JP4889166B2 - 低温焼結性固体電解質材料、電解質電極接合体及びこれを用いた固体酸化物形燃料電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低温焼結性固体電解質材料に関し、更に詳しくは、固体酸化物形燃料電池、酸素センサなどの固体電解質として好適に用いられる低温焼結性固体電解質材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、固体電解質としては、安定化ジルコニアが知られている。この安定化ジルコニアは、単一成分からなるジルコニア(ZrO2)が1150℃付近で単斜晶から正方晶へ結晶相が変化することに伴い体積変化を生じることから、この体積変化を防ぐ手段としてカルシウム(Ca)、イットリウム(Y)などの金属酸化物を安定化剤としてジルコニア中に固溶させ、結晶相の安定化を図ったものである。
【0003】
この安定化ジルコニアにおいては、上記2価または3価の金属酸化物が固溶されることにより、ジルコニア中の4価のZr4+の位置が、低原子価を示すCa2+、Y3+などで置換され、その結果、結晶中の電気的中性条件を保つために酸素空孔が生成する。そのため、この酸素空孔を介して酸素イオン(O2−)が安定化ジルコニア内を移動することができるようになる。
【0004】
それゆえ、安定化ジルコニアは、このような酸素イオン導電性を利用して固体酸化物形燃料電池や酸素センサなどの固体電解質として用いられており、中でも固体酸化物形燃料電池(以下「SOFC」という。)は、エネルギー変換効率が高く、有害物質をほとんど出さないことから、クリーンかつ高効率な発電システムを構築することができるということで近年特に注目されているものである。
【0005】
このSOFCの構造を分類すると、平板形、円筒形及び一体形の3種類のものが知られている。例えば、平板形SOFCの構造について説明すると、自立膜式と支持膜式に大別される。自立膜式のSOFCは、平板状の固体電解質の両面に、燃料極及び空気極を接合して電解質電極接合体とし、更にその両側をセパレータで挟んでなる単セルを多数段積層した構造を有している。
【0006】
これに対し、支持膜式のSOFCは、厚さの極めて薄い電解質薄膜を厚さの厚い燃料極で支持するとともに、電解質薄膜の他方の面に厚さの薄い空気極を接合して電解質電極接合体とし、更にその両側をセパレータで挟んでなる単セルを多数段積層した構造を有している。
【0007】
一般に、SOFCの固体電解質には、ジルコニア(ZrO2)にイットリア(Y2O3)を固溶したイットリア安定化ジルコニア(以下「YSZ」という。)、ジルコニア(ZrO2)にスカンジア(Sc2O3)を固溶したスカンジア安定化ジルコニア(以下「ScSZ」という。)などの安定化ジルコニアが用いられ、また、燃料極材料には、Ni−YSZ、Co−YSZなどのサーメットが用いられ、空気極材料には、LaSrMnO3、LaCaMnO3、LaSrCoO3、LaCaCoO3などの複合酸化物が用いられている。
【0008】
そしてこのような構成を備えた平板形SOFCの燃料極及び空気極に、それぞれ水素、都市ガスなどの燃料及び空気を供給すると、空気極側の酸素分圧と燃料側の酸素分圧との間に差があることから、酸素は、空気極においてイオンとなり、固体電解質を通って燃料極に運ばれる。また、燃料極に達した酸素イオンは、燃料と反応して電子を放出する。したがって燃料極及び空気極に負荷を接続すれば、電池反応の自由エネルギーの変化を、直接、電気エネルギーとして取り出すことができる。
【0009】
ところで、上述した自立膜式の平板形SOFCの電解質電極接合体は、一般に次のように製造されている。先ず、ジルコニア粉末と安定化剤としてイットリアやスカンジアなどの金属酸化物粉末とを混合し、この混合粉末をプレス成形などにより平板状に成形する。この成形手段としては他にも、ジルコニア粉末と金属酸化物粉末とをスラリー状にし、ドクターブレード法などにより平板状に成形しても良い。その後、得られた成形体を約1500〜1700℃の温度範囲で焼成することにより緻密な焼結体である固体電解質が得られる。
【0010】
次いで、スラリーコーティング法などによりこの固体電解質上に燃料極材料をコーティングし、約1200〜1400℃の温度範囲で焼成することにより固体電解質の片面に薄膜状の燃料極を形成する。その後、再び、スラリーコーティング法などにより空気極材料を燃料極とは反対側の面にコーティングし、約1000〜1200℃の温度範囲で焼成する。これにより平板状の固体電解質の両面に、燃料極及び空気極が接合された電解質電極接合体が得られる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来知られるこのような電解質電極接合体の製造方法では、固体電解質材料、燃料極材料及び空気極材料の焼結温度がそれぞれ異なるため、3段階に分けて焼結する必要があった。そのため、SOFCの製造工程が複雑になり、製造コストも必然的に高くなるといった問題が生じていた。
【0012】
ところで、SOFCの製造コストを削減するためには、固体電解質材料、燃料極材料及び空気極材料を同時に焼成する、いわゆる共焼結法が有効であるとされている。なぜなら、生産時に必要なエネルギーが少なくて済み、大量生産にも適しているからである。
【0013】
しかしながら、この共焼結法を用いて上記電解質電極接合体を製造しようとする場合、固体電解質材料は、電極材料と同じ低温度領域で緻密に焼結することが可能であり、しかも、得られる焼結体は十分な酸素イオン導電性、機械的強度を発現可能である必要がある。なぜなら、緻密な固体電解質を得るために高い製造温度(1400℃以上)条件で共焼結を行った場合には、空気極材料と固体電解質材料との間で反応が生じ、空気極と固体電解質との界面に絶縁性の生成物が生成し、これによりSOFCの発電性能が大きく低下してしまうからである。
【0014】
そのため、従来一般に用いられているY2O3−ZrO2系、Sc2O3−ZrO2系の固体電解質材料などに焼結助剤としてアルミナ(Al2O3)などを添加して焼結温度の低下を図ったり、固体電解質材料を細粒化して焼結性を高めたり、焼結性に影響を及ぼす不純物を極力少なくするなどして高純度化を図ったりするといったことが行われている。
【0015】
しかしながら、例えば、Sc2O3−ZrO2系の固体電解質材料にAl2O3を添加した場合であっても、最適な焼結温度は1400〜1500℃であり、電極材料の焼結温度である1200℃近辺といった低温度領域においては、十分に緻密な固体電解質を得ることができず、固体電解質の導電率や機械的強度の低下を招くといった問題が生じていた。
【0016】
また、固体電解質材料を細粒化した場合には、一次粒径が細かすぎると固体電解質材料の成形時の充填率が上がらないなどといった問題があり、固体電解質材料の高純度化を図った場合には、極めてコストが高くなってしまうといった問題があった。
【0017】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、導電率や機械的強度の低下を招くことなく、970℃〜1400℃の低温度領域での焼結性に優れた固体電解質材料を提供することにある。また、この低温焼結性固体電解質材料をSOFCの固体電解質に用いることによりSOFCの発電性能を低下させることなく、SOFC製造コストの低廉化を図ることにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するため本発明者らは、種々の材料特性について鋭意検討を重ねた結果、従来のY2O3−ZrO2系の固体電解質材料よりも酸素イオン導電性に優れているSc2O3−ZrO2系の固体電解質材料の改良を図ったものである。
【0019】
すなわち、本発明に係る低温焼結性固体電解質材料は、請求項1に記載のように、固体電解質の一方の面に燃料極が接合され、他方の面に空気極が接合される電解質電極接合体における低温焼結性固体電解質材料であって、スカンジア、ジルコニア、および酸化ビスマスの混合物からなり、xmol%Sc2O3−ymol%Bi2O3−(100−x−y)mol%ZrO2(但し、5≦x≦15、0.5≦y≦3、x+y≧8)の組成式よりなり、1400℃以下の比較的低温度領域での焼結が可能なることを要旨とするものである。
【0020】
上記低温焼結性固体電解質材料は、ZrO2中にSc2O3が5〜15mol%の範囲で固溶されたSc2O3−ZrO2系の固体電解質材料中にBi2O3が0.5〜3mol%の範囲で固溶されているので、970℃〜1400℃という低温度領域であっても、導電率や機械的強度を損なうことなく十分緻密に焼結し、低温での焼結性に優れたものとなる。
【0021】
また、上記低温度領域にて焼結して得られた固体電解質は、その結晶相が主に立方晶(C相)に安定化され、菱面体晶(R相)をほとんど含まないので、立方晶(C相)から菱面体晶(R相)への結晶相の相転移に伴う体積変化などによって固体電解質中に歪みなどを生じることがない。また、従来一般に用いられているYSZと比較しても、導電率に優れ、機械的強度も遜色ないものとなる。
【0022】
この際、Bi2O3の添加量が、0.5mol%より少ない場合には、970℃〜1400℃の低温度領域において緻密に焼結せず、菱面体晶(R相)の生成を効果的に抑制することができなくなる傾向があるので好ましくない。また、3mol%より多い場合には、コストが高くなるので、好ましくなく。より好ましくは、上記組成式中0.75≦y≦2の範囲にあることが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、請求項3に記載のように、固体電解質の一方の面に燃料極を接合し、他方の面に空気極を接合した電解質電極接合体を備えた固体酸化物形燃料電池において、前記固体電解質は、xmol%Sc2O3−ymol%Bi2O3−(100−x−y)mol%ZrO2(但し、5≦x≦15、0.5≦y≦3、x+y≧8)の組成式よりなる材料より構成されていることを要旨とするものである。
【0024】
上記SOFCによれば、固体電解質が上述した特徴を有する低温焼結性固体電解質材料より構成されているので、燃料極材料及び空気極材料の焼結温度領域で固体電解質材料を焼結することが可能となる。すなわち、電解質電極接合体の製造時に、固体電解質材料、燃料極材料及び空気極材料を同時に焼結する、いわゆる共焼結法による電解質電極接合体の製造が可能となる。
【0025】
そのため、SOFCの製造工程が簡素になり、また、生産時に必要なエネルギーが少なくて済むことから、SOFC製造コストを低減させることが可能となる。また、従来のYSZ系固体電解質材料を用いたSOFCに比べ、SOFCの発電性能も向上する。
【0026】
【実施例】
以下に、本発明の好適な一実施例に係る低温焼結性固体電解質材料(以下「ScBiSZ材料」という。)及びこれを用いたSOFCについて表及び図面を参照にして詳細に説明する。
【0027】
初めに図1は、本実施例に係るScBiSZ材料の製造プロセスを示したフローチャートである。この製造プロセスは、いわゆる液相製造プロセスである共沈法によるものである。
【0028】
先ず、所定量のスカンジア(Sc2O3)と酸化ビスマス(Bi2O3)とを硝酸に溶解し、スカンジウムとビスマスの混合溶液とする。そしてこの混合溶液に、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)水溶液を加水分解して得られたジルコニアゾル(単斜晶ジルコニア)を混合し、ジルコニアゾルとスカンジウムとビスマスの混合溶液とする。
【0029】
そしてこの混合溶液に沈澱剤として尿素を加え、80〜100℃の温度で加熱、撹拌することにより、Zrの水和物とScの水和物とBiの水和物とを含有する均一な混合水和物を沈殿物として生成させる。
【0030】
そしてこの沈澱物を遠心分離などにより分離回収して、洗浄・乾燥し、500〜800℃の温度で約1時間仮焼した後、ビーズミルなどを用いて粉砕することにより、ジルコニア(ZrO2)中にスカンジア(Sc2O3)と酸化ビスマス(Bi2O3)とが所定量固溶された粉末状のScBiSZ材料が得られる。
【0031】
上記においては、ScBiSZ材料の製造プロセスとして共沈法の例を説明したが、これ以外にも従来から一般に行われているように、他の液相製造プロセスの例であるゾルゲル法を適用してScBiSZ材料を調製しても良く、また、ジルコニアの粉末とスカンジアの粉末と酸化ビスマスの粉末とを所定比率で混合し、ボールミルなどにより機械的に混合してScBiSZ材料を調製しても良く、特に限定されるものではない。
【0032】
上記製造プロセスにおいては、得られるScBiSZ材料の組成式が、xmol%Sc2O3−ymol%Bi2O3−(100−x−y)mol%ZrO2(5≦x≦15、0.5≦y≦3、x+y≧8)となるように調製されている。
【0033】
次にこのようにして得られたScBiSZ材料を用いてSOFCの電解質電極接合体を形成するに際しては、先ず、ScBiSZ材料を静水圧プレス(CIP)により加圧成形するか、あるいは、ドクターブレード法やカレンダーロール法などを用いることにより板状のScBiSZ成形体を成形する。静水圧プレスによる場合、ScBiSZ材料を板厚100〜300μm×およそ20cm角の成形体に成形するのに、1ton/cm2の押圧力を加えるのが好ましい。
【0034】
そしてこのScBiSZ成形体の一方の面に燃料極を形成し、他方の面に空気極を形成するに当たっては、これらの電極材料のセラミックス粉末をスラリー状にして、いわゆるスラリーコーティング法によりこのScBiSZ成形体のそれぞれの面に塗布する。この場合、燃料極材料については、例えば、Ni40重量%−ScBiSZ60重量%のNi−ScBiSZサーメットを50μm程度の厚さでScBiSZ成形体の一方の面に塗布する。また、空気極材料については、例えば、LaSrMnO3を50μm程度の厚さでScBiSZ成形体の他方の面に塗布する。
【0035】
そしてこの燃料極材料と空気極材料とが塗布されたScBiSZ成形体を所定温度、好ましくは1200℃前後の温度で共焼結することにより、ScBiSZ固体電解質板の一方の面に薄膜状の燃料極が形成され、他方の面に薄膜状の空気極が形成された電解質電極接合体が形成されることとなる。
【0036】
尚、燃料極材料には、他にもNi−ScSZ、Ni−YSZなどのサーメットを用いても良く、特に限定されるものではないが、熱膨張率差を小さくすることができ、焼結温度をより低くすることができる観点から、Niと、本発明に係るScBiSZ材料からなるNi−ScBiSZサーメットが特に好適である。また、空気極材料の配合比率としては、ランタン90〜80mol%に対し、ストロンチウム10〜20mol%程度とするのが適当である。
【0037】
次にこのようにして作製されたScBiSZ材料及びSOFCについて種々の実験を行ったのでこれらについて説明する。
【0038】
初めに次の表1は、本発明の一実施例に係るScBiSZ材料の導電率特性と曲げ強度のデータを各種固体電解質材料と比較して示したものである。表1中、「10Sc1BiSZ」は、10mol%Sc2O3−1mol%Bi2O3−89mol%ZrO2の組成のものであり、「11ScSZ」は、11mol%Sc2O3−89mol%ZrO2の組成のものであり、「11ScSZ1A」は、(11mol%Sc2O3−89mol%ZrO2)0.99(Al2O3)0.01の組成のものであり、「8YSZ」は、8mol%Y2O3−92mol%ZrO2の組成のものである。
【0039】
この場合に上記供試材料はいずれも、静水圧プレス(CIP)により1ton/cm2の押圧力を加えて成形したものを用いた。また、導電率については1000℃と800℃の2つの条件のものを示している。また、曲げ強度については、JIS R 1601のセラミックスの曲げ試験方法によるものである。
【0040】
【表1】
【0041】
この表1から分かるように、従来より広く用いられている8YSZ材料に比べて10Sc1BiSZ材料、11ScSZ材料、11ScSZ1A材料は、いずれも導電率特性と曲げ強度ともに優れた結果となっているが、10Sc1BiSZ材料、11ScSZ材料、11ScSZ1A材料間において比較した場合、11ScSZ1A材料は、11ScSZ材料に比べて曲げ強度特性が向上しているものの導電率特性は低下していることが分かる。
【0042】
これに対して本発明に係る10Sc1BiSZ材料は、導電率特性が1000℃と800℃のいずれにおいても11ScSZ材料、11ScSZ1A材料よりも優れており、曲げ強度については、11ScSZ材料、11ScSZ1A材料より若干劣るものの、8YSZ材料より高い値を示している。
【0043】
したがって、本発明に係る10Sc1BiSZ材料においては、導電率特性の低下はなく、むしろ、導電率特性が向上する傾向にあり、また、曲げ強度は、従来より一般に用いられている8YSZ材料と遜色ないという結果が得られ、SOFCの固体電解質材料としての特性を十分に具備していることが確認された。
【0044】
次に、本発明に係るScBiSZ材料についてX線回折試験を行った結果について図2から図6を用いて説明する。尚、供試材料については、上述したScBiSZ材料を所定量秤量し、静水圧プレス(CIP)により1t/cm2の押圧力で成形を行い、次いで、得られた成形体を1000、1100℃、1200℃、1300℃、1400℃の焼結温度で2時間焼成したものであり、Bi2O3固溶量としては、0mol%、0.1mol%、0.5mol%、1mol%のものをそれぞれ供試材料として用いた。尚、X線回折は、PHILIPS製PW1792型を用い、CuKα線で測定を行い、内部標準としてはSi粉末を用いた。
【0045】
図2は、10Sc1BiSZ材料の焼結温度の違いによるXRDパターンを示したものである。図2によれば、10Sc1BiSZ材料は、その結晶相が1000℃〜1400℃の焼結温度にわたって立方晶(C相)で満たされており、菱面体晶(R相)は見られないことが分かる。また、焼結温度が1000℃〜1100℃の場合には単斜晶(M相)を若干含むものの、1200℃〜1400℃においては単斜晶(M相)は完全に消失し、結晶相はすべて立方晶(C相)単相で満たされていることが分かる。
【0046】
一方、図3は、従来材料である11ScSZ材料の焼結温度の違いによるXRDパターンを示したものであるが、この図3によれば、11ScSZ材料は、1100℃、1400℃の焼成温度において、その結晶相が菱面体晶(R相)で満たされていることが分かる。
【0047】
次に、図4〜6は、それぞれ1000℃、1100℃、1200℃の焼結温度で焼成したScBiSZ材料のBi2O3固溶量の違いによるXRDパターンを示したものである。
【0048】
図4及び図5によれば、Bi2O3が全く固溶されていない10ScSZ材料と、Bi2O3が0.1mol%固溶された10Sc0.1BiSZ材料については、1100℃の焼結温度で結晶相がすでに菱面体晶(R相)に相転移してしまっており、菱面体晶(R相)の生成を抑制することができていないことが分かる。
【0049】
一方、Bi2O3が0.5mol%固溶された10Sc0.5BiSZ材料については、1100℃の焼結温度では回折線のベースライン近くにわずかに菱面体晶(R相)のピークが見られ、立方晶(C相)単相ではなく、立方晶(C相)と菱面体晶(R相)とが混在する混相になっていることが分かる。また、1200℃の焼結温度では回折線のベースライン近くにわずかに立方晶(C相)のピークが見られ、菱面体晶(R相)単相ではなく、立方晶(C相)と菱面体晶(R相)とが混在する混相になっていることが分かる。
【0050】
したがって、Bi2O3固溶量を0.5mol%とした10Sc0.5BiSZ材料の場合、焼結温度によって立方晶(C相)と菱面体晶(R相)の存在比率に差異があるものの、10ScSZ材料、10Sc0.1BiSZ材料と比較すると、菱面体晶(R相)の生成はかなり抑制されており、若干ではあるが相転移の抑制効果があると言える。
【0051】
よってこれらの図から、Sc2O3−ZrO2系にBi2O3を添加することにより、1000℃〜1400℃という低温度領域において、立方晶(C相)から菱面体晶(R相)への結晶相の転移を抑制することができ、その添加量としては、結晶相の安定化を効果的なものとする観点から、少なくとも0.5mol%以上必要であるが、1mol%前後の添加量で十分に相転移を抑制することができることが分かる。
【0052】
次に、本発明に係るScBiSZ材料について嵩密度と見掛け気孔率の測定をを行ったのでその結果について説明する。図7は、10Sc1BiSZ材料における焼結温度と嵩密度との関係を10ScSZ材料との比較において示したものであり、図8は、10Sc1BiSZ材料における焼結温度と見掛け気孔率との関係を10ScSZとの比較において示したものである。
【0053】
図7及び図8によれば、10Sc1BiSZ材料は970℃〜1000℃付近の低い焼結温度であっても、十分緻密に焼結できていることが分かる。しかしながら、Bi2O3が全く固溶されていない10ScSZ材料においては、1000〜1300℃の焼結温度では十分に焼結できておらず、10Sc1BiSZ材料に比べて嵩密度が小さく、見掛け気孔率が大きいことが分かる。これより、本発明に係るScBiSZ材料は、970℃〜1400℃の低温度領域であっても十分緻密に焼結可能であり、低温での焼結性に非常に優れていると言える。
【0054】
次に、本発明に係るScBiSZ材料における導電率特性の温度依存性について試験を行った結果について説明する。試験方法としては、1050℃と1200℃で焼結した10Sc1BiSZ材料を用い、交流インピーダンス法により導電率の測定を行った。測定温度としては、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の5点である。図9は、10Sc1BiSZ材料における温度と導電率との関係を示したものである。
【0055】
図9によれば、1050℃で焼結した10Sc1BiSZ材料、1200℃で焼結した10Sc1BiSZ材料とも温度が増加するにつれて導電率が連続的に増加していき、その増加率は、1200℃で焼結した10Sc1BiSZ材料の方が、1050℃で焼成した10Sc1BiSZ材料よりも大きいことが分かる。これは、10Sc1BiSZ材料は、その結晶相が導電率の高い立方晶(C相)で安定化されており、導電率の低い菱面体晶(R相)が生じていないからであり、この結果からも従来より低い温度で焼結しても導電率に何ら悪影響を及ぼすことがないことが分かる。
【0056】
次に、本発明に係るScBiSZ材料を用いて共焼結法により作製した電解質電極接合体を備えたSOFC単セルについて発電特性試験を行った結果について説明する。ここで、供試したScBiSZ材料は、10Sc1BiSZ材料であり、電解質電極接合体は、1200℃で共焼結を行ったものである。尚、発電試験条件は、電解質厚み:300μm、有効電極面積:0.2cm2、発電試験温度:1000℃、燃料ガス:3%加湿水素、酸化剤:酸素とした。
【0057】
図10は、SOFC単セルの発電特性を示した図である。この結果によれば、1200℃という従来に比べて低い温度領域において共焼結した電解質電極接合体を用いても、何ら発電性能に影響を及ぼすことなく、発電可能であることが分かる。すなわち、本発明に係るScBiSZ材料を用いることにより、SOFCの性能を低下させることなく、SOFC製造コストを低減させることができると言える。
【0058】
本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能であることは勿論である。例えば、上記実施例では、SOFCの構造として固体電解質が平板状の自立膜式の平板形SOFCのものについて説明したが、勿論、支持膜式の平板形SOFC、或いは円筒形、一体形のSOFCにも適用できるものであり、特に限定されるものではない。
【0059】
また、本発明に係る低温焼結性固体電解質材料の用途としてSOFCへの適用例を示したが、SOFC以外にも、酸素センサなどの酸素イオン導電性を利用した各種デバイスに適用すれば、デバイスの高性能化を図ることができるものである。
【0060】
【発明の効果】
本発明に係る低温焼結性固体電解質材料によれば、ZrO2中にSc2O3が5〜15mol%の範囲で固溶されたSc2O3−ZrO2系の固体電解質材料中にBi2O3が0.5〜3mol%の範囲で固溶されているので、970℃〜1400℃という低温度領域であっても、導電率や機械的強度を損なうことなく十分緻密に焼結し、低温での焼結性に優れたものとなる。
【0061】
また、上記低温度領域にて焼結して得られた固体電解質は、その結晶相が主に立方晶(C相)に安定化され、菱面体晶(R相)をほとんど含まないので、立方晶(C相)から菱面体晶(R相)への結晶相の相転移に伴う体積変化などによって固体電解質中に歪みなどを生じることがない。また、従来一般に用いられているYSZと比較しても、導電率に優れ、機械的強度も遜色ないものとなる。
【0062】
また、本発明に係る固体酸化物形燃料電池によれば、固体電解質が上述した特徴を有する低温焼結性固体電解質材料より構成されているので、燃料極材料及び空気極材料の焼結温度領域で固体電解質材料を焼結することが可能となる。すなわち、電解質電極接合体の製造時に、固体電解質材料、燃料極材料及び空気極材料を同時に焼結する、いわゆる共焼結法による電解質電極接合体の製造が可能となる。
【0063】
そのため、SOFCの製造工程が簡素になり、また、生産時に必要なエネルギーが少なくて済むことから、SOFC製造コストを低減させることが可能となる。また、従来のYSZ系固体電解質材料を用いたSOFCに比べ、SOFCの発電性能も向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例に係る10Sc1BiSZ材料の製造プロセスを示したフローチャートである。
【図2】 本発明の一実施例に係る10Sc1BiSZ材料の焼結温度の違いによるXRDパターンを示した図である。
【図3】 従来材料である11ScSZ材料の焼結温度の違いによるXRDパターンを示した図である。
【図4】 1000℃の焼結温度で焼成したScBiSZ材料のBi2O3固溶量の違いによるXRDパターンを示した図である。
【図5】 1100℃の焼結温度で焼成したScBiSZ材料のBi2O3固溶量の違いによるXRDパターンを示した図である。
【図6】 1200℃の焼結温度で焼成したScBiSZ材料のBi2O3固溶量の違いによるXRDパターンを示した図である。
【図7】 本発明の一実施例に係る10Sc1BiSZ材料における焼結温度と嵩密度との関係を従来材料である10ScSZとの比較において示した図である。
【図8】 本発明の一実施例に係る10Sc1BiSZ材料における焼結温度と見掛け気孔率との関係を従来材料である10ScSZとの比較において示した図である。
【図9】 本発明の一実施例に係る10Sc1BiSZ材料における導電率の温度依存性を示した図である
【図10】 本発明の一実施例に係るSOFC単セルの発電特性を示した図である。
Claims (3)
- 固体電解質の一方の面に燃料極が接合され、他方の面に空気極が接合される電解質電極接合体における低温焼結性固体電解質材料であって、スカンジア、ジルコニア、および酸化ビスマスの混合物からなり、xmol%Sc2O3−ymol%Bi2O3−(100−x−y)mol%ZrO2(但し、5≦x≦15、0.5≦y≦3、x+y≧8)の組成式よりなることを特徴とする1400℃以下の比較的低温度領域での焼結が可能な低温焼結性固体電解質材料。
- スカンジア、ジルコニア、および酸化ビスマスの混合物が、xmol%Sc 2 O 3 −ymol%Bi 2 O 3 −(100−x−y)mol%ZrO 2 (但し、5≦x≦15、0.5≦y≦3、x+y≧8)の組成式よりなる成形体の一方の面に燃料極が接合され、他方の面に空気極が接合され、これらの成形体と燃料極と空気極とが1400℃以下の比較的低温度領域において一体的に焼成されていることを特徴とする電解質電極接合体。
- 前記請求項2に記載の電解質電極接合体を備えた固体酸化物形燃料電池。
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