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JP4646763B2 - 機能性薄膜の形成方法及び機能性薄膜形成装置 - Google Patents

機能性薄膜の形成方法及び機能性薄膜形成装置 Download PDF

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JP4646763B2 JP2005281116A JP2005281116A JP4646763B2 JP 4646763 B2 JP4646763 B2 JP 4646763B2 JP 2005281116 A JP2005281116 A JP 2005281116A JP 2005281116 A JP2005281116 A JP 2005281116A JP 4646763 B2 JP4646763 B2 JP 4646763B2
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Description

本発明は、基板表面に所定の機能を有する薄膜を形成する機能性薄膜形成方法及び機能性薄膜形成装置に関する。
精密金型や精密部品等、更には微小機械、MEMSに代表されるマイクロ部品においては、精密形状の維持のための耐摩耗性、離形性、潤滑性、流動性等、表面の機能性が要求され、微細加工(前加工)後の表面改質加工(後加工)が特に重要である。
上記凹凸形状を含む複雑立体形状表面へのイオン注入や機能性薄膜を形成する技術としてプラズマベースドイオン注入法(以下PBII法と略記する)が開発されている。PBII法は、被加工基材表面にプラズマを一様に生成し、基材に数kVから数10kVの負の高電圧パルス電圧を印加することにより、被加工基材表面にイオンシースを形成し、該シースと基材間にかかる電圧でイオンを引き出し、加速して基材に均一にイオン照射、あるいは薄膜を形成する技術である(例えば、特許文献1を参照)。
従来のPBII方法について説明する。被加工基材を真空容器内に入れ、真空容器内を真空引きし、原料ガス導入後、プラズマ発生用電源より高周波アンテナに高周波電圧を印加して、被加工基材近傍をプラズマ状態とし、負の高電圧パルス発生電源より、干渉防止回路を介して負の高電圧パルスを被加工基材に印加して正イオンによるイオン誘引を行い、被加工基材表面にイオン注入、或いは薄膜を形成する方法である。また、正の高電圧パルス発生電源により、被加工基材に正のパルス電圧を印加して電子照射し、電子衝突による被加工基材表面の加熱を行う。
従来のPBII法では、生産性を上げるため、即ち、高密度のプラズマや高濃度の活性原子や分子(以下ラジカルと略記する)を発生させるために、通常、被加工基材に10kV以上の負の高電圧パルスを印加する。負の高電圧パルスを印加すると制御困難な局所放電が発生し、被加工基材表面に損傷を与えると云う問題があった。特に、鋭利な突起部を有する被加工基材表面へのイオン照射や薄膜形成は基材尖端部に損傷を与える等の欠点があった。更に、高エネルギーイオンが成長膜表面に入射する従来のPBII法で結晶性薄膜を形成する場合、成長膜表面は常時高エネルギーイオンの照射に曝され、成長膜の結晶性が崩れるため、結晶性の優れた薄膜形成には適用できないなどの問題点があった。
被加工基材に負の高電圧パルスを印加すると、基材表面にイオンシースが形成されるが、イオンシース幅は印加電圧、プラズマ密度等によって決まる。シース幅は、通常ミリメーターオーダーからセンチメーターオーダーであって、PBII法は平面や曲率半径がミリメーターオーダーを超える比較的滑らかな立体面へのイオン注入や薄膜形成に適する。
ミリメーターオーダー以下の微細溝や穴加工表面への均一なイオン注入や薄膜形成には適用出来ないのが現状である。溝幅や穴径に対する深さの比で示すアスペクト比が大きくなればなお更困難である等の解決すべき課題があった。
微細溝や穴加工内面へのイオン注入や薄膜形成法として、被加工基材に正負パルス対を繰り返し印加する技術が特許文献2に開示されている。本従来技術では、正パルスを印加することによって微細溝や穴加工内にイオンやラジカルを生成させることができ、引き続き負のパルス電圧を印加することによって微細溝や穴加工内壁面に薄膜を形成することできる。しかし、従来のPBII法固有の課題は解決されていない。
特開2001−156013号公報 特開2005−023332号公報
本発明は、局所放電及びイオン照射による被加工基材表面への損傷を抑制し、優れた機能性表面を形成することを課題としている。また、高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを生成し、薄膜成長速度を向上して生産性を向上することを課題とする。更に、アスペクト比が1以上の微細孔、或いは微細溝内壁面に均一かつ結晶性の優れた薄膜を形成することを課題としている。また、前記課題を解決する機能性薄膜形成装置を安価に提供することを課題としている。
本発明による機能性薄膜の製造方法は、被加工基材(12)を支持するための支持用電極(11)と、この支持用電極(11)で支持された被加工基材(12)に対向して設けられたパルス印加用電極(13)とが配置された容器内を原料ガス雰囲気で所定気圧に維持するとともに、その容器内で放電プラズマを励起させ、この状態で、前記パルス印加用電極(13)にパルス幅が数10マイクロ秒よりも短い第1電圧を印加して当該パルス印加用電極(13)付近に前記放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及びラジカルを発生させ、さらに、前記パルス印加用電極(13)への第1電圧の印加後、前記支持用電極(11)を通じて、前記被加工基材(12)に、放電プラズマ電位に対して負となる部分を含む第2電圧を印加することにより、当該被加工基材(12)の表面に、前記原料ガスに含まれる元素成分を含む機能性薄膜を形成させる、機能性薄膜の製造方法である。
発明による機能性薄膜の製造方法では、前記容器内を真空にした後、前記原料ガスを当該容器内に導入し、容器内のガス圧を所定の圧力範囲に保持した状態で前記放電プラズマを励起させる。好適な圧力範囲は、0.5〜5パスカルである。
本発明による機能性薄膜形成装置は、原料ガス雰囲気の容器(10)内に放電プラズマを励起させる放電プラズマ励起手段(16,17)と、前記容器の内部で被加工基材を支持するための支持用電極(11)と、前記容器(10)の内部で前記支持用電極(11)に支持されている被加工基材(12)の表面に対して対向近接して設けられたパルス印加用電極(13)と、このパルス印加用電極(13)にパルス幅が10マイクロ秒よりも短い第1電圧を印加する第1の電源(18)と、前記支持用電極(11)に、放電プラズマ電位に対して負となる部分を含む第2電圧を印加する第2の電源(19)とを備え、前記放電プラズマが励起されている状態で、前記第1の電源(18)から前記パルス印加用電極(13)に前記第1電圧を印加して当該パルス印加用電極(13)付近に前記放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及びラジカルを発生させ、さらに、前記第2の電源(18,19)から前記支持用電極(11)を通じて前記被加工基材(12)に前記第2電圧を印加することにより、当該被加工基材(12)の表面に、前記原料ガスに含まれる元素成分を含む機能性薄膜を形成させる。
なお、我々の研究開発結果によると、パルス幅が数マイクロ秒(以下μsと略記する)乃至数10マイクロ秒の高電圧パルスを印加すると、高密度のプラズマが生成されると同時に高濃度のラジカルが生成され、該ラジカルは数100μs乃至数ミリ秒程度の寿命を有し、該ラジカルが被加工基材表面に拡散して基材表面に薄膜を形成することが明らかになった。
また、支持用電極(11)に、放電プラズマ電位に対して正となる正電圧と放電プラズマ電位に対して負となる負電圧との対、特に前記原料ガスの電離電圧よりも高い波高値の正パルス電圧と、その波高値が前記正パルス電圧の波高値よりも高く、正からの反転時間が1マイクロ秒以下となる負パルス電圧との対から成る正負パルス対をプラスチックやゴム材など絶縁性の被加工基材に印加すると、正パルス電圧によって基材表面は負に帯電し、瞬時に負のパルス電圧に反転させると高エネルギーのイオンを注入することが可能になることも明らかになった。
支持用電極(11)正電圧を印加すると、電子電流によって被加工基材表面に高密度のプラズマを生成することができ、引き続いて負電圧を印加すると、イオン照射しながら所望の機能を有する薄膜を形成することができる。特に、微細溝や微細穴を有する被加工基材、或いは円筒基材の場合、溝や円筒内部にマイクロプラズマを励起させることが可能となり、微細溝内壁面や円筒内壁面に所望の薄膜を形成することができる。
本発明の機能性薄膜形成装置における、ある実施の態様では、前記放電プラズマ励起手段は、前記容器内に配された高周波アンテナ(16)と、前記容器の外部から前記高周波アンテナ(16)に高周波電力を給電する高周波電源(17)とを含み、前記第1の電源(18)は、前記高周波電力の給電と同期して前記第1電圧を前記パルス印加用電極(13)に印加し、前記第2の電源(19,20)は、前記第1の電源(18)による前記パルス印加用電極(13)への前記第1電圧の印加直後に前記第2電圧を前記支持用電極(11)に印加するように構成されている。
本発明の機能性薄膜形成装置における好ましい実施の態様として、前記第2の電源(19,20)は、所定値のバイアス電圧を重畳した電圧を前記第2電圧として前記支持用電極(11)に印加する。印加するバイアス電圧又は前記第2電圧の波高値は所望薄膜の材料と機能性によって異なるが、0.5kV以上、好ましくは1kV乃至5kVである。
本発明の機能性薄膜形成装置における他の実施の態様として、前記第2の電源(19,20)は、放電プラズマ電位に対して負となる負電圧、放電プラズマ電位に対して正となる正電圧と前記負電圧との対から成る正負電圧対、又は、負電圧部分を含む1サイクルの正弦波電圧のいずれかを前記支持用電極(11)に印加する
本発明の機能性薄膜形成装置における他の実施の態様では、前記容器内に、互いに対向する前記支持用電極(11)と前記パルス印加用電極(13)との組が複数組設けられており、パルス印加用電極同士がそれぞれ前記第1の電源(18)に並列接続されており、支持用電極同士がそれぞれ前記第2の電源(19,20)に並列接続されている。
本発明の機能性薄膜形成装置における他の実施の態様では、前記パルス印加用電極(13)が前記高周波アンテナ(16)と一体に構成されており、該パルス印加用電極(13)には、前記第1電圧と前記高周波電源(17)の出力とが重畳して印加される。
本発明の機能性薄膜形成装置における他の実施の態様では、前記パルス印加用電極(13)が、多孔性の導電体で構成されている。多孔性の導電体とは、例えば、格子状又は網状電極等の電極である。格子状又は網状電極とすることによって、パルス印加用電極の近傍に生成した高濃度ラジカルを有効に利用することができる。
本発明の機能性薄膜形成装置における他の実施の態様では、前記パルス印加用電極(13)が、両端を有する線状又は短冊状の導電体で構成されており、この導電体の少なくとも一方端が、張力によって架張されている。
本発明の機能性薄膜の製造方法は、被加工基材(12)を支持するための支持用電極(11)と、この支持用電極(11)で支持された被加工基材(12)に対向して設けられたパルス印加用電極(13)とが配置された容器内を原料ガス雰囲気で所定気圧に維持するとともに、その容器内で放電プラズマを励起させ、この状態で、前記パルス印加用電極(13)にパルス幅が数10マイクロ秒よりも短い第1電圧を印加して当該パルス印加用電極(13)付近に前記放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及びラジカルを発生させ、さらに、前記パルス印加用電極(13)への第1電圧の印加後、前記支持用電極(11)を通じて、前記被加工基材(12)に、放電プラズマ電位に対して負となる部分を含む第2電圧を印加することにより、当該被加工基材(12)の表面に、前記原料ガスに含まれる元素成分を含む機能性薄膜を形成させることを特徴とする。
本発明によれば、第1電圧が印加されたパルス印加用電極の周囲に、放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及び高濃度のラジカルが発生し、これらが、パルス印加用電極に対向近接する被加工基材表面に接することとなる。この状態で、支持用電極に第2電圧を印加することにより、その支持用電極に支持されている被加工基材の表面における薄膜成長速度を向上することができ、機能性薄膜の生産性を向上することができる。
また、支持用電極を通じて被加工基材に任意のバイアス電圧又はパルス電圧を印加することによって、局所放電やイオン照射等による被加工基材表面への損傷を抑制し、優れた機能性表面を形成することができる。
更に、アスペクト比が1以上の微細孔、或いは微細溝内壁面に機能性薄膜を形成することができる。また、安価な機能性薄膜形成装置を提供することができる。
真空容器内にプラズマ励起用アンテナと高電圧パルス印加用電極と被加工基材を設置し、所定の元素を含む原料ガスを導入して前記プラズマ励起用アンテナに高周波電力バーストを印加して放電プラズマを励起し、該高周波バーストと同期して前記高電圧パルス印加用電極に負の高電圧パルスを印加して高密度プラズマ及び高濃度ラジカルを発生させる。前記負の高電圧パルス印加後に該負の高電圧パルスと同期して前記被加工基材にパルス電圧を印加して所定の元素を含む機能性薄膜を形成する。
(実施例1)
以下、本発明の実施の形態に係る機能性薄膜形成方法について図を参照しながら説明する。図1に本発明による高周波放電プラズマを用いた機能性表面形成装置の一実施例の断面模式図を示す。なお、図1には便宜上、本発明の一実施例として機能性薄膜形成装置の要部構成を示しているが、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施例では面積20cm×30cm、厚さ1mmのアルミニウム基板12表面にダイヤモンドライクカーボン(以下DLCと略す)膜を形成した例について説明する。図1において、真空容器10内に基板支持電極11と該基板支持電極に対向して高電圧パルス印加用電極13、及びプラズマ励起用アンテナ16が配置されている。被加工基材12は六角筒状の基板支持電極11の各表面に電気的に接続して固定されている。14は排気口、15は原料ガス導入口である。
プラズマ励起用アンテナ16には高周波電源17から整合器(図示せず)を介して高周波電力を給電する。高周波電源17は周波数13.56MHz、0.3kW〜2kWの出力を有する。高周波電源は種火プラズマを励起するためのものである。本実施例では、約300Wの出力を有する高周波電源を2台用いたが、1台の高周波電源から複数のプラズマ励起用アンテナに給電することも可能である。
高電圧パルス印加用電極13には高電圧パルス電源18から1〜5kVの正のパルス電圧又は10〜20kVの負のパルス電圧が印加される。正又は負の高電圧パルスを印加することによって、高電圧印加用電極の周囲に高密度のプラズマが生成でき、高濃度のラジカルを生成することができる。高電圧印加用電極13は網状又は格子状等、多数の貫通孔を有する電極とすることによって、高密度のプラズマ及び高濃度のラジカルを被加工基材12表面に生成することができる。
基板支持電極11は正負パルス電源19及びバイアス電源20に接続されている。基板支持電極にはパルス電圧0.3〜5kV、パルス幅1〜20μsの正又は負のパルス電圧、更には正パルスと負パルスが対になった正負パルス電圧対が印加される。また、バイアス電源20によって、正又は負のバイアス電圧を重畳して印加することができる。本実施例では、波高値1〜2kV、パルス幅1〜20μsの正パルス電圧と波高値4〜5kV、パルス幅1〜20μsの負のパルス電圧を一対にした正負パルス電圧対を用いた。
上記高周波電源17、高電圧パルス電源18及び正負パルス電源19の作動タイミング、正及び負のパルス電圧とパルス幅及び繰り返し周期等は放電制御盤23によって制御され、その値は任意に設定できるように設計されている。バイアス電源20はコイル21を介して基板支持電極11に接続されていて、必要に応じて正又は負のバイアス電圧を正負パルス電圧と重畳して基板支持電極11に印加することができる。コイル21及びコンデンサー22は正負パルス電圧印加によるバイアス電源へのパルス電圧の侵入をブロックする役割を果たす。
真空容器内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入して圧力0.6パスカルに調整し、周波数13.56MHz、出力0.3kW、持続時間50マイクロ秒の高周波電力バーストをプラズマ励起用アンテナ16に印加して放電プラズマを励起させ、その直後に高電圧パルス印加用電極に15kVの高電圧パルスを印加して被加工基材表面に高密度プラズマを発生させ、基板支持電極11に5kVの負のパルス電圧を印加して基材表面のクリーニングを行った。
次に、水素ガスとアルゴンガスの混合ガスの導入を停止し、アセチレンガスとトルエンガスの混合ガスを導入して圧力0.7パスカルに調整した。被加工基材12表面へのDLC薄膜形成においては、基材表面のクリーニングと同様に、高周波電力バーストをプラズマ励起用アンテナ16に印加して放電プラズマを発生させ、その直後に高電圧パルス印加用電極に高電圧パルスを印加して被加工基材12表面に高密度プラズマを発生させた。被加工基材12には基板支持電極11を介して正負パルス電圧を印加した。
図2に各電極に印加するパルス電圧のタイミングを示す。クロックパルスは繰り返し印加する周期を決めるもので、必要に応じて0.5kHzから3kHzまで可変である。プラズマ励起用高周波バーストはクロックパルスに同期して印加され、プラズマが励起された後、高電圧パルス印加用電極に負の高電圧パルスが印加される。その直後に、基板支持電極11を介して被加工基材12表面に正負パルス対を印加してDLC膜を形成する。
本実施例では、前記放電制御盤23により以下のように運転条件を設定した。繰り返し周波数を1kHzとし、プラズマ励起用アンテナに周波数13.56MHz、出力0.3kW、持続時間50μsの高周波電力バーストを印加し、高電圧パルス印加用電極にパルス波高15kV、パルス幅10μsの負のパルス電圧を印加した。被加工基材(アルミニウム基板)12には基板支持電極11を介して、パルス波高2kV、パルス幅10μsの正のパルス電圧とパルス波高5kV、パルス幅10μsの負のパルス電圧を対にした正負パルス電圧を印加した。
前記の条件で60分間、DLC膜形成を行った結果、アルミニウム基板表面に厚さ2.5μmのDLC膜が形成され、同一基板内での膜厚及び基板間の膜厚のばらつきは10%及び15%以内であった。また、密着強度が約10N/cm、硬度が1500kgf/cmのDLC膜が得られた。従来技術のPBII法によるDLC膜成長速度が約1μmに比較して約2.5倍の成長速度が得られた。
負の高電圧パルス電圧と得られたDLC膜の厚さとの関係を図3に示す。高電圧パルス電圧の増加とともに膜厚が著しく増加することが分かる。本実施結果は一実施例であって、高電圧パルス電極と被加工基材との間隔、原料ガス圧、パルス幅等によって成長速度が変化することは云うまでもない。
図4は被加工基材に2kVの正のパルス電圧を印加したときのパルス幅とDLC膜の成長速度の関係を示す。◎印で示す曲線は原料ガスとしてトルエンガスとアセチレンガスの混合ガスを用いた場合であり、○印で示す曲線はアセチレンガスを使用した場合である。何れの場合もパルス幅の増加とともに成長速度も増加するが、パルス幅が15μsを越えると飽和傾向を示す。
本発明によれば、高電圧パルス印加用電極に高電圧パルス電圧を印加することによって被加工基材表面に高密度プラズマの発生が可能になり、且つ被加工基材に正のパルス電圧を印加することによって基材表面に10の11乗以上の高密度プラズマと高濃度ラジカルを発生させることができることによるものであることが明らかになった。また、高電圧パルス印加用電極に正の高電圧パルスを印加しても同様な結果が得られる。
本実施例では、プラズマ励起用アンテナに周波数13.56MHzの高周波電力バーストを印加したが、高周波電力は該周波数に限定されるものではない。また、プラズマ励起手段としては誘導結合プラズマに限定されるもではなく、容量結合プラズマ、ECRプラズマ等を用いることもできる。
また、本発明の実施形態として図5に示すような電極構成とすることができる。真空容器10内の適切な場所にプラズマ励起用アンテナを設置し、基板支持電極板11と高電圧パルス印加用電極板13を交互にほぼ平行に対向させる。この様な電極構成にすれば、高電圧パルス印加用電極板13に高電圧パルスを印加することによって、高電圧パルス印加用電極板の両面に発生した高密度プラズマとラジカルを有効に利用することができ、生産性を向上することができる。
更に、本発明によれば、図6に示すように前記プラズマ励起用アンテナと高電圧パルス印加用電極とを一体化した電極とし、該電極に高周波電力及び高電圧パルスを印加することができる。該一体化した電極13に高周波電源17から重畳装置24を介して高周波電力バーストを印加して放電プラズマを励起し、引き続いて高電圧パルス電源18から高電圧パルスを印加することによって前記電極13の周囲に均一な高密度プラズマと高濃度ラジカルを発生させることができる。前記一体化した電極13に対向して被加工基材12を配置することによって、生成した高密度プラズマと高濃度ラジカルを有効に利用して生産性を向上することができる。
本発明によれば、前記高電圧パルス印加用電極13を格子状又は網状等の開孔率の大きい多孔性の電極とする。格子状又は網状電極とすることによって、原料ガスの流通性をよくするのみならず、前記高電圧パルス印加用電極13の近傍に生成した高濃度ラジカルを有効に利用して一様な機能性薄膜を形成することができる。更に、放電時の加熱による高電圧パルス印加用電極13の撓み、変形等を解消するために、線状又は短冊状電極として少なくとも一方の端に張力を加えて架張することが望ましい。
(実施例2)
本実施例では、被加工基材の例として微細溝を有するシリコン基板を用い、その表面にアモルファスシリコン膜を形成した例について説明する。アモルファスシリコン薄膜は、実施例1で用いた機能性薄膜形成装置を用いて形成した。図7(a)に示すように、シリコン基板30表面に幅50μm、深さ100μmの溝31をドライエッチング法によって形成し、その表面に厚さ0.1μmのシリコン酸化膜(図示せず)を形成した。シリコン基板30の裏面には裏面電極32を設け、基板支持電極11と電気的に接触させた。同図(b)はシリコン基板30の表面に設けた微細溝表面にアモルファスシリコン膜33が形成されたものの断面斜視図である。
アモルファスシリコン膜の形成は実施例1とほぼ同条件で行った。実施例1と同様にアルゴンガスによる基板表面のクリーニングを行った。
アモルファスシリコン膜の形成には、ガス導入口よりシランガスを導入して圧力0.7パスカルに調整した。繰り返し周波数を1kHzとし、プラズマ励起用アンテナ16に周波数13.56MHz、出力0.3kW、持続時間50μsの高周波電力バーストを印加し、高電圧パルス印加用電極13にパルス波高15kV、パルス幅5μsの負のパルス電圧を印加して高密度プラズマを発生させた。リコン基板30には基板支持電極11を介して、パルス波高2kV、パルス幅10μsの正のパルス電圧とパルス波高3kV、パルス幅5μsの負のパルス電圧を一対にした正負パルス電圧を印加した。
前記の条件で10分間、アモルファスシリコン膜の形成を行った結果、シリコン基板表面に厚さ0.2μmのアモルファスシリコン膜が形成され、微細溝の側壁面及び底面には厚さ0.1〜0.13μmのほぼ一様なアモルファスシリコン膜が形成された。負パルス電圧のみを印加する従来のPBII法では前記微細溝の側壁面には殆どアモルファスシリコン膜が形成されない。正負パルス対を用いて初めて側壁面への薄膜成長が可能になった。
実施例では、微細溝を有するシリコン基板30の表面に放電プラズマを接触させ、支持用電極11を通じてシリコン基板30に正のパルス電圧を印加したので、微細溝や微細穴内にマイクロプラズマを作用させることができる。また、正パルス印加直後に負のパルス電圧を印加することよって、微細溝内壁面にイオン照射をしながらアモルファスシリコン薄膜を形成することができる。
以上のように、本実施例によれば、負の高電圧パルスと同期して正負一対のパルス電圧を被加工基材の例であるシリコン基板30に繰り返し印加するようにしたので、従来技術で困難とされていた微細溝や微細穴内に所定の元素を含む薄膜を任意の厚さに形成することができる効果を奏する。
のパルス電圧は導入するガスの電離電圧よりも高いことが必要で、プラズマ表面から取り出せる電子電流密度及び電子の衝突による電離断面積を考慮すれば、300V以上であることが望ましい。更に、好適な電圧範囲は500Vから2000Vである。
また、負のパルス電圧は、シリコン基材30の表面及び微細溝内の電子を瞬時に吸い出すため、高電圧であることが望ましい。負のパルス電圧の波高値(パルス波高)が放電プラズマ電位より少なくとも300V以上、好ましくは1kV乃至5kVある。
本発明の特徴は被加工基材に印加する正負一対のパルス電圧が正のパルス電圧から負のパルス電圧への反転時間を1マイクロ秒以下とすることである。例えば、幅1μmの微細溝内におけるイオンの滞留時間は10ns程度であり、幅100μmの溝内で1μs程度と推定される。従って、正のパルス電圧の立ち下がり時間及び連続する負のパルス電圧の立ち上がり時間がイオンの滞留時間より短い正負パルス電圧を印加することによって、高いエネルギーを持つイオンを微細溝内壁に照射することが可能となり、密着性の良い薄膜を形成することができる効果を奏する。
本発明による薄膜形成方法においては、放電ガスに所定の元素を含むガスを導入することによって、所定の元素を含む薄膜を形成することができる。放電ガスに酸素や窒素、アンモニアガス、有機金属ガス等を導入すれば金属や半導体表面に酸化膜や窒化膜、金属膜等を形成できる。更に、炭化フッ素、ArF2、等を混入することによってフッ素を含むDLC(以下F−DLCと略記する)やフッ化物薄膜が形成でき、ジボラン、フォスフィン等を混入すれば、半導体基板表面にドーパントとしてボロンやリンをドーピングできる。また、本発明による薄膜形成方法では前記所定の元素を含むガスに限られるものではなく、必要に応じて前記以外のガスを導入して薄膜形成することができる。
(実施例3)
本発明に係る実施例3について説明する。実施例1で用いた機能性薄膜形成装置を用いてゴム基材表面へフッ素を含むDLC膜を形成した例について説明する。シリコンゴム基材表面に設けた突起部にF−DLC膜を形成した実施例の断面斜視図を図8に示す。図8(a)はシリコンゴム基材40に幅1mm、高さ2mmの突起部41を形成した被加工基材12の断面斜視図を、同図(b)はF−DLC膜が形成された断面斜視図を示す。
図8(a)に示すシリコンゴム基材40を被加工基材の例として、基板支持電極11表面に取り付けた。実施例1と同様にアルゴンプラズマによるシリコンゴム基材表面をクリーニングしたあと、真空容器1を真空ポンプによって1×10-3パスカル以上の高真空度に排気した後、原料ガスとして40モル%のアセチレンガスと60モル%の四フッ化炭素を混合したガスをガス導入口15より導入し、真空容器内のガス圧を0.5〜1パスカルの範囲に保持して実施した。
本実施例では、高電圧パルスとしてパルス波高15kV、パルス幅10μsの負のパルス電圧を高電圧パルス電極13に印加して高密度のプラズマを発生させ、基板支持電極にパルス波高2kV、パルス幅10μsの正のパルス電圧と瞬時に反転するパルス波高5kV、パルス幅10μsの負のパルス電圧との一対の正負パルス電圧を繰り返し周期1msで60分間印加した。本実施例ではフッ素を約16%含有する厚さ1.2μmのF−DLC膜が得られた。突起部の頂部及び側面にもほぼ均一なF−DLC膜が得られた。
本発明は、本実施例のシリコンゴム基材のような絶縁性基材に成膜する場合、特に有効である。
2kVの正のパルス電圧を印加すると、基材表面近傍のプラズマから電子が加速されて基材表面に入射するため、絶縁物である基材表面はほぼマイナス2kVに帯電する。引き続いて5kVの負のパルス電圧を印加すると、基材表面近傍のプラズマから正イオンが加速されて基材表面に入射する。この時、入射イオンは負の帯電電圧2kVと負のパルス電圧5kVとの合計の電位差で加速され、ほぼ7keVのエネルギーを有するイオンが基材表面に入射する。従って、正負パルス電圧対を印加することによって、負のパルス電圧で加速したイオンよりも大きなエネルギーを有するイオンを照射することが可能になる。従って、加速されたイオンは基材表面により深く侵入するため、密着力の強い薄膜が得られる。
本実施例では、アセチレンガスと四フッ化炭素ガスの混合ガスでの実施結果について説明したが、本実施例に限定されるものではなく、炭化水素系ガスとしてはメタン、エタン、ベンゼン、トルエン等、あるいはこれらの混合ガスを用いてもよい。また、フッ素系ガスとしては、二フッ化炭素、四フッ化炭素、ArF2等を用いてもよい。更に、被加工基材としてプラスチックス、ガラス、磁器、繊維等の絶縁性基材への薄膜形成が可能である。
本発明の更なる効果は、高密度プラズマ及び高濃度ラジカルの生成手段と被加工基材へのパルス電圧印加機能を分離することによって、高速成膜と所望の機能性薄膜を形成することができることである。特に、ポリシリコン等結晶性の優れた結晶膜が要求される成膜においては、成膜中の膜表面への高エネルギーイオンの衝突を抑制する必要がある。所謂イオン照射による放射線損傷を避けることが要求される。本発明によれば、被加工基材に負のパルス電圧や負のバイアス電圧を印加することなく成膜することができること、また必要に応じて正のバイアス電圧又は正のパルス電圧を印加できるため、結晶性、電子移動度など物性の優れた薄膜を形成することができる。
更に、本発明によれば、被加工基材の温度が100℃以下でも薄膜形成ができる効果を有するが、必要に応じて基板支持電極11の温度制御を行うことが望ましい。
本発明の実施例で用いた装置を説明するための断面模式図である。 各電極に印加するパルス電圧のタイミングを示す説明図である。 高電圧パルス電圧と得られたDLC膜厚の関係を示す図である。 正パルス幅とDLC膜の成膜速度との関係を示す図である。 本発明の他の実施形態を説明するための装置の断面模式図である。 本発明の他の実施形態を説明するための装置の断面模式図である。 本発明の実施例を説明するためのシリコン基板の断面斜視図である。 本発明の実施例を説明するためのシリコンゴム基板の断面斜視図である。
符号の説明
10 真空容器
11 基板支持電極
12 被加工基材
13 高電圧印加用電極
14 真空排気口
15 原料ガス導入口
16 プラズマ励起用アンテナ
17 高周波電源
18 高電圧パルス電源
19 正負パルス電源
20 バイアス電源
21 インダクタンスコイル
22 コンデンサー
23 放電制御盤
24 重畳装置
30 シリコン基板
31 微細溝
32 裏面電極
33 DLC薄膜
40 シリコンゴム基板
41 突起部
42 F−DLC膜

Claims (9)

  1. 原料ガス雰囲気の容器(10)内に放電プラズマを励起させる放電プラズマ励起手段(16,17)と、
    前記容器の内部で被加工基材を支持するための支持用電極(11)と、
    前記容器(10)の内部で前記支持用電極(11)に支持されている被加工基材(12)の表面に対して対向近接して設けられたパルス印加用電極(13)と、
    このパルス印加用電極(13)にパルス幅が10マイクロ秒よりも短い第1電圧を印加する第1の電源(18)と、
    前記支持用電極(11)に、放電プラズマ電位に対して負となる部分を含む第2電圧を印加する第2の電源(19,20)とを備え、
    前記放電プラズマが励起されている状態で、前記第1の電源(18)から前記パルス印加用電極(13)に前記第1電圧を印加して当該パルス印加用電極(13)付近に前記放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及びラジカルを発生させ、さらに、前記第2の電源(19,20)から前記支持用電極(11)を通じて前記被加工基材(12)に前記第2電圧を印加することにより、当該被加工基材(12)の表面に、前記原料ガスに含まれる元素成分を含む機能性薄膜を形成させる、
    機能性薄膜形成装置。
  2. 前記放電プラズマ励起手段は、前記容器内に配された高周波アンテナ(16)と、前記容器の外部から前記高周波アンテナ(16)に、高周波電力を給電する高周波電源(17)とを含み、
    前記第1の電源(18)は、前記高周波アンテナ(16)への高周波電力の給電に同期して前記パルス印加用電極(13)に印加し、
    前記第2の電源(19,20)は、前記第1の電源(18)による前記パルス印加用電極(13)への前記第1電圧の印加直後に前記第2電圧を前記支持用電極(11)に印加するように構成されている、
    請求項1記載の機能性薄膜形成装置。
  3. 前記第2の電源(19,20)は、所定値のバイアス電圧を重畳した電圧を前記第2電圧として前記支持用電極(11)に印加する、
    請求項1又は2記載の機能性薄膜形成装置。
  4. 前記第2の電源(19,20)は、放電プラズマ電位に対して負となる負電圧、放電プラズマ電位に対して正となる正電圧と前記負電圧との対から成る正負電圧対、又は、負電圧部分を含む1サイクルの正弦波電圧のいずれかを前記支持用電極(11)に印加する、
    請求項1、2又は3記載の機能性薄膜形成装置。
  5. 前記容器内に、互いに対向する前記支持用電極(11)と前記パルス印加用電極(13)との組が複数組設けられており、パルス印加用電極同士がそれぞれ前記第1の電源(18)に並列接続されており、支持用電極同士がそれぞれ前記第2の電源(19,20)に並列接続されている、
    請求項1乃至4のいずれかの項記載の機能性薄膜形成装置。
  6. 前記パルス印加用電極(13)が前記高周波アンテナ(16)と一体に構成されており、
    該パルス印加用電極(13)には、前記第1電圧と前記高周波電源(17)の出力とが重畳して印加される、
    請求項5記載の機能性薄膜形成装置。
  7. 前記パルス印加用電極(13)が、多孔性の導電体で構成されている、
    請求項1乃至6のいずれかの項記載の機能性薄膜形成装置。
  8. 前記パルス印加用電極(13)が、両端を有する線状又は短冊状の導電体で構成されており、この導電体の少なくとも一方端が、張力によって架張されている、
    請求項1乃至6のいずれかの項記載の機能性薄膜形成装置。
  9. 被加工基材(12)を支持するための支持用電極(11)と、この支持用電極(11)で支持された被加工基材(12)に対向して設けられたパルス印加用電極(13)とが配置された容器内を原料ガス雰囲気で所定気圧に維持するとともに、その容器内で放電プラズマを励起させ、この状態で、
    前記パルス印加用電極(13)にパルス幅が数10マイクロ秒よりも短い第1電圧を印加して当該パルス印加用電極(13)付近に前記放電プラズマよりも密度の高いプラズマ及びラジカルを発生させ、さらに、
    前記パルス印加用電極(13)への第1電圧の印加後、前記支持用電極(11)を通じて、前記被加工基材(12)に、放電プラズマ電位に対して負となる部分を含む第2電圧を印加することにより、当該被加工基材(12)の表面に、前記原料ガスに含まれる元素成分を含む機能性薄膜を形成させる、
    機能性薄膜の製造方法。
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