以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明の実施形態による制御装置1、およびこれを適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3の概略構成を示している。このエンジン3は、#1〜#4(1番〜4番)気筒Cを有する4気筒のディーゼルエンジンであり、車両(図示せず)に搭載されている。
このエンジン3では、燃焼サイクルの位相が、#1気筒C→#3気筒C→#4気筒C→#2気筒C→#1気筒Cの順序で180°ずつずれており、気筒Cでの燃焼がこの順序で行われる。
エンジン3のシリンダヘッド3aには、吸気通路4および排気通路5が接続されるとともに、気筒Cごとに、筒内燃料噴射弁10および点火プラグ11が、燃焼室3bに臨むように取り付けられている。この筒内燃料噴射弁10は、吸気ポート4aの下側に設けられており、燃焼室3b内に燃料を直接、噴射するように構成された直噴タイプのものである。筒内燃料噴射弁10の開弁時間および開弁時期は、後述するECU2によって制御され、それにより、筒内燃料噴射弁10による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。点火プラグ11の点火時期もまた、ECU2によって制御される。
また、エンジン3には、筒内燃料噴射弁10に加え、ポート燃料噴射弁9が気筒Cごとに設けられている。各ポート燃料噴射弁9は、吸気マニホルドの各分岐通路4bに取り付けられ、吸気ポート4aに臨んでいる。このポート燃料噴射弁9の開弁時間および開弁時期もまた、ECU2によって制御され、それにより、ポート燃料噴射弁9による燃料噴射量および燃料噴射時期が制御される。
また、このエンジン3では、燃焼モードとして、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から燃料を吸気行程中に噴射することにより生成された均質混合気を、点火プラグ11による火花点火によって燃焼させる火花点火燃焼モード(以下「SI燃焼モード」という)と、後述するように生成された成層混合気を、自己着火によって燃焼させる圧縮着火燃焼モード(以下「CI燃焼モード」という)とを有し、その切替は、ECU2によって制御される。
図1に示すように、排気通路5は、#1〜#4気筒Cにそれぞれ接続された#1〜#4第1排気通路5a〜5dと、#1および#4第1排気通路5a,5dの合流部と#2および#3第1排気通路5b,5cの合流部にそれぞれ接続された第2排気通路6a,6bと、これらの第2排気通路6a,6bの合流部に接続された第3排気通路7で構成されている。
これらの第2排気通路6a,6bおよび第3排気通路7にはそれぞれ、フィルタ14が設けられている。フィルタ14は、排ガス中の煤などのPMを捕集することによって、大気中に排出されるPMの量を低減する。
図3に示すように、気筒Cには、一対の吸気弁12,12および一対の排気弁13,13(ともに1つのみ図示)が設けられている。吸気弁12は、吸気側動弁機構40によって開閉され、排気弁13は、排気側動弁機構60によって開閉される。これらの吸気側動弁機構40および排気側動弁機構60の構成は、本出願人が特願2009−168228号ですでに提案したものと同様であるので、以下、その概略を簡単に説明する。
吸気側動弁機構40は、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングを変更する可変機構で構成されている。なお、吸気弁12のリフトおよび後述する排気弁13のリフトはそれぞれ、吸気弁12および排気弁13の最大揚程を表すものとする。
吸気側動弁機構40は、回転自在の吸気カムシャフト41、吸気カムシャフト41に一体に設けられた一対の吸気カム42,42(1つのみ図示)、吸気コントロールシャフト43、この吸気コントロールシャフト43を駆動するアクチュエータ44(図2参照)、支持軸47に揺動自在に支持された一対の揺動カム45,45(1つのみ図示)、コントロールアーム機構46、および吸気カム位相可変機構50などを備えている。この吸気カム位相可変機構50は、吸気カムシャフト41のクランクシャフト(図示せず)に対する相対的な位相を無段階に変更するものである。
吸気カムシャフト41は、吸気スプロケットおよびタイミングチェーン(いずれも図示せず)を介して、クランクシャフトに連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。
コントロールアーム機構46は、コントロールアーム46a、ローラ46bおよび吸気ロッカアーム46cなどを備えている。コントロールアーム46aは、基端部において、吸気コントロールシャフト43の偏心軸43aに回動自在に支持されている。コントロールアーム46aの他端部には、ローラ46bが設けられている。コントロールアーム46aは、ローラ46bを介して揺動カム45に当接している。
吸気ロッカアーム46cは、吸気コントロールシャフト43に回動自在に支持された本体部46dと、本体部46dから延びる延出部46eなどを備えており、延出部46eにおいて、ローラ46bと吸気弁12に当接している。
以上の構成により、揺動カム45が吸気カム42で押圧されていない状態では、吸気弁12は図3に示す閉弁位置に保持される。また、吸気カムシャフト41の回転に伴い、揺動カム45が吸気カム42で押圧されると、揺動カム45は、支持軸47を中心として、図3の反時計方向に回動する。その際、ローラ46bが揺動カム45で押圧されることによって、ローラ46bを介して吸気ロッカアーム46cが吸気コントロールシャフト43を中心として、図3の反時計方向に回動し、吸気弁12を下方に押し下げることによって、吸気弁12が開弁する。
また、前述したアクチュエータ44を介して吸気コントロールシャフト43を回動させると、コントロールアーム46aが、偏心軸43を中心として図3の左右方向に移動する。この移動に伴い、コントロールアーム46aの揺動カム45への当接位置が変更され、それにより、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングが無段階に変更される。
前述した排気側動弁機構60は、回転自在の排気カムシャフト61、排気カムシャフト61に一体に設けられた一対の排気カム62,62(1つのみ図示)、排気コントロールシャフト63、この排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されるとともに、排気弁13,13の上端にそれぞれ当接する一対のロッカアーム64,64(1つのみ図示)、ロッカアーム64に設けられたローラ65、および排気カム位相可変機構70などを備えている。この排気カム位相可変機構70は、排気カムシャフト61のクランクシャフトに対する相対的な位相を無段階に変更するものである。
排気カムシャフト61は、排気スプロケットおよびタイミングチェーンを介して、クランクシャフト(いずれも図示せず)に連結されており、クランクシャフトが2回転するごとに1回転する。排気カムシャフト61が回転すると、ロッカアーム64,64が排気カム62で押圧され、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動することにより、排気弁13,13が開弁する。
また、エンジン3は、排ガスを気筒C内に再度、吸入させるためのEGR吸入機構80を備えている。
このEGR吸入機構80は、吸気行程から圧縮行程までの間の所定期間において、排気弁13を開弁することによって、排気通路5の第1排気通路5a〜5dに一旦、排出された排ガスを気筒C内に再吸入するものである。図3および図4に示すように、EGR吸入機構80は、2つの吸気カム42,42の間に設けられ、吸気カムシャフト41と一体のEGRカム81、支持軸47に回動自在に支持されたロッカカム82、コントロールアーム83、レバー84、および切替機構85などを備えている。EGRカム81は、ロッカカム82のローラ82aに当接している。
コントロールアーム83は、基端部において、排気コントロールシャフト63の偏心軸63aに回動自在に支持されている。コントロールアーム83の他端部には、ローラ83aが設けられている。コントロールアーム83は、ローラ83aを介してロッカカム82に当接している。
レバー84は、2つのロッカアーム64,64の間に設けられている。レバー84は、三角形状を有しており、その頂角部において、排気コントロールシャフト63に回動自在に支持されており、一方の底角部において、コントロールアーム83の押圧部83bに当接している。
以上の構成により、吸気カムシャフト41の回転に伴い、ローラ82aがEGRカム81で押圧されると、ロッカカム82は、支持軸47を中心として、図3の時計方向に回動する。その際、コントロールアーム83のローラ83aがロッカカム82で押圧されることによって、コントロールアーム83が排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動し、それに伴って、押圧部83bがレバー84を押圧する。これにより、レバー84は、排気コントロールシャフト63を中心として、図3の時計方向に回動する。
図4に示すように、切替機構85は、ロッカアーム64,64およびレバー84に形成されたシリンダ86a〜86c、シリンダ86a〜86cに収容された連結ピストン87,88などで構成されている。シリンダ86aには、連結ピストン87,88を反対側のシリンダ86c側に付勢する戻しばね89が設けられている。さらに、シリンダ86cには、排気コントロールシャフト63に形成された油路(図示せず)を介して、油圧が供給される。このシリンダ86cへの油圧の供給は、ECU2により、ポンプ(図示せず)から油路への油圧の供給・停止を制御することによって、行われる。
以上の構成により、シリンダ86cに油圧が供給されていない状態では、戻しばね89の付勢力によって、連結ピストン87がシリンダ86bに収容され、連結ピストン88がシリンダ86cに収容される(図4(a))。これにより、ロッカアーム64とレバー84が互いに遮断され、フリーな状態になることによって、レバー84の動きは、ロッカアーム64には伝達されず、レバー84のみがEGRカム81によって駆動される。
一方、シリンダ86cに油圧が供給されると、この油圧により、連結ピストン87,88が戻しばね89の付勢力に抗してシリンダ86a側に移動することによって、連結ピストン87がシリンダ86aとシリンダ86bにまたがった状態で係合し、連結ピストン88がシリンダ86bとシリンダ86cにまたがった状態で係合する(図4(b))。これにより、レバー84とロッカアーム64が連結され、EGRカム81の動きがレバー84を介してロッカアーム64に伝達されることによって、排気弁13が開弁される。
このEGR吸入機構80による排気弁13のリフトおよびバルブタイミングは、吸気弁12のリフトおよびバルブタイミングに連動している。より詳細には、吸気弁12のリフトが大きいほど、排気弁13のリフトはより小さくなり、また、吸気弁12の閉弁タイミングが遅いほど、排気弁13の開弁タイミングはより遅くなる(図13参照)。さらに、後述する要求トルクPMCMDが大きいほど、吸気弁12のリフトはより大きくなり、また吸気弁12の閉弁タイミングはより遅くなる。
また、排気弁13のリフトLFTは、リフトセンサ26によって検出され、それを表す検出信号がECU2に出力される。
また、シリンダヘッド3aには、複数のガイド壁3dが取り付けられている。図3に示すように、ガイド壁3dは、#1〜#4排気ポート8a〜8dのそれぞれの開口にその周方向の一部にわたって延びるとともに、燃焼室3b内に突出している。各ガイド壁3dは、吸気ポート4a側に配置されており、その長さは#1〜#4排気ポート8a〜8dの開口の半径よりも小さい。また、ガイド壁3dの突出高さは、排気弁13のリフトとほぼ同じであり、例えば2〜3mmに設定されている。
図5に示すように、ピストン3cの頂面には、凸部3eが形成されている。この凸部3eは、その中心が吸気弁12側になるように配置されている。また、凸部3eの吸気弁12側の縁部3gはほぼ直線状に形成されているのに対して、排気弁13側の縁部3hは、吸気弁12側にくぼんだ状態で湾曲している。
以上の構成により、CI燃焼モードにおいて、EGR吸入機構80により排気弁13が開弁されると、排気通路5に排出された排ガスは、排気弁13を介して気筒C内に再吸入される。このとき、排ガスは、ガイド壁3dによって、排気弁13側の内壁に沿うように下方に案内されながら気筒C内に吸入されるとともに、ピストン3cの凸部3eによって、吸入された排ガスの吸気弁12側への流出が阻止される。その結果、排ガスは、図1に実線Aで示すように気筒C内に流入する。これにより、気筒C内の排気弁13側には、より高温の排ガスによる高温ガス層T1が形成され、吸気弁12側には、より低温の新気による低温ガス層T2が形成されることによって、新気と排ガスが成層化される。
また、EGR吸入機構80によって排気弁13が開弁する気筒Cに対して燃焼サイクルの位相が360°ずれた、排気行程にある気筒Cから、第1排気通路5a〜5dを介して圧力が導入される。例えば、#1気筒Cと#4気筒Cの位相が互いに360°ずれているため、#1気筒Cが吸気行程から圧縮行程の間にあるときに、#4気筒Cは、膨張行程から排気行程の間にある。このため、#1気筒Cに排ガスを再吸入する場合、#4気筒Cから排出される排ガスの圧力によって、#1気筒Cへの排ガスの再吸入を適切に行わせることができる。
また、エンジン3には、クランク角センサ21が設けられている。このクランク角センサ21は、クランクシャフトの回転に伴い、パルス信号であるCKR信号およびTDC信号をECU2に出力する。
CRK信号は、所定クランク角(例えば30°)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、TDC信号は、いずれかの気筒Cにおいてピストン3cが吸気行程の開始時の上死点よりも若干、手前の所定のクランク角位置にあることを表す信号であり、本実施形態のようにエンジン3が4気筒の場合には、クランク角180゜ごとに出力される。
吸気通路4には、上流側から順に、吸気温センサ22およびエアフローセンサ23が設けられている。吸気温センサ22は、吸気通路4内の温度(以下「吸気温」という)TAを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。エアフローセンサ23は、エンジン3に吸入される新気量GAIRを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。
また、エンジン3の本体には、水温センサ24が設けられている。この水温センサ24は、エンジン3のシリンダブロック3f内を循環する冷却水の温度(以下「エンジン水温」という)TWを検出し、それを表す検出信号をECU2に出力する。
ECU2には、アクセル開度センサ25から、車両のアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
ECU2は、CPU、RAM、ROMおよびI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ21〜25の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、エンジン3の燃焼モードを、SI燃焼モードまたはCI燃焼モードに決定するとともに、決定した燃焼モードに応じて、燃焼制御を実行する。
なお、本実施形態では、ECU2が、高温ガス吸入手段、第1燃料供給量算出手段、第2燃料供給量算出手段、燃料供給量決定手段および燃料供給時期設定手段に相当する。
図6は、上述した燃焼制御処理を示すフローチャートである。本処理は、TDC信号の発生に同期して実行される。本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、環境条件フラグF_ENVが「1」であるか否かを判別する。この環境条件フラグF_ENVは、自己着火による燃焼に適した温度状態が燃焼室3b内に確保されていると判定されているときに「1」にセットされるものであり、吸気温TAおよびエンジン水温TWがそれぞれの所定温度以上のときに、そのような温度状態が確保されていると判定される。
このステップ1の判別結果がNOのときには、自己着火に適した燃焼室3b内の温度状態が確保されていないとして、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、SI燃焼制御を実行した(ステップ3)後、本処理を終了する。
一方、ステップ1の判別結果がYESのときには、エンジン3がCI燃焼を実行すべき運転領域(以下「HCCI領域」という)にあるか否かを判別する(ステップ2)。この判別は、図7に示すマップに基づき、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じて行われる。このマップでは、HCCI領域は、エンジン回転数NEが低〜中回転域にあり、かつ要求トルクPMCMDが低〜中負荷域にある運転領域に設定されている。
このステップ2の判別結果がNOで、エンジン3がHCCI領域にないときには、燃焼モードをSI燃焼モードに決定し、前記ステップ3でSI燃焼制御を実行した後、本処理を終了する。
このSI燃焼制御は、以下のようにして行われる。まず、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、燃料噴射量QINJを算出する。次に、エンジン回転数NEが所定値以下で、かつ要求トルクPMCMDが所定値以下のときには、燃料噴射量QINJの燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。一方、それ以外のときには、燃料噴射量QINJに対して所定割合(例えば80%)の燃料をポート燃料噴射弁9から吸気ポート4aに噴射し、残りの割合の燃料を筒内燃料噴射弁10から気筒Cに噴射する。なお、要求トルクPMCMDは、エンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
一方、ステップ2の判別結果がYESで、エンジン3がHCCI領域にあるときには、燃焼モードをCI燃焼モードに決定し、CI燃焼制御を実行した(ステップ4)後、本処理を終了する。
図8は、このCI燃焼制御処理のサブルーチンを示している。本処理では、まずステップ11において、切替機構85を駆動し、レバー84とロッカアーム64を連結することによって、吸気行程において排気弁13を開弁可能な状態にする。
次に、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、それぞれの所定のマップ(図示せず)を検索することによって、吸気行程中に噴射する燃料噴射量QINJおよび燃料噴射時期TINJをそれぞれ算出する(ステップ12,13)。この燃料噴射時期TINJは、クランク角CAで表される。上記のようにして算出された燃料噴射量QINJは、前述したSI燃焼モードにおける、低回転・低負荷以外の運転状態の場合と同様、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から所定割合に分けて噴射される。
次いで、排気燃料噴射量QINJEXを算出する(ステップ14)。この排気燃料噴射量QINJEXは、排気行程中に噴射する燃料量であり、その算出処理については後述する。次に、排気噴射時期TINJEXを算出し(ステップ15)、本処理を終了する。この排気噴射時期TINJEXもまた、クランク角CAで表され、その算出処理については後述する。
図9は、排気燃料噴射量QINJEXの算出処理のサブルーチンを示している。本処理ではまず、ステップ21において、次式(1)に従って、再吸入EGR量GEを算出する。
ここで、GRESは、ピストン3cの排気上死点において、気筒C内に残留する排ガスの量であり、GEGRは、排気通路5に排出され、気筒C内に再吸入される排ガスの量である。以上から、再吸入EGR量GEは、気筒C内に存在する排ガスの量、すなわち高温ガス層T1を構成する排ガスの量を表す。なお、GRESは、所定値に設定されており、GEGRは、リフトセンサ26で検出された排気弁13のリフトLFTに応じて算出される。
次に、吸気量GAIR、ステップ12で算出した燃料噴射量QINJ、およびステップ21で算出した再吸入EGR量GEを用い、次式(2)に従って、第1燃料噴射量QEX1を算出する(ステップ22)。
ここで、右辺中のQINJ/GAIRは、低温ガス層T2中の燃料の濃度を表す。このため、第1燃料噴射量QEX1は、高温ガス層T1中の燃料の濃度が低温ガス層T2中の燃料の濃度に等しくなるような燃料量である。
次に、再吸入EGR量GEを用い、次式(3)に従って、第2燃料噴射量QEX2を算出する(ステップ23)。
ここで、LAFは、理論空燃比であり、所定値に設定されている。LAFACTは、実空燃比であり、吸気量GAIRと燃料噴射量QINJとの比(=GAIR/QINJ)に等しい。また、右辺の(1−LAF/LAFACT)は、低温ガス層T2中の燃料が燃焼したときに、その燃焼ガス中に残存する酸素の割合を表し、この値に再吸入EGR量GEを乗算した右辺の分子は、高温ガス層T1中の酸素量を表す。したがって、この値と理論空燃比LAFとの比、すなわち第2燃料噴射量QEX2は、高温ガス層T1中に排ガスの燃焼に必要な最少限の酸素が存在するような燃料量である。
次に、上記のようにして算出した第1燃料噴射量QEX1が第2燃料噴射量QEX2よりも小さいか否かを判別する(ステップ24)。この判別結果がYESのときには、第1燃料噴射量QEX1を排気燃料噴射量QINJEXとして設定し(ステップ25)、本処理を終了する。
一方、ステップ24の判別結果がNOで、QEX1≧QEX2のときには、第2燃料噴射量QEX2を排気燃料噴射量QINJEXとして設定し(ステップ26)、本処理を終了する。
図10は、前述した排気噴射時期TINJEXの算出処理のサブルーチンを示している。本処理ではまず、ステップ31において、前記ステップ21で算出した再吸入EGR量GEに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、排気噴射時期TINJEXを算出する。
次に、要求トルクPMCMDに応じ、図11に示すマップを検索することによって、排気噴射時期TINJEXの進角側のリミット値TLMTを算出する(ステップ32)。このリミット値TLMTは、燃料の大気中への流出を抑制するために排気噴射時期TINJEXを制限するためのものである。このマップでは、リミット値TLMTは、要求トルクPMCMDが大きいほど、排気弁13のリフトが小さく、再吸入EGR量GEが少なくなるため、燃料の大気中への流出を抑制するために、より大きな値、すなわちより遅角側に設定されている。これにより、排気噴射時期TINJEXは、より遅いタイミングに設定される。
次いで、上記のようにして算出した排気噴射時期TINJEXがリミット値TLMTよりも小さいか否かを判別する(ステップ33)。この判別結果がNOのときには、そのまま本処理を終了する。
一方、ステップ33の判別結果がYESで、TINJEX<TLMTのときには、リミット値TLMTを排気噴射時期TINJEXとして設定し(ステップ34)、本処理を終了する。以上により、排気噴射時期TINJEXは、リミット値TLMTと排気上死点との間(図11のハッチングで示す領域)に設定され、この領域内で燃料が噴射される。
次に、図12を参照しながら、CI燃焼モードにおいて得られる動作をとりまとめて説明する。まず、排気行程において、排気側動弁機構60によって排気弁13が開弁され、排ガスが排気通路5に排出される。また、この排気行程中に、筒内燃料噴射弁10から気筒C内に燃料が噴射される。この燃料は、排ガスとともに排気通路5に排出される。そして、排出された燃料が、排気通路5において、排ガスの熱によって十分に暖められ、蒸発し、排ガスに混合されることによって、高温ガスが生成される。
その後の吸気行程において、吸気側動弁機構40によって吸気弁12が開弁され、新気が気筒C内に吸入される。また、この吸気行程中に、ポート燃料噴射弁9および筒内燃料噴射弁10から気筒C内に燃料が供給され、この燃料が新気と混合されることによって、低温ガスが生成される。
また、吸気行程の終期にEGR吸入機構80によって排気弁13が開弁されることによって、排気通路5において生成された高温ガスが気筒C内に再吸入される(同図のハッチング)。以上のようにして生成された低温ガスおよび高温ガスは、ガイド壁3dおよび凸部3eによって、気筒C内で高温ガス層T1と低温ガス層T2に成層化される。高温ガス層T1は排気弁13側に分布し、低温ガス層T2は吸気弁12側に分布する。また、その後の圧縮行程において、高温ガス層T1および低温ガス層T2が自己着火により燃焼する。この燃焼は、より高温の高温ガス層T1から開始され、低温ガス層T2に至る。
以上のように、本実施形態によれば、CI燃焼モードでは、自己着火による燃焼が高温ガス層T1から低温ガス層T2に伝播するので、自己着火による燃焼を緩慢に行わせることができる。その結果、気筒C内の圧力および温度の急激な上昇を回避でき、それにより、排ガス特性を向上させることができる。
また、吸気行程における新気の吸入の前の排気行程中に、あらかじめ、筒内燃料噴射弁10からの燃料を排ガスに直接、供給し、混合させるので、燃料と排ガスとの混合時間が長く確保されることで、高温ガス層T1中の燃料の濃度を、より均一化できるとともに、精度良く制御することができる。さらに、筒内燃料噴射弁10からの燃料の噴射を排気上死点側で行うので、ピストン3cに付着する燃料の量が多くなる。これにより、燃料が気化するときに発生する潜熱をより多く得ることができ、燃料による排ガスの温度低下を抑制することができる。以上のように、高温ガス層T1における自己着火による燃焼を適切に制御できる結果、安定した燃焼状態が得られ、それにより、ドライバビリティを向上させることができる。
さらに、吸気行程中には、筒内燃料噴射弁10に加えて、ポート燃料噴射弁9を併用するので、燃料と新気との混合時間が長く確保されることで、低温ガス層T2中の燃料の濃度をより均一化できる結果、自己着火による燃焼をより安定して行うことができる。
また、排気行程中に筒内燃料噴射弁10から噴射される燃料量として、第1燃料噴射量QEX1および第2燃料噴射量QEX2を算出する(ステップ22,23)とともに、排気燃料噴射量QINJEXを、これらの第1燃料噴射量QEX1および第2燃料噴射量QEX2のうちの小さな一方に決定するので、燃焼に必要な最少限の酸素を確保でき、未燃燃料の排出を抑制することができる。
また、再吸入EGR量GEが少ないほど、リミット値TLMTをより進角側に設定する。このため、このリミット値TLMTを用いて排気噴射時期TINJEXを制限することによって、燃料の大気中への流出を抑制し、燃費および排ガス特性を向上させることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、高温ガス層T1と低温ガス層T2を成層化させるためのガイド壁3dを、シリンダヘッド3aに取り付けているが、これに代えて、排気弁に取り付けてもよい。
また、実施形態では、気筒C内の排気弁13側に高温ガス層T1を形成し、吸気弁12側に低温ガス層T2を形成しているが、これに限らず、ガイド壁3dなどの構成を変更することにより、例えばシリンダヘッドと反対側に高温ガス層T1を形成し、シリンダヘッド側に低温ガス層T2を形成してもよい。
さらに、実施形態では、吸気行程中の燃料の噴射を、筒内燃料噴射弁10およびポート燃料噴射弁9を併用して行っているが、筒内燃料噴射弁10のみで行ってもよい。
また、実施形態は、本発明を車両に搭載されたディーゼルエンジンに適用した例であるが、本発明は、これに限らず、ディーゼルエンジン以外のガソリンエンジンなどの各種のエンジンに適用してもよく、また、車両用以外のエンジン、例えば、クランク軸を鉛直に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジンにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。