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JP4620946B2 - ポリイミド前駆体の製造方法、ポリイミド前駆体有機溶媒溶液の製造方法、ポリイミド膜の製造方法、ポリイミド前駆体、ポリイミド製造方法 - Google Patents

ポリイミド前駆体の製造方法、ポリイミド前駆体有機溶媒溶液の製造方法、ポリイミド膜の製造方法、ポリイミド前駆体、ポリイミド製造方法 Download PDF

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Description

本発明は低誘電率、低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、高透明性、且つ電子基板における絶縁膜用途として十分な靭性を併せ持つ実用上有益なポリイミド膜とその前駆体の製造方法に関する。
一般にポリイミドは、無水ピロメリット酸などの芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンとをジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒中で等モル反応させ容易に得られる高重合度のポリイミド前駆体を、膜などに成形し加熱硬化して得られる。このような全芳香族ポリイミドは優れた耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、機械的性質などの性質を併せ持つことから、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンディング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層間絶縁膜等、様々な電子デバイスに現在広く利用されている。
最近では特にマイクロプロセッサーの演算速度の高速化やクロック信号の立ち上がり時間の短縮化が情報処理・通信分野で重要な課題になってきているが、そのためには層間絶縁膜として使用するポリイミド膜の誘電率を下げることが必要となる。
ポリイミドの誘電率を下げるためにはポリイミド構造中へのフッ素基の導入が有効である(Macromolecules, 24, 5001 (1991))、High Perform. Polym., 15, 47 (2003)で公知のように2,2-ビス(3,4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるフッ素化ポリイミド膜は平均屈折率から見積もられた誘電率が2.8と非常に低い値を示す。
また芳香族単位を脂環族単位に置き換えてπ電子を減少することにより、分子内共役および電荷移動錯体形成を妨害すること(Macromolecules, 32, 4933 (1999))も低誘電率化に有効である。Reactive & Functional Polymers, 30, 61 (1996)で公知のように1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)から得られる非芳香族ポリイミド膜は平均屈折率から見積もられた誘電率が2.6と極めて低い値を示す。
一方、ポリイミド膜を層間絶縁膜として銅などの金属基板と積層する場合、それぞれの線熱膨張係数のミスマッチにより残留応力が発生し、カーリング、膜の剥離、割れ等の重大な問題を引き起こすことが知られている。この問題を回避するためにはポリイミド膜の線熱膨張係数を金属基板のそれに近づけること即ちポリイミドの低熱膨張化が必要となる。現在知られているポリイミドの殆どは50〜90ppm/Kの線熱膨張係数を持ち、銅基板の18ppm/Kに比べてはるかに高い。最近では電子回路の高密度化に伴い、配線基板の多層化の必要性が高まってきているが、多層基板における残留応力はデバイスの信頼性を著しく低下させる。
ポリイミドの低熱膨張係数発現には一般に、その主鎖構造が直線的でしかも内部回転が束縛され剛直であることが必要条件であることが知られている(Polymer, 28, 2282 (1987))。現在実用的な低熱膨張ポリイミド材料としては3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンから形成されるポリイミドが最もよく知られている。このポリイミド膜は膜厚や作製条件にもよるが、3〜10 ppm/Kと非常に低い線熱膨張係数を示すことが知られている(Polyimides: Fundamentals and Applications, Marcel Dekker, New York, 1996, p 207))。
しかしながら、低誘電率と低熱膨張係数を同時に有し、かつハンダ耐熱性を保持しているポリイミドを得ることは分子設計上容易ではない。これを達成すべくポリイミド以外の低誘電率高分子材料や無機材料も検討されているが、誘電率、線熱膨張係数、耐熱性および靭性の点で要求特性が十分に満たされていないのが現状である。
また近年、電子デバイスにおける配線基板の多層化の動向に伴って、絶縁層にワイヤリング用のスルーホールをあける等の目的で、層間絶縁膜自身に感光性を持たせる試みも行なわれている。この際ポリイミド絶縁膜自身による光吸収をできるだけ抑制する必要があるため、ポリイミド膜そのものが紫外・可視全域で高い透明性を有することが望ましい。
一般にポリイミド構造中へのフッ素基の導入は分子間相互作用を弱め、低熱膨張化の要因であるイミド化時の自発的分子配向を妨害する傾向をもたらす。フッ素基の導入はコスト面でも不利である。前述のように2,2-ビス(3,4-カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られる代表的なフッ素化ポリイミド膜は前述のように低誘電率を示すが、線熱膨張係数は64ppm/Kと非常に高く、低熱膨張特性を示さない(High Perform. Polym., 15, 47 (2003))。更に透明性の点でも不十分である。
またピロメリット酸二無水物と2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンから得られるポリイミド膜は主鎖が直線的で剛直であることに起因して極めて低い線熱膨張係数を示す(Macromolecules, 26, 419 (1993))が、フィルムは着色しており透明性の点で問題がある。これは酸二無水物、ジアミンともに芳香族モノマーを使用したため、分子内共役や電荷移動相互作用が生じたことによる(Polym. J., 29, 69 (1997))。
ポリイミド骨格への脂環構造単位の導入はπ電子を減少させ、低誘電率化と共に膜の透明化に有効である。しかしながら脂環構造単位の導入は一般にポリイミド主鎖骨格の直線性および剛直性を低下させ、線熱膨張係数の増大を引き起こすという問題がある。例えば下記化学式(3)に示す4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)の如き屈曲性の高い脂環式ジアミンを用いた場合、各種酸二無水物と容易に重合が進行し、高重合度のポリイミド前駆体を生成するが、閉環反応により得られるポリイミド膜は低熱膨張特性を示さない。
Figure 0004620946
例えば1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)から得られるポリイミド膜は前述のように高透明性で低誘電率を示すが、線熱膨張係数は70ppm/Kと非常に高く、低熱膨張特性を示さない。同様に、ピロメリット酸二無水物と4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)から得られるポリイミド膜も低熱膨張特性を示さない。これはこれらのポリイミドにおいて主鎖骨格の折れ曲がり構造のため熱イミド化の際にポリマー鎖の面内配向が促進されないことに起因している。
直線性および剛直性を保持している唯一の脂環式ジアミンとしてトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンがあげられる。
しかしながら目的とする要求特性即ち低誘電率と低熱膨張特性を同時に満たすために直線性の高い酸二無水物とトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンからポリイミド前駆体を重合しようとすると合成上重大な問題に直面する。即ち公知の芳香族ジアミンの場合とは大きく異なり脂肪族ジアミンではその高い塩基性に起因して、重合反応初期段階に生成した低分子量のアミド酸との間で塩形成が起こる。
4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)の如き屈曲性の脂環式ジアミンを使用するならば、形成される塩は、わずかながら重合溶媒に溶解し、単に室温で長時間攪拌するだけで公知の方法で容易に重合反応を進行させることができる。これに対し、トランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンを使用した場合は形成される塩が非常に強固で重合溶媒に対する溶解度は殆どゼロであり、しばしば重合反応が妨害される。
ピロメリット酸二無水物とトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンから得られるポリイミドは主鎖骨格が直線的で剛直な分子構造であるため、分子設計上、上記要求特性を全て満たすことが期待される。また安価なピロメリット酸二無水物の使用はコスト面でも有利である。しかしながら、上記のような重合反応性上の問題により、ピロメリット酸二無水物とトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンから高分子量のポリイミド前駆体を合成することは極めて困難である。この問題点がこれまでこの系の報告例が全くなかった主な理由である。
特開2002−161136およびHigh Perform. Polym., 13, S93 (2001)に開示されているように、重合反応初期での塩形成後、重合反応混合物を適切な温度例えば120℃で短時間加熱することにより、高重合度のポリイミド前駆体が得られる例が知られている。しかしながらピロメリット酸二無水物とトランス1,4-ジアミノシクロヘキサンとの重合反応系では形成される塩が極めて強固であり如何なる温度条件でも塩は溶解しないためこの方法を適用することは困難である。
脂肪族ジアミンを用いる際の塩形成を回避する方法として界面重合法がHigh Perform. Polym., 10, 11 (1998)に開示されている。この方法はまずテトラカルボン酸二無水物とアルコールを反応させてテトラカルボン酸のジエステルとし、次いでこれを塩素化して油層に溶解し、これとアルカリ水溶液に溶解した脂肪族ジアミンとを油/水界面で重合させてポリアミド酸のアルキルエステルを得るものである。
しかしこの重合方法では製造工程は煩雑でしかも高重合度のポリイミド前駆体を得ることは困難であるばかりかバッチごとの分子量のばらつきも大きくなる。更に界面重合法では塩素が発生するので電子材料用途としては好ましくない。
またピロメリット酸二無水物とトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサンから得られる剛直なポリイミド系では製膜工程上でも深刻な問題が発生する恐れがある。即ちポリイミド前駆体膜をキャスト後、熱イミド化工程中に膜の割れが発生する。これは剛直な系ではポリマー鎖同士の絡み合いの程度が低いため元々膜の靭性が乏しいことに加えて、ポリアミド酸の熱イミド化中に重合反応の逆反応が特に200℃付近を通過する際に若干起こり、分子量低下を伴って更に膜靭性が低下し、イミド化反応時の膜収縮に耐え切れなくなって起こるものである。
ピロメリット酸二無水物と1,4-ジアミノシクロヘキサンとを反応させてポリイミド前駆体を製造する方法が知られている(Journal of Polymer Science: part A, Vol.31, 2345-2351,(1993))。しかしながら、一般に1,4-ジアミノシクロヘキサンはシス型、トランス型が混在しており、シス型1,4-ジアミノシクロヘキサンはその折れ曲がり構造によりポリイミド膜の熱膨張係数を増大させてしまう。
「マクロモルキュールス(Macromolecules)」、(米国)、アメリカンケミカルソサエティー(Aemrican Chemical society)、1991年、24号、p5001 「ハイパフォーマンスポリマーズ(High Performance Polymers)」、(英国)、インスチュートオブフィジックス(Institute of Physics)、2003年、15巻、p47 「マクロモルキュールス(Macromolecules)」、(米国)、アメリカンケミカルソサエティー(Aemrican Chemical society) 、1999年、32号、p 4933 「リアクティブアンドファンクショナルポリマーズ(Reactive & Functional Polymers)」、(オランダ)、エルゼビア・サイエンス(Elsevier Science)、1996年、30巻、p61 「ポリマー(Polymer)」、(オランダ)、エルゼビア・サイエンス(Elsevier Science)、1987年、28巻、p2282 「ポリイミド:ファンダメンタルスアンドアプリケーションズ(Polyimides: Fundamentals and Applications)」、(米国)、マーセル・デッカー(Marcel Dekker Inc)、1996年、p207 「マクロモルキュールス(Macromolecules)」、(米国)、アメリカンケミカルソサエティー(Aemrican Chemical society)、 1993年、26号、p 419 「ポリマージャーナル(Polymer Journal)」、社団法人高分子学会、1997年、29巻、p69 「ハイパフォーマンスポリマーズ(High Performance Polymers)」、(英国)、インスチュートオブフィジックス(Institute of Physics)、2001年、13巻、 S93 「ハイパフォーマンスポリマーズ(High Performance Polymers)」、(英国)、インスチュートオブフィジックス(Institute of Physics)、1998年、10巻、p11 「ジャーナルオブポリマーサイエンス:パートエー(Journal of Polymer Science: part A」)、(米国) 、ウィレイ ペリオディカルス(Wiley Periodicals, Inc)、31号、p2345-p2351,(1993) 特開2002−161136号公報
本発明は低誘電率、低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、高透明性、且つ電子基板における絶縁膜用途として十分な靭性を併せ持つ実用上有益なポリイミド膜とその前駆体膜の製造方法を提供するものである。
以上の問題を鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、選択されたシリル化剤を用いて適切なシリル化率範囲でシリル化したトランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと等モルのピロメリット酸二無水物とを限定された有機溶媒中で重合反応行わせることにより、高重合度の半芳香族ポリイミド前駆体溶液を得ることに成功した。さらにそのキャスト膜(ポリイミド前駆体膜)を限定された条件下でイミド化反応させて製造した半芳香族ポリイミド膜は上記の要求特性を全て達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
単位構造式(2)に示すポリイミド膜が低熱膨張特性を発現するためにはジアミンモノマーである1,4-ジアミノシクロヘキサンの立体構造が図1に示すトランス型で2つのアミノ基が共にエクアトリアル配置である必要がある。モノマーの段階でのトランス配置はポリイミド前駆体およびポリイミド骨格中でも保持されている。重合時にシス型1,4-ジアミノシクロヘキサンを使用することはその折曲がり構造に起因してポリイミド膜の線熱膨張係数の急激な増大を引き起こす恐れがある。
特公昭51-48198号公報に開示されているように、パラフェニレンジアミンを水添して得られる1,4-ジアミノシクロヘキサンは通常、シス/トランス混合物として得られるが、これをそのまま重合に供した場合、公知の反応条件でも問題なく重合が進行する。また、ジアミン成分にトランス1,4-ジアミノシクロヘキサン単独ではなく他の屈曲性脂肪族ジアミンと共重合するとやはり公知の反応条件でも問題なく重合が進行する。しかしながらトランス1,4-ジアミノシクロヘキサン単独でなく、上記のようなトランス/シス混合物を使用することは、得られるポリイミドは主鎖の直線性、剛直性が大きく低下し、ポリイミド膜の線熱膨張係数の急激な増加およびガラス温度の低下を招く恐れがあり本目的のためには避けるべきである。
上記課題を解決するために請求項1記載の発明は、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを反応させて中間生成物を生成した後、前記中間生成物とピロメリット酸二無水物とを反応させ、繰り返し構造単位が下記単位構造式(1)で表されるポリイミド前駆体を製造するポリイミド前駆体の製造方法である。
Figure 0004620946
(上記単位構造式(1)中、RはH又はシリル基であって、前記ポリイミド前駆体は、1つの単位構造式中の置換基Rのうちいずれか一方又は両方がシリル基である単位構造を少なくとも1つ有する)
請求項2記載の発明は、請求項1記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、前記シリル化剤、化学構造中に塩素原子を含有しないシリル化剤を用いるポリイミド前駆体の製造方法である。
請求項3記載の発明は、請求項2記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、前記シリル化剤としてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドとN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドのいずれか一方又は両方を用いるポリイミド前駆体の製造方法である。
請求項4記載の発明は、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、化学構造全体に含有されるRのうち、シリル基からなるRの数をA、HからなるRの数をBとすると、下記数式(1)で表される前記ポリイミド前駆体のシリル化率が0.9以上1.0以下になるように、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド前駆体の製造方法である。
シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
請求項5記載の発明は、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、反応前の前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンの全部のアミノ基の数をc、前記中間生成物全部のシリル基の数をdとすると、下記数式(2)で表される前記中間生成物のシリル化率が0.9以上1.0以下の範囲になるような割合で前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド前駆体の製造方法である。
シリル化率=d/c……数式(2)
請求項6記載の発明は、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを重合溶媒中で反応させて中間生成物を生成した後、前記重合溶媒中にピロメリット酸二無水物を添加し、前記中間生成物と、前記ピロメリット酸二無水物とを反応させ、ポリイミド前駆体が前記重合溶媒中に分散又は溶解されたポリイミド前駆体の溶液を製造するポリイミド前駆体有機溶媒溶液の製造方法である。
請求項7記載の発明は、請求項6記載のポリイミド前駆体有機溶媒溶液を塗布対象物に塗布し、キャスト膜を形成した後、前記キャスト膜中のポリイミド前駆体をイミド化するポリイミド膜の製造方法であって、前記重合溶媒に、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤と、前記ピロメリット酸二無水物と、前記中間生成物に対して親和性が高い高沸点溶媒を含有させ、前記重合溶媒と親和性が高く、かつ前記重合溶媒よりも沸点が低い洗浄液を前記キャスト膜に接触させ、前記キャスト膜を洗浄した後、前記イミド化を行うポリイミド膜の製造方法である。
請求項8記載の発明は、請求項7記載のポリイミド膜の製造方法であって、前記高沸点溶媒としてヘキサメチルホスホルアミドを用い、前記洗浄液としてアルコールを用いるポリイミド膜の製造方法である。
請求項9記載の発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のポリイミド前駆体製造方法で製造され、繰り返し構造単位が上記単位構造式(1)で表され、上記単位構造式(1)中の置換基RはHまたはSi(CH3)3基である全脂環式ポリイミド前駆体であって、1つの単位構造式中の置換基Rのうち、いずれか一方又は両方がSi(CH3)3基である単位構造を少なくとも一つ有し、ヘキサメチルホスホルアミドとN,N-ジメチルアセトアミドの体積比3:1の混合溶媒を溶媒として30℃で測定したときの固有粘度が2.0dL/g以上であるポリイミド前駆体である。
請求項10記載の発明は、請求項9項記載のポリイミド前駆体であって、上記単位構造式(1)中の各1,4-シクロヘキサン残基の立体構造がトランス配置であることを特徴とするポリイミド前駆体である。
請求項11記載の発明は、請求項9又は請求項10のいずれか1項記載のポリイミド前駆体であって、全化学構造中、Si(CH3)3基からなる置換基Rの合計数をA、水素からなる置換基Rの合計数をBとすると、下記数式(1)で表されるポリイミド前駆体のシリル化率が0以上0.9以下の範囲であるポリイミド前駆体である。
シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
請求項12記載の発明は、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを反応させて中間生成物を生成した後、前記中間生成物とピロメリット酸二無水物とを反応させ、繰り返し構造単位が下記単位構造式(1)で表されるポリイミド前駆体を製造し、
Figure 0004620946
(上記単位構造式(1)中、RはH又はシリル基であって、前記ポリイミド前駆体は、1つの単位構造式中の置換基Rのうちいずれか一方又は両方がシリル基である単位構造を少なくとも1つ有する)
次いで加熱処理して、ポリイミドを製造するポリイミド製造方法である。
請求項13記載の発明は、請求項12記載のポリイミド製造方法であって、前記シリル化剤は、化学構造中に塩素原子を含有しないシリル化剤を用いるポリイミド製造方法である。
請求項14記載の発明は、請求項13記載のポリイミド製造方法であって、前記シリル化剤としてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドとN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドのいずれか一方又は両方を用いるポリイミド製造方法である。
請求項15記載の発明は、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載のポリイミド製造方法であって、化学構造全体に含有されるRのうち、シリル基からなるRの数をA、HからなるRの数をBとすると、下記数式(1)で表される前記ポリイミド前駆体のシリル化率が0.9以上1.0以下になるように、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド製造方法である。
シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
請求項16記載の発明は、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項12乃至請求項15のいずれか1項記載のポリイミドの製造方法であって、反応前の前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンの全部のアミノ基の数をc、前記中間生成物全部のシリル基の数をdとすると、下記数式(2)で表される前記中間生成物のシリル化率が0.9以上1.0以下の範囲になるような割合で前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミドの製造方法である。
シリル化率=d/c……数式(2)
請求項17記載の発明は、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを重合溶媒中で反応させて中間生成物を生成した後、前記重合溶媒中にピロメリット酸二無水物を添加し、前記中間生成物と、前記ピロメリット酸二無水物とを反応させ、生成したポリイミド前駆体を前記重合溶媒中に分散又は溶解させ、次いで加熱処理して、ポリイミドを製造するポリイミド製造方法である。
尚、本発明でポリイミド前駆体のシリル化率とは、1構造単位中だけに含まれるSi(CH33基と水素の数から求められるものではなく、ポリイミド前駆体分子の化学構造全体に含まれるSi(CH33基からなるRの数と、水素からなるRの数とから、上記数式(1)で導かれるものである。
本発明によれば、余分な精製の工程がなくポリイミド前駆体を製造することが可能であり、本発明により製造されたポリイミド前駆体をイミド化すれば、低誘電率、低線熱膨張係数、高ガラス転移温度、高透明性、且つ電子基板における絶縁膜用途として十分な靭性を併せ持つ実用上有益なポリイミド膜が得られる。
以下に本発明を詳細に説明する。
前述のように、ピロメリット酸二無水物とトランス1,4-ジアミノシクロヘキサンとの重合系では反応初期に強固な塩が形成され、如何なる溶媒、温度条件によっても重合を進行せしめることが困難である。そこで塩形成を回避すべくシリル化法を用いることでポリイミド前駆体製造に関する問題の解決に至った。
先ずトランス1,4-ジアミノシクロヘキサンである脂環式ジアミンを限定された重合溶媒に溶解し、そこへ適切量のN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドあるいはN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドを滴下してシリル化を行い、シリル化された脂環式ジアミンからなる中間生成物を生成する。その後シリル化脂環式ジアミンを単離せずにそのままその溶液に等モルのピロメリット酸二無水物であるテトラカルボン酸二無水物粉末を徐々に加えて室温で1〜2時間攪拌し、粘稠で透明な均一溶液を得る。
トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンはn-ヘキサンにより再結晶を繰り返して着色成分を完全に除去してから用いることが好ましい。さもなければ得られるポリイミド膜の着色を引き起こす恐れがある。
高分子討論会予稿集, 49, 1917 (2000)に開示されているシリル化法は、シリル化剤として代表的なトリメチルシリルクロライドを用いてトリエチルアミンのような塩化水素受容剤の存在化、脂肪族ジアミンをシリル化したのち、蒸留によってこれを単離・精製して酸二無水物との重合反応に供するものである。ここでトリメチルシリルクロライドと脂肪族ジアミンとの反応により発生する塩化水素は受容剤としてのトリエチルアミンだけでなく重合反応成分としての脂肪族ジアミンにも一部付加し、塩酸塩を形成する。脂肪族ジアミンの塩酸塩は重合反応性を失うばかりか溶解度の低下によって沈澱してしまうため、シリル化ジアミンを単離せずにこの反応溶液に引き続き酸二無水物を添加して重合をおこなうことはモルバランスが崩れているため不可能である。一般にシリル化ジアミンの単離・精製工程が必要なのはこのためである。またシリル化ジアミンは空気中の僅かな水分と容易に反応して分解するため、場合によってはグローブボックス等の設備が必要となり単離・生成工程時が煩雑になる。
しかしながら本発明におけるポリイミド前駆体の製造工程はこのようなシリル化ジアミンの単離・精製工程を一切含まない。シリル化剤として化学構造中にハロゲン原子を有しない非ハロゲン化シリル化剤を用いると、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンをシリル化するときに副生成物として塩化水素のようなハロゲン化水素が発生しない。
例えば、非ハロゲン化シリル化剤としてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドあるいはN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドのいずれか一方又は両方を用いると、脂環式ジアミンと反応してシリル化した後、副生成物として発生するのは重合反応に無害なアセトアミド類のみで塩化水素を発生することはないため、そこへ引き続き酸二無水物を添加してもモルバランスは保持されているためである。なお、副生成物としてのアセトアミド類は熱イミド化反応時に溶媒と共に揮発するため全く問題がない。
また、トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンがシリル化されるときに塩化水素が発生しないから、本発明では3級アミンのような中和剤を使用せずに済む。従って、形成されるポリイミド膜中に塩類が残留しない。
単位構造式(1)で表され、請求項1に記載の高重合度半芳香族ポリイミド前駆体を得るには上記のシリル化剤の添加量を調節してシリル化率Xが0.9以上1.0以下の範囲で重合を行うことが好ましい。Xが0.9未満であると、重合時に塩形成が起こり、反応溶液は均一にならない。
このようにして得られたポリイミド前駆体溶液を酸性水溶液やアルコール等に滴下するか、またはキャスト後、ポリイミド前駆体膜をこれらに浸漬することでシリル基が容易に脱離する。この際酸あるいはアルコール濃度および反応時間を調節することによりシリル化率Xが0以上1.0以下のポリイミド前駆体を得ることが可能である。
また本発明に係るポリイミド前駆体の重合においては、重合溶媒の選択が極めて重要である。重合溶媒としてはヘキサメチルホスホルアミド単独、あるいはヘキサメチルホスホルアミドとN,N-ジメチルアセトアミドの混合溶媒やヘキサメチルホスホルアミドとN-メチル-2-ピロリドンの混合溶媒が好ましい。重合溶媒が適切でないと、重合時の塩形成により重合が全く進まないか、一部重合反応が起っても沈澱、ゲル化などにより均一な重合溶液が得られず成膜ができなくなる恐れがある。
ポリアミド等の重合の際しばしば添加される高分子溶解促進剤即ちリチウムブロマイドやリチウムクロライドの如き金属塩類は、本発明に係る重合系では一切使用する必要がない。これらの金属塩類はポリイミド膜中に金属イオンが痕跡量でも残留すると、電子デバイスとしての信頼性を著しく低下させるため用いられるべきではない。また単位構造式(1)においてXが0.9以上1.0以下の範囲外では前述のように重合が進行しないが、これに対する上記の塩類の溶解促進効果は殆ど見られず、塩類添加だけで重合反応性を改善することはできない。
単位構造式(1)のポリイミド前駆体を重合する際、上記以外の留意点としてモノマー濃度の設定が重要である。均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得るためのモノマー濃度としては10〜13重量%が好ましい。モノマー濃度10重量%以下で重合を行うと、得られるポリイミド前駆体の固有粘度は請求項1に記載の固有粘度2.0dL/gを大きく下回り、最終的に得られるポリイミド膜が著しく脆弱化して膜中にひび割れ等が生じる恐れがある。また13重量%以上では、ポリイミド前駆体溶液がゲル化する傾向が強くなり貯蔵安定性が低下する恐れがある。
上記のモノマー濃度範囲で重合すると、均一で高重合度のポリイミド前駆体溶液を得ることができるが、重合終了後室温で24時間以上48時間以下経過すると、一部ゲル分が生じて不均一になり、良質なポリイミド膜の製造に支障をきたす。これはこのポリイミド前駆体の剛直な構造に基づくアミド基同士の強い分子間水素結合によるものである。これを回避するために重合終了後、100℃で10分以上20分以下この溶液を加熱処理することで、貯蔵安定性を大幅に改善することができる。
得られたポリイミド膜中には必要に応じて酸化防止剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤および増感剤等の添加物が混合されていても差し支えない。
基板上に塗布されたポリイミド前駆体溶液は強制循環式熱風乾燥器中あるいは真空乾燥器中50℃以上100℃以下の範囲で乾燥される。この際50℃未満では乾燥に長時間を要するばかりか、キャスト膜(ポリイミド前駆体膜)が液晶形成により白濁化したり、膜中に多量の溶媒が残留し、イミド化時に溶媒の急激な蒸発により気泡が発生しやすく、良質なポリイミド膜を得るのに好ましくない。また100℃を超える温度での乾燥ではキャスト膜(ポリイミド前駆体膜)が脆弱になって割れや剥れを生じる傾向があり、良質なポリイミド膜を得るのに好ましくない。
公知の方法ではポリイミド膜は基板上のキャスト膜をそのまま200℃以上400℃以下で加熱して製造されるが、本発明に係る単位構造式(1)で表されるポリイミド前駆体のキャスト膜では公知の方法に従って熱イミド化すると窒素雰囲気中あるいは真空中にかかわらず膜は激しく断裂および黒色化して、ポリイミド膜を製造することが困難になる。これは溶媒として使用したヘキサメチルホスホルアミドが非常に揮発しにくいため、イミド化時に膜中に滞留しやすく、ヘキサメチルホスホルアミド自身の熱分解や、ポリイミド前駆体と何らかの反応が引き起こされためと考えられる。
ポリイミド前駆体のキャスト膜を水中に浸漬することで、ヘキサメチルホスホルアミド等の水溶性残留溶媒をほぼ完全に抽出・除去することは可能である。しかしながら、水中への浸漬は基板と膜との間の接着力の低下を招き、剥れの原因となるばかりか、膜の激しい収縮をも引き起こす。この時の大きな膜収縮はイミド化時にポリイミド膜の割れを誘発し、基板上へのポリイミド膜の形成を困難にする。
鋭意研究の結果、n-プロパノールやn-ブタノール等のアルコール類へキャスト膜を浸漬することで、膜の収縮や基板からの剥れを抑制し、同時にヘキサメチルホスホルアミド等の残留溶媒がほぼ完全に抽出・除去されることを見出し、製膜時の問題解決に至った。
このようにして基板上に形成されたポリイミド前駆体膜を減圧下200℃以上400℃以下、好ましくは250℃以上350℃以下の温度で熱処理することで強靭なポリイミド膜が得られる。200℃未満ではイミド化が完結しない恐れがあり、350℃を超えるとポリイミド膜の着色が起る。またイミド化反応はポリイミド前駆体の膜を無水酢酸と三級アミン等の混合物等の脱水試薬と反応させて化学的に行うこともできる。
本発明に係るポリイミドは脂環構造を含有するため、脂環構造を全く含まない全芳香族ポリイミドに比べると長期熱安定性に劣るが、ガラス転移温度、窒素中および空気中での熱分解温度が共に400℃以上であり、ハンダ耐熱性の如き短期耐熱性は充分高く、上記産業分野への応用には全く問題がない。
また、上記単位構造式(2)で表される本発明のポリイミドは、周波数1MHzの誘電率が3.0以下と低いだけではなく、線熱膨張係数が20ppm/K以下と低く、その上、高透明性、且つ電子基板における絶縁膜用途として十分な靭性を併せ持つことを特徴とする。
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、これに限定されるものではない。尚、各例における分析値は以下の方法により求めた。
<固有粘度>
0.5wt%ポリイミド前駆体溶液を、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
<ガラス転移温度>
動的粘弾性測定により、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから求めた。
<5%重量減少温度>
ポリイミド膜の熱重量変化を熱天秤を用いて測定し、重量が5%減少した温度を求めた。
<線熱膨張係数>
熱機械分析により、荷重0.5g/膜厚1μm、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値として線熱膨張係数を求めた。
<カットオフ波長(透明性)>
分光光度計により200nmから1000nmの可視・紫外線透過率を測定した。透過率が1%以下となる波長(カットオフ波長)を透明性の指標とした。カットオフ波長が短い程、透明性が良好であることを意味する。
<複屈折>
ポリイミド膜に平行な方向(nin)と垂直な方向(nout)の屈折率をアッベ屈折計(ナトリウムランプ使用、波長589nm)で測定し、これらの屈折率の差から複屈折(Δn=nin−nout)を求めた。
<誘電率>
ポリイミド膜の平均屈折率〔nav=(2nin+nout)/3〕に基づいて、次式により1MHzにおける誘電率(ε)を算出した。
ε=1.1×nav 2(1kHz)
(実施例1)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に再結晶・精製済みのトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン5.710g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したヘキサメチルホスホルアミドとN,N-ジメチルアセトアミドの混合溶媒(体積比3:1)130mLに溶解した後、シリンジにてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド15.0mL(0.05モル)をゆっくりと滴下し、室温で1時間攪拌してシリル化(シリル化率X =1.0)を行った。
この溶液にピロメリット酸二無水物粉末10.906g(0.05モル)を徐々に加え室温で2時間撹拌し均一で粘稠なポリイミド前駆体溶液(ポリイミド前駆体有機溶媒溶液)を得た。これを100℃で20分加熱して貯蔵安定性を高める処理を行った。重合時と同じ溶媒中、30℃で測定したポリイミド前駆体の固有粘度は3.9dL/gと極めて高重合体であった。
ポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2〜4時間で真空乾燥して得た透明で良質なポリイミド前駆体膜を1-ブタノールに2時間浸漬して残留溶媒を完全に除去した。これをそのまま基板上で減圧下300℃、1時間で熱的にイミド化を行い、基板から剥がしてから更に305℃、1時間で熱処理を行って膜厚10μmの無着色透明な半芳香族ポリイミド膜を得た。
膜物性は、誘電率2.91、線熱膨張係数11ppm/K、ガラス転移温度442℃、、窒素雰囲気中の5%重量減少温度(昇温速度10℃/min)435℃、空気中で425℃、カットオフ波長320nmであり、目的とする特性を全て満足することができた。複屈折Δnは0.1771と、非常に高い値を示したことから、ポリイミド鎖が高度に面内配向しており、これが低熱膨張特性発現の理由である。 得られたポリイミド前駆体薄膜およびポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを図2、図3にそれぞれ示し、ポリイミド前駆体薄膜およびポリイミド薄膜のピークテーブルを下記表1、表2に記載する。
Figure 0004620946
Figure 0004620946
(比較例1)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に再結晶・精製済みのトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン5.710g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したN,N-ジメチルアセトアミド130mLに溶解した。ジアミンのシリル化を行わないでピロメリット酸二無水物粉末10.906g(0.05モル)を徐々に加え室温で撹拌した。
しかし、重合初期に強固な塩が形成され、室温で数週間〜1ヶ月間攪拌を継続しても、重合が全く進行しなかった。重合溶媒としてN,N-ジメチルアセトアミドの他にN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホオキシド、γ-ブチロラクトン、ジグライム、m−クレゾール、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホルアミド/N,N-ジメチルアセトアミド混合溶媒、ヘキサメチルホスホルアミド/N-メチル-2-ピロリドン混合溶媒、テトラヒドロフラン/メタノール混合溶媒を用いて重合を試みたが、あらゆる溶媒系で全く重合は進行しなかった。
またこれらの溶媒系で溶質濃度1〜15重量%の濃度範囲、室温〜150℃の温度範囲で重合反応を試みたが、同様に全く重合しなかった。更に、ピリジンやトリエチルアミンのような三級アミンあるいはリチウムクロライドのような無機塩類も用いたがこれらの添加効果は全く見られず重合は全く進行しなかった。
(実施例2)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に再結晶・精製済みのトランス-1,4-ジアミノシクロヘキサン5.710g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したN,N-ジメチルアセトアミド130mLに溶解した後、シリンジにてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドからなるシリル化剤15.0mL(0.05モル)をゆっくりと滴下し、室温で1時間攪拌してシリル化(シリル化率X =1.0)を行った。この溶液にピロメリット酸二無水物粉末10.906g(0.05モル)を徐々に加え室温で撹拌した。
この方法では、ポリイミド前駆体溶液が得られたものの、その溶液中のポリイミド前駆体の一部が沈殿し、一ヶ月間攪拌を継続しても粘稠で均一な溶液は得られなかった。これはシリル化ポリイミド前駆体のN,N-ジメチルアセトアミドに対する溶解度が乏しく、重合途中で一部沈澱したためである。重合溶媒としてヘキサメチルホスホルアミドを含まない場合はリチウムクロライドの添加の有無にかかわらず如何なるシリル化率でも同様に、粘稠で均一な溶液は得られなかった。
(実施例3)
実施例1で重合したポリイミド前駆体の溶液をガラス基板に塗布し、60℃、2時間で真空乾燥して透明で良質なポリイミド前駆体膜を得た。残留溶媒を除去する工程を経ずに、これを基板上で減圧下300℃、1時間で熱的にイミド化を行った。
この方法では、得られたポリイミド膜が部分的に黒色化しており、また、膜の断裂も部分的に見られた。これは溶媒として使用したヘキサメチルホスホルアミドが非常に揮発しにくいため、イミド化時に膜中に滞留しやすく、ヘキサメチルホスホルアミド自身の熱分解や、ポリイミド前駆体と何らかの反応が引き起こされためと考えられる。
(比較例2)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)10.518g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したN,N-ジメチルアセトアミド180mLに溶解した後、ピロメリット酸二無水物粉末10.906g(0.05モル)を徐々に加え室温で24時間撹拌した。この系では脂環式ジアミンのシリル化なしで公知の方法で容易に重合が進行した。しかしながら基板上で減圧下300℃、1時間で熱的にイミド化して得られたポリイミド膜は線熱膨張係数が70ppm/Kであり低熱膨張特性を示さなかった。これは用いた脂環式ジアミンの屈曲構造により熱イミド化時の自発的面内配向が阻害されたためである。
(比較例3)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中に1,4-ジアミノシクロヘキサン(トランス/シス混合物)5.710g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したN,N-ジメチルアセトアミド130mLに溶解した後、ピロメリット酸二無水物粉末10.906g(0.05モル)を徐々に加え室温で24時間撹拌した。この系では脂環式ジアミンのシリル化なしで公知の方法で容易に重合が進行した。しかしながら基板上で減圧下300℃、1時間で熱的にイミド化して得られたポリイミド膜は極めて脆弱であった。
これはジアミン成分に反応性の低いシス-1,4-ジアミノシクロヘキサンが含まれていたためである。またこのポリイミド膜は線熱膨張係数が60ppm/Kであり低熱膨張特性を示さなかった。これは用いた脂環式ジアミンに折曲がり構造のシス1,4-ジアミノシクロヘキサンが含まれていたため熱イミド化時の自発的面内配向が阻害されたためである。
(比較例4)
よく乾燥した攪拌機付密閉反応容器中にパラフェニレンジアミン5.407g(0.05モル)を入れ、十分に脱水したN,N-ジメチルアセトアミド200mLに溶解した後、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の粉末14.711g(0.05モル)を徐々に加え室温で3時間撹拌した。この系ではジアミンのシリル化なしで公知の方法で容易に重合が進行した。
基板上で減圧下350℃、1時間で熱的にイミド化して得られたポリイミド膜では線熱膨張係数は6.0ppm/Kと極めて低い熱膨張係数を示したが、誘電率は3.5であり低誘電率を示さず、更にこのポリイミド膜は著しく着色した。 これは酸二無水物成分、ジアミン成分共に芳香族モノマーを用いたために、分子内共役および電荷移動相互作用が生じたことが原因である。同様にピロメリット酸二無水物とパラフェニレンジアミンから得られた棒状構造のポリイミド膜も低熱膨張特性を示したのみで、低誘電率と高透明性を達成することはできなかった。これも酸二無水物成分、ジアミン成分共に芳香族モノマーを用いたことが原因である。
1,4-ジアミノシクロヘキサンの立体構造を示す図 本発明のポリイミド前駆体膜の赤外線吸収スペクトルを示す図 本発明のポリイミド膜の赤外線吸収スペクトルを示す図

Claims (17)

  1. トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを反応させて中間生成物を生成した後、前記中間生成物とピロメリット酸二無水物とを反応させ、繰り返し構造単位が下記単位構造式(1)で表されるポリイミド前駆体を製造するポリイミド前駆体の製造方法。
    Figure 0004620946
    (上記単位構造式(1)中、RはH又はシリル基であって、前記ポリイミド前駆体は、1つの単位構造式中の置換基Rのうちいずれか一方又は両方がシリル基である単位構造を少なくとも1つ有する)
  2. 前記シリル化剤は、化学構造中に塩素原子を含有しないシリル化剤を用いる請求項1記載のポリイミド前駆体の製造方法。
  3. 前記シリル化剤としてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドとN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドのいずれか一方又は両方を用いる請求項2記載のポリイミド前駆体の製造方法。
  4. 前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、
    化学構造全体に含有されるRのうち、シリル基からなるRの数をA、HからなるRの数をBとすると、下記数式(1)で表される前記ポリイミド前駆体のシリル化率が0.9以上1.0以下になるように、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド前駆体の製造方法。
    シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
  5. 前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のポリイミド前駆体の製造方法であって、
    反応前の前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンの全部のアミノ基の数をc、前記中間生成物全部のシリル基の数をdとすると、
    下記数式(2)で表される前記中間生成物のシリル化率が0.9以上1.0以下の範囲になるような割合で前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド前駆体の製造方法。
    シリル化率=d/c……数式(2)
  6. トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを重合溶媒中で反応させて中間生成物を生成した後、前記重合溶媒中にピロメリット酸二無水物を添加し、前記中間生成物と、前記ピロメリット酸二無水物とを反応させ、ポリイミド前駆体が前記重合溶媒中に分散又は溶解されたポリイミド前駆体の溶液を製造するポリイミド前駆体有機溶媒溶液の製造方法。
  7. 請求項6記載のポリイミド前駆体有機溶媒溶液を塗布対象物に塗布し、キャスト膜を形成した後、前記キャスト膜中のポリイミド前駆体をイミド化するポリイミド膜の製造方法であって、
    前記重合溶媒に、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤と、前記ピロメリット酸二無水物と、前記中間生成物に対して親和性が高い高沸点溶媒を含有させ、
    前記重合溶媒と親和性が高く、かつ前記重合溶媒よりも沸点が低い洗浄液を前記キャスト膜に接触させ、前記キャスト膜を洗浄した後、前記イミド化を行うポリイミド膜の製造方法。
  8. 前記高沸点溶媒としてヘキサメチルホスホルアミドを用い、
    前記洗浄液としてアルコールを用いる請求項7記載のポリイミド膜の製造方法。
  9. 請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のポリイミド前駆体製造方法で製造され、
    繰り返し構造単位が上記単位構造式(1)で表され、上記単位構造式(1)中の置換基RはHまたはSi(CH3)3基である全脂環式ポリイミド前駆体であって、
    1つの単位構造式中の置換基Rのうち、いずれか一方又は両方がSi(CH3)3基である単位構造を少なくとも一つ有し、
    ヘキサメチルホスホルアミドとN,N-ジメチルアセトアミドの体積比3:1の混合溶媒を溶媒として30℃で測定したときの固有粘度が2.0dL/g以上であるポリイミド前駆体。
  10. 上記単位構造式(1)中の各1,4-シクロヘキサン残基の立体構造がトランス配置であることを特徴とする請求項9項記載のポリイミド前駆体。
  11. 全化学構造中、Si(CH3)3基からなる置換基Rの合計数をA、水素からなる置換基Rの合計数をBとすると、
    下記数式(1)で表されるポリイミド前駆体のシリル化率が0以上0.9以下の範囲である請求項9又は請求項10のいずれか1項記載のポリイミド前駆体。
    シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
  12. トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを反応させて中間生成物を生成した後、前記中間生成物とピロメリット酸二無水物とを反応させ、繰り返し構造単位が下記単位構造式(1)で表されるポリイミド前駆体を製造し、
    Figure 0004620946
    (上記単位構造式(1)中、RはH又はシリル基であって、前記ポリイミド前駆体は、1つの単位構造式中の置換基Rのうちいずれか一方又は両方がシリル基である単位構造を少なくとも1つ有する)
    次いで加熱処理して、ポリイミドを製造するポリイミド製造方法。
  13. 前記シリル化剤は、化学構造中に塩素原子を含有しないシリル化剤を用いる請求項12記載のポリイミド製造方法。
  14. 前記シリル化剤としてN,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドとN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミドのいずれか一方又は両方を用いる請求項13記載のポリイミド製造方法。
  15. 前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載のポリイミド製造方法であって、
    化学構造全体に含有されるRのうち、シリル基からなるRの数をA、HからなるRの数をBとすると、下記数式(1)で表される前記ポリイミド前駆体のシリル化率が0.9以上1.0以下になるように、前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミド製造方法。
    シリル化率=A/(A+B)……数式(1)
  16. 前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを所定割合で反応させる請求項12乃至請求項15のいずれか1項記載のポリイミドの製造方法であって、
    反応前の前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンの全部のアミノ基の数をc、前記中間生成物全部のシリル基の数をdとすると、
    下記数式(2)で表される前記中間生成物のシリル化率が0.9以上1.0以下の範囲になるような割合で前記トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、前記シリル化剤とを反応させるポリイミドの製造方法。
    シリル化率=d/c……数式(2)
  17. トランス1,4-ジアミノシクロヘキサンと、シリル化剤とを重合溶媒中で反応させて中間生成物を生成した後、前記重合溶媒中にピロメリット酸二無水物を添加し、前記中間生成物と、前記ピロメリット酸二無水物とを反応させ、生成したポリイミド前駆体を前記重合溶媒中に分散又は溶解させ、
    次いで加熱処理して、ポリイミドを製造するポリイミド製造方法。
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