実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1を示す冷蔵庫の正面図である。図2は、本発明の実施の形態1を示す冷蔵庫の側断面図である。図において、冷蔵庫本体1は最上段に観音開き式の冷蔵室2を備えている。冷蔵室2の下には製氷室3及び切替室4が左右に配設されている。冷蔵庫本体1の最下段には冷凍室6を備え、冷凍室6の上には野菜室5を備えている。この野菜室5は、左右に配設された製氷室3と切替室4の下方で、冷凍室6の上方に設けられている。(この野菜室5は、左右に配設された製氷室3と切替室4の下方で、冷凍室6の上方に設けられている。)
もちろん、各室の配置は本実施の形態を制限するものではなく、上段に設けられた冷蔵室2の下に製氷室3及び切替室4を左右に並列に配設し、これら左右に並列に配設された製氷室3及び切替室4の下方で、かつ下段に設けられた野菜室5の上部に冷凍室6を配設する、いわゆる左右に並列に配設された製氷室3及び切替室4と野菜室との間に冷凍室6を配設するミッドフリーザータイプの方が低温室が近接するため断熱材が不要であり、また、熱漏れも少ないので省エネルギーであり良い。
冷蔵室2の正面側開口部は、自在に開放、閉塞することができる観音開き式の冷蔵室扉7が設けられており、この冷蔵室扉7は、冷蔵室扉左7A、冷蔵室扉右7Bの2つにより観音式扉を構成している。もちろん、観音式扉ではなく、1枚式の回転式扉でもよい。貯蔵室である製氷室3、切替室4、野菜室5、冷凍室6には、製氷室3の開口部を自在に開口・閉塞することができる引出式の製氷室扉8、切替室4の開口部を自在に開放・閉塞することができる引出式の切替室扉9、野菜室5の開口部を自在に開放・閉塞することができる引出式の野菜室扉10、冷凍室6の開口部を自在に開放・閉塞することができる引出式の冷凍室扉11がそれぞれ設けられている。また、貯蔵室である冷蔵室2の左右の扉のいずれかには、貯蔵室内の温度設定などを行う操作スイッチや庫内温度や設定温度などの温度情報の表示を行う表示パネル60が設けられており、操作スイッチの操作情報や液晶表示部の表示情報や貯蔵室内の温度情報などが冷蔵庫本体背面上部(冷蔵室背面)に設けられたマイコンなどの制御装置30によって制御される。
冷蔵庫本体1の背面最下部に設けられている機械室1Aには圧縮機12が配されている。冷蔵庫本体1は、冷凍サイクルを備えており、圧縮機12は冷凍サイクルを構成する1部品であり、冷凍サイクル内の冷媒を圧縮する作用を有する。圧縮機12で圧縮された冷媒は凝縮器(図示せず)において凝縮される。凝縮された状態の冷媒は減圧装置である毛細管(図示せず)や膨張弁において減圧される。冷却器13は、冷蔵庫の冷凍サイクルを構成する1部品であり、減圧された冷媒は冷却器13において蒸発され、この蒸発時の吸熱作用により冷却器13周辺の気体は冷却される。冷気循環用ファン14は、冷却器13周辺で冷却された冷気を冷蔵庫本体1の各室(冷蔵室2、製氷室3、切替室4、野菜室5、冷凍室6)へと送風するためのものである。風量調整手段である切替室用ダンパ15は、冷気循環用ファン14により切替室4に送風される冷気の冷気量を調整し、切替室4内の温度を所定温度に制御したり、切替室4の設定温度を切り替えたりするためのものである。冷却器13で冷却された冷気が切替室冷却用風路16を通って、切替室4内に送風される。また、この切替室冷却用風路16は、切替室用ダンパ15の下流に配されている。
切替室4は貯蔵室内の温度を冷凍温度帯(−17℃以下)から野菜室温度帯(3〜10℃)までの間で複数の段階から選択可能な部屋(貯蔵室)であり、冷蔵庫1の冷蔵室扉7A、7Bなどに設置した操作パネル60を操作することで貯蔵室内の温度の選択や切替を行う。(操作パネル60には、冷蔵室、冷凍室、切替室などの貯蔵室を選択する貯蔵室選択スイッチ60a、切替室などの貯蔵室の温度帯(冷蔵、冷凍、チルド、ソフトフリージングなど)を切り替えたり、急冷や強・中・弱などを切り替える温度帯切替スイッチ60b、過冷却冷凍(瞬冷凍ともいう)選択スイッチ60c、製氷に関して、透明氷、通常、急速、停止などを選択する製氷モード選択スイッチ60dを備えている。)切替室4の奥側壁面には、切替室4内の空気温度を検知するための第1の温度検出手段である切替室サーミスタ19を設置し、切替室4の天井面(中央部、前面部、あるいは後面部など)には貯蔵室である切替室4内に投入された貯蔵物の表面温度を直接的に検出するための第2の温度検出手段であるサーモパイル22(あるいは赤外線センサ)を設置している。冷却器室から切替室4に冷気を送る風路には、風量の制御や風路を遮へいして冷気の流入を阻止することができる風量調整装置である切替室ダンパ15を設け、切替室サーミスタ19の検出温度(あるいはサーモパイル22の検出温度)により切替室ダンパ15を開・閉することで、切替室の温度を選択された温度帯に調整したり、設定された温度範囲内に入るように制御装置30にて制御される。
図3は、本発明の実施の形態1を表す冷蔵庫1の制御基板30のブロック図である。制御基板30にはマイクロコンピュータ(以降マイコン)31を搭載し、予め記憶しているプログラムにより、冷蔵庫1の各貯蔵室の温度制御や圧縮機12や庫内ファン14の回転数制御やダンパ15の開閉制御などを行っている。第2の温度検出手段であるサーモパイル22の検出信号はマイコン31に入力され、マイコン31内で演算処理されて食品などの表面温度に換算された後、急速冷冷凍制御や過冷却冷凍制御など所定の温度制御を行う。また、第1の温度検出手段であるサーミスタ19の検出温度は、所定値と比較して温度判定を行い、所定値の温度範囲内に入るように制御を行う。また、制御装置30は冷蔵室扉7Aや7Bに設けられた表示パネル(操作パネル)60に各貯蔵室の設定温度や食品(表面)温度などを表示する。
ここで、第1温度検出手段であるサーモパイル22と第2の温度検出手段であるサーミスタ19の検出温度の違いについて説明する。図4は、サーミスタとサーモパイルとの温度検出例を表した図であり、図4(a)は、サーミスタとサーモパイルとの温度検出の違いを示した図であり、貯蔵室内に測定対象物(貯蔵物)を投入した時の測定対象物の実際の表面温度、サーミスタ19により検出された温度、サーモパイル22により検出された温度を表している。図において、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。サーモパイル22は測定対象物の温度推移に対する反応が速く、測定対象物の温度推移とほぼ同等の温度・時間変化をしているのに対し、サーミスタ19は空気を介して間接的に対象物の温度を検出するため、測定対象物の温度推移に対して時間遅れが発生し、また、急激な温度変化には対応できていない。このサーミスタ19は、投入された食品などの温度変化に対しては、直ぐに反応するわけではなく、時定数を持って変化していくのが特徴である。
図4(b)はサーモパイル22の検出温度の推移・変化を示した図である。貯蔵室内に測定対象物(貯蔵物)を投入した時の測定対象物の実際の表面温度、サーモパイル22により検出された温度、演算により平滑化したサーモパイルの検出温度、測定対象物の周囲温度(貯蔵室内温度など)を表している。図において、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。測定対象物の周囲温度は、冷蔵庫の温度制御により所定の温度範囲に制御されるため、測定対象物の周囲温度も所定の範囲内で変動しているが、このような所定範囲内で変動する環境であっても、サーモパイル22は、測定対象物の温度変化に略追従した温度を検出している。測定環境(貯蔵室)などに測定の対象となる対象物をいれると、サーモパイル22は対象物の表面温度だけでなく、周囲の温度も一緒に検出するので、周囲温度の変動分も同時に検出することとなる。
つまり、測定対象物の温度は、周囲温度の変化に比べると安定して変化するのだが、周囲温度の変動の影響も受けて、サーモパイル22の検出温度が変動することとなる。このように、周囲温度が変化する不安定な環境のなかでも比較的安定的に温度が推移する対象物の温度を検出する場合には、変動分を見越して(予測して)平滑化する演算などの処理を行えばよい。本実施の形態では、図4(b)に示すように、サーモパイル22検出温度を平滑化処理した温度も示しており、必要に応じて、平滑化した温度を適用することで測定対象物の表面温度が実使用上問題ないレベルで精度良く検出できる。
ここで、サーモパイル22の冷蔵庫1の貯蔵室へ取り付ける場合の取り付け例を説明する。図5は本発明の実施の形態を表すサーモパイルの冷蔵庫の貯蔵室に取り付ける際の取り付け構造のイメージ図である。サーモパイル22は、食品などの対象物が発する赤外線を受光して温度を検出するものであるが、赤外線は物体を透過する際に減衰してしまう特性があるため、サーモパイル22と対象物の間には赤外線の通過の障害となる物が何も存在しない方が好ましい。また、サーモパイル22は、表面に異物や水滴などが付着すると赤外線が受光しにくくなるので、貯蔵物(食品など)の汁が付着した場合、人が触って指紋がついた場合、表面が結露した場合などは、サーモパイ22と対象物との間に障害物が存在することになるので、赤外線が到達しにくくなり、冷蔵庫などのように周囲温度が低い環境では対象物の温度を低めに検出してしまうなど測定精度が悪くなってしまう。
また、サーモパイル22は電子部品なので、結露による充電部のショートを防止する必要があるし、安全性確保のため人の手や指が触れないような構造にする必要がある。したがって、本実施の形態では、図5に示すようにサーモパイル22の周囲にサーモパイル22から徐々に開口が大きくなるようなすり鉢状の傾斜を有するカバー23を取り付けるようにしている。カバー23のすり鉢の中心部(サーモパイル22に近い側)にサーモパイル22の大きさと略同等の大きさである直径約3mm程度の穴をあけており、赤外線が直接入射できるようにしている。また、すり鉢の中心部の穴とサーモパイル22との間は水滴やごみなどが進入しないようにシール材や接着剤などによりシールしても良い。
また、すり鉢の庫内側開口穴の大きさについても4〜8mm程度として指が進入しにくい大きさであり、しかもすり鉢状で傾斜角を有し、すり鉢の穴の深さを1〜6mmを確保しているから、人の指が進入しても開口穴の途中で指が止まるので、開口穴中心部のサーモパイル22に触れることができず、サーモパイル22の汚れ付着防止や安全性が確保できる。すり鉢状にすることで、冷蔵庫の貯蔵室内に設置しても、すり鉢の傾斜部を通ってサーモパイル22の表面を這うような空気の流れができるので、結露もしにくくなる。また、すり鉢状の開口穴は、貯蔵室や貯蔵室ケース内の食品などの貯蔵物がどの位置に置かれても検出できるように貯蔵室内の所定位置に配置され、また、すり鉢状の開口穴の傾斜角度は、貯蔵室や貯蔵室ケース内の食品などの貯蔵物がどの位置に置かれても温度検出できるような視野範囲が得られるように設定されている。
ここで、カバー23はすり鉢状でなくても良く、サーモパイル22が庫内側に露出し赤外線を受光する部分であるカバーの中心開口穴(直径約3mm)の周囲に高さ1〜6mm、幅1〜3mm程度の庫内側に突出するリブを設けた構造でも良い。リブの幅や高さは、指が中心開口穴内のサーモパイル22に触れることなく、しかも貯蔵室4内、あるいはケース17内の少なくとも底面のほぼ全域よりの赤外線を受光できるように決めれば良い。
次に、貯蔵室である切替室4の中に食品等の貯蔵物を入れた場合の動作を説明する。図6は本発明の実施の形態を表す冷蔵庫の切替室のケースを横から見た図である。図6において、貯蔵室である切替室4内には、少なくとも一部が開口した切替室ケース17が設置されており、この切替室ケース17内に食品などの貯蔵物25が保存される。切替室4のなかに貯蔵物25を入れた時、サーモパイル22は、貯蔵物の表面温度と貯蔵物25の周辺のケース17の表面温度を合せた温度として検出する。すなわち、サーモパイル22は、貯蔵物の表面温度と貯蔵物25の周辺のケース17の表面温度とをカバー23のすり鉢の傾斜角度範囲(視野範囲)に対して寄与度(Φ)を掛け合わせたものの和として温度を検出することになるから、貯蔵物25の表面温度そのままを検出するわけではない。ここで、寄与度(Φ)は貯蔵物25の大きさ(表面積)、温度によって変動する定数であると考えることができる。
図7は、本発明の実施の形態を表す冷蔵庫のサーモパイルの検出温度の時間変化を表す図である。約−7℃に設定された貯蔵室4内に測定対象物(貯蔵物)25を投入した時の測定対象物の実際の表面温度、サーモパイル22により検出された検出温度、演算により平滑化した測定物の推定温度、測定対象物の周囲温度(貯蔵室内温度など)を表している。図において、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図7は、例えば10℃、表面積5000mm2程度の食品を−7℃程度のケース17の中に入れた場合のサーモパイル22の検出温度の時間変化を表したものである。図においては、貯蔵室である切替室4内に貯蔵物25を投入する前のあるタイミングを測定開始(時間0分)として、ある時間が経過した時点で切替室4内に貯蔵物25を投入した場合の時間経過を表している。
貯蔵室である切替室4内に貯蔵物25を投入する前のあるタイミングである時間0分から貯蔵物投入まではサーモパイル22は、貯蔵室である切替室4内の壁面(底面、側壁)温度あるいは貯蔵室ケースである切替室ケース17のケース温度を検出するから、サーモパイル22の検出温度Ttpはケース17の温度Tcとほぼ等しくなる。時刻txで約10℃の貯蔵物を投入すると、サーモパイル22は投入された貯蔵物の温度だけでなく、ケース17の温度も検出するので、実際の貯蔵物25の(表面)温度約10℃でなく貯蔵物25とケース17の中間的な温度である約5℃を検出している。時間経過に伴って貯蔵物25が冷却されていくとサーモパイ22の検出温度も低下していく。
本発明では、寄与度(Φ)を使用してサーモパイル22にて貯蔵物25の表面温度を推定する。寄与度(Φ)はサーモパイル22の検出温度に対する貯蔵物25の寄与度であり、寄与度(Φ)の影響を求めることによって、貯蔵物25の表面温度が推定できる。寄与度Φは、図7における貯蔵物投入前後のサーモパイル22の検出温度の温度差(変化量ΔTtp)に表れてくる。寄与度Φが大きいほどサーモパイル22の検出温度Ttpは貯蔵物25の表面温度Txに近い値を検出し、逆に寄与度Φが小さいほどサーモパイル22の検出温度Ttpは周辺ケース17の温度Tcに近い値を検出することになる。つまり、貯蔵物25を切替室4内あるいは切替室ケース17内に入れる前後のサーモパイル22の温度差(変化量ΔTtp)によって、投入された貯蔵物25の寄与度Φを推定することが可能である。図8に温度差(変化量ΔTtp)と寄与度(Φ)の相関の一例を示す。
図8はサーモパイルの検出温度と貯蔵物温度との温度差(変化量)と寄与度Φの関係を表した図である。図において、横軸は変化量(貯蔵物投入前後のサーモパイルの検出温度の温度差(ΔTtp))を表し、縦軸は寄与度Φを表している。本発明の実施の形態では、実験などにより温度差ΔTtpと寄与度Φの関係を把握してデータベース化して制御装置(制御基板)30に記憶させている。(または、複数のデータより関係式の推定曲線を作成して、数式として記憶していても良い。図より温度差ΔTtpの増加につれて寄与度Φが大きくなることが確認できる。
図7において、貯蔵物Xの表面推定温度T1は、本発明における寄与度Φを使用して貯蔵物の瞬時の表面温度を推定するものである。サーモパイル22の検出温度に対する、貯蔵物Xの寄与度をΦとしたとき、サーモパイル22の検出温度Ttpは、貯蔵物の実際の表面温度Txとケース17の温度Tcとの関係より下記の関係式で表現できる。
サーモパイル22の検出温度 Ttp=Φ×Tx+(1−Φ)×Tc … (1)式
寄与度Φは、投入する貯蔵物25の温度・大きさ、ケース17の温度の関係から決まる定数であり、実験などにてパラメータを変化させて、寄与度、貯蔵物の表面温度、ケース17の表面温度の関係を求めてデータベース化して制御装置30に記憶させておき、(1)式におけるTxにT1を代入して展開して得られる下記(2)式に対して記憶装置30に記憶された寄与度Φを使用することで貯蔵物25の表面温度T1を導くこととする。ここで貯蔵物を入れる前にはサーモパイル22はケース17の温度を検出していることとなるから、(2)式におけるTcとほぼ同値になる。また、(2)式におけるケース17の温度Tcとは、測定の対象となる貯蔵物25以外のものの温度を示すものである。ケース17に貯蔵物25を入れる前に、既に他の貯蔵物が貯蔵されている場合は、先に入れていた貯蔵物の温度も含めてケース17の温度Tcと考えればよく、すなわち、ケース17の温度Tcとは、測定対象の貯蔵物を投入する前のサーモパイル22の検知温度であるといえる。このようにして、(2)式における、寄与度Φ・ケース17の温度Tc・サーモパイル22の検出温度Ttpの値が定まるため、ある瞬間での貯蔵物表面温度T1を算出することが可能となる。
実際の貯蔵物表面温度T1=(Ttp−Tc)/Φ+Tc … (2)式
貯蔵物の大きさ・温度が異なっても、寄与度Φが等しくなる場合もあるし、また、サーモパイル22の感度は視野角によって異なることから、瞬時的に演算した貯蔵物の温度T1は実際の貯蔵物温度とは異なる場合がある。この差はサーモパイルの視野範囲に対して貯蔵物の表面積が占める割合が小さいほど大きくなる。貯蔵物25が冷却されてケース17の温度に近づいていくと、表面積の占有率のサーモパイル検出温度への影響度が低下し、その結果、推定温度T1の演算精度が向上していく。つまり、演算を繰り返し行っていくにつれて、演算精度も向上していくことになる。寄与度Φは貯蔵物25を投入する前のサーモパイル22の検出温度と貯蔵物25を投入直後の最も温度が上昇したときのサーモパイル22の検出温度との温度差(変化量)により図8より求めることができる。
ここで、表面積が同じでも熱容量が異なる貯蔵物をそれぞれ投入した場合の寄与度Φについて検討する。図9は、熱容量と寄与度の関係を説明するための要部断面図である。図9において、貯蔵室4内のケース17内に初期温度Ttpoの貯蔵物25が投入されている。貯蔵室4の天井面や側壁などの設けられたサーモパイル22には、受光部の汚れなどを防止するためのカバー23が設けられており、すり鉢状の開口穴が所定の傾斜角度で傾斜していることにより、サーモパイル22によってケース17内の底面のほぼ全域の温度が検出可能となっている。すなわち、貯蔵室4内あるいはケース17内の底面のほぼ全域の温度が検出可能とるようにカバー23のすり鉢状の傾斜角度が決められている。ここで、貯蔵室4あるいはケース17の底面の長さS1に対し、貯蔵物の長さがS2であるとすれば、熱容量が異なる2つの貯蔵物a、貯蔵物b(熱容量はa<b)が投入されたとした場合、寄与度Φは熱容量に関係なくΦ=S2/S1となり同じ値となる。
ここで、表面積が同じでも熱容量が異なる貯蔵物をそれぞれ投入した場合の温度変化について考える。まず、サーモパイル22の視野範囲(赤外線の受光範囲)に対する平面的な占有率は表面積に依るから、熱容量によらず、表面積が等しく初期の温度が同じ場合の貯蔵物a,bに対する寄与度Φは同値となる。しかし、熱容量の異なる貯蔵物a、bは、同じ冷却条件であっても冷えやすさが異なる。この冷えやすさ/冷えにくさは、(2)式で示す関係式ではサーモパイル22の検出温度Ttpに表れてくる。冷えやすいもの(熱容量の小さな貯蔵物a)の場合はTtpが比較的早く低下していき、逆に冷えにくいもの(熱容量の大きな貯蔵物b)の場合はTtpがなかなか低くなっていかない。つまり、(2)式の関係式による演算を繰り返し行っていくにつれて、貯蔵物の冷えやすさ/冷えにくさといった熱容量が考慮されながら貯蔵物の実際の表面温度Tx、推定表面温度T1、検出温度Ttpともに低下していき、推定温度T1が実際の表面温度Txに近づいていくので、演算精度も向上していくこととなる。
図10は図9の環境において熱容量が異なるが表面積が同じ貯蔵物を投入した場合の貯蔵物の実温度Txおよび貯蔵物の推定温度T1のそれぞれの時間変化を模式的に表した図であり、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図において、実線が熱容量の小さな貯蔵物aを表し、点線が熱容量の大きな貯蔵物bの温度を表している。ここで、太線は貯蔵物の実際の表面温度Tx、細線が貯蔵物の表面温度の推定温度T1を表している。また、貯蔵物aおよび貯蔵物bの実際の初期温度はともにTxoとし、サーモパイル22の初期の検出温度はTtpoとする。
図において、表面積が同じである場合、熱容量の小さな貯蔵物aの実際の温度(太線実線)の方が熱容量の大きな貯蔵物bの実際の温度(太線点線)よりも温度低下が早くなっており、熱容量の小さな貯蔵物aの実際の温度(太線実線)が所定温度Tz(たとえば凍結点近辺温度である1〜−2℃)に到達する時間は、taであり、熱容量の小さな貯蔵物bの実際の温度(太線点線)が所定温度Tzに到達する時間はtb(ta時間よりもtb時間の方が大きい:ta<tb)となる。したがって、表面積が同じであれば、実際の表面温度Txは、熱容量の小さい貯蔵物aの方が、貯蔵物aよりも熱容量の大きな貯蔵物bの方よりも、所定温度Tzに到達する時間は早くなる。
ここで、熱容量の小さい貯蔵物aも、貯蔵物aよりも熱容量の大きな貯蔵物bについても、サーモパイル22の検出温度Ttpと実際の表面温度Txとは貯蔵物投入時はかなり離れているので、サーモパイル22の検出温度Ttpだと実際の貯蔵物の表面温度を把握することができないが、本実施の形態では寄与度Φを使用してサーモパイル22の検出温度Ttpから実際の表面温度Txを推定するようにしているため、貯蔵物の実際の表面温度が推定できる。このとき、推定温度T1は貯蔵物投入時点では実際の表面温度とはかけ離れているが、推定温度T1は、貯蔵物の熱容量により時間差が生じるが、時間経過とともに実際の表面温度Txに近づいていき、いずれは推定温度が実際の温度Txと同等となる。熱容量の小さい貯蔵物aの方が、熱容量の大きな貯蔵物bよりも、推定温度T1が実際の貯蔵物の表面温度Txに早く(ta1時間)近づくが、熱容量の大きな貯蔵物bもtb1時間(tb1>ta1)で実際の表面温度Txに近づく。したがって、寄与度Φによる温度推定を繰り返し行えば、寄与度Φによる推定温度にて貯蔵物a、bの実際の表面温度Txが推定できる。ここで、もし所定の温度に到達する所定時間が必要な場合は、貯蔵物の大きさなどにより予め所定時間を実験などにより求めて制御手段30に記憶させておけば良い。
図11は、寄与度Φを使用して貯蔵物の表面温度を推定するためのフローチャート図である。図において、初期温度検出ステップS1では、サーモパイル22にて食品投入前の貯蔵室4内やケース17内の温度Tcを検出する。その後、食品投入ステップS2にて食品などの貯蔵物25が貯蔵室4内やケース17内に投入される。貯蔵物投入直後温度検出ステップS3では、貯蔵物が投入されてサーモパイル22の検出温度が急激に上昇するが、この上昇した検出温度の最大値Ttpmを検出する。変化量算出ステップS4では、貯蔵物投入直後の検出温度の最大値Ttpmと貯蔵物投入前の検出温度Tcとの温度の差を変化量ΔTtpを算出する。そして寄与度算出ステップS5では、変化量算出ステップS4にて求められた変化量ΔTtpより予め制御手段30に記憶されている図8にて一例を示したような変化量と寄与度の関係式や数値テーブルなどから寄与度Φを選択する。
貯蔵物温度検出ステップS6にて、投入された貯蔵物およびケース17などを含む貯蔵物25の投入後所定時間経過後のサーモパイル22の温度Ttpを検出する。貯蔵物温度推定ステップS7では、貯蔵物投入前検出温度Tc、貯蔵物投入後温度Ttp、寄与度算出ステップS5にて選定された寄与度Φより式(2)にて貯蔵物25の表面温度T1を推定する。そして、過冷却冷凍を行う場合には、凍結点近傍温度判定ステップS8にて、貯蔵物推定温度T1が所定温度である凍結点近傍温度(たとえば0℃)以下かどうかを判定する。貯蔵物推定温度T1が凍結点近傍温度(たとえば0℃)よりも大きい場合には、貯蔵物温度検出ステップS6の戻る。貯蔵物推定温度T1が凍結点近傍温度(たとえば0℃)以下の場合には貯蔵室4内の設定温度を−7〜−12℃程度まで下げて貯蔵物25の温度を今までよりも急激に低下させて過冷却状態を解除させ、その後、貯蔵物全体を凍結させて過冷却冷凍が完了する。
図6や図9では、切替室4内に1つの貯蔵物を入れた場合の例を示したが、図12に示すように、複数の貯蔵物(図12では2つの貯蔵物)を同時に投入した場合も同様に考えることできる。図12は本発明の実施の形態を表す冷蔵庫の切替室のケースを横から見た図である。図12において、貯蔵室である切替室4内には、少なくとも一部が開口した切替室ケース17が設置されており、この切替室ケース17内に食品などの複数の貯蔵物25a、25bが保存される。例えば、貯蔵物25aと貯蔵物25bの2個の貯蔵物をケース17内に投入した場合、(2)式中、Tcは上述と同等であり、貯蔵物25a、25bを入れる前のサーモパイル22の検出温度Ttpを使用すればよい。貯蔵物25a、25bを投入後は、サーモパイ22の検出温度Ttpには、2つの貯蔵物の温度の影響を同時に受けるから、見かけ上ひとつの貯蔵物として扱うことが可能である。つまり、(2)式は、これから冷却する貯蔵物とそれ以外(たとえばケースなど)との関係式と考えることができるので、貯蔵物が複数投入されていても1個の場合同様に考えることができる。すなわち、貯蔵物の温度とそれ以外の部分の温度との温度影響度合いを区別するという意味と捉えることができるから、推定表面温度T1の温度推定式(2)は、複数の貯蔵物であってもなくても貯蔵物投入のあらゆる組合せに対して適用が可能である。
ここで、サーモパイル22の取り付け位置は切替室4の天面中央部として説明していたが、図13に示すようにたとえば切替室4の天上面手前側や天上面奥側に設置し傾けて中央部を見るように設置しても良い。図13は本実施の形態を表す冷蔵庫の切替室内の表面温度検出手段であるサーモパイルの設置位置を示す図であり、図13(a)は、サーモパイルを切替室内の天上面手前側に配置した図、図13(b)はサーモパイルを切替室内の天上面奥側に配置した図である。図において、切替室4内には切替室ケース17が設置され、内部には貯蔵物25は貯蔵されている。また、切替室4の天上面の手前側あるいは奥側に表面検出手段であるサーモパイル22が設けられている。サーモパイル22は手前側や奥側に設置されているため、ケース17の内面の略全面(少なくとも底面)よりの赤外線を受光できるように傾斜させて取り付けられている。対象物(貯蔵物)25の温度と同時に、切替室4内のケース17の壁面の温度を測定することとなり、(2)式により貯蔵物表面推定温度T1を求める(推定する)際のケース17の温度Tcをより安定的に正確に検出できることができる。
以上のように、本実施の形態では、サーモパイル22の検出温度をそのまま使用するのではなく、寄与度Φと貯蔵物の周辺温度等の関連情報を基に推定・換算することで、貯蔵物の実際の表面温度を精度良く推定することが可能となる。本実施の形態では、冷凍温度帯での用途として実際の表面温度の推定方法(温度換算手法)を適用しているが、冷凍温度帯のみならず、冷蔵温度帯等でも同様に適用が可能であり、例えば冷蔵室での冷蔵温度帯で貯蔵される貯蔵物の実際の表面温度の推定にも適用可能である。
上記実施の形態では、サーモパイル22の検出温度を寄与度Φ、周辺温度等の関連情報を基に推定・換算することによる、温度推定・検出方法について説明したが、次にサーモパイル22の検出温度を直接使用して貯蔵物の実際の表面温度を推定する方法について説明する。上記実施の形態で説明したように、貯蔵物25の投入前後でのサーモパイル22の検出温度の変化量(上昇量)は、入れられた貯蔵物25と周辺ケース17との温度の関係(貯蔵物25の投入前温度の違いや貯蔵物25の表面積の大きさなど)によって決まる。たとえば2つの貯蔵物において、サーモパイル22の検出温度に対する温度影響度が同じ程度の貯蔵物の場合、ある温度まで冷やすのに必要な冷却時間もほぼ等しくなる。貯蔵物25の投入前後でのサーモパイル22の検出温度の変化量が大きいほど所定温度Toに到達するまでの貯蔵物の冷却時間は長くなり、変化量が小さいほど貯蔵物の冷却時間は短くなる。
図14は、本実施の形態の冷蔵庫のケース内貯蔵物のサーモパイルの検出温度の時間経過を示した図である。図において、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図において、貯蔵物投入時を時間0とし、貯蔵物投入前の貯蔵室4内の温度(たとえばケース17の温度)をTcとしたとき、サーモパイル22の検出温度に対する温度影響度が同じ程度の貯蔵物d1〜d4を投入したときのサーモパイル22の検出温度の時間経過を示している。図より、貯蔵物を投入した直後のサーモパイル22の検出温度は、d1が一番大きく、d2、d3、d4と順に小さくなっているが、これは、貯蔵物の投入前温度がd1が一番大きく、d2、d3、d4の順に小さいためである。図より分かるように、サーモパイル22の検出温度に対する温度影響度が同じ程度の貯蔵物の場合、ある温度(図では所定温度Tz)まで冷やすのに必要な冷却時間はほぼ等しくなる。貯蔵物25の投入前後でのサーモパイル22の検出温度の変化量(上昇量)が大きい(図では貯蔵物d1)ほど所定温度Tzに到達するまでの貯蔵物の冷却時間は長くなり、変化量(上昇量)が小さい(図では貯蔵物d4)ほど貯蔵物の冷却時間は短くなる。
この冷却時間を実験などによって確認して図15のようなデータベースを作って制御装置30に記憶させるなどしておけば、投入された貯蔵物がある温度(たとえば所定温度ToやTz)まで冷える時間を推定することが可能となり、その結果、貯蔵物の温度変化が推定可能となる。図15は、本実施の形態を表す冷蔵庫の貯蔵物を投入してから所定温度になるまでの冷却時間を表す図である。図は、貯蔵物投入前後のサーモパイル検出温度の温度変化量(温度差)を表している。図は、変化量と到達温度の違いによる冷却時間をデータベースの参考例としてまとめたものである。図より到達温度が低いほど到達温度に到達するまでの所要時間(冷却時間)が長くかかり、また、変化量が大きいほど所要時間(冷却時間)が長くかかっている。
図において変化量が0であっても、冷却時間が0となっていない理由は、図15における変化量とは、サーモパイル22の検出した貯蔵物投入前後の温度変化を表すので、貯蔵物投入前のサーモパイルの検出温度が設定温度である−7℃であり、投入される貯蔵物が所定の温度(たとえば+10℃)を有していても、貯蔵物の表面積が小さくてケース17などに比べても小さい場合、貯蔵物のサーモパイル22の検出温度に対する寄与度が小さくなり、サーモパイル22は、+10℃の貯蔵物が投入されたにもかかわらず−7℃(変化量0)として検出してしまう可能性がある。しかし実際の貯蔵物の温度は−7℃になっていないため、本実施の形態では所要時間だけ冷却するようにしている。したがって、本実施の形態では、貯蔵物の大きさ(表面積の大きさ)を考慮した貯蔵物の温度推定が行え、所定温度になるまでの冷却時間も推定できる。
ただし、図15に示すような変化量と冷却時間のみのデータベースだけでは、冷却中に冷蔵庫1の扉が開放されて貯蔵室内に庫外の暖かい空気が入ってきた場合等、冷却時間が延びる場合などは許容できない。そこで、本実施の形態では、貯蔵物を投入して冷却開始からの温度変化度合い(温度低下速度)を計測して、冷却必要時間を修正するフィードバック制御を加える制御を実施するようにしている。このように冷却時間を修正する制御を行うことで冷却時間の調整が可能となり、その結果、外的要因による冷却時間への影響も考慮した貯蔵物の温度変化や冷却時間が推定可能となる。また、温度低下速度を計測するようにしておけば、投入された貯蔵物の熱容量も考慮されることが可能となる。
図16は、本実施の形態を表す冷蔵庫におけるサーモパイル検出温度の温度低下速度による冷却時間の補正について説明するための図である。図において、横軸は時間を表し、縦軸は温度を表している。図において、貯蔵物を投入したときのサーモパイル22の時間経過に対する温度低下割合(温度低下の傾き)がθ2だとして、途中で扉の開閉などがあって温度低下割合がθ2よりも小さいθ3になったとした場合には、図15にて得られた所定温度に到達するまでの所要時間(冷却時間)に所要時間の調整分として調整時間(たとえば+10分)を加えれば、扉開閉などがあって冷却速度に変化があっても所定温度に到達する所要時間(冷却時間)が推定できる。また、逆に貯蔵物を投入したときのサーモパイル22の温度低下割合がθ2だとして、途中から温度低下割合がθ2よりも大きなθ1になったとした場合には、図15にて得られた所定温度に到達するまでの所要時間(冷却時間)に所要時間の調整分として調整時間(たとえば−10分)を加えれば、冷却速度に変化があっても所定温度に到達する所要時間(冷却時間)が推定できる。したがって、本実施の形態では、時間経過に対する温度低下割合(温度低下の傾き)から投入された貯蔵物の熱容量の推定が行え、貯蔵物の熱容量も考慮した貯蔵物が所定温度になるまでの冷却時間が推定できる。
図17はサーモパイル検出温度から必要な冷却時間を推定・修正するためのフローチャート図である。図において、初期温度検出ステップS21では、サーモパイル22にて食品投入前の貯蔵室4内やケース17内の温度Tcを検出する。その後、食品投入ステップS22にて食品などの貯蔵物25が貯蔵室4内やケース17内に投入される。貯蔵物投入直後温度検出ステップS23では、貯蔵物が投入されてサーモパイル22の検出温度が急激に上昇するが、この上昇した検出温度の最大値Ttpmを検出する。変化量算出ステップS24では、貯蔵物投入直後の検出温度の最大値Ttpmと貯蔵物投入前の検出温度Tcとの温度の差を変化量ΔTtpを算出する。そして到達時間推定ステップS25では、変化量算出ステップS24にて求められた変化量ΔTtpより予め制御手段30に記憶されている図15にて一例を示したような変化量と必要到達温度別の冷却必要時間の数値テーブルや関係式などから冷却に必要な所要時間troを選択する。
冷却到達時間経過判定ステップS31では、到達時間推定ステップS25にて選択された冷却に必要な所要時間(到達予想時間)troを貯蔵物25を投入してからの時間が経過したかどうかを判定する。もしも冷却に必要な所要時間(到達予想時間)troを経過していれば、必要な到達温度まで冷却された判断する。冷却に必要な所要時間(到達時間)troを経過していない場合は、冷却低下速度検出ステップS32にて、サーモパイル22の検出温度の低下速度θ(例えば図16のθ1、θ2、θ3などに相当)を計測する。
そして低下速度第1判定ステップS33にて計測した低下速度θが所定の第1低下速度(例えば図16のθ1)よりも早いかどうかを判定する。低下速度θが所定の第1低下速度(例えば図16のθ1)と同等かそれよりも早い場合は、冷却に必要な所要時間(到達予想時間)を修正時間(例えば10分)だけマイナスして冷却到達時間経過判定ステップS31に戻る。低下速度θが所定の第1低下速度(例えば図16のθ1)よりも遅い場合は、低下速度第2判定ステップS34にて計測した低下速度θが所定の第2低下速度(例えば図16のθ2)よりも遅いかどうかを判定する。低下速度θが所定の第2低下速度(例えば図16のθ3)と同等かそれよりも遅い場合は、冷却に必要な所要時間(到達予想時間)を修正時間(例えば10分)だけプラスして冷却到達時間経過判定ステップS31に戻る。低下速度θが所定の第2低下速度(例えば図16のθ3)よりも早い場合は、到達予想時間に修正を加えずそのままとして冷却到達時間経過判定ステップS31に戻る。
ここで、過冷却冷凍を行う場合の貯蔵物の冷却条件について説明する。過冷却冷凍を行うためには、貯蔵物を特殊な冷却条件で冷却する必要がある。貯蔵物が1〜−2℃近辺(凍結点近辺)まで冷えるまではゆっくりと冷却して、できるだけ貯蔵物の表面と中心温度(芯温)との間に温度勾配(温度差)をつけないようにすればよい(温度差が小さくなるようにすれば良い(温度差2〜5K程度が望ましい))。貯蔵物が1〜−2℃近辺(凍結点近辺)まで冷えた以降は、貯蔵室内の設定温度を変更(たとえば−7℃や−10℃)して貯蔵物周辺の温度を低下させ、貯蔵物を凍結温度以下(例えば−7℃)まで冷やしこんでいくことで、過冷却冷凍が実現できる。過冷却冷凍においては、貯蔵物の表面温度が1〜−2℃近辺になるまでは設定温度を1〜−3℃程度にしてゆっくりと冷却させ、貯蔵物の表面温度が1〜−2℃近辺になるタイミングから貯蔵物周辺の温度をさらに低下させていくことが重要であるが、本発明の実施の形態で説明した貯蔵物温度の推定方法を使用して貯蔵物の表面温度を推定することで、設定温度の切り替えのタイミングを把握できるので、過冷却冷凍が実現可能となる。
サーモパイル22で検知する温度は貯蔵物の表面の温度となるが、過冷却冷凍では貯蔵物の全体の温度が略均一(表面と芯温の温度差が小さい方)がのぞましい。すなわち、表面温度だけでなく芯温が1〜−2℃になっていることが重要である。しかし、本実施の形態では、上述したように過冷却冷凍を行うために特殊な冷却条件(貯蔵物の表面温度が1〜−2℃近辺になるまでは設定温度を1〜−3℃程度にしてゆっくりと冷却させ、貯蔵物の表面温度が1〜−2℃近辺になるタイミングから貯蔵物周辺の温度をさらに低下させていく)で冷却することで、貯蔵物の温度勾配を非常に小さい範囲まで押さえ込むことができるため、貯蔵物の表面温度と芯温とが略均一(0〜5K程度)となるので、サーモパイル22で検知する温度については、表面温度の推定を行うことで表面温度=芯温であるとして考えてよい。
ここで簡単に過冷却冷凍の流れを説明する。冷蔵庫1の貯蔵室である切替室4は冷凍温度(例えば−7℃程度)に冷却されている。切替室4内の空気温度は切替室サーミスタ19で検知し、切替室ダンパー15を開・閉することで、±1K程度の温度変動に抑えられている。過冷却冷凍を行う貯蔵物を切替室4に入れた後、ユーザーは操作パネル60のスイッチ60a〜60dのうち「瞬冷凍」スイッチ60cを押す(ここで、瞬冷凍とは過冷却冷凍のことをいう(「過冷却」とすると「冷やしすぎ」と誤認識されるのを避けるためと瞬時に凍結するということから、別の表現として「瞬冷凍」という))。「瞬冷凍」スイッチ60cが押されると、制御手段30によりサーモパイル22の検出温度処理(表面温度推定処理)を開始される。定期的に(所定時間ごとに)繰り返し演算して貯蔵物25の推定温度T1が1〜−2℃近辺に到達した場合、切替室4の設定温度の低下を開始し、徐々に低い温度まで冷やしこんでいく。冷やしこみが進んでいくとあるタイミングで過冷却状態が解除され、貯蔵物の中の水分が瞬時に凍結する。水分が凍結したあとは、水分以外の部分をできるだけ早く凍結させるべく切替室4内に急速に冷気を送風したり、設定温度を更に下げたりして急速冷凍を行い、凍結したら過冷却冷凍が完了となる。ユーザーが操作パネル60を操作して「瞬冷凍スイッチ60c」を押圧して「瞬冷凍(過冷却冷凍)」の制御を行っている間は、操作パネル60に「瞬冷凍」中であることの表示を行う。
以上は、切替室サーミスタ19で切替室4の温度検出を行い、サーモパイル22で投入した貯蔵物25の温度検出を行う例を示したが、例えば、サーモパイル22で切替室4の温度を検出して切替室ダンパー15を開・閉を行い、切替室4の温度を調整するようにしてもよい。すなわち、温度検出手段であるサーモパイル22のみで、貯蔵室内の空気温度の温度検出と貯蔵物の表面温度の温度検出の両方を行わせてもよい。
過冷却冷凍過程における貯蔵物25の温度T1を、操作パネル60に直接数値で表示するようにしてもよい。ユーザーが貯蔵物25の表面温度T1を見ることができ、過冷却冷凍や通常の冷凍などの進行状況を確認できるようになる。
ここで、過冷却冷凍(過冷却凍結)についてもう少し詳しく説明する。この発明の実施の形態に係る冷蔵庫は、過冷却を安定的に実現するために必要となる安定した温度環境を維持し、食品への冷気直接吹き付けの温度、風速、風量、タイミングなどの温度や冷気を調整する制御機構、食品を収納するケース等の構造と、過冷却解除を確実に実現するために必要となる過冷却完了を判断する装置または制御機構、および過冷却解除に必要とされる刺激を与える装置または制御機構とを備える。また、過冷却解除後の質のよい凍結を維持するための冷却および保存の機能も備えている。
先ず、過冷却凍結は、食品温度により以下の5つの状態に分かれる。
(1)未凍結状態 食品温度が、その食品の凍結点以上である。
(2)過冷却状態 食品温度が、その食品の凍結点以下でありかつ凍結していない状態。食品温度が低下し続けるので、過冷却状態であることがわかる。
(3)過冷却解除 食品温度が凍結点以下の温度から凍結点に戻ったとき。
(4)凍結開始〜凍結完了状態:食品が凍結点に達して相変化(水であれば、液体の水から固体の氷に変化すること)を起こし、一定温度で推移する状態。
(5)凍結完了・冷凍保存状態:食品が(4)の過程を経て凍結した状態。
ここで、主な食品の凍結点を説明する。牛肉/豚肉であれば−1.7℃、マグロであれば−1.3℃、バレイショであれば−1.7℃、イチゴであれば−1.2℃、リンゴであれば−2.0℃である。(参考文献:総合食料工業、922頁(1975))
(1)−(2)の状態では、過冷却突入(食品を未凍結状態のまま凍結点以下の温度にすること)のために必要な条件と過冷却を深化させる(過冷却状態のときに到達する温度を低くすること)条件を、(3)では過冷却状態を解除し凍結を開始するための条件を、(4)、(5)では過冷却凍結した食品の良さを保つための条件がある。(1)〜(3)をコントロールして十分に深い過冷却度(食品の凍結点と過冷却して到達した温度の温度差)を得ると(4)、(5)によりその効果が消失することはない。但し過冷却状態にあるとき、食品の出し入れで長時間扉を開放し、あるいは、設定温度を凍結点温度以上にして過冷却室内の温度が例えば0℃以上になり過冷却状態が解除された場合は、再び状態(1)から再スタートすることになる。
次に(1)〜(3)の工程について述べる。
先ず食品として厚さ15mm、150gの牛肉を投入したときの検討結果に基づいて述べる。本発明の冷蔵庫の過冷却室(過冷却スペースに同じ)における過冷却条件について説明する。過冷却の条件設定時に注意すべき点は、冷却速度および冷却される食品の芯温の最低到達点(過冷却状態で到達する温度)と凍結点との差等である。冷却速度が速すぎると、食品全体の温度が不均一な状態で冷却されるため、(食品の表面温度と芯温の差が大きい)凍結している部分と未凍結部分とができる。氷結晶は氷核を中心に成長するため、該食品の一部分でも凍結してしまうと、そこから未凍結部分の水分を取り込みながら成長することになる。その結果、針状の大きな氷結晶ができることになる。細胞間などに生じた針状氷結晶や大きな氷結晶は、細胞中の水分流出や細胞破壊の原因となり、該食品解凍時のドリップ流出を引き起こす。
その結果として、食品本来のうまみが減少したり、遊離アミノ酸などの栄養分が減少したり、食感が悪くなったりする。一方、冷却速度が遅すぎると、過冷却状態の維持については問題ないが、未凍結状態が長くなることで、細菌繁殖、酸化促進などにより食品品質が悪化することが問題となる。つまり、凍結点までは表面温度と芯温の差が小さくなるように冷却し、凍結点以下の温度に達した場合(過冷却状態)は冷却速度を上げて、芯温の最低到達点に早く到達するようにして過冷却を解除することで未凍結状態が長くならないようにする。このように食品が凍結点まで、凍結点以下の過冷却状態まで、過冷却解除され、完全に凍結するまでのそれぞれの温度制御、冷気調整を連続してまたは段階的に行うようにする。このような問題を解決するために、過冷却スペースに抗菌機能をつける方法もある。抗菌機能としては、紫外線、オゾンを用いる方法が挙げられる。しかし、抗菌機能をつけるとコストがかかるという問題もある。
先ず過冷却突入条件に対し冷却速度を説明する。食品は表面から冷却され、食品の種類や厚みに応じて熱伝導で食品中心が冷却される。すなわち食品表面の冷却速度が決まってから中心の冷却速度が決まるものだからである。また、実際家庭用冷蔵庫で食品の温度変化を制御する場合、食品の表面温度を検知することが一般的であり、まずはこちらを規定する。食品が過冷却したときの食品表面と中心温度の経時変化では、食品中心の温度と食品表面の温度は略同様な傾向で低下する。厚さ15mm、150gの牛肉で、食品周囲の空気温度は30分程度で設定した温度、例えば−5、−7、−10℃に到達するが、食品表面温度が凍結点へ到達するのはそれぞれ120分程度、80分程度、60分以下と遅れる。食品中心温度は食品表面温度差の差が少なく、それぞれの温度差は0.5〜3.0度程度である。
但し、空気設定温度が高いほど表面と中心の温度差は小さく、設定温度が低いほど過冷却度、即ち、冷凍時のエネルギーは小さくなる。冷却速度は食品表面温度が3℃から0℃になる範囲で計算する。この温度帯での冷却速度が冷却突入の可否に相関のある温度帯であり、食品周囲の設定温度が−5℃では食品表面の冷却速度は約3.5℃/h、設定温度−7℃では食品表面の冷却速度は約5℃/h、設定温度−10℃の過冷却が浅いときでは冷却速度は約10℃/hである。この結果より、過冷却に突入するための条件として、食品の表面と中心の距離があるときは、食品表面の冷却速度が10℃/h以下であること、望ましくは5℃/h以下であることが示される。
また、このとき、食品表面と中心の温度差にも差異がある。設定温度−5℃では、食品表面と食品中心の温度差は約1度(K)(食品中心の冷却速度は約3.5℃/h)で、設定温度−7℃では、食品表面と食品中心の温度差は約2度(K)(食品中心の冷却速度は約5℃/h)である。これに対し、過冷却が浅かった設定温度−10℃では食品表面と食品中心の温度差は約3度(K)(食品中心の冷却速度は約10℃/h)である。この結果より、過冷却に突入するための条件として、食品表面と中心との温度差が3度(K)以下であること、望ましくは2度(K)以下であることが示される。食品の表面と中心の距離が小さく、即ち食品の熱容量が小さい場合、例えば薄い肉などでは設定温度が−10℃より低い、例えば−15℃であっても過冷却度は浅くならず良好な冷凍食品が得られる。
以上のことから、食品表面の冷却速度は、食品の表面と中心の温度差が3K以下となる冷却速度であることが条件と考えられる。このとき、以下の現象の発生が回避されると考えられる。イ)食品表面と中心で温度差が大きくなると、食品中に含まれる水分の密度が変わり、その密度差で食品に含まれる水分の対流が発生する。このため、水分子の会合率が増加し、幼核の成長を促進するので過冷却が解除されやすくなる。ロ)食品表面が先に凍結してしまうと、食品表面は凍結点の温度一定の状態で安定した環境を食品全体に形成してしまう。このため食品は安定的に凍結点に保持され食品表面から伝導する冷却熱は全て潜熱として利用され、凍結が進んでいく。
このため、食品の表面が凍結すると、食品全体が過冷却しないことになる。一方、食品周囲の空気温度については、食品を、未凍結のまま凍結点以下にするためには、食品の種類や厚さにより変わるが、一般的に食品周囲の空気温度を−10℃以上にするとよく、食品周囲の空気温度の上限は過冷却させたい食品の凍結点以下であることは自明であり、例えば牛肉や豚肉であれば−1.7℃以下であり、たいていの食品に対しては−2℃とする。温度差が3度(K)以下に抑える冷却速度は約3.5℃/h乃至約10℃/h程度、特に約5℃/h程度以下が望ましい。しかしながら、薄切り肉など厚さ10mm以下の場合は、300℃/h以下にすることで過冷却に突入するし、厚み40〜50mm程度の塊肉は約2〜3℃/hが必要である。いずれの食品でも食品表面と食品中心の温度差を3度程度に抑えればよい。但し、ヨーグルトのようにゲル状で水分が一定の位置に保持されやすい均質な過冷却しやすい食材では、約3.5℃/h乃至約10℃/h程度で過冷却するが、−18℃の設定温度で、温度差5〜10度でも過冷却する。
過冷却に突入し、過冷却状態を維持する際の一つの阻害要因としての食品周囲の温度ムラに対しては、冷却速度のムラを抑制する、即ち、食品周囲の冷却速度を小さくすると良い。又、冷蔵庫が空気温度をある一定温度に制御するために圧縮機のオンオフ、庫内ファンのオンオフ、ダンパの開閉など、様々な機器動作の影響により食品周囲の空気温度に変動があることは避けられない。空気温度変動があることで、食品内部の温度変動が大きくなる。このため、食品内部の水分の対流が促進される、すなわち水分子の会合確率が高くなり、過冷却が解除されやすくなる。これを回避し過冷却に突入するには食品の凍結点を越える(例えば−1.7℃)まで、すなわち過冷却状態に突入するまでの温度変動幅は、実験では約6度(K)以内であった。食品の大きさや種類によらず、食品表面へ過冷却が解除する刺激を与えてはいけない。このため食品周囲の空気温度変動は、前述の通り6K以内であることが望ましい。
ただし、多少過冷却度が浅くなったり過冷却が発現する確率が低くなっても過冷却状態を作ることは可能であり、例えば吹出口近傍で、温度変動が6Kより大きい、例えば15Kとなるような環境であっても過冷却に突入することはできるし、過冷却しやすい食材では過冷却を深化させることができる。過冷却状態に突入し、過冷却を深くするためには必ずしも同じ温度で冷却する必要はない。一定の温度で冷却していると食品が冷却され、食品表面温度が低下して食品周囲の空気温度との温度差が小さくなり、食品表面温度はほぼ食品周囲の空気温度で安定する。このため過冷却を深化させるためには、食品表面と食品周囲の空気温度の温度差を一定以上に保ちながら冷却していくと良い。
このためには食品表面または中心温度に応じて食品周りの空気温度を下げるようにすれば良い。家庭用冷蔵庫における過冷却深化の工程では、あらかじめ定めた時間(あらかじめ実験で検討した、食品投入から食品中心温度が−1℃に到達するまでの時間;例えば2時間)してから、一定時間毎に(あらかじめ実験で検討した、食品温度が1℃低下する毎の時間;例えば0.5時間)に設定温度を1℃下げていくなどでも良い。このようにすることで、食品表面と食品周囲の空気温度との温度差を維持しつつ食品を冷却できるので過冷却を深化させることができる。逆にいうと空気温度にムラが大きい、あるいは空気温度が変動が大きいと、食品表面の温度の分布が大きくなり、あるいは食品表面の熱伝達率が大きくなり表面の冷却しやすい個所から結晶化が始まり過冷却が解除されることになる。
肉や魚などを冷凍したときに内部にできる氷結晶が大きいと、細胞を破壊し、解凍後のドリップ量が多くなることは知られている。そこで、過冷却冷凍と通常冷凍の牛モモ肉やマグロのドリップ量を比較すると、過冷却冷凍したもの通常冷凍の半分以下に抑えられる傾向が見られている。ジャガイモなど、芋類は従来冷凍に適さない食品とされていた。カレーなどを作ったとき、冷凍保存し、翌日以降に温めなおして食べるというようなことは一般家庭で日常的に行われていることであるが、その際、ジャガイモだけは取り除たり、つぶしたりして冷凍することがカレーをおいしく冷凍するための常識であるとされていた。これはジャガイモを冷凍し、解凍すると、スカスカになり、食感が悪くなる。
しかし、過冷却冷凍でカレーを凍結させると、解凍後もジャガイモの食感が凍結前とはほとんど変わらず、スカスカあるいはべちゃっとした食感になったりしない。ジャガイモの主成分であるデンプンはアミロースとアミロペクチンで構成されているが、それらの立体構造を氷結晶の成長によって破壊するのが従来の冷凍で、一度破壊された構造は解凍しても元に戻らないため、解凍したジャガイモはスカスカになる。これに対して、過冷却冷凍でできる氷結晶は非常に微細であるため、凍結時にデンプンの立体構造をほとんど変形させることがなく、解凍しても、元の立体構造を維持できると考えられる。
したがって、過冷却冷凍後、解凍したジャガイモの食感は悪くならないと考えられる。このような原理は、冷凍に適さないとされていた他の食品にもあてはまる場合があり、従って過冷却冷凍を用いると、これまで冷凍に適さないとされていた食品の冷凍が可能になることも示唆される。このように、冷却状態を経て食品などを凍結させた場合、微細な氷結晶ができるため、細胞やタンパク質などの本来の食品構造を変化させることなく維持できることが分かってきている。したがって、凍結→解凍した食品を再び凍結するなど、凍結→解凍を繰り返しても従来冷凍時のように品質が極端に悪化することがなくなる可能性もある。以上は一般家庭での活用によるメリットについて述べたが、食品加工においても過冷却冷凍は有効利用が可能であるといえる。過冷却冷凍で生じる氷結晶の細かさは−60℃の冷凍にも優るという結果が得られており、高品質冷凍を実現するという点で、業務用冷凍庫にも代替できるといえる。そして、業務用のように大きなエネルギーを使って極低温冷気をつくりだす必要がないため、省エネ性が高いというメリットがある。
以上の検討では食品周囲の冷気が流れる風速を0.5m/s程度を想定している。食品は、食品表面と食品周囲の空気温度との温度差と対流熱伝達率により冷却速度が決まる。対流熱伝達率が小さい方が食品表面と中心との温度差が小さくなる事と、早く過冷却状態としたいということからである。なお、食品表面温度の経時変化により冷却速度を規定しているが、実際の製品では食品表面温度の温度検出手段として赤外線センサやサーモパイルが挙げられる。これは食品表面から発する赤外線による輻射熱を受けて非接触で食品表面温度を検知するものである。これにより、食品が冷蔵庫の切替室などに投入されたときのサーモパイル検出温度から食品の温度や面積を推論し、さらにその後のサーモパイル検出温度の経時変化から投入された食品の熱容量を推論することで、各工程における制御時間を投入された食品に応じて延長または短縮することができる。
過冷却は元々不安定な状態であり、何らかの刺激が加わることで解除される。一般的に振動で解除されると言われているが、例えば密封容器に隙間なく水を充填したときなどは、例えば容器を激しくふっても解除しないし、冷蔵庫の引き出し式の部屋、例えば切替室に入れ、扉開閉を全開/全閉数十回繰り返しても過冷却は解除しない。ただし、密閉容器に1/2程度のみ水を入れた場合は、一度に解除する。このことから、振動で過冷却を解除するには液体が自由に流動する空間が必要であると考えられる。肉や魚、果物など食品の場合、各細胞および細胞間に隙間なく水分が充填されているため、隙間なく水を充填した密閉容器に相当する。実際、過冷却した肉を入れた切替室で、扉開閉を全開/全閉を繰り返しても過冷却は解除しない。又過冷却解除のときに食品全体の何パーセントで氷核が形成されるかは過冷却度の大きさにより決まる。例えば過冷却度が4度(K)であった場合には食品全体の水分の5パーセントで氷核が形成されることが次の凍結率の式から明らかである。
凍結率(%)=(Cp*rV*ΔT)/L*rV*100
Cp; 比熱(kJ/kgK)
r ; 密度(kg/m3)
V ; 体積(m3)
L ; 潜熱(kJ/kg)
ΔT; 温度差(K)
過冷却度が4度あれば、氷結晶形状は微小な粒状である。過冷却解除後、食品温度が凍結点以下の温度から凍結点に戻ったとき(このときの温度差が過冷却度)から次の工程で凍結を開始し凍結完了状態になるまでは、食品が凍結点に達して相変化(水であれば、液体の水から固体の氷に変化すること)を起こし、一定温度で推移する状態であり、この後、凍結が完了し設定された温度で冷凍保存状態する。過冷却さえ起こせばその後の凍結スピードは氷結晶形状には影響を与えないし、過冷却時に微小な氷核が形成され、その氷核が食品全体に分布していれば食品全体の氷結晶は細かくなる。以上のように過冷却解除のときに食品全体の水分の何パーセントで氷核が形成されるかを凍結率で求めることが出来、実験データによると、過冷却度が0.8度のとき凍結率は約1パーセントで氷結晶は大きな針状であった。過冷却度が2.6度まで大きくなると氷結晶はかなり微小になるが凍結率は約3パーセント程度で、過冷却度が4.1度まで大きくなると、肉眼では判別できないほど微小な氷結晶で凍結率は約5パーセント程度である。このように過冷却解除時に出来る氷核は食品全体の水分の数パーセントでしかないにもかかわらず、氷核が食品全体に均一に生ずることで、その後の冷凍保存時の氷結晶状態が左右される。また、過冷却状態のときに蓄えられるエネルギーは氷核生成時のエネルギーとして使われるため、過冷却度が大きく、蓄えられるエネルギー量が多ければ多いほど、過冷却解除時に生ずる氷核の数は多くなり、その分だけ氷結晶径も小さくなると考えられ、氷結晶による食品損傷の影響は小さくなると考えられる。
以上のように冷蔵庫に収納した食品を過冷却状態にするためには、ある範囲の冷却能力により冷却することが必要条件となる。これは食品を冷やす冷却能力が弱すぎても強すぎても過冷却状態にならない、もしくは過冷却状態がすぐに解除されてしまうことを意味する。冷却能力が弱い場合は収納食品が過冷却状態に入りやすいが食品周辺の冷却能力が弱い=温度が高いということになり、過冷却状態での食品温度の到達点も高くなってしまうので過冷却が深く(=より低い温度)ならずに過冷却解除してしまう。一般的には過冷却の深さが大きければ大きいほど大きなエネルギーとなり、食品内での微細結晶を生成し高品質冷凍になるため、より過冷却を深くする(深化させる)ためには冷却能力が弱いだけでは成立しない。過冷却の深さについては3K(例えば食品が過冷却状態で−4℃まで到達してから(最低到達温度に達してから)解除して凍結点である−1℃まで温度が瞬時に上がる)以上となると食肉解凍時のドリップ流出量にも大きな差異を発生するためそれ以上の過冷却深さに追い込むことが必要である。(過冷却の深さ(凍結点と最低到達温度の差)が3K以上で大きければ大きいほど食肉解凍時のドリップ流出量が少なくなり、冷凍品質が向上する。)
また逆に冷却能力が強い場合には食品の凍結温度に到達した時点でそのまま凍結する場合や、過冷却状態に入ってもすぐにその強い冷却能力が刺激となって解除してしまう現象につながるため深い過冷却度は得られない。よってある範囲の冷却能力で食品を冷やすことが必要条件となってくる。以上のとおり、冷却能力が弱い(=部屋温度が高い場合)には、食品を冷蔵庫に投入した際、部屋温度は約−3〜−4℃にて推移し、この温度のまま食品を冷却しても部屋温度が−3〜−4℃である以上は食品温度も当然それ以下にはならないため深い過冷却が得られないので、部屋温度を少しずつ下げることになるが、結局は食品温度が約−3℃になった時点で解除する。このように冷却能力が弱い(=温度が高い)場合には過冷却には入るものの深く入らないため、食品としての有意差をユーザが感じることが少ない。又冷却能力が強い(=部屋温度が低い)と過冷却状態に入らず凍結温度に到達した時点で凍結を開始してしまう。
但しエア温度を−10℃以上とするとした場合、部屋温度は約−7〜−8℃レベルまでしか下げられないが、過冷却の深さとして3K以上を得ることは本温度で十分達成可能となる。また設定温度を下げる際には食品の凍結温度(約−1℃)付近から温度を下げるとより深く過冷却を追い込むことが可能となる。またその温度を低減する際には食品に対して強い刺激を与えないように少しずつ下げるのが良い。例えば設定温度を2度づつ低減させた場合に過冷却解除してしまうケースが発生しても1度づつ低減した場合には温度勾配による刺激が緩和されるため解除に至らない。
続いてすでに説明したように、もう一つの過冷却必要条件として過冷却対象食品付近のエア温度分布(ムラ)がある。これはある範囲のエア温度分布(ムラ)に食品が設置されないと過冷却に入らない、もしくはすぐに過冷却が解除してしまう現象が発生するためである。これは食品の温度ムラにおける温度の低い箇所から凍結もしくは過冷却解除が発生してしまい、結果としてその影響が温度の高い箇所の食品まで達して追従するように凍結もしくは過冷却解除してしまうためである。よってある範囲の温度分布(ムラ)で冷却をすることが必要条件となってくる。具体的にはエア温度ムラが小さくなればなるほど良いが冷蔵庫の実機バラツキや収納食品の大きさや形などの様々な要因が発生するため温度ムラとしては約2K以下にすることが望ましい。部屋温度に関係なく温度ムラと過冷却の深さについて実験結果を統計的にまとめると温度ムラ2K以下になると過冷却の発現確率が上昇してくることが判る。この条件に上述の温度設定を掛け合わすことにより過冷却の発現確率は極めて100%に近づけることが可能となる。
冷却強さの調整のため冷蔵庫に搭載している圧縮機のON/OFFと各部屋に設置された温度センサにより調整するダンパなどで温度を一定に保つようになっている。よって必ず冷蔵庫の各部屋においては冷気が供給される時間とされない時間(冷気ON/OFF)が存在する。よってその設定された部屋の温度に調整するためにはその部屋温度よりも温度の低い冷気を供給しなければならない。しかし過冷却実現のためには上述のような温度にて食品を過冷却状態にする必要がある。このような場合はより食品付近エア温度の必要条件である−15℃以上、望ましくは−10℃以上の温度で一定に冷却し続けたいが、現実的に家庭用冷蔵庫において温度ハンチングの少ない雰囲気を実現するのは困難であり、過冷却対象食品の周囲にくる冷気温度を制御する。その実現手段としては大きく2つに別けられる。まず1つ目はその部屋を冷却する冷気温度を過冷却最適温度により近づける手段である。通常冷蔵庫における冷凍温度帯に温度設定できる部屋を冷却する場合の冷気温度はその冷気供給口(吹出口)で約−25℃レベルまで達する。この温度は過冷却最適温度とはかなりかけ離れた数値であり、この冷気供給の源流の温度を制御することは有効な手段となる。その手段については、まず圧縮機の冷凍能力を下げることにより冷気温度を上げる手段が挙げられる。
とはいっても過冷却以外の本来の冷却能力は確保しておかなければならないので圧縮機自体の能力を低減させるのではなく、インバータ制御などで圧縮機の駆動回転数を低減することにより冷凍能力を低減させて冷気供給温度を上昇させる。実際に圧縮機を10rpsレベル回転数を低減させると吹出し温度も約3〜5Kの温度上昇は見込まれる。また冷気を供給する冷蔵庫内の送風ファンの回転数においても、その回転数を変更して供給冷気温度を制御することは可能である。実際にファンの回転数を下げると冷気速度が減少して対流熱伝達が抑制されるため冷気温度としても低くなる。よって逆にファンの回転数を上げることにより熱交換が促進されて冷気供給温度が上昇する。実際に庫内ファンが300〜400rpm上昇すると冷気温度としては約2〜3Kの温度上昇は見込まれる。そのほかにも冷気供給吹出し口周辺に保温ヒーターなどを設置して冷気温度を上昇させることも考えられる。
2つ目の手段として冷気供給温度を上げるのではなく、その冷気が食品に当たる前に冷気温度を上昇させて食品付近に温度の低い冷気をなるべく直接当てないことがその手段となる。その実現のためには、冷気供給口から食品への冷気到達距離を長くすることが挙げられる。例えば冷気供給口周辺に冷気整流ガイドを設けたりすることや、吹出し口と食品設置位置との間に障害物を設けるなどの構造により可能となる。これにより食品周辺到達冷気温度は途中の熱交換により上昇させることが出来る。さらに食品に対する冷気の吹き付け速度も落とせるため強い刺激を与えずにじっくりと冷却することができる。吹出し口と食品設置位置との間に障害物を設置した一例として食品収納ケース上方にフタ形状を追加した構成が可能である。蓋により冷蔵庫の背面側にある冷気吹出し口から扉側に設けたケースの開口までの距離をケースの長さの半分以上取れる。この場合の気流解析すると、フタ形状の追加により食品付近の冷気エア温度を上昇させる、更には風速を減少させることが可能となる。又冷蔵庫内に冷気を循環させる送風ファンと吹出し口との間に冷気供給を制御するダンパがその角度を調整して冷気量を絞るなどの冷気供給のシャッターの役割を果たす。ダンパは全閉、全開だけでなく、途中の角度に調整して冷気量を絞り食品へ吹付ける風速を抑制することが出来る。冷気吹出し口の風速をダンパ開度を調整し1.0−1.2m/sとし、ケースに蓋を設け、扉側からケース内に冷気を供給するようにしてケース内の風速を0.1〜0.5m/sとして過冷却状態を維持している。この第1の手段と、第2の手段を個別に行っても良いが、組み合わせて食品付近の温度を過冷却に都合が良い温度とすることも出来る。
また温度ムラ改善についての実現手段については冷気供給のON/OFF回数を低減することにより温度ムラ、ハンチングを抑制する手段である。これは上述のように制御装置16にて圧縮機10の回転数を低減してより高い冷気温度を供給することにより設定温度に到達するまでに要する時間を長くしてON/OFF回数低減、温度ムラ、ハンチング改善へとつなげることが出来る。このようにON/OFF回数を低減させる手段=冷却能力を低減することとなるのでこれもまた上述のダンパ角度調整などによる冷気量の絞りなども有効な手段である。さらにその上で吹出し口のエアガイドの形状や冷気吹出し口と食品間の障害物の形状などで冷気温度や風速を調整することが可能となる。
つぎに、急速冷凍の場合について説明する。急速冷凍の場合には、凍結開始時、凍結完了後がどのような状態であるかというと、表面に冷気を当てて(素早く)凍結させるという点でいうと通常凍結の場合と同様である。急速冷凍(凍結)の場合は、通常冷凍に比べて、温度の低い冷気を食品などの表面に急速にあてて、表面の温度を急激に低下させるが、通常凍結と同じように表面から凍り始める。しかし、通常凍結と異なる点は、温度の低い冷気を食品などの表面に急速にあてるため、内部まで冷却される速度が速くなり、通常凍結に比べると内部にも氷核ができやすい状態となる点であり、通常凍結時ほど大きな氷結晶ができず、通常凍結ほど食品品質を損ねることはないが、過冷却状態を経て凍結した過冷却凍結にくらべると氷核が大きく略均一でないため、食品品質は劣る。
食品冷凍について考えると、凍結完了後の氷結晶の大きさ、形状は解凍時の食品品質に大きな影響を与える。食品は、細胞、タンパク質、糖質などで構成されている場合がほとんどなため、氷結晶によってその構造が一度破壊されてしまうと、完全に元に戻らない場合が多い。したがって、凍結時にできる氷結晶の大きさ、形状が食品本来の構造を破壊しないようなものであると品質の良い冷凍ができているといえるのであり、氷結晶が小さいほど氷結晶が破壊されても元の状態に近い状態を得ることができるので、解凍したときに食品の味や食感や保存状態など食品品質が良好といえる。したがって、過冷却状態を経て凍結した過冷却冷凍の場合が、氷核が小さく微細であり、また、氷核が食品など冷凍対象物全体に渡って略均一となるため、通常冷凍や急速冷凍の場合に比べて食品品質が良好となるため、適していると考えられる。
次に、過冷却冷凍で食品を凍結させることのメリット及び斬新性について述べる。過冷却冷凍で食品を凍結させることの最大のメリットは、品質の良い冷凍ができるという点にある。これまでに述べてきたように、過冷却状態を経て凍結した過冷却冷凍(過冷却凍結)の場合においては、過冷却状態となる過程で食品内部まで表面と所定の温度差以内で十分に冷却されるため、食品全体に略均一に氷核が形成され、小さな粒状氷結晶に成長する。また、凍結しないで過冷却状態のままで到達した最低温度(最低到達温度)と凍結点との温度差が大きければ大きいほど凍結開始時に形成される氷核の数が多くなるため、より微細な氷結晶となり、過冷却が解除されたときに瞬間的に凍る氷の割合が大きくなり、良い冷凍品質を得ることができる。したがって、過冷却が十分に起これば(過冷却状態で到達する温度が低ければ低いほど)、過冷却凍結した後の解凍後も凍結前の状態により近い状態を維持することが可能となり、冷凍品質が良好となる。
食品の冷却と氷結晶の大きさ、形状について考える際に、最大氷結晶生成帯である−1℃〜−5℃の温度帯の通過時間を考慮することが必要である。通常冷凍や急速冷凍においては、最大氷結晶生成帯を短時間で通過させれば氷結晶は小さくなる。しかし、過冷却凍結の場合には、凍結しない過冷却の状態を維持していれば、最大氷結晶生成帯(−1℃〜−5℃)を含むこの近辺の温度帯(−1℃〜−10℃付近)を通過する時間が長くても食品の冷凍品質を損なうことはない。
過冷却冷凍の場合には、最大氷結晶生成帯(−1℃〜−5℃)を含むこの近辺の温度帯(−1℃〜−10℃付近)に凍結しない過冷却状態を維持して留まる時間(過冷却状態であり凍っていない状態で留まる時間)は、通常冷凍や急速冷凍などに比べて長い(通過する時間が長い)。しかし、過冷却状態であれば、最大氷結晶生成帯(−1℃〜−5℃)を含むこの温度帯(−1℃〜−10℃付近)の通過時間が長くても凍結後の氷結晶が大きくならず、微細な氷結晶を略均一に作ることが可能である。最大氷結晶温度帯を含むこの近辺の温度帯を使用する冷凍の中で、本発明の過冷却冷凍の考え方は、小さな氷結晶を数多く形成させ、品質の良い冷凍とするという点では、全く新規の冷凍方法である。また、本発明の過冷却冷凍においては、過冷却状態が解除されると凍結が開始し、温度が変化しない相変化状態を経て完全に凍結するのであるが、過冷却状態を経ていれば、その後の凍結の過程で最大氷結晶生成帯を通過する時間が長くても(最大氷結晶生成帯に長時間留まったとしても)、氷結晶が肥大化することがなく、氷結晶が微細で食品全体に略均一であり、良質な過冷却冷凍が行えることを確認しており、この点においても新規の冷凍方法であるといえる。
過冷却状態を経ていれば、その後の凍結過程に長時間かかったとしても、氷結晶状態にほとんど影響はないので問題無いが、過冷却状態が解除されて凍結過程に入ったときに急速に冷凍してやれば、氷結晶が肥大する可能性がさらに低くなるので、良好な食品品質を得ることができる。また、氷結晶に関する以外の食品品質低下要因(例えば最近繁殖など)についても回避することができるので、さらに品質の良い冷凍が行える。
以上、これまでは過冷却状態に入った食品を過冷却解除して凍結させた場合のメリットについて述べてきたが、過冷却状態に入った食品を必ずしも凍結させる必要はない。凍結させないで過冷却状態を維持する過冷却保存メリットとしては、凍結温度以下、すなわち通常であれば凍ってしまうような温度で保存しているにも関わらず100パーセント凍っていない、氷結晶が全くできていない状態であるため、低温で保存しながら氷結晶による食品構造の変化をほとんど受けないという点が挙げられる。より低温で保存することは食品の様々な化学変化を抑制できるという点で鮮度推持に有効であるが、この低温保存と未凍結であるという両方のメリットを本発明(過冷却保存や過冷却冷凍)では達成できる。また、過冷却状態であり凍っていない状態なので、食品を解凍する必要もない。しかし、過冷却状態であるということは未凍結状態であり、食品中の水分が未凍結であるということは、細菌繁殖や様々な化学変化にその水分が利用される可能性があるが、本発明のように過冷却状態を経てから冷凍させる過冷却冷凍を行えば、食品品質が良好な状態で維持できると考えられる。したがって、過冷却状態での保存(過冷却保存)は、凍結したもの(過冷却冷凍)よりも食品品質が劣る(注意を払う必要がある)可能性があるが、短期的な保存(たとえば1〜3週間程度)であれば問題ないレベルである。
次にサーモパイル22の温度校正方法について説明する。サーモパイル22の検出温度の公差は、特性の設定や、校正方法にもよるが、低温領域になるほど大きくなり、検出温度0〜−10℃の領域での個体差による公差は約±2.5K程度になる。過冷却冷凍を行うときに、温度の絶対値で1〜−2℃近辺を検出することが重要であるが、この1〜−2℃近辺の温度を検出しようとすると、±2.5Kの温度公差はとても大きく影響する。サーモパイル22の個体差による影響を排除するには相対値で1〜−2℃を検出すればよい。切替室4への食品投入がなかったり、食品投入からの時間が充分に経過して切替室4内の温度が安定的に推移しているときには、切替室4内の温度はほぼ設定された温度(たとえば約−7℃)で安定していると考えることができる。
つまり、設定温度が−7℃だとして貯蔵室内の温度が安定状態で推移しているとすると、安定状態にサーモパイル22が検知している温度に7Kプラスした温度が約0℃であると考えることができるので、安定時のサーモパイル22の検出温度と設定温度との差を基準に相対量ずらした温度を、過冷却冷凍制御における温度低下の開始点と判断すれば、サーモパイル22がもつ個体差による温度公差があったとしても安定的に温度制御を行うことが可能となる。すなわち、本実施の形態では、貯蔵室内が設定温度で安定的に温度推移している場合のサーモパイルの検出温度をTsao、貯蔵室の設定温度Tseとし、サーモパイルの温度校正分(ずらし量)TsakをTsak=Tsao−Tseとすれば、サーモパイルの校正分Tsak分をサーモパイル検出温度Tsaからずらして温度制御を行うようにしている。たとえば、Tse=−7℃、Tsao=−5℃とすれば、温度校正分はTsak=Tsao−Tse=−5−(−7)=2Kとなるので、検出温度の校正値はTsax=Tsa−Tsaoとして推定することができる。
ここで、サーモパイル22の別の温度校正方法について説明する。サーモパイル22の検出温度の公差は、特性の設定や、公正方法にもよるが、低温領域になるほど大きくなり、検出温度0〜−10℃の領域での公差は約±2.5K程度になる。サーモパイル22を設置する切替室4等の貯蔵室には、貯蔵室の中の空気の温度を検出するための温度検出手段である切替室サーミスタ19を設置している。切替室サーミスタ19の公差は±0.5K程度であるから、サーモパイル22の検出精度よりも良い。切替室4の中に貯蔵物25を入れていないときには、サーモパイル22の検出温度は切替室サーミスタ19の検出温度と同等になるはずであるが、実際にはサーモパイル22の検出温度と切替室サーミスタ19の検出温度には一定量の温度差をもった相関が得られるので、サーモパイル22の検出温度を、切替室サーミスタ19の検出温度に校正すればよい。この相関を利用し、切替室4の中に貯蔵物が入っていない、冷蔵庫の出荷時に切替室サーミスタ19の検出温度を基準にしてサーモパイル22の検出温度レベルを校正することで、サーモパイル22の持つ公差を縮小した温度検出、および温度制御が可能となる。
次に貯蔵室内の冷気風路と冷気量制御例について説明する。図18は、本発明の実施の形態1を示す冷蔵庫の切替室周辺の要部断面図である。図において、切替室4内には、切替室ケース17が配設されている。また、風量調整手段である切替室用ダンパ15の1つのバッフル15Aは、開閉調整(開閉角度調整)により切替室4への冷気量の調整や切替室冷却用複風路16を構成する2つの風路の切替を行うことができる。ここで、本発明の切替室冷却用複風路16は、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの2つの冷却風路から構成されている。(図18では、切替室冷却用複風路16は、冷却器室に接続された冷却器室接続風路16Cから風量調整手段15を介して2つの冷却風路(直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16B)に分岐する構成であって、風量調整手段15にて2つの冷却風路の切替及び風量調整を行う。)直接冷却用風路16Aは切替室4へ冷気を直接送風するための風路である。間接冷却用風路16Bは、切替室4の天井部に配された切替室天井断熱材18内に設けられ、冷気を通風するための風路であるが、切替室4の天井部には切替室4に冷気を吹き出す吹出し口が設けられていないため、この風路16Bを通過する冷気により切替室4内は天井面より間接冷却される。
直接冷却用風路16Aは、切替室4内の背面に背面吹出し口4Aが設けられており、この背面吹出し口4Aより冷気が直接、切替室4内に吹出される。このとき、切替室4内に貯蔵室ケースである切替室ケース17が設置されている場合には、背面吹出し口4Aに対向する位置の切替室ケース17の背面壁は開口部、あるいは切り欠き部が設けられており、背面吹出し口4Aより吹出された冷気は、この背面壁の開口部、あるいは切り欠き部より切替室ケース17内に吹出され、切替室ケース17内の食品などを直接冷却する。もちろん、切替室ケース17が設けられておらず、切替室4内に直接食品などを収納するタイプのものであっても切替室4内に背面吹出し口4Aより冷気を直接吹出せるため、食品などを直接冷却できる。
図18では、間接冷却用風路16Bには、切替室4内への冷気吹出し口が設けられていないが、間接冷却用風路16Bを通過した冷気は切替室4の下面や側面などに設けられた切替室戻り風路より冷却器室に戻される。このとき、間接冷却用風路16Bには、微量あるいは冷却速度の遅い冷気であれば、切替室4内へ冷気を吹出す吹出し口を設けても良い。切替室4内が間接冷却と同等の冷却レベル程度となる微量あるいはゆっくりとした冷却速度の冷気であれば、切替室4内あるいは切替室ケース17内に吹出す吹出し口を間接冷却用風路16Bに設けて冷却しても良い。また、冷気が自然落下する程度のゆっくりとした冷却であれば、間接冷却とみなせる。切替室4には、切替室4内の温度を検知する切替室温度検出手段である切替室サーミスタ19が設けられており、この切替室温度検出手段19の検出温度に基づいて切替室4内の温度が所定温度となるように制御装置(マイコンなど)30により制御している。また、切替室ケース17にケースフタ20を設けて間接冷却としてもよい。また、ケースフタ20の一部を開口させて開口部から間接冷却と同等の冷却レベル程度となる微量あるいはゆっくりとした冷却速度の冷気を吹き出させるようにしてもよい。
冷却器13で冷却された冷気は冷気循環用ファン14にて冷気風路を通って各貯蔵室に送風される。冷却器13にて冷却された冷気は冷気循環用ファン14を介して冷気風路16Cを通過し、切替室用ダンパ15に設けられている1つのバッフル15Aの開閉角度を所定の角度に制御することにより、並列に設けられた直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bを切り替えたり、また、それぞれの風路の流量をバッフル15Aの開閉角度を制御することによって切替室4に所定の流量及び所定の流速の冷気が送風される。このとき、バッフル15Aの開閉角度がゼロ(略水平:±20度、このましくは±10度)のときは略全閉状態(直接用冷却風路と間接用冷却風路が両方閉の状態)であり、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの両方を閉塞するため、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの両方ともに冷気は送風されず、切替室4内は直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bを通過する冷気による冷却は行われない。
バッフル15Aの開閉角度が略90度(略垂直:70度〜110度、好ましくは80度〜100度)のときは略全開状態であり、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの両方が開放されるため、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの両方ともに冷気が送風され、間接冷却と直接冷却の両方で冷却されるため早く設定温度に到達する。このとき、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの流路面積は、略同等でも良いが、直接冷却と間接冷却の使用頻度、冷却を行う貯蔵室の大きさや冷却設定温度、過冷却冷凍の有無など使用目的によって異ならせても良い。(図18では、直接冷却用風路16Aの流路面積を間接冷却用風路16Bの流路面積よりも大きくして、バッフル全開のときに直接冷却用風路16Aに冷気が多く流れるようにして直接冷却の効果を出しやすくしている。望ましくは、直接冷却用風路16Aの流路面積を間接冷却用風路16Bの流路面積よりも2倍以上とした方が、バッフルが全開のときに直接冷却用風路16Aに冷気が流れやすくなり、直接冷却の効果が得られやすい。)
バッフル15Aの開閉角度が中間角度である略45度(20度〜70度、好ましくは35度〜55度)のときは片開状態(一方開の状態)であり、直接冷却用風路16Aは略閉塞されるが、間接冷却用風路16Bは開放されるため、間接冷却用風路16Bに冷気が送風され、切替室4内は間接冷却用風路16Bを通過する冷気により天井面などから間接冷却が行われる。ここで、間接冷却風路16Bを切替室4の天井面に設けた例について説明してきたが、別に天井面でなくても良く、間接冷却と同等の冷却ができればよいので、天井面以外の側面壁や底面壁(切替室底面の仕切り壁)内に設けても良い。同様に直接冷却用風路16Aの吹出し口4Aも天井壁や側壁や底面壁に設けても良い。
図19は本発明の実施の形態1を示す冷蔵庫の切替室周辺の側断面図である。切替室ケース17には切替室ケースフタ20が設けられ、切替室天井断熱18には天井吹出し口18Aが設けられている。天井吹出し口18Aは間接冷却用風路16Bからの冷気を切替室4内に吹き出す吹出し口であるが、切替室ケースフタ20を設けることにより、切替室ケース17内の食品に直接冷気があたらない間接冷却方式となっている。もしユーザが更に早い冷凍(短時間での急速冷凍)を望む場合には、切替室ケースフタ20を取り外すことによって対応できる。切替室ケースフタ20を取り外し可能な構成として切替室ケースフタ20を取り除けば、切替室ケースフタ20の分だけ間接冷却用風路16Bからの冷気の風路抵抗が少なくなるので、直接冷却用風路16A及び間接冷却用風路16Bからより多くの冷気が複数箇所(少なくとも背面と天井面)より切替室ケース17内に流れ込むため比較的早い時間での冷凍を実現できる。逆に過冷却(あるいは過冷却冷凍)を行いたいときには切替室ケースフタ20を取り付けておけばよい。また、切替室ケースフタ20を外しても置く場所に困る場合は、切替室ケースフタ20を切替室ケース17の奥にずらしてしまうという構造としてもよい。すなわち、切替室ケース17を引き出したときに切替室ケースフタ20を切替室4の天井面や側壁などに固定したり、あるいは切替室4の天井面や側壁などにケースフタストッパを設けるなどして切替室ケース17を引き出したときに切替室ケースフタ20が切替室4内に残る構造として、切替室ケース17のみが引き出されるようにすれば良い。
また、図19において、切替室ケースフタ20は、切替室ケース17の上面開口部を覆うような構成であるが、切替室ケースフタ20は切替室ケース17の上面開口部を全て覆う必要はなく、直接冷却用風路16Aの背面吹出し口4Aから吹出される直接冷却用冷気が上面開口部より切替室ケース17内に進入しにくくなるように切替室ケース17の後方側のみ覆うように設けても良い。すなわち、切替室ケースフタ20は、切替室ケース17にフタ20を設置したときに冷蔵庫の前面側が開口するような前面開口部を有するようにしても良い。また、この前面開口部より間接冷却用冷気が切替室ケース17内に入り込むような位置に間接冷却用風路16Bの吹出し口18Aを設けても良い。間接冷却の場合には、切替室ケース17内に冷気が入り込まないほうが望ましいが、切替室ケース17内に入り込む冷気は、自然落下程度であれば間接冷却と同等であり、問題ない。本実施の形態では、直接冷却用風路16Aの開口4Aは風量調整手段15からできるだけ近くの位置で開口するようにし、間接冷却用風路16Bの吹出し口18Aは、風量調整手段15からできるだけ遠くの位置で開口するようにしている。このようにすることで、間接冷却用風路を通過して吹出し口18Aより吹出されるときには流路抵抗などで風速が低下し、間接冷却に適した風速や風量が得られる。また、直接冷却用風路16Aの開口4Aより吹出された冷気は、すぐに切替室4内や切替室ケース17内に吹出すことができるので、急速冷凍を行うときに適した風速や風量を得ることができる。
図20は本実施の形態1を示す冷蔵庫の切替室周辺の側断面図である。切替室4の天井面には切替室温度検出手段である赤外線センサ22が設けられており、切替室4内(あるいは切替室ケース17内)の食品の表面温度を測定するのに用いられる。設置場所としては切替室ケース17の内部を見渡せる位置として切替室4の天井4Aが適しているが、側面や底面でも食品の表面温度が間接的あっても測定できれば良い。また、切替室ケースフタ20を介して切替室4内(あるいは切替室ケース17内)の食品の表面温度を測定するようにしても良い。温度検出手段として赤外線センサ22を用いれば、空気温度を検知する切替室サーミスタ19に比較して、より食品に近い温度(たとえば食品の表面温度)を検知することができるため、過冷却の成功確率を高くすることができる。切替室サーミスタ19の場合は、切替室サーミスタ19の直近のみの温度しか検出できないのに対して、赤外線センサ22は離れた物質の表面から発せられる赤外線を検出する特徴があるので、より食品に近い温度(食品の表面温度)を検出できる。食品などから発せられる赤外線量は温度が高いほど多くなるため、検出する赤外線量により温度を測定することができる。
ここで、過冷却保存や過冷却冷凍を行うには、食品などの表面温度と中心温度の温度差が小さく略均一に冷却されることが望ましいので、本実施の形態では切替室4内(あるいは切替室ケース17内)の食品の種類や大きさや厚さや重量などによって測定された表面温度から実験的に中心温度を推定して表面温度と中心温度の温度差を推定し過冷却状態を維持しているかどうかなどについて判断するようにしている。本実施の形態では、食品の表面温度と中心温度の温度差は、5deg以下、望ましくは3deg以下であれば過冷却状態を維持でき、解凍したときの食品品質が良好となることが実験により確認できた。
以上、本実施の形態では、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの開閉パターンについて、1つのバッフルにて(1)略全閉、(2)略全開、(3)直接冷却用風路16A略閉でかつ間接冷却用風路16B開の3パターンについて切り替え可能な旨説明したが、(1)略全閉、(2)略全開、(3)直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bのいずれか一方が開、他方が閉の3パターンであっても良く、同等の効果が得られる。また、2つ以上のバッフルを備えたツインダンパやトリプルダンパを使用して、直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bをそれぞれ個別に独立して開閉制御しても良く、この場合は、直接冷却の冷気量と間接冷却の冷気量を個別に制御できるので、きめ細かく冷気量の制御が行え、また、直接冷却と間接冷却の切替が個別に独立して行えるので、きめ細かな温度制御やきめ細かな設定温度の変更が行える。
また、ケースフタ20の開口部から、ケース17内の少なくとも底面からの赤外線が受光できる貯蔵室4の天上面や側壁や背壁などに温度検出手段であるサーモパイル22を設けることによって、上述した貯蔵物25の表面温度の推定や冷却時間の推定などが行えるので、貯蔵物を略均一に冷却することが可能となり、急速冷凍に加え、過冷却状態を維持した後に過冷却を解除させて瞬時に水分を凍結させ、その後設定温度まで低下させて貯蔵物を凍結させる過冷却冷凍(瞬冷凍)も行える。したがって、高品質な冷凍が行える冷蔵庫や貯蔵庫を提供できる。
また、間接冷却用風路16Bを風路長さを直接冷却用風路16Aよりも長くし、または/かつ、間接冷却用風路16Bを風路面積を直接冷却用風路16Aの風路面積よりも小さくし、または/かつ、間接冷却用風路16Bの風路に曲がり箇所を複数設けるなどして、ケースフタ20の開口部に間接冷却用風路16Bの開口18Aを対向させるようにしてもよい。このようにすると、ケースフタ20の開口部に間接冷却用風路16Bの開口18Aが対向して開口することになり、冷気が直接ケース17内に入ることになるが、間接冷却用風路16Bの開口18Aからは、冷却速度の遅い、間接冷却とみなせる程度の冷気しか、ケースフタ20の開口からケース17内に入り込まないので、間接冷却と同等の冷却となる。ここで、ケースフタ20の開口の形状はサーモパイル22がケース内の赤外線を受光できる形状であれば、四角でも丸でも何でもよい。
本発明では、冷凍サイクルによって生成した冷気を冷蔵室や冷凍室等の貯蔵室内へ強制的に循環させる冷蔵庫において、貯蔵室4に設けられ、非接触で間接的に貯蔵室4内あるいはケース17内の貯蔵物25の表面温度を検出する温度検出手段22を備え、貯蔵室4内あるいはケース17内に貯蔵物25が投入される前の投入前検出温度Tcと、貯蔵室4内あるいはケース17内に貯蔵物25が投入された後の貯蔵物検出温度Ttpと、前記貯蔵物の実際の表面温度Txと、から実験等により求まる貯蔵物の寄与度を使用して貯蔵物の実際の表面温度Txの推定表面温度T1を求める制御手段30と、を備えたので、非接触で間接的に貯蔵室4内あるいはケース17内の貯蔵物25の温度を検出する温度検出手段であるサーモパイル22を使用しても、貯蔵物の実際の表面温度が精度良く推定でき、したがって温度制御の精度が要求される過冷却冷凍が容易に実施できる。したがって、過冷却冷凍の実施により、高品質の冷凍が行える冷蔵庫や貯蔵庫が得られる。
また、冷凍サイクルによって生成した冷気を冷蔵室や冷凍室等の貯蔵室内へ強制的に循環させる冷蔵庫において、貯蔵室4に設けられ、非接触で間接的に貯蔵室4内の貯蔵物25の表面温度を検出する温度検出手段22を備え、貯蔵物25の投入前検出温度Tcと貯蔵物の投入後の検出温度Ttpから貯蔵物の実際の表面温度T1を推定する制御手段30を備えたので、温度検出手段であるサーモパイル22を使用しても、貯蔵物25の実際の表面温度が精度良く推定でき、したがって温度制御の精度が要求される過冷却冷凍が容易に実施できる。したがって、過冷却冷凍の実施により、高品質の冷凍が行える冷蔵庫や貯蔵庫が得られる。
また、冷凍サイクルによって生成した冷気を冷蔵室や冷凍室等の貯蔵室内へ強制的に循環させる冷蔵庫において、貯蔵室4に設けられ、非接触で間接的に貯蔵室内の貯蔵物25の温度を検出する温度検出手段22を備え、貯蔵物25の投入前検出温度をTc、貯蔵物の投入後の検出温度をTtp、前記貯蔵物の推定温度をT1としたとき、
T1=(Ttp−Tc)/Φ+Tc
となる寄与度Φを使用して前記貯蔵物の実際の温度を推定する制御手段を備えたので、簡単な関係式と寄与度によって貯蔵物の温度を非接触で推定することができる。また、温度制御が精度良く行えるので、高品質な冷凍品質が得られる過冷却冷凍も行える。
また、冷凍サイクルによって生成した冷気を冷蔵室や冷凍室等の貯蔵室内へ強制的に循環させる冷蔵庫において、貯蔵室に設けられ、非接触で間接的に前記貯蔵室内の貯蔵物の表面温度を検出する温度検出手段を備え、貯蔵物の投入前検出温度Tc、貯蔵物の投入後の検出温度Ttp、貯蔵物の実際の表面温度Tx
から実験等で求まる寄与度Φを使用して、
T1=(Ttp−Tc)/Φ+Tc
から貯蔵物のある時点での表面温度T1を推定する制御手段を備えたので、簡単な関係式と寄与度によって貯蔵物の温度を非接触で推定することができる。また、温度制御が精度良く行えるので、高品質な冷凍品質が得られる過冷却冷凍も行える。
また、寄与度Φを予め実験などにより求めて制御手段30に記憶させておくので、簡単な構成や制御でありながら、精度良く温度の推定が行える。
また、貯蔵室4内に貯蔵物25を投入した前後の温度検出手段の検出温度の変化量ΔTtpの違いから、貯蔵室4内に投入された貯蔵物の大きさによって決まる冷却時間を推定する制御手段30を備えたので、貯蔵物25が所定温度になるまでの冷却時間が容易に推定でき、貯蔵室4の設定温度の変更タイミングを容易に把握できる。したがって、過冷却冷凍を行う場合の設定温度の変更タイミングが簡単な方法で把握できる。
また、貯蔵室4内に貯蔵物25を投入した前後の温度検出手段の検出温度Ttpの温度低下の傾きθの違いから、貯蔵室4内に投入された貯蔵物の熱容量によって決まる冷却時間を推定する制御手段30を備えたので、貯蔵物25が所定温度になるまでの冷却時間が容易に推定でき、貯蔵室4の設定温度の変更タイミングを容易に把握できる。また、扉の開閉などが行われて貯蔵室内の温度に変化があっても所定温度に到達する冷却時間の修正が容易に行える。したがって、過冷却冷凍を行う場合の設定温度の変更タイミングが簡単な方法で把握できる。
また、冷凍サイクルによって生成した冷気を冷蔵室や冷凍室等の貯蔵室内へ強制的に循環させる冷蔵庫において、貯蔵室4に設けられ、非接触で間接的に貯蔵室4内の貯蔵物25の温度を検出する温度検出手段22を備え、貯蔵室4内に貯蔵物25を投入した前後の温度検出手段の検出温度の変化量ΔTtp、あるいは貯蔵室4内に貯蔵物25を投入した前後の温度検出手段の検出温度の温度低下の傾きθより、投入された貯蔵物が所定温度になるまでの冷却時間を推定する制御手段30を備えたので、貯蔵物25が所定温度になるまでの冷却時間が容易に推定でき、貯蔵室4の設定温度の変更タイミングを容易に把握できる。また、扉の開閉などが行われて貯蔵室内の温度に変化があっても所定温度に到達する冷却時間の修正が容易に行える。したがって、過冷却冷凍を行う場合の設定温度の変更タイミングが簡単な方法で把握できる。
また、制御手段30により推定された貯蔵物の温度T1を基にして、投入された貯蔵物が凍結点近辺の温度までは貯蔵室4内あるいはケース17内の設定温度を第1の設定温度である1〜−3℃としてゆっくりと冷却し、貯蔵物25の温度が、凍結点近辺の温度に到達してからは貯蔵室4内あるいはケース17内の設定温度を第2の設定温度である−5〜−12℃程度に変更して貯蔵物25を更に冷却することによって貯蔵室4内の貯蔵物を過冷却状態に維持する過冷却冷凍を行うようにした。
また、貯蔵室4内の空気温度を検出する第2の温度検出手段であるサーミスタ19を備え、第2の温度検出手段19の検出温度に基づいて温度検出手段22の検出温度の校正を行うようにしたので、従来から貯蔵室4内の空気温度を検出し、貯蔵室内を設定温度に制御するためのサーミスタ19を使用できるため温度検出手段であるサーモパイル22の温度の校正が簡単でしかもコストアップなしに行える。
また、少なくとも1つの貯蔵室内に設置された貯蔵室ケース17と、貯蔵室ケース17の上部開口の少なくとも一部を覆うフタ部材20と、を備え、間接冷却用風路16Bの開口18Aはフタ部材20に直接冷気が当たるようにして貯蔵室ケース17内の食品などの貯蔵物25には直接冷気が当たらないようにしたので、効率よく間接冷却と直接冷却を使いわけることができる。また、簡単な構造でありながら、急速冷凍や緩慢冷凍や過冷却冷凍を用意に行えるので、ユーザの使い勝っての良い冷蔵庫や貯蔵庫を提供できる。また、間接冷却風路と直接冷却風路を切替可能なため、過冷却冷凍に必要な特殊な冷却方法を簡単な構造でありながら達成できる。
以上のように、本発明では、複数の区画された貯蔵室(冷蔵室2、製氷室3、切替室4、野菜室5、冷凍室6など)を有し、冷却器で生成された冷気を貯蔵室へ送風する冷蔵庫において、貯蔵室のうちの少なくとも1つの貯蔵室(たとえば切替室4や冷凍室6や野菜室5など)に対する冷却器から冷気を送風する冷気風路が直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの2つの風路で構成されているので、急速冷凍や緩慢冷凍をユーザの使用状況によって設定でき、また、過冷却冷凍も行うことができる。急速冷凍や緩慢冷凍をユーザの使用状況によって設定でき、また、過冷却冷凍も行うことができる。また、高湿度を保持できる野菜室への設定も行える。
また、複数の区画された貯蔵室(冷蔵室2、製氷室3、切替室4、野菜室5、冷凍室6など)を有し、冷却器で生成された冷気を貯蔵室へ送風する冷蔵庫において、貯蔵室のうちの少なくとも1つの貯蔵室(たとえば切替室4)に接続され、冷却器からの冷気を貯蔵室(たとえば切替室4)に送風する直接冷却用風路16A及び間接冷却用風路16Bの2つの冷却風路と、2つの冷却風路を少なくとも両方開、一方開、両方閉に切り替え可能な風量調整手段15と、を備えているので、急速冷凍や緩慢冷凍をユーザの使用状況によって設定でき、また、過冷却冷凍も行うことができる。急速冷凍や緩慢冷凍をユーザの使用状況によって設定でき、また、過冷却冷凍も行うことができる。
また、風量調整手段15は、1つの入口と2つの出口を有し、入口は冷却器が配置される冷却器室からの風路16Cに接続され、2つの出口のうちの一方は間接冷却風路16Bに接続され、2つの出口のうちの他方は直接冷却風路16Aに接続されている。また、直接冷却用風路16Aは貯蔵室(例えば切替室)内の食品に直接冷気が当たる位置に開口している。また、間接冷却用風路16Bは貯蔵室(例えば切替室)内の食品に直接冷気を当てない位置、または食品に間接的に冷気が当たる位置に開口している。また、少なくとも1つの貯蔵室が、過冷却状態を経て凍結させることが可能な過冷却冷凍が行える貯蔵室であるので、過冷却冷凍の成功率が上昇し、食品品質の良好な冷凍保存(過冷却冷凍)を提供できる。
また、本発明では、少なくとも1つの貯蔵室が、切替室4、あるいは過冷却冷凍室に切替可能としている。また、少なくとも1つの貯蔵室(たとえば切替室4や過冷却室4)内に設置された貯蔵室ケース17と、貯蔵室ケース17の上部開口の少なくとも一部を覆うフタ部材20と、を備え、間接冷却用風路16Bの開口はフタ部材20に直接冷気が当たる位置に開口させて貯蔵室ケース17内の食品には直接冷気が当たらないようにしている。
あるいは、本発明では、少なくとも1つの貯蔵室(たとえば切替室4や過冷却室4)内に設置された貯蔵室ケース17と、貯蔵室ケース17の上部開口の少なくとも一部を覆うフタ部材20と、を備え、貯蔵室ケース17の上部開口の少なくとも一部を覆うフタ部材20が覆っていない貯蔵室ケース17の開口部に自然落下程度の冷却速度の遅い冷気で貯蔵室ケース17内の食品を間接冷却と略同等の冷却が行える位置に間接冷却用風路16Bの開口は、配置されている。
したがって、過冷却冷凍の成功率が上昇し、食品品質の良好な冷凍保存(過冷却冷凍)を提供できる。
本発明によれば、少なくとも1つの貯蔵室に直接冷却用風路16Aと間接冷却用風路16Bの両方を備えるので、急速冷凍、通常冷凍、過冷却冷凍に切替可能な貯蔵室を備えた冷蔵庫や貯蔵庫を提供できる。また、間接冷却と直接冷却を切り替える(使い分ける)ことができるため、間接冷却に切り替えることより貯蔵室(たとえば切替室)を高湿度の野菜収納室としても使用できる冷蔵庫や貯蔵庫を提供できる。
本発明によれば、冷蔵庫における区画された貯蔵室内の温度分布ムラを小さくすることができ、高品質な食品保存の可能な冷蔵庫や貯蔵庫を提供することができる。
本発明によれば、冷蔵庫における貯蔵室である貯蔵室内に保存された食品などの温度分布ムラを小さくすることができ、高品質な食品保存が可能な冷蔵庫や貯蔵庫を提供することができる。
本発明によれば、高品質冷凍機能として、従来の急速冷凍ではなく、過冷却冷凍機能を採用したので、従来よりも少ないエネルギーでの高品質冷凍、すなわち、地球環境対策として省エネルギー冷凍を実現することができるという効果を有する。
また、この発明の冷蔵庫は、過冷却をおこすためのスペース内に冷気を導入し、冷却温度を複数に変化できる温度制御された冷却構造を採用することで、従来と大きく変わらない冷蔵庫の構造、制御で、食肉などの食品の過冷却冷凍を実現できるという効果を有する。
本発明によれば、温度検知手段として赤外線センサを使用しているので、食品の表面温度を測定することが可能であり、より食品に近い温度(たとえば食品の表面温度)を検出でき、ひいては過冷却冷凍の成功率が上昇し、食品品質の良好な冷凍保存(過冷却冷凍)を提供できる。
本発明によれば、過冷却状態を経て凍結した過冷却冷凍機能を備えるので、凍結時にできる氷結晶の大きさ、形状が食品本来の構造を破壊しにくい品質の良い冷凍が行える。また、氷結晶が小さいので、氷結晶が破壊されても元の状態に近い状態を得ることができ、解凍したときに食品の味や食感や保存状態など食品品質が良好といえる。また、過冷却状態を経て凍結した過冷却冷凍を備えるので、氷核が小さく微細であり、また、氷核が食品など冷凍対象物全体に渡って略均一となるため、通常冷凍や急速冷凍の場合に比べて食品品質が良好である。
本発明の冷蔵庫は、一般的な冷蔵庫の仕様を一部変更することで、過冷却冷凍を実施できる冷蔵庫を得ることができる。又家庭用冷蔵庫の構造を中心に説明してきたが、大型の極低温業務用冷凍倉庫でも本発明の考え、例えば食品を収納した後で、凍結点まで所定の冷却速度で温度を下げ、対象食品に対し高い冷凍温度で全体に分布の良い気流を利用して温度を少しずつ下げながら過冷却を維持する冷却を行い、所定時間後に更に低い温度を直接食品に吹き付けて急速冷凍し過冷却を解除し、その後は過冷却状態を得る温度より低い温度、たとえば−18℃程度の冷凍温度で保存するという制御を利用した構成が可能である。これにより大幅な省エネルギーを達成することが出来る。更に、有効なのは、冷蔵庫としての低温運搬車の中で食品を運搬しながら過冷却状態に突入させ、過冷却状態を維持し、より低温の冷気を直接食品に供給して過冷却を解除し、冷凍保存することが出来る。すなわち、肉や魚などの場合、各細胞及び細胞間に隙間なく水分が充填されているため、隙間なく水を充填した容器に相当するため、運搬中の振動による過冷却解除が無く、且つ、常温の食品を収納し、低すぎない温度で冷却し、最終的に冷凍温度も業務用冷凍庫のように−60℃などという極端に低い温度にしないで、せいぜい−20℃程度の冷凍温度で良いため、運搬車としてエネルギーを使わずに、しかも、運搬時間を利用して過冷却冷凍を行うなど運搬前後の省エネルギーにも役に立ち、冷凍品質の良い食品を届け先に渡すことが出来る。
また本発明の冷蔵庫において過冷却冷凍を実施した食品は、過冷却状態をつくるときの冷却速度がゆっくりであるので、食品内部まで均一に温度が下がってから同時に氷結晶ができはじめ、一部に生じた氷結晶が不均一に成長することがなく、食品内部にできる氷結晶の大きさが小さくなり、食品品質を維持することができる。冷却速度と食品内部の氷結晶の大きさとの関係については、冷却速度が速くなるほど食品内部にできる氷結晶の大きさが大きくなる傾向にある。
本発明の冷蔵庫は、冷却器から循環する冷気により収納する食品を0℃から冷凍温度帯の温度まで連続してまたは段階的に温度調整可能な冷凍室と、冷凍室の冷気吹出し口から吹出され冷却器に吸い込まれる冷気を取り入れ食品を凍結点以下の温度でも凍らない過冷却状態に維持する冷凍室内に配置された冷却室と、冷却室に貯蔵された食品が過冷却状態を得るように冷凍室の温度を−2℃以下で−15℃以上に設定する温度設定手段と、冷却室に収納した食品周囲の風速を抑え冷却室に貯蔵された食品を過冷却状態に維持するように冷凍室内に吹出し冷却室に取り入れる冷気を調整する冷気調整手段と、を備えており、省エネルギーで高品質冷凍を実現できる。
本発明の冷蔵庫は、冷却器からの冷気により収納する食品を凍結点以下で−15℃以上の設定温度で凍らない過冷却状態に維持する過冷却室と、過冷却室内に吹出され過冷却室内を循環する冷気の温度を変化させる冷気調整手段と、冷気調整手段にて過冷却室に収納され過冷却状態にある食品に設定温度より2度乃至5度程度低い温度の冷気を供給して食品の過冷却状態を解除する過冷却解除手段と、を備えており、品質の良い冷凍食品を簡単に得られる。
本発明の冷凍室もしくは冷却室の温度を設定する温度設定手段は、冷却室に収納された常温の食品が冷却される際に、食品の表面温度が3℃から0℃に低下する範囲の冷却速度が、−3.5℃/hr乃至−10℃/hrの範囲とするので、確実に過冷却状態に突入できる。
本発明の冷気調整手段15、風路16は、間接冷却用風路16Bに複数回の曲がりを構成又は前記貯蔵室であり冷却室である切替室の奥行き相当の風路長さを設ける、あるいはこの冷気調整手段は、バッフル15Aにて前記冷凍室又は前記冷却室へ吹出す冷気の前記冷気吹出し口での風速を1.0乃至1.2m/s程度に抑えるものであり、これにより過冷却状態を維持できる。
なお、本実施の形態では、過冷却冷却や過冷却冷凍や急速冷凍が行える貯蔵室として、切替室4を例に説明してきたが、冷凍室6や野菜室5などの他の貯蔵室であっても直接冷却用風路と間接冷却用風路を備えて、風路を切替可能とすれば、過冷却冷凍や急速冷凍が行えるようにできる。そうすると貯蔵室を選ばずユーザの好みで好きな貯蔵室を好きな温度帯や過冷却冷凍に設定でき、ユーザにとって使い勝手の良い冷蔵庫や貯蔵庫が提供できる。
1 冷蔵庫、2 冷蔵室、3 製氷室、4 切替室、5 野菜室、6冷凍室、12 圧縮機、13 冷却器、14 庫内ファン、17 ケース、19 切替室サーミスタ、22 サーモパイル、15 切替室ダンパー、23 カバー、25 貯蔵物、30 制御基板、60 操作パネル、60c 瞬冷凍スイッチ(過冷却スイッチ)。