上記特許文献1に開示されているように、垂直翼47に形成された弧状窓48と、この弧状窓48に後端部がスライド可能に係止されたレバーアーム44とを有するチルト手段を、シートクッション41の前方部に配設した場合には、このシートクッション41の前後移動に連動させて、その後端部下方に配設された後部スピンドル49を支点にシートクッション41を揺動変位させることにより、上記座面の傾斜角度を変化させるとともに、この座面に対する乗員の着座中心であるいわゆるヒップポイントH1〜H3を上向きに湾曲した円弧状のラインMaに沿って上下動させることができる。
したがって、高身長者J3に比べて身長が低い中身長者J2が、上記のように前上がりの傾斜状態で車体に設置された下側送り台46に沿ってシートクッション41を仮想線で示す後方位置Cから実線で示す中間位置Bに前進させた場合には、シートクッション41の設置高さを上昇させることにより、中身長者J2のヒップポイントH2を座高に対応させて上方に移動させることができるため、中身長者J2の視点I2を、適正ラインLに一致させて前方視界を適正に確保することができる。
しかし、上記中身長者J2よりも身長がさらに低い低身長者J1が、上記下側送り台46に沿ってシートクッション41を実線で示す中間位置Bから細線で示す前方位置Aに前進させた場合には、上記レバーアーム44の傾斜角度が小さくなることによりシートクッション41の前端部が下降してヒップポイントH1が下方に移動することにより、座高が低い低身長者J1の視点I1が適正ラインLよりも下方に位置することとなって前方視界が悪くなるという問題がある。
また、中身長者J2に比べて身長が高い高身長者J3が、上記下側送り台46に沿ってシートクッション41を実線で示す中間位置Bから仮想線で示す後方位置Cに後退させた場合には、中身長者J2に比べて高身長者J3のヒップポイントH3を下方に移動させることができるため、この点では高身長者J3の座高が高くなるのに応じてその視点I3をある程度下方に移動させることができる。
しかし、シートクッション41を実線で示す中間位置Bから仮想線で示す後方位置Cに後退させるのに応じて、後下がりに傾斜したシートクッション41の傾斜角度が小さくなることにより、高身長者J3の上半身が略直立状態となるとともに、これに応じて頭部が上部前方側に移動するため、高身長者J3の視点I3が適正ラインLよりも上部前方側に位置することとなって視界が悪化するという問題がある。しかも、上記のように高身長者J3のヒップポイントH3が、中身長者J2に比べて下方に移動するとともに、シートクッション41の傾斜角度が小さくなると、高身長者J3が上半身を略直立に起立させた状態で着座し、その膝下部を不自然な角度で車体の前方側に伸ばさなければならないため、ペダル操作性が困難となって運転操作性が悪化する等の問題がある。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、乗員用シートの前後位置を乗員の体格等に対応させて調整する動作に応じて、乗員の視界および運転操作性を適正に確保することができる自動車のシート位置調整装置を提供することを目的としている。
請求項1に係る発明は、乗員用シートのシートクッションをスライド自在に支持するスライドレールが前上がりの傾斜状態で車室内に配設されるとともに、上記スライドレールに沿ってシートクッションが車体の前後方向にスライド変位するように構成された自動車のシート位置調整装置において、上記シートクッションを車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッションを上下方向に揺動変位させることにより座面の傾斜角度を変化させる揺動部材を備え、この揺動部材の一端側はスライドレール側に連結されるとともに、他端側はシートクッション側に連結され、シートクッションを車体の前方側にスライド変位させる際に、シートクッション側に連結された揺動部材の他端側を昇降変位させることにより、後下がりに傾斜した上記座面の傾斜角度を小さくするようにシートクッションを上下に揺動変位させるとともに、シートクッションが前方位置に近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を増大させるように構成されたものである。
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート位置調整装置において、上記揺動部材の他端側がシートクッションの後方部に連結され、シートクッションの前方部側に設けられた枢支部を支点としてシートクッションの後方部を上下動させることにより、シートクッションを揺動変位させてその傾斜角度を変化させる作動部を備えたものである。
請求項3に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート位置調整装置において、上記揺動部材の他端側がシートクッションの前方部に連結され、シートクッションの後方部側に設けられた枢支部を支点としてシートクッションの前方部を上下動させることにより、シートクッションを揺動変位させてその傾斜角度を変化させる作動部を設けたものである。
請求項4に係る発明は、上記請求項1に記載の自動車のシート位置調整装置において、上記揺動部材に、シートクッションの前方部を上下動させる前方側作動部と、シートクッションの後方部を上下動させる後方側作動部とを設け、上記前方側の作動部と後方側の作動部とを互いに逆方向に昇降させることにより、座面の傾斜角度を変化させるように構成したものである。
請求項5に係る発明は、上記請求項2に記載の自動車のシート位置調整装置において、乗員用シートのシートクッションを中間位置から前方位置に移動させる際に、上記揺動部材の先端部が斜め下方に傾斜した状態から上昇して揺動部材が水平に近い状態に移行することにより、シートクッションの前端部に設けられた支持軸を支点にシートクッションを揺動変位させ、後下がりに傾斜した状態で設置されたシートクッションを車体の前方に移動するのに応じ、その傾斜角度を徐々に小さくするとともに、シートクッションが上記前方位置に近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を次第に増大させるように構成したものである。
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車のシート位置調整装置において、上記揺動部材をシートクッションの外側方側に配設するとともに、この揺動部材の先端部をシートクッションに取り付けられた支持ブラケットに連結したものである。
請求項7に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれか1項に記載の自動車のシート位置調整装置において、シートクッションの左右両側辺部に、上方に隆起した隆起部を設けるとともに、この隆起部の下方に位置するシートクッションの底部に、上方に凹入した凹入部を設け、この凹入部の下方に上記揺動部材を配設したものである。
また、請求項8に係る発明は、上記請求項1または2に記載の自動車のシート位置調整装置において、揺動部材の一端部側に、スライドレール上を回転して移動する転動ギアにより駆動されるセクタギアが設けられており、上記揺動部材の他端部側が、シートクッションの後部に連結され、シートクッションが前方へスライド変位するのに連動して上記転動ギアの回転力が上記セクタギアに伝達されることにより、上記揺動部材が揺動変位してその他端部が上方へ駆動されるものである。
請求項1に係る発明によれば、高身長者に比べて身長が低い中身長者または低身長者が、前上がりの傾斜状態で車体に設置されたスライドレールに沿ってシートクッションを後方位置から中間位置および前方位置に前進させた場合には、シートクッションの設置高さを順次、上昇させることにより、中身長者および長身長者の視点をそれぞれ上方に移動させることができるため、各乗員の前方視界を適正に確保できるとともに、上記シートクッションを車体の前方側にスライド変位させる際に、後下がりに傾斜した上記座面の傾斜角度が小さくなるように変化させることにより、低身長者の上半身を起立状態に近付けてその頭部を車体の上部前方側に変位させ、各乗員の視点を適正ライン一致させてその前方視界を確保できるという利点がある。しかも、上記のようにシートクッションが前方位置に近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を増大させるように構成したため、シートクッションの前後移動距離および上方移動距離をそれ程大きく設定することなく、各乗員の視点を適正ラインに一致させるように上記座面の傾斜角度を適正に変化させることにより、低身長者の前方視界を効果的に向上させることができる。
請求項2に係る発明によれば、低身長者がシートクッションを車体の前方側にスライド変位させた場合には、この操作に連動してシートクッションの後方部を上昇させることにより、シートクッションが前方位置に近付くのに伴って低身長者のヒップポイントを大きく上昇させることができ、簡単な構成で座高の低い低身長者の視点を適正ラインまで確実に上昇させて前方視界を確保できるという利点がある。
請求項3に係る発明によれば、シートクッションの後方部側に設けられた枢支部を支点シートクッションの前方部を上下動させてシートクッションを揺動変位させることにより、シートバックおよび乗員の体重等を安定して支持しつつ、上記シートクッションの前部を上記駆動レバー等を介して軽い力で上下動させてシートクッションを容易に揺動変位させることができるという利点がある。
請求項4に係る発明によれば、シートクッションの前方部を上下動させる駆動レバー等からなる前方側作動部と、シートクッションの後方部を上下動させる駆動レバー等からなる後方側作動部とを備えた揺動部材により、上記前方側の作動部と後方側の作動部とを互いに逆方向に昇降させて座面の傾斜角度を変化させるように構成したため、上記両作動部の上下動距離を大きな値に設定することなく、シートクッションを車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッションを適正に揺動変位させ、座面の傾斜角度を迅速かつきめ細かく変化させることができる。
請求項5に係る発明によれば、上記シートクッションの前方部側に設けられた枢支部支点に、駆動レバー等からなる作動部によってシートクッションの後方部を上下動させることにより上記座面の傾斜角度を変化させるように構成したため、高身長者に比べて身長が低い中身長者または低身長者が、前上がりの傾斜状態で車体に設置されたスライドレールに沿ってシートクッションを後方位置から中間位置および前方位置に順次、前進させる操作に応じ、上記シートクッションの設置高さを上昇させるとともに、座面の傾斜角度を変化させて乗員のヒップポイントを身長に対応した位置に調節することにより、シートクッションの前後移動距離を低減しつつ、各乗員の視点を適正ラインに一致させて前方視界を確保できるという利点がある。
請求項6に係る発明によれば、上記駆動レバーをシートクッションの外側方側に配設することにより、この駆動レバーをシートクッションの下方に配設した場合に比べてシートクッションの設置高さを低くすることができるため、フロアパネルを下方に位置させて低床化を図ることができるとともに、シートクッションの支持安定性を効果的に向上させることができる。
請求項7に係る発明によれば、シートクッションの左右底部に設けられた凹入部の下方に駆動レバー等からなる揺動部材の作動部を配設したため、シートクッションの設置高さを低くすることができるとともに、上記駆動レバー等の設置部を覆うカバー部材等を設けることなく、これらを目立たないように隠すことができるという利点がある。
また、請求項8に係る発明によれば、シートクッションが前方へスライド変位するのに連動して上記転動ギアの回転力を上記セクタギアに伝達することにより、上記揺動部材を効率よく揺動変位させることができ、その他端部を効果的に上方へ駆動できるという利点がある。
図1および図2は、本発明の実施形態に係る自動車のシート取付構造を備えた車室形成部の概略構成を示している。この車室形成部の床面を構成するフロアパネル1上には、シートクッション2とシートバック3とを備えた運転席および助手席からなる乗員用シート4が設置されるとともに、その下方に左右一対のクロスメンバ5が車幅方向に延設されている。上記シートクッション2の両側辺部下方には、乗員用シート4を車体の前後方向にスライド可能に支持する左右一対のスライドレール6が、通常よりも大きな仰角、例えば15°〜20°程度の角度で前上がりに傾斜した状態で配設されている。
上記乗員用シート4には、シートクッション2の下方に位置する左右一対のスライド部材7がスライドレール6に沿ってスライド自在に支持されるとともに、上記シートクッション2をスライドレール6に沿って車体の前後方向にスライド変位させるスライド操作手段8と、このシートクッション2のスライド変位させる操作に連動してシートクッション2を予め設定された移動軌跡に沿って傾動変位させることにより、後下がりに傾斜した座面の傾斜角度を変化させるチルト手段9とが設けられている。
上記スライド操作手段8は、スライドレール6の側壁面に固定されたラックギア10と、上記スライド部材7に回転自在に支持されるとともにラックギア10上を転動する転動ギア11と、この転動ギア11に歯合する駆動ギア12とを有している。そして、図外の駆動モータからトルクケーブル等を介して上記駆動ギア12に入力される回転力に応じ、上記転動ギア11を駆動してラックギア10上を転動させることにより、シートクッション2およびスライド部材7を、図1の細線で示す前方位置A、実線で示す中間位置Bおよび仮想線で示す後方位置Cにスライド変位させて乗員用シート4の前後位置を調節するように構成されている。なお、図外の駆動モータからの回転力を伝達するトルクケーブルを上記転動ギア11に接続することにより、この転動ギア11を直接、駆動するように構成してもよく、あるいは回動操作レバー等を用いた手動操作により入力される回転駆動力を上記転動ギア11または駆動ギア12に伝達するように構成してもよい。
また、上記チルト手段9は、シートクッション2の前部下面に設けられた前部ブラケット14の枢支部を貫通するとともに上記スライド部材7に支持された支持軸15と、上記駆動ギア12と一体に回転する作動ギア16と、この作動ギア16に歯合するセクタギア17aが基端部に形成された駆動レバー17からなる揺動部材と、その先端部をシートクッション2の後部下面に設けられた後部ブラケット18に連結するリンクプレート19とを有している。そして、図示を省略したトルクケーブルから駆動ギア12に伝達された回転力に応じて上記作動ギア16が回転駆動されるとともに、この作動ギア16により上記駆動レバー17が駆動されて揺動変位し、これに対応して上記前部ブラケット14に枢支された支持軸15を支点にシートクッション2の後端部が昇降駆動されるように構成されている。
具体的には、図2の矢印aに示すように、シートクッション2を車体の前方側に移動させる方向に上記転動ギア11を回転駆動した場合には、この転動ギア11の回転方向aと逆方向bにチルト手段9の駆動ギア12および作動ギア16が回転駆動され、この作動ギア16によりセクタギア17aが矢印cに示すように回転駆動されることにより、上記駆動レバー17の先端部が下方位置から上昇する方向dに揺動変位してシートクッション2の後部が押し上げられることになる。一方、上記シートクッション2を車体の後方側に移動させる場合には、転動ギア11、駆動ギア12および作動ギア16が、それぞれ上記前方移動時と逆方向に回転駆動されることにより、上記駆動レバー17の先端部が下降する方向に揺動変位してシートクッション2の後部が下降するように構成されている。
上記シートクッション2を、図3の実線で示す中間位置Bから細線で示す前方位置Aに移動させる場合には、上記駆動レバー17の先端部が斜め下方に傾斜した状態から上昇して駆動レバー17が水平に近い状態に移行することにより、前端部に設けられた支持軸15を支点にシートクッション2が揺動変位する。そして、後下がりに傾斜した状態で設置されたシートクッション2が車体の前方に移動するのに応じ、その傾斜角度が徐々に小さくなるとともに、シートクッション2が上記前方位置Aに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率が次第に増大することになる。すなわち、上記駆動レバー17の先端部が上昇して駆動レバー17が水平に近い状態に移行するにしたがい、この駆動レバー17の角度変化に対するレバー先端部の上昇度合が大きくなるため、上記支持軸17を支点としたシートクッション2の角度変化率が次第に増大するようになっている。
これに対して上記スライド操作手段8によりシートクッション2を、図3の実線で示す中間位置Bから仮想線で示す後方位置Cに移動させる場合には、先端部が斜め下方に傾斜した状態で設置された上記駆動レバー17の傾斜角度が次第に増大することにより、シートクッション2の前端部に設けられた支持軸15を支点にシートクッション2が揺動変位して、後下がりに傾斜したシートクッション2の傾斜角度が徐々に大きくなるとともに、上記前方移動時とは逆にシートクッション2が上記後方位置Cに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率が次第に減少するようになっている。
上記のように乗員用シート4のシートクッション2をスライド自在に支持するスライドレール6が前上がりの傾斜状態で車室内に配設されるとともに、上記スライドレール6に沿ってシートクッション2が車体の前後方向にスライド変位するように構成された自動車のシート位置調整装置において、上記シートクッション2を車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッション2を揺動変位させることにより座面の傾斜角度を変化させるチルト手段9を設け、上記シートクッション2を車体の前方側にスライド変位させる際に、後下がりに傾斜した上記座面の傾斜角度を小さくするように変化させるとともに、シートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を増大させるように構成したため、乗員用シート4のシートクッション2を乗員の体格等に対応させて前後移動させる操作に応じて、乗員の視界および運転操作性を適正に確保することができる。
すなわち、図1に示すように、高身長者J3に比べて身長がやや低い中身長者J2、または身長がかなり低い低身長者J1が、前上がりの傾斜状態で車体に設置されたスライドレール6に沿ってシートクッション2を、仮想線で示す後方位置Cから実線で示す中間位置Bおよび細線で示す前方位置Aに順次、前進させた場合には、シートクッション2をスライドレール6に沿って上昇させることにより、高身長者J3に比べて座高がやや低い中身長者J2の視点I2および座高がかなり低い低身長者J1の視点I1をそれぞれ上方に移動させることができるため、各乗員J1〜J3の前方視界を適正に確保できるという利点がある。
また、上記低身長者J1がシートクッション2を車体の前方側にスライド変位させた場合には、図4の実線で示すように、後下がりに傾斜した上記座面の傾斜角度が小さくなるように変化させることにより、車体の前方側に位置する仮想の揺動支点を中心に低身長者J1の上半身が揺動変位して起立状態に近付くことになる。このため、図4の仮想線で示すように、シートクッション2の傾斜角度を一定、つまり上記中立位置Bと同一角度に維持した場合に比べて、低身長者J1の頭部を車体の上部前方側に変位させることにより、座高の低い低身長者J1の視点I1を適正ラインLまで上昇させることができるため、シートクッション2の前後移動距離および上方移動距離をそれ程大きく設定することなく、低身長者J1の前方視界を確保できるという利点がある。
しかも、上記のようにスライドレール6を前上がりの傾斜状態で設置することにより、シートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴ってこのシートクッション2を上方に移動させるように構成した場合には、身長に応じて足の長さが短くなる低身長者J1の足先がフロアパネル1から離間することにより、ブレーキペダルおよびアクセルペダル等に対する操作性が悪化する可能性がある。しかし、上記のようにシートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴ってシートクッション2の傾斜角度を小さくし、その座面を水平状態に近付けるように構成したため、低身長者J1が膝を大きく折り曲げて膝下部を略真っ直ぐに下方に伸ばして足先をフロアパネル1に近付けることにより、上記フロアパネル上に設置されたブレーキペダルおよびアクセルペダル等に対する操作性を充分に確保することが可能である。
なお、低身長者J1の場合には、そのヒップポイントH1からその視点I1までの距離が短いことに起因して、上記座面の傾斜角度の変化量に対する視点I1の上昇度合が中身長者J2および高身長者J3に比べて小さくなるため、シートクッション2を前後移動させる際の上記傾斜角度の変化率、つまり座面角度の変化量とシートクッション2の前後移動量との割合を一定に設定した場合には、低身長者J1の視点I1を適正位置に上昇させることが困難となる。これに対して上記シートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を増大させるように構成した場合には、低身長者J1の視点I1を適正ラインLに一致させるように上記座面の傾斜角度を充分に変化させて低身長者J1の前方視界を効果的に確保できるという利点がある。
上記のようにシートクッション2を車体の前後方向にスライド変位させる前後移動させるとともに、これに連動してシートクッション2を揺動変位させることにより座面の傾斜角度を変化させた場合に、乗員の身長に応じた前方視界を適正に確保できるとともに、ブレーキペダル等に対する操作性を充分に維持できるシートの前後位置と座面の傾斜角度との対応関係を実験により求めた結果、図6に示すようなデータが得られた。このデータからも、シートクッション2を車体の前方側にスライド変位させる際に、後下がりに傾斜した上記座面の傾斜角度を小さくするように変化させるとともに、シートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を増大させることにより、乗員の前方視界を適正に確保できるとともに、ブレーキペダル等に対するた操作性を充分に維持できることが分かる。
したがって、上記のようにシートクッション2を、図3の実線で示す中間位置Bから細線で示す前方位置Aに移動させる場合に、上記チルト手段9の作動部となる駆動レバー17が、後下がりの傾斜状態から水平に近い状態となるように揺動変位するとともに、この駆動レバー17が水平状態に近付くにしたがってその角度変化に対するレバー先端部の上昇度合が大きくなるように駆動レバー17を配置する等により、シートクッション2の前方移動に対応させて後下がりに傾斜したシートクッション2の傾斜角度を徐々に小さくするとともに、このシートクッション2が上記前方位置Aに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を次第に増大させることができる。これにより各乗員の前方視界を適正に確保することができ、かつブレーキペダル等に対するた操作性を充分に維持できるように、その身長に応じた各乗員の着座姿勢が得られることになる。
一方、中身長者J2に比べて身長が高い高身長者J3が、上記スライドレール6に沿ってシートクッション2を図1の実線で示す中間位置Bから仮想線で示す後方位置Cに後退させた場合には、中身長者J2に比べて高身長者J3のヒップポイントH3が下方に移動するとともに、これに対応させて図5の実線で示すように、後下がりに傾斜した上記シートクッション2の傾斜角度を増大させことにより、車体の前方側に設けられた仮想の揺動支点を中心に高身長者J3の上半身を揺動変位させて後傾状態とすることができる。したがって、図5の仮想線で示すように、シートクッション2の傾斜角度を一定、つまり上記中立位置Bと同一角度に維持した場合に比べて、高身長者J3の頭部を車体の下部後方側に移動させることにより、シートクッション2の前後移動距離および上方移動距離をそれ程大きく設定することなく、座高の高い高身長者J3の視点I3を適正ラインLまで下降させてその前方視界を確保することができる。
しかも、上記のようにスライドレール6を前上がりの傾斜状態で設置することにより、シートクッション2が後方位置に近付くのに伴ってこのシートクッション2を下方に移動させるように構成した場合には、身長に応じて足の長さが長くなる高身長者J3の足先がフロアパネルに近付くことになるが、これに対応して上記座面の傾斜角度を大きくして座面を大きく後傾させるように構成したため、高身長者J3がその膝下部を車体の前方側に伸ばし易くなるという利点がある。これによって高身長者J3がフロアパネル1上に設置されたブレーキペダルおよびアクセルペダル等を容易に操作することができる。
また、上記高身長者J3の場合には、そのヒップポイントH3からその視点I3までの距離が長いことに起因して、上記座面の傾斜角度の変化量に対する視点I3の上昇度合が低身長者J1および中身長者J2に比べて大きくなるため、シートクッション2を前後移動させる際の上記傾斜角度の変化率を一定に設定した場合には、高身長者J3の視点I3が大きく変化することになる。したがって、図6に示すように、シートクッション2が車体の後方位置Cに近付くのに伴って上記傾斜角度の変化率を減少させるように構成することにより、高身長者J3の視点I3が適正ラインLから下方に大きくずれるという事態の発生を効果的に防止することができる。
上記実施形態では、シートクッション2の前方部側に設けられた支持軸15からなる枢支部を支点としてシートクッション2の後方部を上下動させることにより、シートクッション2を揺動変位させる駆動レバー17等からなる作動部を備えたチルト手段9を設け、上記シートクッション2を車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッション2の後方部を昇降駆動することにより、シートクッション2を揺動変位させて後下がりに傾斜した座面の傾斜角度を変化させるように構成した例について説明したが、これに限られず以下の構成を採用してもよい。
例えば、図7に示すように、シートクッション2の後部下面に設けられた後部ブラケット21の枢支部を貫通するとともに上記スライド部材7に支持された支持軸22と、上記駆動ギア12と一体に回転する作動ギア23と、この作動ギア23に歯合するセクタギア24aが基端部に形成された駆動レバー24と、その先端部をシートクッション2の前部下面に設けられた前部ブラケット25に連結するリンクプレート26とを有するチルト手段27を設けた構造としてもよい。そして、図示を省略したトルクケーブルから上記駆動ギア12に伝達された回転力に応じて作動ギア23を回転駆動するとともに、この作動ギア23により上記駆動レバー24を駆動して揺動変位させることにより、上記後部ブラケット21に枢支された支持軸22を支点にシートクッション2の後端部が昇降駆動されることになる。
上記構成によれば、図7の矢印eに示すように、シートクッション2を車体の前方側に移動させる方向に上記転動ギア11を回転駆動した場合には、この転動ギア11の回転方向eと逆方向fに上記チルト手段27の駆動ギア12および作動ギア23が回転駆動され、この作動ギア23によりセクタギア24aが矢印gに示すように回転駆動されることにより、上記駆動レバー24の先端部が上方位置から下降する方向hに揺動変位してシートクッション2の前部が下方に変位する。また、上記駆動レバー24を先上がりの傾斜状態で設置し、シートクッション2が前方位置Aに近付くにしたがって駆動レバー24の先端部が下降して水平状態に近付くように構成することにより、シートクッション2が前方位置Aに近付くほど、座面角度の変化率が増大することになる。
これに対してシートクッション2を車体の後方側に移動させる場合には、転動ギア11、駆動ギア12および作動ギア16が、それぞれ上記前方移動時と逆方向に回転駆動されることにより、上記駆動レバー17の先端部が下降する方向に揺動変位してシートクッション2の後部が下降することになる。また、上記シートクッション2が後方位置Cに近付くにしたがって駆動レバー24の先端部が上昇して傾斜角度が大きくなることにより、シートクッション2が後方位置Cに近付くほど上記座面角度の変化率が減少することになる。
このようにシートクッション2の後方部側に設けられた支持軸22からなる枢支部を支点にシートクッション2の前方部を上下動させてシートクッション2を揺動変位させるように構成した場合には、シートバック3および乗員の体重等が重点的に作用するシートクッション2の後部を上記後部ブラケット21および支持軸22により安定して支持しつつ、上記駆動レバー24およびリンクプレート26等を介して上記シートクッション2の前部を軽い力で上下動させてシートクッション2を容易に揺動変位させることができるという利点がある。なお、図7において、符号28は、シートクッション2の前後移動を規制するロックアームであり、下端部に設けられた係止部が係止孔に係合されたロック位置と、この係止部が係止孔から離脱した非ロック位置とに、図外の操作レバーにより揺動操作されるように構成されている。
また、図2および図3に示すように、シートクッション2の前方部を上下動させる駆動レバー17等からなるシ前方側作動部と、図7に示すように、シートクッション2の後方部を上下動させる駆動レバー24等からなる後方側作動部とを備えたチルト手段により、上記前方側の作動部と後方側の作動部とを互いに逆方向に昇降させて座面の傾斜角度を変化させるように構成してもよい。このように構成した場合には、上記両作動部の上下動距離を大きな値に設定することなく、シートクッション2を車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッション2を揺動変位させることにより座面の傾斜角度を迅速かつきめ細かく変化させることができる。
一方、上記のように乗員用シート4のシートクッション2をスライド自在に支持するスライドレール6が前上がりの傾斜状態で車室内に配設されるとともに、上記スライドレール6に沿ってシートクッション2が車体の前後方向にスライド変位するように構成された自動車のシート位置調整装置において、図2および図3に示すように、上記シートクッション2を車体の前後方向にスライド変位させる操作に連動してシートクッション2を揺動変位させることにより、後下がりに傾斜した座面の傾斜角度を変化させるチルト手段9を設け、シートクッション2の前方部側に設けられた枢支部を支点に、上記駆動レバー17等からなる作動部によってシートクッション2の後方部を上下動させることにより上記座面の傾斜角度を変化させるように構成した場合には、上記シートクッション2の前後移動距離を低減しつつ、乗員の身長に応じてヒップポイントH1〜H3の位置を適正に調節できるという利点がある。
すなわち、上記のようにシートクッション2を揺動変位させて上記座面の傾斜角度を変化させる駆動レバー17等からなるチルト手段9の作動部をシートクッション2の後方部側に配設した場合には、シートクッション2を車体の前方側にスライド変位させる操作に連動してシートクッション2の後方部を上昇させることにより、図1に示すように、前上がりの湾曲した円弧状のラインMに沿って乗員のヒップポイントH1〜H3を順次、変化させることができる。したがって、シートクッション2が前方位置Aに近付くのに伴って低身長者J1のヒップポイントH1を大きく上昇させることにより、シートクッション2の前後移動距離および上方移動距離をそれ程大きく設定することなく、簡単な構成で座高の低い低身長者J1の視点I1を適正ラインLまで確実に上昇させてその前方視界を確保できるという利点がある。
なお、図2に示すように、シートクッション2の後方部側に設けられた枢支部を支点としてシートクッション2の前方部を上下動させることにより、シートクッション2を揺動変位させるように構成した場合には、シートクッション2を前方位置Aまでスライド変位させた場合に、シートクッション2の後方部が大きく上昇してシートクッション2の後方部とスライドレール6とが大きく離間し、シートクッション2の支持剛性が低下し易い傾向がある。これに対して図7に示すように、シートクッション2の後方部側に設けられた枢支部を支点としてシートクッション2の前方部を上下動させることにより、シートクッション2を揺動変位させるように構成した場合には、シートクッション2を前後移動させる際に、シートクッション2の後方部とスライドレール6との間の距離が一定に維持され、シートクッション2を前方位置Aまでスライド変位させた場合においてもシートクッション2の後方部とスライドレール6とが大きく離間することはなく、シートクッション2の支持剛性を充分に確保できるという利点がある。
上記チルト手段9,27の作動部を構成する駆動レバー17,24等をシートクッション2の下方に配設した構造としてもよいが、図8に示すように、上記駆動レバー17,24をシートクッション2の外側方側に配設するとともに、この駆動レバー17,24の先端部をシートクッション2の側面等に取り付けられた支持ブラケット18,25にリンク19,26等を介して連結した構造としてもよい。この構成によれば、上記駆動レバー17,24等をシートクッション2の下方に配設した場合に比べてシートクッション2の設置高さを低くすることができるため、フロアパネル1を下方に位置させて低床化を図ることができるとともに、シートクッション2の支持安定性を効果的に向上させることができる。
また、図9に示すように、シートクッション2の左右両側辺部に、上方に大きく隆起した隆起部31を設けるとともに、この隆起部31の下方に位置するシートクッション2の底部に、上方に凹入した凹入部32を設け、この凹入部32の下方に上記チルト手段の作動部となる駆動レバー17,24等を配設した構造としてもよい。このように構成した場合には、シートクッション2の設置高さを低くすることができるとともに、上記駆動レバー17,24の設置部等を覆うカバー部材等を設けることなく、これらを目立たない位置に配設することができるという利点がある。