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JP4602577B2 - 前糖尿病状態のスクリーニング方法及びスクリーニング用試薬 - Google Patents

前糖尿病状態のスクリーニング方法及びスクリーニング用試薬 Download PDF

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JP4602577B2 JP2001073332A JP2001073332A JP4602577B2 JP 4602577 B2 JP4602577 B2 JP 4602577B2 JP 2001073332 A JP2001073332 A JP 2001073332A JP 2001073332 A JP2001073332 A JP 2001073332A JP 4602577 B2 JP4602577 B2 JP 4602577B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐糖能障害による前糖尿病状態を簡便に検出するスクリーニング方法及びスクリーニング用試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、わが国では、糖尿病患者が約690万人いると推定されており、更に、前糖尿病状態とも言える耐糖能障害の人を加えると1370万人になると推定されている。また、特に40歳以上の国民ではその10人に1人が糖尿病であるといわれている。
【0003】
糖尿病は、従来境界型といわれていた耐糖能障害を経て発症することが知られており、この状態をできるだけ早く検出して、治療を行なうことにより糖尿病への進行を抑制することができる。
【0004】
従来、臨床的に行なわれている耐糖能障害及び糖尿病の診断は、空腹時の血糖値測定と75g経口糖負荷試験における糖負荷後1時間及び/又は2時間の血糖値測定によって行なわれている。空腹時の血糖値(以下、FBSという)は、負担が少ないことからスクリーニングに用いられており、日本糖尿病学会判定基準によれば、110mg/dl未満で正常型、110〜125mg/dlで境界型、126mg/dl以上で糖尿病型と判定される。そして、上記の診断により、糖尿病が疑われる場合には更に75g経口糖負荷試験を行ない、最終的な判定(糖負荷2時間後の血糖値が140mg/dl未満で正常型、140〜199mg/dlで境界型、200mg/dl以上で糖尿病型)が行なわれている。
【0005】
しかしながら、上述したFBSによる判定法は、不安定型の糖尿病や検査前夜の食事内容などにより、必ずしも正確な判定法とは言えず、また、75g経口糖負荷試験は、実施に最低2時間と頻回の採血を要し、患者に身体的な負担がかかるため、あまり好ましい方法とは言えない。
【0006】
これまでに、前糖尿病状態、又は糖尿病状態を検出する方法として、例えば以下のような方法が提案されている。
【0007】
▲1▼糖投与後一定時間経過後の哺乳動物患者の尿中のD−キロイノシトールの量又は増加率と、同様にして定量された健常人の尿中のD−キロイノシトールの量又は増加率との比較により前糖尿病状態を検出する方法(特開2000−298131号公報)。
【0008】
▲2▼哺乳動物患者の糖尿状態の可能性の存在に対して該患者からの尿試料をスクリーニングする方法であって、1)細菌のいない環境に該試料を保持し、2)該試料をD−キロイノシトールの存在について分析し、ここでD−キロイノシトールが不在か、又はインビボでの効果がないことを示す程度に著しい低レベルをその患者の糖尿病状態の徴候とする過程を有し、該低レベルが非糖尿病患者のレベルの少なくとも3オーダー低いレベルであることを特徴とするスクリーニング方法(特許第2834321号公報)。
【0009】
▲3▼糖尿病の症状と関連したインシュリン抵抗性の指標であるchiro−イノシトールの、哺乳動物患者からの尿サンプルあるいは血清サンプル中の濃度を測定することを特徴とする糖尿病の症状と関連したインシュリン抵抗性を検出する方法(特許第3118458号公報)。
【0010】
▲4▼インスリン耐性についてヒトをスクリーニングする方法であって、体液中のD−キロイノシトールの濃度を測定する工程と、体液中のミオイノシトールの濃度を測定する工程、ミオイノシトール対D−キロイノシトールの比を算出する工程、及び該算出された比をインスリン耐性に特徴的な比と比較する工程、を包含し、該算出された比がインスリン耐性に特徴的な比を超える場合、該ヒトがインスリン耐性であるようだと決定される方法(特表平10−507826号公報)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
上記▲1▼〜▲4▼のスクリーニング方法は、尿を利用できるので採血等の必要のない検査方法であるものの、糖負荷後一定時間内の尿採取が必要であり、被験者は一定時間拘束されるため、一般検査に適した方法とは言えなかった。更に、測定法が複雑で、多数検体処理が不可能であるという問題があった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、被験者に身体的、時間的及び費用的な負担をあまりかけずに、より正確に耐糖能障害による前糖尿病状態の判定を行なうことができ、かつ多数検体処理が可能なスクリーニング方法及びスクリーニング用試薬を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の前糖尿病状態のスクリーニング方法の一つは、被験者から採取した体液中のD−マンノース濃度及びグルコース濃度を測定し、前記D−マンノース濃度を予め設定したD−マンノース濃度の基準値と比較すると共に、前記グルコース濃度を予め設定したD−グルコース濃度の基準値と比較することを特徴とする。
【0014】
本発明のスクリーニング方法においては、前記D−マンノース濃度が所定の基準値より高く、前記D−グルコース濃度が所定の基準値より低い被験者を検出するものであることが好ましい
【0015】
本発明のスクリーニング方法においては、前記体液が、被験者の空腹時における血液、血漿又は血清であることが好ましい。また、前記D−マンノース濃度の基準値が、健常者の空腹時における血液、血漿又は血清を採取して測定したD−マンノース濃度を統計学的に処理して得た上限値であることが好ましい。
【0016】
本発明のスクリーニング方法によれば、従来のFBSによる判定方法では見過ごされやすかった不安定型の糖尿病患者や、FBSが正常値を示す潜在的な耐糖能障害などの前糖尿病状態の患者をより正確に判定できる。
【0017】
一方、本発明の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬は、前記スクリーニング方法に用いられ、電子受容体の存在下でマンノースに対して脱水素による酸化能を有する酵素と、該酵素が利用できる前記電子受容体とを含むことを特徴とする。
【0018】
本発明のスクリーニング用試薬においては、更にグルコース消去剤を含むことが好ましい。また、前記酵素が、酵素番号EC1.1.1.119に分類されるグルコースデヒドロゲナーゼであることが好ましく、グルコノバクター属に属する微生物由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼであることがより好ましい。また、前記グルコース消去剤が、グルコース6位リン酸化酵素とアデノシン三リン酸とを含有するものであることが好ましい。更に、前記電子受容体が、補酵素NADPであることが好ましい。
【0019】
本発明のスクリーニング用試薬によれば、複雑な酵素共役系を介することなく、D−マンノースに直接作用して脱水素による酸化能を有する酵素を用いるため、簡便にD−マンノースを定量でき、多数の検体処理が可能となる。また、グルコース消去剤を用いた場合には、試料中のグルコースの影響を受けにくいため、より正確にD−マンノースを定量することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明のスクリーニング方法で検出される前糖尿病状態とは、食事などによって血中に糖が流入した際に、血中の糖を骨格筋、肝臓、脂肪組織などの末梢組織に充分取り込むことができずに、血糖値が上昇する状態、すなわち耐糖能障害をいう。なお、本発明の適用対象は、主として人間であるが、家畜、ペットなどの哺乳動物にも適用することができる。本発明において「被験者」とは、そのような哺乳動物も含む意味である。
【0021】
本発明の前糖尿病状態のスクリーニング方法は、被験者から採取した体液中のD−マンノース濃度を測定し、その濃度を所定の基準値と比較することにより行なわれる。また、より正確にスクリーニングを行なう際には、D−マンノース濃度の測定とグルコース濃度の測定を行ない、それぞれの濃度を各基準値と比較することにより行なわれる。
【0022】
上記体液としては、被験者から採取された尿、血液などが挙げられ、特に、血糖値の測定も行えることから、血液、血漿又は血清が好ましく、特に空腹時に採取したものが好ましい。
【0023】
被験者の体液から測定されたD−マンノース濃度に基づいて、前糖尿病状態を判定するためのD−マンノース濃度の基準値は、予め糖尿病診断基準によって前糖尿病又は糖尿病でないと診断された複数(数十人〜数百人が好ましい)の健常者の体液(好ましくは血液、血漿又は血清)中のD−マンノース濃度を測定し、その結果から統計学的処理により正常範囲を求め、この正常範囲の上限値等に基づいて設定することができる。
【0024】
この基準値は、数多くの被験者に対して予備試験を行うことより、より正確に決定することができるため、本発明において特に限定されるものではないが、後述する実施例によれば、血中のD−マンノース濃度の基準値は9μg/ml前後であると判断される。このため、後述する実施例においては、血中のD−マンノース濃度が9μg/ml未満は正常、9μg/ml以上で前糖尿病状態の疑いがあると判定することにした。
【0025】
D−マンノース濃度の測定方法は、公知の方法を採用できるが、中でも多数検体処理が可能な方法で行なうことが好ましく、後述するスクリーニング用試薬を用いて行なうことが特に好ましい。
【0026】
また、グルコース濃度の基準値は、従来のFBSの基準である、日本糖尿病学会判定基準(110mg/dl未満で正常型、110〜125mg/dlで境界型、126mg/dl以上で糖尿病型)が好ましく採用される。グルコース濃度は、市販の自動分析装置用試薬等を用いて測定することができる。
【0027】
以下、本発明の前糖尿病状態のスクリーニング方法について好ましい態様を挙げて説明する。
【0028】
まず、被験者の好ましくは空腹時における血液を常法にしたがって採取し、好ましくは血漿又は血清(以下、単にサンプルという)に分離する。ここで被験者とは、健常者、糖尿病が疑われる人、糖尿病患者など、前糖尿病状態を検査しようとする全ての人を意味する。
【0029】
次いで、このサンプルに、補酵素NADP等の電子受容体の存在下、アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ等のマンノースに対して脱水素による酸化能を有する酵素を作用させ、生成された電子受容体の還元体を定量してD−マンノース濃度を測定する。また、市販の分析試薬を用いて、同じサンプル中のグルコース濃度も測定する。
【0030】
こうして測定された血中のD−マンノース濃度及びグルコース濃度の測定結果を、それぞれの基準値と比較して、前糖尿病状態かどうかを判定する。具体的な結果の判定については、例えばD−マンノース濃度が基準値を超え、グルコース濃度が診断基準値の正常範囲内である被験者は、耐糖能障害の疑いがあることから、75g経口糖負荷試験による再検査を薦める。
【0031】
また、グルコース濃度が診断基準値を超えた被験者は、耐糖能障害である可能性が高いが、D−マンノース濃度が基準値を超えない場合は、一過性の血糖上昇の疑いもあることから、被験者に食事等の摂取の確認を取り、耐糖能障害によるものかどうかを判断する。
【0032】
このように、空腹時における血中のD−マンノース濃度を測定することによって、FBSによる判定のみでは検出することが難しい潜在的な耐糖能障害を簡便に検出することができる。また、血中のD−マンノース濃度は、食事由来などによる血糖値の変動に比べてその変動が小さいことから、一過性の血糖上昇が疑われる被験者に対しても、D−マンノース濃度から一過性の血糖上昇であるかの判別が可能となる。
【0033】
更に、空腹時における血中のD−マンノース濃度とグルコース濃度とを測定して、それぞれの基準値と比較することによって、75g経口糖負荷試験により初めて耐糖能障害及び糖尿病として検出される被験者(糖負荷後2時間の血糖値が140mg/dl以上)も検出することができる。
【0034】
次に、上記の前糖尿病状態のスクリーニング方法で用いられる試薬について説明する。
【0035】
本発明で用いられる酵素としては、電子受容体の存在下、マンノースに対して脱水素による酸化能を有する酵素であればよく、特に制限はないが、好ましくは、酵素番号EC1.1.1.119に分類される酵素が挙げられる。具体的には、例えば、OKAMOTOの文献(J.Biochem. 53(5) 1963 pp348−353)に記載されたAcetobacter suboxydansから得られるNADP依存性グルコースデヒドロゲナーゼ、AVIGAD等の文献(J. Biol. Chem. 243(8) 1968 pp1936−1941)に記載されたGluconobacter cerinusから得られるNADP依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ、DAHMS等の文献(J.Biol.Chem. 247(7) 1972 pp2222−2227)に記載されたNAD依存性アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ等が挙げられる。
【0036】
本発明において、上記酵素はグルコノバクター属に属する微生物由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼであることが特に好ましい。グルコノバクター属に属する微生物としては、例えば、グルコノバクター・アサイ(G.asaii)IFO 3276、グルコノバクター・セリヌス(G.cerinus)IFO 3267、グルコノバクター・フラテオリ(G.frateurii)IFO 3264、グルコノバクター・オキシダンス(G.oxydans)IFO 14819等が挙げられ、これらの微生物を培養して菌体を回収し、この菌体を超音波処理等により破砕して得られる破砕液を、必要に応じて、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトゲル、ゲル濾過等のカラムクロマトグラフィを組み合わせて精製することにより酵素を得ることができる。
【0037】
なお、マンノース脱水素酵素の使用濃度は、特に限定されないが、0.1〜100単位(u)/ml、特に1〜10単位(u)/mlの範囲とすることが好ましい。ここで、上記酵素1単位(u)とは、下記の方法により測定された、1分間に1μmolのNADPHを生成する酵素量とした。
【0038】
すなわち、200mM Tris-HCl(pH9.0)1.5mlに、10mM NADP 0.3ml、精製水 0.85ml、500mM D-マンノース 0.3mlを混和し、37℃で5分間プレインキュベーションした後、該プレインキュベーションにサンプル0.05mlを混合し、37℃において反応を開始し、1分間当りの340nmにおける吸光度の増加を測定した。なお、ブランクはD-マンノースの代わりに精製水を用いた。力価は、前記の測定法で求めたサンプル吸光度、ブランクの各値から下式によって求めた。
【0039】
【数1】
u/ml=((ΔODサンプル/min-ΔODブランク/min)×3/(6.3*0.05))×希釈倍率
【0040】
本発明において、電子受容体としては、NAD、NADP等の補酵素、酸素、フェナジンメトサルフェート、ジクロルフェノールインドフェノール、フェリシアン化合物などを、1種又は2種以上適宜選択して使用することができ、特に補酵素NADPが好ましい。電子受容体の使用濃度は、0.1〜10mmol/l、特に0.5〜2mmol/lの範囲が好ましい。
【0041】
また、電子受容体の還元体を定量するために、電子受容体が還元されることによって発色する発色剤を併用してもよい。かかる発色剤は、使用する電子受容体に応じて適宜選択すればよいが、例えば補酵素NADPの還元体であるNADPHを定量するために、電子キャリアーとして、フェナジンメトサルフェートやジアホラーゼとテトラゾリウム塩を共存させ、生成されるホルマザン色素を比色定量する方法が挙げられる。
【0042】
更に、本発明で用いるマンノース脱水素酵素は、マンノース以外にグルコースにも作用を示すため、特に血清や血漿等の生体試料中のマンノースを測定する場合には、グルコースの影響を少なからず受けることになる。したがって、生体試料に対する測定精度をより高めるためには、グルコース消去剤を併用することが好ましい。このグルコース消去剤としては、グルコース6位リン酸化酵素とATPとを含有するものが好ましく用いられる。
【0043】
上記グルコース6位リン酸化酵素としては、グルコキナーゼ、ヘキソキナーゼ等が挙げられ、EC2.7.1.2、EC2.7.1.1に分類されるものであれば特に制限はなく、市販のものを使用できるが、好ましくはグルコースに特異性の高いグルコキナーゼが用いられる。それらの使用量は、試料中のグルコース量により異なるが、概ね0.1〜50u/mlである。また、グルコースのリン酸化に必要なATP量は、試料中のグルコース量により異なるが、概ね1〜20mMである。更に、グルコースリン酸化反応を促進するものとして通常、無機、有機塩類としてマグネシウムイオンを5〜50mM程度含有させる。グルコース消去のためのグルコースリン酸化反応は、pH6〜10の緩衝液中、20〜50℃、望ましくは25〜37℃で、添加直後から10分間程度行なわれる。
【0044】
また、グルコースを除去する方法として、グルコースオキシダーゼとカタラーゼを用いる方法等の公知の方法を利用してもよい。
【0045】
本発明において使用できる緩衝液としては、pH6〜10のリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等、通常使用されるものであればいずれも使用可能である。
【0046】
本発明の前糖尿病状態のスクリーニングに用いられる試薬は、グルコース消去剤と、定量用酵素とを別々に組合せてもよい。より具体的には、電子受容体とグルコース消去剤とを含む第1試薬と、マンノース脱水素酵素を含む第2試薬との2試薬で構成するのが好ましい。
【0047】
試料に上記マンノース定量用試薬を添加して反応を行わせた後、反応液中で還元された電子受容体の測定は、例えば、電子受容体の還元体に特有な吸収波長における吸光度を測定したり、電子受容体の還元体によって発色する発色剤の発色強度を測定することなどによって行うことができる。
【0048】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
酵素製造例(グルコノバクター・アサイ由来アルドヘキソースデヒドロゲナーゼの製造)
グルコノバクター・アサイ(IFO 3276)を酵母エキス0.5%、フルクトース1%からなる培地に植菌し、28℃で24時間振とう培養し、遠心分離して菌体を得た。この菌体を20mMリン酸緩衝液(pH7)に懸濁し、氷冷下で超音波破砕装置により処理し、破砕液を遠心分離して菌体残渣を除去し、粗酵素液を得た。
【0050】
この粗酵素液に硫酸アンモニウム粉末を30%飽和となるように加えて溶解させ、析出したタンパク質を遠心分離により取り除いた。得られた上清をButylトヨパールカラムに通して酵素を吸着させ、硫酸アンモニウムを30〜0%飽和量含む20mMリン酸緩衝液(pH7)で酵素を溶出した。
【0051】
各溶出画分の酵素活性を測定して活性画分を回収し、その活性画分を20mMリン酸緩衝液(pH7)にて透析して脱塩した後、これをDEAEトヨパールカラムに通して酵素を吸着させ、0〜0.25MのNaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7)で酵素を溶出した。
【0052】
各溶出画分の酵素活性を測定して活性画分を回収し、その活性画分を20mMリン酸緩衝液(pH7)にて透析して脱塩した後、これを更にハイドロキシアパタイトカラムに通して酵素を吸着させ、20〜150mMリン酸緩衝液(pH7)で酵素を溶出させ、各溶出画分の酵素活性を測定して活性画分を回収し、これを精製酵素液とした。
【0053】
実施例
糖尿病の疑いのある被験者59名に、75gグルコース経口糖負荷試験を実施し、糖負荷直前(空腹時)、糖負荷後30分、60分、120分に、それぞれ血糖測定用採血管を用いて採血して血漿を分離し、各血漿中のグルコース濃度を、市販の自動分析装置用試薬「ピュアオートS−Glu」(商品名、第一化学薬品株式会社製)を用いて測定した。
【0054】
一方、D−マンノース濃度の測定を、下記の第1試薬及び第2試薬からなる定量用試薬を用いて行なった。すなわち、各血漿サンプル8μlに対し、第1試薬256μlを添加して37℃で5分間反応させ、次いで、第2試薬56μlを添加して同様に37℃で5分間反応させた後、主波長450nm、副波長700nmの2波長とし、2ポイントアッセイにて吸光度を測定した。これらの操作は、日立7150形自動分析装置にて行った。なお、標準物質としては、市販のD−マンノースを水溶液として用いた。また、溶血等の本測定系に誤差を与える虞れのあるサンプルについては、第2試薬からアルドヘキソースデヒドロゲナーゼを除いたブランク試薬を別に調製し、各サンプルを同時に測定後、得られた非特異的な発色分を差し引くことによって、誤差を補正した。
【0055】
第1試薬:
125mM トリス塩酸緩衝液
1.25mM NADP
0.75mM WST−1
1.25% Tween20
6.25u/ml ジアホラーゼ
12.5u/ml グルコキナーゼ
10mM ATP
2mM 酢酸マグネシウム
(pH8.5)
第2試薬:
20mM リン酸緩衝液
23u/ml アルドヘキソースデヒドロゲナーゼ(前記製造例で得た酵素)
(pH7.0)
これらの試験結果を図1に示す。
【0056】
すなわち、75g経口糖負荷試験の結果から、日本糖尿病学会診断基準に基いて、被験者を正常型、境界型、糖尿病型の3群に分類した。その結果、正常型24名、境界型15名、糖尿病型20名に分類された。図1において、正常型と判定された人は◆、境界型と判定された人は○、糖尿病型と判定された人は×で表示した。
【0057】
一方、図1の縦軸にはD−マンノース濃度をとり、横軸には糖負荷直前の血漿中のグルコース濃度(空腹時血糖値:FBS)をとって、上記各被験者をプロットした。
【0058】
FBSは、110mg/dl未満を正常型、110〜125mg/dlを境界型、126mg/dl以上を糖尿病型に分類した。このFBSのみの判定では、正常型46名、境界型7名、糖尿病型6名に分類された。
【0059】
また、この実施例におけるD-マンノース濃度の基準値は、上記日本糖尿病学会診断基準に基づいて正常型と判定された24名のD-マンノース濃度を統計学的手法に基づいて算出した。具体的には、正常型と判定された24名のD-マンノース濃度が正規分布を示すと仮定して、健常者の正常値範囲を平均値±2×標準偏差で推定すると、6.6±2.4μg/mlとなり、上限値は9μg/mlと算出される。更に、この上限値の95%信頼区間は7.3〜10.7μg/mlと算出されるが、この実施例では、基準値を上限値の9μg/mlと設定した。
【0060】
この結果、FBSの基準値である110mg/dlを超えており、糖負荷試験の結果から境界型及び糖尿病型と判定された被験者13名のうち10名は、血漿中のD−マンノース濃度が基準値を越えていることが分かる。すなわち、FBSで検出される境界型及び糖尿病型の被験者の70〜80%は、D−マンノース濃度の測定においても検出できることが分かる。
【0061】
また、FBSの結果では正常型と判定された46名のうち、糖負荷試験の結果から耐糖能障害が疑われる境界型及び糖尿病型と診断された被験者は22名含まれている。これらの被験者は、境界型、糖尿病型であるにも係らず、一次診断でFBSしか行わない従来の診断体制では正常型として見逃されていた人達であるが、血漿中のD−マンノース濃度によれば、そのうち8名が基準値を越えていることが分かる。
【0062】
一方、FBS及び糖負荷試験の両方とも正常型(図1の◆)と判定された24名については、血漿中のD−マンノース濃度が基準値を越えているケースは認められなかった。
【0063】
これらの結果から、血漿中のD−マンノース濃度を測定することによって、従来、FBSが正常値を示して見逃されていた軽度な耐糖能障害である境界型の被験者、すなわち前糖尿病状態にある被験者をより高い確率で検出することが可能であることが分かった。
【0064】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、従来の空腹時血糖値による判定方法では見過ごされやすかった不安定型の糖尿病患者や軽度な耐糖能障害である前糖尿病状態の患者をより正確に判定できる前糖尿病状態のスクリーニング方法を提供できる。その結果、耐糖能障害による前糖尿病状態の被験者などの早期発見が可能となり、糖尿病への進行の予防のために薬剤等による適切な早期治療が行なうことができ、更には治療経過をモニターすることもできる。
【0065】
更に、本発明のスクリーニング方法を、現在用いられている糖尿病検査に組み入れることによって、検査項目のパネル化、そのためのソフトウェア開発等、総合的な糖尿病診断システムの構築にも応用が可能である。
【0066】
また、本発明の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬は、反応系が簡単であるため、各種自動分析装置への適用も容易であり、多数の検体処理にも適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の前糖尿病状態のスクリーニング方法により、糖負荷前の血漿中のD−マンノース濃度とグルコース濃度とを比較した結果を示す図表である。

Claims (10)

  1. 被験者から採取した体液中のD−マンノース濃度及びグルコース濃度を測定し、前記D−マンノース濃度を予め設定したD−マンノース濃度の基準値と比較すると共に、前記グルコース濃度を予め設定したD−グルコース濃度の基準値と比較することを特徴とする前糖尿病状態のスクリーニング方法。
  2. 前記D−マンノース濃度が所定の基準値より高く、前記D−グルコース濃度が所定の基準値より低い被験者を検出するものである請求項1記載の前糖尿病状態のスクリーニング方法。
  3. 前記体液が、被験者の空腹時における血液、血漿又は血清である請求項1又は2に記載の前糖尿病状態のスクリーニング方法。
  4. 前記D−マンノース濃度の基準値が、健常者の空腹時における血液、血漿又は血清を採取して測定したD−マンノース濃度を統計学的に処理して得た上限値である請求項1〜3のいずれか1つに記載の前糖尿病状態のスクリーニング方法。
  5. 請求項1〜4のスクリーニング方法に用いられる、電子受容体の存在下でマンノースに対して脱水素による酸化能を有する酵素と、該酵素が利用できる前記電子受容体とを含むことを特徴とする、前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
  6. 更にグルコース消去剤を含む、請求項5記載の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
  7. 前記グルコース消去剤が、グルコース6位リン酸化酵素とアデノシン三リン酸とを含有するものである、請求項6記載の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
  8. 前記酵素が、酵素番号EC1.1.1.119に分類されるグルコースデヒドロゲナーゼである、請求項5〜7のいずれか1つに記載の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
  9. 前記酵素が、グルコノバクター属に属する微生物由来のアルドヘキソースデヒドロゲナーゼである、請求項5〜のいずれか1つに記載の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
  10. 前記電子受容体が、補酵素酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸である、請求項5〜9のいずれか一つに記載の前糖尿病状態のスクリーニング用試薬。
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