図1は、本発明が好適に適用される車両用動力伝達装置(以下、単に動力伝達装置という)8の骨子図であり、図2は、その動力伝達装置8に備えられた自動変速機10において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機10は、車両の左右方向(横置き)に搭載するFF車両等に好適に用いられるものであって、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置12を主体として構成されている第1変速部14と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置16及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置18を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部20とを同軸線上に有し、入力軸22の回転を変速して出力回転部材24から出力する。上記入力軸22は入力部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力源であるエンジン28によって回転駆動されるトルクコンバータ30のタービン軸である。また、上記出力回転部材24は自動変速機10の出力部材に相当するものであり、図4に示す差動歯車装置34に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)36と噛み合う出力歯車すなわちデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン28の出力は、トルクコンバータ30、自動変速機10、差動歯車装置34、及び1対の車軸38を介して1対の駆動輪(前輪)40へ伝達されるようになっている。なお、この自動変速機10は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
上記エンジン28は、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ30は、上記エンジン28のクランク軸に連結されたポンプ翼車30aと、上記自動変速機10の入力軸22に連結されたタービン翼車30bと、一方向クラッチを介して上記自動変速機10のハウジング(変速機ケース)26に連結されたステータ翼車30cとを備えており、上記エンジン28により発生させられた動力を上記自動変速機10へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。また、上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ32が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ32が完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車30a及びタービン翼車30bが一体回転させられるようになっている。
図2の作動表は、前記自動変速機10により成立させられる各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2、B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。前記自動変速機10に備えられたクラッチC1、C2、及びブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、図3を用いて後述する油圧制御回路42のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられると共に係合、解放時の過渡油圧などが制御されるようになっている。
前記自動変速機10では、第1変速部14及び第2変速部20の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)の連結状態の組み合わせに応じて第1変速段「1st」〜第6変速段「6th」の6つの前進変速段が成立させられると共に、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1及びブレーキB2の係合により第1速ギヤ段「1st」が、クラッチC1及びブレーキB1の係合により第2速ギヤ段「2nd」が、クラッチC1及びブレーキB3の係合により第3速ギヤ段「3rd」が、クラッチC1及びクラッチC2の係合により第4速ギヤ段「4th」が、クラッチC2及びブレーキB3の係合により第5速ギヤ段「5th」が、クラッチC2及びブレーキB1の係合により第6速ギヤ段「6th」が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2及びブレーキB3の係合により後進ギヤ段「Rev」が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。本実施例の自動変速機10では、第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置12、第2遊星歯車装置16、及び第3遊星歯車装置18の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。また、所定のギヤ段を達成させるために1対の油圧式摩擦係合装置が係合させられるようになっているが、何らかの故障によってその1対の油圧式摩擦係合装置の一方の係合が十分に行われない場合は、その自動変速機10は上記所定のギヤ段に対応する変速比よりも大きい変速比を示すニュートラルフェイル状態となる。
図3は、前記動力伝達装置10に備えられた油圧制御回路42のうちリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL4、SL5に関する部分を示す回路図である。この図3に示すように、上記油圧制御回路42では、ライン油圧PLを元圧としてリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置44からの指令信号に応じた油圧が調圧され、前記自動変速機10に備えられたクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ等)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3にそれぞれ係合圧として供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しないリリーフ型調圧弁により、前記エンジン28によって回転駆動される機械式のオイルポンプや電磁式オイルポンプからの出力圧から、アクセル開度或いはスロットル開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。また、上記リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成とされたものであり、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5からの出力圧(係合圧) は、ソレノイドの電磁力に従って入力ポートと出力ポートまたはドレーンポートとの間の連通状態が変化させられることにより出力圧(フィードバック油圧Pout)が調圧制御され、前記油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3に供給される。そのようにして、各リニアソレノイドバルブSL1〜SL5にそれぞれ備えられたソレノイドは、電子制御装置44により独立に励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。
また、前記油圧制御回路42には、上記リニアソレノイドバルブSL1及びSL2の出力圧すなわちクラッチC1及びクラッチC2の係合圧を検出するための油圧スイッチSC1及び油圧スイッチSC2が、上記リニアソレノイドバルブSL1とクラッチC1の油圧アクチュエータAC1との間、及びリニアソレノイドバルブSL2とクラッチC2の油圧アクチュエータAC2との間にそれぞれ接続されている。これら油圧スイッチSC1及び油圧スイッチSC2は、クラッチC1及びクラッチC2の係合圧が係合完了を判定するために予め設定された所定値例えばライン圧PLに近い値以上となった場合に出力信号を発生する。上記クラッチC1及びクラッチC2は、図2に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられるものである。すなわち、上記クラッチC1またはクラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされている。
図4は、前記動力伝達装置8等を制御するために車両に設けられた電気的な制御系統を説明するブロック線図である。この図4に示す電子制御装置44は、例えばROM、RAM、CPU、入出力インターフェースなどを含む所謂マイクロコンピュータであって、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理することで、前記動力伝達装置8に関する種々の制御等を実行する。また、所謂アクセル開度として知られるアクセルペダル46の操作量Accがアクセル操作量センサ48により検出されると共に、そのアクセル操作量Accを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。アクセルペダル46は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏み込み操作されるものであり、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン28の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ50、エンジン28の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ52、吸入空気の温度TAを検出するための吸入空気温度センサ54、エンジン28の電子スロットル弁の全閉状態(アイドル状態)及びその開度θTHを検出するためのアイドルスイッチ付スロットルセンサ56、車速V(出力回転部材24の回転速度NOUTに対応)を検出するための車速センサ58、エンジン28の冷却水温TWを検出するための冷却水温センサ60、常用ブレーキであるフットブレーキペダル62の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ64、シフトレバー66のレバーポジション(操作位置)PSHを検出するためのレバーポジションセンサ68、タービン回転速度NT(=入力軸22の回転速度NIN)を検出するためのタービン回転速度センサ70、油圧制御回路42内の作動油の温度であるAT油温TOILを検出するためのAT油温センサ72などが設けられており、それらのセンサやスイッチから、エンジン回転速度NE、吸入空気量Q、吸入空気温度TA、スロットル弁開度θTH、車速V、エンジン冷却水温TW、ブレーキ操作の有無、シフトレバー66のレバーポジションPSH、タービン回転速度NT、AT油温TOILなどを表す信号が電子制御装置44に供給されるようになっている。
前記電子制御装置44は、基本的な制御として、例えば、図5に示す予め記憶された関係から実際のアクセル開度ACC(%)に基づいてスロットル開度θTH(%)を制御するスロットル開度制御、前記自動変速機10のギヤ段を自動的に切り換える変速制御、前記トルクコンバータ30に備えられたロックアップクラッチ32の係合、解放、或いはスリップを実行する制御、過給圧制御、空燃比制御、気筒選択切換制御、運転サイクル切換制御等を実行する。上記変速制御では、例えば、図6に示す予め記憶された関係すなわち変速線図から実際のアクセル開度ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)と車速V(km/h)とに基づいて前記自動変速機10の変速段を決定し、この決定された変速段および係合状態が得られるように前記油圧制御回路42に備えられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を制御する。この図6の変速線図における変速線は、実際のアクセル開度ACC(%)又はスロットル開度θTH(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、上記値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。この変速制御の過程では、前記自動変速機10の入力トルクTINを推定し、変速に関与する油圧式摩擦係合装置の係合トルク容量すなわち係合圧またはその元圧であるライン圧をその入力トルクTINに応じた大きさに制御する。
図7は、前記シフトレバー66を備えたシフト操作装置74を説明する図である。このシフト操作装置74は例えば運転席の横に配設されており、そのシフト操作装置74に備えられたシフトレバー66は、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、又は「S」へ手動操作されるようになっている。「P」ポジションは前記自動変速機10内の動力伝達経路を解放し且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力回転部材24の回転を阻止(ロック)するための駐車位置であり、「R」ポジションは前記自動変速機10の出力回転部材24の回転方向を逆回転とするための後進走行位置であり、「N」ポジションは前記自動変速機10内の動力伝達経路を解放するための動力伝達遮断位置であり、「D」ポジションは前記自動変速機10の第1速乃至第6速の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で自動変速制御を実行させる前進走行位置であり、「S」ポジションは変速可能な高速側の変速段が異なる複数の変速レンジ或いは異なる複数の変速段を切り換えることにより手動変速が可能な前進走行位置である。この「S」ポジションにおいては、前記シフトレバー66の操作毎に変速範囲或いは変速段をアップ側にシフトさせるための「+」ポジション、そのシフトレバー66の操作毎に変速範囲或いは変速段をダウン側にシフトさせるための「−」ポジションが備えられている。また、上記シフト操作装置74には、スポーツ走行などのためのマニアル変速モードへ切り換えるためのモード切換スイッチ76が設けられている。このモード切換スイッチ76によってマニアル変速モードが選択されると、図示しないステアリングホイールに設けられた手動変速操作釦が有効化される。
図8は、前記電子制御装置44に備えられた制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図8に示すエンジン制御手段80は、前記エンジン28の基本的な出力制御を行うもので、図示しない電子スロットル弁を開閉制御したり、燃料噴射量制御のために燃料噴射装置を制御したり、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置を制御したりすることで、前記エンジン28により発生させられる動力の制御すなわちエンジントルク制御を実行する。
変速制御手段82は、前記自動変速機10の基本的な変速制御を行うもので、例えば、図6に示す予め記憶された変速線図(変速マップ)から実際のスロットル弁開度θTHおよび車速V等に基づいて前記自動変速機10の変速すべきギヤ段を決定すなわちその時点におけるギヤ段から変速先のギヤ段への変速判断を実行し、その決定されたギヤ段への変速作動を開始させる変速出力を実行すると共に、駆動力変化などの変速ショックが発生したり摩擦材の耐久性が損なわれたりすることがないように前記油圧制御回路42に備えられたリニアソレノイドバルブSL1〜SL5等の励磁状態をデューティ制御等により連続的に変化させたりする。図6の実線はアップシフト線で、破線はダウンシフト線であり、車速Vが低くなったりスロットル弁開度θTHが大きくなったりするに従って、変速比(=入力回転速度NIN/出力回転速度NOUT )が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるようになっており、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」を意味している。また、クラッチツウクラッチダウン変速例えば2→3アップ変速に際しては、解放側油圧式摩擦係合装置であるブレーキB1の係合圧PB1を低下させると同時に係合側油圧式摩擦係合装置であるブレーキB3の係合圧PB3を上昇させる。この変速制御の過程では、前記自動変速機10の入力トルクTINに対応する前記エンジン28の出力トルク(エンジントルク)TENが推定され、そのエンジントルクTENに基づいて変速に関与する油圧式摩擦係合装置の係合圧又はその元圧であるライン圧が所定の大きさに制御される。
図9は、上記変速制御手段82による2速ギヤ段から3速ギヤ段へのクラッチツウクラッチアップ変速における作動を説明するタイムチャートである。この図9に示すように、前記自動変速機10における2速ギヤ段から3速ギヤ段への変速動作では、ブレーキB1を解放すると同時にブレーキB3を係合させて第3速ギヤ段を成立させる。すなわち、2速ギヤ段から3速ギヤ段への変速動作が出力されると、前記リニアソレノイドバルブSL5から油圧アクチュエータAB3へ供給されるB3油圧PB3の上昇が開始されてブレーキB3の係合が開始される一方、前記リニアソレノイドバルブSL3から油圧アクチュエータAB1へ供給されていたB1油圧PB1が排出され始める。ここで、ブレーキB3の油圧PB3は、好適には、過渡的に図示しないアキュムレータによって徐々に上昇させられる。この上昇過程すなわちスイープ制御過程においては、予め設定された一定の変化率となるように係合圧PB3を一定の上昇率で連続的に上昇させるようにフィードバック制御が行われる。また、上記油圧PB3の上昇に伴ってブレーキB1からの作動油が降圧されるが、この降圧過程すなわちスイープ制御過程においても、予め設定された一定の変化率となるように係合圧PB1を一定の低下率で連続的に低下させるようにフィードバック制御が行われる。また、前記ライン圧PLは、例えば2→3アップシフトでは、その値が高くなるほど上記ブレーキB1の係合トルクの低下を抑制し、且つブレーキB3の係合油圧PB3の上昇とを促進する影響を与えるので、その2→3アップシフトのイナーシャ相においては、例えば図9に示されるようにエンジン回転速度NEが直線的に低下するように調圧させられる。上記ライン圧PLは、例えば、図示しない所定のリニヤソレノイドバルブから出力されるスロットル圧PTHに応じた大きさとなるように図示しないライン圧調圧弁により調圧されるが、変速過渡期間では上記のように調圧されるのが好ましい。
また、前記変速制御手段82は、好適には、後述する自動変速機第1学習制御手段92又は自動変速機第2学習制御手段94による学習結果、すなわち変速過程では例えば上述した図9に示すようなエンジン回転速度NE或いはタービン回転速度NTの一時的急上昇である吹きF或いはタイアップの発生を抑制するように学習制御された油圧式摩擦係合装置の係合圧に基づいて変速油圧の制御を実行する。変速に際して、係合側油圧式摩擦係合装置の係合と解放側油圧式摩擦係合装置の係合との重なり具合が小さいとエンジン回転速度NE の一時的急上昇である吹きが発生し、大きいと出力軸トルクTOUTの一時的急低下であるタイアップが発生することから、それらが入力トルクに拘わらず小さくなるようにそれらの係合圧が前記自動変速機10の入力トルクTINに応じて設定されると共に、上記吹きやタイアップが所定値以下となるように各油圧式摩擦係合装置の係合圧が学習制御により補正されるようになっているのである。
また、前記変速制御手段82は、前記エンジン28のエンジントルクTEが不安定ないしは推定が困難である場合、例えば後述する学習成立判定手段88によって前記エンジン10の出力トルクすなわちエンジントルクTEの学習が成立されていないと判定される場合には、前記自動変速機10の入力トルクTINの推定が困難であるので、大きな入力トルクTINにも対応させられるように、変速に関与する油圧式摩擦係合装置の係合圧を直接制御できる油圧回路である場合はその係合圧を高くし、直接制御できない油圧回路である場合はライン圧PLを図10の破線に示すように通常より一時的に一律に上昇させる。この通常とは、学習成立判定手段88によって学習が成立したと判定される場合に実行される変速制御手段82によるライン圧PL或いは油圧式摩擦係合装置の係合圧の調圧のことであり、上述のように自動変速機10の入力トルクTINに応じた大きさに調圧される。このように、通常時もライン圧PLは入力トルクTINに相当するエンジントルクTEに比例させる必要があるので、エンジントルクTEが不安定ないしは推定できないときはライン圧PLが高くされる。このライン圧PLが高くされると、例えば2→3アップシフトでは前記ブレーキB1の係合トルクの低下を抑制し且つブレーキB3の係合油圧PB3の上昇とを促進する影響を与えるので、解放側と係合側との係合トルクの重なり具合を大きくするオーバーラップ制御となる。
図8に戻って、ロックアップクラッチ制御手段84は、予め記憶された関係から実際の車両走行状態を表す車速V(出力側回転速度NOUTに対応)と運転者の要求出力量を表すアクセル開度ACCまたはスロットル開度θTH(%)とに基づいて、係合領域、解放領域、スリップ領域のいずれに属するかを判定し、その判定された領域に対応する状態が得られるように前記油圧制御回路42内の図示しないロックアップコントロールソレノイド等を制御して前記ロックアップクラッチ32を係合、解放、或いはスリップのいずれかの状態とする制御を実行する。例えば図11に示す関係から実際の車両状態に基づいてロックアップクラッチ32のオンオフを決定し、決定されたオンオフ状態となるように制御する。また、図12に示す関係のようにスリップ領域が設けられている場合には、そのスリップ領域においてスリップ制御が実行される。そのスリップ制御では、運転性を損なうことなく燃費を可及的に良くすることを目的として前記エンジン28の回転変動を吸収しつつ前記トルクコンバータ30の動力伝達損失を可及的に抑制するために、ロックアップクラッチ32をスリップ状態に維持する。また、車両の減速惰行走行中でも、エンジン回転速度NEをフューエルカット回転速度NECUTよりも高めてフューエルカット制御の制御域を拡大することを目的として、ロックアップクラッチ32のスリップ制御を実行する。
上記スリップ制御においては、図示しないスリップ制御ルーチンに従って、実スリップ量すなわちタービン回転速度NTとエンジン回転速度NEとの回転速度差NSLP(=NE−NT)が算出され、50乃至100rpm程度に予め設定された目標回転速度差NSLP *と回転速度差NSLPとの偏差ΔE(=NSLP−NSLP *)が解消されるように、例えば次の(1)式に従って、前記油圧制御回路42に備えられた図示しないリニアソレノイドバルブの駆動電流ISLUすなわち駆動デューティ比DSLU(%)が算出され、そのリニアソレノイドバルブから出力される制御圧PSLUが調節される。この(1)式の右辺において、DFWDはフィードフォワード値であり、KGDは機械毎の特性などに対応して逐次形成される学習補正値(学習制御値)であり、DFBは偏差ΔEに基づくフィードバック制御値である。上記フィードフォワード値DFWDは、例えばエンジントルクTEの大きさが推定されると、そのエンジントルクTEの大きさに対応したロックアップクラッチ32の係合圧に速やかに制御されるためにエンジントルクTEの大きさに基づいて予め設定されている値である。
DSLU=DFWD+DFB+KGD ・・・(1)
図8に戻って、エンジントルク学習制御手段86は、前記エンジン10の出力トルクすなわちエンジントルクTEの学習制御を行う。このエンジントルクTEの学習は、例えば、変速に際してのノックを抑制するためのノック制御等であり、前記エンジン28側の事情で要求される遅角量、例えばそのエンジン28のノッキングを抑制するために必要なエンジン遅角学習値Aを予め設定された計算式からノッキング信号に基づいて逐次算出し、そのときのエンジン回転速度NE に対応して記憶させる。ここで、変速に際しての係合ショック発生開始時期は、例えばエンジン回転速度NE が変速後の回転速度から例えば数百rpm程度の所定値だけ低く予め設定された判定値に到達したこと、或いは変速出力からの経過時間が予め設定された判定時間を超えたこと等に基づいて判定される。
また、上記エンジントルク学習制御手段86は、前記自動変速機10の入力トルクTINを反映する入力トルク関連値(例えば、車速V)と、その自動変速機10の変速状態(例えば、変速先のギヤ段である変速段或いはいずれのギヤ段への変速かを示す変速の種類)とに、基づいて補正値例えば補正係数Kを決定し、その補正係数Kと、エンジン遅角学習値Aと、変速時例えば所定のダウン変速時の変速ショックを抑制するための本来の変速側基本要求遅角量Bとに基づいて、変速時遅角量Dを決定するとともに、予め判定された出力軸トルクTOUT の変動時期にそれを図示しない点火装置へ出力し、その点火装置により前記エンジン28の点火時期をその基本点火時期から上記変速時遅角量Dだけ遅角させて一時的に入力トルクTINを低下させる。
また、前記エンジントルク学習制御手段86は、例えば図13に示すような予め記憶されたマップ(関係)から実際の車速Vおよび前記自動変速機10の入力トルクTINに基づいて上記基本要求遅角量Bを算出する。この関係は、変速ショックを抑制するために予め実験的に求められたものである。しかし、この入力トルクTINは、例えば図14に示すような予め記憶されたトルク算出式からスロットル開度、アクセルペダル操作量、吸入空気量などの要求負荷値およびエンジン回転速度NE に基づいて算出(推定)されるものであるから、その推定値にはエンジン28の出力特性の経時変化や、燃料、気圧などの外的変化による影響が含まれていない。
また、前記エンジントルク学習制御手段86は、例えば図15に示す予め記憶されたマップ(関係)から実際の変速段および車速V(入力トルク関連値)に基づいて補正値すなわち補正係数Kを決定する。この関係は、変速に際しての前記エンジン28の出力特性の経時変化や、燃料、気圧などの外的変化による入力トルクTINへの影響を考慮した遅角量でエンジン28の点火時期を遅角させるために、予め実験的に求められたものである。
そして、前記エンジントルク学習制御手段86は、前記エンジン28のノッキングを抑制するために逐次算出されたエンジン遅角学習値Aを読み込むことにより検出し、例えば、予め記憶された次の(2)式から実際の上記補正係数K、エンジン遅角学習値A、変速時の変速ショックを抑制するための本来の変速側基本要求遅角量Bに基づいて変速時遅角量Dを算出する。
D=K・A+B ・・・(2)
図8に戻って、学習成立判定手段88は、前記エンジントルク学習制御手段86によるエンジントルクの学習制御が成立したか否かを判定する。この学習制御の成立とは、例えば、前記エンジントルク学習制御手段86により繰り返し実行されている前記エンジン28のエンジントルクTEがその作動範囲の全域にわたって一応安定して出力される状態になったことを示す。例えば、図16に示すスロットル開度θTHとエンジン回転速度NE或いはエンジントルクTEとで設定されている領域T11乃至Tmnの各領域それぞれにおいて、前記エンジントルク学習制御手段86による学習回数が所定の判定回数(例えば、3〜5回)を超えたか否かに基づいて、上記学習制御が成立したか否かを判定する。この判定結果は、例えば学習成立フラグFとして、学習成立時にはF=1又は学習未成立時にはF=0として以下に詳述する動力伝達装置学習制御手段90に出力される。
図8に戻って、動力伝達装置学習制御手段90は、前記エンジン28から出力されたエンジントルクTEを駆動輪に伝達する前記動力伝達装置8の構成要素を学習制御する。例えば、その動力伝達装置8に備えられた自動変速機10による変速やトルクコンバータ30のロックアップクラッチ32の動作等の学習制御を行う。このために、本実施例の動力伝達装置学習制御手段90には、前記自動変速機10の動作を学習制御するための自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94と、前記トルクコンバータ30のロックアップクラッチ32の動作を学習制御するためのロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98とが備えられている。
自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、前記自動変速機10の動作の学習制御を行う。例えば、その自動変速機10による変速動作の学習制御を行う。ここで、本実施例の自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、学習補正値を算出するためのゲインが異なる点以外は同様の制御を行うものであり、以下、それら自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94に共通の学習制御について説明する。
上記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、例えば、前述した図9に示す前記自動変速機10のクラッチツウクラッチ変速において油圧式摩擦係合装置の解放側と係合側との係合トルクの重なり具合が小さいこと(アンダーラップ)により発生する吹きFや解放側と係合側との係合トルクの重なり具合が大きいこと(オーバーラップ)により発生するタイアップ状態を抑制するために、油圧式摩擦係合装置の係合圧の学習制御を実行する。具体的には、例えば特開平9−257123号公報に記載された技術、すなわち解放側油圧式摩擦係合装置を解放するためにその係合圧を制御する油圧信号SPB1Aにおいて図9のt1時点で元圧すなわち油圧式摩擦係合装置の係合圧が最大となるライン圧PLより低い所定の値SPB1ADを設定してその値SPB1ADを学習制御することで吹きFやタイアップ状態を防止してクラッチツウクラッチ変速が良好に実行される技術が用いられる。例えば、2→3アップシフトにおいてブレーキB1の係合圧PB1が低いことによる吹きFの発生がある場合は、そのブレーキB1の係合圧PB1が高くされるように上記信号SPB1ADが高い値に設定される。また、例えば特開平10−196778号公報に記載された技術、すなわち解放側油圧式摩擦係合装置の係合圧を漸減させるときの油圧残量や係合側油圧式摩擦係合装置の係合圧を漸増させるときの開始時間やその係合圧等を吹きFやタイアップ状態が防止されるように複数の学習制御によって前記自動変速機10の油圧制御が実行される場合に、いずれかの学習制御によって吹きFやタイアップ状態が所定値に収束された場合には、他の学習制御を禁止する等して全体としての学習制御の進行が速やかに実行される技術が用いられてもよい。更に、例えば特開2001−65679号公報に記載された技術、すなわちアクセルOFF時のアップシフトが適切に行われるようにするために、(a)入力回転速度NINがアップシフト後の推定入力回転速度NINPと同期するタイミングに合わせて油圧式摩擦係合装置が適切に係合されるために、その油圧式摩擦係合装置の油圧シリンダのピストンストロークに要する予め記憶された時間と入力回転速度NINがアップシフト後の推定入力回転速度NINPと同期するまでの推定同期所要時間とが比較されて上記油圧式摩擦係合装置が作動されるための油圧の供給開始時間が制御されたり、(b)アクセルOFF時にエンジンブレーキ状態となり減速されることが防止されるために、アクセルON時に前記自動変速機10が駆動状態とされるための油圧式摩擦係合装置がアクセルOFF時に解放されることでエンジンブレーキを発生させず減速が防止され、またアクセルOFF時に解放された上記油圧式摩擦係合装置がアクセルON時に速やかに係合されるように、その油圧式摩擦係合装置の係合圧を油圧式摩擦係合装置の係合が開始されない程度の所定の係合圧(低圧待機圧)で保持されるように制御される技術が用いられてもよい。
また、前記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、前記吹きFの発生或いはタイアップ状態を抑制するために以下に示す学習制御を実行してもよい。すなわち、前記自動変速機10における例えば2→3アップ変速期間において、エンジン回転速度NEすなわちタービン回転速度NTの一時的急上昇である吹きFは、例えば、図9のt2時点に示されるものであり、タービン回転速度NTから出力軸回転速度NOUT×γ2(但しγ2は第2速ギヤ段の変速比)を差し引くこと等によって求められる。前記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、前記エンジン回転速度NE の所定以上の吹きFが発生したと判定されると、その吹きFの大きさすなわち発生量が過大とならないように、その吹きFの発生量に応じて、次回のクラッチツウクラッチアップ変速時のブレーキB1の係合圧PB1とブレーキB3の係合圧PB3を補正する。例えば、図17(a)、(b)に示す予め記憶された関係(データマップ)から、上記吹きFの発生量F1、F2、F3、F4、F5のうち何れかと、スロットル開度θ1、θ2、θ3、θ4、θ5、θ6のうち何れかとに、基づいて、ブレーキB1の係合圧PB1に対する油圧補正量PB111乃至PB156のうち何れかと、ブレーキB3の係合圧PB3に対する油圧補正量PB311乃至PB356のうち何れかとを、それぞれ決定し、決定された油圧補正量すなわち学習補正値を前回のブレーキB1の係合圧PB1およびブレーキB3の係合圧PB3に加えたり(吹きFが目標値より大きいとき)或いは差し引いたり(吹きFが目標値より小さくタイアップ傾向のとき)することにより、次回のクラッチツウクラッチアップ変速時のブレーキB1の係合圧PB1とブレーキB3の係合圧PB3を全体的に補正する。また、吹きFの発生量が所定値以下となった場合には、前記自動変速機10のタイアップが発生しないように、図17とは異なる予め記憶された関係から遅角或いは燃料低減量とスロットル開度θTHとに基づいて学習補正値を決定し、次回のクラッチツウクラッチアップ変速時のブレーキB1の係合圧PB1とブレーキB3の係合圧PB3を補正する。図16の(a)、(b)に示す関係は、吹きFの発生量が大きくなるほど、またスロットル開度θTH大きくなるほど、油圧補正量が大きくなるように、換言すれば、吹きFが小さくなるように、予め実験的に求められたものである。
また、前記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、前記自動変速機10の入力トルクTINに基づいて予め設定されている大きさに調圧されるライン圧PLを学習制御することで、そのライン圧PLの大きさに比例するように影響が与えられる前記ブレーキB1の係合圧PB1或いはブレーキB3の係合圧PB3を全体的に補正することができる。これによって、例えば上記に示した吹きFの発生を小さくするために、上記ライン圧PLを大きくするように補正する。
ここで、前述のように、本実施例の自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94は、基本的には上述した同じ学習制御を行うものであるが、学習補正値を算出するためのゲインがそれぞれ異なる。すなわち、前記自動変速機第1学習制御手段92において用いられるゲインよりも、自動変速機第2学習制御手段94において用いられるゲインの方が大きい。このため、前記自動変速機第1学習制御手段92による学習速度よりも、自動変速機第2学習制御手段94による学習速度の方が速く、前記自動変速機第1学習制御手段92を自動変速機通常学習制御手段、自動変速機第2学習制御手段94を自動変速機高速学習制御手段と言い換えることもできる。図8に戻って、学習制御選択手段100は、前記自動変速機10の学習を行う学習制御手段として、前記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94のうち何れか一方を選択する。例えば、製品の出荷時や装置の交換時等、前記自動変速機10の学習制御が十分に行われていない場合、すなわち学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が記憶されていないか或いは十分な学習結果が記憶されていない場合には、速やかに前記自動変速機10の学習を行うべきであるため、比較的高速の学習制御を行い得る前記自動変速機第2学習制御手段94を選択し、通常の走行時等、前記自動変速機10の学習制御が十分に行われている場合、すなわち学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が十分に記憶されている場合には、比較的低速の学習制御を行う前記自動変速機第1学習制御手段92を選択する。
前記動力伝達装置学習制御手段90は、前記自動変速機第1学習制御手段92による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果の考慮を禁止する一方、前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮するものである。換言すれば、前記自動変速機第1学習制御手段92による学習制御では前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮せず、前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御においてのみ前記学習成立判定手段88による判定結果を踏まえた制御を行う。具体的には、前記学習成立判定手段88による判定が肯定される場合には、前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御を許可する一方、その学習成立判定手段88による判定が否定される場合には、前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御を禁止する。前記自動変速機第1学習制御手段92及び自動変速機第2学習制御手段94による学習制御は、前述のように、エンジントルクTEの推定値等を指標値として実行されるものであるが、このエンジントルクTEの推定が不安定な状態すなわちその学習が十分に行われていない状態で、そのエンジントルクTEに基づいて前記自動変速機10の学習制御が行われると、不適切な学習が行われて前記自動変速機10の変速に伴いショックが発生する可能性がある。とりわけ、前記学習補正値を決定するためのゲインが比較的大きい前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御では学習速度が比較的速いため、エンジントルクTEの制御の影響が学習に反映され易い。本実施例では、前記学習成立判定手段88による判定が否定される場合には、前記自動変速機第2学習制御手段94による学習制御を禁止することで、斯かる誤学習延いては変速ショックの発生を好適に抑制できる。また、前記学習補正値を決定するためのゲインが比較的小さい前記自動変速機第1学習制御手段92による学習制御では学習速度が比較的遅く、エンジントルクTEの制御の影響が学習に反映され難いため、斯かる自動変速機第1学習制御手段92による学習制御では前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮しないことで、前記自動変速機10の学習の機会が減少するのを防止できる。
ロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98は、前記トルクコンバータ30のロックアップクラッチ32の動作の学習制御を行う。例えば、そのロックアップクラッチ32を係合状態、解放状態、或いはスリップ状態とする係合動作の学習制御を行う。ここで、本実施例のロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98は、学習補正値を算出するためのゲインが異なる点以外は同様の制御を行うものであり、以下、それらロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98に共通の学習制御について説明する。
上記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98は、例えば、前記ロックアップクラッチ制御手段84によって前記ロックアップクラッチ32のスリップ制御が実行されるときの駆動デューティ比DSLU(%)の前記算出式(1)において、例えばその(1)式の右辺の機械毎の特性などに対応して逐次形成される学習補正値(学習制御値)であるKGDを学習制御する。例えば、前記ロックアップクラッチ32の初期ばらつきや経年変化等によって発生する、推定されるエンジントルクTEの大きさに基づいて予め設定されている値であるフィードフォワード値DFWDとロックアップクラッチ32を制御するのに実際に必要な係合圧との差ΔLを抑制するためにKGDを学習制御する。
ここで、前述のように、本実施例のロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98は、基本的には上述した同じ学習制御を行うものであるが、学習補正値KGDを算出するためのゲインがそれぞれ異なる。すなわち、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96において用いられるゲインよりも、ロックアップクラッチ第2学習制御手段98において用いられるゲインの方が大きい。このため、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習速度よりも、ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習速度の方が速く、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96をロックアップクラッチ通常学習制御手段、ロックアップクラッチ第2学習制御手段98をロックアップクラッチ高速学習制御手段と言い換えることもできる。前記学習制御選択手段100は、前記ロックアップクラッチ32の学習制御を行う学習制御手段として、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98のうち何れか一方を選択する。例えば、製品の出荷時や装置の交換時等、前記ロックアップクラッチ32の学習制御が十分に行われていない場合、すなわち学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が記憶されていないか或いは十分な学習結果が記憶されていない場合には、速やかに前記ロックアップクラッチ32の学習を行うべきであるため、比較的高速の学習制御を行い得る前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98を選択し、通常の走行時等、前記ロックアップクラッチ32の学習制御が十分に行われている場合、すなわち学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が十分に記憶されている場合には、比較的低速の学習制御を行う前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96を選択する。
前記動力伝達装置学習制御手段90は、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果の考慮を禁止する一方、前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮するものである。換言すれば、前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習制御では前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮せず、前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御においてのみ前記学習成立判定手段88による判定結果を踏まえた制御を行う。具体的には、前記学習成立判定手段88による判定が肯定される場合には、前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御を許可する一方、その学習成立判定手段88による判定が否定される場合には、前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御を禁止する。前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96及びロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御は、前述のように、エンジントルクTEの推定値等を指標値として実行されるものであるが、このエンジントルクTEの推定が不安定な状態すなわちその学習が十分に行われていない状態で、そのエンジントルクTEに基づいて前記ロックアップクラッチ32の学習制御が行われると、不適切な学習が行われてそのロックアップクラッチ32の動作に伴いショックが発生する可能性がある。とりわけ、前記学習補正値KGDを決定するためのゲインが比較的大きい前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御では学習速度が比較的速いため、エンジントルクTEの制御の影響が学習に反映され易い。本実施例では、前記学習成立判定手段88による判定が否定される場合には、前記ロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御を禁止することで、斯かる誤学習延いては前記ロックアップクラッチ32の動作に伴うショックの発生を好適に抑制できる。また、前記学習補正値KGDを決定するためのゲインが比較的小さい前記ロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習制御では学習速度が比較的遅く、エンジントルクTEの制御の影響が学習に反映され難いため、斯かるロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習制御では前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮しないことで、前記ロックアップクラッチ32の学習の機会が減少するのを防止できる。
図18は、前記電子制御装置44の制御作動の要部すなわち前記動力伝達装置8の学習制御作動を説明するフローチャートであり、所定の周期で繰り返し実行されるものである。
先ず、ステップ(以下、ステップを省略する)S1において、前述した自動変速機10の学習が好適に適用されるパワーオン変速制御又は前述したロックアップクラッチ32の学習が好適に適用される加速フレックス制御が実行されたか否かが判断される。このS1の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられるが、S1の判断が肯定される場合には、S2において、通常学習実行条件すなわち比較的小さいゲインを用いた学習制御の実行条件が成立したか否かが判断される。具体的には、学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が十分に記憶されている場合にはこの判断が肯定される。このS2の判断が肯定される場合には、前記自動変速機第1学習制御手段92又はロックアップクラッチ第1学習制御手段96の動作に対応するS3において、比較的小さいゲインを用いた前記自動変速機10の学習制御(パワーオン変速学習制御)又はロックアップクラッチ32の学習制御(加速フレックス学習制御)が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S2の判断が否定される場合には、S4において、高速学習実行条件すなわち比較的大きなゲインを用いた学習制御の実行条件が成立したか否かが判断される。具体的には、学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が十分に記憶されていない場合にはこの判断が肯定される。このS4の判断が否定される場合には、S8以下の処理が実行されるが、S4の判断が肯定される場合には、前記学習成立判定手段88の動作に対応するS5において、エンジントルクTEの学習制御が実行済であるか否か、すなわちエンジントルクTEの学習が成立しているか否かが判断される。具体的には、学習制御の結果を記憶するためのメモリにその学習結果が十分に記憶されている場合にはこの判断が肯定される。このS5の判断が肯定される場合には、S6において、比較的大きいゲインを用いた前記自動変速機10の学習制御(パワーオン変速学習制御)又はロックアップクラッチ32の学習制御(加速フレックス学習制御)が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S5の判断が否定される場合には、S7において、比較的大きいゲインを用いた学習制御が禁止され、斯かる学習制御はおこなわれずに本ルーチンが終了させられる。S8の処理では、他の学習制御の実行条件が成立したか否かが判断される。このS8の判断が肯定される場合には、当該他の学習制御が実行された後、本ルーチンが終了させられるが、S8の判断が否定される場合には、それをもって本ルーチンが終了させられる。以上の制御において、S2及びS4が前記学習制御選択手段100の動作に、S6及びS7が前記自動変速機第2学習制御手段94又はロックアップクラッチ第2学習制御手段98の動作に、S1乃至S9が前記動力伝達装置学習制御手段90の動作に、それぞれ対応する。
このように、本実施例によれば、エンジントルクTEの学習制御が成立したか否かを判定する学習成立判定手段88(S5)と、自動変速機第1学習制御手段92又はロックアップクラッチ第1学習制御手段96(S3)による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果の考慮を禁止する一方、自動変速機第2学習制御手段94又はロックアップクラッチ第2学習制御手段98(S6及びS7)による学習制御が行われる場合には、その学習制御において前記学習成立判定手段88による判定結果を考慮するものであり、その学習成立判定手段88による判定が肯定される場合には、前記自動変速機第2学習制御手段94又はロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御を許可する一方、その学習成立判定手段88による判定が否定される場合には、前記自動変速機第2学習制御手段94又はロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習制御を禁止する動力伝達装置学習制御手段90(S1乃至S9)とを、有するものであることから、エンジントルクTEの変動による影響が比較的小さい前記自動変速機第1学習制御手段92又はロックアップクラッチ第1学習制御手段96による学習に関してはエンジントルク学習の有無によらずに学習制御を行うことで学習機会を増加させられると共に、エンジントルクTEの変動による影響が比較的大きい前記自動変速機第2学習制御手段94又はロックアップクラッチ第2学習制御手段98による学習に関してはエンジントルク学習の有無によって学習制御の可否を判断することで、不適切な学習が好適に抑制される。すなわち、不適切な学習を抑制しつつ学習の機会を増加させる車両用動力伝達装置の制御装置を提供することができる。
また、前記動力伝達装置8は、複数の係合要素を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させる自動変速機10を備えたものであり、前記動力伝達装置学習制御手段90は、その自動変速機10の作動を学習制御するものであるため、前記動力伝達装置8に備えられた自動変速機10の学習制御に関して不適切な学習を抑制しつつ学習の機会を増加させることができる。
また、前記動力伝達装置8は、ロックアップクラッチ32を有する流体伝動装置であるトルクコンバータ30を備えたものであり、前記動力伝達装置学習制御手段90は、そのロックアップクラッチ32の作動を学習制御するものであるため、前記動力伝達装置8に備えられたトルクコンバータ30のロックアップクラッチ32の学習制御に関して不適切な学習を抑制しつつ学習の機会を増加させることができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、前記動力伝達装置8には、流体伝動装置としてロックアップクラッチ32が備えられているトルクコンバータ30が用いられていたが、トルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられてもよい。また、ロックアップクラッチ32は必ずしも設けられなくてもよい。この場合、前述の実施例の図18のS3、S6、S7等においてロックアップクラッチ学習制御手段は実行されない。また逆に、前記動力伝達装置8の作動の学習として、前記ロックアップクラッチ32の学習のみを制御の対象とするものであっても構わない。この場合、前述の実施例の図18のS3、S6、S7等において変速学習制御手段は実行されない。
また、前述の実施例において、前記学習成立判定手段88は、例えば図16に示す領域T11乃至Tmnの各領域それぞれにおいて、前記エンジントルク学習制御手段86によって学習された回数が所定の回数たとえば3乃至5回を越えたか否かを判定したが、回数は適宜設定すればよく、また例えば、エンジントルク学習制御手段86によって学習された時間が所定時間を超えたか否か或いはエンジントルク学習制御手段86によって学習された学習値の安定度たとえば繰り返し決定される学習値の変化量(差分)が略零になったか否かを判定してもよい。
また、前述の実施例のエンジン28は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関が用いられ、少なくともエンジンを走行用駆動力源として備えておればよく、そのエンジン28にモータジェネレータ等の回転機が連結された構成や、エンジン28の吸気配管及び排気管に設けられている排気タービン式過給機が備えられた車両等にも適用され得る。また、上記回転機は、前記エンジン28に直結される以外にベルト等を介してそのエンジン28に間接的に連結されてもよい。
また、前述の実施例では、前記自動変速機10の変速制御作動として2→3アップ変速作動の場合を説明したが、1→2アップ変速、3→4アップ変速、4→5アップ変速等に際しても本発明は好適に適用されるものである。
また、前述の実施例では、前記自動変速機10は3組の遊星歯車装置12、16、18の組み合わせから成る前進6速の変速機であったが、クラッチC或いはブレーキBの油圧式摩擦係合装置の解放および係合の少なくとも一方によって変速が実行される型式の変速機であればよく、前記自動変速機10を構成する遊星歯車装置の組数は3組とは異なる数であってもよいし、また前進7速以上の変速段を備えた変速機、前進5速以下の変速段を備えた変速機等であっても差し支えない。また、前記自動変速機10は、クラッチ或いはブレーキの油圧式摩擦係合装置や一方向クラッチで構成された変速部たとえば前後進切換或いは前進2段等の副変速機に変速比が無段階に連続的に変化させられる無段変速機が組み合わされたものであってもよい。
また、前述の実施例では、前記自動変速機10の係合要素であるクラッチC或いはブレーキBは、油圧式摩擦係合装置であったが、それに替えて電磁式係合装置たとえば電磁クラッチや磁粉式クラッチ等が用いられてもよい。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。