各アンテナは、信号の送信および受信のために共用される。すなわち、端末102が備えるアンテナTx0は、アンテナRx1〜Rx3の中の任意の1本または複数本により実現され、同様に、基地局103が備えるアンテナRx0は、アンテナTx1〜Tx3の中の任意の1本または複数本により実現される。なお、以下の説明において端末や基地局の送信アンテナと受信アンテナとを別個に示している図面についても同様である。
図23に示されるような従来の端末102は、3本のアンテナRx1、Rx2、Rx3とこれに対応する受信部111A、111B、111Cとを備えている。受信電力測定部112A、112B、112Cは、それぞれ受信部111A、111B、111Cにおける、各基地局103からの受信電力を測定する。ハンドオーバ判定部113は、各受信電力測定部112における測定結果から、各基地局における受信電力の和である総受信電力を算出し、ハンドオーバを実施するか否かを判定する。
図24(a)に示されるような従来の基地局103においては、端末102のアンテナTx0から送信されたハンドオーバ制御情報をアンテナRx0にて受信する。受信した情報は、受信部を介してハンドオーバ制御信号抽出部131に与えられる。ハンドオーバ制御信号は、上位の制御局、HSDPAシステム100においては無線制御装置(RNC、Radio Network Controller)に送信される。
図24(b)は、基地局103の上位局であるRNCの、ハンドオーバ処理に関連する構成を示した図である。ハンドオーバ信号が基地局103からRNCに対して送信されると、RNCは、ハンドオーバ制御部においてハンドオーバを実施するタイミングを決定する。基地局103のハンドオーバ制御部132は、RNCからの通知を受けてハンドオーバを実行する。
図25は、従来のシステムにおけるハンドオーバの処理手順を示した図である。まず、各基地局からの受信電力を測定し(S101)、端末102の周辺基地局からの総受信電力を比較し(S102)、比較結果に基づいてハンドオーバを実施するか否か判定し、ハンドオーバを実施すると判定された場合にはいずれの基地局にハンドオーバを実施するのかを決定する(S103)。
図26は、従来のハンドオーバ処理のうち受信電力の測定処理について、具体的に示したフローチャートである。図26の例においては、端末の周辺にn個の基地局が存在し、また、各端末局にはアンテナがそれぞれm本ずつ設けられている。また、基地局番号jの基地局からの信号の受信電力をPj、アンテナAxにおいて受信した電力をPrxとする。
受信電力の測定処理においては、アンテナ番号、基地局番号および各基地局からの受信電力を初期化してから(S111)、基地局番号jおよびアンテナ番号iをそれぞれ1ずつ加算し(S112、S113)、各基地局jからの信号を各アンテナAiで受信したときの受信電力Prxを順次加算して、受信電力の和を求める(S114、S115、S116)。受信電力の和は、n基の基地局についてそれぞれ求められる(S117)。
図25および図26に示されるように、従来のハンドオーバ処理においては、受信電力の和に基づいてハンドオーバの要否が判定され、ハンドオーバ元の基地局からハンドオーバ先の基地局へとデータストリームを伝送する基地局が切り替えられるときには、データストリームは、ハンドオーバの前後で異なる基地局を介して送信されることになる。
図27は、従来技術におけるハンドオーバ前後のデータ伝送を模式的に示した図である。端末102が基地局BTS1配下から基地局BTSh配下に移動することによりハンドオーバが実施されるものとする。図27(a)に示されるように、ハンドオーバ前には基地局BTS1からデータが伝送されているが、上位の制御局であるRNCによって所定のタイミングでハンドオーバが実施されると、RNCと基地局BTS1との間のパスは切断され、RNCと基地局BTShとの間にパスが確立される。図27(b)に示されるように、以降はハンドオーバ先の基地局BTShを介してデータが伝送され、基地局BTS1にそれまで蓄積されていたデータが残ってしまう。
図27の基地局BTS1に蓄積されているデータを未転送のままでは、端末102においてすべてのデータを受信することができない。このような端末102におけるデータの欠落を防ぐために、従来技術によれば、データの転送や再送等の処理が実行されていた。
図28から図31は、従来のシステムにおけるハンドオーバ発生時のデータ欠落防止のための処理を説明する図である。図28から図31において、ハンドオーバ元基地局をBTSa、ハンドオーバ先基地局をBTSbとし、BTSa、BTSbに配信されたデータをそれぞれデータA、データBとする。
図28は、ハンドオーバ実施前の各基地局のバッファの状態を説明する図である。基地局の上位の制御局である無線制御RNCは、接続されたBTSaを介してデータを端末に送信している。データAは、BTSaのバッファに蓄積される。
図29は、ハンドオーバ後にデータの再送を行う場合における、ハンドオーバ実施直後の各基地局のバッファの状態を説明する図である。ハンドオーバ実施後、端末102はBTSbを介してネットワークに接続する。BTSbのバッファには、ハンドオーバ実施後のデータBが蓄積される。一方、ハンドオーバが実施されるまでBTSaに配信されていたデータAは、BTSaのバッファに残ってしまう。
図30は、上位の制御局によるデータ再送処理を説明する図である。図29に示されるように、データAは、ハンドオーバ前にハンドオーバ元基地局(BTSa)に送信され、バッファに蓄積されたデータである。上位の制御局であるRNCは、端末102からの要求を受け、BTSaに蓄積されたままのデータAをハンドオーバ先基地局であるBTSbに再送し、一方、BTSaにおけるデータAは廃棄される。BTSbにおいては、データAの再送処理に先立って端末102とRNCとの間で再送制御のための信号のやり取りがなされ、その後データAが再送される。再送制御信号のやり取り、実際の再送処理に時間を要する。
図31は、ハンドオーバ後にデータの転送を行う場合における、ハンドオーバ実施直後の各基地局のバッファの状態を説明する図である。この方法によれば、ハンドオーバによりBTSaのバッファに蓄積されたデータAを、RNCを介してBTSbに転送する。転送に際しても、図30に示したデータの再送処理と同様に、制御信号のやり取りや実際の転送処理のための時間を要する。
図28から図31を用いて説明したように、従来技術においては、ハンドオーバの際には、同時に送信される複数のデータストリームが同時に切り替えられるため、ハンドオーバ元の基地局のバッファに蓄積されたデータを再送あるいは転送によって端末102に送信しなければ、端末102においてデータの欠落が生じてしまう。データの再送や転送の処理を実行しなくてはならない分ハンドオーバ処理に要する時間が長くなり、これにより、伝送速度が低下してしまう、という問題がある。
また、MIMO関連技術として、互いに独立なデータストリームをそれぞれ複数の送信系統から同一周波数を用いて同時に無線送信するシステムにおいて、ある端末の受信電力(あるいは受信品質)が所定の閾値以下になった場合、送信データストリームを、互いに独立な複数のデータストリームから複数のサブストリームに切り替えて、複数の送信系統からそれぞれ同一周波数を用いて同時に無線送信する技術がある。かかる技術によれば、比較的受信電力の大きい基地局周辺に端末がある場合はMIMO送信を行い、比較的受信電力の小さい領域に端末がある場合は、送信ダイバーシチが行われる。2つの領域の境界付近では、MIMO送信と送信ダイバーシチとの間で切り替えが行われる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明に係るハンドオーバ方法の概念図である。W−CDMAの1規格であるHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)を採用するMIMO伝送技術を用いた無線通信システム1は、基地局BTS3(Base Transmission Station、BTS3a、BTS3b)および端末(MS、Mobile Station)2を含んで構成される。図1(a)に示されるように、ハンドオーバ前には、端末2は基地局BTS3aを介して複数のデータストリームを受信している。同じデータストリームの受信電力に関し、接続していない他の基地局からの受信電力の方が接続中の基地局からの受信電力よりも高い場合は、そのデータストリームについて、ハンドオーバを実施する。図1(b)に示されるように、ハンドオーバが実施されたデータストリームは、基地局BTS3bを介して端末2に送信される。ハンドオーバを実施しないデータストリームについては、そのまま基地局BTS3aを介して端末2に送信される。すなわち、端末2は、一時的に、1以上のデータストリームを基地局BTS3aから受信すると共に、1以上のデータストリームを基地局BTS3bから受信する。
図2は、第1の実施形態に係るハンドオーバを実行する端末2の構成図である。図2の例においては、m×n(m、nは、それぞれ整数)の無線通信システムの一例として、3×3の構成を示す。
図2に示される端末2は、複数のアンテナRx(Rx1、Rx2、Rx3)、複数の受信部21(21A、21B、21C)、信号分離合成部24、復号処理部25、ストリーム受信電力測定部22、ハンドオーバ判定部23および送信部26を含む。
複数の受信部21は、各アンテナRxを介して受信した信号を処理するインタフェースである。信号分離合成部24は、受信部21を介して基地局3から受信した信号から複数のデータストリームを再生し、復号処理部25およびストリーム受信電力測定部22に与える。このとき、ストリーム受信電力測定部22には、パイロット信号のみを送るようにしてもよい。復号処理部25は、再生されたデータストリームを復号する。ストリーム受信電力測定部22は、信号分離合成部24により再生された各ストリーム(特には、パイロット信号)の受信電力を測定する。このとき、ストリーム受信電力測定部22は、接続中の基地局から受信した各ストリームの受信電力、および端末2の周辺に位置する他の基地局からの各ストリームの受信電力を測定する。ハンドオーバ判定部23は、ストリーム受信電力測定部22の測定結果に基づいて、ハンドオーバの要否を判定する。送信部26は、本実施形態においては、ハンドオーバ要求等のメッセージを、アンテナTx0を介して送信するためのインタフェースである。
従来の無線通信システムにおいては、図22〜図26を参照しながら説明したように、複数のストリームの受信電力の和(すなわち、総受信電力)を基地局ごとに測定し、その総受信電力に応じてハンドオーバの要否が判断されていた。これに対して実施形態の無線通信システム1では、ストリーム毎に受信電力を測定し、その結果に応じてストリーム毎にハンドオーバの要否が判断される。
図3は、本実施形態に係るデータストリームの送受信の概要を示した図である。無線通信システム1配下では、端末2は複数の基地局3から、図2に示されるシステム構成においては2つの基地局BTS3aおよび基地局BTS3bからデータストリームを受信する。m×nの無線通信システムでは、データの送信側装置である基地局3が送信すべきデータを分割し、m本のアンテナを介してデータストリームを送信する。データの受信側装置である端末2は、n本のアンテナを備えており、このn本のアンテナを介してデータストリームを受信する。端末2において基地局BTS3aから受信した信号をデータストリーム毎に分離するときに用いられるチャネル応答行列は、以下の通りとなる。
信号分離合成部24において、(1)式に示される行列Hを用いて、基地局BTS3aを介して受信したデータストリームが分離される。分離された信号は復号処理部25に与えられ、復号信号が得られる。
なお、端末2は、基地局BTS3aから送信されるパイロット信号を利用して、基地局BTS3aと端末2との間のチャネル応答行列を予め算出しているものとする。また、同様に、端末2は、周辺の基地局(ここでは、BTS3b)から送信されるパイロット信号を利用して、その基地局BTS3bと端末2との間のチャネル応答行列も予め算出してあるものとする。(2)式に基地局BTS3bと端末2との間のチャネル応答行列を示す。
ここで、基地局BTS3aのアンテナA2から送信されるストリームの受信電力よりも基地局BTS3bのアンテナ2から送信されるストリームの受信電力の方が大きくなり、図1に示されるような本発明に係るハンドオーバが実施されるものとする。この場合、端末2において基地局BTS3aおよび基地局BTS3bから受信した信号をストリーム毎に分離するときに用いられるチャネル応答行列は、以下のように示される。
上の(3)式において、第2列の行列要素b21、b22、…b2mは、基地局BTS3bの2番目のアンテナと端末2との間の伝搬特性を表す。
このように、切り替えるべきデータストリームについてのチャネル応答行列の要素がハンドオーバ先基地局におけるそれと置き換えることで、本発明に係るデータストリーム毎のハンドオーバが行われる。
図4は、第1の実施形態に係るハンドオーバ方法を実行する基地局3の構成図である。図2と同様に、3×3の構成を示す。
図4に示される基地局3は、送信データ部33、S/P部34、パイロット作成部35、複数の送信部36(36A、36B、36C)、複数のアンテナTx(Tx1、Tx2、Tx3)、受信部37、制御信号復号部31およびストリーム選択部32を含む。
送信データ部33は、上位の制御局(HSDPAシステムにおいてはRNC)から受信した、端末2に送信すべきデータを蓄積するメモリを含む。S/P部34は、上位の制御局から受信したシリアル信号をパラレル化して各送信部36に与える。パイロット作成部35は、ストリーム毎に対応するパイロット信号を作成する。複数の送信部36、図4の例では送信部36A、36B、36Cは、それぞれアンテナTx1、Tx2、Tx3を介して、パイロット信号およびデータを送信するためのインタフェースである。受信部37は、図2に示す端末2からハンドオーバ要求等をアンテナRx0を介して受信するためのインタフェースである。制御信号復号部31は、受信部37から与えられた制御信号を復号する。ストリーム選択部32は、復号された制御信号に基づいて、切り替えるべきデータストリームを選択し、S/P部34やパイロット作成部35を制御する。
以下の説明においては、端末2が接続中の基地局をBTS3aとし、また、BTS3a以外の基地局であって端末2の周辺に位置する基地局をBTS3b、BTS3c、…、BTS3nとする。端末2のストリーム受信電力測定部22は、基地局3からの、各々のデータストリームの受信電力Pbts3a、Pbts3b、…、Pbts3nを測定する。ハンドオーバ判定部23は、ストリーム毎にPbts3a、Pbts3b、…Pbts3nの大きさを比較して、ハンドオーバを実施するか否かを判定する。なお、本実施形態においては、測定する受信電力とは、パイロット信号から測定する受信電力を指すものとする。
図5は、第1の実施形態に係るハンドオーバ方法を概略的に示した図である。図5(a)に示されるように、ハンドオーバ前は、3本のデータストリームst1、st2、st3の全てがBTS3aから端末2に送信されている。3本のデータストリームのうち、データストリームst2について、その受信強度がBTS3aからのものよりもBTS3bからのものの方が大きく、データストリームst2についてBTS3bにハンドオーバを実施すると判定されると、データストリームst2はその経路が切り替えられる。図5(b)に示されるように、残りの2本のデータストリームst1、st3については、そのままBTS3aから端末2への送信が維持される。
図6は、ハンドオーバの要否を判断する処理のフローチャートである。図6に示される処理は、図2の構成を採る端末2において、所定の時間間隔で基地局3から送信されるパイロット信号を受信したことを契機として実行される。
まず、ステップS1で、ハンドオーバ要否判定の対象とされるデータストリームstkを設定する。本実施形態においてはデータストリームst1、st2、st3のうちのいずれかがこのステップで設定される。ステップS2で、接続中の基地局BTS3aからのデータストリームstkの受信電力Pbts3a_stkを測定する。ステップS3で、隣接する基地局BTS3b、BTS3c、…BTS3nについてのデータストリームstkの受信電力(Pbts3b_stk、Pbts3c_stk、…Pbts3n_stk)を測定する。ステップS4では、ステップS3で算出したデータストリームstkの受信電力のうち、最大となる受信電力Pbts3h_stkを求める。
ステップS5で、接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3a_stkとステップS4で求めた最大の受信電力Pbts3h_stkとを比較する。最大受信電力Pbts3h_stkの方が接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3a_stkよりも大きいときは、ステップS6で、ハンドオーバを実施する必要があると判定し、処理を終了する。最大受信電力Pbts3h_stkが接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3a_stk以下のときは、ステップS7で、ハンドオーバを実施しないと判定し、処理を終了する。ステップS5の処理でハンドオーバを実施すると判定されたデータストリームstkについては、受信電力が最大である基地局BTS3hを経由して端末2に送信されるよう、ハンドオーバが実施される。
同時に送信される全てのデータストリーム、本実施形態においては3つのデータストリームst1、st2、st3についてそれぞれ図6の処理が実行され、各データストリームの送信に最適な基地局(BTS3iとする)が決定される。あるデータストリームについてハンドオーバを実施すると決定されると、RNC等においてハンドオーバを制御するハンドオーバ制御部は、ハンドオーバ先基地局BTS3iを決定し、上位局から送信されたデータをハンドオーバ先基地局BTS3iに伝送し、また、ハンドオーバ元基地局BTS3aへのデータ伝送を停止する。
なお、ここでは図2に示されるように端末2にハンドオーバ判定部23を備える構成としているが、ハンドオーバの実施の要否を判定するのは端末2に限らない。RNCあるいは基地局3が、端末2におけるデータストリーム毎の受信電力の測定結果に基づいて判定することとしてもよい。以下、ハンドオーバを実施するか否かをRNCが判定する場合、端末2が判定する場合を例に挙げ、それぞれの場合の制御処理を詳細に説明する。
図7は、端末2がハンドオーバの要否を判定する場合におけるハンドオーバ判断処理の制御シーケンス図である。図7に示される処理は、所定の時間間隔で基地局3から送信されるパイロット信号を、端末2において受信したことを契機として実行される。
まず端末2において、データストリーム毎の受信電力を測定する。測定したデータストリーム毎の受信電力を比較して、ハンドオーバを実施するか否かを判定する。データストリーム毎の受信電力の測定および測定結果に基づくハンドオーバの要否の判定については、図6を参照して説明した通りである。ここでハンドオーバを実施すると判定されると、端末2はRNCに対してハンドオーバ実施通知のメッセージを送信する。ハンドオーバ実施通知メッセージの送信後、端末2は、RNCに対してハンドオーバ情報を送信する。ここで、ハンドオーバ情報とは、例えばストリーム番号やハンドオーバ先基地局等の情報であり、どのデータストリームをどの基地局に切り替えるのかを示す情報である。
ハンドオーバ実施通知およびハンドオーバ情報を受信したRNCは、端末2に対してハンドオーバ情報を送信する。ここでRNCから端末2に対して送信されるハンドオーバ情報とは、例えばストリーム番号、ハンドオーバ先情報、ハンドオーバ元情報、ハンドオーバタイミング情報等を含む。さらに、RNCは、ハンドオーバを実施する契機を決定して制御する。RNCから、ハンドオーバ先基地局BTS3i、ハンドオーバ元基地局BTS3aおよび端末2に対して、RNCにおいて決定されたハンドオーバタイミングが通知される。RNCからのハンドオーバタイミング通知によってハンドオーバが実施される。
ハンドオーバ開始制御処理がRNCと基地局との間で行われ、データストリームの経路の切り替えが行われる。ハンドオーバ処理において、ハンドオーバ先基地局BTS3iやハンドオーバ元基地局BTS3aには、「回線設定」、「回線接続」、「回線断」等のメッセージが通知される。ハンドオーバが完了すると、端末2は、ハンドオーバ先の基地局にハンドオーバ終了制御メッセージを送信し、このメッセージを受信した基地局は、上位局のRNCに対してハンドオーバ終了制御メッセージを送信し、処理を終了する。
図7のシーケンス中においてRNCから端末2に送信されるハンドオーバ情報により、各通信装置が、ハンドオーバすべきデータストリームや基地局についての情報を認識することができる。以下、図8および図9を参照して、RNCからRNC配下の基地局3や端末2に対して送信される情報について説明する。
図8は、RNCが下位装置に対して通知するハンドオーバ情報のデータ構造の例であり、図9は、ハンドオーバ情報の具体例である。図8に示されるハンドオーバ情報は、データストリーム毎のハンドオーバ(HO)実施情報、ハンドオーバ先情報、ハンドオーバ元情報およびハンドオーバタイミング情報(ハンドオーバ実施時間情報)を含んで構成される。
ハンドオーバ実施情報は、例えば、同時に複数送信されるデータストリームのうち切り替えるべきデータストリーム、あるいは、各データストリームについて切り替えの要否を示す。図9(a)はハンドオーバ実施情報の具体例である。複数のデータストリーム、ここでは6本のデータストリームの各々について、ハンドオーバを実施するか否かを示すデータが格納されている。
図9(a)の「例1」によれば、6本のデータストリームのうち、切り替えるべきデータストリームはストリーム番号の「1」、「3」、「5」および「6」番である。図9(a)の「例2」によれば、切り替えるべきデータストリームは「3」番のみである。これらの情報を、例えば図9(a)に示す例のように、切り替えるべきデータストリームを「1」、切り替えないデータストリームを「0」としてコード化し、ハンドオーバ実施情報として図8の所定の領域に格納することもできる。あるいは、例えば切り替えるべきデータストリームのストリーム番号をハンドオーバ実施情報として、図8の所定の領域に格納することとしてもよい。
ハンドオーバ先情報は、ハンドオーバが実施されたときに端末2が接続先となる基地局3を示す。図9(b)は、ハンドオーバ先情報の具体例である。図9(b)の「例1」によれば、ストリーム番号の1、3、5および6番は、それぞれ「120番」、「121番」、「120番」、および「121番」の基地局に切り替えられることを示す。なお、例1においてはストリーム番号が2番、4番のデータストリームについては、値としてゼロが格納されていることによって、ハンドオーバを実施しないことを示す。例2についても同様に、ストリーム番号3番のデータストリームは基地局番号「23番」の基地局3にハンドオーバが実施され、他のデータストリームについてはゼロが格納されていることから、ハンドオーバを実施しない。
ハンドオーバ元情報は、ハンドオーバの実施前に端末2が接続されている基地局3を示す。図9(c)は、ハンドオーバ元情報の具体例である。図9(c)に示されるように、各ストリーム番号に対応するハンドオーバ元基地局の番号としてゼロ以外の値が格納されているときは、ハンドオーバ実施前に端末2が接続されている基地局の基地局番号を表す。ゼロが格納されているときは、対応するストリーム番号のデータストリームについてはハンドオーバを実施しないことを表す。例1においては、ハンドオーバ処理が実行されようとしている4本のデータストリームはいずれも基地局番号「1」の基地局に接続されていることが図9(c)のデータで示されている。同様に例2においては、ハンドオーバ処理が実行されようとしている3番のデータストリームは基地局番号「1」の基地局に接続されていることが図9(c)のデータで示されている。
ハンドオーバタイミング情報は、絶対時間または相対時間、あるいは、フレーム単位の値が格納される。図9(d)は、ハンドオーバタイミング情報の具体例である。図9(d)に示されるハンドオーバタイミング情報は、図8に示されるハンドオーバ情報が通知されてから何フレーム後にハンドオーバを開始するかを表している。値としてゼロが格納されているデータストリームについては、ハンドオーバを実施しないことを表す。図9(d)の例1によれば、ハンドオーバで切り替えられる1、3、5および6番のデータストリームについて、それぞれ20、20、18および22フレーム後にハンドオーバが開始される。同様に、例2では、3番のデータストリームは、10フレーム後にハンドオーバが開始される。
なお、ハンドオーバ実施情報は、上記の図8に示す構造に限らず、例えば、データストリーム毎に上記のような各種情報をまとめた構造としてもよい。ハンドオーバを実施すべきデータストリームについてのみハンドオーバ実施情報を通知し、ハンドオーバを実施しないデータストリームに関する情報は省略することとしてもよい。
ハンドオーバ実施情報に基づいて、所定のデータストリームについてその経路が切り替えられた後、ハンドオーバ元の基地局(上記の例においてはBTS3a)のバッファ、すなわち図4の送信データ部33には、切り替えられたデータストリームstkの未送信データが蓄積されたままとなっている。本実施形態に係るハンドオーバ方法においては、他のデータストリームを用いて未送信データを伝送する。すなわち、本実施形態に係るハンドオーバ方法によれば、一斉に全てのデータストリームについてハンドオーバが実施されるものではないので、ハンドオーバを実施していないデータストリームを用いて、ハンドオーバ元の基地局BTS3aの送信データ部33に蓄積されたデータがなくなるまでデータ伝送することが可能とされる。
図10は、ハンドオーバ元基地局における蓄積データの伝送処理のフローチャートである。図10に示される処理は、図6のハンドオーバの要否を判定する処理においてステップS6で「ハンドオーバを実施する必要がある」と判定された場合に実行される。
処理が開始されると、まず、ステップS11で、各データストリームについて、ハンドオーバが必要と判定されたものであるか否かを判断し、ステップS12で、ハンドオーバ不要と判定されたデータストリームの本数(ST_rest)を算出する。ステップS13で、ハンドオーバ実施後にハンドオーバ元基地局からのデータ伝送が継続されるデータストリームが存在するか(ST_rest>0か)否かを判定する。
ハンドオーバ実施後もハンドオーバ元基地局からのデータ伝送は継続されない場合、すなわち全てのデータストリームについてハンドオーバが実施される場合、ステップS14に進み、データストリーム毎のハンドオーバを順次行う。データストリームについて順にハンドオーバ実施している間に蓄積データを端末2に伝送する。なお、ステップS14の処理は、基地局内に蓄積されているデータをすべて送信し終わった後に実行するようにしてもよい。
ハンドオーバ実施後もハンドオーバ元基地局からのデータ伝送が継続される場合、すなわちハンドオーバを実施しないデータストリームが存在する場合、ステップS15に進み、基地局の送信データ部33に蓄積されているデータ量(Mdata)を算出する。ステップS16で、蓄積されているデータ量があるか(Mdata>0か)否かを判定する。
基地局に蓄積データがない場合は、ステップS17に進み、残りのデータストリームについてハンドオーバを実施する。蓄積データが存在する場合は、ステップS18に進み、まだハンドオーバの実施されていないデータストリームを用いてハンドオーバ元基地局BTS3aの蓄積データがなくなるまで、蓄積データの伝送を行う。
なお、ステップS14のハンドオーバを行う順序に関しては、例えば、接続中の基地局からの受信電力が相対的に低いデータストリームから行うことで、データ伝送がより確実になされ、これにより、全体としての伝送速度の低下を防ぐことができる。
図11は、本実施形態に係るハンドオーバを実施した後における基地局の蓄積データの状態を模式的に示した図である。ハンドオーバが実行されるまでにRNCから基地局BTS3aに対して伝送されたけれどもまだ端末2に送信されていないデータ(データA)は、ハンドオーバが実施される時点においてはまだ基地局BTS3aのバッファに蓄積されたままである。本実施形態のハンドオーバ方法によれば、データストリームについての経路が基地局BTS3b経由に切り替えられても、図10に示す処理によって、基地局BTS3aにおいてハンドオーバが実施されなかったアンテナを使用して、端末2に未送信のデータAを伝送することが可能となる。なお、ハンドオーバによって経路が切り替えられる際にRNCから基地局BTS3bに対して伝送されるデータBについては、基地局BTS3bが端末2に伝送する。
ハンドオーバ元基地局BTS3aの送信データ部33に蓄積されたデータが全て端末2に伝送されると、RNCは、ハンドオーバ元基地局BTS3aとの接続を解除する。ハンドオーバ先基地局BTS3iにおいても同様に、データストリーム毎の受信電力に基づいて、本実施形態に係るハンドオーバを実行する。
上述のハンドオーバ方法においては、図8に示されるようなハンドオーバ実施情報をRNCからすべてのハンドオーバ先基地局BTS3i、ハンドオーバ元基地局BTS3aおよび端末2に通知することとしているが、これに限らない。また、上記のハンドオーバを実施するデータストリームの本数や基地局番号等は一例を示したものであって、何らこれらの値の上限等を制限するものではない。例えば、全てのデータストリームについてそれぞれに選択したハンドオーバ先基地局に対してハンドオーバを実施してもよいし、あるいは、特定のデータストリームについてのみハンドオーバを実施してもよい。あるいは、特定のデータストリームについては先にハンドオーバを実施する、というように、例えば通信環境等に応じて優先度を付与することとしてもよい。以下の実施形態についても同様である。
ハンドオーバを実施するデータストリームの順序に関しては、ハンドオーバの対象と判定されたデータストリーム全てについて一斉に実施することもできるし、データストリーム毎に順次実施することもできる。データストリーム毎にハンドオーバを実施する場合については、各ハンドオーバ先基地局からのデータストリーム毎の受信電力を比較して、最も受信電力の低いデータストリームから順にハンドオーバを実施することもできる。受信電力の低い順にハンドオーバを実施することで、各データストリームの伝送をより確実に行うことができる。あるいは、受信電力の高いデータストリームから順にハンドオーバを実施することもできる。
図12は、端末2がハンドオーバの要否を判定する場合におけるハンドオーバ判断処理の制御シーケンス図である。既に図7を参照して説明したような、RNCがハンドオーバ要否を判定する場合と比較して、異なる点を中心に説明する。
データストリーム毎の受信電力を測定した端末2は、RNCに対し、測定結果を測定結果メッセージに含めて報告する。測定結果メッセージには、例えば、ストリーム番号、送信元基地局、受信電力等の情報が含まれる。
測定結果通知を受けたRNCは、図7において端末2が受信電力に基づいて行った場合と同様に、測定結果通知に含まれる情報に基づいて、データストリーム毎にハンドオーバを実施するか否かを判定する。この判定においてハンドオーバが必要と判断されたデータストリームについては、ハンドオーバ先基地局、ハンドオーバ元基地局および端末2に対してハンドオーバ情報の通知を行い、以降の処理については既述の方法と同様の方法によってハンドオーバ処理が実行される。
図7および図12において端末2、RNCがそれぞれ行っているハンドオーバ判定処理は、基地局3が行うこととしてもよい。基地局3がハンドオーバの要否を判定するシーケンスにおいては、基地局3は、端末2において測定されたデータストリーム毎の受信電力を含む情報を端末2から受信する。受信した情報に基づいて基地局3がハンドオーバの要否を判定し、ハンドオーバが必要と判定されると、図8および図9に示されるようなハンドオーバ制御情報をRNCや端末2、ハンドオーバ先基地局に通知する。図7および図12の場合と同様に、通知されたハンドオーバ制御情報に基づいてデータストリーム毎のハンドオーバが実行される。
これまでの説明では、ハンドオーバの要・不要の判断には受信電力を用いているが、これに限らない。例えば、受信電界強度であってもよいし、SIR(所望信号電力対干渉電力比)等の受信品質であってもよい。以降の説明についても、ハンドオーバの要否判定に受信電力を用いることとして述べているが、受信電界強度等や受信品質等であっても同様のハンドオーバを実施することができる。
また、上述の実施例では基地局3から端末2への伝送を例に挙げて説明しているが、これに限るものではない。例えば、端末2から基地局3への伝送や、端末2間の伝送に上記のハンドオーバ方法を適用することも可能である。なお、以下の説明においても基地局3から端末2への伝送に限定するものでない点については同様である。
<第2の実施形態>
図13は、第2の実施形態に係るハンドオーバを実行する端末2の構成図である。図2に示される第1の実施形態に係る端末2の構成と比較して、異なる点について説明する。なお、本実施形態に係るハンドオーバを実行する基地局3は、第1の実施形態に係る基地局と同様の構成であり、図4のように表されるのでここではその説明を割愛する。
図13に示される第2の実施形態に係る端末2においては、各アンテナRxから受信したパイロット信号の受信電力を測定する受信電力測定部27(27A、27B、27C)を更に備える点で第1の実施形態に係る端末2と構成を異にする。各受信電力測定部27A、27B、27Cは、それぞれ対応するアンテナを介して受信した信号の受信電力を測定し、測定結果をハンドオーバ判定部23に与える。ハンドオーバ判定部23は、各受信電力測定部27から与えられた受信電力の和(総受信電力)を求め、求めた送受信電力に基づいて、ハンドオーバ先基地局を決定する。複数のデータストリームのうちいずれのデータストリームについてハンドオーバを実施するかはストリーム受信電力測定部22の測定結果に基づいて決定され、この点においては第1の実施形態と同様である。
図14は、本実施形態に係るハンドオーバ処理についてのフローチャートである。図14に示される処理は、所定の時間間隔で基地局3から送信されるパイロット信号を端末2において受信する毎に実行される。以下、図14を参照して、本実施形態に係るハンドオーバ方法を説明する。
まず、ステップS21で、受信電力測定部27が接続中の基地局BTS3a、および隣接基地局BTS3b、…BTS3nからの総受信電力を測定する。ステップS22で、各総受信電力の値を比較して、総受信電力が最大値となる基地局BTS3hを決定する。ステップS23で、基地局BTS3hにおける総受信電力Pbts3hと接続中の基地局BTS3aにおける総受信電力Pbts3aとを比較し、Pbts3h>Pbts3aの場合は、ハンドオーバを実施する必要があると判定する。
ステップS24で、ストリーム受信電力測定部22が、接続中の基地局BTS3aおよびステップS23でハンドオーバ先と判定された基地局BTS3hからの、データストリーム毎の受信電力を測定する。ステップS25で、各データストリームについての基地局BTS3aにおける受信電力と基地局BTS3hにおける受信電力とを比較し、ステップS26で、基地局BTS3hにおける受信電力の方が大きい場合は、そのデータストリームについてはハンドオーバを実施すると判定する。ステップS27で、ハンドオーバの対象と判定された基地局BTS3hおよびデータストリームに関するハンドオーバ制御情報を、基地局BTS3aを介してRNCに報告し、ステップS28で、その報告に基づいてハンドオーバを実施して処理を終了する。
ステップS25およびステップS26において、受信電力を比較してハンドオーバすべきデータストリームを選定する処理は、第1の実施形態に係る図6の一連の処理と同様である。総受信電力の値に基づいて、ハンドオーバを実施するデータストリームに共通するハンドオーバ先基地局が判断される点において異なる。
以上説明したように、本実施形態に係るハンドオーバ方法によれば、接続中の基地局よりも総受信電力の大きい基地局に対して、ハンドオーバの必要なデータストリームについてハンドオーバが実施される。上記の実施形態に係るハンドオーバ方法による効果に加え、データストリーム毎に異なる基地局にハンドオーバを実施せず、共通の基地局へとハンドオーバを実施することができる。すなわち、ストリーム毎のハンドオーバに際して、同時に3以上の基地局と端末とが接続されることがなくなるので、データ伝送の効率の向上が規定される。
<第3の実施形態>
本実施形態に係るハンドオーバ方法は、ハンドオーバを実施するデータストリームは共通のハンドオーバ先基地局へと経路が切り替えられる点においては第2の実施形態と同様であるが、データストリーム毎の最適なハンドオーバ先基地局の統計データに基づいてハンドオーバ先が決定される点において第2の実施形態と異なる。以下、本実施形態に係るハンドオーバ方法について説明するが、本実施形態に係る端末2および基地局3の構成は第1の実施形態と同様であるので、ここではその説明を割愛する。
図15は、第3の実施形態に係るハンドオーバ処理についてのフローチャートである。図15の処理は、図6や図14の処理と同様に、パイロット信号を基地局3から受信したタイミングで実行される。なお、図15のフローチャートは、同時に送信されるデータストリームの本数がm本である場合について示している。
まず、ステップS31で、各データストリームを識別するためのストリーム番号kを初期化し、ゼロを設定する。ステップS32で、ストリーム番号kをインクリメントし、ステップS33で、接続中の基地局BTS3aからのストリーム番号kのデータストリームの受信電力Pbts3a_stkを測定する。ステップS34で、隣接基地局BTS3b、…BTS3nからのストリーム番号kのデータストリームの受信電力Pbts3b_stk、…Pbts3n_stkを測定し、ステップS35で、Pbts3a_stkからPbts3n_stkのうちで最大となる受信電力Pbts3h_stkを算出する。
ステップS36で、最大受信電力Pbts3h_stkと接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3a_stkとを比較する。接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3aが最大受信電力Pbts3h_stk以上の値をとるときは、ステップS37に進み、そのデータストリームについてはハンドオーバ不要と判定し、ステップS38で、接続中の基地局「BTS3a」をハンドオーバ先選択基地局として記憶する。記憶後、ステップS41に進む。ここで、ハンドオーバ先選択基地局とは、ハンドオーバを実施する際に、ハンドオーバを実施するデータストリームの共通のハンドオーバ先基地局の候補となる基地局を意味する。
最大受信電力Pbts3h_stkの方が接続中の基地局BTS3aの受信電力Pbts3a_stkよりも大きいときは、ステップS36からステップS39に進み、ハンドオーバが必要と判定する。ステップS40で、受信電力が最大となる基地局「BTS3h」をハンドオーバ先選択基地局として記憶し、ステップS41に進む。
ステップS41で、すべてのデータストリームについてステップS33からステップS38あるいはステップS40までの処理が完了しているか否かを判定し、ストリーム番号k=mのデータストリームについての処理が完了するまで、ステップS32以降の処理を繰り返す。
図16(a)は、ステップS38およびステップS40で記憶された、ハンドオーバ先選択基地局の例である。各データストリームに対して、最も受信電力の大きい基地局が、選択基地局としてそのデータストリームに対応させてテーブルに格納されている。
ステップS42で、各データストリームについてのハンドオーバ先選択基地局を参照し、ハンドオーバ先基地局を決定する。本実施形態においては、最も多く選択された基地局を、ハンドオーバ先基地局として決定する。例えば、図16(a)のデータテーブルによれば、基地局BTS3bが最も多く「選択基地局」として記憶されていることから、基地局BTS3bをハンドオーバ先基地局とする。
ステップS43、ステップS44における処理は、それぞれ図14のステップS27、ステップS28の処理に対応し、同様であるので説明を省略する。図16(b)は、ハンドオーバ先基地局として先のステップで決定された基地局からの、データストリーム毎の受信電力の例である。ステップS44では、図16(b)に示されるように、実際にハンドオーバを実施しようとする基地局からの受信電力のうち、例えば、受信電力の高いデータストリームから、あるいは低いものから順にハンドオーバを実施することができる。
以上、本実施形態に係るハンドオーバ方法によれば、ハンドオーバ先基地局がデータストリーム毎に異なることのないように共通のハンドオーバ先基地局が選択され、そのハンドオーバ先基地局は、各データストリームの受信電力に基づく。すなわち、データストリームの状態に応じた共通するハンドオーバ先基地局に、ハンドオーバすべきデータストリームについてハンドオーバが実施される。
なお、ハンドオーバが必要と判定されたデータストリームのうち、いずれのデータストリームからハンドオーバを実施するかは、例えば受信電力の高いデータストリームから、あるいは低いものから行うこととしてもよい。この他、ストリーム番号kのデータストリームについて、接続中の基地局からの受信電力Pbts3a_stkを隣接基地局Pbts3xからの受信電力Pbts3x_stkから減算し、受信電力の差分Pdiff_stk=Pbts3x_stk−Pbts3a_stkに基づいてハンドオーバを実施する順序を決定することとしてもよい。
<第4の実施形態>
本実施形態に係るハンドオーバ方法は、データストリーム毎に予め閾値を設定しておき、接続中の基地局からの受信電力と隣接基地局からの受信電力との差がその閾値を超えたときにハンドオーバが必要と判定する点において、上記の実施形態と異なる。
図17は、第4の実施形態に係るハンドオーバ処理のフローチャートである。ハンドオーバ判定のために設定された上記の閾値を、Pthとする。図17の処理が開始されるタイミングは、図6、図14および図15と同様、パイロット信号の受信時である。ステップS51からステップS55までの処理、およびステップS56の処理については、図6のステップS1からステップS5、およびステップS7の処理にそれぞれ対応しており、同様の処理が実行されるので、ここではその説明を省略する。
ステップS57で、第3の実施形態の説明中でも述べた、受信電力間の差分Pdiff_stkを算出する。ステップS58で、差分Pdiff_stkと閾値Pthとで大きさを比較する。閾値Pthよりも差分Pdiff_stkの方が大きいときは、ステップS59に進み、ハンドオーバが必要と判定されるが、差分Pdiff_stkが閾値Pth以下の場合はステップS56に進み、そのデータストリームについてはハンドオーバ不要と判定され、それぞれ処理を終了する。
本実施形態に係るハンドオーバ方法によれば、接続中の基地局からの受信電力と、隣接基地局からの受信電力との差が所定の大きさを超えるまで、ハンドオーバが必要と判定されない。これにより、上記の実施形態に係るハンドオーバによる効果に加え、更に、ハンドオーバが過度に頻繁に実施されることを防ぐことができる。
なお、上記の例においては、閾値は共通の値が設定されていることとしたが、データストリーム毎に異なる閾値Pth(k)を設けることとしても、同様に本実施形態に係るハンドオーバ方法による効果が得られる。
<第5の実施形態>
本実施形態に係るハンドオーバ方法は、上記の実施形態に係るハンドオーバ方法のいずれかを実施した後、ハンドオーバ元基地局においてはデータストリーム数が減る(すなわち、データを送信するための資源の一部(例えば、複数のアンテナの中の一部)が未使用状態になる)ことを利用して、その基地局からのデータストリームについて送信ダイバーシチを行う。以下、本実施形態に係るハンドオーバ方法について、図面を参照して説明する。
図18は、第5の実施形態に係るハンドオーバ方法を概略的に示した図である。図18(a)に示されるように、ハンドオーバ前は基地局BTS3aから端末2に対して3本のデータストリームst1、st2、st3が同時に送信されている。上記の第1から第4の実施形態に係るハンドオーバ方法のうちいずれかのハンドオーバが実施され、データストリームst2が、隣接する基地局BTS3bを介した伝送に切り替えられるとする。
データストリームst2が基地局BTS3bを介したデータ伝送に切り替えられることで、基地局BTS3aのアンテナTx2が未使用となる。図18(b)に示されるように、ハンドオーバにより未使用となったアンテナTx2を用いて、基地局BTS3aにおいてハンドオーバを実施していないデータストリームの送信ダイバーシチを行う。図18(b)の例においては、アンテナTx1を介して送信されていたデータストリームst1について、送信ダイバーシチを実施する。送信ダイバーシチにより、基地局BTS3aのアンテナTx1およびTx2を介して同一のデータストリームst1が端末2に送信されることになる。これにより、上記の実施形態に係るハンドオーバ時に、データストリームst1の伝送品質の向上を図ることができ、また、伝送品質が向上することによって伝送速度を上げることができる。
なお、送信ダイバーシチの対象となるデータストリームの選択に関しては、例えば端末2において受信電力の大きいデータストリームを選択することとしてもよいし、小さいデータストリームを選択することとしてもよい。あるいは、データストリーム毎に伝送データの属性、すなわち最大遅延時間や所要伝送品質等のQoS(Quality of Service)が異なる場合においては、その属性に基づいて選択することとしてもよい。
<第6の実施形態>
本実施形態においては、通信環境等に応じてMIMOによる送信から送信ダイバーシチによる送信へとデータ送信の方法を切り替える。
図19は、第6の実施形態に係るシステム構成の概念図である。領域Aは、基地局3から比較的近いセル領域であり、領域Bは、基地局から比較的遠いセル領域である。端末2が領域Aにあるときは端末2における受信電力が大きく、良好な通信品質が見込まれる。しかし、端末2が領域Bに近づくにつれ、端末2における受信電力は小さくなっていき、これにより、通信品質の低下が予測される。本実施形態においては、例えば受信電力等に基づいて、通信品質の低下が予測される環境においては、MIMOによるデータ通信から送信ダイバーシチによる通信へストリーム毎に順次切り替えが行われる。
図20は、本実施形態に係る送信方法切り替え処理のフローチャートである。図20に示される処理は、上記の実施形態と同様に、端末2が基地局3からパイロット信号を受信するタイミングで開始される。
まず、ステップS61で、接続中の基地局(BTS3a)からの受信電力を測定する。このステップで測定するのは、データストリーム毎の受信電力ではなく、端末2の各アンテナにおいて受信した電力の総和(Pbts3aとする)である。次に、ステップS62で、基地局BTS3aについて設定された所定の閾値Pbts3a_thと受信電力Pbts3aとを比較する。受信電力Pbts3aが閾値Pbts3a_th以上であるときは、ステップS63に進み、MIMOによる通信を継続することとし、処理を終了する。ステップS62の判定において、受信電力Pbts3aが閾値Pbts3a_thよりも小さいときは、ステップS64に進み、ストリーム番号kを初期化してゼロを設定し、ステップS65に進む。ストリーム番号kのデータストリームについての接続中の基地局BTS3aからの受信電力Pbts3a_stkを、全てのデータストリームについて測定が完了するまで、ステップS65からステップS67の処理を繰り返す。図20の例では、データストリームの本数はm本の場合について示している。
ステップS68で、データストリームの受信電力を比較することにより、MIMO通信から送信ダイバーシチによる通信に切り替えるべきデータストリームを選択し、ステップS69で、選択されたデータストリームを送信ダイバーシチによる通信に切り替えて処理を終了する。
なお、上記の例においては受信電力の大きさに基づいてMIMOと送信ダイバーシチのいずれにより送信するかを判定しているが、これに限るものではない。例えば、受信電力と、SIR等の受信品質との両者を考慮に入れて判定することとしてもよい。
また、ステップS62においてデータストリームの送信方法をMIMOによる送信から送信ダイバーシチによる送信に切り替えるか否かを、ストリームによらない受信電力の測定結果を使用して判定しているが、これに限らない。例えば、ストリーム番号kのデータストリームについては閾値Pth(k)を用意しておき、この閾値Pth(k)に対応する受信電力Pbts3a_stkとの大小関係により判定してもよい。
以上、本実施形態によれば、受信電力の低下等が生じる場合であっても、その通信環境に応じた通信方法によりデータストリームが伝送されるので、通信品質の維持に資する。
(付記1)
複数のアンテナを備える送信装置から受信装置へ複数のストリームを送信する無線通信システムであって、
前記送信装置に設けられ、複数のストリームを送信する送信手段と、
前記受信装置に設けられ、前記送信手段により送信された各ストリームをそれぞれ受信する受信手段と、
前記送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力をそれぞれ測定する測定手段と、
前記測定手段による測定結果に応じて前記ストリーム毎にハンドオーバを行う切替手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
(付記2)
通信に使用されている第1の送信装置における第1の送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力と、第2の送信装置における第2の送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力とを比較して、ハンドオーバを実施する必要があるか否かを判定する判定手段と、
を更に備え、
前記切替手段は、ハンドオーバを実施する必要があると判定されたときは、ストリームの通信に使用する送信手段を、前記第1の送信手段から前記第2の送信手段に切り替える
ことを特徴とする付記1に記載の無線通信システム。
(付記3)
前記判定手段は、前記第2の送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力が、前記第1の送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力と比較し所定の閾値以上となったときは、ハンドオーバを実施する必要があると判定する
ことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記4)
前記切替手段は、複数のストリームについてハンドオーバを実施する際には、受信品質あるいは受信電力が低い順、あるいは高い順に切り替えを行う
ことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記5)
各ストリームは、該ストリームを他のストリームと識別するための識別情報を備えており、
前記切替手段は、前記識別情報に基づいて、前記第1の送信手段から前記第2の送信手段への切り替えを行うべきストリームを認識する
ことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記6)
前記切り替え手段によりストリームを送信すべき送信手段が前記第2の送信手段に切り替えられた後、前記第1の送信手段および前記第1の送信装置に設けられている第3の送信手段を用いて送信ダイバーシチを行うダイバーシチ手段
を更に備えたことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記7)
各送信装置の総受信電力を測定する総受信電力測定手段と
を更に備え、
前記判定手段は、前記第2の送信装置からの総受信電力が前記第1の送信装置からの総受信電力を上回るときは、該第1の送信装置における送信手段についてハンドオーバを実施する必要があると判定する
ことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記8)
前記切替手段は、ハンドオーバを実施する必要があると判定されたストリームのハンドオーバ先として最も多く選択された送信装置に対してストリーム毎のハンドオーバを行う
ことを特徴とする付記2に記載の無線通信システム。
(付記9)
複数のアンテナを備える送信装置から受信装置へ複数のストリームを送信する無線通信システムであって、
前記送信装置に設けられ、複数のストリームを送信する送信手段と、
前記受信装置に設けられ、前記送信手段により送信された各ストリームをそれぞれ受信する受信手段と、
各送信手段からのストリームについての受信品質あるいは受信電力をそれぞれ測定する測定手段と、
前記測定手段による測定結果に応じて前記ストリーム毎に各送信アンテナが互いに異なるストリームを送信する状態と送信ダイバーシチによる送信状態とで切り替えを行う切替手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
(付記10)
複数のアンテナを備え複数のストリームを送信する送信機であって、
複数のストリームを送信する送信手段と、
前記送信手段からの各ストリームについての受信品質あるいは受信電力をそれぞれ測定した測定結果に応じてストリーム毎にハンドオーバを行う切替手段と
を備えたことを特徴とする送信機。
(付記11)
送信すべきデータを蓄積する蓄積手段、
を更に備え、
前記切替手段によりある送信手段が未使用状態になった後、残りの送信手段が前記蓄積手段に蓄積されたデータを送信する
ことを特徴とする付記10に記載の送信機。
(付記12)
複数のデータストリームを受信する受信機であって、
第1および第2の送信機から送信される複数のストリームを受信する受信手段と、
前記送信機からの各ストリームについての受信品質あるいは受信電力をそれぞれ測定する測定手段と、
前記測定手段による測定結果に基づいて前記第1の送信機から送信される複数のストリームのうちの一部のストリームについて前記第2の送信機にハンドオーバを実施する必要があると判定された場合、前記第1の送信機から送信される1以上のストリームおよび前記第2の送信機から送信される1以上のストリームから信号を再生する信号再生手段と
を備えたことを特徴とする受信機。