JP4727089B2 - 複合繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、天然繊維に似た良好な風合と良好な光沢感、吸湿性を有し、かつ加工工程性及び耐剥離性に優れたエチレン−ビニルアルコール系共重合体を一成分とする複合繊維に関する。特に、スポーツ衣料、リビング資材用途に好適な繊維素材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、合成繊維、例えばポリエステル、ポリアミドのフィラメントからなる織物、編物、不織布等の繊維構造物は、その構成フィラメントの単繊維繊度や断面形状が単調であるため、綿、麻等の天然繊維に比較して風合や光沢が単調で冷たく、繊維構造物としても品位は低いものであった。
また、ポリエステル系繊維は疎水性であるため、繊維自体が吸水性、吸湿性に劣るという欠点がある。これらの欠点を改良するために、従来から種々の検討がなされているが、その中で例えば、ポリエステル等の疎水性ポリマーと水酸基を有するポリマーとを複合紡糸することにより、疎水性繊維に親水性等の性能を付与させる試みがなされている。具体的には、エチレン−ビルアルコール系共重合体鹸化物とポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミドなどの疎水性熱可塑性樹脂との複合繊維が特公昭56−5846号や特公昭55−1372号公報等で開示されている。
【0003】
しかしながら、エチレン−ビニルアルコール系共重合体と特にポリエステルとの複合繊維は、2成分ポリマー間の界面での接着性が小さいため剥離しやすい特徴があるが、使用する目的によっては、トラブルの原因となることがわかっている。特に強撚加工や仮撚加工などの繊維の長さ方向に対して直角に応力が加わる加工をする場合に、所々に2成分間の剥離現象が発生し、該強撚加工糸や仮撚加工糸を用いて布帛を作成し染色加工したものは、剥離した部分が白化して見え欠点となり好ましくない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来の熱可塑性ポリマーと水酸基を有するポリマーとを複合することにより繊維に親水性を付与し、ソフトで嵩高感に優れ、より天然繊維に似た合成繊維を得ることを目的とするものである。
また、従来の合成繊維からなる素材よりも、より鮮やかな発色性、光沢感を有し、かつ優れた吸湿性を有する複合繊維を得ることを目的とするもので、そのための、繊維化工程性及び加工工程性が良好で、かつ実着用上での複合成分間の界面剥離による白化等のトラブルがない繊維設計の有るべき姿を究明したものである。
特に、上記目的を達成することのできるエチレン−ビニルアルコール系共重合体とポリエステルを代表する他の熱可塑性ポリマーとの複合繊維を加工工程での問題を生じることなく、良好な染め加工布帛として得るためには、具体的にはいかなる構成、条件としたらよいかを究明したものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、エチレン含有量が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコ−ル系共重合体からなる海成分と融点が160℃以上の熱可塑性ポリマ−からなる島成分とが複合されてなる複合繊維であって、島個数は10以上であり、それぞれの島は、最長径(L)/最短径(D)≧1.5の偏平形状を有しており、かつ島成分が複合断面形態の周状に配列され、複合断面における島成分のト−タルの外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が、下記(1)式を満足することを特徴とする複合繊維である。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;島成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときの島成分の質量複合比率
【0006】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の複合繊維の海成分を構成するエチレン−ビニルアルコール系共重合体について説明する。
海成分ポリマー、すなわち、エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られるが、ケン化度は95%以上の高ケン化度のものが好ましく、エチレン共重合割合が25〜70モル%のもの、すなわち、ビニルアルコール成分(未ケン化酢酸ビニル成分やアセタール化されたビニルアルコール成分等を含む)が約30〜75モル%のものが用いられる。
海成分ポリマー中のビニルアルコール成分の割合が低くなれば、水酸基の減少のために親水性などの特性が低下し、目的とする良好な親水性を有する天然繊維ライクの風合が得られない。逆にビニルアルコール成分の割合が多くなりすぎると、溶融成形性が低下すると共に島成分ポリマーと複合紡糸する際に、曳糸性が不良となり、紡糸時又は延伸時の単糸切れ、断糸が多くなる。
したがって、高ケン化度でエチレン共重合割合が25〜70モル%のものが本発明の目的の繊維を得るためには適している。
【0007】
海成分ポリマーと複合される島成分ポリマーとしてポリエステルなどの高融点ポリマーを用いる場合、長時間安定に連続して紡糸するためには、海成分ポリマーの溶融成形時の耐熱性を向上させることが好ましいが、そのための手段として、エチレンの共重合割合を適切な範囲に設定することと、さらに海成分ポリマー中の金属イオン含有量を所定量以下することも効果がある。
【0008】
海成分ポリマーの熱分解機構としては大きく分けてポリマー主鎖間での橋かけ反応が起こりゲル化物が発生していく場合と、主鎖切断、側鎖脱離などの分解が進んでいく機構が混在化して発生すると考えられているが、海成分ポリマー中の金属イオンを除去することにより、溶融紡糸時の熱安定性が飛躍的に向上する。特にNa+,K+イオンなどの第I族のアルカリ金属イオンと、Ca2+、Mg2+イオンなどの第II族のアルカリ土類金属イオンをそれぞれ100ppm以下とすることにより顕著な効果がある。
【0009】
特に、長時間連続して高温条件で溶融紡糸をする際、海成分ポリマー中にゲル化物が発生してくると紡糸フィルター上にゲル化物が徐々に詰まって堆積し、その結果紡糸パック圧力が急上昇してノズル寿命が短くなるとともに紡糸時の単糸切れ、断糸が頻発する。ゲル化物の堆積がさらに進行するとポリマー配管が詰まりトラブル発生の原因となり好ましくない。
海成分ポリマー中の第I族アルカリ金属イオン、第II族アルカリ土類金属イオンを除去することにより高温での溶融紡糸、特に、250℃以上での溶融紡糸時に長時間連続運転してもゲル化物発生によるトラブルが起こりにくい。
したがって、これら金属イオンの含有量は、それぞれ50ppm以下であることが好ましく、特に好ましくは10ppm以下である。
【0010】
海成分ポリマーの製造方法として、一例を説明すると、メタノールなどの重合溶媒中でエチレンと酢酸ビニルとをラジカル重合触媒下でラジカル重合させ、次いで未反応モノマーを追い出し、苛性ソーダによりケン化反応を起こさせ、エチレン−ビニルアルコール系共重合体とした後、水中でペレット化した後、水洗して乾燥する。従って工程上どうしてもアルカリ金属やアルカリ土類金属がポリマー中に含有されやすく、通常は数百ppm以上のアルカリ金属、アルカリ土類金属が混入している。
【0011】
アルカリ金属イオン及びアルカリ土類金属イオン含有量をできるだけ低下させる方法としては、ポリマー製造工程中、ケン化処理後ペレット化した後、湿潤状態のペレットを、酢酸を含む純水溶液で大量に洗浄した後、さらに大過剰の純水のみで大量にペレットを洗浄することによって得られる。
また海成分ポリマーは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体を苛性ソーダによりケン化して製造されるが、前述したようにこの時のケン化度を95%以上にすることが好ましい。鹸化度が低くなると、ポリマーの結晶性が低下し、強度等の繊維物性が低下してくるのみならず、海成分ポリマーが軟化しやすくなり加工工程でトラブルが発生してくるとともに得られた繊維構造物の風合も悪くなり好ましくない。
【0012】
本発明において使用される島成分は、融点が160℃以上、好ましくは180℃以上の熱可塑性ポリマーが好適に使用され、例えば、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66を代表とするポリアミド、ポリプロピレンを代表とするポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートを代表とするポリエステル等が好適である。また、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステルも使用できる。
【0013】
特に、ポリアルキレンテレフタレート系ポリエステルにおいては、テレフタル酸成分の一部は他のジカルボン酸成分で置き換えられていてもよく、ジオール成分も主たるジオール成分の以外に他のジオール成分で少量置き換えられていてもよい。
テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシジエタンジカルボン酸、β−ヒドロキシエトキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。
また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等を挙げることができる。
【0014】
特に、下記一般式(i)で示される化合物を共重合していることが耐剥離性向上効果の点で望ましい。
【0015】
【化1】
(但し、Dは3価の芳香族基又は3価の脂肪族基、X1及びX2はエステル形成性官能基または水素原子であって同一でも異なっていてもよく、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アルキルホスホニウム基のいずれかを示す。)
【0016】
島成分ポリマーの共重合成分である前記化合物(i)として、重合時の耐熱性の点からDが3価の芳香族基であることが望ましい。例えば、1,3,5−ベンゼントリイル基、1,2,3−ベンゼントリイル基、1,3,4−ベンゼントリイル基等のベンゼントリイル基、1,3,6−ナフタレントリイル基、1,3,7−ナフタレントリイル基、1,4,5−ナフタレントリイル基、1,4,6−ナフタレントリイル基等のナフタレントリイル基などを挙げることができる。
Mはナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属原子、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子もしくはテトラ−n−ブチルホスホニウム基、ブチルトリフェニルホスホニウム基、エチルブチルホスホニウム基等のアルキルホスホニウム基である。
X1及びX2はエステル形成性官能基又は水素原子を示し、それらは同一であっても異なっていてもよい。ポリマーの主鎖中に共重合される点でエステル形成性官能基であることが好ましい。エステル形成性官能基の具体例として下記の官能基を挙げることができる。
【0017】
【化2】
(ただし、Rは低級アルキル基またはフェニル基、aおよびdは1以上の整数、bは2以上の整数を示す。)
【0018】
化合物(i)の具体例としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸、2,6−ジカルボキシナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、α−テトラブチルホスホニウムスルホコハク酸などが挙げられ、中でもコストパフォーマンスの点において5−ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。
【0019】
化合物(i)の共重合量は島成分のポリエステルを構成する全酸成分に対して0.5〜5モル%の範囲内であることが好ましい。0.5モル%未満の場合、発色性が不十分である。一方、5モル%を越えると鮮明な発色性は有するが、繊維化工程性、特に、紡糸性、延伸性が不良になると共に繊維強度が低くなる。好ましい共重合量は1〜3モル%の範囲である。また、繊維化工程性を悪化させない範囲で島成分ポリマー中に、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料等の添加剤を含有させてもさしつかえない。
【0020】
次に本発明において重要な要件である複合断面形状について詳述する。
本発明の複合繊維の断面形状は、例えば、図1の繊維断面写真に見られるように、それぞれの島の形状が最長径(L)/最短径(D)≧1.5の偏平形状で、かつ島成分が複合断面形態の周状に配列されていることが必要であり、島数は、好ましくは7個以上、より好ましくは10個以上である。島数が少なくなると複合成分間の界面剥離に対する抵抗が十分に得られにくくなる。また周状に配列されていることも重要であり、これによりあらゆる方向からの外力に対して界面剥離に対する抵抗が十分に得られる。島形状は、界面における接触面積を増大させるために異形断面が望ましく、断面形成性及び繊維化工程の安定性から特に偏平形状が好ましい。本発明においては、島成分の偏平形状は最長径をL、最短径をDとするとき、L/Dで現れる偏平度が1.5以上であることが必要であり、より好ましくは2.0以上である。そして、本発明の複合繊維においては、隣接する各島成分の長辺同士がほぼ対面する状態で配列されている点も特徴的である。
さらに重要なことは、複合断面におけるそれぞれの島のト−タルの外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が、下記(1)式を満足することである。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;島成分の外周長と複合繊維の外周長との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときの島成分の質量複合比率
【0021】
島成分のト−タルの外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比Xは島成分の複合比率により変化するが、(1)式が1.6倍以上、好ましくは2.0倍以上、より好ましくは2.5倍以上であることが重要である。
即ち、島成分と海成分の質量複合比率が50:50である場合を例に挙げると、島成分のト−タルの外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比は、0.8以上、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.25以上である。X(=L2/L1)が1.0以上のとき、驚くべきことに島成分と海成分の界面剥離を防止する効果が増大する。
【0022】
本発明における界面剥離防止効果の作用機序は、現時点で推論の域をでないが、恐らく複合成分の接触面積の増大と形成された島成分の方向性との相乗効果によるものと推察される。
【0023】
さらに、本発明においては、複合繊維の断面形状が偏平形状であり、かつ、島成分の最長径方向に引いた線分が複合繊維の外周に対して90°±15°の角度で交わっていることが好ましく、このような構成となることにより、本発明の効果が最大限に発揮される。もちろん、本発明においては、その効果を損なわない範囲であれば、1部の島成分が繊維外周に対してかかる角度の範囲内で配列されていなくても差し支えない。
【0024】
海成分ポリマーと島成分ポリマーの複合比率は90:10〜10:90(質量比率)であることが好ましく、特に70:30〜30:70がより好ましく、各々の複合形態や繊維断面形状により適宜設定可能である。
海成分ポリマーの複合比率が10質量%未満の場合は水酸基の減少ため繊維のひとつの特徴である親水性等の特性が失われる。一方、海成分ポリマーの複合比率が90質量%を越える複合繊維は、エチレン−ビニルアルコール系共重合体の特徴が発揮され、親水性、光沢感は十分に満足されるが、繊維物性や染色物の発色性が劣り好ましくない。
【0025】
また複合繊維の断面形状は海成分ポリマーが繊維表面全体を覆う必要はなく、鮮やかな発色性を有するには、繊維表面の80%以上が屈折率の低い海成分ポリマーであることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。特に芯鞘型複合繊維が鮮やかな発色性、繊維強度等の点で好ましい。
【0026】
本発明においては、島成分ポリマーとして前記のような共重合ポリエステルを使用することによって鮮やかな発色性が得られるが、スポーツ衣料用途にかかる繊維を用いる場合、発色性のみならず光沢をも併せ持つことが要求されている。通常、光沢を有する繊維は発色性が低下し、逆に発色性を優先させると光沢を付与することが難しい。本発明では繊維断面形状を特定することで鮮やかな発色性及び光沢をも有する繊維を得ることができる。光沢を付与するためには、光が反射する平坦な面が多いほどよく、またマイルドな異形度を有する平坦な面を保持した断面形状が有効である。このような断面として三角あるいは偏平異形断面が最適である。より好ましくは、偏平度が1.5〜5.0の偏平断面繊維である。
【0027】
本発明の複合繊維の太さは特に限定されず、任意の太さにすることができるが、発色性、光沢感、風合に優れた繊維を得るためには複合繊維の単繊維繊度を0.3〜11dtex程度にしておくのが好ましい。また、長繊維のみならず短繊維でも本発明の効果が期待される。
【0028】
本発明の複合繊維の製造方法は、本発明の規定を満足する複合繊維が得られる方法であれば特に制限されるものではないが、複合紡糸装置を用いノズル導入口へ海成分ポリマーと島成分ポリマーの複合流を導入するに際し、島成分からなる突起部の数に相当する数の細孔が設けられた分流板から島成分ポリマーを流し、それぞれの細孔から流れる島成分の流れ全体を海成分ポリマーで覆いながら、複合流を導入口の中心に向けて導入しノズルより吐出させることにより製造することができる。また、紡糸・延伸方法としては、低速、中速で溶融紡糸した後に延伸する方法、高速による直接紡糸延伸法、紡糸後に延伸と仮撚を同時に又は続いて行うなどの任意の方法を採用することができる。
【0029】
また、本発明においては、島成分に無機微粒子を含有させることが好ましく、その場合、無機微粒子の一次平均粒子径は0.01〜5.0μmであることが好ましく、0.03〜3.0μmであることがより好ましい。無機微粒子の一次平均粒子径が0.01μm未満であると、延伸を行うための加熱帯域の温度や糸条の走行速度、走行糸条にかかる張力などに僅かな変動が生じても、複合繊維にループ、毛羽、繊度斑などが発生する場合がある。一方、無機微粒子の一次平均粒子径が3.0μmを超えると繊維の延伸性が低下して製糸性が不良になり、複合繊維の製造時に断糸などが発生する場合がある。ここで、無機微粒子の一次平均粒子径は、遠心沈降法を用いて測定したときの値をいう。
【0030】
無機微粒子の含有量は、島成分ポリマーの重量に基づいて0.05〜10.0質量%であることが好ましく、0.3〜5.0質量%であることがより好ましい。無機微粒子の含有量が0.1質量%未満であると延伸を行うための加熱帯域の温度や糸条の走行速度、走行糸条にかかる張力などに僅かな変動を生じても、得られる複合繊維にループや毛羽、繊度斑などが発生する場合があり、一方、無機微粒子の含有量が10.0質量%を超えると、繊維の延伸工程で無機微粒子が走行糸条と空気との間の抵抗を過度なものにして、毛羽の発生、断糸の発生などにつながり工程が不安定になる場合がある。
【0031】
さらに、本発明においては、島成分中の無機微粒子の一次平均粒子径(μm)とポリマー中の含有量(質量%)の積(Y)が0.01≦Y≦3.0を満足することが好ましい。積Yが0.01未満では、複合繊維にループや毛羽、繊度斑などが発生し工程性不良で好ましくなかったり、繊維中に未延伸部が多発し衣料用途に使用困難な場合がある。積Yが3.0を越えると、繊維化工程中での毛羽、断糸が多発し工程性不良となる場合がある。
【0032】
無機微粒子の種類は、繊維を形成するポリエステルに対して劣化作用などをもたず、それ自体で安定性に優れる無機微粒子であればいずれも使用できる。本発明で有効に用い得る無機微粒子の代表例としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウムなどを挙げることができ、これらの無機微粒子は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合は、それぞれの無機微粒子の粒子径(a1 ,a2 ,・・・an )と含有量(b1 ,b2 ,・・・bn )の積の和が上記範囲を満たす必要がある。つまり、Y=a1×b1+a2×b2+・・・an×bn のYが上記範囲を満たす事である。
【0033】
島成分ポリマー中への無機微粒子の添加方法は特に制限されず、島成分ポリマーを溶融紡出する直前までの任意の段階で島成分ポリマー中に無機微粒子が均一に混合されているようにして添加、混合すればよい。例えば、無機微粒子は島成分ポリマーの重合時の任意の時点に添加しても、重縮合の完了したペレットの製造時などに後から添加しても、または島成分ポリマーを紡糸口金から紡出させる前の段階で無機微粒子を均一に溶融混合するようにしてもよい。
【0034】
以上のようにして得られる本発明の繊維は、各種繊維集合体(繊維構造物)として用いることができる。ここで繊維集合体とは、本発明の繊維単独よりなる織編物、不織布はもちろんのこと、本発明の繊維を一部に使用してなる織編物や不織布、例えば、天然繊維、化学繊維、合成繊維など他の繊維との交編織布、あるいは混紡糸、混繊糸として用いた織編物、混綿不織布などであってもよいが、織編物や不織布に占める本発明繊維の割合は10質量%以上、好ましくは30質量%以上であることが好ましい。
【0035】
本発明の繊維の主な用途は、長繊維では単独で又は一部に使用して織編物等を作成し、良好な風合を発現させた衣料用素材とすることができる。一方、短繊維では衣料用ステープル、乾式不織布および湿式不織布等があり、衣料用のみならず各種リビング資材、産業資材等の非衣料用途にも好適に使用することができる。
【0036】
【実施例】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものでない。
【0037】
ポリマーの固有粘度:
ポリエステルはフェノールとテトラクロルエタンの等質量混合溶媒を用い30℃恒温槽中でウーベローデ型粘度計を用いて測定した。エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物は85%含有フェノールを用い30℃以下で測定した。
【0038】
発色鮮明性及び光沢性:
一定の染色条件で染色した布帛を10人のパネラーにより官能評価した。その結果を、非常に優れるを2点、優れるを1点、劣るを0点とした。
○:合計点が15点以上
△:合計点が8〜14点
×:合計点が7点以下
【0039】
強度:JIS L 1013に準拠して測定した。
【0040】
実施例1
重合溶媒としてメタノールを用い、60℃下でエチレンと酢酸ビニルをラジカル重合させ、エチレンの共重合割合が44モル%のランダム共重合体を作製し、次いで苛性ソーダによりケン化処理を行い、ケン化度99%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物とした後、湿潤状態のポリマーを酢酸が少量添加されている大過剰の純水で洗浄を繰返した後、さらに大過剰の純水による洗浄を繰返し、ポリマー中のK,Naイオン及びMg,Caイオンの含有量をそれぞれ約10ppm以下にし、その後、脱水機によりポリマーから水を分離した後、更に100℃以下で真空乾燥を十分に実施して固有粘度〔η〕=1.05dl/gのポリマーを得、このポリマーを海成分ポリマーとした。
【0041】
一方、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を全酸成分に対して1.7モル%上重合したポリブチレンテレフタレートを、重合触媒としてテトライソプロピルチタネートを用い、チタン金属原子換算でポリマー中に35ppm添加し、常法により重合を行い、固有粘度〔η〕=0.85のポリマーを得、島成分ポリマーとした。なお、島成分ポリマーには、表1に示すように無機微粒子を特定量含有させた。
【0042】
海成分ポリマーと島成分ポリマーの複合比率(質量比率)50:50の条件で、紡糸温度260℃、巻取り速度3500m/分で溶融複合紡糸し、図2に示すような断面形状の複合フィラメント糸(83dtex/24フィラメント)を得た。この複合繊維の島数(L/D=6.0)は50個であり、島成分トータルの外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比L2/L1=5.0(X/C=10.0)であり、強度は3.1N/dtexであった。ついで800T/Mの実撚を施し、編物を作製し、得られた編物を通常の液流染色機を使用して下記に示す架橋処理条件及び染色条件で染色し、その後常法により乾燥仕上げセットを実施した。染色された編物は良好な発色、鮮明性と優れた光沢感を有しており、芯鞘界面剥離は全く認められなかった。更にしっとりした良好な風合を有するものであった。結果を表2に示す。
【0043】
架橋処理
染色方法
還元洗浄
ハイドロサルファイド 1g/l
アミラジン(第一工業製薬) 1g/l
NaOH 1g/l
浴 比: 1:30
温 度:80℃×120分
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
実施例2〜9
島成分ポリマー、複合比率、島数を表1に示すように変更すること以外は、実施例1と同様に実施した。耐剥離性評価結果及び風合評価結果を表2に示す。いずれも繊維化工程性は良好であり、優れた耐剥離性と良好な風合を有していた。
【0047】
実施例10,11
断面形状を図3、図4とすること以外は実施例1と同様に実施した。
いずれも優れた耐剥離性と良好な風合を有していた。
【0048】
実施例12
島成分ポリマーをポリプロピレンとし、実施例1と同様に複合繊維を作製した。これを5mmにカットし、常法に従い抄紙し、110℃のロールカレンダーを通して、湿式不織布を作製した。加工工程性も良好であり、地合品位の良好な不織布が得られた。
【0049】
実施例13,14
海成分ポリマーのエチレンの共重合量を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様に実施した。いずれも優れた耐剥離性と良好な風合を有していた。
【0050】
比較例1〜3
島成分ポリマー及び断面形状を芯鞘型にしたこと以外は実施例1と同様に実施した。いずれも良好な風合であったが、芯鞘界面の剥離によりアタリが激しく、品位として劣るものであり、実用に耐えるレベルではなかった。
【0051】
比較例4〜6
複合比率及び島数を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様に実施した。いずれも繊維化工程性、耐剥離性の両方を満足するものは得られなかった。
【0052】
比較例7
島成分ポリマーをポリプロピレンとし、実施例12と同様に繊維を5mmカットし、湿式不織布を作製したが、加工工程上での芯鞘界面剥離が多発し、著しく劣るものであった。
【0053】
比較例8,9
海成分ポリマーのエチレンの共重合量を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様にして実施した。いずれも芯鞘界面の剥離によるアタリが激しく、品位の低いものであった。
【0054】
【発明の効果】
以上のように、本発明においては、特定のエチレン−ビニルアルコール系共重合体と特定の熱可塑性ポリマーとが所定の条件を満足するように複合された断面形状とすることにより、従来の合成繊維には見られなかった良好な親水性を有し、発色性、光沢感が良好でソフトで天然繊維に似た風合と界面の耐剥離性に優れた複合繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の繊維の複合断面形態の1例を示す断面写真
【図2】 本発明の繊維の複合断面形態の1例を示す概略図
【図3】 本発明の繊維の複合断面形態の他の例を示す概略図
【図4】 本発明の繊維の複合断面形態の他の例を示す概略図
【図5】 本発明外の繊維の複合断面形態の例を示す概略図
【図6】 本発明外の繊維の複合断面形態の例を示す概略図
Claims (5)
- エチレン含有量が25〜70モル%であるエチレン−ビニルアルコ−ル系共重合体からなる海成分と融点が160℃以上の熱可塑性ポリマ−からなる島成分とが複合されてなる複合繊維であって、島個数は10以上であり、それぞれの島は、最長径(L)/最短径(D)≧1.5の偏平形状を有しており、かつ島成分が複合断面形態の周状に配列され、複合断面における島成分のト−タルの外周長(L2)と該複合繊維の外周長(L1)との比が、下記(1)式を満足することを特徴とする複合繊維。
1.6≦X/C (1)
ここで、X;島成分の外周長(L2)と複合繊維の外周長(L1)との比(L2/L1)
C;複合繊維全体を1としたときの島成分の質量複合比率 - 複合繊維の断面形状が偏平形状であり、かつ、島成分の最長径方向に引いた線分が複合繊維の外周に対して90°±15°の角度で交わっている請求項1に記載の複合繊維。
- 複合繊維の偏平度が1.5〜5.0である請求項1または2に記載の複合繊維。
- 海成分と島成分との質量複合比率が10:90〜90:10である請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合繊維。
- 島成分に無機微粒子が含有されており、該無機微粒子の一次平均粒子径(μm)と無機微粒子含有量(質量%)が下式(2)〜(4)を満たす請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合繊維。
0.01≦一次平均粒子径(μm)≦5.0 (2)
0.05≦無機微粒子含有量(質量%)≦10.0 (3)
0.01≦Y≦3.0 (4)
但し、Y=一次平均粒子径(μm)×無機微粒子含有量(質量%)
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