JP4825974B2 - 蛍光増強素子、蛍光素子、及び蛍光増強方法 - Google Patents
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Description
なお、本発明においていう「蛍光物質」は、所定の励起光を照射することにより、または電界効果を利用して励起することにより蛍光を発する物質の総称である。また、「蛍光」には「燐光」をはじめとする各種の発光を含むものとする。
より重要な第二の因子は、発光の量子収率そのものを増加させる作用であり、その定性的な解釈は次のとおりである。すなわち、励起分子の発光双極子が隣接する金属の表面プラズモン的な自由電子の振動モードを励起し(これにより励起分子のエネルギーが金属に移動したことになる)、金属粒子中に発光性の誘起双極子を与える。系の正味の発光確率は全双極子モーメントの二乗に比例するため、誘起双極子の大きさが元の励起分子の双極子よりも大きくなれば発光効率(量子収率)の増加が期待できる。
しかしながら金属中には同時に様々な自由電子の励起モードが存在し、そのほとんどはジュール熱として急速に失われてしまうため、総じて発光効率は高々数%以下に止まらざるをえなかった。換言すると、もともとの量子収率が比較的高い分子の発光は、上記の増強効果が期待できる荒れた金属表面の近くであっても逆に強く消光されてしまう。それゆえ正味の増強が起こるのは、量子収率が著しく低い分子に限られてきた。
素子表面に担持した蛍光物質の発光を増強する光学素子であって、
互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が所定の基板上に多数設けられて成ることを特徴とする。
図1に、本発明に係る蛍光増強素子(近距離蛍光増強素子)の断面図を示す。
図1(B)に示すように、平板状金属粒子2の表面にスペーサ4を設け、スペーサ4の表面に蛍光物質3を担持させる構成としても構わない。スペーサ4を設けることにより、蛍光物質3を金属粒子の表面から一定の距離に固定することができる。スペーサ4は非導電性であればよく、その構成は問わない。
これまで、蛍光増強効果を得るためには、金属内非発光性モードへの直接のエネルギー移動をできるだけ避けるため、蛍光物質3は金属表面から少なくとも3nm以上、好ましくは10nm以上離れた位置に存在させることが要件であるとされてきたが、本発明の蛍光増強素子においては上述のように10nm以下、好ましくは1nm程度が好適であり、しかも金属表面に直接担持されていても十分な蛍光増強効果が得られる。
図2に、長距離蛍光増強素子である、本発明に係る蛍光素子の断面図を示す。
基板と、
該基板上において互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの多数の平板状金属粒子と、
該平板状金属粒子の表面に薄膜状に担持された蛍光物質と、
該蛍光物質上に設けられ、厚みが100nm以下であって内部に前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質を分散保持している保持媒体と、から成る。
上述した長距離蛍光増強素子(図2)と類似した構成において、蛍光物質3が分散する保持媒体5の厚みを1000nm以上とし、この素子に対してパルスレーザによってポンピングすることにより、強度が増強されたレーザ発光が生じる(詳細は後述する。)。
基板1としてマイカを用いた。マイカは絶縁性が高いだけでなく、平滑な表面を得やすいため、蛍光増強素子の基板1として好適である。また、マイカは光透過性を備えている。DCスパッタリング法を用いて、表面が原子的に平滑なマイカの剥離面に銀の粒子を1〜2nm/分の比較的ゆっくりとした膜堆積速度で堆積させた。堆積処理中のマイカの温度は200〜300℃程度となるように調節した。図3は、堆積時間が増加するにつれて(図3のa〜d)膜がどのように成長するかを示すAFM像である。
蛍光物質3としてローダミンB色素(図5)を用いた。担持量を薄く均一にするため、ローダミンBの希薄エタノール溶液を、蛍光増強素子の表面に3000rpmでスピンコーティングした。
上記のようにして得たローダミンBを担持した蛍光増強素子(スペーサの厚み:1.4nm)に対し、基板1の表側(金属粒子側)から波長532nmの励起光を照射し、生じた蛍光を測定した。銀粒子の形状は、蛍光増強作用が最大となる図2dの形状であった。こうして測定された蛍光スペクトルを図6において実線で示す。なお、鎖線は同一担持量のローダミンBをガラス表面に担持した場合の蛍光スペクトルを示している。図6の左側のグラフは、ローダミンBの担持量が比較的多く、ガラス表面上での蛍光量子収率が約1%の場合のスペクトルであり、図6の右側のグラフは、ローダミンBの担持量が比較的少なく、ガラス表面上での蛍光量子収率が約40%の場合のスペクトルである。
1)素子(基板)によって異なる励起光の吸収率を考慮していない。
2)蛍光の角度依存性を考慮していない。
そこで、本願発明者は蛍光増強率を定量的に評価するための実験を以下のように行った。
上記1)の光吸収率を考慮するために、本発明の蛍光増強素子自体の光吸収率(図7鎖線)及び、ローダミンBを担持した蛍光増強素子の光吸収率(図7実線)を測定した。後者において、ローダミンBの担持量は図5左グラフの同一量とした。
ローダミンB担持後(実線)は、銀アイランド膜の吸収と色素の吸収を単純に足し合わせた形状になっている。従って、図7のグラフにおいて、実線と鎖線の差は、ローダミンBによる吸収に他ならない。この大きさは、ガラス参照基板によって同一のローダミンBの担持量で得られる値よりも5倍近く大きな値であった。
すなわち、図6の左のグラフにおける蛍光増強率にはこの吸収増幅効果が少なからず寄与しており、蛍光量子収率の増強率は10倍程度であるということになる。
上記2)の蛍光の角度依存性を考慮するため、ローダミンBを担持した蛍光増強素子において、測定角度による蛍光強度の変化を測定した(図8)。
このことは、増強された蛍光が蛍光物質3(ローダミンB)から生じているのではなく、図9に模式図を示すように、励起された蛍光物質3からエネルギーを受け取った金属粒子(銀粒子)から生じていること示唆している。なお、これは前述した増強蛍光(量子収率の増強によるもの)の定性的な解釈と合致している。
次に、スペーサの長さを変化させることによって、スペーサの厚みと蛍光量子収率の関係を調べた(図11)。ローダミンBの担持量は5×1013/cm2程度であった。この結果より、
1.スペーサを用いることなく直接ローダミンBを銀表面に担持させた場合でも有意な蛍光増強効果が得られる。
2.蛍光増強効果は1nm以下の至近距離の範囲でスペーサの厚みの増加に伴って急速に増大し、1nm程度の厚みで最大になる。
3.蛍光増強効果は10nm程度の厚みまで観察される。
の3点が明らかとなった。
ドナー蛍光物質(図1(C)の3a)としてローダミン110色素(図12(A))を用い、アクセプタ蛍光物質(図1(C)の3b)としてローダミンB色素(図5)もしくは塩基性フクシン色素(図12(B))を用いた。両者の混合希薄エタノール溶液を、蛍光増強素子の表面に3000rpmでスピンコーティングした。
長距離蛍光増強素子である蛍光素子の基礎には、上述した近距離蛍光増強素子と同一の方法によって作成された蛍光増強素子を利用した。
蛍光物質としてフクシン色素(図12(B))を用い、これをポリビニールアルコール(PVA)水溶液に溶解させた溶液を蛍光増強素子の表面に3000rpmでスピンコーティングした。このときフクシン色素のアミノ基とスペーサ表面のカルボキシル基の相互作用により、スペーサ表面(直接的な増強効果が最も強くなる距離)に比較的高密度のフクシン単層が自動的に担持され、フクシン色素の残りの大部分はポリマー層(厚み:約100nm)の中に分散した。なおポリマー媒体中に保持されたフクシン色素は分子運動の自由度の制限によりその蛍光量子収率は数十%まで増加する。
図15に示すスペクトルAはこのときの蛍光スペクトルであり、比較したスペクトルBはスペーサが存在しない場合、つまり直接的な増強が最も強くなる距離に蛍光物質がほとんど無い状態で得られたものである。A、Bとも大部分の蛍光物質は直接的な増強を受けないポリマー媒体中に分散しており、観測される蛍光強度は本来同じになるはずであるが、実際の強度はAの方が3倍以上大きくなっている。これは銀粒子表面から至近距離に存在する蛍光物質の増強蛍光が直接的な増強を受けない厚いポリマー層からの発光を間接的に増強した結果であることを示している。
蛍光物質としてローダミンB色素を用い、これをポリビニールアルコール(PVA)水溶液に溶解させた溶液を、蛍光増強素子(近距離蛍光増強素子)の表面に厚く(数μm以上)塗布した。
上記試料をパルスYAGレーザ(パルス幅〜5ns、波長532nm)で照射したところ、スペーサの厚みが2nm以下のとき、又はスペーサを全く設けないとき、数mJ/cm2程度の励起エネルギーで色素分散ポリマー層からの強いレージングが発生し、図16Aのような強く鋭い発光スペクトル(レーザ発光)が得られた。図16Bはスペーサの厚さが3nm以上の場合の発光スペクトルを示しており、この僅かな違いでレージングはほとんど消失した。銀粒子表面から数nm以内の距離に存在する全体のうちのごく僅かな蛍光物質の増強蛍光がなだれ的に増幅された結果と解釈できる。
2…平板状金属粒子
3…蛍光物質
3a…ドナー
3b…アクセプタ
4…スペーサ
5…保持媒体
Claims (11)
- 素子表面に担持した蛍光物質の発光を増強する光学素子であって、
互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が所定の基板上に多数設けられて成り、
前記平板状金属粒子の表面に、その上に蛍光物質を担持するスペーサを有し、
該スペーサの厚みが10nm以下である
ことを特徴とする蛍光増強素子。 - 前記平板状金属粒子が銀から成ることを特徴とする請求項1に記載の蛍光増強素子。
- 蛍光物質の発光を増強させる蛍光素子であって、
基板と、
該基板上において互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの多数の平板状金属粒子と、
該平板状金属粒子の表面に薄膜状に担持された蛍光物質と、
該蛍光物質上に設けられ、厚みが100nm以下であって内部に前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質を分散保持している保持媒体と、
から成ることを特徴とする蛍光素子。 - 前記平板状金属粒子が銀から成ることを特徴とする請求項3に記載の蛍光素子。
- 前記平板状金属粒子の表面にスペーサを備えており、薄膜状に担持される蛍光物質が該スペーサ上に担持されることを特徴とする請求項3又は4に記載の蛍光素子。
- 前記スペーサの厚みが10nm以下であることを特徴とする請求項5に記載の蛍光素子。
- 互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が所定の基板上に多数設けられて成る蛍光増強素子において該平板状金属粒子の表面から10nm以下の距離だけ離れた位置に蛍光物質を担持させ、所定の励起光を照射することにより増強された発光を得ることを特徴とする蛍光増強方法。
- 互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が所定の基板上に多数設けられて成る蛍光増強素子の表面又は該平板状金属粒子の表面から一定の距離だけ離れた位置に薄膜状に蛍光物質を担持させるとともに、該蛍光物質上に設けられ、厚みが100nm以下である保持媒体の内部に前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質を分散保持させて成る蛍光素子に対して所定の励起光を照射することにより増強された発光を得ることを特徴とする蛍光増強方法。
- 前記蛍光増強素子の表面又は前記平板状金属粒子の表面から一定の距離だけ離れた位置に薄膜状にドナー及びアクセプタの役割を担う二種類の異なる蛍光物質を混合担持させることを特徴とする請求項7又は8に記載の蛍光増強方法。
- 前記ドナーの役割を担う蛍光物質を前記アクセプタの役割を担う蛍光物質よりも多量に担持させることを特徴とする請求項9に記載の蛍光増強方法。
- 互いに独立して形成された、断面粒径が100〜800nm、厚みが30〜50nmの平板状金属粒子が所定の基板上に多数設けられて成る蛍光増強素子において、該平板状金属粒子の表面から2nm以下だけ離れた位置に薄膜状に蛍光物質を担持させるとともに、該蛍光物質上に設けられ、厚みが1000nm以上である保持媒体の内部に前記蛍光物質と同一種類の蛍光物質を分散保持させて成る蛍光素子に対してパルスレーザを照射することにより蛍光物質からレーザ発光を生じさせる蛍光増強方法。
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