この発明は、満充電状態における開回路電圧が4.25V以上である非水電解質二次電池に供せられる共役ジエン系ポリマーとポリオレフィン系ポリマーとを混合してなる微多孔膜に関するものである。
近年の携帯電子技術の目覚しい発達により、携帯電話やノートブックコンピューターは高度情報化社会を支える基盤技術と認知されてきた。さらに、これらの機器の高機能化に関する研究開発は精力的に進められており、その消費電力も比例して増加の一途を辿っている。その反面、これらの電子機器は長時間駆動が求められており、必然的に駆動電源である二次電池の高エネルギー密度化が望まれてきた。
電子機器に内蔵される電池の占有体積や 重量等の観点より、電池のエネルギー密度は高いことが望ましい。現在では、リチウムイオン二次電池が優れたエネルギー密度を有することから、殆どの機器に内蔵されるに至っている。
通常、リチウムイオン二次電池では、正極にコバルト酸リチウムおよび負極には炭素材料が使用されており、作動電圧が4.2Vから2.5Vの範囲で用いられる。単電池において、端子電圧を4.2Vまで上げられるのは、非水電解質材料やセパレータ等の優れた電気化学的安定性によるところが大きい。
現状、最大4.2Vで作動するリチウムイオン二次電池では、それに用いられるコバルト酸リチウム等の正極活物質は、その理論容量に対して6割程度の容量を活用しているに過ぎず、さらに充電圧を上げることにより、残存容量を活用することが、原理上可能である。実際、例えば、以下の特許文献1に開示されているように、充電時の電圧を4.2V以上にすることにより、高エネルギー密度化が発現することが知られている。
しかしながら、上記のような電池を検討したところ、充電電圧を4.2V以上に設定した場合は、特に正極表面近傍における酸化雰囲気が強まる結果、正極と物理的に接触する非水電解質材料やセパレータが酸化分解を受けやすくなり、結果的に電池内部抵抗が増大化し、特にサイクル特性等が低下するといった「本電池系固有の問題」が内在していることがわかった。
したがって、この発明の目的は、電池中のセパレータの化学的安定性を高めることによって起こる上記問題の改善に着想したものであり、充電電圧を4.2Vを超える高電圧に設定した場合でも、電池内部抵抗が増大化しサイクル特性等が低下するといった問題を防止できる非水電解質二次電池を提供することである。
この発明の課題は、充電電圧が4.2Vを超える高電圧である場合でも、電池内部抵抗が増大化しサイクル特性等が低下するといった問題を防止できる化学的に安定な微多孔膜およびそれを用いた非水電解質二次電池を提供することであり、この発明の微多孔膜は共役ジエン系ポリマーとポリオレフィン系ポリマーとを混合してなるものである。さらに、微多孔膜中の共役ジエン系ポリマーは、その不飽和結合部の一部もしくは全部を飽和結合に変化させたものである。この微多孔膜を満充電状態における開回路電圧が4.25V以上である非水電解質二次電池においてセパレータとして用いることで、充電電圧が4.2Vを超える高電圧であっても、優れた電池特性を損なうことなく、化学的に安定な非水電解質二次電池を提供できる。
この発明によれば、満充電状態における開回路電圧が4.25V以上である非水電解質二次電池において、微多孔膜をセパレータとして用いることにより、特に正極表面近傍における酸化分解反応が抑制されることにより、従来の課題であった電池特性の著しい低下を抑制することが可能となった。
図1は、本実施の形態に係る微多孔膜を用いた二次電池の断面構造を表すものである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶11の内部に、帯状の正極21と帯状の負極22とがセパレータ23を介して巻回された巻回電極体20を有している。電池缶11は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶11の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板12、13がそれぞれ配置されている。
電池缶11の開放端部には、電池蓋14と、この電池蓋14の内側に設けられた安全弁機構15および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)16とが、ガスケット17を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶11の内部は密閉されている。電池蓋14は、例えば、電池缶11と同様の材料により構成されている。安全弁機構15は、熱感抵抗素子16を介して電池蓋14と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板15Aが反転して電池蓋14と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子16は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット17は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
巻回電極体20は、例えば、センターピン24を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極21にはアルミニウムなどよりなる正極リード25が接続されており、負極22にはニッケルなどよりなる負極リード26が接続されている。正極リード25は安全弁機構15に溶接されることにより電池蓋14と電気的に接続されており、負極リード26は電池缶11に溶接され電気的に接続されている。
図2は図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。正極21は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体21Aと、正極集電体21Aの両面あるいは片面に設けられた正極合剤層21Bとを有している。正極集電体21Aは、例えば、アルミニウム(Al)箔等の金属箔により構成されている。
正極合剤層21Bは、例えば、正極活物質を含んでおり、必要に応じてグラファイトなどの導電剤と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを含んでいてもよい。正極活物質としては、リチウムを含有する化合物、例えばリチウム酸化物,リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。特に、エネルギー密度を高くするには、正極活物質としてLixMO2を主体とするリチウム複合酸化物を含んでいることが好ましい。なお、Mは1種類以上の遷移金属が好ましく、具体的には、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)およびチタン(Ti)からなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。
また、xは、電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、例えば、LiaCoO2(a≒1)、LibNiO2(b≒1)あるいはLicNidCo1-dO2(c≒1、0<d<1である。)が挙げられる。また、リチウム複合酸化物としては、スピネル構造を有するLieNiにLieO4(e≒1)、あるいは、オリビン構造を有するLifFePO4(f≒1)が挙げられる。
より具体的には、一般式Li[LixMn(1-x-y-z)Ni2yMz]O(2-A)Fb(式中MはCo、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、Sr、Wから選ばれた少なくとも1種以上の元素。xは0<x≦0.2、yは0.3≦y≦0.8、0≦z≦0.5、−0.1≦A≦0.2、0≦b≦0.1)の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物や、一般式LicNi(1-d)M’dO(2-e)Ff(式中M‘はCo、Mn、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、Wから選ばれた少なくとも1種以上の元素。dは−0.1≦c≦0.1、dは0.005≦d≦0.5、−0.1≦e≦0.2、0≦f≦0.1)の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物、一般式LicCo(1-d)M’dO(2-e)Ff(式中M’はNi、Mn、Mg、Al、B、Ti
、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、Wから選ばれた少なくとも1種以上の元素。dは−0.1≦c≦0.1、dは0≦d≦0.5、−0.1≦e≦0.2、0≦f≦0.1)の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物に加え、一般式LisMn2-tM’’tOuFv(式中M’’はCo、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、Sn、Ca、Sr、Wから選ばれた少なくとも1種以上の元素、sはs≦0.9、tは0.005≦t≦0.6、uは3.7≦u≦4.1、vは0≦v≦0.1)の組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いることが可能である。また、一般式LiM’’’PO4(式中M’’’はCo、Mn、Fe、Ni、Mg、Al、B、Ti、V、Nb、Cu、Zn、Mo、Ca、Sr、W、Zr、Znから選ばれた少なくとも1種以上の元素)の組成を有するリチウム遷移金属複合リン酸塩も利用可能である。
負極22は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体22Aと、負極集電体22Aの両面あるいは片面に設けられた負極合剤層22Bとを有している。負極集電体22Aは、例えば銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。
負極合剤層22Bは、例えば、負極活物質を含んでおり、必要に応じてポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。負極活物質としては、リチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料(以下、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料と称する。)を含んでいる。
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属、あるいは高分子材料などが挙げられる。
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素,易黒鉛化性炭素,黒鉛,熱分解炭素類,コークス類,ガラス状炭素類,有機高分子化合物焼成体,炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス,ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロール等が挙げられる。
このようなリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料のなかでも、充放電電位が比較的リチウム金属に近いものが好ましい。負極22の充放電電位が低いほど電池の高エネルギー密度化が容易となるからである。なかでも炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができると共に、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性を得ることができるので好ましい。
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、また、リチウム金属単体、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体,共晶(共融混合物),金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
このような金属元素あるいは半金属元素としては、スズ(Sn),鉛(Pb),アルミニウム,インジウム(In),ケイ素(Si),亜鉛(Zn),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),ホウ素(B),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),銀(Ag),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式MasMbtLiuあるいは化学式MapMcqMdrで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Maはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MbはリチウムおよびMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mcは非金属元素の少なくとも1種を表し、MdはMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、s、t、u、p、qおよびrの値はそれぞれs>0、t≧0、u≧0、p>0、q>0、r≧0である。
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素あるいはスズ、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。この他、MnO2、V2O5、V6O13、NiS、MoSなど、リチウムを含まない無機化合物も、正負極のいずれかに用いることができる。
非水溶媒は、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートのうちの少
なくとも一方を含んでいることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。特に、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを混合して含むようにすれば、よりサイクル特性を向上させることができるので好ましい。
非水溶媒は、また、ジエチルカーボネート,ジメチルカーボネート,エチルメチルカーボネートあるいはメチルプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステルのうちの少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性をより向上させることができるからである。
非水溶媒は、さらに、2,4−ジフルオロアニソールおよびビニレンカーボネートのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。2,4−ジフルオロアニソールは放電容量を改善することができ、ビニレンカーボネートはサイクル特性をより向上させることができるからである。特に、これらを混合して含んでいれば、放電容量およびサイクル特性を共に向上させることができるのでより好ましい。
非水溶媒は、さらにまた、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これら化合物の水素基の一部または全部をフッ素基で置換したもの、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドあるいはリン酸トリメチル等のいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
組み合わせる電極によっては、上記非水溶媒群に含まれる物質の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したものを用いることにより、電極反応の可逆性が向上する場合がある。したがって、これらの物質を適宜用いることも可能である。
リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4LiB(C6H5)4、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiC(SO2CF3)3、LiAlCl4、LiSiF6、LiClあるいはLiBrが適当であり、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いられる。なかでも、LiPF6は高いイオン伝導性を得ることができると共に、サイクル特性を向上させることができるので好ましい。
なお、電解液に代えて、他の電解質、例えば高分子化合物に電解液を保持させたゲル状の電解質を用いてもよい。電解液、すなわち液状の溶媒,電解質塩および添加剤については上述のとおりである。高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとポリヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネートが挙げられる。特に電気化学的な安定性を考慮すると、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイドなどが好ましい。
また、他の電解質としては、イオン伝導性高分子を利用した高分子固体電解質、またはイオン伝導性無機材料を利用した無機固体電解質なども挙げられ、これらを単独あるいは他の電解質と組み合わせて用いてもよい。高分子固体電解質に用いることができる高分子化合物としては、ポリエーテル,ポリエステル,ポリフォスファゼン,あるいはポリシロキサンなどが挙げられる。無機固体電解質としては、イオン伝導性セラミックス,イオン伝導性結晶,あるいはイオン伝導性ガラスなどが挙げられる。
この二次電池は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤を1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。続いて、この正極合剤スラリーを正極集電体21Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極合剤層21Bを形成し、正極21を作製する。
また、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤を1−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。続いて、この負極合剤スラリーを負極集電体22Aに塗布し溶剤を乾燥させたのち、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極合剤層22Bを形成し、負極22を作製する。
次いで、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などにより取り付ける。そののち、正極21と負極22とをセパレータ23を介して巻回し、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接すると共に、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接して、巻回した正極21および負極22を一対の絶縁板12,13で挟み電池缶11の内部に収納する。正極21および負極22を電池缶11の内部に収納したのち、電解質を電池缶11の内部に注入し、セパレータ23に含浸させる。そののち、電池缶11の開口端部に電池蓋14,安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1に示した二次電池が完成する。
この二次電池では、充電を行うと、例えば、正極21からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して負極22に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極22からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して正極21に吸蔵される。ここでは、セパレータ23が本実施の形態の微多孔膜を有し耐熱性が向上されているので、特に高温保存時における自己放電率の劣化が抑制され、高い信頼性が確保される。
以下、実施例、比較例により、この発明をさらに詳しく説明するが、この発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〜6〕
この発明の最良の実施の形態において説明した微多孔膜を作製した。まず、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレンと共役ジエンポリマーである1,4−ポリブタジエンゴムを混合してなる混合物30質量部と溶媒である流動パラフィン70質量部に、酸化防止剤であるイルガノックス1010(チバスペシャリティケミカルズ株式会社の登録商標)を、ポリエチレンに対して0.5質量%添加して均一に混合しスラリー状とし、これを160℃の温度で二軸混練り機を用いて溶解混練りした。その際、混合物における共役ジエンポリマーの混合比率は、仕込み濃度として表1に示したように一定とし、充電電圧は、表1に示したように変化させた。
そののち、この混練物を0℃に冷却した金属板に挟み込み急冷し5mmのシート状とした。この急冷シートを115℃の温度で加熱プレスし、120℃の温度で3.5×3.5倍に縦横同時に二軸延伸し、ヘプタンを使用して脱溶媒処理を行ったのち、空気雰囲気下において85℃を6時間保持したのち120℃まで昇温しこの温度を2時間保持するという加熱処理を施し、共役ジエンポリマーにおける多重結合の少なくとも一部を単結合とした。その際、微多孔膜の平均厚みおよび空孔率を表1〜8に示したように変化させた。なお、平均厚みは、1/10000シックネスゲージおよび走査型電子顕微鏡を用いた断面観察により測定した。空孔率は、空孔率(%)=(1−質量/(面積×樹脂密度×厚み))×100で見積もった。
また、実施例1〜6に対する比較例1〜2として、共役ジエンポリマーを用いないことを除き、他は実施例1〜6と同様にして微多孔膜を作製した。その際、平均厚みおよび空孔率は表2に示した値とした。また、実施例1〜6に対する比較例3として、共役ジエンポリマーに代えてポリエチレンオキサイドを用いた以外は実施例1〜6と同様にして微多孔膜を作製した。また、実施例1〜6に対する比較例4として、充電電圧を4.2Vに設定した以外は実施例1〜6と同様にして微多孔膜を作製した。
得られた実施例1〜6および比較例1〜4の微多孔膜について、貫通強度を調べた。貫通強度は、具体的には、圧縮試験機(株式会社アトニック製 PDE−20R)を用いて突き刺し試験を行い、最大荷重の直読値を突き刺し強度として求めた。その際、加圧針として直径1mm、先端曲率半径が0.5mmのものを用い、5cm/分の速度で行った。
次いで、作製した実施例1〜6および比較例1〜4の微多孔膜を用い、この発明の実施の最良の形態において説明した二次電池を作製した。正極21は、次のようにして作製した。市販の硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸マンガンを水溶液として、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)の比率がそれぞれ0.50、0.20、0.30となるように混合し、十分攪拌しながらアンモニア水を滴下して複合水酸化物を得た。これを水酸化リチウムと混合し、酸素気流中、850℃で10時間焼成した後に粉砕し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。得られた粉末を原子吸光分析により分析したところ、LiNi0.50 Co0.20 Mn0.30 O2 の組成が確認された。また、レーザー回折法により粒径を測定したところ、平均粒径は13μmであった。また、この粉末のX線回折測定を行ったところ、得られたパターンはICDD(The International Centre For Diffraction Data)の09−0063にあるLiNiO2 のパターンに類似しており、LiNiO2と同様の層状岩塩構造を形成していることが確認された。また、SEM(Scanning Electron Microscope)により粉末を観察したところ、0.1μm〜5μmの1次粒子が凝集した球状の粒子が観察された。
続いて、作製した上記リチウム遷移金属複合酸化物粉末と炭酸リチウム粉末とを、それぞれ95質量%と5質量%との比率になるように混合したのち、この混合物と、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)と、ポリフッ化ビニリデンとを、それぞれ94質量%、3質量%、3質量%の比率となるように混合して正極合剤を調製した。続いて、この正極合剤を1−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーを作製したのち、この正極合剤スラリーを厚み20μmの帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体21Aの両面に均一に塗布した。次いで、塗布物を温風乾燥したのち、ロールプレス機で圧縮成型し、正極合剤層21Bを形成した。正極21の総厚みは150μmとなるようにした。
また、負極22は次のようにして作製した。まず、平均粒径30μmの粒状黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンとを、それぞれ90質量%と10質量%との比率で混合して負極合剤を調製した。続いて、この負極合剤を1−メチル−2−ピロリドンに分散させて負極合剤スラリーを作製したのち、この負極合剤スラリーを厚み15μmの帯状銅箔よりなる負極集電体22Aの両面に均一に塗布しこれを加熱プレス成型し、負極合剤s層22Bを形成した。負極22の総厚みは160μmとなるようにした。
正極21および負極22を作製したのち、作製した微多孔膜をセパレータ23として用い、このセパレータ23と正極21と負極22とを、負極22、セパレータ23、正極21、セパレータ23の順に積層し、渦巻型に多数回巻回することにより、外径14mmのジェリーロール型の巻回電極体20を作製した。
巻回電極体20を作製したのち、巻回電極体20を挟み込むように、巻回電極体20の周面に対して垂直に一対の絶縁板12,13を配設し、正極21の集電をとるために、アルミニウム製の正極リード25の一端を正極集電体21Aから導出し、他端をディスク板15Aを介して電池蓋14と電気的に接続した。また、負極22の集電をとるためにニッケル製の負極リード26の一端を負極集電体22Aから導出し、他端を電池缶11に溶接した。また、巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、電池缶11の内部に電解液4.0gを減圧方式により注入した。
電解液には、エチレンカーボネート35質量%と、ジメチルカーボネート60質量%と、ビニレンカーボネート1質量%とを混合した溶媒に、LiPF6を重量モル濃度が1.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いた。
最後に、アスファルトを塗布したガスケット17を介して電池缶11をかしめることにより、安全弁機構15、熱感抵抗素子16および電池蓋11を重ね合わせた状態で密閉し、直径14mm、高さ65mmの円筒型の二次電池とした。
作製した実施例1〜6および比較例1〜4の二次電池について、充放電を行い、定格容量および自己放電率を調べると共に、充放電反応機構を確認した。充電は、定電流定電圧方式により行った。具体的には、500mAで定電流充電を開始したのち、それぞれ端子間電圧が4.25から4.65Vまで上昇した時点で定電圧充電へ切り替えた。充電は、充電開始後5時間を経過した時点で終了した。本明細書では、このような状態を完全充電状態と定義した。
また、放電は定電流方式により行った。具体的には、300mAで放電を開始し、端子間電圧が2.75Vに降下するまで行った。このような状態を完全放電状態と定義する。定格容量は、上述充放電操作の2回目の放電容量を測定し、この放電容量から算出した。また、容量維持率は、上述の充放電操作を150回繰り返した直後の放電容量と定格容量で除することにより算出した。
表1のように実施例1〜6では、充電電圧を4.25〜4.65Vまで変化させたが、表2に示した比較例1および2との比較により、いずれも高エネルギー密度化効果が発現していること、および容量維持率が実用に耐えうる性能を維持していることが確認された。
また、実施例1〜6と表2の比較例3との比較から、ポリオレフィン系ポリマーに添加するポリマーの分子構造の選定も重要であることが示唆されている。さらに、表2の比較例4との比較により、4.2Vで充電するような従来型のリチウムイオン二次電池では、この発明の効果を得るための条件として、共役ジエン構造を有するポリマーの添加は必ずしも必要ではないことが示唆され、結果として、充電電圧が4.25Vを超えるような新型電池における特有の性能劣化現象を抑制する手段として、この発明のごとき微多孔膜が効果を最大限に発揮することが可能となることが示された。実施例1〜6の結果を表1に、比較例1〜4の結果を表2にまとめた。
表3の参考例7、実施例8〜実施例10、参考例11は、1,4−ポリブタジエンゴムの仕込み濃度の影響を評価した結果である。同濃度条件以外は、実施例4と同様な方法により電池を作製および試験した。仕込み濃度は、1wt%から10wt%の範囲が好ましいことが示された。参考例7、実施例8〜実施例10、参考例11の結果を表3にまとめた。
表4の参考例12および13は、1,4−ポリブタジエンゴム以外の共役ジエン構造を有するポリマーを用いたこと以外は、実施例4と同様な方法により電池を作製、試験した結果である。この実施例より、1,4−ポリブタジエンの他にも、ポリイソプレンゴムやポリノルボルネンを用いた場合においても、同様な改善効果が得られることが判明した。参考例12、13の結果は、表4にまとめた。
表5の実施例14は、実施例4に用いた負極に関して、特に負極合材の厚みを100ミクロンに設定することにより、満充電時における負極表面にリチウム金属が析出するようにした電池である。これを実施例4と同様な手法により作製および試験した結果、負極に黒鉛を用いた実施例4と同様な劣化抑制効果が観測された。
表5の実施例15は、実施例4に用いた正極に関して、粉状のコバルト酸リチウムを用いた場合の電池特性である。試験の結果、この発明のセパレータの改善効果は、正極材料の種類によらず発現していることが示された。
表5の実施例16では、実施例4に用いた負極に関して、黒鉛の代わりに珪素粉末を用いた電池の評価結果である。容量維持率は、やや低下するものの、実用性能の目安となる80%以上という基準は満足することが確認され、この発明の微多孔膜の効果が実証された。
同様に、表5の実施例17は、実施例4に用いた負極に関して、無電解鍍金方法により銅箔上に錫層を総厚で100ミクロンとなるように形成させた負極を用いた電池である。試作および評価の結果、容量維持率は、実施例4と比較してやや低下するものの、実用性能の目安となる80%以上という基準は満足することが確認され、この発明の微多孔膜の効果が実証された。
表5の実施例18は、電解質材料としてポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体をホストポリマーとするゲル電解質を用いた点を除いて、実施例4と同様な構成で電池を試作、評価した結果である。
ゲル状電解質は、ポリ弗化ビニリデン(PVDF)とポリヘキサフロロプロピレン(PHFP)の共重合体とエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートを主成分とする電解質を複合化したものである。ポリマーの共重合比は、PVDFとPHFPが、それぞれ95重量%と5重量%となるように調製されたものである。これに、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとビニレンカーボネートを、それぞれ48重量%、48重量%、4重量%の比率で混合した液体に、LiPF6を1.0mol/kgとなるように溶かして得られる液状の非水電解質を保持させることにより、ゲル状電解質を作製した。ポリマーと液状非水電解質の混合比率は、8重量%と92重量%となるように予め調製した。
この実施例の正極および負極には、コーティング装置によりゲル状電解質が5μmの厚さで予め塗布されたものを利用した。これを実施例4と同様な工程で巻き取ることにより、ゲル状電解質を利用した非水電解質電池を作製した結果、高い電圧領域での充電操作を行ったにもかかわらず、優れた電池特性が得られていることが示された。実施例14〜18の結果は、表5にまとめた。
実施例14〜18における微多孔膜の効果検証を目的として、それらの例に対応する比較例を比較例5〜9に示した。その内訳は実施例14に対して比較例5、実施例15に対して比較例6、実施例16に対して比較例7、実施例17に対して比較例8および実施例18に対して比較例9とした。同比較例で用いた微多孔膜は、ポリエチレンのみから成る微多孔膜であり、実施例4と同様な試験を適用した結果、いずれの電池も容量維持率が著しく劣化していることが確認されたことから、この発明の微多孔膜を用いれば、負極材料や正極材料および非水電解質材料によらず、本電池系固有の劣化現象を抑制可能であることが示唆された。この結果は、表6にまとめた。
参考例19〜24および参考例25〜31においては、実施例4と同様な電池構成において、それぞれ微多孔膜の厚み、貫通強度や空孔率が劣化抑制効果へ与える影響を評価した結果である。参考例19〜24の結果は表7に、参考例25〜31の結果は表8にまとめた。
この結果より、厚みについては、5μm以上25μm程度が好ましく、さらに貫通強度は300gf以上とすることが良いことが判明した。また、空孔率については、25%〜55%程度の範囲において、さらに良好な劣化抑制効果が得られることが示された。
上記の結果より、共役ジエンポリマーとポリエチレンとを含む混合物について、少なくとも共役ジエンポリマーにおける多重結合の少なくとも一部を単結合とするようにすれば、機械的強度に優れた微多孔膜を得ることができ、この微多孔膜を用いれば、充電電圧を向上させることにより、エネルギー密度を上げることを意図した次世代型電池固有の性能劣化を低下させることができることが分かった。
また、共役ジエンポリマーの混合比率を1質量%以上かつ20質量%以下、かつポリオレフィンの混合比率を99質量%以下80質量%以上とするように、または、微多孔膜の平均厚みを、5μm以上かつ25μm以下とするように、または、微多孔膜の空孔率を25%以上かつ55%以上とするようにすれば、微多孔膜の機械的強度を大きくすることができると共に、充放電サイクル時の容量を維持しつつ、電池の定格容量を大きくすることができることが確認できた。
なお、上記実施例では、共役ジエンポリマーおよびポリオレフィンについて具体的に例を挙げて説明したが、上述した効果は共役ジエンポリマーおよびポリオレフィンの構造に起因するものと考えられる。よって、他の共役ジエンポリマーおよびポリオレフィンを用いても同様の結果を得ることができる。
以上、実施の形態および実施例を挙げてこの発明を説明したが、この発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、軽金属としてリチウムを用いる場合について説明したが、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他のアルカリ金属、またはマグネシウムあるいはカルシウム(Ca)などのアルカリ土類金属、またはアルミニウムなどの他の軽金属、またはリチウムあるいはこれらの合金を用いる場合についても、この発明を適用することができ、同様の効果を得ることができる。その際、軽金属を吸蔵および離脱することが可能な負極材料、正極活物質、非水溶媒、あるいは電解質塩などは、その軽金属に応じて選択される。
また、上記実施の形態および実施例では、この発明の微多孔膜を巻回構造を有する円筒型の二次電池に適用する場合について説明したが、この発明の微多孔膜は、巻回構造を有する楕円型あるいは多角形型の二次電池、または正極および負極を折り畳んだりあるいは積み重ねた構造を有する二次電池にも同様に適用することができる。加えて、いわゆるコイン型,ボタン型あるいは角型などの二次電池にも適用することができる。また、二次電池に限らず、一次電池にも適用することができる。更に、電池以外にも適用することができる。
この発明の一実施の形態に係る二次電池の構成を表す断面図である。
図1に示した二次電池における巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
符号の説明
11 電池缶、
12、13 絶縁板、
14 電池蓋
15 安全弁機構
15A ディスク板
16 熱感抵抗素子
17 ガスケット
20 巻回電極体
21 正極
21A 正極集電体
21B 正極合剤層
22 負極
22A 負極集電体
22B 負極合剤層
23 セパレータ、
24 センターピン
25 正極リード
26 負極リード