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JP4647059B2 - グリシンの着色を防止した微生物学的な製造方法 - Google Patents

グリシンの着色を防止した微生物学的な製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,グリシンの着色を防止した微生物学的製造方法に関する。更に詳しくは、還元性生化学化合物の存在下グリシノニトリル水溶液に微生物またはその処理物を作用させることを特徴とするグリシンの着色を防止した微生物学的製造方法に関する。得られるグリシンは食品添加物、洗浄剤、医農薬合成原料として有用である。本発明の製造法は、有用なグリシンを効率よく工業的に製造するため利用することが出来る。
【0002】
【従来の技術】
グリシノニトリルを弱アルカリ水溶液で微生物を用いて加水分解しグリシンを得る方法が知られている。特公昭58−15120号明細書にはブレビバクテリウム R312株をpH8に維持して用いる方法、特開平3−62391号明細書にはpH7.2に調整した反応液にコリネバクテリウムN-774株を用いる方法、また特開平3−280889号明細書にはpHを7.7付近に調整した反応液にロドコッカス属、アルスロバクター属、カセオバクター属、シュードモナス属、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アルカリゲネス属、コリネバクテイリア属、またはストレプトマイセス属の微生物を用いる方法が開示されている。
【0003】
こうした弱アルカリ水溶液中ではグリシノニトリルは不安定であることが知られている。例えばpHが2.5以上では安定性が悪く、pHが高いほど、温度が高いほど、および経過時間が長いほど分解や着色等の変成をし易いことが開示されている(特開昭49−14420号、特開昭54−46720号、特開昭54−46721号明細書)。こうした分解や変成はグリシンの収率を低下するだけでなく、脱色するには、活性炭や特殊なイオン交換樹脂を用いた煩雑な処理が必要である(特開平3−190851号、平4−226949号明細書)。
【0004】
更に、従来法はグリシンの生成に伴い等量のアンモニアが水性溶媒中に蓄積するため、pHは更に高くなり強アルカリ性となるため、グリシノニトリルの着色や変成は避けられない問題があった。このように従来の微生物を用いる方法はグリシン収率の低下、脱色するため煩雑な操作が必要で、工業的に実施できるものではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、微生物を用いグリシノニトリルからグリシンを生産するにあたり、分解や着色反応を伴わず、乾燥菌体当たり、且つ単位時間当たり高活性であって菌体や培地の多量廃棄を伴わず、反応液のpHを調整するための酸、アルカリまたは緩衝液の添加や廃棄を伴わず、グリシンとアンモニアが定量的に生成し、これらの分解および消費を伴わなず、グリシンとアンモニアを別々に回収するグリシンの製造法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者はこのような工業的諸問題を解決するため、分解や着色反応を伴わず、菌体当たり、且つ単位時間当たり高い活性を持ち、反応系で生成したグリシンやアンモニアを分解または消費せず、グリシンとアンモニアを別々に、定量的に、且つに容易に回収できる反応系を構築すべく検討を鋭意行った。驚くべき事に、グリシノニトリル水溶液に微生物またはその処理物を作用させグリシンを製造する際、蟻酸化合物の存在下で反応させることでグリシンの着色が防止出来ることを見いだし、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は蟻酸化合物の存在下グリシノニトリル水溶液に微生物またはその処理物を作用させることを特徴とするグリシンの着色を防止した微生物学的製造法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。本発明で用いられるグリシノニトリルは純粋なグリシノニトリルだけでなくホルムアルデヒドや青酸とアンモニアの反応物やグリコロニトリルとアンモニアの反応物など反応条件下でグリシノニトリルを生成しうる反応物も使用することが出来る。
本発明で反応液に共存させる蟻酸化合物として制限はないが、例えば、蟻酸、蟻酸アンモニウム等の蟻酸塩類、蟻酸メチル、蟻酸エチル等の蟻酸エステル類が用いられる。好ましくは、蟻酸または蟻酸アンモニウムが用いられる。蟻酸化合物の添加量はグリシノニトリルに対し0.002mol%〜8mol%、好ましくは0.02mol%から4mol%でよい。
【0008】
本発明に使用する微生物としては、例えば、アシネトバクター(Accinetobacter)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属やアルカリゲネ(Alcaligenes)属に属する微生物が適していることが新たに発見されたが、これに限定されるものではない。具体的には、アシネトバクターエスピ− AK226(FERM BP−2451)、アシネトバクター エスピ− AK227(微工研菌寄第8272号)、ロドコッカスマリス BP−479−9(FERMBP−5219)、コリネバクテリウム エスピー C5(微工研菌寄第8931号)、コリネバクテリウム ニトリロフィラス ATCC 21419、アルカリゲネス フェカリスATCC8750。これらの菌株は、特開平2−84198、特開平7−303496、特開昭63−129988号公報に記載されている。
【0009】
本発明に使用される微生物の培養には、通常用いられる炭素源、例えば、グルコース、グリセリン、有機酸、デキストリン、マルトース等が用いられ、窒素源としてはアンモニアとその塩類、尿素、硝酸塩および有機窒素源、例えば、酵母エキス、麦芽エキス、ペプトン、肉エキス等が用いられる。また、培地にはリン酸塩、ナトリウム、カリウム、鉄、マグネシウム、コバルト、マンガン、亜鉛等の無機栄養源が適宜添加される。培養はpH5から9、好ましくはpH6から8、温度20から37℃、好ましくは27から32℃で好気的に行われる。本発明の微生物の培養において、上記の培地に酵素誘導剤を加えても良い、例えば、ラクタム化合物(γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-カプロラクタム等)、ニトリル化合物、アミド化合物等を用いてもよい。
【0010】
本発明の微生物はそのまま工業使用できるが、適当な変異剤で突然変異を誘発する方法もしくは遺伝子工学的手法により改良された変異株、例えば、酵素を構成的に生産する変異株を育成し用いることもできる。本発明の菌体とは培養液から採取した菌体または菌体処理物(菌体の破砕物、菌体破砕物より分離した酵素、および菌体または菌体から分離抽出された酵素を固定化した処理物)である。培養液からの菌体の採取は公知の方法で行うことが出来る。
【0011】
本発明においては、上述の方法で分離した菌体および菌体処理物は一旦、蒸留水や緩衝液に懸濁して保存することが出来る。この場合、反応後の廃棄物を減らす上で蒸留水を用いることが好ましい。また、保存安定化のためにグリシン等の安定剤を保存液に添加することが出来る。この場合も、反応後の廃棄物を減らす上でグリシンを用いることが好ましい。
【0012】
こうして得られた菌体および菌体処理物の懸濁水溶液にグリシノニトリルを添加するか、または得られた菌体および菌体処理物の懸濁水溶液、あるいは菌体および菌体処理物を直接、グリシノニトリル水溶液に添加するすることで、速やかに加水分解反応が進行しグリシンを製造することができる。則ち、通常、前記微生物菌体または菌体処理物を、例えば乾燥菌体換算で0.01から5重量%、基質のグリシノニトリルを1から30重量%、を反応装置に仕込み温度として例えば0から60℃、好ましくは10から50℃にて、反応時間を例えば1時間ないし24時間、好ましくは3時間から8時間反応させれば良い。
【0013】
この場合、グリシノニトリルを薄い濃度で仕込み経時的に追加添加したり、反応温度を経時的に変化させても良い。こうしてグリシノニトリルが加水分解されグリシンの同時にアンモニアが生成し反応液のpHは反応前に比べ反応後は増加する。このように反応の進行に伴いpHが増加するのを抑えるため反応前に緩衝液を添加したり、反応中に酸またはアルカリを添加することができる。しかし、反応後の廃棄物を減らす上ではこうした緩衝液、酸やアルカリを反応液に添加しないことが好ましい。
【0014】
反応を開放型の反応器で実施する事ができるが、生成するアンモニアの飛散による環境汚染の防止並びに貴重なアンモニアを回収する目的で、密閉型の反応容器を用い閉鎖的反応条件で生成するアンモニアを応容器中に一旦蓄積することが好ましい。この場合、pHの上昇を抑えるために生成するアンモニアを反応と同時に分離する反応分離装置を付属することが更に好ましい。こうしたアンモニアの反応分離法としてはアンモニアの反応蒸留法や不活性ガスの流通法で実施することができる。
【0015】
反応蒸留を行う場合、加水分解反応装置に、アンモニアと同伴する水を冷却回収する冷却器の付いた単管搭、棚段搭、または充填塔を備え、反応水溶液の沸騰圧以上、例えば60℃で20.0kPa以上から0℃で0.6kPa以上の圧力条件下で、連続的にまたは間欠的に減圧反応蒸留することが好ましい。更に好ましくは、12.6kPaから1.3kPaの圧力条件下で減圧反応蒸留することができる。
【0016】
不活性ガスを流通する場合、不活性ガスの吹き込みノズルと、アンモニアや同伴する水を不活性ガスから回収する冷却トラップとを備え、微加圧から減圧条件下で連続的にまたは間欠的にアンモニアを不活性ガスに同伴し反応液から分離することができる。更に、アンモニア分離を促進するため減圧反応蒸留を不活性ガス流通条件下で行うこともできる。反応方式はバッチ型方式や流通型反応方式、またはこれらを組み合わせた方式で行うことが出来る。
【0017】
かくして、グリシノニトリルは、ほぼ100%のモル収率で加水分解し、生成するアンモニアの全部は密閉型反応容器中に一旦グリシンのアンモニウム塩を含むグリシンの高濃度水溶液として生成蓄積させることができる。また、生成するアンモニアの全部または殆どは反応と同時に反応蒸留法や不活性ガスの流通法で反応液から分離し冷却回収される。
【0018】
もし、グリシンアミドが残存する場合はグリシンアミドの加水分解活性をもつ菌体もしくは酵素を追添加することにより、完全にグリシンおよびアンモニアに転換することも可能である。グリシンのアンモニウム塩を含むグリシンの高濃度水溶液からのグリシンの回収は、例えば、反応液から菌体を遠心濾過、膜分離等によって除いた後、グリシンは晶析法、イオン交換法または貧性溶媒による分別沈澱法にて回収できる、またアンモニアは一部の水と一緒に蒸発後、蒸留や抽出によって回収することができる。
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの例に制限される物ではない。
【0019】
【実施例1】
酸素の混入を防ぐため、全ての反応操作は窒素雰囲気下で行い、反応に用いる全ての水溶液は約5℃に冷却し窒素ガスで一旦加圧後、再び常圧に戻す操作を数回繰り返し空気との置換を行った。
【0020】
(1)グリシノニトリルの合成
窒素雰囲気下でホルマリンに等量の青酸をを作用させて一旦生成したグリコロニトリル水溶液に、過剰量のアンモニア水溶液を添加し2時間反応した後、未反応のアンモニアと過剰の水を減圧除去し30重量%グリシノニトリル水溶液を得た。波長380nmで水溶液の吸光度を測定したところグリシノニトリル1mol、10mm石英セル当たり0.08であった。
【0021】
(2)菌体の培養
アシネトバクターAK226株を、下記の条件で培養した。
(1) 培地
フマル酸 1.0重量%
肉エキス 1.0
ペプトン 1.0
食塩 0.1
ε−カプロラクタム 0.3
リン酸第一カリウム 0.2
硫酸マグネシウム・7水塩 0.02
塩化アンモニウム 0.1
硫酸第二鉄・7水塩 0.003
塩化マンガン・4水塩 0.002
塩化コバルト・6水塩 0.002
pH 7.5
(2) 培養条件
30℃/1日
【0022】
(3) グリシノニトリルの加水分解
菌体は、得られた培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で洗浄した後、窒素ガスで置換し反応に用いた。窒素ガスで置換した100mlの硝子オートクレーブに乾燥菌体量として58mgと蟻酸を3.3mg含む30重量%グリシノニトリル水溶液3mlを17mlの蒸留水に調合した、30℃にて反応を開始した。反応開始後2時間後、pHは10に成っていた。この反応液を液体クロマトグラフィー法で分析し、グリシノニトリルは無くなりグリシンが定量的に生成していた。
【0023】
そこで2時間毎に上記30重量%グリシノニトリル水溶液3mlを追加添加し反応液を液体クロマトグラフィー法で分析した。この操作を4回切り返し合計10時間反応を行った。得られた32gの反応液のうち2gを用い、生成したアンモニアはネスラー法により定量し、原料のグリシノニトリルと生成したグリシンは液体クロマトグラフィー法で分析し、グリシノニトリルは無くなりグリシンとアンモニアが定量的に生成していた。
【0024】
乾燥菌体当たりのグリシンの生成量は104g/g乾燥菌体であり、グリシンの生成活性は10g/g・Hrであった。反応液2mlをrpm10500の遠心分離濾過に15分掛け菌体を分離し、上澄み液の紫外可視吸収スペクトルを測定した。波長380nmでの吸光度はグリシン1mol1cm当たり0.12であった。
【0025】
【比較例1】
実施例1と同様の反応を蟻酸を添加せずに行った。乾燥菌体当たりのグリシンの生成量は変わらず120g/g乾燥菌体であり、グリシンの生成活性は12g/g・Hrであった。遠心濾過後の上澄み液の吸光度はグリシン1mol1cm当たり0.79であった。
【0026】
【実施例2から
実施例1と同様の培養操作と反応を行い、菌体の種類と蟻酸化合物の種類を変えて行った。菌体の種類や蟻酸化合物の種類は表1に示す通りである。また表1には実施例1や比較例1の結果も合わせ記載した。
【0027】
[参考例]
実施例1で合成した30重量%グリシノニトリル水溶液と菌体を用い、反応方式を代えて実施した。菌体は、得られた培養液から遠心分離により集菌し、蒸留水で洗浄した後、窒素ガスで置換し反応に用いた。撹拌器の付いた1000mlの恒温ジャケット槽型3つ口セパラブルフラスコに、ドライアイストラップを経て減圧ポンプに接続した単管型の蒸留塔、圧力センサー、温度計、および液送ポンプに接続したサンプリング管を備えた。
【0028】
このセパラブルフラスコを窒素ガスで置換した後、乾燥菌体量として740mg、L−アスコルビン酸を63mg含む30重量%グリシノニトリル水溶液30mlと蒸留水170mlを調合した。減圧ポンプでフラスコ内の圧力を10kPaに調整し、30℃にて反応を開始した。反応開始1時間後、この反応液を液体クロマトグラフィー法で分析したところ、グリシノニトリルが消失しグリシンが定量的に生成していた。そこで基質の30重量%グリシノニトリル水溶液30mlを追加添加した。1時間毎にこの操作を更に3回繰り返し合計5時間反応を行った。
【0029】
ドライアイストラップには固体が20g回収された。固体を50mlの水にとかしネスラー法により定量したところアンモニアが14g回収されていた。反応液は300g回収された。この反応液のうち2gを用い、生成したアンモニアをネスラー法により定量し、原料のグリシノニトリルと生成したグリシンは液体クロマトグラフィー法で分析した。グリシノニトリルは無くなりグリシンが定量的に生成しトレース量のアンモニアが残存していた。
【0030】
乾燥菌体当たりのグリシンの生成量は81g/g乾燥菌体であり、グリシンの生成活性は16g/g・Hrであった。反応液2mlをrpm10500の遠心分離濾過に15分掛け菌体を分離し、上澄み液の紫外可視吸収スペクトルを測定した。波長380nmでの吸光度はグリシン1mol1cm当たり0.09であった。
【0031】
【表1】
Figure 0004647059
【0032】
【発明の効果】
本発明の製造方法は、蟻酸化合物の存在下グリシノニトリルに微生物またはその処理物を作用させることで、分解や着色反応を伴わず、乾燥菌体当たり、且つ単位時間当たり高活性であって菌体や培地の多量廃棄を伴わず、反応液のpHを調整するための酸、アルカリまたは緩衝液の添加や廃棄を伴わず、グリシンとアンモニアが定量的に生成し、これらの分解および消費を伴わなず、グリシンとアンモニアを別々に回収出来る効果を有する。

Claims (7)

  1. 蟻酸化合物の存在下グリシノニトリル水溶液に微生物またはその処理物を、pHを調整するための酸、アルカリまたは緩衝液の添加を伴わずに作用させることを特徴とするグリシンの着色を防止した微生物学的製造法。
  2. 蟻酸化合物が蟻酸であることを特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 蟻酸化合物が蟻酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1記載の方法。
  4. グリシノニトリルがホルムアルデヒド、青酸、およびアンモニアの反応で得られことを特徴とする請求項1ないし請求項3いずれかに記載の方法。
  5. 微生物がアシネトバクター(Accinetobacter)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属またはアルカリゲネス(Alcaligenes)属に属する微生物であることを特徴とする請求項1ないし請求項4いずれかに記載の方法。
  6. 微生物を作用させる反応条件が反応液中に生成するアンモニアを反応液から分離する反応条件であることを特徴とする請求項1ないし請求項5いずれかに記載の方法。
  7. アンモニアを反応液から分離する方法が反応蒸留であることを特徴とする請求項6記載の方法。
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