本発明の電子部品の製造方法について以下に詳細に説明する。
図1は本発明の電子部品の製造方法の実施の形態の一例を示す工程毎の断面図であり、1は支持体、2は第1のセラミックグリーンシート層、3は第2のセラミックグリーンシート層、4はセラミックグリーンシート、5は導体層、6はセラミックグリーンシート積層体である。
まず図1(a)に示すように、支持体1上に第1のセラミックグリーンシート層2を形成し、ついで図1(b)に示すように、第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3を形成してセラミックグリーンシート4を形成する。
本発明における第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3は、セラミック粉末、有機バインダー、溶剤等を混合したものが用いられる。
セラミック粉末としては、例えばセラミック配線基板であれば、Al2O3,AlN,ガラスセラミック粉末(ガラス粉末とフィラー粉末との混合物)等が挙げられ、積層コンデンサであればBaTiO3系,PbTiO3系等の複合ペロブスカイト系セラミック粉末が挙げられ、電子部品に要求される特性に合わせて適宜選択される。
例えば、高周波特性が要求されるような場合では、ガラスセラミック粉末を用いる事が好ましい。それは、ガラスセラミック粉末を用いた方が、800乃至1000℃程度の比較的低温で焼結させることができるため、配線基板に高周波信号を伝送する場合の、信号の損失や劣化が小さなCuやAgなどの低抵抗金属導体を配線としたものとの同時焼成が可能となるからである。
ガラスセラミック粉末のガラス成分としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(ただし、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は同じまたは異なっていて、Ca,Sr,Mg,BaまたはZnを示す),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(ただし、M1およびM2は上記と同じである),SiO2−B2O3−M3 2O系(ただし、M3はLi、NaまたはKを示す,SiO2−B2O3−Al2O3−M3 2O系(ただし、M3は上記と同じである),Pb系ガラス,Bi系ガラス等が挙げられる。
また、ガラスセラミック粉末のフィラー粉末としては、例えばAl2O3,SiO2,ZrO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物,Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等のセラミック粉末が挙げられる。
セラミックグリーンシート4に配合される有機バインダーとしては、従来からセラミックグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えばアクリル系(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)、ポリビニルブチラ−ル系、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、ポリオキサゾリン系、ポリアルキルイミン系、セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。
特に焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
セラミックグリーンシート4に配合される溶剤としては、上記のセラミック粉末と有機バインダーとを良好に分散させて混合できるようなものであればよく、トルエン,ケトン類,アルコール類の有機溶媒や水等が挙げられる。
第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3には、上記の組成物に加えて、さらに可塑剤を添加したり、ガラス転移点の異なる2種類以上の有機バインダーを混合させてセラミックグリーンシート4のガラス転移点を調整し、降伏点強度や降伏点伸度などの引っ張り特性を調整してもよい。例えば、可塑剤として、フタル酸ジブチル等のフタル酸系を用いたり、ガラス転移点が異なる有機バインダーを混合させて、その混合比を変えることでセラミックグリーンシート4のガラス転移点を変えることで、所望の降伏点強度や降伏点伸度を得ることができる。
第1のセラミックグリーンシート層2および第2のセラミックグリーンシート層3の引っ張り特性を調整する理由は以下の通りである。すなわち、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、セラミックグリーンシート4の降伏点強度が強ければ、加熱時に流動した第1のセラミックグリーンシート層2を第2のセラミックグリーンシート層3でクラックや欠陥なく保持できる。一方、降伏点伸度が小さければ積層時に第1のセラミックグリーンシート層2が流動した際に、セラミックグリーンシート4は変形することなく高精度の寸法を保つことができる。
具体的には、第2のセラミックグリーンシート層3の引っ張り特性は、降伏点強度が0.5MPa以上で降伏点伸度が50%以下とすることが好ましい。
なお、第1のセラミックグリーンシート層2が溶融成分を含有する場合、その溶融成分としては、セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となるものであり、例えば炭化水素,脂肪酸,エステル,脂肪族アルコール,多価アルコール等が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、二重結合を含まない脂肪族アルコールおよび多価アルコールがより好ましい。
第1のセラミックグリーンシート層2は、上記セラミック粉末,有機バインダー,に溶剤(有機溶剤,水等)、必要に応じて所定量の可塑剤,分散剤を適度に添加してスラリーを得、これをPETフィルム等の支持体1上にドクターブレード法,リップコーター法,ダイコーター法等により成形することによって得られる。
ここで、第1のセラミックグリーンシート層2は、35℃乃至100℃で加熱しながら0.5MPaで荷重をかけた試験において、平面方向への変形率が0.3乃至0.8%であることが重要である。
詳細には、第1のセラミックグリーンシート層2の表裏面にPETフィルムをはさんだ状態で加圧積層機のテーブル等、プレス加工が可能な装置に載置して、このテーブル等を35℃から100℃までの間の積層温度まで加熱した後に0.5MPaの荷重をかけた試験(以下荷重試験とも言う)において、荷重試験前の第1のセラミックグリーンシート層2の長さをL、荷重試験後の第1のセラミックグリーンシート層2の長さから荷重試験前の第1のセラミックグリーンシート層2の長さLを差し引いた長さを△Lとしたときに、△L/L×100を第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向の変形率(以下、変形率とも言う)が0.3乃至0.8%であることを意味する。
第1のセラミックグリーンシート層2の変形率が0.8%以下であると、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、積層する際に第1のセラミックグリーンシート層2が流動し、0.5MPaという比較的低い加圧で密着するため、第1のセラミックグリーンシート層2がセラミックグリーンシート4の上に作製された導体層5や導体層5間を埋めるように適度に流動し、導体層5の周囲や導体層5の間のデラミネーションを抑制することができ、かつ、キャビティ内側端部の上下のセラミックグリーンシート間に空隙が発生することがなく確実に密着する事ができる。
さらに、第1のセラミックグリーンシート層2の流動量が適度な大きさである事から、セラミックグリーンシート積層体6がキャビティを有していても、キャビティ内部の電極まで第1のセラミックグリーンシート層2がはみ出してくることを防止することができる。そのため、第1のセラミックグリーンシート層2がキャビティ底部の電極まではみ出してしまい、そのまま焼結してしまうことが抑制されるので、電子部品のキャビティ底部に電子素子を精度よく確実に搭載する事が可能になる。
さらに、積層する際の圧力が0.5MPaという比較的低圧であるため、キャビティ周囲部とキャビティ底部との加圧によるグリーンシートの伸びの違いによるキャビティ底部の反りの発生を抑えることが可能となり、キャビティ底部に電子素子を精度よく確実に搭載することが可能な電子部品を得ることができる。
荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率が0.8%を超えて大きい場合、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート層2はセラミックグリーンシート4上に作製された導体層5の形状を埋めるように流動するが、その流動量が大きすぎるため、例えば、キャビティを有する場合にはキャビティ内側端部の導体層5まではみ出してしまう。そのため、セラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られる電子部品は、キャビティの導体層5上に焼結したセラミックスが形成され、キャビティへ半導体素子を実装する際に導体層5への電気的な接続ができなくなったり、半導体素子が傾いた状態で実装されてしまうこととなり、CCDやC−MOS等の光半導体素子を搭載した場合は受光精度が悪くなってしまう。
一方、変形率が0.3%未満となると、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程において、第1のセラミックグリーンシート層2がその下に位置するセラミックグリーンシート4の導体層5のパターンを埋め込むほど流動することができないため、セラミックグリーンシート4同士が密着せず、キャビティを有するセラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られる電子部品は、導体層5周囲や導体層5間のデラミネーションに起因するリーク不良が発生してしまう。
荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率を0.3乃至0.8%とするためには、配合する有機バインダーを熱可塑性のものとすればよい。その方法は、上記セラミックグリーンシート4に配合される有機バインダーの内、第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダーとして、そのガラス転移点(Tg)が加熱温度(35℃から100℃)より低いものを用いる方法が挙げられる。このときガラス転移点が低くても、有機バインダー量が少なければ変形率が0.3%より小さいものとなるので、第2のセラミックグリーンシート層3のような通常のセラミックグリーンシートの有機バインダー配合量(セラミック粉末100質量%に対して10乃至20質量%程度)より多く入れるのがよい。
具体的には、ガラス転移点(Tg)が−20℃乃至0℃のものをセラミック粉末100質量%に対して10乃至50質量%添加するなどすればよい。このようなガラス転移点が−20℃乃至0℃のバインダーとしては、重合反応によりアクリル系バインダーを作製する際にガラス転移点が異なるモノマーを組み合わせ、その混合比率を変えることで容易にガラス転移点が変えられるアクリル系バインダーが好ましい。
第1のセラミックグリーンシート層2の厚さは、導体層5とセラミックグリーンシート4との段差を埋めるために、導体層5の厚みより厚くなるように形成することが望ましいが、この厚みによっても荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率を0.3乃至0.8%とすることができる。第1のセラミックグリーンシート層2が薄くなると、積層する際に流動する量が少なくなるため、荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率が小さくなる傾向がある。一方、第1のセラミックグリーンシート層2が厚くなると、積層する際に流動する量が多くなるため、変形率が大きくなる傾向がある。
荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率を0.3乃至0.8%とするための第1のセラミックグリーンシート層2の厚みは、第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダーによっても異なり、具体的には、第1のセラミックグリーンシート層2にガラス転移点(Tg)が−20乃至0℃の有機バインダーをセラミック粉末100質量%に対して10乃至50質量%添加した場合、第1のセラミックグリーンシート層2の厚みは20乃至80μmとなる。
また、第1のセラミックグリーンシート層2に含まれる原料粉末の粒度分布を変えることでも荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率を0.3乃至0.8%とすることができる。粒度分布の幅が大きくなると、原料粉末が均一に分散せず、かつ有機バインダーとの結合も不均一になるため、積層する際に第1のセラミックグリーンシート層2が容易に流動しなくなり、第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率が小さくなる傾向がある。一方、粒度分布の幅が小さくなると、原料の分散が悪くなりセラミックグリーンシートとしての成形性が悪くなる。
荷重試験における第1のセラミックグリーンシート層2の平面方向への変形率を0.3乃至0.8%とするための粒度分布は、第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダーによっても異なり、具体的には、原料粉末の個数積算粒径分布における10%粒径をD10、50%粒径をD50、90%粒径をD90としたときに、第1のセラミックグリーンシート層2にガラス転移点(Tg)が−20℃乃至0℃の有機バインダーをセラミック粉末100質量%に対して10乃至50質量%添加する場合、0.5≦(D90−D10)/D50≦5となる。
ここで、第1のセラミックグリーンシート層2は、セラミックグリーンシート積層体6を作製する際の加熱時に溶融状態となる溶融成分を含有し、この溶融成分の融点が35乃至100℃であることが好ましい。
これは、第1のセラミックグリーンシート層2の変形率を0.3乃至0.8%にするために、上記の有機バインダーのガラス転移点や配合量による方法を用いた場合には、ガラス転移点や配合量によっては、室温の状態でも流動の度合いが小さいまたは流動はしないが表面が粘着性を有したものとなり、例えば打抜き加工を行う際に第1のセラミックグリーンシート層2が金型に貼り付いてしまうという不具合が発生することがあり、さらに、これらの方法では得られる第1のセラミックグリーンシート層2は室温における硬度が小さく、伸びやすいものとなりやすく、貫通導体用の孔を形成する等のセラミックグリーンシートの加工時に、このセラミックグリーンシートが変形してしまい、その結果として得られる電子部品に対する所望の寸法精度が得られなくなるような場合がある。
これに対して、溶融成分が配合される場合では、溶融成分は加熱時のみに溶融するので、室温では第1のセラミックグリーンシート層2は流動せず、また、表面の粘着性が低いので、例えば打抜きの際に金型にくっつくという不具合も発生せず、積層工程までのハンドリングが容易となり、さらに、室温での加工に対する寸法安定性とセラミックグリーンシート積層体6作製工程の加熱時の流動性が両立し、寸法精度に優れ、デラミネーションのない電子部品を得ることができる。
また、セラミックグリーンシート積層体6を作製する工程における加熱は、高くても100℃程度であることから、セラミックグリーンシート4中のバインダーや可塑剤等の有機成分が分解することがなく、分解ガスによりデラミネーションが発生してしまうことを抑制することができる。
また、溶融成分が配合されていない場合に比べて、溶融成分が配合されている方が、加熱した際に液体状態に近い流動状態となるため、流動性が高くなる傾向がある。そのため、第1のセラミックグリーンシート層2は、その下に位置するセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3およびその上に形成された導体パターンの形状により追従して変形しやすく、かつより少ない有機バインダーの配合量で流動状態を得る事ができるため、焼成の際の脱バインダー性が向上し、分解ガスによるデラミネーションの発生をより低減することができる。
ここで、第1のセラミックグリーンシート層2が溶融成分を含む場合には、その溶融成分の配合量は、第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダー100質量%に対して50乃至100質量%とすることが好ましい。溶融成分の配合量が50質量%より少ないと、第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダーと結びつき第1のセラミックグリーンシート層2に配合される有機バインダー中に分散する溶融成分の量が足りなくなるので、積層する際に第1のセラミックグリーンシート層2が全体にわたり流動せずに、流動しない、または流動の小さい部分ができてしまうこととなり、焼成して得られる電子部品はデラミネーションが発生しやすくなる傾向がある。一方、溶融成分が100質量%より多いと、第1の有機バインダーと結びつく溶融成分が過多となり、第1の有機バインダー中に分散しきれない溶融成分が凝集してしまう部分が発生し、この部分は第1の有機のバインダーが存在せず粘着性を有さない部分となるので、これに起因して、焼成して得られる電子部品にデラミネーションが発生しやすくなる傾向がある。
第2のセラミックグリーンシート層3は、第1のセラミックグリーンシート層2に用いるスラリーと同様に上記セラミック粉末、有機バインダー、溶剤等を用いて調合することで形成される。その際に、第2のセラミックグリーンシート層3に配合される有機バインダーは、第1のセラミックグリーンシート層2に含まれる有機バインダーよりガラス転移点が高いものを用いたり、その量を少なくするなどして、荷重試験における35℃から100℃の温度範囲で第1のセラミックグリーンシート層2より流動しないようにする。
また、第2のセラミックグリーンシート層3はセラミックグリーンシート積層体6を作製する工程おいて、加熱により流動し、変形することはないため、セラミックグリーンシート4およびその上に形成された導体層5のパターン形状が変形することがなく、得られるセラミックグリーンシート積層体6およびそれを焼成して得られる電子部品は高い寸法精度を有するものとなる。
第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート層3を形成する方法は、(1)第1のセラミックグリーンシート層2と同様に成形した第2のセラミックグリーンシート層3を第1のセラミックグリーンシート層2の上に積層して形成する方法、(2)支持体1上に形成された第1のセラミックグリーンシート層2上に第2のセラミックグリーンシート3のスラリーを塗布して形成する方法、(3)支持体1上に塗布された第1のセラミックグリーンシート層2のスラリー上に第2のセラミックグリーンシート層3のスラリーを塗布して形成する方法が挙げられる。
第1のセラミックグリーンシート層2上への第2のセラミックグリーンシート層3の積層の際に、第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との間に空隙を発生させる可能性があり、また第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3との密着性を向上させるためには上記(2)または(3)の方法が好ましい。さらには、上記(3)の方法では第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3の形成がほぼ同時に行なわれるので、工程が簡略化されるのでより好ましい。この(3)の方法においては、ダイコーター法やリップコーター法等の押し出し式の方法を用いるとよく、これらは非接触式の塗布方法であり、また溶剤の少ない、比較的粘度の高いスラリーを用いることができるので、第1のセラミックグリーンシート層2のスラリーと第2のセラミックグリーンシート層3のスラリーが混ざり合うことなくセラミックグリーンシート4を形成することができるのでよい。
次に図1(c)に示すように、セラミックグリーンシート4上に導体層5を形成する。
セラミックグリーンシート4上に導体層5を形成する方法としては、例えば導体材料粉末をペースト化した導体ペーストをスクリーン印刷法やグラビア印刷法等により印刷したり、めっき法や蒸着法等により所定パターン形状の金属膜を形成するようなセラミックグリーンシート4上に直接形成する方法、あるいは印刷により所定パターン形状に形成した導体厚膜や所定パターン形状に加工した金属箔、めっき法や蒸着法等により形成した所定パターン形状の金属膜をセラミックグリーンシート4上に転写する方法がある。導体材料としては、例えばW(タングステン),Mo(モリブデン),Mn(マンガン),Au(金),Ag(銅),Cu(銅),Pd(パラジウム),Pt(白金)等の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、コーティング等のいずれの形態であってもよい。
導体層5はセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3上に形成されるのが好ましい。これは、第2のセラミックグリーンシート層3は加熱時に流動することはないので、その上に導体層5を形成することにより導体層5を変形させないようにするためである。
導体層5をスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の印刷により形成する場合の導体ペーストは、上記の導体材料の粉末に有機バインダー、有機溶剤、必要に応じて分散剤等を加えて混合したものをボールミル、三本ロールミル、プラネタリーミキサー等の混練手段により均質に分散させることにより作製される。導体パターンとセラミックグリーンシート4との収縮挙動を合わせるために、導体ペーストにガラス粉末を添加してもよく、この場合に用いられるガラス粉末はセラミックグリーンシート4に含まれるものと同様のものが挙げられる。
導体ペーストの有機バインダーとしては、例えばアクリル系(アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体,具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等),ポリビニルブチラール系,ポリビニルアルコール系,アクリル−スチレン系,ポリプロピレンカーボネート系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。焼成工程での分解、揮発性を考慮すると、アクリル系バインダーがより好ましい。
導体ペーストの有機溶剤としては、導体材料粉末および有機バインダーを分散させ、適切な粘度の導体ペーストが得られるように、例えばエーテル類,エステル類,ケトン類,アルコール類等の有機溶剤が挙げられるまた、分散をより良好なものとするために分散剤を添加してもよい。
第1のセラミックグリーンシート層2が溶融成分を含む場合には、溶融して流動するようになった溶融成分中を、第1のセラミックグリーンシート層2中のセラミック粉末と結びつかず遊離した有機バインダー(遊離バインダー)が移動することにより、第1のセラミックグリーンシート層2の流動性が発現するものと考えられる。この第1のセラミックグリーンシート層2に接する第2のセラミックグリーンシート層3上に導体ペーストを印刷すると、導体ペーストに含まれる有機溶剤が第2のセラミックグリーンシート層3に浸透し、第1のセラミックグリーンシート層2にまで浸入してしまう場合がある。
浸入した有機溶剤と遊離バインダーとの間には互いに引き合う力が作用し、遊離バインダーは有機溶剤を伴って溶融した溶融成分中を移動することとなり、有機溶剤の分子量が大きいと遊離バインダー間に存在する有機バインダーにより遊離バインダー同士が接近し絡み合うことが妨げられるので、第1のセラミックグリーンシート層2の流動性が増加し、過剰な流動を発生させてしまう場合がある。そのため、第1のセラミックグリーンシート層2が35℃乃至100℃で加熱しながら0.5MPaで荷重をかけた試験において平面方向への変形率が0.3乃至0.8%であるようなものであっても、キャビティ部分に高流動性部分がはみ出してしまう場合がある。特に、セラミックグリーンシート4の面積に対して導体ペーストの印刷面積が大きいような場合に顕著である。
このようなことから、第1のセラミックグリーンシート層2が溶融成分を含み、導体層5の形成が導体ペーストを印刷することにより行なわれる場合は、導体ペーストに含まれる有機溶剤の分子量が154乃至278であることが好ましい。導体ペーストの有機溶剤の分子量が278以下であれば、導体ペーストの有機溶剤が第1のセラミックグリーンシート層2に浸入し、遊離バインダーが有機溶剤を伴って溶融した溶融成分中を移動したとしても、前記有機溶剤の分子量が小さいことから、遊離バインダーと他の遊離バインダーとが適度に絡み合うことを阻害しない。従って、第1のセラミックグリーンシート層2が過剰に流動してしまうことを防止し、例えば第1のセラミックグリーンシート層2が変形しすぎてキャビティ内側端部へはみ出すことをより一層確実に防止することができる。
導体ペーストの有機溶剤の分子量が278を超えると、遊離バインダー間に分子量の大きい有機溶剤が介在することにより遊離バインダー同士が接近し絡み合うことを阻害するようになり、第1のセラミックグリーンシート層2が過剰に流動しやすくなる傾向がある。一方、分子量が154未満であると、第1のセラミックグリーンシート層2の過剰な流動は抑えられるが、有機溶剤の蒸気圧が高くなり揮発しやすくなるので導体ペーストが乾燥しやすくなり、スクリーン印刷中に製版上でペーストが乾燥してしまい印刷性が劣化しやすくなる傾向がある。
分子量が154乃至278の有機溶剤としては、例えば、テルピネオール(分子量154)、ジメチルフタレート(分子量194)、ブチルカルビトールアセテート(分子量204)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(分子量216)、ジブチルフタレート(分子量278)が挙げられる。
有機溶剤は2種類以上を混合して用いても良いが、この場合はいずれもその分子量が154乃至278であるものを用いるのが好ましい。
なお、導体層5を形成する前に必要に応じて上下の層間の導体層5同士を接続するためのビアホール導体やスルーホール導体等の貫通導体を形成してもよい。これら貫通導体は、パンチング加工やレーザ加工等によりセラミックグリーンシート4に形成した貫通孔に、導体材料粉末をペースト化したもの(導体ペースト)を印刷やプレス充填により埋め込む等の手段によって形成される。
ここで、次に示す積層体を作製する工程より前に、キャビティ形状の貫通穴を金型による打ち抜き等によりセラミックグリーンシート4の一部に形成しておく。貫通穴の形成は、キャビティの内壁面への導体層5の形成の有無や形成方法に応じて、導体層5を形成する前でもよいし、形成した後でもよい。
次に図1(d)に示すように、位置合わせして積み重ねたセラミックグリーンシート4を積層する。このとき、セラミックグリーンシート4の積層温度は、第1のセラミックグリーンシート層2が流動するように35℃乃至100℃程度とする。
なお、このとき、第1のセラミックグリーンシート層2は0.5MPaという比較的低い圧力で積層できるため、積層したセラミックグリーンシート4の位置ずれはほとんどしなくなる。さらに、第1のセラミックグリーンシート層2はその下に位置するセラミックグリーンシート4の第2のセラミックグリーンシート層3およびその上に形成された導体層5のパターン形状を埋めるように流動する、これにより導体層5の周囲や導体層5間に空隙が発生することなくセラミックグリーンシート4同士が密着することとなり、セラミックグリーンシート積層体6を焼成して得られる電子部品はデラミネーションの発生のないものとなる。
図1(d)の最下部に位置するセラミックグリーンシートとしては、第2のセラミックグリーンシート層3のみを用いればよい。積層コンデンサのように表面に導体層5が露出しないような電子部品の場合は、図1(d)の最上部に位置するセラミックグリーンシート4には導体層5が形成されていないセラミックグリーンシート4を用いればよく、積層セラミック配線基板のような両面に導体層5が露出するような電子部品の場合は、最下部の第2のセラミックグリーンシート層3の両面に導体層5を形成したものを用いればよい。
以上の図1を用いて説明した本発明の製造方法によれば、従来の製造方法でのセラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.5%(寸法誤差)程度であったが、積層時に流動する本発明の第1のセラミックグリーンシート層2を用いた場合、セラミックグリーンシート積層体6および電子部品の寸法精度は±0.3%程度となり、大幅に向上することが実験により判明した。
さらに、第1のセラミックグリーンシート層2に溶融成分が配合される場合においては、導体層5の間隔が微細な場合に導体層5の間に発生する空隙の発生率を抑制することが可能であることが実験により判明した。
そして最後に、セラミックグリーンシート積層体6を焼成することにより本発明の電子部品が作製される。焼成する工程は有機成分の除去とセラミック粉末の焼結とから成る。有機成分の除去は100から800℃の温度範囲でセラミックグリーンシート積層体6を加熱することによって行い、有機成分を分解、揮発させ、焼結温度はセラミック組成により異なり、約800から1600℃の範囲内で行なう。焼成雰囲気はセラミック粉末や導体材料により異なり、大気中、還元雰囲気中、非酸化性雰囲気中等で行なわれ、有機成分の除去を効果的に行なうために水蒸気等を含ませてもよい。
焼成後の電子部品はその表面に露出した導体層5の表面には、導体層5の腐食防止のために、または半田や金属ワイヤ等の外部基板や電子部品との接続手段の良好な接続のために、NiやAuのめっきを施すとよい。
また、高寸法精度が特に要求される場合には、ガラスセラミック粉末を用いてセラミックグリーンシート4を作製し、セラミックグリーンシート積層体6の上下面にさらに拘束グリーンシートを積層して焼成し、焼成後に拘束シートを除去するようにすれば、より高寸法精度のセラミック基板を得ることが可能となる。拘束グリーンシートは、Al2O3等の難焼結性無機材料を主成分とするグリーンシートであり、焼成時に収縮しないものである。この拘束グリーンシートが積層された積層体は、収縮しない拘束グリーンシートにより積層平面方向(xy平面方向)の収縮が抑制され、積層方向(z方向)にのみ収縮するので、焼成収縮に伴う寸法ばらつきが抑制される。このときの拘束グリーンシートも本発明のセラミックグリーンシート6と同様の第1のセラミックグリーンシート層2と第2のセラミックグリーンシート層3とを有する構成にすると、拘束グリーンシートを積層して圧着する際にも大きな加圧力を必要とせず、得られる電子部品はより高寸法精度のものとなるのでよい。
また、拘束グリーンシートには難焼結性無機成分に加えて、焼成温度以下の軟化点を有するガラス成分、例えばセラミックグリーンシート4中のガラスと同じガラスを含有させるとよい。焼成中にこのガラスが軟化してセラミックグリーンシート4と結合することによりセラミックグリーンシート4と拘束グリーンシートとの結合が強固なものとなり、より確実な拘束力が得られるからである。このときのガラス量は難焼結性無機成分とガラス成分を合わせた無機成分に対して0.5から15質量%とすると拘束力が向上し、かつ拘束グリーンシートの焼成収縮が0.5%以下に抑えられる。
焼成後、拘束シートを除去する。除去方法としては、例えば研磨、ウォータージェット、ケミカルブラスト、サンドブラスト、ウェットブラスト(砥粒と水とを空気圧により噴射させる方法)等が挙げられる。
以上のような方法で作製された電子部品は、その内部にデラミネーションを有さず寸法精度の高いものであり、かつ、電子素子を確実に実装することが可能で、小型化が容易なものとなる。
以下、本発明を具体的例によって詳細に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
まず、第1のセラミックグリーンシート層用に、平均粒径1μmのアルミナを90質量%、焼結助剤としてシリカ、マグネシア、カルシアと、着色顔料として遷移金属の酸化物とを合わせて10質量%の割合で調合したセラミック粉末100質量%に対して、有機バインダーとしてガラス転移点が−10℃のメタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体樹脂を表1のように調合し、溶融成分として融点が48℃のヘキサデカノールを表1に示す割合で調合して、トルエン及び酢酸エチルを溶媒としてボールミルにより40時間混合し、第1のスラリーを調整した。
また、第2のセラミックグリーンシート層用に、第1のスラリーと同様のセラミック粉末100質量%に対して有機バインダーとしてメタクリル酸メチル−アクリル酸エチル共重合体樹脂を固形分で10質量%、可塑剤としてフタル酸ジブチルを1質量%添加し、トルエン及び酢酸エチルを溶媒としてボールミルにより40時間混合し、第2のスラリーを調整した。
次に、ダイコーターシート成形機を用いて、成形速度2m/分にて250mmの幅で第1のスラリーを塗工し、その上に第2のスラリーを塗工して乾燥することにより、第1のセラミックグリーンシート層の厚みを表1のように10から90μmの間で成形し、第2のセラミックグリーンシート層を厚みが100μmとなるように成形し、貼り合せることでセラミックグリーンシートを作製した。
第1のセラミックグリーンシート層の荷重試験は、第1のセラミックグリーンシート層を100mm×100mmの寸法で切断し、表裏面にPETフィルムをはさんだ状態で加圧積層機のテーブルに載置して、このテーブルを80℃に加熱した後に0.5MPaの荷重をかけ、第1のセラミックグリーンシート層の寸法伸びをそれぞれ測定した。測定した伸び量は、荷重試験前の第1のセラミックグリーンシート層の長さをL、荷重試験後の第1のセラミックグリーンシート層の長さから荷重試験前の第1のセラミックグリーンシート層の長さLを差し引いた長さを△Lとしたときに、△L/L×100として第1のセラミックグリーンシート層の平面方向の変形率として4辺それぞれ算出した。
また、作製されたセラミックグリーンシートの一部にキャビティ形状の貫通穴を金型による打ち抜きにより形成しておき、これらのセラミックグリーンシートの第2のセラミックグリーンシート層上に、タングステン粉末を主成分とする導体ペーストを用いスクリーン印刷法により所定パターンに印刷し、導体層を形成した。導体ペーストは、タングステン粉末100質量%に対して、有機バインダーとしてセルロース樹脂1.0質量%、有機溶剤としてテルピネオールを10質量%加えて三本ロールミルで混練することにより作製した。
次に、導体層を形成したセラミックグリーンシートをそれぞれ4層重ねあわせて厚み方向に0.5MPa(5kg/cm 2 )の圧力および80℃の温度で加熱圧着してセラミッ
クグリーンシート積層体を作製した。
次に、セラミックグリーンシート積層体のキャビティの内側に見られる第1のセラミックグリーンシート層の流動による、キャビティ内側の導体層までのはみ出し状態を評価した。
得られたセラミックグリーンシート積層体は、水蒸気を含んだ窒素雰囲気中に約1000℃の温度で1時間保持することにより有機成分を除去した後、還元雰囲気中にて約1600℃の温度で1時間焼成することで評価用のセラミック焼結体を作製した。
このセラミック焼結体の断面(クロスセクション)観察を行い、セラミック層間や導体層周囲のデラミネーションの発生について評価した。
セラミックグリーンシートの荷重試験における寸法伸び量から算出した変形率、セラミックグリーンシート積層体の作製後のキャビティ内側に見られるはみ出し量およびセラミック焼結体の断面のデラミネーションの評価結果を表1に示す。
表1の変形率は、第1のセラミックグリーンシート層の4辺のそれぞれの変形率のうち、最大のものを示す。
表1のデラミネーションの欄において、「○」はセラミック焼結体のセラミック層間や導体層周囲にデラミネーションが見られず優れていたことを示し、「×」はセラミック焼結体のセラミック層間や導体層周囲にデラミネーションが見られたことを示す。
また、表1のキャビティ内側へのはみ出しの欄において、「○」はキャビティ内側へのはみ出しがキャビティ内側の導体層まで第1のセラミックグリーンシート層の一部がはみ出すことなかった事を示し、このセラミックグリーンシート積層体を焼成して得られたセラミック焼結体のキャビティへ半導体素子を実装した際に、傾くことなく電気接続性も問題なかった。「×」はキャビティ内側の導体層まで第1のセラミックグリーンシート層の一部がはみ出していた事を示し、このセラミックグリーンシート積層体を焼成して得られたセラミック焼結体のキャビティへ半導体素子を実装しても、傾きを生じ、電気接続性が得られなかった。
表1より荷重試験における変形率が0.3%より小さい試料(試料No.1,2,7,12,17)については、セラミック焼結体のセラミック層間や導体層周囲にデラミネーションが発生した。(表中のデラミネーションの欄に×で示す。)
また、表1より、荷重試験における変形率が0.8%より大きい試料(試料No.6,11,16,20)については、積層後のキャビティ内側の導体層まで第1のセラミックグリーンシート層の一部がはみ出してきていた。(表1中のキャビティへのはみ出しの欄に×で示す。)これらの試料では、焼成して得られたセラミック焼結体のキャビティの内側へ第1のセラミックグリーンシート層の一部が導体層へかかるようにはみ出して焼結しており、半導体素子を電気接続が得られるように実装することが出来なかった。
これに対して、荷重試験における変形率が0.3%以上0.8%以下である試料(試料No.3,4,5,8,10,13,14,15,18,19)については、セラミック層間や導体層周囲にデラミネーションがなく、積層後のキャビティ内側への第1のセラミックグリーンシート層の一部のはみ出しがキャビティ内側の導体層にかかることがなかった。(表1中のデラミネーションの欄およびキャビティ内側へのはみ出しの欄に○で示す。)これらの試料では焼結して得られたセラミック焼結体のキャビティへ半導体素子を傾くことなく、電気接続が得られるように実装する事ができた。