JP4692803B2 - 音響処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、椅子の背もたれ部に装着されるヘッドレスト部にスピーカが設けられて構成される音響処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
スピーカが設けられたヘッドレスト(頭部支持部分)を有するリクライニングチェアーなどが提供されるようになってきている。このように、ヘッドレストにスピーカを設けることにより、聴取者の耳の近傍にスピーカを設けるようにすることができる。
【0003】
このように、スピーカが設けられたヘッドレストを用いることにより、聴取者の耳の近傍において高品位の音声を放音して、聴取者に提供することが行なわれるようになってきている。すなわち、ヘッドホンなどを用いなくても、聴取者の耳の近傍に位置付けられるスピーカを通じて、高品位の音声を聴取者が聴取することができる環境が整えられてきている。
【0004】
そして、例えば、椅子(座席)のヘッドレスト部分にスピーカを設けた場合、聴取者の耳の近傍において高品位の音声を放音することができるものの、聴取者の耳の後ろ側から直接音声が放音されるために、聴取者の意識が聴取者の後方に惹かれ、聴取する音楽によっては、違和感を感じたり、いわゆる聞き疲れが生じたりする場合がある。
【0005】
このため、音像定位処理を施すことによって、聴取者の耳の後ろ側のスピーカから放音された音声が、聴取者の前方等の予め想定した位置から聞こえるように、音声信号に対していわゆる音像定位処理を施すことが考えられる。音像定位処理を施し、聴取者の耳の後ろ側に位置するスピーカから放音される音声の音像を聴取者の前方等の想定した位置に定位させることにより、聴取者の耳の後ろ側に位置するスピーカから放音される音声を聴取することによる違和感や聞き疲れを防止することが可能となる。
【0006】
この場合、スピーカから放音される音声の音像を想定した位置に定位させるために重要となるのが、実際に音声を聴取する場所である再生音場におけるスピーカから聴取者の耳までの音声についての伝達関数である。音像定位処理されスピーカから放音される音声について、再生音場における伝達関数の影響を除去しなければ、スピーカから放音される音声の音像を想定した位置に正確に定位させることができない。
【0007】
このため、スピーカを用いて音声を厳密に再生するようにする方式の1つであるトランスオーラルシステムを用いることによって、再生音場における伝達関数の影響を除去し、聴取者の耳の後ろ側に位置する例えばヘッドレストに設けられたスピーカから放音される音声の音像を聴取者の前方の想定された位置に定位させるようにすることができるようにされている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来は、ただ1つのヘッドレストが椅子や座席に対応付けられて提供され、これが固定的に使用されている。しかし、今後は、形状、材質、スピーカ位置、スピーカの性能や特性などが異なる様々なヘッドレストが豊富に提供され、この中から聴取者が自分の好みに合ったものを選択して利用できるようにすることが考えられる。
【0009】
また、スピーカが設けられたヘッドレストを自動車の座席において使用するとともに、同じヘッドレストを家庭の椅子においても使用するなど、自分の好みに合ったヘッドレストを複数の場所のオーディオシステムやオーディオ・ビジュアルシステムにおいて兼用することも考えられる。
【0010】
しかし、スピーカが設けられたヘッドレストは、形状、材質、スピーカ位置、スピーカの性能や特性などが異なれば、伝達関数は異なる。このため、形状、材質、スピーカ位置、スピーカの性能や特性などが異なるヘッドレスト毎に、適正な伝達関数に応じたトランスオーラル処理を行なえるようにしておかなければならない。
【0011】
また、厳密に考えると、聴取者は、スピーカが設けられたヘッドレストを利用する場合、その使用の時々によって、スピーカと聴取者の耳との位置関係がまちまちとなり、いつでも同じ条件でヘッドレストに設けられたスピーカから放音される音声を聴取することは難しい。
【0012】
しかし、ヘッドレストに設けられたスピーカに対して、聴取者の頭部の位置(耳の位置)がいつでも同じ位置となるように、強制的に聴取者の頭部の位置を規制するようにすることは、聴取者のリラックス感を阻害するなど好ましくない。また、頭部をヘッドレストに常時接触させているわけではないので、スピーカに対して聴取者の頭部の位置を固定するようにすること自体が難しい。
【0013】
以上のことにかんがみ、この発明は、使用されるオーディオシステムやオーディオ・ビジュアルシステムなどの様々な音声再生システムで兼用可能であって、適正に再生音声の聴取を可能にする音響処理装置、さらには、スピーカと聴取者の耳との位置関係が常時一定でなくても、違和感なく、適正な状態とされた音声を聴取できるようにする音響処理装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明の音響処理装置は、スピーカデバイスと、前記スピーカデバイスに供給するようにする音声信号に対して、前記音声信号による音声の音像を所定の位置に定位させるようにする処理を行なう音像定位処理部と、前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置に応じた処理用情報に基づいて、前記音像定位処理部からの音声信号に対して補正処理を行なうようにする補正処理部と、前記補正処理部で用いられる前記処理用情報を記憶保持する記憶部と、前記記憶部に記憶保持されている前記処理用情報を前記補正処理部に供給し、前記補正処理部を制御するようにする制御部とを設け、少なくとも、前記スピーカデバイスと、前記記憶部とは、複数の椅子の背もたれ部に対して着脱可能とされたヘッドレストに設けられるようにした。
【0015】
この請求項1に記載の音響処理装置によれば、スピーカデバイスに供給される音声信号は、音像定位処理部において、その音声信号による再生音声の音像が所定の位置に定位するように処理された後、スピーカデバイスと聴取者の頭部の位置(聴取者の耳の位置)とを考慮した補正処理が行なわれることにより、スピーカデバイスから放音される音声の音像が所定の位置に定位するようにされる。また、少なくともスピーカデバイスと記憶部とは、着脱可能なヘッドレストに設けられ、それ以外の例えば音像定位処理部や補正処理部等は、当該ヘッドレストの装着が可能とされた椅子の背もたれ部や音声信号の再生装置などのヘッドレスト以外の部位に設けるようにされる。
【0016】
この場合、補正処理部において用いられる関数や係数などの補正処理のために用いられる情報であって、スピーカデバイスが設けられている例えばヘッドレストの形状、材質、スピーカデバイスの設置位置、スピーカの性能や特性などに応じた処理用情報が、記憶部に予め保持されており、この処理用情報が制御部を通じて補正処理部に供給され、スピーカが設けられた部位である当該ヘッドレストに応じた補正処理を適正に行なうことができるようにされる。
【0017】
これにより、スピーカデバイスが設けられた例えばヘッドレストを自動車の座席と家庭の椅子とで兼用するような場合にも、その双方において、スピーカから放音される音声の音像を聴取者に対して所定の位置に定位させ、違和感や聞き疲れなく放音される音声を聴取することができるようにされる。
【0018】
また、記憶部にスピーカデバイスが設けられた例えばヘッドレストの購入時において測定するようにした購入者である聴取者個人の耳元までの伝達関数に応じた処理用情報を記憶させておくことにより、当該聴取者にとって最も良好に当該スピーカデバイスから放音される音声を提供するようにすることができる。また、ヘッドレストの形状、材質、スピーカデバイスの設置位置などに応じた処理用情報が記憶された記憶部は、ヘッドレスト側に存在することになる。そして、当該ヘッドレストを種々の椅子に装着して使用する場合に、ヘッドレストに設けられる記憶部からの処理用情報を、ヘッドレスト以外の部分に設けられることになる補正処理部に提供することにより、当該ヘッドレストに応じた補正処理を適正に行ない、当該ヘッドレストに設けられるスピーカデバイスから放音される音声を違和感なく、聞き疲れを生じさせることなく、良好に聴取することができるようにされる。また、スピーカデバイスが設けられるヘッドレストには、少なくとも音像定位処理部や補正処理部が設けられることがないので、聴取者のニーズに応じて、形状、素材、スピーカデバイスの設置位置の異なる様々な種類のヘッドレストをより安価に提供し、聴取者が自分の好みに合ったヘッドレストを選択して使用するようにすることができる。また、スピーカデバイスが設けられたヘッドレストを必要に応じて容易に交換することができるようにされる。
【0019】
また、請求項2に記載の発明の音響処理装置は、請求項1に記載の音響処理装置であって、
前記記憶部には、前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の取り得る位置毎に、前記補正処理部に供給する前記処理用情報が記憶するようにされており、
前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置を検出する頭部位置検出部を備え、
前記制御部は、前記頭部位置検出部からの検出結果に応じて決まる前記記憶部の前記処理用情報を前記補正処理部に供給して、前記補正処理部を制御するようにすることを特徴とする。
【0020】
この請求項2に記載の音響処理装置によれば、スピーカデバイスは、例えばヘッドレストに設けられるが、当該スピーカデバイスが設けられたヘッドレストの使用時において、当該スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置(耳の位置)は、常に一定ではない。聴取時の時々において、一番楽な姿勢でスピーカデバイスから放音される音声を聴取することになる。
【0021】
このため、記憶部には、スピーカデバイスに対して聴取者の頭部が取り得る複数の位置のそれぞれにおけるスピーカデバイスから聴取者の耳までの伝達関数に応じた処理用情報が、それぞれの位置に対応付けられて記憶されている。そして、頭部位置検出部により、スピーカデバイスからの音声を聴取しようとしている聴取者の頭部の位置が検出される。
【0022】
そして、制御部により頭部位置検出部により検出された聴取者の実際の頭部位置に応じた処理用情報が、記憶部から読み出され、これが補正処理部に供給されて聴取者の実際の頭部の位置に応じた補正処理が行なわれる。
【0023】
これにより、スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置(耳の位置)が常に一定の位置になくても、補正処理部において、聴取者の頭部の位置に応じた処理用情報に応じて適正な補正処理が行なわれるので、聴取者の頭部の位置によって、音像定位の効果が不足するなどのことがなく、違和感なく、聞き疲れを生じさせることなく、良好にスピーカデバイスから放音される音声を聴取することができるようにされる。
【0028】
また、請求項3に記載の音響処理装置は、請求項2に記載の音響処理装置であって、前記頭部位置検出部は、超音波を送信する超音波送信手段と、前記超音波送信手段から送信され、聴取者の頭部により反射される反射超音波を受信する超音波受信手段と、前記超音波受信手段による反射超音波の受信の有無、および、前記超音波受信手段により反射超音波を受信した場合には超音波の速度と超音波を送信してから反射超音波として受信するまでの時間とに基づいて聴取者の頭部の前記スピーカに対する位置を特定する頭部位置特定手段とからなることを特徴とする。
【0029】
この請求項3に記載の音響処理装置によれば、反射超音波の有無と、超音波送信手段から送信された超音波が、聴取者の頭部に反射して超音波受信手段により受信されるまでの時間と、予めわかっている超音波の速度とに基づいて、頭部位置特定手段により、スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置が特定され、この特定された聴取者の頭部の位置に応じて制御部により補正処理部が制御される。
【0030】
このように、スピーカデバイスに対して特定の位置に設けられる超音波送信手段と超音波受信手段とを用いることにより、スピーカデバイスと、当該スピーカデバイスを用いて音声を聴取する聴取者の頭部との位置関係を確実かつ正確に検出し、これに基づき補正処理部において用いられる適切な処理用情報を記憶部から抽出して用いることができるようにされる。
【0031】
また、請求項4に記載の音響処理装置は、請求項3に記載の音響処理装置であって、前記超音波送信手段と、前記超音波受信手段とは、前記スピーカデバイスの高音域スピーカであることを特徴とする。
【0032】
この請求項4に記載の音響処理装置によれば、スピーカデバイスと聴取者の頭部の位置との位置関係を検出するための超音波送信手段と超音波受信手段とは、スピーカデバイスの高音域スピーカが用いられる。すなわち、超音波送信手段と超音波受信手段とは、高音域スピーカそのものが用いられるようにされる。
【0033】
これにより、スピーカデバイスと聴取者の頭部との位置関係を検出するために、新たに超音波送信手段と超音波受信手段とを別途設けることなく、既存の高音域スピーカを超音波送信手段、超音波受信手段として用いて、スピーカデバイスと聴取者の頭部との関係を検出し、その位置に応じた処理用情報を記憶部から抽出して用いることができるようにされる。
【0034】
また、請求項5に記載の音響処理装置は、請求項3に記載の音響処理装置であって、前記超音波送信手段は、左右2チャンネルの前記スピーカデバイスの高音域スピーカであり、前記超音波受信手段は、所定の位置に並べられた複数個の超音波感知素子からなるものであり、左右2チャンネルのそれぞれの前記高音域スピーカからは、異なる周波数の超音波を送信することを特徴とする。
【0035】
この請求項5に記載の音響処理装置によれば、超音波送信手段として、左右チャンネルのスピーカデバイスの高音域スピーカが用いられ、超音波受信手段としては、例えば超音波送信手段の近傍に複数個が並べられていわゆるアレイ構造とされた超音波感知素子が用いられるようにされる。
【0036】
そして、左右チャンネルの高音域スピーカのそれぞれからは、周波数の異なる超音波が送信され、この超音波の聴取者の頭部により反射された反射超音波を感知した超音波感知素子をも考慮して、スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置が検出するようにされる。これにより、スピーカデバイスと聴取者の頭部との位置関係をより正確に検出し、検出した聴取者の頭部の正確な位置に応じた処理用情報を記憶部から抽出してこれを用いることができるようにされる。
【0037】
また、請求項6に記載の音響処理装置は、請求項2に記載の音響処理装置であって、前記頭部位置検出部は、前記スピーカデバイスを通じて音声を聴取するようにしている聴取者の頭部を含む画像を撮像する撮像手段と、前記撮像手段により撮像された画像を解析し、前記聴取者の頭部の前記スピーカデバイスに対する位置を検出する画像解析手段とからなることを特徴とする。
【0038】
この請求項6に記載の音響処理装置によれば、スピーカデバイスを通じて音声を聴取する位置にある聴取者の頭部を含む画像が撮像手段により撮像され、この撮像された画像が、画像解析手段により解析されて、スピーカデバイスと聴取者の頭部との位置関係が検出するようにされる。
【0039】
これにより、スピーカデバイスを通じて音声を聴取する位置にある聴取者の頭部を含む画像に基づいて、スピーカデバイスと聴取者の頭部との位置関係を正確に検出し、これに応じて補正処理部において用いる処理用情報を記憶部から抽出し、これを用いて補正処理部における補正処理を適正に行なうことができるようにされる。
【0040】
【発明の実施の形態】
以下、図を参照しながら、この発明による音響処理装置の一実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態においては、例えば、自動車の座席と家庭において用いられる椅子との双方に対して着脱可能なヘッドレストにスピーカデバイスを搭載して構成する音響処理装置を例にして説明する。
【0041】
[第1の実施の形態]
図1は、この発明が適用された第1の実施の形態の音響処理装置1を説明するためのブロック図であり、図2は、この第1の実施の形態の音響処理装置が用いられる椅子の外観を説明するための図である。この第1の実施の形態の音響処理装置1は、左右2チャンネルの音声信号を処理することができるものである。
【0042】
図1において、ディスク100は、2チャンネルの音声信号を提供するもの(2ch音源(chはチャンネル略称))である。このディスク100から再生された左右2チャンネルの音声信号が、この図1に示す第1の実施の形態の音響処理装置1に供給される。
【0043】
このため、この第1の実施の形態の音響処理装置1は、図1に示すように、2ch音源であるディスク100からの左チャンネルの音声信号の供給を受け付ける左チャンネル入力端子Linと、右チャンネルの音声信号の供給を受け付ける右チャンネル入力端子Rinとを有している。
【0044】
そして、図1に示すように、この第1の実施の形態の音響処理装置1は、音像定位処理フィルタ部10と、トランスオーラルシステムフィルタ部20と、左右2チャンネルのスピーカデバイスとして、左スピーカ(左チャンネルスピーカ)SLと右スピーカ(右チャンネルスピーカ)SRと、記録媒体30と、CPU(Central Processing Unit)50とを備えたものである。
【0045】
左右のスピーカSL、SRとしては、それぞれ1つずつのスピーカからなる場合もあれば、スーパーツイータやウハーを備えた高品位の音声の放音が可能ないわゆるHiFiスピーカデバイスを用いることも可能である。この第1の実施の形態の場合、左右のスピーカSL、SRは、スーパーツイータやウハーを備えたHiFiスピーカデバイスである。
【0046】
そして、左右のスピーカSL、SRを含むこの第1の実施の形態の音響処理装置は、図2に示すように、自動車の座席や家庭において用いられる椅子の背もたれ部に対して着脱可能とされたヘッドレスト部St3に構成するようにされる。ヘッドレスト部St3は、図2に示すように、自動車の座席や家庭で用いられる椅子などにおいて、使用者の頭部を支持する部分(頭部支持部)に相当する。
【0047】
すなわち、図2に示すように、自動車の座席や家庭において用いられるリクライニングシートなどのいわゆる椅子(座席)Stは、大きく分けると、使用者が腰をおろす部分である腰掛部St1、使用者の背中をもたせかける部分である背もたれ部St2、使用者の頭部を支持する部分であるヘッドレスト部St3とからなっている。
【0048】
この第1の実施の形態においては、図2に示すヘッドレスト部St3に相当する部分に、左右2チャンネルのスピーカSL、SRを含む図1に示した構成の音響処理装置を構成する。そして、2チャンネル音源からの音声信号を再生する自動車に搭載された音声再生装置(カーステレオ装置)や家庭内に設けられた音声再生システム(ホームオーディオシステムやホームシアターシステムの音声再生装置)からの2チャンネルの音声信号のそれぞれの供給を受けることができるようにされている。
【0049】
そして、ヘッドレスト部St3に構成するようにされたこの第1の実施の形態の音響処理装置を用いた場合には、図2に示した図からも分かるように、ヘッドレスト部St3が装着された椅子Stに腰をかけた聴取者(使用者)は、自己の頭部の斜め後方に位置する左スピーカSL、右スピーカSRからの放音音声を聴取することになる。
【0050】
なお、ヘッドレスト部は、背もたれ部と一体に形成され、ヘッドレスト部分のみを取り外すことができないものもあるが、この実施の形態においては、前述もしたように、自動車の座席や家庭の椅子などの複数の椅子に対して着脱可能であって、複数の椅子において兼用することができるようにしたものである。
【0051】
そして、この第1の実施の形態の音響処理装置1においては、音声の定位を実際に固定されたスピーカの位置から、仮想的なスピーカの位置にずらすようにすることによって、音が聴取者の後頭部付近や聴取者の耳の後方から聞こえることによる違和感、不快感を除去するようにしている。
【0052】
すなわち、この第1の実施の形態においては、音像定位処理フィルタ部10、トランスオーラルシステムフィルタ部20とにより、左スピーカSLと右スピーカSRから放音される音声を、図1、図2において点線で示す左仮想スピーカVSL、右仮想スピーカVSRの位置から放音されたように聞こえるようにする。換言すれば、実スピーカSL、SRから放音される音声の音像を仮想スピーカVSL、VSRから放音されたもののように感じるように定位させる。
【0053】
なお、この第1の実施の形態において、仮想スピーカVSL、VSRは、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声を定位させるようにする仮想位置であり、図1、図2に示すように、ヘッドレスト部st3に対する聴取者の頭部が所定の位置にあるときに、当該聴取者の前方方向の所定の位置に設定するようにしたものである。
【0054】
このように、ヘッドレスト部Stの左スピーカSLと右スピーカSRから放音される音声が、左右の仮想スピーカVSL、VSRが示す位置から放音されたように定位させることにより、音声が聴取者の後頭部付近や聴取者の耳の後方から聞こえることによる違和感、不快感を除去し、自然な音声として聴取者が聴取できるようにしている。
【0055】
以下、この第1の実施の形態の音響処理装置の各部について詳細に説明する。まず、音像定位処理フィルタ部10を説明するに当たり、音像定位処理の原理について説明する。図3は、音像定位処理の原理を説明するための図である。
【0056】
図3に示すように、所定の再生音場において、ダミーヘッドDHの位置を聴取者の位置とし、このダミーヘッドDHの位置の聴取者に対して、音像を定位させようとする左右の仮想スピーカ位置(スピーカがあるとものと想定する位置)に実際に左実スピーカSPL、右実スピーカSLRを設置する。
【0057】
そして、左実スピーカSPL、右実スピーカSPRから放音される音声をダミーヘッドDHの両耳部分において収音し、左実スピーカSPL、右実スピーカSPRから放音された音声が、ダミーヘッドDHの両耳部分に到達したときには、どのように変化するか示す伝達関数(HRTF)を予め測定しておく。
【0058】
図3に示すように、この第1の実施の形態においては、左実スピーカSPLからダミーヘッドDHの左耳までの音声の伝達関数はM11であり、左実スピーカSPLからダミーヘッドDHの右耳までの音声の伝達関数はM12であるとする。同様に、右実スピーカSPRからダミーヘッドDHの左耳までの音声の伝達関数はM21であり、右実スピーカSPRからダミーヘッドDHの右耳までの音声の伝達関数はM22であるとする。
【0059】
この場合、聴取者の耳の近傍に位置することになるヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音する音声の音声信号について、図3を用いて上述したように予め測定した伝達関数を用いて処理し、その処理後の音声信号による音声を放音するようにする。
【0060】
これにより、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声が、あたかも仮想スピーカ位置(図1、図2において、仮想スピーカVSL、VSRの位置)から音声が放音されているように聴取者が感じるように、スピーカSL、SRから放音される音声の音像を定位させることができる。
【0061】
なお、ここでは伝達関数(HRTF)の測定に際し、ダミーヘッドDHを用いるようにしたがこれに限るものではない。伝達関数を測定する再生音場に実際に人間を座らせ、その耳近傍にマイクを置いて音声の伝達関数を測定するようにしてもよい。
【0062】
このように、所定の位置に音像を定位させるために、予め測定するようにした音声の伝達関数による処理を行なう部分が、図1に示した音像定位処理フィルタ部10である。この実施の形態の音像定位処理フィルタ部10は、左右2チャンネルの音声信号を処理することができるものであり、図1に示すように、4つのフィルタ11、12、13、14と、2つの加算部15、16からなるものである。
【0063】
フィルタ11は、左入力端子Linを通じて供給を受けた左チャンネルの音声信号を伝達関数M11で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部15に供給する。また、フィルタ12は、左入力端子Linを通じて供給を受けた左チャンネルの音声信号を伝達関数M12で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部16に供給する。
【0064】
また、フィルタ21は、右入力端子Rinを通じて供給を受けた右チャンネルの音声信号を伝達関数M21で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部15に供給する。また、フィルタ22は、右入力端子Rinを通じて供給を受けた右チャンネルの音声信号を伝達関数M22で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部16に供給する。
【0065】
これにより、左チャンネル用の加算部15からの出力音声信号による音声と、右チャンネル用の加算部16からの出力音声信号による音声とは、図1、図2において左仮想スピーカVSL、右仮想スピーカVSRから放音されるように、その音像が定位するようにされる。
【0066】
しかし、ヘッドレスト部St3に設けられた左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声は、音像定位処理が施されていても、図1に示すように、実際の再生音場における伝達関数G11、G12、G21、G22の影響を受けて、再生音声の音像を目的とする仮想スピーカ位置に正確に定位させることができない場合がある。
【0067】
そこで、この第1の実施の形態においては、トランスオーラルシステムフィルタ部20を用いて、音像定位処理フィルタ部10からの音声信号に対して補正処理を行なうようにすることで、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声を、正確に仮想スピーカ位置の左右の仮想スピーカVSL、VSRから放音されたように定位させる。
【0068】
トランスオーラルシステムフィルタ部20は、トランスオーラルシステムが適用されて形成された音声フィルタである。トランスオーラルシステムは、ヘッドホンを用いて音声を厳密に再生するようにする方式であるバイノーラルシステム方式と同様の効果を、スピーカを用いた場合にも実現しようとする技術である。
【0069】
トランスオーラルシステムについて、図1の場合を例にして説明すると、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声について、それぞれのスピーカから放音される音声の聴取者の左右それぞれの耳までの伝達関数G11、G12、G13、G14の影響を除去することにより、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声を厳密に再生させるようにするものである。
【0070】
したがって、図1に示すトランスオーラルシステムフィルタ部20は、左スピーカSL、右スピーカSRから放音されることになる音声について、再生音場における伝達関数の影響を除去することにより、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声の音像を正確に仮想スピーカ位置応じた位置に定位させるようにする。
【0071】
具体的にトランスオーラルシステムフィルタ部20は、左スピーカSL、右スピーカSRから聴取者の左右の耳までの伝達関数の影響を除去するために、右スピーカSRから聴取者の左右の耳までの伝達関数の逆関数に応じて音声信号を処理するフィルタ21、22,23、24と、加算部25、26を備えたものである。なお、この第1の実施の形態において、フィルタ21、22,23、24においては、逆フィルタ特性をも考慮した処理を行ないより自然な再生音声を放音できるようにしている。
【0072】
ところで、ヘッドレスト部St3に設けられたスピーカから聴取者の左右の耳までの伝達関数は、ヘッドレスト部St3の形状、材質、スピーカデバイスの設置位置、スピーカの性能や特性などが異なれば変わってしまう。すなわち、伝達関数は、スピーカデバイスが設けられた形状等が異なるヘッドレスト部St3ごとに異なるものであるといえる。
【0073】
図4は、背もたれ部St2に対して着脱可能とされた形状の異なるヘッドレスト部St3の例を説明するための図である。図4に示すように、背もたれ部St2に着脱可能なヘッドレスト部としては、箱型のヘッドレスト部St31、湾曲面にスピーカSL、SRが設けられた弓型のヘッドレスト部St32、スピーカSL、SRを設けた張り出し部を有し、聴取者の耳の横方向にスピーカSL、SRを位置させるようにした張り出し型のヘッドレスト部St33、半円型のヘッドレスト部34など、種々のものが考えられる。
【0074】
この図4からも分かるように、ヘッドレスト部の形状が異なれば、ヘッドレスト部に設けられたスピーカSL、SRと聴取者の耳との位置関係が変わり、また、スピーカから放音される音声の放音方向なども変わるため、スピーカから放音された音声の聴取者の耳元までの伝達関数は異なることになる。また、同じ形状のヘッドレスト部であっても、材質が異なれば、音声の吸収率が異なるなどするために、スピーカから放音された音声の聴取者の耳までの伝達関数が変わってしまうことも考えられる。
【0075】
そこで、ヘッドレスト部St3に構成される音響処理システムの構成要素の1つである記録媒体30に、そのヘッドレスト部St3を用いて測定するようにした伝達関数に応じて求められた係数データであって、そのヘッドレスト部St3を用いて音声を聴取する場合の伝達関数の影響を除去するためにトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24のそれぞれにおいて用いる係数データを予め記憶させておく。
【0076】
そして、音声再生時において、CPU40を通じて、記憶媒体30に記憶されているトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタに対する係数データをトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタに供給する。これにより、音像定位処理フィルタ10からの音声信号に対して、そのヘッドレスト部St3の形状等に応じた適正な補正処理をトランスオーラルシステムフィルタ部20において行なうことができるようにしている。
【0077】
このように、トランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24のそれぞれは、記録媒体に予め蓄積されているヘッドレストSt3の形状、材質、スピーカデバイスの設置位置、スピーカの性能や特性などに応じた各フィルタに対するフィルタ係数をCPU40を通じてセットすることができ、セットされた係数データに応じた処理を行なうことができるようにされたものである。
【0078】
そして、音像定位処理フィルタ部10の左チャンネル用の加算部15からの出力音声信号は、トランスオーラルシステムフィルタ部20の左チャンネル用のフィルタ21と、右チャンネル用のフィルタ22とに供給され、また、音像定位処理フィルタ部10の右チャンネル用の加算部16からの出力音声信号は、トランスオーラルシステムフィルタ部20の左チャンネル用のフィルタ23と、右チャンネル用のフィルタ24とに供給される。
【0079】
各フィルタ21、22、23、24のそれぞれは、CPU40からのフィルタ係数を用いて所定の処理を行なうものであり、具体的には、前述もしたように、スピーカSL、SRが設けられたヘッドレストSt3が用いられて測定された聴取者の耳までの音声の伝達関数の影響を除去する処理を自フィルタに供給された音声信号に対して行なう。
【0080】
なお、ここでは、トランスオーラルシステムフィルタ20の各フィルタは、記録媒体30に記憶されている係数データをCPU40を通じてセットすることにより、図1に示したところの伝達関数G1、G2、G3、G4の逆関数を形成し、これにより音声信号を処理することによって、再生音場における伝達関数G1、G2、G3、G4の影響を除去するようにしている。
【0081】
そして、フィルタ21からの出力は、左チャンネル用の加算部25に供給され、フィルタ22からの出力は、右チャンネル用の加算部26に供給される。同様に、フィルタ23からの出力は、左チャンネル用の加算部25に供給され、フィルタ24からの出力は、右チャンネル用の加算部26に供給される。
【0082】
そして、各加算部25、26は、これらに供給された音声信号を加算し、加算部25は、左スピーカSLに音声信号を供給し、加算部26は、右スピーカSRに音声信号を供給する。これにより、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声は、再生音場における現在の聴取者の頭部の位置に応じた伝達関数の影響が除去され、その音像が正確に左仮想スピーカVSL、右仮想スピーカVSRから放音された音声のように定位させることができるようにしている。
【0083】
このように、この第1の実施の形態の音響処理装置1は、スピーカSL、SRが設けられたヘッドレスト部St3の近傍に頭部が位置する聴取者は、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声を仮想スピーカ位置VSL、VSRから放音されたように聴取することができるようにされる。
【0084】
したがって、聴取者の頭部の斜め後ろ側に位置する左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声を聴取するにもかかわらず、音声は聴取者の前方方向から聞こえてくるようにされるので、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声が聴取者の後ろ側に張り付いて聞こえるなどの違和感や不快感を感じることなく、良好に音声を聴取できるようにすることができる。
【0085】
また、この実施の形態の音響処理装置1が搭載されたヘッドレスト部St3を例えば自動車内に設置された座席と家庭内に置かれた椅子とで兼用するようにした場合、自動車内、家庭内のいずれにおいても、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者に対して所定の位置に定位させることができる。
【0086】
したがって、この第1の実施の形態の音響処理装置1が搭載されたヘッドレスト部St3を用いることにより、自動車内、家庭内のいずれにおいても、聴取者は自己の前方の所定の位置に定位するようにされた音声を聴取することができる。すなわち、聴取者の耳の後方に位置するヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音された音声を聴取するにもかかわらず、音声が後ろに張り付いたような感じを受けることなく、また、聞き疲れを生じさせることもないようにすることができる。
【0087】
また、この第1の実施の形態においては、図1に示した音響処理装置1の構成部分前部、すなわち、音像定位処理フィルタ10、トランスオーラルシステムフィルタ20、記録媒体30、CPU40、左右2チャンネルのスピーカSL、SRの前部をヘッドレスト部St3に設けた場合として説明した。
【0088】
この場合には、自動車内に設けられた音響再生装置や家庭内に設けられた音響再生装置の左右の音声信号の出力端子と、音響処理処理1の左右の音声信号の入力端子とを接続することにより、音響処理装置1を用いて音像定位処理された音声を違和感なく聴取することができる。
【0089】
しかし、図1に示した音響処理装置1の構成部分の前部をヘッドレスト部St3に設ける必要はない。例えば、ヘッドレスト部St3には、少なくとも左右2チャンネルのスピーカSL、SRと記録媒体30とを設け、その他の構成部分をヘッドレスト部St3以外に設けるようにすることもできる。
【0090】
図5は、左右のスピーカSL、SRと記録媒体30とをヘッドレスト部St3に設け、それ以外の構成部分はヘッドレストSt3に設けないようにして構成する音響処理装置を説明するための図である。図5に示した音響処理装置は、図1に示した音響処理装置1とほぼ同様に構成されたものである。
【0091】
そして、この図5に示す音響処理装置の場合には、点線で分離するようにした上側の部分、すなわち、スピーカSL、SRと記録媒体30とはヘッドレストSt3に設ける。そして、点線より下側の部分、すなわち、スピーカSL、SRと記録媒体30以外の各部分は、例えば、背もたれ部St2や腰掛部St1、あるいは、ディスクなどの音源に記録されている音声信号を再生する音声再生装置側に設けるようにする。
【0092】
このようにすることによって、ヘッドレスト部St3には、音像定位処理部10、トランスオーラルシステムフィルタ部20などを搭載しなくてもすみ、音響処理装置の構成要素の1つであるスピーカが設けられたヘッドレスト部St3を安価に構成することができる。したがって、聴取者は、ヘッドレストSt3を気軽に買え換えることができるようにされる。
【0093】
しかも、ヘッドレスト部St3以外の場所に設けられるトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24に供給する係数データであって、スピーカSL、SRが設けられたヘッドレストSt3に応じた係数データは、ヘッドレスト部St3側に設けられる記録媒体30に記憶されている。
【0094】
したがって、ヘッドレストSt3が例えば自動車の座席から取り外されて、家庭内の椅子に取り付けられて使用されても、ヘッドレストSt3のスピーカSL、SRから放音される音声は、聴取者に対して所定の位置に定位させることができる。すなわち、自動車の座席と家庭内の椅子などというように、複数の椅子で当該ヘッドレストSt3を兼用し、そのいずれの椅子においても、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者に対して所定の位置に定位させて提供することができる。
【0095】
なお、音響再生装置1の前部をヘッドレスト部St3に設けた場合であっても、また、左右のスピーカSL、SRと記録媒体30とをヘッドレスト部St3に設けた場合であっても、ヘッドレスト部St3をこれが着脱可能とされた椅子(座席)にヘッドレスト部St3を装着すると、CPU40によって記録媒体30から係数データが読み出されてトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタにセットされる。
【0096】
そして、ヘッドレスト部St3が、椅子(座席)に装着されたときには、音源からの音声を再生する音声再生装置から左右のスピーカSL、SRまでが接続され、音源からの音声信号に対して、音像定位処理、トランスオーラル処理を行なって、処理後の音声信号による音声を左右のスピーカSL、SRから放音することができる。
【0097】
なお、記録媒体30は、例えば、ROMやEEPROMなどの半導体メモリである。また、記録媒体30として、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスクなどの記録媒体を用いるようにすることもできる。
【0098】
[第1の実施の形態の変形例]
図6は、第1の実施の形態の音響処理装置の変形例を説明するためのブロック図である。図6に示すように、この例の音響処理装置2は、トランスオーラルシステムフィルタ部20に変えて、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50が搭載されたことを除けば、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1と同様に構成されたものである。このため、この図6に示す音響処理装置2において、図1に示した第1の音響処理装置1と同様に構成される部分には、同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0099】
図1、図2、図6に示したように、ヘッドレスト部St3に設けられるスピーカSL、SRと聴取者の頭部とは通常近接しており、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRは、聴取者の耳に近いという性質上、スピーカSL、SRから反対側の耳へのクロストーク成分は、スピーカSL、SRから当該スピーカに対応する側の耳への音声信号成分よりも格段に小さい。
【0100】
つまり、図1に示した例において、クロストーク成分の伝達関数G12、G21は、伝達関数G11、G22よりも格段に小さいので、クロストーク成分の伝達関数G12、G21は無視することができる。このため、クロストーク成分の考慮を通常のトランスオーラルシステムから省略することにより、簡略化を図ったものが、図6に示す簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50である。
【0101】
この簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50は、図6に示すように、ヘッドレスト部St3に設けられ左スピーカSLから聴取者の左耳までの音声の伝達関数G1の逆関数で音声信号を処理するフィルタ51と、ヘッドレスト部St3に設けられる右スピーカSRから聴取者の右耳までの音声の伝達関数G2の逆関数で音声信号を処理するフィルタ52とを備えたものである。このように、クロストーク成分を無視するようにした場合であっても、左右のスピーカSL、SRから放音される音声の定位は仮想スピーカ位置になることは実験により確認されている。
【0102】
そして、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50の2つのフィルタ51、52のそれぞれに対しては、図1を用いて前述した音響処理装置1の場合と同様に、左右2チャンネルのスピーカSL、SRが設けられるヘッドレスト部を用いて測定するようにされた伝達関数に応じた係数データが供給される。この係数データは、前述した音響処理装置1の場合と同様に、記録媒体30に予め記憶するようにされており、これがCPU40を通じて簡易型トランスオーラルシステムフィルタ50のフィルタ51、52に供給される。
【0103】
この場合、記録媒体30に用意しておく係数データもフィルタ51、52に対するものだけでよいので、記録媒体30に記憶保持しておくデータ量を少なくすることができる。したがって、記録媒体30として記憶容量の小さなものを用いることができる。また、図6に示した音響処理装置2の場合には、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50を用いることにより、音響処理装置の構成を簡単にすることができる。
【0104】
また、図6に示した音響処理装置2の場合にも、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1の場合と同様に、聴取者の頭部の斜め後ろ側に位置する左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声を聴取するにもかかわらず、音声は聴取者の前方方向から聞こえてくるようにされるので、左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声が聴取者の後ろ側に張り付いて聞こえるなどの違和感や不快感を感じさせずに、良好に音声を聴取できるようにすることができる。
【0105】
[第2の実施の形態]
図7は、この発明が適用された第2の実施の形態の音響処理装置3を説明するためのブロック図である。この第2の実施の形態の音響処理装置3は、例えばDVDなどのマルチチャンネルのメディアからの音声信号を処理することができるものであり、この第2の実施の形態においては、5チャンネルの音声信号を処理することができるものである。
【0106】
図7に示すように、この第2の実施の形態の音響処理装置3は、5チャンネル分の音声信号の入力端子i1〜i5を備え、例えば、DVDなどのマルチチャンネルの記録媒体からの5チャンネル分の音声信号の入力を受けることができるものである。そして、図7に示す音響処理装置3は、左右2チャンネルのスピーカSL、SR、記録媒体30、CPU40、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ50、音像定位処理フィルタ部60を備えたものである。
【0107】
この第2の実施の形態の音響処理装置3もまた、第1の実施の形態の音響処理装置1の場合と同様に、各種の椅子(座席)に着脱可能なヘッドレスト部St3に構成するようにされるものである。また、図7からも分かるように、この第2の実施の形態の音響処理装置3は、音像定位処理フィルタ部60以外の各部は、第1の実施の形態の変形例の音響処理装置2と同様に構成されたものである。
【0108】
そして、この第2の実施の形態の音響処理装置3の音像定位処理フィルタ部60は、基本的には、第1の実施の形態の音響処理装置の音像定位処理フィルタ部10と同様の原理に基づいて、スピーカから放音される音声の音像を定位させるものである。
【0109】
しかし、図7に示すこの第2の実施の形態の音響処理装置3においては、ヘッドレスト部St3に設けられる左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を、図7において、点線で示した5つの仮想スピーカVS1〜VS5から放音されているように定位させるようにするものである。
【0110】
図8は、図7に示した第2の実施の形態の音響処理装置3の音像定位処理フィルタ部60の原理を説明するための図である。図8に示すように、所定の再生音場において、ダミーヘッドDHの位置を聴取者の位置とし、このダミーヘッドDHの位置の聴取者に対して、音像を定位させようとする仮想スピーカ位置(スピーカがあるとものと想定する位置)に実際に実スピーカSP1〜SP5を設置する。そして、実スピーカSP1〜SP5のそれぞれから放音される音声のダミーヘッドDHの左右それぞれの耳までの伝達関数(HRTF)を予め測定しておく。
【0111】
図8に示すように、この第2の実施の形態において、実スピーカSP1からダミーヘッドDHの左耳までの音声の伝達関数はN11であり、実スピーカSP1からダミーヘッドDHの右耳までの音声の伝達関数はN12である。また、実スピーカSP2からダミーヘッドDHの左の耳までの音声の伝達関数はN21であり、実スピーカSP2からダミーヘッドDHの右の耳までの音声の伝達関数はN22である。
【0112】
以下同様に、実スピーカSP3からダミーヘッドDHの左右それぞれの耳までの音声の伝達関数は、N31、N32であり、実スピーカSP4からダミーヘッドDHの左右それぞれの耳までの音声の伝達関数は、N41、N42である。また、実スピーカSP5からダミーヘッドDHの左右それぞれの耳までの音声の伝達関数は、N51、N52である。
【0113】
そして、入力端子i1〜i5のそれぞれから入力される音声信号について、図8を用いて説明したように、予め測定した対応する伝達関数を用いて処理するとともに、再生音場における伝達関数による影響を除去するための補正処理を行ない、その処理後の音声信号による音声をヘッドレスト部St3に設けられる左右のスピーカSL、SRに供給して、音声を放音するようにする。
【0114】
このようにして、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音される音声が、あたかも図7において点線で示した仮想スピーカVS1〜VS5が示す位置から放音されているように視聴者が感じるようにその音像を定位させることができるようにしている。
【0115】
そして、音像を定位させるために、予め測定した音声の伝達関数による処理を行なう部分が、図7に示した音像定位処理フィルタ部60であり、再生音場における伝達関数の影響を除去するための補正処理を行なう部分が、前述した第1の実施の形態の変形例の場合と同様に簡易型トランスオーラルシステムフィルタ50である。
【0116】
まず、この第2の実施の形態の音像定位処理フィルタ部60についてであるが、音像定位処理フィルタ部60は、前述もしたように、5チャンネルの音声信号を処理することができるものであり、図7に示したように、10個のフィルタ61〜70と、2つの加算部71、72とからなるものである。
【0117】
フィルタ61は、端子i1を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N11で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部71に供給する。また、フィルタ62は、端子i2を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N12で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部72に供給する。
【0118】
フィルタ63は、端子i2を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N21で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部71に供給する。また、フィルタ64は、端子i2を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N22で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部72に供給する。
【0119】
フィルタ65は、端子i3を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N31で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部71に供給する。また、フィルタ66は、端子i3を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N32で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部72に供給する。
【0120】
フィルタ67は、端子i4を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N41で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部71に供給する。また、フィルタ68は、端子i4を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N42で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部72に供給する。
【0121】
フィルタ69は、端子i5を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N51で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部71に供給する。また、フィルタ70は、端子i5を通じて供給を受けた音声信号を伝達関数N52で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部72に供給する。
【0122】
これにより、左チャンネル用の加算部71からの出力音声信号による音声と、右チャンネル用の加算部72からの出力音声信号による音声とは、図6において点線で示した仮想スピーカVS1〜VS5の位置から放音されるように音像が定位するようにされる。
【0123】
そして、この第2の実施の形態の音響処理装置3の場合にも、第1の実施の形態の音響処理装置1、2の場合と同様に、ヘッドレスト部St3に設けられた左スピーカSL、右スピーカSRから放音される音声は、音像定位処理が施されていても、実際の再生音場における伝達関数の影響を受けて、再生音声の音像を目的とする仮想スピーカ位置に定位させることができない場合があると考えられる。
【0124】
そこで、この第2の実施の形態の音響処理装置3においても、クロストーク成分を考慮しない簡易型のトランスオーラルシステムフィルタ部50を用いることによって、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像が、正確に各仮想スピーカVS1〜VS5の各位置に定位するようにしている。
【0125】
この第2の実施の形態の音響処理装置3の場合にも簡易型トランスオーラルシステム部50においては、図6を用いて前述した第1の実施の形態の変形例の音響処理装置2の場合と同様に、スピーカSL、SRが設けられるヘッドレスト部St3に応じた伝達関数に応じて定められ、記憶媒体30に記憶されている係数データがCPU40を通じて供給され、再生音場におけるスピーカSL、SRから聴取者の耳元までの音声の伝達関数の影響を除去することができるようにされる。
【0126】
近年、DVDなどのマルチチャンネルの音源を持つメディアも普及してきているが、この第2の実施の形態の音響処理装置3のように、5チャンネルの音声信号を処理できるようにしておくことによって、ヘッドレスト部St3の2つのスピーカSL、SRを通じて、仮想的な5チャンネルの音像を得て、迫力ある再生音声を楽しむことができる。
【0127】
そして、この第2の実施の形態の場合においても、左右のスピーカSL、SRが設けられたヘッドレストを用いたときの左右のスピーカSL、SRから聴取者の耳元までの伝達関数に応じて、当該伝達関数の影響を除去するために、予め簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50のフィルタ51、52に供給する係数データを記憶媒体30に用意するようにしている。
【0128】
これにより、図7に示した第2の実施の形態の音響処理装置3が構成されたヘッドレストSt3を複数の椅子(座席)で兼用するようにした場合、それらのどの椅子(座席)に、この第2の実施の形態の音響処理装置3が構成されたヘッドレストSt3を装着して使用した場合にも、聴取者に対して所定の位置に音像を定位するようにした音声を提供することができる。
【0129】
なお、この第2の実施の形態の音響処理装置3において、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ50に変えて、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1の場合と同様に、トランスオーラルシステムフィルタ部20を用いるようにすることもできる。この場合には、4つにフィルタ21,22、23、24のそれぞれにヘッドレスト部St3に応じた係数データをセットするようにすればよい。
【0130】
また、この第2の実施の形態の音響処理装置3の場合にも、少なくとも左右のスピーカSL、SRと記憶媒体30とをヘッドレスト部St3に設け、それ以外の各部は、ヘッドレスト部St3以外の例えば背もたれ部St2や、音響再生装置側、あるいは、音響再生装置と左右のスピーカSL、SRの間のいずれかに設ける構成とすることもできる。
【0131】
このように、ヘッドレスト部には、音響処理装置3の構成部分のうちの必要最小限の部分のみを設けるようにすることによって、音響処理装置3の一部分を構成することになるヘッドレスト部を安価に構成することができる。これにより、使用者は、気軽にスピーカが設けられたヘッドレスト部を交換することができるなど、使用者の要求に対応することができる。
【0132】
[第3の実施の形態]
例えば、図1を用いて前述した音響処理装置1の場合、仮想スピーカVSL、VSRが示す仮想スピーカ位置から聴取者の両耳までの位置関係、および、スピーカSL、SRから聴取者の両耳までの位置関係が、伝達関数測定時と、システム再生時(実際に音声を再生して聴取する時)とで大きく変わってしまう場合には、各伝達関数も変わってしまうため、仮想スピーカ位置への音像の定位の効果が薄くなる場合があると考えられる。
【0133】
具体的に説明すると、例えば、図1に示した音響処理装置1の場合には、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SLから聴取者の耳までの伝達関数が、伝達関数G11、G12、G21、G22である位置に聴取者の頭部がある場合には、当該聴取者は、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRから放音される音声を仮想スピーカVSL、VSRから放音されたかのように聴取することができる。
【0134】
しかし、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRに対する聴取者の頭部の位置が想定した位置よりもずれてしまえば、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRから聴取者の耳元までの伝達関数は変わってしまう。このため、再生音場における当該伝達関数の影響を確実に除去することができなくなり、スピーカSL、SRから放音した音声の音像を仮想スピーカ位置に定位させるようにする仮想スピーカ定位効果が十分には得られなくなる。
【0135】
特に、スピーカの放音面に対して平行に上下方向や左右方向に動いてしまった場合には、スピーカの放音面に対して直交する方向に聴取者の頭部が動いた場合(スピーカに近づくように、あるいは、スピーカから遠ざかるように動いた場合)に比べてその影響は大きい。
【0136】
このため、仮想スピーカ定位の効果を十分に得るためには、スピーカに対する聴取者の頭部の位置(耳の位置)を必ず決まった位置となるようにして、音声を聴取するか、聴取者の様々な頭部の位置における伝達関数を測定しておき、その位置に適するような伝達関数や逆フィルタを通したシステムで音声を再生するようにすることが望ましい。
【0137】
しかし、当該ヘッドレスト部St3を有する椅子に腰をかけた聴取者の頭部の位置を常にスピーカに対して所定の位置の保持するようにすることは難しい。また、保持するようにすることができたとしても、かえって聴取者のリラックス感を阻害することにもなりかねない。
【0138】
そこで、この第3の実施の形態においては、例えば、音響処理装置が動作状態にあるときに、あるいは、聴取者からの指示があった場合などにおいて、スピーカに対する聴取者の耳の位置、換言すればスピーカが設けられたヘッドレスト部からの聴取者の頭部の距離を含むヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置を計測する。
【0139】
そして、ヘッドレストSt3に対して聴取者の頭部が取り得る複数の位置に応じた複数の係数データを記録媒体30に予め用意しておき、測定した聴取者の頭部の位置に応じた係数データを記憶媒体30から読み出して、これを再生音場に置ける伝達関数による影響を除去するためのフィルタに供給することによって、聴取者の頭部の最新の位置に応じて音像定位処理後の音声信号に対して適切な補正処理を施すことができるようにしたものである。
【0140】
図9は、この第3の実施の形態の音響処理装置4を説明するためのブロック図である。この第3の実施の形態の音響処理装置4もまた、複数の椅子(座席)に対して着脱可能とされたヘッドレスト部St3に構成されるものである。
【0141】
図9に示す音響処理装置4においては、ヘッドレスト部St3に設けられるスピーカデバイスのスーパーツイータを聴取者の頭部の位置検出センサとして用いるようにしている。近年、再生オーディオについてのHiFi志向が進み、可聴周波数帯域以上の再生性能を持つスピーカを実装することは珍しいことではないため、これを利用する。
【0142】
すなわち、この第3の実施の形態の音響処理装置4のスピーカSL、SRのスーパーツイータは、可聴周波数以上の再生能力を持つものであり、この構成のスピーカ(スピーカデバイス)を聴取者の頭部の位置の測定に用いることにより、聴取者の頭部の位置を検出するために感圧式などの専用のセンサシステムを搭載しなくても済むように構成したものである。
【0143】
具体的には、ヘッドレスト部St3にも受けられたスピーカのスーパーツイータから超音波を送信し、この送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波(反射超音波)をスーパーツイータにより受信して、これを頭部位置検出部(以下、単に検出部という。)80で分析することにより、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出する。
【0144】
このように、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータを聴取者の頭部の位置を検出するための位置検出センサとして用い、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出するための検出部80を設けたことを除けば、図9に示すこの第3の実施の形態の音響処理装置4は、第1の実施の形態の音響処理装置1とほぼ同様に構成されたものである。
【0145】
このため、図9に示したこの第3の実施の形態の音響処理装置において、図1に示した音響処理装置1と同様に構成される部分には同じ参照符号を付し、その詳細な説明については省略する。
【0146】
そして、前述もしたように、この第3の実施の形態の音響処理装置4においては、ヘッドレスト部St3に設けられるスピーカSL、SRのスーパーツイータから所定の周波数の超音波を送信し、この超音波の聴取者の主に頭部からの反射をヘッドレスト部St3のスピーカSR、SLのスーパーツイータを通じて受信する。
【0147】
そして、スーパーツイータから送信した超音波の反射波の受信の有無や、反射波を受信した場合には、超音波を送信してからその反射波を受信するまでにかかった時間、当該時間と超音波の速度とから得られるスピーカと聴取者との距離などに基づいて、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出するようにしている。
【0148】
図10は、この第3の実施の形態の音響処理装置4において行なう聴取者の頭部の位置の検出処理を説明するための図である。図10に示すように、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータから40kHzの超音波を送信し、この超音波の使用者の頭部からの反射波を、同じくヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータにより受信する。
【0149】
左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータからの超音波の送信の制御は、例えばCPU40によって制御される。そして、左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータにより受信される超音波は、検出部80に供給するようにされる。この検出部80において、40kHzの超音波(反射波)の有無や、40kHzの超音波(反射波)を受信したときには、当該超音波の送信から受信までにかかった時間、超音波の速度などからヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRに対する聴取者の頭部の位置を検出する。
【0150】
すなわち、図4A、Bに示すように、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRのスーパーツイータのそれぞれが、同じように送信した超音波の反射波を同じように受信した場合には、送信から受信までにかかった時間に応じて、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出することができる。
【0151】
簡単に言えば、例えば、図4Aに示したように、超音波の送信から受信までにかかった時間が比較的に長い場合には、聴取者の頭部は、ヘッドレスト部St3から比較的に離れた位置に位置していることがわかる。また、図4Bに示したように、超音波の送信から受信までにかかった時間が比較的に短い場合には、聴取者の頭部の位置は、ヘッドレスト部St3から比較的に近い位置に位置していることがわかる。
【0152】
また、図4Cに示すように、ヘッドレスト部St3に設けた左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータから同じように送信した超音波を例えば左スピーカSLのスーパーツイータのみが受信し、右スピーカSRのスーパーツイータは40kHzの超音波を受信しなかった場合には、聴取者の頭部は、ヘッドレスト部St3に対して左側に片寄っていることがわかる。
【0153】
この逆に、ヘッドレスト部St3に設けた左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータから同じように送信した超音波を例えば右スピーカSRのスーパーツイータのみが受信し、左スピーカSLのスーパーツイータは40kHzの超音波を受信しなかった場合には、聴取者の頭部は、ヘッドレスト部St3に対して右側に片寄っていることがわかる。
【0154】
このように、検出部40は、左右のスピーカから送信された超音波の聴取者の頭部からの反射波に基づいて、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRからの距離および左右のオフセット(ずれ分)などがセンシング可能である。この場合、聴取者の頭部の位置は、例えば、本来聴取者の頭部が位置すべき基準位置からのずれ分(オフセット分)として検出され、これがCPU40に通知される。
【0155】
そして、CPU40は、検出部80からの聴取者の頭部の位置の検出結果に基づいて、記録媒体30に記録されている係数データテーブルを参照し、現在の聴取者の頭部の位置に応じたトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24に供給する係数データを読み出す。
【0156】
この第3の実施の形態において、記録媒体30には、トランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24のそれぞれに供給する係数データであって、ヘッドレスト部St3に対して聴取者の頭部が取り得る複数の位置に応じた複数の係数データが各位置に対応付けられて記憶されている。
【0157】
すなわち、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRから放音された音声の聴取者の左右の耳元までの伝達関数を、予めヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置をいろいろと変えて測定しておき、この測定結果に基づいて、トランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24で用いる係数データを求め、この求めた係数データと聴取者の頭部の位置とを対応付けたデータが記録媒体30に記憶するようにされている。
【0158】
したがって、記録媒体30には、聴取者の頭部の位置が、位置Aにおけるトランスオーラルシステムフィルタ部20のフィルタ21、22、23、24のそれぞれで用いられる係数データ、位置Bにおけるトランスオーラルシステムフィルタ部20のフィルタ21、22、23、34のそれぞれで用いられる係数データ、…というように、ヘッドレスト部St3に対してその位置を変えるようにした聴取者の頭部の各位置におけるフィルタ21、22、23、24で用いる係数データが記憶されている。
【0159】
CPU40は、検出部80からの現在の使用者の頭部の位置の検出結果に基づいて、トランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ21、22、23、24に供給する係数データを記録媒体30から読み出し、これをトランスオーラルシステムフィルタ部20の対応するフィルタに供給する。
【0160】
これにより、聴取者の頭部の位置がヘッドレスト部St3に対して動いても、聴取者の実際の頭部の位置を測定して、その位置に応じて再生音場における伝達関数の影響を除去するようにトランスオーラルシステムフィルタ部20において、補正処理を行なうことができる。したがって、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者の頭部の位置にかかわりなく仮想スピーカ位置に定位させることができる。
【0161】
しかも、記憶媒体30に記憶されている係数データは、この第3の実施の形態の音響処理装置4が構成されたヘッドレスト部St3に応じたものであるので、このヘッドレスト部St3を、これが着脱可能ないずれの椅子(座席)に装着されて用いられた場合であっても、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者に対して所定の位置に定位させることができる。
【0162】
なお、この第3の実施の形態において、記録媒体30には、聴取者の頭部が取り得る各位置において測定した伝達関数に基づいて、頭部の各位置に対応してトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタにセットする関数を求め、この関数と頭部の位置とを対応付けて記憶するようにしてもよい。すなわち、補正に用いる関数自体を頭部の位置に対応付けて記録媒体30に記憶しておき、これをトランスオーラルシステムフィルタ部20の目的とするフィルタにセットするようにしてもよい。
【0163】
また、例えば、基準位置における伝達関数を測定し、この基準伝達関数に対する振幅調整用パラメータや遅延処理用パラメータなどの必要なパラメータを設定しておき、この基準パラメータを基準にして、検出される聴取者の頭部の実際の位置に応じ、新たなパラメータを求め、これを各フィルタに設定するようにしてもよい。
【0164】
つまり、1つの伝達関数モデルを設定し、このモデルに対して聴取者の頭部の位置に応じて調整を行なうようにすることによって、聴取者の実際の頭部の位置に応じた補正処理を音声信号に対して行なうようにすることもできる。この場合には、基準モデルとして、基準位置に置けるパラメータを例えばCPUで実行するプログラム中に保持するようにした場合には、パラメータを保持するためのメモリは必要ないし、また、基準パラメータのみをメモリに保持しておくのであれば、大きな記憶容量のメモリは必要ないことになる。
【0165】
なお、上述したように、記録媒体30に蓄積され、トランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタに供給することになる処理用情報としては、係数データ、関数データ、パラメータデータなど、複数種類のものがかんがえられるが、これらは、実際に音響処理装置に搭載されることになる各フィルタ回路に応じて用いるようにすればよい。
【0166】
また、この第3の実施の形態においては、トランスオーラルシステムフィルタ部20を用いるようにしたが、これに限るものではない。例えば、図11に示すように、トランスオーラルシステムフィルタ部20に代えて簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50を用いることにより、よい構成を簡単にした音響処理装置5を構成することもできる。この場合には、記憶部30に予め容易しておくデータを図9に示した第3の実施の形態の音響処理装置4の約半分にすることができる。
【0167】
また、2チャンネルの音像定位処理フィルタ10に変えて、図7に示した5チャンネルの音像定位処理フィルタ部50などの多チャンネルの音像定位処理フィルタを用いるようにすることもできる。
【0168】
また、この第3の実施の形態の図9に示した音響処理装置4、および、図11に示した音響処理装置5の場合にも、左右のスピーカSL、SRと記録媒体30とをヘッドレスト部St3に設け、その他の部分を背もたれ部St2や、音響再生装置側、あるいは、スピーカSL、SRと音響再生装置との間に設けるようにしてもよい。
【0169】
このようにした場合には、スピーカを備えた安価なヘッドレスト部St3を構成することができ、形状、材質、スピーカ設置位置などが異なる様々なヘッドレスト部を提供し、使用者は自分の好みに合ったものを購入して利用することができる。
【0170】
[第4の実施の形態]
ところで、より高品位の音声の提供が可能な音響処理装置を実現するために、ヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置の検出精度を上げ、音声信号に対するトランスオーラルシステムによる補正処理をより厳密に行なえるようにしたいとする要求がある。
【0171】
そこで、この第4の実施の形態の音響処理装置においても、聴取者の頭部の位置を検出するための超音波を、前述した第3の実施の形態の音響処理装置4、5の場合と同様に、ヘッドレスト部St3に設けられたスピーカSL、SRのスーパーツイータから送信する。
【0172】
しかし、この第4の実施の形態の音響処理装置においては、送信された超音波の反射波は、ヘッドレスト部St3、あるいは、その近傍に設ける複数個の超音波受信素子によって受信するようにし、より精度よく聴取者の頭部の位置を検出できるようにしたものである。
【0173】
図12は、この第4の実施の形態の音響処理装置6を説明するためのブロック図である。図12に示すように、この第4の実施の形態の音響処理装置は、複数個の超音波受信素子(超音波感知素子)が例えばヘッドレスト部St3あるいはその近傍に設けられるとともに、複数個の受信素子からの検出出力を受け付ける頭部位置検出部80Aが設けられている以外は、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1と同様に構成されたものである
このため、図12に示す第4の実施の形態の音響処理装置6において、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1と同様に構成される部分には、第1の実施の形態の音響処理装置1と同様の参照符号を付し、その部分の説明は省略することにする。
【0174】
図12に示すこの第4の実施の形態の音響処理装置6の場合には、ヘッドレスト部St3に、あるいは、その近傍に、6つの超音波受信素子(以下、単に受信素子という。)SS1〜SS6をアレイ状に設けている。そして、左チャンネルSLのスーパーツイータと、右チャンネルSRのスーパーツイータから、周波数の異なる超音波を送信し、その反射波を受信素子SS1〜SS6で受信し、その検出出力に基づいて、検出部80Aが聴取者の頭部の位置をより正確に検出することができるようにしている。
【0175】
図13は、この第4の実施の形態の音響処理装置6において行なう聴取者の頭部の位置の検出処理を説明するための図である。図13に示すように、本来聴取者の頭部がある方向にその放音面が向けられた左右のスピーカSL、SRから、異なる周波数の超音波を送信し、この送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波を受信素子SS1〜SS6により受信するようにする。
【0176】
この図13に示す例の場合、左スピーカSLのスーパーツイータからは、周波数が40kHzの超音波を送信し、右スピーカSRのスーパーツイータからは、周波数が50kHzの超音波を送信するようにしている。このようにすることによって、位置検出の精度をより向上させるようにしている。
【0177】
そして、図13Aに示すように、ヘッドレスト部St3に設けられた受信素子SS1〜SS6のいずれもが、左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータから送信された超音波の反射波を受信できない場合には、聴取者の頭部の位置は、ヘッドレスト部St3から所定の距離以上離れた位置にあると検出することができる。
【0178】
また、図13Bに示すように、左スピーカSLのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、40kHzの超音波が受信素子SS3により受信され、かつ、右スピーカSRのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、50kHzの超音波が受信素子SS1により受信された場合には、聴取者の頭部の位置は、ヘッドレスト部St3の左スピーカSL側によった位置にあると検出することができる。
【0179】
また、図示しないが、図13Bの場合とは逆に、左スピーカSLのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、40kHzの超音波が受信素子SS6により受信され、かつ、右スピーカSRのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、50kHzの超音波が受信素子SS4が受信した場合には、聴取者の頭部の位置は、ヘッドレスト部St3の右スピーカSL側によった位置にあると検出することができる。
【0180】
さらに、図13Cに示すように、左スピーカSLのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、40kHzの超音波が受信素子SS3により受信され、かつ、右スピーカSRのスーパーツイータから送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波、すなわち、50kHzの超音波が受信素子SS4が受信した場合には、聴取者の頭部の位置は、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRのちょうど中間の位置にあると検出することができる。
【0181】
このように、左右のスピーカSL、SRのスーパーツイータから送信される、周波数の異なる超音波をヘッドレスト部St3にアレイ状に設けられた6つの受信素子の内のどの受信素子が受信したかに応じて、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部のオフセット(ずれ分)を検出することができる。
【0182】
さらに、左右のスピーカのスーパーツイータから送信される超音波について、その送信から受信素子により受信されるまでの時間を計測しておくことにより、当該時間と超音波の速度とに応じて、ヘッドレスト部St3から聴取者の頭部までの距離を検出することができる。これらヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部のオフセット、および、距離に基づいて、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置をより正確に検出することができる。
【0183】
そして、検出部80Aは、図13を用いて説明したように、ヘッドレスト部St3にアレイ状に設けられた各受信素子からの検出出力に基づいて聴取者の頭部の正確な位置を検出する。すなわち、検出部80Aは、上述したように、どの受信素子によって、左右それぞれのスピーカのスーパーツイータから送信された超音波を受信したか、さらに、左右それぞれのスピーカのスーパーツイータから送信された超音波の送信から受信までの時間を考慮して、聴取者の頭部の位置を検出する。
【0184】
そして、CPU40は、前述した第1の実施の形態の音響処理装置1のCPU40の場合と同様に、検出部80Aからのヘッドレスト部St3に対する現在の聴取者の頭部の位置に対応する係数データを記録媒体30から読み出し、この読み出した係数データをトランスオーラルシステムフィルタ部20の目的とするフィルタ21、22、23、24に供給する。
【0185】
これにより、トランスオーラルシステム部20においては、ヘッドレスト部St3に対する現在の聴取者の頭部の位置に応じて、音像定位処理後の音声信号に対する補正処理が行なわれ、補正後の音声信号が左右のスピーカSL、SRに供給され、ヘッドレスト部St3に対して聴取者の頭部の位置が変わってしまっても、左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を仮想スピーカ位置に定位させることができる。
【0186】
すなわち、聴取者の頭部の位置がヘッドレスト部St3に対して動いても、聴取者の実際の頭部の位置を測定して、その位置に応じて再生音場における伝達関数の影響を除去するようにトランスオーラルシステムフィルタ部20において、補正処理を行なうことができる。したがって、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者の頭部の位置にかかわりなく仮想スピーカ位置に定位させることができる。
【0187】
しかも、記憶媒体30に記憶されている係数データは、前述した第3の実施の形態の場合と同様に、この第4の実施の形態の音響処理装置6が構成されたヘッドレスト部St3に応じたものであるので、このヘッドレスト部St3を、これが着脱可能ないずれの椅子(座席)に装着されて用いられた場合であっても、ヘッドレスト部St3に設けられた左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を聴取者に対して所定の位置に定位させることができる。
【0188】
また、この第4の実施の形態の音響処理装置6の場合にも、記憶媒体30に予め用意しておくデータは、係数データに限るものではなく、第3の実施の形態の場合と同様に、関数データやパラメータデータなど、トランスオーラルシステムフィルタ部の各フィルタの構成に応じて、適切なものを用いるようにすることができる。
【0189】
また、この第4の実施の形態においも、前述した第3の実施の形態の場合と同様に、トランスオーラルシステムフィルタ部20に代えて簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部50を用いることにより、よい構成を簡単にした音響処理装置5を構成することもできる。この場合には、記憶部30に予め容易しておくデータを図12に示した第4の実施の形態の音響処理装置4の約半分にすることができる。
【0190】
また、2チャンネルの音像定位処理フィルタ10に変えて、図7に示した5チャンネルの音像定位処理フィルタ部50などの多チャンネルの音像定位処理フィルタを用いるようにすることもできる。
【0191】
また、この第4の実施の形態の図12に示した音響処理装置6の場合にも、左右のスピーカSL、SRと記録媒体30とをヘッドレスト部St3に設け、その他の部分を背もたれ部St2や、音響再生装置側、あるいは、スピーカSL、SRと音響再生装置との間に設けるようにしてもよい。
【0192】
このようにした場合には、スピーカを備えた安価なヘッドレスト部St3を構成することができ、形状、材質、スピーカ設置位置などが異なる様々なヘッドレスト部を提供し、使用者は自分の好みに合ったものを購入して利用することができる。
【0193】
また、前述した第3、第4の実施の形態の音響処理装置4、5、6の場合には、聴取者の頭部の位置の検出に超音波を用いている。超音波は人間の耳では音として聴取することはできないので、聴取者に頭部の検出処理を行なっていることを気付かれることがない。
【0194】
また、通常の音楽成分であれば、検出制度(測定精度)にかかわるほどの超音波成分は含まれていないため、聴取目的の再生音声(音楽信号)との干渉が問題になることはない。すなわち、音楽の再生中において、再生音声を劣化させることなく、かつ、聴取者に気付かれることなく、スピーカに対する聴取者の位置を測定し、検出することが可能である。
【0195】
なお、前述した第4の実施の形態の音響処理装置6においては、6つの超音波受信素子をヘッドレスト部St3、あるいは、その近傍に設けるようにしたが、これに限るものではなく、さらに多くの超音波受信素子を用いるようにしてももちろんよいし、複数の受信素子を複数列設けるようにしてもよい。また、受信素子間の間隔や左右のスピーカSL、SRの放音面の向きなどを適宜調整するようにすることもできる。
【0196】
また、超音波受信素子を設ける位置は、ヘッドレスト部St3やその近傍のほか、聴取者の頭部からの反射の受信が可能な任意の場所に設けるようにしてもよい。
【0197】
[第5の実施の形態]
前述した第3、第4の実施の形態においては、スピーカが設けられたヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置を超音波を送信し、その反射波を受信することにより検出するようにした。しかし、聴取者の頭部の位置検出は、超音波を用いるものに限るものではない。
【0198】
例えば、音声だけでなく画像の送受信が可能なテレビ電話が家庭において用いられるようになってきている。そこで、例えば、図14に示すように、テレビセット(TVセット)200と、左右2チャンネルのスピーカSR、SLが設けられたヘッドレスト部St3を有する音響処理装置が搭載された椅子とにより、いわゆるホームシアターシステムを構築するような場合には、通常はテレビ電話用として用いられるCCDカメラ210を、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置検出に用いることができる。
【0199】
また、自動車内(車室内)において音楽などの音声を聴取するようにすることも多い。そこで、図15に示すように、自動車内の座席に左右2チャンネルのスピーカ(SL1、SR1またはSL2、SR2)を搭載したヘッドレスト部を設けることにより音響処理装置を構成することが考えられる。このような場合に、自動車内に例えばテレビ電話用のCCDカメラ310を搭載することにより、当該テレビ電話用のCCDカメラ310をヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置検出に用いることが可能となる。
【0200】
なお、現状においても、数種類の自動車においては、死角を排除するなどのために、自動車の外側にCCDカメラを設け、このCCDカメラを通じて撮像するようにした画像を車内のディスプレイに表示して観視できるようにしたものも提供されており、自動車内撮像用のCCDカメラを自動車に搭載することも可能である。
【0201】
そこで、この第5の実施の形態の音響処理装置7は、スピーカが設けられたヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置を家庭内や自動車内に設けられるCCDカメラ(CCD装置)を用い、聴取者の頭部がスピーカに対してどれ位オフセットして座っているかをリアルタイムに把握し、その位置に適した伝達関数をシステムに使用することで、より自由な姿勢で仮想スピーカ定位効果を楽しむことができるようにしたものである。
【0202】
なお、この第5の実施の形態の音響処理装置7もまた、前述した第1の実施の形態の音響処理装置1の場合と同様に、左右2チャンネルの音声信号を処理することができるものであり、ヘッドレスト部St3に設けられた左右2チャンネルのスピーカから放音される音声の音像を聴取者の前方方向に定位させることができるものである。すなわち、音響処理装置7は、ヘッドレスト部St3に設けられた左右2チャンネルのスピーカから放音される音声を仮想スピーカVSL、VSRから放音されたように音像を定位させることができるものである。
【0203】
図16は、この第5の実施の形態の音響処理装置7を説明するためのブロック図である。この図16に示す音響処理装置7は、図14、図15を用いて説明したように、家庭の室内や自動車内に設けられるようにされるものである。そして、この図16に示す音響処理装置5は、CCDカメラ210と、このCCDカメラ210によって撮像された画像を解析し、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出するようにする画像解析部90を除けば、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1と同様に構成されたものである。
【0204】
このため、図16に示すこの第5の実施の形態の音響処理装置7において、図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置1と同様に構成される部分には、同じ参照符号を付し、その部分の説明については省略する。
【0205】
そして、この第5の実施の形態の音響処理装置7において、CCDカメラ210は、聴取者方向に向けられてセットされ、常に聴取者方向の画像を撮像することができるようにされている。そして、CCDカメラ210は、例えば、CPU40からの制御により、音響処理装置7が動作している間、常時、あるいは、所定のタイミング毎に聴取者方向の画像を撮像し、撮像した画像を画像解析部90に供給する。
【0206】
画像解析部90は、CCDカメラ210からの画像データの解析処理を行ない、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を検出し、これをCPU40に通知する。具体的には、聴取者が座る椅子や座席のヘッドレスト部分などの所定の位置に目印をつけておくことにより、ヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRの位置を画像処理的に確認できるようにしておく。
【0207】
そして、聴取者は、椅子に座っている状態でも必ず少しではあるが動いているので、これを利用し、静止画像の時間軸差分を取ることにより、聴取者のエッジ部分が抽出できる。この聴取者のエッジ部分とスピーカの位置とにより、聴取者の頭部とヘッドレスト部St3のスピーカSL、SRとの位置関係がわかる。
【0208】
CPU40は、画像解析部90からの検出結果(聴取者の頭部の位置)に基づいて、記録媒体30に記憶されている係数データを読み出し、これをトランスオーラルシステムフィルタ部20の対応するフィルタに供給する。
【0209】
これにより、トランスオーラルシステムフィルタ部20においては、音像定位処理された音声信号に対して、聴取者の頭部の位置に応じた補正が施され、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置が変わった場合であっても、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRから放音された音声の音像を仮想スピーカVSL、VSRから放音されているように定位させることができる。
【0210】
なお、CCDカメラ210によって撮像した画像を解析する場合には、ヘッドレスト部St3の頭部接触面に対して直交する方向である縦方向に頭部が移動した場合と、ヘッドレスト部St3の頭部接触面に対して並行な方向である横方向に頭部が移動した場合とでは、後者の横方向の移動の方が容易に検知可能である。
【0211】
もともと、スピーカはヘッドレスト部St3に設けられ聴取者の耳の近傍に位置することになるため、聴取者の頭部が同じだけ移動するとしても、ヘッドレスト部St3の頭部接触面に対して直交する方向である縦方向に頭部が移動した場合と、ヘッドレスト部St3の頭部接触面に対して並行な方向である横方向に頭部が移動した場合とでは、横方向に移動した場合の方がスピーカか聴取者の耳までの伝達関数の変化がきい。
【0212】
このため、この第5の実施の形態の音響処理装置7においては、CDDカメラ210により撮像した画像を解析することにより、聴取者の頭部の横方向の位置(オフセット)をセンシングし、これに応じて、トランスオーラルシステムフィル部20の各フィルタに対して適切なフィルタ係数を用いるようにすることで、ヘッドレスト部St3の左右のスピーカSL、SRから放音される音声の音像を正確に所定の位置に定位させるようにしている。
【0213】
なお、この第5の実施の形態の音響処理装置7においても、トランスオーラルシステムフィルタ部20に変えて、図11に示した音響処理装置5の場合とどうように、簡易型トランスオーラルシステム部50を用いるようにすることもできる。また、2チャンネルの音像定位処理フィルタ部10に変えて、多チャンネル、例えば、5チャンネルの音像定位処理フィルタ60を用いるようにすることもできる。
【0214】
したがって、この第5の実施の形態の音響処理装置7の場合にも、前述した第3、第4の実施の形態の音響処理装置の場合と同様に、ヘッドレスト部St3に対する聴取者の頭部の位置を、常に、あるいは、随時に測定し、その測定した位置に応じた伝達関数に応じた補正処理(トランスオーラル処理)することで、従来のような聴取者の頭部の測定位置と聴取位置の不正合による仮想スピーカ定位効果の不足の状態を避け、聴取者の頭部の位置に左右されることなく、音像の前方定位や音像の全周囲定位などの効果を実現することができる。
【0215】
なお、前述した第1、第2、第3、および、第4の実施の形態において、ヘッドレスト部に設けられるスピーカの放音面は、ヘッドレスト部の頭部が接触する面に平行となるようにした場合を示したが、ヘッドレスト部に設けるスピーカの放音面を聴取者側に傾けるなど、適宜の修正を行なうようにすることも可能である。
【0216】
また、前述の実施の形態においては、ヘッドレスト部に左スピーカSL、右スピーカSRの2つのスピーカを設けるようにした場合の例を示したが、スピーカは、必ず2つである必要はなく、1つであってもよいし、また、3つ以上の複数であってもよい。また、前述もしたように、ツイターなどを備えたいわゆるHiFi志向のスピーカデバイスを用いることができることはいうまでもない。
【0217】
また、この第5の実施の形態の図16に示した音響処理装置7の場合にも、左右のスピーカSL、SRと記録媒体30とをヘッドレスト部St3に設け、その他の部分を背もたれ部St2や、音響再生装置側、あるいは、スピーカSL、SRと音響再生装置との間に設けるようにしてもよい。
【0218】
このようにした場合には、スピーカを備えた安価なヘッドレスト部St3を構成することができ、形状、材質、スピーカ設置位置などが異なる様々なヘッドレスト部を提供し、使用者は自分の好みに合ったものを購入して利用することができる。
【0219】
また、スピーカと記録媒体が内蔵されたヘッドレスト部の購入に際し、そのヘッドレスト部を使用する使用者の耳元までの伝達関数を測定し、そのヘッドレストを用いるその使用者に固有の伝達関数に応じた係数データ、関数データ、パラメータデータを記録媒体に記憶するようにしてもよい。
【0220】
このようにした場合には、ヘッドレスト部を用いる使用者個人に対してより適合した補正処理を音声信号に対して行なうことができるので、各使用者毎に好適な音響処理装置を構成することができる。
【0221】
また、前述の実施の形態においては、スピーカが設けられえるヘッドレスト部の形状、材質、スピーカ設置位置、スピーカの性能や特性などに応じて再生音場における伝達関数が異なるものとして説明した。この場合、スピーカの性能としては、スピーカの指向特性などを含むものであり、スピーカの特性としては、周波数特性などを含むものである。すなわち、伝達関数は、スピーカの指向特性や周波数特性によっても変わるが、これらについても対応が可能である。
【0222】
また、記録媒体として用いられる半導体メモリや各種のディスクに格納される係数データ、関数データ、パラメータデータなどの格納方法、データフォーマットなどは、様々なものを用いることができる。また、前述もしたように、記録媒体に格納しておくデータとしては、再生用スピーカから聴取者の量耳までの伝達関数でもよいし、実際にトランスオーラル演算を行なっておき、実際の音声に畳み込む直前の形のデータを記録媒体に記録するようにしてもよい。
【0223】
また、記録媒体には、1つの伝達関数だけでなく、複数の伝達関数情報を格納しておくようにすることもできる。すなわち、聴取者自身の顔や耳の大きさ、位置、形状、眼鏡の有無などに応じた伝達関数情報を記録媒体に記録するようにし、これらの情報を聴取者自身が選択することにより、若しくはセンサが自動的に検知して、補正処理を行なうことによって、より仮想スピーカの音像定位の効果を強くすることができる。
【0224】
また、記録媒体には、1つ以上の伝達関数を記録しておくようにしてももちろんよい。この場合、スピーカが設けられるヘッドレスト部の形状やこれに伴うスピーカの設置位置に応じて、音像定位の効果が強くなる位置を選んでヘッドレスト部作成時に設定できるメリットがあり、聴取者に対し、十分な音像定位効果を提供することができる。
【0225】
また、前述した各実施の形態において、音響処理装置を説明するためのブロック図には、いわゆるパワーアンプは省略した。これは説明を簡単にするためである。パワーアンプは、ヘッドレスト部側、椅子側、あるいは、再生装置側などの適宜の位置に設けることができる。
【0226】
また、記憶媒体には、補正処理部に供給する係数データなどだけでなく、例えば、楽曲データやその他のデータを記憶しておき、これを用いるようにすることもできる。
【0227】
また、ヘッドレスト部に設けられる記録媒体に格納されている係数データや関数データなどは、例えば、パーソナルコンピュータを介して比較的に簡単に更新するようにすることもできる。この場合、ヘッドレスト部は、持ち運びが容易にできるで、パーソナルコンピュータに接続して行なうバージョンアップなどの処理を簡単に行なうようにすることができる。
【0228】
また、「機能性を持ったヘッドレスト」という新たな商品を提供することができ、新しいビジネスマーケットを創造することができる。
【0229】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明による音響処理装置によれば、スピーカを例えばヘッドレスト部に設けた場合には、複数の異なる椅子に対して着脱可能なヘッドレスト部を含む音響処理装置であって、当該ヘッドレスト部をどの椅子に装着して使用した場合にも、仮想スピーカ定位の効果が不足してしまうなどの不都合を生じさることのない音響処理装置を実現することができる。
【0230】
また、聴取者が、スピーカが設けられたヘッドレスト部を変更する場合、ヘッドレストの形状、大きさなどの情報を、音像定位された音声信号の補正処理を行なう補正処理部に対して手動で設定するなどの面倒な手間が不要で、ヘッドレスト部を椅子部に接続する作業だけで、そのヘッドレスト部に固有の伝達関数に応じたデータを音響処理装置に組み込むことができる。
【0231】
スピーカが設けられたデザイン、大きさ、スピーカの設置位置などの異なる種々のヘッドレスト部を安価に製造することができ、使用者は、自分の好みに合い、自分にとって、音像定位効果の最も有効なヘッドレスト部を選ぶことができるなど、ヘッドレスト部の選択の幅を持たせることができる。
【0232】
また、スピーカに対する聴取者の頭部の位置を検出し、その実際の聴取位置に応じて、再生音場における伝達関数の影響を除去するために音声信号に対して行なう補正処理を適切に行なうことができる。聴取者は、自己の頭部の位置が制限されることなく、楽な状態で、リラックスして音像定位処理されて放音される音声を聴取することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による音響処理装置の第1の実施の形態を説明するためのブロック図である。
【図2】第1の実施の形態の音響処理装置が搭載された椅子の外観について説明するための図である。
【図3】図1に示した第1の実施の形態の音響処理装置において行なわれる音像定位処理の原理について説明するための図である。
【図4】スピーカが設けられるヘッドレスト部であって、形状の異なるヘッドレスト部の例を説明するための図である。
【図5】図1に示した音響処理装置の他の構成例を説明するための図である。
【図6】図1に示した音響処理装置の変形例を説明するための図である。
【図7】この発明による音響処理装置の第2の実施の形態を説明するためのブロック図である。
【図8】図7に示した第2の実施の形態の音響処理装置において行なわれる音像定位処理の原理について説明するための図である。
【図9】この発明による音響処理装置の第3の実施の形態を説明するためのブロック図である。
【図10】図9に示した第3の実施の形態の音響処理装置において行なわれる聴取者の頭部の位置の検出処理を説明するための図である。
【図11】図9に示した第3の実施の形態の音響処理装置の変形例を説明するためのブロック図である。
【図12】この発明による音響処理装置の第4の実施の形態を説明するためのブロック図である。
【図13】図12に示した第4の実施の形態の音響処理装置において行なわれる聴取者の頭部の位置の検出処理を説明するための図である。
【図14】この発明による第5の実施の形態の音響処理装置の利用態様の例を説明するための図である。
【図15】この発明による第5の実施の形態の音響処理装置の利用態様の他の例を説明するための図である。
【図16】この発明による第5の実施の形態の音響処理装置を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
10…音像定位処理フィルタ部、11〜14…フィルタ、15、16…加算部、20…トランスオーラルシステムフィルタ部、21〜24…フィルタ、25、26…加算部、SL…左スピーカ、SR…右スピーカ、VSL…仮想左スピーカ、VSR…仮想右スピーカ、30…記録媒体、40…CPU、50…簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部、51、52…フィルタ、60…音像定位処理フィルタ部、61〜70…フィルタ、71、72…加算部、80…頭部位置検出部、SS1〜SS6…超音波受信素子、90…画像解析部、210、310…CCDカメラ
Claims (6)
- スピーカデバイスと、
前記スピーカデバイスに供給するようにする音声信号に対して、前記音声信号による音声の音像を所定の位置に定位させるようにする処理を行なう音像定位処理部と、
前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置に応じた処理用情報に基づいて、前記音像定位処理部からの音声信号に対して補正処理を行なうようにする補正処理部と、
前記補正処理部で用いられる前記処理用情報を記憶保持する記憶部と、
前記記憶部に記憶保持されている前記処理用情報を前記補正処理部に供給し、前記補正処理部を制御するようにする制御部と
を有し、
少なくとも、前記スピーカデバイスと、前記記憶部とは、複数の椅子の背もたれ部に対して着脱可能とされたヘッドレストに設けられる
音響処理装置。 - 前記記憶部には、前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の取り得る位置毎に、前記補正処理部に供給する前記処理用情報が記憶するようにされており、
前記スピーカデバイスに対する聴取者の頭部の位置を検出する頭部位置検出部を有し、
前記制御部は、前記頭部位置検出部からの検出結果に応じて決まる前記記憶部の前記処理用情報を前記補正処理部に供給して、前記補正処理部を制御するようにする
請求項1に記載の音響処理装置。 - 前記頭部位置検出部は、
超音波を送信する超音波送信手段と、
前記超音波送信手段から送信され、聴取者の頭部により反射される反射超音波を受信する超音波受信手段と、
前記超音波受信手段による反射超音波の受信の有無、および、前記超音波受信手段により反射超音波を受信した場合には超音波の速度と超音波を送信してから反射超音波として受信するまでの時間とに基づいて聴取者の頭部の前記スピーカに対する位置を特定する頭部位置特定手段と
からなる請求項2に記載の音響処理装置。 - 前記超音波送信手段と、前記超音波受信手段とは、前記スピーカデバイスの高音域スピーカである
請求項3に記載の音響処理装置。 - 前記超音波送信手段は、左右2チャンネルの前記スピーカデバイスの高音域スピーカであり、
前記超音波受信手段は、所定の位置に並べられた複数個の超音波感知素子からなるものであり、
左右2チャンネルのそれぞれの前記高音域スピーカからは、異なる周波数の超音波を送信する
請求項3に記載の音響処理装置。 - 前記頭部位置検出部は、
前記スピーカデバイスを通じて音声を聴取するようにしている聴取者の頭部を含む画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された画像を解析し、前記聴取者の頭部の前記スピーカデバイスに対する位置を検出する画像解析手段と
からなる請求項2に記載の音響処理装置。
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