JP4681746B2 - 車両用ブレーキ装置の回転ブレーキ部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用ブレーキ装置の制動要素として機能する回転ブレーキ部材すなわちドラム式ブレーキのブレーキドラムもしくはディスクブレーキのブレーキディスクロータの改良に関し、特に鋳物製のブレーキドラムもしくはブレーキディスクロータの防錆処理構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
鋳物製のブレーキドラムもしくはブレーキディスクロータのうち特にロードホイール取付面の従来の防錆処理技術としては、(a)防錆油塗布方式、(b)防錆油と塗装処理との併用方式(スプレーガン方式またはディッピング方式)、(c)リン酸亜鉛化成処理方式、(d)ダクロタイズド処理方式、等の方法がある。
【0003】
(a)の防錆油塗布方式では、塗布が簡便である反面、防錆性能が低く車両搭載後に錆が発生しやすい。(b)の防錆油と塗装とを併用したタイプでは、全面に20〜30μm程度の標準的膜厚で塗装を施した上でロードホイールをホイールナットにて締付固定した場合、塗膜の厚みの影響でホイールナットが緩みやすくなることから、ロードホイール取付面のみはマスキング処理により未塗装としてその部分のみに防錆油を塗布することになるが、マスキング等の工数が多い上に塗料の無駄を伴い、また防錆油塗布部分では(a)と同様に錆が発生しやすい。
【0004】
また、(c)のリン酸亜鉛化成処理方式は例えば特開平1−58372号公報等に代表されるものであるが、同方式は本来的には塗装の下地処理技術であり、防錆効果としてはあまり期待できない。さらに、(d)のダクロタイズド処理方式では、塗装に比べて工程が多く、防錆処理の総エネルギーが高いほか、クロームを含有しているために環境への影響を十二分に考慮する必要がある。
【0005】
本発明は以上のような課題に着目してなされたもので、ホイールナットの緩みや環境への配慮等の二次的問題を生じることなく、しかもマスキングの必要なくして、必要十分な防錆効果が得られるようにした防錆処理構造を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、ブレーキドラムもしくはブレーキディスク等の回転ブレーキ部材のうち少なくともロードホイール取付面に防錆顔料としてリンモリブデン酸アルミニウム亜鉛を含む水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を1〜20μmの乾燥膜厚(以下、単に「膜厚という」)で塗布したことを特徴としている。また、請求項3に記載の発明は、上記回転ブレーキ部材がディスクブレーキのブレーキディスクロータであることを明確化している。
【0007】
上記塗料の膜厚は、望ましくは請求項2に記載の発明のように5〜15μmとする。その理由は、例えばスプレー塗装にて塗料を塗布することを前提とした場合、機械加工後の凹凸のあるロードホイール取付面を塗膜にて完全に被覆し且つ塗膜厚の均一化を維持するためには5μm程度が必要であり、同様に塗膜厚が20μm程度となるとロードホイール取付後のホイールナットの緩みへの影響が危惧されることから、安全性を見込んで塗膜厚は最大でも15μmとするのが望ましい。
【0008】
また、上記水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料の代表的なものとしては、例えば日本ペイント(株)社製の「オーデシャインKSブラックKM」等を挙げることができ、同塗料は無公害でしかも速乾性があるとともにマスキングなしで特定の塗布領域の塗装が行え、防錆性能が著しく優れている点に特徴がある。
【0009】
また、上記塗料の塗膜厚である1〜20μmという数値、さらにはより望ましいとされる5〜15μmという数値は、従来の防錆塗装における一般的な膜厚が20〜30μm程度であることを考慮すると、いわゆる薄膜塗装の範疇に入り、たとえ薄膜であっても必要十分な耐食性,耐熱性効果が得られるようにするために、特にベース樹脂には種々の工夫がなされている。例えば、被塗物の塗面に凹凸があったとしても均一な膜厚が得られるように凸部付着性が高められているとともに、エポキシ分子量が増量され、さらに上記薄膜化のために粘度も低めに設定されている。
【0010】
【発明の効果】
請求項1〜3に記載のブレーキドラムおよびブレーキディスクロータ等の回転ブレーキ部材によれば、防錆顔料としてリンモリブデン酸アルミニウム亜鉛を含む水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を用いることを前提として1〜20μmの膜厚、より望ましくは5〜15μmの薄膜塗装としたため、ホイールナットの緩みを招くこともなければブレーキ本来の制動特性に影響を及ぼすこともなく、ブレーキドラムあるいはブレーキディスクのロードホイール取付面に要求される防錆性能を十分に満たすことができるほか、特に耐食性に優れるために、塗装のみをもって従来のリン酸亜鉛化成処理と塗装とを併用した場合と同等の耐食性効果が得られる。
【0011】
また、塗装に際して非塗装部に対するマスキングの必要がなく、廃棄されることになる塗料が減少することによって歩留まりの向上が図れるほか、無公害な防錆処理であるために環境に対する二次的不具合が生ずることもない。
【0012】
【発明の実施の形態】
図1は本発明の好ましい第1の実施の形態を示す図で、ベンチレーテッド型ブレーキディスクロータに適用した場合の例を示している。
【0013】
同図に示すように、例えば一般的な鋳鉄材料(例えばFC250相当)からなるベンチレーテッドタイプのブレーキディスクロータ1は、車両取付時に外側に位置することになるアウタ側の摺動板2とその内側に所定距離隔てて位置することになるインナ側の摺動板3、およびそれら両者の間に放射状に配された複数の隔壁4とを有していて、上記双方の摺動板2,3と各隔壁4とで囲まれた空間がそれぞれに通風路として機能するようになっている。なお、5はアウタ側の摺動板2と一体に形成されたいわゆるハット型断面形状をなす筒状のボス部である。
【0014】
そして、上記ボス部5のうち最も外側の面がロードホイールが着座することになるロードホイール取付面6として機能するようになっていて、周知のようにこのロードホイール取付面6のボルト穴7には図示しないハブボルトが圧入固定されることから、ハブボルトとこれに螺合する図示外のホイールナットとをもってロードホイールがロードホイール取付面6に締付固定されることになる。
【0015】
同時に、そのロードホイール取付面6の全面には防錆塗料による防錆塗膜8が形成されている。ロードホイール取付面6に防錆塗装を施すにあたっては、ホイールナット締め付け後にその防錆塗膜8の膜厚の影響でホイールナットが緩まないようにその膜厚tを極力薄膜化しながらも必要十分な防錆性能を得る必要があり、例えば鋳造後にアウタ,インナ側の各摺動板2,3の円筒外周面を除くロードホイール取付面6、ボス部5の円筒外周面および摺動面2a,3aのそれぞれに切削加工が施されることになるが、この切削加工後に摺動面2a,3aを除くロードホイール取付面6、ボス部5の円筒外周面および各摺動板2,3の円筒外周面については防錆顔料としてリンモリブデン酸アルミニウム亜鉛を含む水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を用いて、図2に示すように1〜20μmの膜厚、望ましくは5〜15μmの膜厚でスプレー塗装方式にていわゆる薄膜塗装を施して防錆塗膜8を形成する。また、上記水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料としては、例えば日本ペイント(株)社製の「オーデシャインKSブラックKM」等を用いる。
【0016】
上記防錆塗料のスプレー塗装には例えば塗装ロボットを用いるものとし、そのスプレーガンをブレーキディスクロータ1の各部位に対峙させたときのスプレーガンの向きおよび移動軌跡を予めティーチングしておき、ブレーキディスクロータ1をその軸心を回転中心として回転させながらスプレーガンを移動させ、塗料供給のON−OFF制御を併用しながら塗装する。なお、上記摺動面2a,3aには原則として塗装を施さないが、一方の摺動面2aのうちボス部5に近い部分には塗装が施されてもよい。
【0017】
ただし、塗膜厚の厳格な管理が要求されるロードホイール取付面6以外のボス部5の円筒外周面や各摺動板2,3の円筒外周面については膜厚の増大による不具合が生じないので、本来の防錆性能のみを充足するように比較的厚膜化するべく一般的な塗装膜厚と同様に例えば20〜30μmの膜厚で上記の水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を塗布してもよい。
【0018】
より詳しくは、塗装に先立ち、先ず旋削加工後のブレーキディスクロータ1を洗浄する。洗浄方法としては、ブレーキディスクロータ1をその軸心を回転中心として100〜400rpm程度で回転させながら、そのブレーキディスクロータ1に向けてアルカリ脱脂洗浄液をスプレーガンにて9秒以上吹き付けて行う。アルカリ脱脂洗浄液としては、ケイ酸塩等を主成分とするものとして、例えばパーカーコーポレーション(株)社製の「PK−4210」(濃度3〜4%)を液温60〜75℃程度で用いる。
【0019】
続いて、ブレーキディスクロータ1に付着した洗浄液を落とすために水切りを行う。この水切りは、ブレーキディスクロータ1をその軸心を回転中心として800〜1500rpm程度で回転させながら、0.35MPa程度の圧力の圧縮空気を8〜10秒間吹き付けて、洗浄液を吹き飛ばしながら乾燥させる。
【0020】
上記水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料による塗装に際しては、塗装が不要な部分にマスキングを施すことなく要塗装部分のみを限定して塗装することができるようにするため、小ノズル径の小型低圧のスプレーガンを使用し(例えば、ノズル口径0.5mm程度、塗料噴出量5〜60ミリリットル/min程度、スプレーガンの霧化エア圧力0.05MPa程度とする)、且つスプレーパターンを小スポット状のものとして、要塗装部分のみを狙って順次塗装する。この小スポット状のスプレーパターンを順次移動させながら塗装膜厚を一定にするためには、塗装面とスプレーガンの姿勢、相対位置、相対角度、相対速度等を適宜調整する。例えば、スプレーガンと塗装面との相対距離は10〜30mm程度とするとともに、スプレーガンの移動速度は薄膜塗装となるロードホイール取付面6では15〜30mm/sec程度、比較的厚膜塗装となるボス部5の円筒外周面では1〜5mm/sec程度とする。また、塗料の飛散による塗料ミストの付着防止および環境保全を図るため、塗装部の近傍にミストコレクタを設置するのが望ましい。
【0021】
ここでは、ブレーキディスクロータ1の塗装部分が円板状もしくは円筒状であるため、例えば図3に示すように回転駆動機構21の主軸22にブレーキディスクロータ1を取り付け、そのブレーキディスクロータ1を例えば150〜250rpm程度で回転させながら塗装ロボットのリスト部23に持たせた小型低圧のスプレーガン24をブレーキディスクロータ1の半径方向に沿って移動させ、且つその移動速度と塗料噴出方向を変化させながら順次塗装を施す。なお、図3では塗装を施す部分にハッチングを付してある。また、25はミストコレクタである。
【0022】
上記水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料として用いられる日本ペイント(株)社製の「オーデシャインKSブラックKM」は、例えばNK♯2カップ(アネスト岩田社製)で20±2secの粘度となるように希釈したものを使用する。
【0023】
塗料の乾燥は自然乾燥に促進条件を加えた種々の方法で可能であるが、例えば前記60〜75℃に温めたアルカリ脱脂洗浄液の吹き付けにより塗装前のブレーキディスクロータ1を約50℃に加熱し、この加熱による促進と塗装後の送風とを併用して乾燥を行うことができる。
【0024】
上記ロードホイール取付面6は、先に述べたように鋳造後の機械加工として一般的に加工精度や生産性を考慮して0.2〜0.4mm/rev程度の切削条件のもとで旋削加工が施され、表面は切削工具のノーズ部曲率の影響で旋削溝がスパイラル状(レコード盤状)の波形凹凸形状をなしている。
【0025】
そして、上記ロードホイール取付面6の防錆塗膜8の膜厚tを1〜20μmの範囲内に管理するべく、塗装後に一般的な電磁膜厚計(例えば、サンコウ電子SDM−mini)を用いて防錆塗膜の膜厚tを計ろうとすると、上記波形凹凸形状の影響で実測膜厚値に±4μm程度のばらつきが発生し、このばらつきは膜厚計の分解能が高くなればなるほど顕著となる。
【0026】
そこで、上記測定誤差を考慮しつつも機械加工によって凹凸形状となっているロードホイール取付面6の全面が確実に防錆塗膜8で被覆されるように防錆塗膜8の膜厚tは最低でも1μmとし、同時に最大膜厚は後述する理由から20μmとする。
【0027】
図4は、上記防錆塗膜8を形成したロードホイール取付面6の塩水噴霧試験における防錆性能と防錆塗膜8の膜厚tとの相関関係と、同じく防錆塗膜8の膜厚tとロードホイール締め付け用のホイールナットの軸力残存率との相関関係を示している。
【0028】
上記防錆性能はレイティングNo.で評価しており、そのレイティングNo.の数値が大きくなるほど塩水噴霧後であって且つ所定時間経過後の錆発生率が少なくなる度合を示している。すなわち、防錆塗膜8の膜厚tが5μm以上であれば塩水噴霧後であって且つ所定時間経過後の錆の発生がほとんど認められないことがわかる。
【0029】
一方、同図の軸力残存率とは、防錆塗装を施したロードホイール取付面6にホイールナットにより規定の締め付けトルクをもってロードホイールを締め付け固定し、規定の締め付けトルクを付加しているときのボルト軸力と締め付けトルクを解除して所定時間経過後のボルト軸力とをそれぞれ測定した上、その所定時間経過後のボルト軸力を当初のボルト軸力に対する割合で評価したものである。同図から明らかなように、防錆塗膜8の膜厚tが20μmを越えるとその膜厚tの影響で軸力残存率が急激に低下することから、上記防錆塗膜8の膜厚tの管理値は最大でも20μmとする。
【0030】
ただし、この防錆塗膜8の膜厚tを1〜20μmの範囲に管理した場合でも、前述したように上記膜厚管理のための測定誤差として±4μm程度ばらつくことを考慮すると、最低管理値のマイナス側にばらついた場合および最大管理値のプラス側にばらついた場合には上記1〜20μmの範囲を逸脱することになる。
【0031】
そこで、上記防錆塗膜8の膜厚tとしては、±4μm程度ばらつくことを考慮して、望ましくは5〜15μmの範囲内に管理し、さらに望ましくは防錆塗膜8の膜厚tとして10μmを狙い目としてスプレー方式にて塗布する。
【0032】
このように本実施の形態によれば、少なくともロードホイール取付面6に防錆塗料として特定の水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を塗布するようにしたため、ホイールナットの緩みを招くこともなければブレーキ本来の制動特性に影響を及ぼすこともなく、ブレーキディスク1のロードホイール取付面6に要求される防錆性能を十分に満たすことができることが判明した。特に防錆塗料が耐食性に優れるために、塗装のみをもって従来のリン酸亜鉛化成処理と塗装とを併用した場合と同等の耐食性効果が得られることが判明した。
【0033】
また、塗装に際して非塗装部に対するマスキングの必要がなく、廃棄されることになる塗料が減少することによって塗料歩留まりの向上が図れるほか、無公害な防錆処理であるために環境に対する二次的不具合が生ずることもないことになる。
【0034】
図5は本発明の好ましい第2の実施の形態を示す図で、ドラム式ブレーキのブレーキドラムに適用した場合の例を示している。
【0035】
図5に示すように、有底円筒状のブレーキドラム11は段付き円筒状の胴部12と底壁部13とを備えているとともに、底壁部13のうちその中央部分で一段高くなった部分がロードホイール取付面14となっていて、胴部12内周の摺動面15とロードホイール取付面14および開口端面16とが鋳造後に機械加工されるとともに、上記摺動面15と開口端面16とを除く部分すなわちロードホイール取付面14を含む底壁部13と胴部12の円筒外周面に第1の実施の形態と同様の防錆塗料が塗布される。なお、ロードホイール取付面14にはハブボルトを取り付けるための複数のボルト穴17が形成される。
【0036】
そして、上記防錆塗料が塗布される部位のうち少なくともロードホイール取付面14では、その防錆塗膜8の膜厚が上記と同様に1〜20μmとなるように、望ましくは5〜15μmとなるように管理される。
【0037】
したがって、本実施の形態においても先の第1の実施の形態と全く同様の効果が得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、(A)はディスクブレーキロータの正面図、(B)は同図(A)のa−a線に沿う断面図。
【図2】図1の(B)のE部拡大図。
【図3】実際の塗装形態の一例を示す説明図。
【図4】防錆塗膜を形成したロードホイール取付面の塩水噴霧試験における防錆性能と防錆塗膜の膜厚との相関関係、および同じく防錆塗膜の膜厚とロードホイール締め付け用のホイールナットの軸力残存率との相関関係を示すグラフ。
【図5】本発明の第2の実施の形態を示す図で、(A)はディスクブレーキロータの正面図、(B)は同図(A)のb−b線に沿う断面図。
【符号の説明】
1…ブレーキディスクロータ(回転ブレーキ部材)
2a,3a…摺動面
6…ロードホイール取付面
8…防錆塗膜
11…ブレーキドラム(回転ブレーキ部材)
13…底壁部
14…ロードホイール取付面
Claims (3)
- ドラム状もしくはディスク状の回転ブレーキ部材のうち少なくともロードホイール取付面に防錆顔料としてリンモリブデン酸アルミニウム亜鉛を含む水性アクリル変性エポキシ樹脂塗料を1〜20μmの乾燥膜厚で塗布したことを特徴とする車両用ブレーキ装置の回転ブレーキ部材。
- 上記乾燥膜厚が5〜15μmであることを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ装置の回転ブレーキ部材。
- 上記回転ブレーキ部材がディスクブレーキ装置のブレーキディスクロータである請求項1または2に記載の車両用ブレーキ装置の回転ブレーキ部材。
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