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JP4682347B2 - ポリオレフィン微多孔膜の製造方法 - Google Patents

ポリオレフィン微多孔膜の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関するものであって、特に熱収縮率が低減され、透気度のバランスの良いポリオレフィン微多孔膜の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリオレフィン微多孔膜は、各種の分離膜や、電池用セパレータ、電解コンデンサー用セパレータ等に使用されている。特にリチウム電池においては、有機溶媒に不溶で電解質や電極活物質に安定なセパレータとして多用されつつある。
ポリオレフィン微多孔膜としては、超高分子量のポリオレフィンを用いた高強度および高弾性の微多孔膜が用いられ、例えば、重量平均分子量が7×10以上の超高分子量ポリオレフィンを溶媒中で加熱溶解した溶液からゲル状シートを成形し、前記ゲル状シート中の溶媒量を脱溶媒処理により調整し、次いで加熱延伸した後、残留溶媒を除去することによる微多孔膜(特開昭60−242035号公報他)、分子量分布が特定の値の超高分子量ポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物の高濃度溶液からの微多孔膜(特開平3−64334号公報)等が提案され、リチウム電池用セパレータ等としても用いられてきている。
【0003】
ところで、最近のリチウムイオン電池用セパレータとしては、高容量化、電池特性、安全性、生産性を向上させることが求められてきている。
特に、電池安全性と生産性向上をバランスさせることは非常に重要である。電池特性の向上のためには、各種電池系において用いる電池用セパレータの孔径、空孔率及び透過性等を最適にすることが要求されている。また、安全性の面では、電極が短絡して電池内部の温度が上昇した時に、発火等の事故が生じるのを防止するために膜強度の向上と熱収縮率の低減がポイントとなっている。しかしながら、現状の生産設備では、孔径、空孔率、透過性及び膜強度のバランスを維持したまま熱収縮率の低減をはかるには限度があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、上記物性バランスを維持あるいは向上させ、かつ熱収縮率の低減を図ったポリオレフィン微多孔膜の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するため鋭意検討した結果、超高分子量ポリオレフィン又はその組成物からのポリオレフィン微多孔膜の製造工程中の多段の熱セット工程において、特定の固定収縮工程、収縮工程、無収縮工程を組み合わせることにより、熱収縮率の低減と物性バランスの優れたポリオレフィン微多孔膜が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィン(A)又は当該ポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物(B)と溶剤とからなる溶液を溶融混練して押出し、冷却して得られたゲル状成形物を延伸し、得られた延伸物から溶剤を除去し、乾燥後に3段以上の多段による熱セットを行うことを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法であって、第1段の熱セット工程では、(C)MD、TDの両方向の固定を行いながらMD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、第1段及び最終段以外のいずれかの熱セット工程では、(D)MD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、最終段の熱セット工程では、(E)収縮させない工程とし、かつ熱セット工程全体ではMD、TDのいずれかの方向を10%以上50%以下収縮させることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法である。
【0009】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(チ)前記ポリオレフィン(A)が、重量平均分子量1×10〜15×10であることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(リ)前記ポリオレフィン(A)又は前記ポリオレフィン組成物(B)の重量平均分子量/数平均分子量(以下、「Mw/Mn」という。)が5〜300であることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(ヌ)前記ポリオレフィン(A)又は前記ポリオレフィン組成物(B)に使用されるポリオレフィンが、ポリエチレン又はポリプロピレンであることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(ル)重量平均分子量50万以上のポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物が重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量1万以上50万未満の高密度ポリエチレンからなる組成物であることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(ヲ)重量平均分子量50万以上のポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物が、重量平均分子量50万以上の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量1万以上50万未満の高密度ポリエチレンとシャットダウン機能を付与するポリオレフィンとからなり、当該シャットダウン機能を付与するポリオレフィンが、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、分子量1000〜4000の低分子量ポリエチレン又はシングルサイト触媒を用いて製造されたエチレン・α−オレフィン共重合体の中から少なくとも一つ選ばれたものであることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(ワ)前記熱セット工程が3段又は4段であることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(カ)前記熱セット工程のうち、(C)の工程において、90℃〜150℃にて、0.01〜50%MD、TDの少なくとも一軸方向に収縮処理することを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(ヨ)前記熱セット工程のうち、(D)の工程において、60℃〜融点にて、0.01〜50%MD、TDの少なくとも一軸方向に収縮処理することを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(タ)前記熱セット工程のうち、(E)の工程において、60℃〜融点にて、固定しながら収縮させないようにすることを特徴とする前記ポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法を、ポリオレフィン微多孔膜の構成成分物性共々、以下に詳細に説明する。
1.ポリオレフィン
本発明によるポリオレフィン微多孔膜には、ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物が用いられる。
ポリオレフィンとしては、重量平均分子量50万以上、好ましくは重量平均分子量100万〜1500万の超高分子量ポリオレフィンが用いられる。重量平均分子量が50万未満では、延伸時に破断が起こりやすいため、好適な微多孔膜を得ることは困難である。また、重量平均分子量の上限は、限定的ではないが、1500万以下とすることにより、溶融押出を容易にすることができる。
【0011】
ポリオレフィンの種類は、限定的ではないが、重量平均分子量との関係から、超高分子量ポリエチレンを用いることが好ましい。これらは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、ペンテン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンが好適である。なお、当該他のα−オレフィンの共重合量が多すぎると破断強度、突刺強度の低下を招くので注意する必要がある。
【0012】
本発明において用いられるポリオレフィン組成物は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物である。重量平均分子量が50万以上のポリオレフィンを含有していない組成物では、延伸時に破断が起こりやすいため、好適な微多孔膜を得ることは困難である。重量平均分子量の上限は、限定的ではないが、1500万以下とすることにより、溶融押出を容易にすることができる。
【0013】
重量平均分子量50万以上のポリオレフィンとしては、前記のものを挙げることができる。また、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物は、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンとからなる組成物が挙げられる。
重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンとしては、限定的ではないがポリエチレンが好ましい。
ポリエチレンの種類は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレンが挙げられる。これらはエチレンの単独重合体のみならず、他のα−オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外の他のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、ペンテン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレンが好適である。
これらの重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンは、1種類のみ用いることもできるし、2種類以上用いることもできる。
なお、重量平均分子量50万以上のポリオレフィンと重量平均分子量1万以上50万未満のポリオレフィンとからなる組成物として、最も好ましいものは、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンとからなる組成物である。
【0014】
また、本発明に用いるポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の分子量分布(Mw/Mn)は、限定的ではないが、5〜300が好ましく、10〜100であればさらに好ましい。Mw/Mnが5未満では高分子量成分が多くなりすぎて溶融押出が困難になり、Mw/Mnが300を超えると、低分子量成分が多くなりすぎるために強度の低下を招く。
【0015】
本発明で用いるポリオレフィン又はポリオレフィン組成物には、ポリオレフィン微多孔膜の電池セパレータ用途としての特性を向上させるために、低温でのシャットダウン機能を付与できるポリオレフィンとして、低圧法により製造された線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中圧法により製造された低密度ポリエチレン(LDPE)、シングルサイト触媒により製造されたエチレン・α−オレフィン共重合体、重量平均分子量1000〜4000の低分子量ポリエチレン等を添加することができる。ただし、低分子量のポリオレフィンが多いと、延伸時に破断が起こりやすくなるため、その添加量はポリオレフィン組成物中20重量%以下とする必要がある。
【0016】
また、本発明で用いるポリオレフィン又はポリオレフィン組成物には、ポリオレフィン微多孔膜のリチウム電池等のセパレータとして用いた場合にメルトダウン温度を向上させるために、ポリプロピレンを添加することができる。ポリプロピレンの種類は、単独重合体のほかに、ブロック共重合体、ランダム共重合体も使用することができる。ブロック共重合体、ランダム共重合体には、プロピレン以外の他のα−オレフィンとの共重合成分を含有することができ、当該他のα−オレフィンとして好適なのはエチレンである。
【0017】
さらに、上述したようなポリオレフィン又はポリオレフィン組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、アンチブロッキング剤、顔料、染料、無機充填材などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0018】
2.ポリオレフィン微多孔膜の製造
本発明に係るポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、上記重量平均分子量50万以上のポリオレフィン(A)又は当該ポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物(B)と、溶剤からなる溶液を溶融混練して押出し、冷却して得られたゲル状成形物を延伸し、得られた延伸物から溶剤を除去し、乾燥後に3段以上の多段による熱セット工程を行うものであって、第1段の熱セット工程では、(C)MD、TDの両方向の固定を行いながらMD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、第1段及び最終段以外のいずれかの熱セット工程では、(D)MD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、最終段の熱セット工程では、(E)収縮させない工程とし、かつ熱セット工程全体ではMD、TDのいずれかの方向を10%以上50%以下収縮させることを特徴とする。以下に、詳細に各工程を説明する。
【0019】
本発明のポリオレフィン微多孔膜の製法おいて、原料となるポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の溶液は、上述のポリオレフィン又はポリオレフィン組成物を、溶剤に加熱溶解することにより調製する。この溶剤としては、ポリオレフィンを十分に溶解できるものであれば特に限定されない。例えば、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィンなどの脂肪族または環式の炭化水素、あるいは沸点がこれらに対応する鉱油留分などがあげられるが、溶剤含有量が安定なゲル状成形物を得るためには流動パラフィンのような不揮発性の溶剤が好ましい。
加熱溶解は、ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物が完全に溶解する温度で攪拌または押出機中で均一混合して溶解する方法で行う。その温度は、押出機中又は溶媒中で攪拌しながら溶解する場合は使用する重合体及び溶媒により異なるが、例えば140〜250℃の範囲が好ましい。ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の高濃度溶液から微多孔膜を製造する場合は、押出機中で溶解するのが好ましい。
【0020】
押出機中で溶解する場合は、まず押出機に上述したポリオレフィン又はポリオレフィン組成物を供給し、溶融する。溶融温度は、使用するポリオレフィンの種類によって異なるが、ポリオレフィンの融点+20〜100℃が好ましい(ここで、融点とは、JISK7121に基づき、DSCにより測定した値をいう。以下同じ)。例えば、ポリエチレンの場合は160〜230℃、特に170〜200℃であるのが好ましく、ポリプロピレンの場合は190〜270℃、特に190〜250℃であるのが好ましい。次に、この溶融状態のポリオレフィン又はポリオレフィン組成物に対して、液状の溶剤を押出機の途中から供給する。
【0021】
ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物と溶剤との配合割合は、ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物と溶剤の合計を100重量%として、ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物が10〜50重量%、好ましくは10〜30重量%であり、溶剤が90〜50重量%、好ましくは90〜70重量%である。ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物が10重量%未満では(溶剤が90重量%を超えると)、シート状に成形する際に、ダイス出口で、スウエルやネックインが大きくシートの成形性、自己支持性が困難となる。一方、ポリオレフィン又はポリオレフィン組成物が50重量%を超えると(溶剤が50重量%未満では)、厚み方向の収縮が大きくなり、成形加工性も低下する。なお、加熱溶解にあたってはポリオレフィンの酸化を防止するために酸化防止剤を添加するのが好ましい。
【0022】
次に、このようにして溶融混練したポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の加熱溶液を直接に、あるいはさらに別の押出機を介して、ダイス等から最終製品の膜厚が5〜100μmになるように押出して成形する。ダイスは、通常長方形の口金形状をしたシートダイスが用いられるが、2重円筒状のインフレーションダイスなども用いることができる。シートダイスを用いた場合のダイスギャップは通常0.1〜5mmであり、押出し成形温度は140〜250℃である。この際押し出し速度は、通常20〜30cm/分ないし10m/分である。
【0023】
このようにしてダイスから押し出された溶液は、冷却することによりゲル状成形物が得られる。冷却は少なくともゲル化温度以下までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。一般に冷却速度が遅いと、得られるゲル状成形物の高次構造が粗くなり、それを形成する疑似細胞単位も大きなものとなるが、冷却速度が速いと、密な細胞単位となる。冷却速度が50℃/分未満では、結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状成形物となりにくい。冷却方法としては、冷風、冷却水、その他の冷却媒体に直接接触させる方法、冷媒で冷却したロールに接触させる方法などを用いることができる。なお、ダイスから押し出された溶液は、冷却前あるいは冷却中に好ましくは1〜10、より好ましくは1〜5の引き取り比で引取ってもよい。引き取り比が10以上になるとネックインが大きくなり、また延伸時に破断を起こしやすくなり好ましくない。
【0024】
次に、このゲル状成形物を、延伸する。延伸は、ゲル状成形物を加熱し、通常のテンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法もしくはこれらの方法の組み合わせによって所定の倍率で行う。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。また、二軸延伸の場合は、縦横同時延伸または逐次延伸のいずれでもよい。延伸温度はポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の融点+10℃以下である。また延伸倍率は、原反の厚さによって異なるが、二軸延伸では面倍率で9倍以上が好ましく、より好ましくは16〜400倍である。面倍率が9倍未満では延伸が不十分で高弾性、高強度の微多孔膜が得られない。一方、面倍率が400倍を超えると、延伸操作などで制約が生じる。
【0025】
次に、延伸された成形物を洗浄溶剤で残留する溶剤を除去して膜を得る。洗浄溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素などの塩素化炭化水素、三フッ化エタンなどのフッ化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類などの易揮発性のものを用いることができる。これらの洗浄溶剤はポリオレフィン又はポリオレフィン組成物の溶解に用いた溶剤に応じて適宜選択し、単独もしくは混合して用いる。洗浄方法は、洗浄溶剤に浸漬し抽出する方法、洗浄溶剤をシャワーする方法、またはこれらの組合せによる方法などにより行うことができる。
上述のような洗浄は、延伸成形物である微多孔膜中の残留溶剤が1重量%未満になるまで行う。その後洗浄溶剤を乾燥するが、洗浄溶剤の乾燥方法は加熱乾燥、風乾などの方法で行うことができる。
【0026】
乾燥して得られた微多孔膜は、さらに3段以上の多段の熱セットを行い、ポリオレフィン微多孔膜を得る。かかる熱セット工程の滞留時間は、特に限定されることはないが、通常は1秒以上10分以下、好ましくは3秒から2分以下で行われる。熱セットは、テンター方式、ロール方式、圧延方式、フリー方式のいずれも採用できる。
本発明においては、以下に示す(C)〜(E)の熱セット工程を用い、(1)〜(4)の要件を満たさなければ、破断強度や突刺強度に優れ、透気度や熱収縮率のバランスに優れたポリオレフィン微多孔膜を製造することはできない。
【0027】
すなわち、少なくともいずれかの熱セット工程において、MD、TDの両方向の固定を行いながら、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させる(C)工程を行い、少なくともいずれかの熱セット工程において、一軸方向に収縮処理を行う(D)工程を行い、かつ、(C)工程は、(D)工程に先立って行い、最後に収縮させない(E)工程を行うことを特徴とする方法であり、この方法においては、以下の(1)〜(4)の要件を満たさなければならない。
【0028】
(1)第1段の熱セット工程:(C)工程
第1段の熱セット工程では、MD、TDの両方向の固定を行いながら、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させる(C)工程を行う。MD、TDの両方向の固定を行いながら、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させないと、破断強度、突刺強度の高い微多孔膜を得ることができない。
ここで、固定を行うとは、テンター方式、ロール方式、圧延方式等を用いることをいう。例えば、すべてベルトコンベア、メッシュドラム(回転ドラム)、フローティング等を利用したフリー方式にすると、熱収縮率は低減できるものの透気度が高くなり、極めて物性バランスの悪い微多孔膜となる。
ここで、(C)工程の温度は、用いられる樹脂により異なるが、90〜150℃にて行うのが好ましい。90℃未満では、得られた膜の熱収縮率低減の効果が十分でなく、150℃を超えると透気度が悪化する。
また、(C)工程での、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させる収縮率は、0.01〜50%、好ましくは3〜20%である。収縮率が0.01%未満では、105℃、8hrにおける熱収縮率が改善されず、50%を超えると透気度が悪化する。
【0029】
(2)第1段及び最終段以外のいずれかの熱セット工程:(D)工程
第1段及び最終段以外のいずれかの熱セット工程では、MD、TDの少なくとも一方向に収縮させる(D)工程を行う。MD、TDの少なくとも一方向に収縮させないと、熱収縮率の優れた微多孔膜を得ることができない。
すなわち、収縮処理は、(C)工程と(D)工程の2段以上で行うことが必須となる。
ここで、(D)工程の温度は、用いられる樹脂の種類により異なるが、60℃〜融点が好ましく、より好ましくは110〜125℃の範囲である。
また、(D)工程の少なくとも一方向に行う収縮の収縮率は、0.01〜50%、好ましくは3〜20%の範囲である。収縮率が0.01%未満では、105℃、8hrにおける熱収縮率が改善されず、50%を超えると透気度が悪化する。
なお、MD方向に収縮処理工程を設けることにより、MD方向、TD方向にかかわらず熱収縮率を低減させることができる。
(D)工程では、前記のようなテンター方式を用いてもよいが、その他の方法であってもよく、例えば、ロール方式、圧延方式、フリー方式であってもよい。ここでいうフリー方式の例としては、ベルトコンベア、メッシュドラム、フローティングが挙げられる。
【0030】
(3)最終段の熱セット工程:(E)工程
最終段の熱セット工程は、収縮させない(E)工程を行う。最終工程を収縮させると透気度が高くなりすぎるという問題が生じる。
ここで、収縮させないとは、最終段の熱セット直前の膜の寸法を維持することを意味し、フリー方式、固定方式のいずれも使用できるが、最終段の熱セットの直前の膜寸法を維持しやすい点から固定方式を用いることが好ましい。
ここで、(E)工程の温度は、用いられる樹脂の種類により異なるが、60℃〜融点の範囲であることが望ましい。
【0031】
(4)熱セット工程全体の収縮率
熱セット工程全体でMD、TDのいずれかの方向を10%以上50%以下に収縮させる。全体でMD、TDのいずれかの方向を10%以上50%以下に収縮させることにより、膜の熱収縮率を低減させることができる。10%未満の収縮では、熱収縮率を低減させることはできず、50%を超える収縮では透気度が2000秒/100ccを超えるため、それぞれ好ましくない。
【0032】
なお、熱セット工程(C)〜(E)に該当しない熱セット工程においては、フリー方式、固定方式いずれを用いてもよいが、収縮させない工程とすることが好ましい。
熱セット工程は、3段以上であれば、特に問わないが、工程の煩雑化の観点からは、3段又は4段とすることが好ましく、特に3段とすることが好ましい。3段の場合には、第1段が(C)工程、第2段が(D)工程、第3段が(E)工程となる。
【0033】
3.ポリオレフィン微多孔膜
上記の方法によって得られた本発明によるポリオレフィン微多孔膜は、膜厚が0.1〜100μm、空孔率が30〜95%、透気度が1200秒/100ccを超え、2000秒/100cc以下、突刺強度が5500mN/25μm以上、引張強度が100MPa以上、TD方向の105℃、8hrにおける熱収縮率が2%以下、好ましくはMD方向の105℃、8hrにおける熱収縮率が6%以下という優れた物性バランスを有する。
このようなポリオレフィン微多孔膜は、少なくとも一方向の熱収縮率が低くなるので、電池セパレータとして最も適し、さらに各種フィルターに用いることも可能である。
【0034】
【実施例】
以下に本発明について実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に特に限定されるものではない。なお、実施例における試験方法は次の通りである。
(1)膜厚:断面を走査型電子顕微鏡により測定した。
(2)透気度:JIS P8117に準拠して測定した。
(3)平均貫通孔径:窒素ガス脱着法により測定した。
(4)空孔率:重量法により測定した。
(5)突刺強度:25μm厚の微多孔膜を直径1mm(0.5mmR)の針を2mm/secで突き刺し、破断したときの荷重を測定した。
(6)引張強度、引張伸度:幅10mmの短冊状試験片の破断強度をASTM D822に準拠して測定した。
(7)熱収縮率:膜を105℃の雰囲気下に8時間放置し、MD方向およびTD方向のそれぞれの長さの変化から求めた。
【0035】
実施例1
重量平均分子量が200万の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)20重量%及び重量平均分子量が35万の高密度ポリエチレン(HDPE)からなる組成物(Mw/Mn=16.0)100重量部に酸化防止剤0.375重量部を加えたポリオレフィン組成物(融点135℃)を得た。このポリオレフィン組成物30重量部を二軸押出機(58mmφ、L/D=42、強混練タイプ)に投入した。またこの二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70重量部を供給し、200rpmで溶融混練して、押出機中にてポリオレフィン溶液を調製した。
続いて、この押出機の先端に設置されたTダイから190℃で押し出し、冷却ロールで引取りながらゲル状シートを成形した。続いてこのゲル状シートを、114℃で5×5倍に同時2軸延伸を行い、延伸膜を得た。得られた延伸膜を塩化メチレンで洗浄して残留する流動パラフィンを抽出除去し、乾燥した。乾燥して得られた膜を次の3段階の熱セットを行い、ポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)テンターに膜を保持し、TD方向にのみ10%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)テンターに膜を保持し、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)テンターに膜を保持し、MD方向及びTD方向に5%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)テンターに膜を保持し、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0037】
実施例3
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)テンターに膜を保持し、MD方向及びTD方向に5%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)テンターに膜を保持し、MD方向及びTD方向に5%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0038】
実施例4
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0039】
実施例5
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)圧延ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)圧延ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0040】
実施例6
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)テンターに膜を保持し、TD方向にのみ10%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0041】
実施例7
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)ロールに膜を挟み、TD方向にのみ10%縮幅し、90℃、3秒間熱セット。
(2)テンターに膜を保持し、TD方向にのみ10%縮幅し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表1に示す。
【0042】
比較例1
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)テンターに膜を保持し、90℃、3秒間熱セット。
(2)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
(3)テンターに膜を保持し、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表2に示す。
【0043】
比較例2
実施例1において、熱セットを次の3段階で行う以外は、実施例1と同様にしてポリオレフィン微多孔膜を得た。
(1)膜をベルトコンベアーに載せ、90℃、3秒間熱セット。
(2)膜をベルトコンベアーに載せ、124℃、3秒間熱セット。
(3)膜をベルトコンベアーに載せ、124℃、3秒間熱セット。
得られたポリオレフィン微多孔膜の組成、製造条件、物性評価の結果を表2に示す。
【0044】
【表1】
Figure 0004682347
【0045】
【表2】
Figure 0004682347
【0046】
【発明の効果】
本発明方法によれば、透気度のバランスに優れ、熱収縮率が低減され、特に一方向の熱収縮率が低くなるので、電池セパレータとして最も適し、さらに各種フィルターに用いることも可能であるポリオレフィン微多孔膜が得られる

Claims (1)

  1. 重量平均分子量50万以上のポリオレフィン(A)又は当該ポリオレフィンを含有するポリオレフィン組成物(B)と溶剤とからなる溶液を溶融混練して押出し、冷却して得られたゲル状成形物を延伸し、得られた延伸物から溶剤を除去し、乾燥後に3段以上の多段による熱セットを行うことを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法であって、第1段の熱セット工程では、(C)MD、TDの両方向の固定を行いながらMD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、第1段及び最終段以外のいずれかの熱セット工程では、(D)MD、TDの少なくとも一方向に収縮させ、最終段の熱セット工程では、(E)収縮させない工程とし、かつ熱セット工程全体ではMD、TDのいずれかの方向を10%以上50%以下収縮させることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
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