負荷に接続されたトランジスタのオン・オフを切替えることによって、負荷に電力を供給する状態と電力を供給しない状態を切替えるスイッチング回路が知られている。例えば、インバータ回路は、トランジスタのオン・オフを切替えることによって直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をモータに供給する。この種のスイッチング回路におけるトランジスタのオン・オフは、そのトランジスタのゲート電極(又はベース電極)に接続している駆動回路で制御される。
図7に、従来のインバータ回路において、この種のトランジスタに電界効果型のトランジスタ(FET、Field Effect Transistor)が用いられた場合の動作波形図を示す。駆動回路は、駆動電圧Vinをトランジスタのゲート電極に供給することによって、トランジスタのオン・オフを切替える。
まず、トランジスタがターンオンする過渡期に関して説明する。駆動電圧Vinがローからハイになると、トランジスタのゲート電極に向けて正のゲート電流Igが流れ、ゲート電極に電荷が蓄積される。ゲート電極に電荷が蓄積されると、トランジスタのゲート・ソース間電圧Vgsが上昇する。ゲート・ソース間電圧Vgsが上昇すると、トランジスタのドレインからソースに向けてドレイン電流Idが流れ始め、ドレイン・ソース間電圧Vdsが減少する。これらの過程を経て、トランジスタはオフからオンに移行する。
次に、トランジスタがターンオフする過渡期T100に関して説明する。駆動電圧Vinがハイからローになると、ゲート電極に蓄積していた電荷が放電し、ゲート電極から駆動回路に向けて負のゲート電流Igが流れ、ゲート・ソース間電圧Vgsが減少する。ゲート・ソース間電圧Vgsが減少すると、ドレイン電流Idも減少し、ドレイン・ソース間電圧Vdsが上昇する。これらの過程を経て、トランジスタはオンからオフに移行する。
図7に示すように、トランジスタがターンオフする過渡期T100の終盤では、ドレイン・ソース間電圧Vdsにサージ電圧(リンギング)が発生している。このサージ電圧は、急峻に変動するドレイン電流Idと回路中のドレイン電極側の配線などに寄生しているインダクタンスによって引き起こされる。リンギングが発生すると、ノイズとなり、誤動作を引き起こす原因となりうる。
このサージ電圧の増大を抑えるためには、ドレイン電流Idを緩やかに変動させれば良い。例えば、トランジスタのゲート抵抗を大きくすれば、ゲート電極に蓄積していた電荷が放電する速度が減少し、負のゲート電流Igが緩やかに流れる。この結果、ドレイン電流Idも緩やかに減少し、サージ電圧の増大を抑えることができる。しかし、トランジスタのドレイン電流Idが緩やかに減少すると、トランジスタがターンオフするのに要する時間が増大し、スイッチング損失(ターンオフ損失)が増大してしまう。すなわち、スイッチング損失は、切り替わり時のドレイン電圧Vdsとドレイン電流Idの積である。従って、ドレイン電圧Vdsがゆっくり電圧変化すると、スイッチング損失はVdsとIdの積の積分値であるので、その損失が大となる。このように、この種のトランジスタには、ターンオフの過渡期T100において、サージ電圧とターンオフ損失の間にトレードオフ関係が存在する。
このトレードオフ関係を打破するためには、ターンオフの過渡期T100の序盤でドレイン電流Idを急峻に変動させ、過渡期T100の終盤でドレイン電流Idを緩慢に変動させるのが望ましい。過渡期T100の序盤でドレイン電流Idを急峻に変動させれば、ターンオフに要する時間を短縮することができる。この結果、ターンオフ損失を低く抑えることができる。また、過渡期T100の終盤でドレイン電流Idを緩慢に変動させれば、サージ電圧の増大を抑えることができる。
特許文献1には、トランジスタの主電極間電圧(ドレイン電極とソース電極間電圧、コレクタ電極とエミッタ電極間電圧など)に基づいてトランジスタのゲート抵抗の抵抗値を調整する技術が開示されている。特許文献1の技術では、トランジスタの主電極間電圧が大きいときにゲート抵抗の抵抗値を大きくし、主電極間電圧が小さいときにゲート抵抗の抵抗値を小さく調整する。具体的には、特許文献1の駆動回路は、トランジスタのゲート電極に接続している抵抗可変手段を備えている。抵抗可変手段は、半導体スイッチング素子とそれに並列に接続している固定抵抗体で構成されている。半導体スイッチング素子は、トランジスタの主電極間電圧が所定値よりも大きいときにオフし、所定値よりも小さいときにオンする。即ち、トランジスタの主電極間電圧が大きいときは、半導体スイッチング素子がオフすることによって、固定抵抗体の抵抗値に応じてゲート抵抗が大きく調整される。トランジスタの主電極間電圧が小さいときは、半導体スイッチング素子がオンすることによって、半導体スイッチング素子の内部抵抗に応じてゲート抵抗が小さく調整される。
特許文献1の駆動回路を利用すれば、ターンオフの過渡期の序盤(主電極間電圧が小さいとき)では半導体スイッチング素子がオンすることによって、ゲート抵抗の抵抗値が小さく調整され、ゲート電流が急峻に変動する。これにより、トランジスタのドレイン電流を急峻に変動させ、ターンオフに要する時間を短縮することができる。さらに、ターンオフの過渡期の終盤(主電極間電圧が大きいとき)では半導体スイッチング素子がオフすることによって、ゲート抵抗の抵抗値が大きく調整され、ゲート電流が緩慢に変動する。これにより、トランジスタのドレイン電流を緩慢に変動させ、サージ電圧の増大を抑えることができる。
特開平6−291631号公報
特許文献1の駆動回路では、高抵抗な固定抵抗体を利用してゲート抵抗の高抵抗な状態を実現している。サージ電圧の増大を抑えるためには、固定抵抗体の抵抗値を大きく設定するのが望ましい。しかし、高抵抗な固定抵抗体は、ターンオフ損失を増大させる。したがって、ターンオフ損失の増大を抑えるためには、半導体スイッチング素子のオン・オフ動作によって高抵抗な固定抵抗体に切換わるタイミングが、ターンオフする過渡期の終盤に設定されなければならない。ターンオフする過渡期の終盤では、トランジスタの主電極間電圧が高い状態にまで到達している。特許文献1の駆動回路では、このトランジスタの主電極間電圧を半導体スイッチング素子のオン・オフ動作の閾値にまで正確に変圧することによって、半導体スイッチング素子のオン・オフ動作を制御しなければならない。したがって、このような回路を実現するためには、必要な部品点数が多くなってしまい、コスト増が避けられない。
本発明は、特許文献1とは異なる手法によって、絶縁ゲートトランジスタの主電極間電圧に基づいてトランジスタのゲート抵抗の抵抗値を調整する技術を提供する。
請求項1に記載の絶縁ゲートトランジスタの駆動回路は、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート電極側をアノード電極とする第1ダイオードと、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート電極側をカソード電極とする第2ダイオードとが、並列接続されて、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインに挿入配置され、前記第1ダイオードのアノード電極と、前記第2ダイオードのカソード電極との間に、デプレッション型PチャネルMOSFETが挿入配置され、前記デプレッション型PチャネルMOSFETのゲート電極が、抵抗を介して、前記絶縁ゲートトランジスタの出力電極に接続されてなることを特徴としている。
上記駆動回路における第1ダイオードと第2ダイオードは、それぞれ、ゲート駆動信号(例えば矩形波)のオンからオフへの切り替わりとオフからオンへの切り替わりを選択するために挿入されている。従って、上記駆動回路においては、ゲート駆動信号(例えば矩形波)のオンからオフへの切り替わり時において、デプレッション型PチャネルMOSFETが絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインで以下のように機能することとなる。
デプレッション型PチャネルMOSFETは、自身のゲート電位が下がるとオンして低抵抗状態となり、自身のゲート電位が上がるとオフしてノーマリー・オンの高抵抗状態となる素子である。上記駆動回路におけるデプレッション型PチャネルMOSFETのゲート電極は、抵抗を介して、絶縁ゲートトランジスタの出力電極に接続されている。従って、ゲート駆動信号がオンからオフに切り替わった後、絶縁ゲートトランジスタの出力電位が上昇する途中で、上記デプレッション型PチャネルMOSFETがオンからオフ(ノーマリー・オン状態)に切り替わるように設定することが可能である。言い換えれば、絶縁ゲートトランジスタの出力電位が上昇する途中で、絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインに挿入配置されているデプレッション型PチャネルMOSFETの抵抗が、低抵抗状態から高抵抗状態に切り替わるように設定する。
これによって、ターンオフの過渡期の序盤(絶縁ゲートトランジスタの主電極間電圧が小さい時)では、絶縁ゲートトランジスタのゲート入力抵抗が小さく調整され、絶縁ゲートトランジスタのドレイン(コレクタ)電流を急峻に変動させて、ターンオフに要する時間を短縮することができる。さらに、ターンオフの過渡期の終盤(絶縁ゲートトランジスタの主電極間電圧が大きい時)では、絶縁ゲートトランジスタのゲート入力抵抗が大きく調整され、絶縁ゲートトランジスタのドレイン(コレクタ)電流を緩慢に変動させ、サージ電圧(リンギング)の増大を抑えることができる。
以上のようにして、上記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路によれば、ターンオフ時において、絶縁ゲートトランジスタのリンギングノイズを抑制しながらスイッチング損失の増大を抑制するという2つの効果を両立させることができる。
尚、上記効果を得るために、従来のように低抵抗値と高抵抗値の2つの抵抗素子とスイッチング素子の組み合わせを用いることも可能である。しかしながら、上記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路では、一つのデプレッション型PチャネルMOSFETにより上記効果を実現することができ、従来に較べて小型化と製造コストの低減が可能となる。また、上記効果を得るために、上記デプレッション型PチャネルMOSFETの代わりにP導電型拡散領域とN導電型拡散領域の接合体を用いて、P導電型拡散領域への空乏層の広がりによって抵抗値が決定される所謂ピンチ抵抗体とすることも可能である。しかしながら、ピンチ抵抗体は、抵抗値の電圧依存性が線形に近く、変化が緩慢である。これに対して、上記デプレッション型PチャネルMOSFETの抵抗値は、閾値電圧近傍において桁違いに迅速に変化する。このため、上記デプレッション型PチャネルMOSFETは、ターンオフの過渡期の急峻な変化への適用に好適である。
請求項2に記載の絶縁ゲートトランジスタの駆動回路は、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート電極側をアノード電極とする第1ダイオードと、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート電極側をカソード電極とする第2ダイオードとが、並列接続されて、前記絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインに挿入配置され、前記第2ダイオードのカソード電極と、前記第1ダイオードのアノード電極との間に、デプレッション型NチャネルMOSFETが挿入配置され、前記デプレッション型NチャネルMOSFETのゲート電極が、抵抗を介して、前記絶縁ゲートトランジスタの出力電極に接続されてなることを特徴としている。
上記駆動回路においては、請求項1に記載の駆動回路とは逆に、第2ダイオードのカソード電極と、第1ダイオードのアノード電極との間に、デプレッション型NチャネルMOSFETが挿入配置されている。従って、上記駆動回路においては、請求項1に記載の駆動回路とは逆に、ゲート駆動信号のオフからオンへの切り替わり時において、デプレッション型NチャネルMOSFETが、絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインで以下のように機能することとなる。
デプレッション型NチャネルMOSFETは、自身のゲート電位が下がるとオフしてノーマリー・オンの高抵抗状態となり、自身のゲート電位が上がるとオンして低抵抗状態となる素子である。また、上記デプレッション型NチャネルMOSFETのゲート電極は、抵抗を介して、絶縁ゲートトランジスタの出力電極に接続されている。従って、ゲート駆動信号がオフからオンに切り替わった後、絶縁ゲートトランジスタの出力電位が下降する途中で、上記デプレッション型NチャネルMOSFETがオンからオフ(ノーマリー・オン状態)に切り替わるように設定することが可能である。言い換えれば、絶縁ゲートトランジスタの出力電位が下降する途中で、絶縁ゲートトランジスタのゲート駆動信号ラインに挿入配置されているデプレッション型NチャネルMOSFETの抵抗が、低抵抗状態から高抵抗状態に切り替わるように設定する。
これによって、ターンオンの過渡期の序盤(絶縁ゲートトランジスタの主電極間電圧が大きい時)では、絶縁ゲートトランジスタのゲート入力抵抗が小さく調整され、絶縁ゲートトランジスタのドレイン(コレクタ)電流を急峻に変動させ、ターンオンに要する時間を短縮することができる。さらに、ターンオンの過渡期の終盤(絶縁ゲートトランジスタの主電極間電圧が小さい時)では、絶縁ゲートトランジスタのゲート入力抵抗が大きく調整され、絶縁ゲートトランジスタのドレイン(コレクタ)電流を緩慢に変動させ、サージ電圧(リンギング)の増大を抑えることができる。
以上のようにして、上記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路によれば、ターンオン時の絶縁ゲートトランジスタのリンギングノイズを抑制しながらスイッチング損失の増大を抑制するという2つの効果を両立させることができる。
尚、上記駆動回路についても、請求項1に記載の駆動回路と同様に、従来のように低抵抗値と高抵抗値の2つの抵抗素子とスイッチング素子の組み合わせを用いる場合に較べて、小型化と製造コストの低減が可能となることは言うまでもない。また、P導電型拡散領域とN導電型拡散領域の接合体からなるピンチ抵抗体を用いる場合に較べて、上記デプレッション型NチャネルMOSFETの抵抗値は、閾値電圧近傍において桁違いに迅速に変化する。このため、上記デプレッション型NチャネルMOSFETは、ターンオンの過渡期の急峻な変化への適用に好適である。
請求項3に記載のように、上記請求項1に記載の駆動回路においては、前記第2ダイオードのカソード電極と、前記デプレッション型PチャネルMOSFETにおける前記絶縁ゲートトランジスタのゲート電極側の主電極との間に、デプレッション型NチャネルMOSFETが挿入配置され、前記デプレッション型NチャネルMOSFETのゲート電極が、前記デプレッション型PチャネルMOSFETのゲート電極に接続され、前記デプレッション型NチャネルMOSFETのゲート電極が、前記抵抗を介して、前記絶縁ゲートトランジスタの出力電極に接続されてなることが好ましい。
これによれば、前述したように、第1ダイオードとデプレッション型PチャネルMOSFETの組み合わせで、絶縁ゲートトランジスタのターンオフ時のリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。また、第2ダイオードとデプレッション型NチャネルMOSFETの組み合わせで、絶縁ゲートトランジスタのターンオン時のリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。
上記駆動回路における絶縁ゲートトランジスタは、例えば請求項4に記載のように、MOSFETまたはIGBTとすることができる。
絶縁ゲートトランジスタがMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である場合には、前記出力電極がドレイン電極となる。絶縁ゲートトランジスタがIGBT(Insulated Gate BipolarTransistor)である場合には、前記出力電極がコレクタ電極となる。
以上に示した駆動回路は、上記したように絶縁ゲートトランジスタのリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。従って、請求項5に記載のように、前記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路は、インバータ回路における絶縁ゲートトランジスタの駆動回路として用いられて好適である。
また、以上に示した駆動回路は、上記したように小型で安価であり、絶縁ゲートトランジスタのリンギングノイズとスイッチング損失の抑制に高い性能を発揮する。従って、請求項6に記載のように、前記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路は、小型、安価かつ高性能が要求される車載用の絶縁ゲートトランジスタの駆動回路として、特に好適である。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一例で、絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1に関する回路図である。
図1中に破線で囲った駆動回路K1は、絶縁ゲートトランジスタ20を駆動するための回路である。絶縁ゲートトランジスタ20は、図1においてエンハンスメント型NチャネルMOSFET(以下、ENMOSと略記)の回路記号で代表されているが、例えば別の種類のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であってもよいし、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。絶縁ゲートトランジスタ20がMOSFETである場合には、電源Vdd側の出力電極がドレイン電極となる。絶縁ゲートトランジスタ20がIGBTである場合には、電源Vdd側の出力電極がコレクタ電極となる。尚、図1の絶縁ゲートトランジスタ20には、抵抗負荷R3と誘導負荷L1が直列に接続されている。
図1の破線で囲った駆動回路K1では、ENMOS20のゲート電極側をアノード電極とする第1ダイオードD1と、ENMOS20のゲート電極側をカソード電極とする第2ダイオードD2とが、並列接続されて、ENMOS20のゲート駆動信号ラインに挿入配置されている。また、第1ダイオードD1のアノード電極と、第2ダイオードD2のカソード電極との間に、デプレッション型PチャネルMOSFET(以下、DPMOSと略記)10が挿入配置されている。DPMOS10のゲート電極は、抵抗R2を介して、ENMOS20の出力電極に接続されている。尚、駆動回路K1における抵抗R1は、ENMOS20へのゲート電流を調整するための抵抗である。
駆動回路K1における第1ダイオードD1は、ゲート駆動信号(図中の矩形波)VinがLoの時に動作し、ENMOS20のゲート蓄積電荷を放電し、ゲート電圧Vgsを低下させる時に機能させる。また、駆動回路K1における第2ダイオードD2は、ゲート駆動信号(図中の矩形波)VinがHiの時に動作し、ENMOS20のゲート蓄積電荷を充電し、ゲート電圧Vgsを上昇させる時に機能させる。このように、駆動回路K1における第1ダイオードD1と第2ダイオードD2は、それぞれ、ゲート駆動信号(例えば図中の矩形波)Vinのオンからオフへの切り替わりと、オフからオンへの切り替わりとを選択するために挿入されている。従って、図1の駆動回路K1においては、ゲート駆動信号Vinのオンからオフへの切り替わり時において、DPMOS10が、出力トランジスタであるENMOS20のゲート駆動信号ラインで、以下のように機能することとなる。
図2は、駆動回路K1において、ゲート駆動信号Vinがオンからオフへ切り替わった場合におけるDPMOS10とENMOS20の動作波形を示した図(タイミングチャート)である。
デプレッション型PチャネルMOSFET(DPMOS10)は、自身のゲート電位vgsが自身の負の閾値電圧より下がるとオンして低抵抗(数オーム以下)状態となり、自身のゲート電位vgsが自身の負の閾値電圧より上がるとオフしてノーマリー・オンの高抵抗(数百オーム以上)状態となる素子である。図1の駆動回路K1におけるDPMOS10のゲート電極は、抵抗R2を介して、ENMOS20の出力電極であるドレイン電極に接続されている。従って、図2に示すように、時刻t1においてゲート駆動信号Vinがオンからオフに切り替わった後、ENMOS20の出力電位(ドレイン電圧)Vdsが上昇する途中で、DPMOS10のゲート電位vgsが自身の負の閾値電圧より上がって、DPMOS10がオンからオフ(ノーマリー・オン状態)に切り替わるように設定することが可能である。言い換えれば、ENMOS20の出力電位Vdsが上昇する途中で、ENMOS20のゲート駆動信号ラインに挿入配置されているDPMOS10の抵抗が、低抵抗状態から高抵抗状態に切り替わるように設定する。
これによって、ターンオフの過渡期の序盤(時刻t1と時刻t2の間で、ENMOS20の主電極間電圧Vdsが小さい時)では、ENMOS20のゲート入力抵抗が小さく調整され、ENMOS20のドレイン電流を急峻に変動させて、ターンオフに要する時間を短縮することができる。すなわち、ターンオフの序盤では、ENMOS20のゲートの蓄積容量は、低抵抗状態にあるDPMOS10、第1ダイオードD1、抵抗R1を介してゲート駆動信号VinのLo信号に流れ、ENMOS20のゲート電圧Vgsが急峻に低下すると共に、ENMOS20のドレイン電流も急峻に低下する。これによって、スイッチング切り替わりを早くできるため、スイッチング損失の低減も可能となる。
ターンオフの過渡期の終盤(時刻t2以降で、ENMOS20の主電極間電圧Vdsが大きい時)では、ENMOS20のゲート入力抵抗が大きく調整され、ENMOS20のゲート電圧Vgsと共にドレイン電流を緩慢に変動させ、図7に示されていたドレイン電圧Vdsにおけるサージ電圧(リンギング)の増大を図2に示すように抑制することができる。すなわち、ターンオフの終盤では、ENMOS20のゲートの蓄積容量は、高抵抗状態にあるDPMOS10、第1ダイオードD1、抵抗R1を介してゲート駆動信号VinのLo信号に流れ、ENMOS20のゲート電圧Vgsは緩慢に低下する。また、ENMOS20のドレイン電流も緩慢に低下するため、誘導負荷L1および抵抗負荷R3の周辺に存在するL成分による出力電位(ドレイン電圧)Vdsのオーバーシュート(リンギング)を防止することができる。
以上のようにして、図1に示す絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1によれば、ターンオフ時において、絶縁ゲートトランジスタ20のリンギングノイズを抑制しながらスイッチング損失の増大を抑制するという2つの効果を両立させることができる。
尚、上記効果を得るために、従来のように低抵抗値と高抵抗値の2つの抵抗素子とスイッチング素子の組み合わせを用いることも可能である。しかしながら、図1の駆動回路K1では、一つのデプレッション型PチャネルMOSFET(DPMOS10)により上記効果を実現することができ、従来に較べて小型化と製造コストの低減が可能となる。また、上記効果を得るために、上記デプレッション型PチャネルMOSFET(DPMOS10)の代わりにP導電型拡散領域とN導電型拡散領域の接合体を用いて、P導電型拡散領域への空乏層の広がりによって抵抗値が決定される所謂ピンチ抵抗体とすることも可能である。しかしながら、ピンチ抵抗体は、抵抗値の電圧依存性が線形に近く、変化が緩慢である。これに対して、上記デプレッション型PチャネルMOSFET(DPMOS10)の抵抗値は、閾値電圧近傍において桁違いに迅速に変化する。このため、上記デプレッション型PチャネルMOSFET(DPMOS10)は、ターンオフの過渡期の急峻な変化への適用に好適である。
図3は別の例で、絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K2に関する回路図である。尚、図3の回路図にある構成要素に関して、図1の回路図にある構成要素と同じものについては、同じ符号を付した。
図3の破線で囲った駆動回路K2においては、図1の破線で囲った駆動回路K1とは逆に、第2ダイオードD2のカソード電極と、第1ダイオードD1のアノード電極との間に、デプレッション型NチャネルMOSFET(以下、DNMOSと略記)11が挿入配置されている。DNMOS11のゲート電極は、抵抗R2を介して、ENMOS20の出力電極に接続されている。従って、図3の駆動回路K2においては、図1の駆動回路K1とは逆に、ゲート駆動信号Vinのオフからオンへの切り替わり時において、DNMOS11が、出力トランジスタであるENMOS20のゲート駆動信号ラインで、以下のように機能することとなる。
図4は、駆動回路K2において、ゲート駆動信号Vinがオフからオンへ切り替わった場合におけるDNMOS11とENMOS20の動作波形を示した図(タイミングチャート)である。
デプレッション型NチャネルMOSFET(DNMOS11)は、自身のゲート電位vgsが自身の正の閾値電圧より下がるとオフしてノーマリー・オンの高抵抗(数百オーム以上)状態となり、自身のゲート電位vgsが自身の正の閾値電圧より上がるとオンして低抵抗(数オーム以下)状態となる素子である。図3の駆動回路K2におけるDNMOS11のゲート電極は、抵抗R2を介して、ENMOS20の出力電極であるドレイン電極に接続されている。従って、図4に示すように、時刻t3においてゲート駆動信号Vinがオフからオンに切り替わった後、ENMOS20の出力電位Vdsが下降する途中で、DNMOS11のゲート電位vgsが自身の正の閾値電圧より下がって、DNMOS11がオンからオフ(ノーマリー・オン状態)に切り替わるように設定することが可能である。言い換えれば、ENMOS20の出力電位Vdsが下降する途中で、ENMOS20のゲート駆動信号ラインに挿入配置されているDNMOS11の抵抗が、低抵抗状態から高抵抗状態に切り替わるように設定する。
これによって、ターンオンの過渡期の序盤(時刻t3と時刻t4の間で、ENMOS20の主電極間電圧Vdsが大きい時)では、ENMOS20のゲート入力抵抗が小さく調整され、ENMOS20のドレイン電流を急峻に変動させて、ターンオンに要する時間を短縮することができる。すなわち、ターンオンの序盤では、ENMOS20のゲートの蓄積容量は、抵抗R1、第2ダイオードD2、低抵抗状態にあるDNMOS11を介してゲート駆動信号VinのHi信号から流れ、ENMOS20のゲート電圧Vgsが急峻に上昇すると共に、ENMOS20のドレイン電流も急峻に上昇する。これによって、スイッチング切り替わりを早くできるため、スイッチング損失の低減も可能となる。
ターンオンの過渡期の終盤(時刻t4以降で、ENMOS20の主電極間電圧Vdsが小さい時)では、ENMOS20のゲート入力抵抗が大きく調整され、ENMOS20のゲート電圧Vgsと共にドレイン電流を緩慢に変動させ、図4のドレイン電圧Vdsに示すように、ゲート駆動信号のターンオンに伴うサージ電圧(リンギング)の増大を抑制することができる。すなわち、ターンオンの終盤では、ENMOS20のゲートの蓄積容量は、抵抗R1、第2ダイオードD2、高抵抗状態にあるDNMOS11を介してゲート駆動信号VinのLo信号から流れ、ENMOS20のゲート電圧Vgsは緩慢に上昇する。また、ENMOS20のドレイン電流も緩慢に上昇するため、誘導負荷L1および抵抗負荷R3の周辺に存在するL成分による出力電位(ドレイン電圧)Vdsのオーバーシュート(リンギング)を防止することができる。
以上のようにして、図3に示す絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K2によれば、ターンオン時において、絶縁ゲートトランジスタ20のリンギングノイズを抑制しながらスイッチング損失の増大を抑制するという2つの効果を両立させることができる。
尚、図3の駆動回路K2についても、図1の駆動回路K1と同様に、従来のように低抵抗値と高抵抗値の2つの抵抗素子とスイッチング素子の組み合わせを用いる場合に較べて、小型化と製造コストの低減が可能となることは言うまでもない。また、P導電型拡散領域とN導電型拡散領域の接合体からなるピンチ抵抗体を用いる場合に較べて、上記デプレッション型NチャネルMOSFET(DNMOS11)の抵抗値は、閾値電圧近傍において桁違いに迅速に変化する。このため、上記デプレッション型NチャネルMOSFET(DNMOS11)は、ターンオンの過渡期の急峻な変化への適用に好適である。
図5も別の例で、絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K3に関する回路図である。尚、図5の回路図にある構成要素に関して、図1の回路図にある構成要素および図3の回路図にある構成要素と同じものについては、同じ符号を付した。また、図6は、駆動回路K3において、ゲート駆動信号Vinがオフからオンおよびオンからオフへ切り替わった場合において、それぞれ、DPMOS10、DNMOS11およびENMOS20の動作波形を示した図(タイミングチャート)である。
図5の破線で囲った駆動回路K3においては、図1の破線で囲った駆動回路K1に追加して、第2ダイオードD2のカソード電極と、DPMOS10におけるENMOS20のゲート電極側の主電極との間に、デプレッション型NチャネルMOSFET(DNMOS)11が挿入配置されている。DNMOS11のゲート電極とDPMOS10のゲート電極は相互に接続されており、DNMOS11のゲート電極も、抵抗R2を介して、ENMOS20の出力電極に接続されている。言い換えれば、図5の破線で囲った駆動回路K3は、図1の破線で囲った駆動回路K1と図3の破線で囲った駆動回路K2を合成した回路となっている。
従って、図5の駆動回路K3においては、DNMOS11がゲート駆動信号Vinのオフからオンへの切り替わり時(図6の時刻t3,t4近傍)において機能し、DPMOS10がゲート駆動信号Vinのオンからオフへの切り替わり時(図6の時刻t1,t2近傍)において機能することとなる。このため、図6に示す駆動回路K3におけるENMOS20の動作波形も、図2に示す駆動回路K1におけるENMOS20の動作波形と図46に示す駆動回路K2におけるENMOS20の動作波形を合成したものとなる。
このように、図5に示す絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K3によれば、第1ダイオードD1とDPMOS10の組み合わせで、ENMOS20のターンオフ時のリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。また、第2ダイオードD2とDNMOS11の組み合わせで、ENMOS20のターンオン時のリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。
尚、上記駆動回路K1〜K3におけるDPMOS10とDNMOS11のデプレッション時抵抗値および閾値電圧値は、オーバーシュートが小さい範囲で切り替わり時間を短縮できる値に適宜設定する。例えば、デプレッション時抵抗値を1kΩとし、閾値電圧値を1Vとする。
尚、以上に示した絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1〜K3は、一つのICの中に構成できる。また、SOI基板とトレンチ分離を用いた構造とすることで、ノイズに強くできる。さらに、SOI基板とトレンチ分離を用いた構造とすることで、出力電位(ドレイン電圧)Vdsが電源電位(電源電圧)Vddより高電位(高電圧)となったり、GND電圧より低い電圧となったりしても、寄生効果が発生せず、1チップ化が容易で、小型化ができる。例えば、SOI基板とトレンチ分離を併用し、絶縁ゲートトランジスタ20をLDMOS(Lateral Diffused Metal Oxide Semiconductor)で構成し、DPMOS10とDNMOS11をCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor、相補型MOS)トランジスタで構成し、第1ダイオードD1と第2ダイオードD2をバルクダイオードで構成する。
以上に示した絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1〜K3は、いずれも、絶縁ゲートトランジスタ20のリンギングノイズを抑制しながら、スイッチング損失の増大を抑制することができる。従って、上記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1〜K3は、インバータ回路における絶縁ゲートトランジスタ20の駆動回路として用いられて好適である。
また、以上に示した絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1〜K3は、前述したように小型で安価であり、絶縁ゲートトランジスタ20のリンギングノイズとスイッチング損失の抑制に高い性能を発揮する。従って、上記絶縁ゲートトランジスタの駆動回路K1〜K3は、小型、安価かつ高性能が要求される車載用の絶縁ゲートトランジスタの駆動回路として、特に好適である。