しかしながら、上述した従来のX線管ではバルブ内に内筒部が形成されており、これに伴ってカバーの形状も複雑化している。このようなX線管の構成の複雑化は、バルブ内での放電の発生を助長するおそれがある。
本発明は上記課題の解決のためになされたものであり、単純な構成によりバルブ内での放電の発生を抑制することができるX線管、及びこれを用いたX線源を提供することを目的とする。
上記課題の解決のため、本発明に係るX線管は、電子銃から出射された電子をターゲットに衝突させることによりX線を発生するX線管であって、電子銃を収容する外囲器本体と、外囲器本体に一端側開口部が固定され、他端部が狭窄部として形成された筒状のバルブと、バルブに挿通され、ターゲットを支持するターゲット支持体とを備え、ターゲット支持体には、バルブの他端側開口部が固定されていると共に、外囲器本体と他端側開口部との間において、バルブの一端側から見てターゲット支持体と他端側開口部との固定部分を遮蔽する遮蔽部が形成されている。
このX線管では、外囲器本体とバルブの他端側開口部との間において、バルブの一端側から見てターゲット支持体と他端側開口部との固定部分を遮蔽する遮蔽部が形成されている。これにより、バルブの一端側とターゲット支持体と他端側開口部との固定部分との間の放電の発生を抑制することができる。また、バルブの他端部が狭窄部として形成され、このバルブの他端側開口部がターゲット支持体に固定されているため、バルブに内筒部が形成されてなる従来のX線管に比べ、バルブ及び遮蔽部の形状を単純化することができる。このような単純な構成により、放電の発生の効果的な抑制を実現することができる。さらに、ターゲット支持体とバルブの他端側開口部とを固定する際には、バルブに内筒部が形成されてなる従来のX線管に比べて作業容易性や視認性が向上し、製造されたX線管の信頼性を高めることも可能となる。
また、遮蔽部は、ターゲット支持体と一体的に形成されていることが好ましい。この場合、バルブ内の部品点数が減少するため、バルブ内での放電の発生をより効果的に抑制することができる。
また、遮蔽部は、角部が丸められた形状又は角部を有しない形状をなしていることが好ましい。こうすると、遮蔽部での電界の局所的な集中が回避されるため、放電の発生をより効果的に抑制することができる。
また、他端側開口部に接合され、ターゲット支持体が挿通する筒状部材を更に備え、他端側開口部は、筒状部材を介してターゲット支持体に固定されていることが好ましい。このような構成により、ターゲット支持体とバルブの他端側開口部との固定にあたってターゲット支持体を筒状部材に沿って微調整することができるので、電子銃に対するターゲットの位置合わせを精度良く行うことが可能となる。
また、本発明に係るX線源は、上述したX線管を収容する筐体と、X線管のターゲット支持体に電圧を供給する高圧電源部とを備え、ターゲット支持体と他端側開口部との固定部分は、包囲部材により包囲されている。
このX線源では、前述したX線管の採用によってバルブ内での放電の発生を効果的に抑制することができる。さらに、ターゲット支持体とバルブの他端側開口部との固定部分は包囲部材によって包囲されているので、筐体とX線管との間の放電の発生を抑制することができる。
また、筐体は、高圧電源部が埋設された絶縁ブロックと、絶縁ブロックに固定され、内部に絶縁性液状材料を充填した金属製の筒部とを備え、X線管のバルブが筒部に収容され、包囲部材は、筒部の内壁から固定部分が見通せないように固定部分を包囲しているのが好ましい。
このX線源では、絶縁ブロックに筒部を固定し、X線管のバルブを筒部に収容することによって、X線発生動作時において、X線管の放熱性を高めることができるので、X線管内部での放電の発生を抑制できる。さらに、包囲部材が固定部分を包囲することによって、筒部とX線管との間の放電の発生を抑制することができる。
さらに、包囲部材は、X線管の管軸方向に沿って延びる壁部を有し、壁部が、筒部の内壁から固定部分が見通せないように固定部分を包囲しているのが好ましい。
この場合、X線管の管軸方向に沿って延びる壁部が固定部分を包囲しているので、固定部分近傍の電界を乱すことがなく、より効果的に筒部とX線管との間の放電を抑制することができる。
以上説明したように、本発明に係るX線管及びX線源によれば、単純な構成によりバルブ内での放電の発生を抑制することができる。
1…X線源、2…筐体、3…高圧電源部、4…X線管、18…ターゲット支持体、19…外囲器本体、20…バルブ、32…一端側開口部、34…他端側開口部、37…狭窄部(他端部)、40,40A,40B,41,41A…筒状部材、42,42A…遮蔽部、42a…角部、T…ターゲット、W…固定部分。
以下、本発明に係るX線管及びX線源の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、「上」、「下」等の語は図面に示す状態に基づいており、便宜的なものである。
図1は、本発明に従って構成されたX線源の一実施形態を示す断面図である。図1に示すように、X線源1は、筐体2と、高圧電源部3と、X線管4とを備えている。
筐体2は、底板6と、天板7と、筒部8と、絶縁ブロック9とによって構成されている。底板6と天板7とは、それぞれ略正方形状を有し、天板7の中央には円形の貫通孔7aが設けられている。この底板6と天板7との各隅部同士はスペーサ10を介して連結されており、底板6と天板7とは所定の間隔をとって互いに固定されている。また、底板6、天板7、及びスペーサ10の側面は、これらを繋ぐ側板(図示しない)によって覆われている。
筒部8は、金属によって上端が先細りの円筒形状に形成され、その内径が天板7の貫通孔7aと同径とされている。筒部8の下端部には取付フランジ8aが設けられており、上端部には、X線管4を取り付けるための円形の開口部8bが形成されている。そして、筒部8は、取付フランジ8aが天板7の貫通孔7aの周縁部に液密に固定されることにより、その内部と天板7の貫通孔7aとが連通するようにして天板7の上面中央に立設されている。なお、筒部8は接地電位とされている。
絶縁ブロック9は、例えばエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂材料によって略立方体形状に形成され、表面にはその電位を接地電位とするための導電性材料による被覆、例えば導電性テープの貼付や導電性塗料の塗布といった処理がなされている。この絶縁ブロック9は、天板7の貫通孔7aを下側から塞ぐようにして、底板6と天板7とによって挟持されている。このような構成により、筐体2の上部には、筒部8、天板7、絶縁ブロック9、及び高圧電源部3で囲まれた収容空間Sが形成されている。なお、収容空間S内には、絶縁性液状材料として、例えば絶縁性のオイル11が充填されている。
X線管4は、後述するバルブ20が収容空間S内に収容された状態で、筒部8の開口部8bに液密に固定されている。また、バルブ20の他端側開口部34(図2参照)から突出するターゲット支持体18の先端部分には、他端側開口部34とターゲット支持体18との固定部分Wを包囲する高圧キャップ(包囲部材)12がネジ止めによって固定されている。
高圧キャップ12は、導電性材料(例えばアルミニウム)からなり、ターゲット支持体18における高圧電源部3側の先端部分の近傍に位置するバルブ20の封止部分を包囲する。この高圧キャップ12は、円形の底板部12bとその縁部に立設された壁部12aを有し、その中心軸がX線管4の管軸と同軸となるように固定されている。壁部12aの内径は、少なくとも固定部分Wの近傍におけるバルブ20の外径よりも大きい。壁部12aは、X線管4の管軸方向に沿って延びている。壁部12aは、筒部8の内壁から固定部分Wが見通せないように固定部分Wを遮蔽している。また、本実施形態においては、高圧キャップ12は底板部12bを有しており、この底板部12bを挟み込むようにしてターゲット支持体18に同軸方向にネジ止めされているが、ターゲット支持体18の軸方向と交わるように壁部12a側からネジ止めを行ってもよい。この場合は、底板部12bはなくてもよい。
高圧電源部3は、絶縁ブロック9の上部中央に埋設されており、天板7の貫通孔7aの下方に配置されている。この高圧電源部3は、高圧キャップ12に片端が支持された圧縮バネ13を介してターゲット支持体18に電気的に接続され、この圧縮バネ13及び高圧キャップ12を介してターゲット支持体18に対して高電圧を供給する。
次に、図2を参照して、上述したX線管4の構成について詳細に説明する。
図2は、X線管4を示す断面図である。図2に示すように、X線管4は、真空外囲器16と、電子銃17と、ターゲット支持体18とを備えている。真空外囲器16は、外囲器本体19と、バルブ20とによって構成されている。金属からなる外囲器本体19は、陽極となるターゲットTを収容するための胴部21と、陰極となる電子銃17を収容する電子銃収容部22とから構成されている。胴部21は、金属によって略円筒状に形成され、内部空間Rを有している。また、胴部21の外周には、X線源1における筒部8の開口部8bへの固定に用いられるフランジ部21aが設けられている。さらに、胴部21の下端部21cには、出力窓23が固定された蓋板24が設けられ、この蓋板24によって内部空間Rの下端側が塞がれている。
電子銃収容部22は、金属によって断面円形の筒状に形成され、胴部21と直交するように胴部21の側部下側に気密に接合されている。この電子銃収容部22と胴部21との接合部分には、電子銃収容部22の内部と胴部21の内部空間Rとを連通させ、収束電極として作用するアパーチャ26が設けられており、アパーチャ26と反対側の端部には、ステム基板27が固定されている。また、電子銃17は、カソードCと、ヒータ28と、第1グリッド電極29及び第2グリッド電極30とによって構成され、これらが複数のステムピン31を介してステム基板27に取り付けられている。各ステムピン31は外部電源(図示しない)に接続され、これにより電子銃17に所定の電圧が供給される。
一方、バルブ20は、例えばガラスやセラミックなどの絶縁体によって直径約50mmの略円筒状に形成されている。このバルブ20の一端側開口部32には、金属製のリング部材33が融着によって接合されており、一端側開口部32は、バルブ20内に胴部21の上端部21bが配置されるように、リング部材33を介して胴部21に接合されている。また、ターゲット支持体18は、金属製であり、例えば銅材によって直径約15mmの棒状に形成されており、一端部18aに形成された傾斜面18cにはターゲットTが埋設されている。そして、ターゲット支持体18の一端部18aは、ターゲットTが内部空間R内で電子銃17と向き合うように、バルブ20の一端側開口部32を通って外囲器本体19における胴部21の内部空間R内に配置されている。このような構成により、X線管4では、電子銃17から出射した電子がアパーチャ26を通ってターゲットTに衝突すると、ターゲットTの表面からX線が発生する。そして、発生したX線は出力窓23を通ってX線管4の外部に取り出される。なお、ターゲット支持体18は、ターゲットTと同質の材料でターゲットTと一体的に形成してもよい。
ここで、図3を参照して、上述したバルブ20の他端部の構成についてさらに詳細に説明する。
図3に示すように、バルブ20の他端部は、バルブ20の本体部36の外径よりも小径化されており、直径約25mmの狭窄部37として段差状に形成され、本体部36から突出するようになっている。そして、この狭窄部37の上端がバルブ20の他端側開口部34となっている。また、バルブ20の他端側開口部34には、金属製の筒状部材、例えばコバールからなる筒状部材40が融着によって接合されている。筒状部材40の上端側はターゲット支持体18の外径に合わせて段差状に小径化されており、この小径部分の内側には、ターゲット支持体18の他端部18bが挿通する金属製の筒状部材、例えばコバールからなる筒状部材41が溶接固定されている。そして、バルブ20の他端側開口部34は、筒状部材40及び筒状部材41を介してターゲット支持体18の他端部18bに固定され、封止されている。
さらに、ターゲット支持体18には、バルブ20の狭窄部37に近接するように金属製の遮蔽部42が一体的に形成されている。遮蔽部42は、その主たる径(ここでは最大径)が、バルブ20の本体部36より小さく、狭窄部37より大きい直径約30mmの円板状をなしており、各角部42aがR状に面取りされて丸められている。この遮蔽部42は、バルブ20の一端側から見てターゲット支持体18の他端部18bとバルブ20の他端側開口部34との固定部分Wを遮蔽し、特に、遮蔽部42は、外囲器本体19における胴部21の上端部21bから他端側開口部34と筒状部材40との接合部分、つまり絶縁性材料と金属との接合による封止部分が見通せないように当該封止部分を遮蔽している。
以上説明したように、X線源1及びX線管4では、外囲器本体19とバルブ20の他端側開口部34との間において、バルブ20の一端側から見てターゲット支持体18と他端側開口部34との固定部分Wを遮蔽する遮蔽部42が形成されている。これにより、バルブ20の一端側と固定部分Wとの間の放電の発生を抑制することができる。また、バルブ20の他端部が狭窄部37として形成され、このバルブ20の他端側開口部34がターゲット支持体18に固定されているため、バルブに内筒部が形成されてなる従来のX線管に比べ、バルブ20及び遮蔽部42の形状を単純化することができる。このような単純な構成により、X線発生の動作時におけるバルブ20内の電界安定性が向上してバルブ20内での放電の発生の効果的な抑制を実現することができるほか、放熱性の向上や残留ガスの低減化も図られる。さらに、ターゲット支持体18とバルブ20の他端側開口部34とを固定する際には、バルブ20の外側で溶接等の作業を行うことができるため、バルブに内筒部が形成されてなる従来のX線管に比べて作業容易性や視認性が向上し、製造されたX線管4の信頼性を高めることも可能となる。
また、X線源1及びX線管4では、遮蔽部42がターゲット支持体18と一体的に形成されているため、バルブ20内の部品点数が減少する。したがって、溶接等によって別部材を接合する工程が省かれ、バルブ20内での金属片の残留や表面の凹凸が生じにくくなるので、電界の一層の安定化が図られる。さらに、遮蔽部42は、各角部42aがR状に面取りされて丸められており、X線発生動作時における電界の局所的な集中が回避される。これらの結果、バルブ20内での放電の発生を一層効果的に抑制することができる。
また、X線源1及びX線管4では、ターゲット支持体18とバルブ20の他端側開口部34とは、筒状部材40及び筒状部材41を介して接合されている。この接合にあたっては、例えば予め他端側開口部34には筒状部材40を融着しておくと共に、ターゲット支持体18の他端部18bには筒状部材41を溶接しておき、最後に筒状部材40と筒状部材41とを溶接する。こうすると、筒状部材40と筒状部材41との溶接時にターゲット支持体18を筒状部材40に沿わせて軸方向に微調整することができるので、電子銃17に対するターゲットTの位置合わせを精度良く行うことができる。
さらに、X線源1では、X線管4と高圧電源部3との接続にあたって、バルブ20の他端側開口部34とターゲット支持体18との固定部分Wが高圧キャップ12によって包囲され、筒部8の内壁側から見通せないように遮蔽されている。これにより、X線発生動作時において、X線管4と筒部8の内壁との間の放電の発生を抑制することができる。
さらに、X線源1では、筒部8が絶縁ブロック9に固定され、X線管4のバルブ20が筒部8に収容され、高圧キャップ12が、筒部8の内壁から固定部分Wが見通せないように固定部分Wを包囲している。これにより、X線発生動作時において、X線管4の放熱性を高めることができるので、X線管4内部での放電の発生を抑制することができる。さらに、高圧キャップ12が固定部分Wを包囲することにより、X線管4と筒部8の内壁との間の放電の発生を抑制することができる。さらに、高圧キャップ12が、X線管4の管軸方向に沿って延びる壁部12aを有し、壁部12aが、筒部8の内壁から固定部分Wが見通せないように固定部分Wを包囲している。このため、固定部分W近傍の電界を乱すことがなく、より効果的に放電を抑制することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、種々の変形を適用することもできる。例えば、上述した実施形態では、遮蔽部42の形状は各角部42aがR状に面取りされて丸められた円板形状とされているが、この形状は例えば球体や楕円体といった角部を有しない形状としてもよい。
また、図4に示すように、筒状部材としてフランジを有する筒状部材40A及び筒状部材41Aを用いてもよい。この場合、筒状部材40A及び筒状部材41Aの互いのフランジを重ね合わせることで、フランジ同士を溶接によって固定することができる。さらに、図5に示すように、バルブ20の他端部は、テーパ状に小径化された狭窄部37Aとして形成してもよい。この場合には、狭窄部37Aの形状に合わせてテーパ状に小径化された筒状部材40Bを用い、遮蔽部42は、その主たる径(ここでは最大径)をバルブ20の本体部36より小さく、狭窄部37Aでの固定部分Wより大きくすることが好ましい。また、図6に示すように、ターゲット支持体18の一端側から他端側にかけて徐々に大径化して形成した遮蔽部42Aと、狭窄部37Aとを組み合わせてもよい。この場合には、遮蔽部42Aは、その最大径をバルブ20の本体部36より小さく、狭窄部37Aでの固定部分Wより大きくすることが好ましい。このような変形例においても、上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。