JP4707227B2 - 生体管路ステント - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、狭窄した生体管路を拡張する生体管路拡張具、動脈瘤等の生体管路障害部のカバー具などの生体管路ステントおよびその製造方法に関する。ここでいう生体管路とは生体内の管状組織を指し、具体的には血管、気管、消化管、尿管、尿道、卵管、胆管等を示す。
【0002】
【従来の技術】
従来、狭窄した血管、特に冠動脈の生体管路をもと通りに拡張する方法としてはバルーンカテーテルによる拡張方法、ロータブレータやDCA(方向性冠動脈粥腫切除術)による狭窄部位の切削方法、金属製ステントによる拡張および保持方法等の手段が開発され実際の手術現場で使用されている。また、これらの方法のうち、複数の手段を用いて狭窄部位の拡張を行うことも多い。現在、多く用いられている方法は動脈の狭窄部位が石灰化している場合はロータブレータやDCAにて石灰化している部分をデバルキングし、その後、バルーンカテーテルにて狭窄部位を拡張させる。石灰化していない場合はロータブレータやDCAを使用せず、バルーンカテーテルにて狭窄部位を拡張させることが多い。バルーンカテーテルの欠点は、バルーンを拡張する際、血管壁を無理に押し広げるため血管壁に亀裂が入り、損傷させるため、急性あるいは亜急性の血栓性血管閉塞が生じる危険性を常に内在していることである。また、狭窄部位の6ヶ月以内の再狭窄も50%程度と高頻度に生じている。特に前者の血栓性閉塞は術後突然生じる恐れがある。
【0003】
この急性あるいは亜急性の血栓性血管閉塞症を避けるため考案されたものが金属製ステントである。この金属性ステントは、バルーン拡張時の血管壁亀裂によるフラップやプラークを血管内腔から押さえるため、急性の血栓性閉塞率を大きく下げることに貢献している。また、従来ステント留置後、血栓が生じないよう後療法として抗凝固剤であるヘパリンの投与が行われていたが、現在では抗血小板剤であるアスピリンとチクロピジンの投与により、急性あるいは亜急性の血栓性閉塞症の発症率は1%以下に低下した。ステント留置後、血管では約7日から21日に内皮層がステント壁を覆うと言われている。従って、ステントの役割は実質的にこの時点で減少する。また、6ヶ月以内の再狭窄についてもバルーン単独使用に比較して金属ステントを使用することで再狭窄の発生率が低くなることをBENESTENT STUDYやSTRESS STUDYなどのトライアル試験によって明らかになっているが、依然として10%以上の再狭窄が生じていることからさらに再狭窄率を低くすることが重要である。
【0004】
金属製ステントは柔軟性に欠け、血管などの生体管路に物理的ストレスを与えやすく、再狭窄の原因として考えられる血管壁の炎症や内膜の過剰肥厚が生じるという問題の他、異物が生体内に永久に残るという問題がある。このような金属製のステントの問題を解決するため、樹脂製のステントを使用することが検討されてきた。例えば、特開平3−205059号公報、特開平5−103830号公報等が挙げられる。これらの特許はすべて生体吸収性素材を用い、特開平3−205059号公報は単繊維を作製し、これを編んだものである。また、特公平5−509008号公報は繊維だけではなく、円筒状に巻かれた多孔質あるいは孔を有している。また、特開平6−218063号公報では生体吸収性材料を素材とし、薬剤を含有した多層ラミネートフィルムからなるステントについて記述されている。特開平8−24346号公報には強度を高めるために生体分解性あるいは生体吸収性繊維を内側に挟んだ強化フィルムからなるステントについて記述されている。さらに、特表平10−503663号公報にはステントと組み合わせて使用するコラーゲンを素材とするスリーブあるいはライナーについて記されている。これまで公表されている金属製ステントに関する特許では初期の目的である、急性の血栓性冠動脈閉鎖検査に関してはその効果を発揮すると考えられるが、ステント内再狭窄に関してその効果は全く不明である。ステントの初期の目的を達成するためには、PTCAによって生じるフラップを押さえ、血管の収縮力に耐えるだけの硬さがステントにあれば十分であり、それ以上の硬さは必要ない。逆にこの硬さが強すぎ、さらに金属の如く長期に亘り血管内に留まると血管とのコンプライアンスの差により、血管に障害が生じる可能性も否定できない。特に金属製ステントではステント内再狭窄が生じた場合、その修復は容易ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
金属製ステントをデザイン面からみるとスロットチューブタイプとコイルタイプに大別することができる。生体吸収性繊維を用いたステントの特許も多く出願されているが、それらは繊維の特徴を利用したコイルタイプがほとんどである。コイルタイプはそのフレキシビリティーの高さから曲がりくねった生体管路に対するトレッカビリティー性は高いが、拡張力は小さい。本発明は拡張力が大きく、フレキシビリティーが高い生体管路ステントを提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、生体吸収性繊維の編み物または組紐状織物であり、繊維の端部を有しない筒状の生体管路ステントに関する。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において繊維としては、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸、撚糸、組紐などが含まれ、好ましくはモノフィラメント糸である。繊維の直径は0.01〜1.5mm程度である。ステントを使用する生体管路の種類、径によって適切な繊維径および種類が決定される。例えば、冠動脈に使用するステントの繊維径は0.05から0.2mmのモノフィラメント、直径が8mmの血管に用いるステントの繊維径は0.05mmから0.5mmのモノフィラメント、尿道ステントでは直径が0.7mmから1.5mmのモノフィラメントが好ましい。前記繊維は、延伸により配向結晶化していることが望ましい。結晶化の程度としては、繊維中に結晶が40〜60%程度含まれるのが好ましい。このような配向結晶化した繊維は、例えば繊維を5〜10倍程度延伸することにより製造できる。繊維の断面としては、円、楕円、その他の異形(例えば星形)などが例示できる。繊維表面は、プラズマ放電、電子線処理、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理等により親水化処理することもできる。
【0008】
生体吸収性繊維は、グリコール酸、乳酸(D体、L体、DL体)、カプロラクトン、ジオキサノン、エチレングリコールおよびトリメチレンカーボネートそれぞれの単独重合体およびこれら2種以上の単量体の組合せによる共重合体などの生体吸収性材料から構成される。
【0009】
生体吸収性素材を生体管路ステントの基材に使用することは、金属から作製された生体管路ステントに比較して多くの利点がある。特に、金属製ステントで問題となっているステント内再狭窄に関しては、生体吸収性ステントでは、生体内に吸収されることから、設置部分において再狭窄が生じたとしても再度ステンティングすることが可能となる。
【0010】
ステント留置期間は、目的とする生体管路によって異なる。冠動脈であれば、半年以上強度を保つ必要はない。また、前立腺ステントにおいては、1ヶ月以上の強度保持が必要である。生体吸収性素材はポリグリコール酸のように分解する期間が3ヶ月程度のものからポリ乳酸のように数年を要するものまであり、これら素材を選択すれば、用途に応じて必要な分解期間に適した素材を選択することが可能である。また、同一素材であっても、放射線、例えばγ線照射を行うことによって分解期間を短くすることも可能であり、ポリグリコール酸にγ線照射を行えば、強度半減期を1週間以内にすることも可能である。また、繊維製造時に水を誘導するような添加剤を添加したり、結晶化度、結晶構造によっても分解性、生体吸収期間をコントロールすることが可能である。また、これら生体吸収性ステントの弾性率は金属に比較して小さいため、血管の脈動に対する抵抗力は小さい。
生体吸収性繊維の表面(スプレー等による)または内部(含浸等による)の少なくとも一部には、X線不透過材(例えば、硫酸バリウム、金チップ、白金チップなど)、薬剤(例えば抗血小板剤、抗血栓剤、平滑筋増殖抑制剤など)などを付着させることができる。また、生体吸収性繊維の少なくとも一部をコラーゲン、ゼラチン等の天然高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の合成高分子からなる群から選ばれるいずれかのコーティング剤にてコーティングすることができる。該コーティング剤は、さらに血小板等の薬剤を含んでもよい。
【0011】
本発明の生体管路ステントは、繊維の端部を有しない点に特徴を有する。「繊維の端部を有しない」とは、組紐状織物のように、一本のつながった繊維からなり、かつ、該一本の繊維の末端をつなぎ合わせるか、あるいは複数の隣接する繊維の末端同士をつなぎ合わせることにより、繊維の末端をなくすることを意味し、また、組紐状織物が1本の繊維から構成されていることを意味している。
【0012】
本発明の生体管路ステントは、繊維の交差点を1または複数箇所で接合あるいは接着しても良い。繊維の末端同士のつなぎ合わせ、あるいは繊維の交差点における接着・接合は、熱による融着、溶剤による溶着、接着剤、あるいは合成あるいは天然の水溶性あるいは生体吸収性高分子を用いて行うことができる。合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリ乳酸、ポリ−ε−カプロラクトン等が例示され、天然高分子としてはゼラチン、コラーゲン、多糖類等が例示される。
【0013】
本発明の生体管路ステントは、編み物または組紐状織物の状態で熱セットされていても良く、縮径時に熱セットしても良い。熱セットの条件は、例えば使用する高分子のガラスゴム転移点以上融点以下の温度で30分〜24時間程度である。
【0014】
ステントの外側ないし内側に巻き付けられるフィルムないし布の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、フッ素系樹脂などが例示され、フィルムないし布の厚みとしては、20〜1000μm程度が提示できる。フィルムあるいは布は、ステントの外径あるいは内径に合わせて、筒状に成形、編成あるいは織成されていることが好ましい。フィルムと編み物または組紐状織物の固定は、熱による融着、溶剤による溶着、接着剤による接着、糸などによる結紮により行うことができる。
【0015】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
実施例1
直径0.3mmのポリ−L−乳酸製モノフィラメントを外径8mmのシリコーン製ゴム管の周りに8口組紐機を用いて組紐状織物を作製した(図2)。作製した組紐状織物を繊維が交差している部分で約3cmに切り、交差部分を熱により融着し、筒状体断端がつながった組紐状織物(筒状体)を作製した(図3)。
実施例2
実施例1にて作製した筒状体を直径8mmのステンレス棒に通し、真空乾燥機中、105℃にて1時間熱セットを行った。その後、ステンレス棒を抜き、バルーンカテーテルを筒状体に挿入する(図4)。筒状体をバルーン径まで長軸方向に引張り水溶性接着剤にてバルーンに固定する(図5)。筒状体がしっかりとバルーンに固定されてから、その外側にガイドシースを被せる(図6)。
実施例3 図7の如き模擬血管をシリコーンチューブで作製し、水流を流しながら目的部位までカテーテルを移動させ、ガイドシースを引張ってはずした。水溶性接着剤が溶けるとともに筒状体は拡張した。密着を確かなものとするために補助的にバルーンを拡張し、シリコーンチューブの内側に密着させた。(図8)。
実施例4 一本の糸から構成され、出来上がり仕様が、直径10mm、長さ30mm、断端の折り返し数8本あるいは12本となる生体管路ステント作製方法の一例を示す。糸は、直径100,300,あるいは600ミクロンのポリ-L-乳酸およびL-乳酸−ε-カプロラクトン共重合体(75:25)のモノフィラメントを用いた。作製方法は、まず、シリコーンチューブ、ポリスチレンチューブの両端の円周上にそれぞれ8本及び12本のピンを立てる。そのとき、片端のピンは、反対端のピンの中間に来るようにする。モノフィラメントをチューブに螺旋状に巻き、対側のピンで折り返していく。途中で交差するときには、隣の交点と繊維の上下関係が交互に替わるように編んでいく。開始点まで編み終わると、繊維の両端末を部分的に重ね合わせて編むことにより接合、固定した。接合は、溶着、融着、収縮チューブ、接着テープによってもよい。編成後、チューブとともに90℃あるいは105℃で真空下3時間加熱し、円筒の形状を熱セットした。
【0016】
【発明の効果】
本発明におけるステントは生体吸収性素材からなり、拡張力が大きく、フレキシビリティーが高い特徴を有し、構造、素材の選択によって、冠動脈、動脈、尿管等体内の生体管路に好適に用いることができる。即ち、分解期間の制御は素材による制御のみならず。多層化の素材の種類、膜厚により、また、発泡により制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維の末端がつながった本発明の生体管路ステントを示す。
【図2】組み紐の末端がつながっていないステントを示す。
【図3】組み紐の末端がつながったステントを示す。
【図4】バルーンカテーテルを筒状体に挿入した図である。
【図5】筒状体をバルーンに固定した図である。
【図6】バルーンの外側にシースを被せた図である。
【図7】シリコーンチューブで作製した模擬血管を示す。
【図8】模擬血管の内側にステントを密着させた図である。
【符号の説明】
1 生体吸収性繊維
2 接着部
3 生体管路ステント
4 ガイドシース
5 模擬血管(シリコンチューブ)
6 交差点
7 カテーテル
Claims (15)
- 繊維の直径が0.05mmから1.5mmの範囲のポリ−L−乳酸又は乳酸−ε−カプロラクトン共重合体(75:25)である生体吸収性モノフィラメント繊維の編み物または組紐状織物であり、繊維の端部が接合あるいは接着されていることを特徴とする筒状の生体管路ステント。
- 生体吸収性モノフィラメント繊維の編み物または組紐状織物が、1本の糸から構成されていることを特徴とする請求項1記載の生体管路ステント。
- フィラメントが配向結晶化していることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体管路ステント。
- 繊維の少なくとも一部の表面または内部にX線不透過材(硫酸バリウム、金、白金等)、あるいは抗血小板剤、抗凝固剤、平滑筋細胞増殖抑制剤等の薬剤が含まれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体管路ステント。
- フィラメントの断面が円、楕円または円および楕円以外の異形であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体管路ステント。
- 生体吸収性モノフィラメント繊維表面がプラズマ放電、電子線処理、コロナ放電、紫外線照射、オゾン処理等により親水化処理されることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体管路ステント。
- 生体吸収性モノフィラメント繊維の少なくとも一部がコラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アルギン酸等の天然高分子あるいはポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の合成高分子からなる群から選ばれるいずれかにてコーティングされていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体管路ステント。
- コーティング材に血小板剤等の薬剤が含まれていることを特徴とする請求項7記載の生体管路ステント。
- 合成水溶性高分子、天然水溶性高分子、合成生体吸収性高分子、あるいは天然生体吸収性高分子により交差点が接着されていることを特徴とする請求項1記載の生体管路ステント。
- 組紐状織物あるいは編み物の状態で熱セットされることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の生体管路ステント。
- 縮径時に繊維の交差点を接合あるいは接着することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の生体管路ステント。
- 合成水溶性高分子、天然水溶性高分子、合成生体吸収性高分子、あるいは天然生体吸収性高分子により繊維の交差点が接着されていることを特徴とする請求項11記載の生体管路ステント。
- 請求項1〜12のいずれかに記載のステントの外側、内側あるいはその両側にフィルムあるいは布を巻き付けた生体管路ステント。
- フィルムあるいは布がステントを構成する繊維と接合あるいは接着されていることを特徴とする請求項13記載の生体管路ステント。
- ステントの外側と内側を布あるいはフィルムにて巻き付ける際、布あるいはフィルムどうしを糸等にて結紮することによってステントを固定することを特徴とする請求項13記載の生体管路ステント。
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