JP4510221B2 - 熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物、該組成物を用いて溶融紡糸を行ってポリビニルアルコール系重合体繊維を製造する方法、およびそれにより得られるポリビニルアルコール系重合体繊維に関する。より詳細には、本発明は溶融紡糸性に優れるポリビニルアルコール系重合体組成物、該組成物を用いて溶融紡糸を行って繊維を製造する方法およびそれにより得られるポリビニルアルコール系重合体繊維に関するものであり、本発明のポリビニルアルコール系重合体組成物は溶融紡糸に適した溶融粘度を有し、溶融紡糸時の熱安定性および紡糸口金からの紡出性に優れていて、ゲルの発生による断糸などを生ずることなく、強度等の物性に優れるポリビニルアルコール系重合体繊維を連続運転により生産性良く製造することができる。また、本発明の熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物は溶融成形によるフィルム、シート、ボトルなどの各種成形品の製造にも有効であり、成形時に可塑剤の揮散を生ずることなく、耐衝撃性、強度などの力学的特性に優れ、フィッシュアイやゲルの発生数が少なく、平滑で良好な外観を有し、可塑剤の移行がない、高品質の各種成形品を生産性よく製造することができる。
【0002】
【従来の技術】
ポリビニルアルコールは、熱溶融開始温度と熱分解温度とが非常に接近しているため、溶融紡糸によって繊維を連続運転により製造することは従来困難であった。そのため、ポリビニルアルコール繊維の製造に当たっては、ポリビニルアルコールを熱水などに溶解して紡糸原液を調製し、該原液を用いて湿式紡糸や乾式紡糸によって繊維を製造する方法が従来から広く採用されている。しかしながら、そのような湿式紡糸や乾式紡糸法は、紡糸原液の調製、凝固浴による凝固処理、紡糸した繊維から水分などを除去する工程などが必要であり、繁雑で手間がかかるものであった。
【0003】
ポリビニルアルコール繊維を、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などと同様に、溶融紡糸によって製造する方法の開発が求められており、ポリビニルアルコールの溶融紡糸を可能にするためには、その重合度やケン化度を大幅に下げたり、ポリビニルアルコール中に含まれている酢酸ナトリウムなどの金属塩を極力除去する必要がある。しかしながら、そのようにしても、溶融紡糸を続けているうちに増粘してトルクが上昇し、紡糸口金からの紡出ができなくなったり、ゲルの発生によって断糸などを生じ易く、繊維を連続して製造することが困難であった。また、溶融紡糸によりポリビニルアルコール繊維が得られたとしても、機械的強度、強靭性、可撓性などに欠けており、実用価値の低いものであった。
【0004】
また、ポリビニルアルコールを溶融成形して、フィルム、シート、ボトルなどの成形品を製造するに当たっても、増粘によるトルクの上昇に伴う成形性の低下、ゲルやブツの発生による成形品の品質の低下などの問題があった。
【0005】
上記した欠点を補うための従来技術としては、(1)ポリビニルアルコールに可塑剤を添加して溶融粘度を下げる方法、(2)ポリビニルアルコール中にビニルアルコール単位以外の他の単量体単位を導入して変性ポリビニルアルコールにする方法、(3)ポリビニルアルコールに熱分解防止剤を添加する方法などが知られている。
【0006】
前記(1)の従来法で用いられている可塑剤としては、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリグリセリン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトールなどがあり、これらのうちでもグリセリンが最も多く用いられている。グリセリンは、ポリビニルアルコールの融点や溶融粘度を下げる効果は大きいが、190℃以上の温度でポリビニルアルコールのペレット化、溶融紡糸、溶融成形などを行うと、分解や蒸発を生じてポリビニルアルコール中から失われるため、品質の一定なペレット、繊維、成形品などが得られないという問題があった。また、得られるポリビニルアルコール繊維や成形品中でのマイグレーションも大きく、繊維や成形品の表面に移行して、ブロッキングを起こしたり、繊維や成形品が部分的に硬く脆くなって強度や低温での強靭性が大きく低下するなどの問題を生じていた。また、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの可塑剤は、高温での蒸散、繊維や成形品内でのマイグレーションの問題は比較的少ないが、ポリビニルアルコールに対する可塑化性能が十分ではなく、溶融紡糸や溶融成形時の溶融粘度を適正なものにするには多量に添加する必要があるため、得られる繊維や成形品の物性低下が生じ易いという欠点があった。この傾向は、ポリグリセリン、マンニトール、ソルビトール、ペンタエリスリトールなどにおいても同様である。しかも、ソルビトールのような常温で固体の可塑剤は、繊維や成形品の表面に移行すると白い粉末状で析出し、外観を低下させるという問題も生じていた。
【0007】
また、前記(2)の従来法における変性ポリビニルアルコールは、高温でも溶融紡糸や溶融成形が可能であるが、可塑剤無しでは増粘によるトルクの上昇やゲルの発生が避けられず、長時間の溶融紡糸や溶融成形は実質的には困難であった。
さらに、上記(3)の従来法で用いるポリビニルアルコールの熱分解防止剤としては、リン酸、リン酸塩、ラジカル捕捉剤、ワックスなどの疎水性化合物が提案されているが、これらもポリビニルアルコールの溶融時の分解を完全には防止できず、長時間安定して溶融紡糸や溶融成形を行うことは実際上困難であった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、溶融紡糸に適した低い溶融粘度を有し、しかも熱安定性に優れていて、長時間紡糸を継続しても、増粘(トルクの上昇)やゲルの発生がなく、断糸を生ずることなく、強度や柔軟性などの物性に優れるポリビニルアルコール系重合体繊維を、連続運転により生産性良く製造することのできる熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記したポリビニルアルコール系重合体組成物を用いて、溶融紡糸によりポリビニルアルコール系重合体繊維を製造する方法を提供することである。
さらに、本発明の目的は、溶融成形時に熱安定性に優れ、成形時に可塑剤の揮散が生じず、フィッシュアイ(ブツ)やゲルの発生がなくて平滑な表面を有し外観的に優れ、強靭性、耐衝撃性などの物性に優れ、しかも可塑剤の移行がなくてブロッキングなどの問題を生じない高品質の成形品を、溶融成形によって生産性良く製造することのできる熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは研究を行ってきた。そして、一連の研究のなかで、特開平9−272719号公報に記載されている熱溶融性のポリビニルアルコール系樹脂組成物が、溶融成形性に優れているという知見を得た。すなわち、この特開平9−272719号公報には、重合度が500を越え5000以下のポリビニルアルコールに、多価アルコールのアルキレンオキシド付加物を所定の量で配合した熱溶融性ポリビニルアルコール系樹脂組成物が開示されており、この熱溶融性のポリビニルアルコール系樹脂組成物は溶融成形時の熱安定性に優れ、しかも可塑剤として添加した多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の移行性が非常に少ないため、このポリビニルアルコール系樹脂組成物を用いてフィルム、シート、ボトルなどの成形品を溶融成形により製造すると、強靭性に優れ、しかもブツの発生や可塑剤の表面への移行のない高品質の成形品を連続して生産性良く製造することができることが記載されている。
【0010】
そして、本発明者らは上記特開平9−272719号公報に記載されている熱溶融性のポリビニルアルコール系樹脂組成物について更に検討を重ねた。その結果、この熱溶融性のポリビニルアルコール系樹脂組成物は、フィルム、シート、ボトルなどのいわゆる成形品の製造には適しているが、溶融紡糸用には溶融時の粘度が未だ高過ぎて紡糸口金から繊維を円滑に紡出することが困難であることが判明した。そこで、さらに検討したところ、ポリビニルアルコールとして、該特開平9−272719号公報に記載されているものよりも重合度の低いもの、すなわち粘度平均重合度が200〜500のものを用い、それに多価アルコールのアルキレンオキシド付加物を可塑剤として添加すると、それにより得られるポリビニルアルコール組成物は、溶融時の粘度が紡糸に適したものとなり良好な溶融紡糸性を示し、紡糸口金から繊維を連続して紡出できること、紡糸時に可塑剤として添加した多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の揮散が生じないこと、ブツやゲルなどの発生がなくて溶融紡糸時に断糸を生じないこと、しかもそれにより得られるポリビニルアルコール繊維は、強度、可撓性などの点においても優れていることを見出した。
【0011】
また、前記特開平9−272719号公報には、ポリビニルアルコールの重合度が500以下であると、得られる成形品の強度および低温での衝撃強度が小さく使用できないとの記載がなされている。そこで、本発明者らはその点についても更に検討した。その結果、ポリビニルアルコールとして、該公報に記載のものよりも重合度の低いもの、すなわち粘度平均重合度が200〜500のものを用いた場合であっても、該特開平9−272719号公報に記載されている重合度が500を越え3000以下のポリビニルアルコール系重合体を含有する樹脂組成物を用いて得られる成形品と、遜色のない物性を有するか、または僅かしか物性低下のない成形品が溶融成形によって生産性良く得られ、それにより得られる成形品は十分に実用価値があることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1) 〈I〉 粘度平均重合度が200〜500のポリビニルアルコール系重合体(a)、および3価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物であって該多価アルコール1モルに対するアルキレンオキシドの平均付加モル数が1〜4モルである多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)のみからなる熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物であって;
〈II〉 ポリビニルアルコール系重合体(a)が、ポリ酢酸ビニルの単独重合体のケン化物、並びに酢酸ビニルとα−オレフィン、ω−ヒドロキシ−α−オレフィン、エチルビニルエーテル、長鎖ビニルエーテル、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体、飽和分岐脂肪酸ビニルおよび不飽和スルホン酸塩から選ばれる1種以上の不飽和単量体との共重合体のケン化物から選ばれる少なくとも1種の重合体であり;且つ、
〈III〉 ポリビニルアルコール系重合体(a)100重量部に対する多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)の含有量が3〜10重量部である;
ことを特徴とする熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物である。
【0013】
そして、本発明は、
(2) 溶融紡糸用である前記(1)の熱溶融性ポリビニルアルコール系重合体組成物である。
【0014】
さらに、本発明は、
(3) 前記(1)または(2)の熱溶融性ポリビニルアルコール系重合体組成物を用いて溶融紡糸を行ってポリビニルアルコール系重合体繊維を製造する方法である。
【0015】
そして、本発明は、
(4) 前記(3)の方法により得られるポリビニルアルコール系重合体繊維である。
【0016】
さらに、本発明は、
(5) 溶融成形用である前記(1)のポリビニルアルコール系重合体組成物である。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物では、ポリビニルアルコール系重合体(a)(以下単に「PVA系重合体」ということがある)として、粘度平均重合度が200〜500のPVA系重合体を用いることが必要であり、250〜490のPVA系重合体を用いることが好ましい。PVA系重合体の粘度平均重合度が200未満であると、溶融紡糸して得られるPVA系重合体繊維の強度が小さくなり、一方500よりも高いとPVA系重合体組成物の溶融粘度が高くなり過ぎて、紡糸口金から円滑に紡出させることができなくなる。
なお、本明細書における「PVA系重合体の粘度平均重合度」とは、JIS K6726に従って測定した重合度をいう。
【0018】
本発明で用いるPVA系重合体としては、粘度平均重合度が200〜500の範囲である限り、従来既知の種々のPVA系重合体が使用でき、酢酸ビニルの単独重合体をケン化して得られる重合体、酢酸ビニルと他の共重合可能な不飽和単量体との共重合体をケン化して得られる重合体のいずれもが使用できる。本発明で用い得るPVA系重合体の具体例としては、酢酸ビニルの単独重合体のケン化物、前記した酢酸ビニルとα−オレフィン、ω−ヒドロキシ−α−オレフィン、エチルビニルエーテル、長鎖ビニルエーテル、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体、飽和分岐脂肪酸ビニルおよび不飽和スルホン酸塩から選ばれる1種以上の不飽和単量体との共重合体のケン化物などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
上記において、酢酸ビニルと共重合するα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテン、デセンなどの炭素数2〜30のα−オレフィンが挙げられ、そのうちでも炭素数2〜15のα−オレフィンが好ましく、炭素数2〜8のα−オレフィンがより好ましく、炭素数2〜4のα−オレフィンがさらに好ましい。α−オレフィンがエチレンの場合には、酢酸ビニル/エチレン共重合体ケン化物におけるエチレン単位の含有率は2〜20モル%であることが好ましく、4〜15モル%であることがより好ましい。エチレン単位の含有率が20モル%を超えると、そのようなPVA系重合体(酢酸ビニル/エチレン共重合体ケン化物)と本発明の組成物で用いる多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)との相溶性が低下して、多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)による可塑化作用が十分に発揮されなくなって、PVA系重合体組成物の溶融粘度が紡糸に適した粘度にまで低下せず、溶融紡糸が円滑に行われにくくなる。しかも、本発明により得られる繊維、フィルムなどの成形品に水溶性や水分散性という特性を付与したい場合は、水に対する溶解性や分散性が低下する。一方、PVA系重合体(酢酸ビニル/エチレン共重合体ケン化物)におけるエチレン単位の含有率が2モル%未満の場合は、PVA系重合体中にエチレン単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。また、α−オレフィンが炭素数3〜30のα−オレフィンの場合は、酢酸ビニル/α−オレフィン共重合体ケン化物(PVA系重合体)におけるα−オレフィン単位の含有率は0.5〜10モル%であることが好ましい。α−オレフィン単位の含有率が10モル%を超えると、そのようなPVA系重合体と本発明の組成物で用いる多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)との相溶性が低下して、多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)による可塑化作用が十分に発揮されなくなって、PVA系重合体組成物の溶融粘度が紡糸に適した粘度にまで低下せず、溶融紡糸が円滑に行われにくくなる。しかも、本発明により得られる繊維、フィルムなどの成形品に水溶性や水分散性という特性を付与したい場合は、水に対する溶解性や分散性が低下する。一方、PVA系重合体におけるα−オレフィン単位の含有量が0.5モル%未満の場合は、PVA系重合体中にα−オレフィン単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。
【0020】
また、上記において、酢酸ビニルと共重合するω−ヒドロキシ−α−オレフィンは、分子の末端に水酸基を有するα−オレフィンであり、具体例としては、4−ヒドロキシ−1−ブテン、5−ヒドロキシ−1−ペンテン、6−ヒドロキシ−1−ヘキセン、7−ヒドロキシ−1−オクテンなどの炭素数4〜20のα−オレフィンの分子末端に水酸基を有する化合物を挙げることができる。そのうちでも、7−ヒドロキシ−1−オクテンが好ましい。酢酸ビニル/ω−ヒドロキシ−α−オレフィン共重合体ケン化物におけるω−ヒドロキシ−α−オレフィン単位の含有率は0.5〜10モル%であることが好ましい。ω−ヒドロキシ−α−オレフィン単位の含有率が10モル%を超えるとPVA系重合体組成物を溶融紡糸または溶融成形して得られる繊維または成形品の強度や靭性が低下したものになり易く、一方0.5モル%未満であるとPVA系重合体(酢酸ビニル/ω−ヒドロキシ−α−オレフィン共重合体ケン化物)中にω−ヒドロキシ−α−オレフィン単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。ω−ヒドロキシ−α−オレフィン単位を有するPVA系重合体は、熱安定性に優れ、しかも該単位による変性度が高い場合でも、水溶性や水分散性に優れるPVA系重合体を提供する。
【0021】
また、上記において、酢酸ビニルと共重合する長鎖ビニルエーテルとしては、例えば、ブチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテルなどのアルキル基の炭素数が4〜12であるアルキルビニルエーテルが好ましく用いられる。酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル共重合体ケン化物(PVA系重合体)におけるアルキルビニルエーテル単位の含有率は0.5〜10モル%であることが好ましい。アルキルビニルエーテル単位の含有率が10モル%を超える酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル共重合体は合成が実際上困難であり、使用できない。一方、アルキルビニルエーテル単位の含有率が0.5モル%未満であるとPVA系重合体(酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル共重合体ケン化物)中にアルキルビニルエーテル単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。
【0022】
上記において、酢酸ビニルと共重合するポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体としては、例えば、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルを挙げることができる。ポリオキシアルキレン部分の繰り返し単位数(オキシアルキレン単位の結合数)は、3〜50、特に5〜20であることが好ましい。酢酸ビニル/ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体共重合体ケン化物(PVA系重合体)におけるポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体単位の含有率は0.5〜10モル%、特に0.5〜5モル%であることが好ましい。ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体単位の含有率が10モル%を超えると、得られる繊維または成形品の強度が低下し、水溶性も低下する。一方0.5モル%未満であるとPVA系重合体中にポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。
ポリオキシアルキレン基を有するPVA系重合体は、酢酸ビニルとポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体を共重合した後にケン化する方法や、酢酸ビニルを重合してポリ酢酸ビニルを製造し、それをポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体で変性した後にケン化する方法などにより製造することができる。
【0023】
また、上記において、酢酸ビニルと共重合する飽和分岐脂肪酸ビニルとしては、バーサチック酸ビニルなどの炭素数6〜16の飽和分岐脂肪酸のビニルエステルが挙げられる。その用いる飽和分岐脂肪酸ビニルは、酢酸ビニルと共重合した後のケン化時にケン化されないものであることが必要である。酢酸ビニル/飽和分岐脂肪酸ビニル共重合体ケン化物(PVA系重合体)における飽和分岐脂肪酸ビニル単位の含有率は0.5〜10モル%、特に0.5〜5モル%であることが好ましい。飽和分岐脂肪酸ビニル単位の含有率が10モル%を超えると、得られる繊維または成形品の強度が低下し、水溶性も低下する。一方0.5モル%未満であるとPVA系重合体中に飽和分岐脂肪酸ビニル単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。
【0024】
上記において、酢酸ビニルと共重合する不飽和スルホン酸塩としては、例えば、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩、アクリアミド−1−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩、メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸などのオレフィンスルホン酸の金属塩などを挙げることができる。そのうちでも、酢酸ビニルとの共重合反応性に優れ、ケン化処理時の安定性に優れる点から、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸のアルカリ金属塩が好ましい。酢酸ビニル/不飽和スルホン酸塩共重合体ケン化物(PVA系重合体)における不飽和スルホン酸塩単位の含有率は0.2〜20モル%、特に0.5〜10モル%であることが好ましい。不飽和スルホン酸塩単位の含有量が20モル%を超えると、溶融成形時の熱安定性が低下する。一方0.2モル%未満であるとPVA系重合体中に不飽和スルホン塩単位を含有させたことによる特性が発揮されにくくなる。
【0025】
本発明の熱溶融性のPVA系重合体組成物は、上記したPVA系重合体の1種または2種以上を含有することができる。
また、本発明の組成物で用いるPVA系重合体のケン化度は特に制限されず、溶融紡糸が可能であるか、または溶融成形が可能であるようなケン化度であればいずれでもよい。そのうちでも、強度および靭性に優れ、しかも腰のある繊維や成形品が得られる点から、PVA系重合体のケン化度は通常40〜100モル%であることが好ましく、60〜100モル%であることがより好ましい。特に、酢酸ビニルと上記した不飽和単量体との共重合体ケン化物では、酢酸ビニル部分のケン化度が80〜100モル%、特に90〜100モル%であることが好ましい。
【0026】
本発明の熱溶融性PVA系重合体組成物で用いる、多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)は、3価以上の多価アルコール1モル当たり、アルキレンオキシドが平均して1〜4モル付加した化合物である。多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)におけるアルキレンオキシドの平均付加モル数が4モルを超えると、多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)とPVA系重合体との相溶性が悪化してその可塑化作用が低下するため、溶融紡糸や溶融成形に適する溶融粘度が得られにくくなる。
本発明では、多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)として、3価以上の多価アルコール1モルに対してアルキレンオキシドが1モル、2モル、3モルまたは4モルの割合で付加した付加化合物のそれぞれを単独で使用してもよいし、または前記した付加化合物の2種以上の混合物を使用してもよい。さらに、場合によっては、多価アルコール1モルにアルキレンオキシドが1〜4モルの割合で付加した付加化合物の少なくとも1種と、多価アルコール1モルにアルキレンオキシドが5モルまたはそれ以上の割合で付加した付加化合物との混合物であって、多価アルコール1モルに対するアルキレンオキシドの付加モル数の平均が1〜4モルの範囲内である混合物を用いてもよい。但し、アルキレンオキシドの付加モル数が5モル以上である多価アルコールアルキレンオキシド付加物の割合が50重量%以上になると、PVA系重合体に対する可塑化作用が低下するので好ましくない。
【0027】
本発明の熱溶融性PVA系重合体組成物は、PVA系重合体100重量部に対して、多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)を3〜20重量部の割合で含有しており、該付加化合物(b)を5〜15重量部の割合で含有することが好ましい。PVA系重合体100重量部に対して多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)の含有割合が3重量部未満であると、組成物の溶融粘度が高くなり、また熱安定性が低下するため、長時間安定して溶融紡糸や溶融成形を行うことが困難になり、しかも得られるPVA系重合体繊維や成形品の強度、靭性、低温での耐衝撃性などが低下する。一方、PVA系重合体100重量部に対して多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)の含有割合が20重量部を超えると、得られる繊維や成形品の強度や高度が低下し、腰や形態の安定性に欠け、またブロッキング(粘着)などの問題も生じ、好ましくない。
【0030】
本発明のPVA系重合体組成物の調製方法は特に制限されず、PVA系重合体、多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)および必要に応じて他の成分を均一に混合し得るものであればいずれの方法で調製してもよい。本発明の熱溶融性PVA系重合体組成物は、例えば、PVA系重合体と多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)をブレンドした後に溶融混練してペレット化する方法、溶融混練機にPVA系重合体と多価アルコールアルキレンオキシド付加化合物(b)を別々に一定割合で仕込みながら混練、ペレット化する方法などにより調製することができる。
【0031】
本発明のPVA系重合体組成物は、単独で用いて溶融紡糸または溶融成形しても、または例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリスチレンなどの他の汎用樹脂とブレンドしたり、複合紡糸したり、積層したりして用いることができる。そのようにして得られる繊維や成形品は、疎水性樹脂への親水性の付与や水に対する濡れ性の改良ができ、また紡糸または成形後にPVA系重合体を水で溶解除去することによって、多孔質や中空の繊維や成形品を得ることもできる。
【0032】
本発明のPVA系重合体組成物を用いて溶融紡糸を行うに当たっては、熱可塑性重合体を用いて溶融紡糸を行う従来既知の方法に準じて行うことができる。一般的には、本発明の熱溶融性PVA系重合体組成物を融点〜融点+80℃に加熱して、紡糸口金から紡出することによりPVA系重合体繊維(フィラメント繊維)を得ることができる。その際の紡糸速度も特に制限されないが、一般的には500〜7000m/分の紡糸速度が好ましく採用される。紡糸されたPVA系重合体繊維は、巻き取る前に延伸処理するかまたは巻き取った後に巻き戻しながら延伸処理することによって、強度に一層優れるPVA系重合体繊維を得ることができる。延伸処理条件としては、一般に破断伸度(HDmax)×0.55〜破断伸度(HDmax)×0.9倍で延伸するのが好ましい。
これにより得られるPVA系重合体繊維は、そのままフィラメント繊維(フィラメント糸)として織編物などの製造に用いても良いし、または短繊維状に切断して不織布、紡績糸、紡績織編物の製造などに用いてもよい。本発明のPVA系重合体繊維は一般に水溶性であり、そのため、それから得られた織編物、不織布、糸などはその用が済んだ後は、水に溶かして処分することができる。
【0033】
本発明のPVA系重合体組成物を用いて溶融成形を行うに当たっては、その溶融成形法に特に制限はなく、例えば、Tダイ押出成形法、インフレーション押出成形法、ダイレクトブロー成形法、中空成形法、射出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法をはじめとして任意の成形法を採用して、フィルム、シート、板状体、中空成形品、その他の成形品を製造することができる。また、本発明のPVA系重合体組成物と他の熱可塑性重合体を共押出成形したり、紙、フィルム、シート、板、布帛などの他の素材の上に溶融押出してラミネート加工を行ってもよい。
溶融成形時の条件は特に制限されず、成形方法、目的とする成形品の種類などに応じて適当な条件を採用することができる。一般に、本発明のPVA系重合体組成物は、融点〜融点+80℃に加熱することにより円滑に成形することができる。
【0034】
【実施例】
以下に実施例などにより本発明について更に詳細に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されるものではない。以下の例において、特に断らない限りは、%は重量%を、部は重量部を示す。
以下において、溶融紡糸時の紡糸性の評価、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの発生数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率の測定並びに外観の評価は次のようにして行った。
【0035】
(1)溶融紡糸時の紡糸性の評価:
下記の表1に示す評価基準にしたがって紡糸性の評価を行った。
【0036】
【表1】
【0037】
(2)フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価:
フィルム成形時に、可塑剤の揮発による白煙の発生がほとんどない場合を良好(○)、可塑剤の揮発による白煙の発生が激しい場合を不良(×)として評価した。
【0038】
(3)フィルム成形時のトルクの測定:
フィルム成形の開始時および成形開始から24時間後の時点でのトルク[押出機のモーターに流れる電流(A)]を測定した。
【0039】
(4)フィルムにおけるブツの発生数の測定:
フィルム成形の開始時および成形開始から24時間後の時点において、押し出されたフィルムから10cm×10cmの試験片を採取し、該試験片におけるブツの数を目視により数えた。
【0040】
(5)フィルムの可塑剤含量の測定:
成形開始から24時間後に得られたフィルムから10cm×10cmの試験片を採取し、該試験片を採取した直後、および該試験片を温度25℃、湿度40%RHの条件下に2週間放置した時の可塑剤含量を測定した。可塑剤含量は、試験片を50℃の減圧乾燥機で5時間乾燥して含有水分を除いた後、メタノールでソックスレー抽出を行い、重量変化から求めた。
【0041】
(6)フィルムの衝撃強度の測定:
成形開始から24時間後に得られたフィルムから試験片を採取し、該試験片を採取した直後、および該試験片を温度25℃、湿度40%RHの条件下に2週間放置した時の衝撃強度をフィルムインパクトテスターを用いて5℃の温度で測定した。
【0042】
(7)フィルムの含水率の測定:
成形開始から24時間後に得られたフィルムから10cm×10cmの試験片を採取し、該試験片を採取した直後、および該試験片を温度25℃、湿度40%RHの条件下に2週間放置した時の含水率を測定した。
【0043】
(8)フィルムの外観の評価:
成形により得られたフィルムを目視により観察し、肌荒れがなく平滑な表面を有している場合を良好(○)、肌荒れがやや生じている場合をやや不良(△)、肌荒れが大きくざらついている場合を不良(×)として評価した。
【0044】
《実施例1》
(1) 酢酸ビニルとエチレンを常法により共重合して得られたエチレン単位の含有率が8モル%である酢酸ビニル/エチレン共重合体を常法によりケン化して、粘度平均重合度480、酢酸ビニル単位におけるケン化度98%のエチレン単位含有変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られたエチレン単位含有変性PVA100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド1モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、2軸押出機(東洋精機株式会社製「ラボプラストミル」;20mmφ,L/D=28、回転数100rpm、モーター200V)を用いて220℃で溶融混練してストランド状に押し出した後、切断して、エチレン単位含有変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/1)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを溶融紡糸装置に供給して、孔径0.25mmの紡糸孔を24個有する紡糸口金から、紡糸温度220℃、紡糸速度800m/分の条件下に溶融紡糸した後、ホットローラ(温度75℃)およびホットプレート(温度170℃)を用いて2倍に延伸してエチレン単位含有量変性PVA繊維(フィラメント)を製造した。この溶融紡糸試験は6時間継続して行った。
(4) 上記(3)の6時間の溶融紡糸試験中、以下の表2に示すように、可塑剤の揮発による白煙の発生がなく、断糸がなく、均一な円形断面を有する75d/24f[(75mg/450m)/24f]の繊維(フィラメント)が良好な紡糸性で得られた。
【0045】
《実施例2》
可塑剤として、グリセリン1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物5部を用いた外は実施例1と同様にしてPVA系重合体組成物(ペレット)を製造し、それを用いて溶融紡糸および延伸処理を行った。その結果、6時間の溶融紡糸試験中、以下の表2に示すように、可塑剤の揮発による白煙の発生がなく、断糸がなく、均一な円形断面を有する75d/24f[(75mg/450m)/24f]の繊維が良好な紡糸性で得られた。
【0046】
《実施例3》
(1) 酢酸ビニルとエチルビニルエーテルを常法により共重合して得られたエチルビニルエーテル単位の含有率が2モル%である酢酸ビニル/エチルビニルエーテル共重合体を常法によりケン化して、粘度平均重合度280、酢酸ビニル単位におけるケン化度94%のエチルビニルエーテル単位含有変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られたエチルビニルエーテル単位含有変性PVA100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物からなる可塑剤10部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、200℃で溶融混練し、ストランド状に押し出し切断して、エチルビニルエーテル単位含有変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/2)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを溶融紡糸装置に供給して、孔径0.25mmの紡糸孔を24個有する紡糸口金から、紡糸温度200℃、紡糸速度800m/分の条件下に溶融紡糸した後、ホットローラ(温度75℃)およびホットプレート(温度150℃)を用いて2倍に延伸してエチルビニルエーテル単位含有変性PVA繊維(フィラメント)を製造した。この溶融紡糸試験は6時間継続して行った。
(4) 上記(3)の6時間の溶融紡糸試験中、以下の表2に示すように、可塑剤の揮発による白煙の発生がなく、断糸が生じず、均一な円形断面を有する75d/24f[(75mg/450m)/24f]の繊維が良好な紡糸性で得られた。
【0047】
《比較例1》
可塑剤として、ポリエチレングリコール(PEG#400;平均分子量400)5部を用いた外は実施例1と同様にしてPVA系重合体組成物(ペレット)を製造し、それを用いて溶融紡糸および延伸処理を行って、75d/24f[(75mg/450m)/24f]の繊維を製造した。6時間の溶融紡糸試験中、以下の表2に示すように、可塑剤の揮発による白煙が常に発生し、紡糸性が十分に良好ではなかった。
【0048】
《比較例2》
(1) 可塑剤を含有しない、実施例1で用いたのと同じエチレン単位含有変性PVA(粘度平均重合度480、酢酸ビニル単位におけるケン化度98%)のみからなるペレットを溶融紡糸装置に供給して、孔径0.25mmの紡糸孔を24個有する紡糸口金から、紡糸温度240℃、紡糸速度800m/分の条件下に溶融紡糸した後、ホットローラ(温度75℃)およびホットプレート(温度180℃)を用いて2倍に延伸してエチレン単位含有量変性PVA繊維(フィラメント)を製造した。この溶融紡糸試験を6時間行った。
(2) 上記(1)の6時間の溶融紡糸試験中、以下の表2に示すように、ブツの発生による断糸が多発し、溶融紡糸を連続して円滑に行うことができなかった。
【0049】
《比較例3》
(1) 酢酸ビニルとエチレンを常法により共重合して得られたエチレン単位の含有率が8モル%である酢酸ビニル/エチレン共重合体を常法によりケン化して、粘度平均重合度750、酢酸ビニル単位におけるケン化度97%のエチレン単位含有変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られたエチレン単位含有変性PVA100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物からなる可塑剤10部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、240℃で溶融混練し、ストランド状に押し出し切断して、エチレン単位含有変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/2)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを溶融紡糸装置に供給して、孔径0.25mmの紡糸孔を24個有する紡糸口金から、紡糸温度240℃の条件下に溶融紡糸したところ、下記の表2に示すように、溶融粘度が高すぎて紡糸口金からポリマーを十分に紡出させることができず巻き取りが困難であり、繊維を円滑に製造することができなかった。
【0050】
【表2】
【0051】
上記の表2の結果から、粘度平均重合度が200〜500の範囲のPVA系重合体100部に対して、3価以上の多価アルコール1モルに対するアルキレンオキシドの平均付加モル数が1〜4モルの範囲にある多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)を3〜20部の割合で含有するPVA系重合体組成物を用いて溶融紡糸を行った実施例1〜3では、溶融紡糸時に可塑剤の揮発がなく、しかも24時間後も溶融物の粘度が低くて溶融紡糸が円滑に行われること、しかもブツによる断糸の発生や紡糸口金からの紡出困難などがなく、PVA系重合体繊維を長時間連続して円滑に製造できたことがわかる。
一方、上記の表2の結果から、粘度平均重合度が200〜500の範囲のPVA系重合体を用いた場合であっても可塑剤を含有しないPVA系重合体を用いた場合(比較例2)または3価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物(b)以外の可塑剤を含有するPVA系重合体組成物を用いた場合(比較例1)、或いは粘度平均重合度が500を超えるPVA系重合体の組成物を用いた場合(比較例3)には、溶融紡糸時に可塑剤の揮発が激しいか(比較例1)、ブツによる断糸が多発するか(比較例2)、またはPVA系重合体組成物の溶融粘度が高すぎて紡糸口金からの紡出が困難である(比較例3)ことがわかる。
【0052】
《実施例4》
(1) 粘度平均重合度450およびケン化度80%の部分ケン化PVA粉末100部と、グリセリン1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、200℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、部分ケン化PVAとグリセリン・エチレンオキシド(1/2)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られたペレットをTダイを備えた単軸式押出成形機(25mmφ、L/D=28、回転数20rpm、Tダイ有効幅=300mm、リップクリアランス=0.2mm)に供給して、押出温度200℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0053】
《実施例5》
(1) 実施例1で使用したのと同じエチレン単位含有変性PVA(粘度平均重合度480、酢酸ビニル単位におけるケン化度98%)100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド1モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、220℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、エチレン単位含有変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/1)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度220℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0054】
《実施例6》
(1) 酢酸ビニルと7−ヒドロキシ−1−オクテンを常法により共重合した後、常法によりケン化して、7−ヒドロキシ−1−オクテン単位の含有率4.5モル%、酢酸ビニル単位のケン化度98%、粘度平均重合度400の変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られた変性PVA100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、230℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/2)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度230℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0055】
《実施例7》
(1) 酢酸ビニルとオクチルビニルエーテルを常法により共重合した後、常法によりケン化して、オクチルビニルエーテル単位の含有率2モル%、酢酸ビニル単位のケン化度94%、粘度平均重合度430の変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られた変性PVA100部と、ペンタエリスリトール1モルにエチレンオキシド3モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、210℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、変性PVAとペンタエリスリトール・エチレンオキシド(1/3)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度210℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0056】
《実施例8》
(1) 酢酸ビニルとポリオキシエチレンアリルエーテル(エチレンオキシド単位数10)を常法により共重合した後、常法によりケン化して、ポリオキシエチレンアリルエーテル単位の含有率1.8モル%、酢酸ビニル単位のケン化度95%、粘度平均重合度400の変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られた変性PVA100部と、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物からなる可塑剤5部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、230℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、変性PVAとソルビトール・エチレンオキシド(1/2)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度230℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0057】
《実施例9》
(1) 酢酸ビニル、バーサチック酸ビニルおよびアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムを常法により共重合した後、常法によりケン化して、バーサチック酸ビニル単位の含有率3モル%、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム単位の含有率1モル%、酢酸ビニル単位のケン化度90%、粘度平均重合度450の変性PVAを製造した。
(2) 上記(1)で得られた変性PVA100部と、グリセリン1モルにエチレンオキシド2モルとプロピレンオキシド1モルが付加した化合物からなる可塑剤10部をプラネタリーミキサーを用いて混合した後、実施例1の(2)で用いたのと同じ2軸押出機を使用して、210℃で溶融混練後にストランド状に押し出した後、切断して、変性PVAとグリセリン・エチレンオキシド・プロピレンオキシド(1/2/1)付加物を含有する組成物のペレットを製造した。
(3) 上記(2)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度210℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0058】
《比較例4》
(1) 可塑剤として、グリセリン1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物の代わりに、グリセリン5部を用いた外は実施例4と同様にして200℃で溶融押出してPVA系重合体組成物(ペレット)を製造した。
(2) 上記(1)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度200℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0059】
《比較例5》
可塑剤を使用せずに、実施例4で用いたのと同じPVA系重合体のみを用いて実施例4と同様にして200℃で溶融押出してペレットを製造し、そのペレットを実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度200℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0060】
《比較例6》
(1) 可塑剤として、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物の代わりに、ポリエチレングリコール(PEG#400;平均分子量400)5部を用いた外は実施例6と同様にして230℃で溶融押出してPVA系重合体組成物(ペレット)を製造した。
(2) 上記(1)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度230℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0061】
《比較例7》
(1) 可塑剤として、ソルビトール1モルにエチレンオキシド2モルを付加した化合物の代わりに、ソルビトール5部を用いた外は実施例6と同様にして230℃で溶融押出してPVA系重合体組成物(ペレット)を製造した。
(2) 上記(1)で得られたペレットを、実施例4で使用したのと同じTダイを備えた単軸式押出成形機に供給して、押出温度230℃、吐出量1.5kg/hで溶融押出成形し、フィルムの引き取り速度を調整して厚さ40μmのフィルムを製造した。フィルムの押出成形を24時間連続して行い、フィルム成形時の可塑剤の揮発性の評価、フィルム成形時のトルク、成形により得られたフィルムにおけるブツの数、可塑剤含量、衝撃強度および含水率並びに外観の評価を上記した方法で測定または評価したところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
上記の表3の結果から明らかなように、粘度平均重合度が200〜500の範囲のPVA系重合体100部に対して、3価以上の多価アルコール1モルに対するアルキレンオキシドの平均付加モル数が1〜4モルの範囲にある多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)を3〜20部の範囲の量で含有する実施例4〜9のPVA系重合体組成物を溶融押出成形した場合には、成形時に可塑剤の揮発がなく、しかも押出成形開始後24時間経過した時点でも溶融物のトルクが低くて押出成形が円滑に行われること、得られたフィルムではブツの数が少なく、表面が平滑で外観に優れること、しかもフィルムを2週間放置した後でも、可塑剤の残存率が高く、フィルムが高い衝撃強度を保持している。
これに対して、上記の表4の結果から明らかなように、粘度平均重合度が200〜500の範囲のPVA系重合体を用いた場合であっても可塑剤を含有しないPVA系重合体を用いた比較例5のPVA系重合体組成物または3価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物(b)以外の可塑剤を含有する比較例4および比較例6〜7のPVA系重合体組成物を用いて溶融押出成形した場合に、成形時に可塑剤の揮発が激しいか(比較例4)、溶融成形開始から24時間経過した時点では溶融物のトルクが高くなって押出成形性が低下(比較例6および比較例7)すること、しかも得られたフィルムではブツの数が多く、表面に肌荒れがあり外観に劣っていること(比較例4〜7)、フィルムの放置前および/または2週間放置した時点での可塑剤の残存率が低く、フィルムの衝撃強度が低い(比較例4〜7)ことがわかる。
【0065】
【発明の効果】
粘度平均重合度が200〜500のPVA系重合体と3価以上の多価アルコール1モルにアルキレンオキシドが平均で1〜4モルの割合で付加した多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)を含有する本発明のPVA系重合体組成物は、加熱により溶融紡糸に適した溶融粘度を有し、しかも溶融物は熱安定性に優れ且つ可塑剤として添加した多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)の揮散がないため、長時間紡糸を継続しても増粘(トルクの上昇)やゲルの発生および可塑剤の揮発を生ずることなく、紡糸口金からの紡出不能や断糸などのトラブルなどを生じずに、強度や柔軟性に優れるPVA系重合体繊維を、連続運転により生産性よく製造することができる。しかも、それにより得られたPVA系重合体繊維では多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)の移行がないために、粘着の発生がなく、また多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)の揮散による繊維の剛直化を生じない。本発明により得られるPVA系重合体繊維は、一般に水溶性または水分散性であるため、用が済んだ後に水に溶解したり分散したりして処理または除去することができる。
【0066】
さらに、本発明のPVA系重合体組成物を用いて、溶融成形によってフィルム、シート、その他の成形品を製造する場合は、成形時に溶融物の増粘(トルクの増加)や可塑剤の揮散を生じずに、フィッシュアイ(ブツ)やゲルの発生がなくて平滑な表面を有し外観的に優れ、強靭性、耐衝撃性などの物性に優れ、しかも可塑剤の移行がなくてブロックキングなどの問題を生じない高品質の成形品を生産性良く製造することができる。また、本発明のPVA系重合体組成物を用いて得られる成形品は、一般に水に溶解または分散可能であるため、用が済んだ後に水に溶解したり分散したりして処理または除去することができ、さらには中空物を製造する際の水溶性中子などとしても有用に用いることができる。
【0067】
本発明で用いる多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)は、PVA系重合体に対して優れた可塑化性能を有し、粘度平均重合度が200〜500のPVA系重合体の融点を低下させてその溶融粘度を溶融紡糸に適した粘度にすることができ、特に従来溶融紡糸が困難であった高ケン化度のPVA系重合体の溶融紡糸をも可能にする。しかも、本発明で用いる多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)は、常温において液状を呈し、粘度平均重合度が200〜500のPVA系重合体に対して優れた相溶性を有し、可塑剤の表面への移行のない、均一なPVA系重合体組成物を形成する。
Claims (5)
- 〈I〉 粘度平均重合度が200〜500のポリビニルアルコール系重合体(a)、および3価以上の多価アルコールのアルキレンオキシド付加物であって該多価アルコール1モルに対するアルキレンオキシドの平均付加モル数が1〜4モルである多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)のみからなる熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物であって;
〈II〉 ポリビニルアルコール系重合体(a)が、ポリ酢酸ビニルの単独重合体のケン化物、並びに酢酸ビニルとα−オレフィン、ω−ヒドロキシ−α−オレフィン、エチルビニルエーテル、長鎖ビニルエーテル、ポリオキシアルキレン基含有不飽和単量体、飽和分岐脂肪酸ビニルおよび不飽和スルホン酸塩から選ばれる1種以上の不飽和単量体との共重合体のケン化物から選ばれる少なくとも1種の重合体であり;且つ、
〈III〉 ポリビニルアルコール系重合体(a)100重量部に対する多価アルコールアルキレンオキシド付加物(b)の含有量が3〜10重量部である;
ことを特徴とする熱溶融性のポリビニルアルコール系重合体組成物。 - 溶融紡糸用である請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体組成物。
- 請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系重合体組成物を用いて溶融紡糸を行ってポリビニルアルコール系重合体繊維を製造する方法。
- 請求項3の方法により得られるポリビニルアルコール系重合体繊維。
- 溶融成形用である請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体組成物。
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