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JP4592173B2 - 耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体 - Google Patents

耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体 Download PDF

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JP4592173B2 JP2000329984A JP2000329984A JP4592173B2 JP 4592173 B2 JP4592173 B2 JP 4592173B2 JP 2000329984 A JP2000329984 A JP 2000329984A JP 2000329984 A JP2000329984 A JP 2000329984A JP 4592173 B2 JP4592173 B2 JP 4592173B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼よりなる板、形鋼、鋼管などの建築用鋼材を溶接で組み立てた、耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
火災時の建築物の倒壊や変形を防止する要請から、建築構造用鋼材には高温強度が必要とされる。一般構造用炭素鋼では300℃以上の高温に曝されると急激に強度が低下するため、鋼材表面への重度の耐火被覆施工などが必要とされてきたが、耐火被覆施工には建設コスト増大などの問題があるため、従来より耐火被覆を必要としないか、必要としても軽度の施工で済む耐火性に優れた鋼材が要求されてきており、これに対して600℃での降伏強度が常温降伏強度規格値の2/3以上を保証し、常温の引張強度が490Mpa あるいは570Mpa 級の、特開平2−77523号公報に開示されたような低合金鋼鋼材が実用化されてきている。
【0003】
高温強度の観点からすれば、この低合金系耐火鋼で所望の耐火性能は得られるが、低合金系であるため防錆性、耐食性が不十分で裸使用は困難であり、防錆塗装が必須となっている。すなわち、耐火被覆は省略できても防錆塗装は省略できず、このため施工コストが嵩んでいる。
【0004】
無塗装で建築構造に適用できる可能性のある鋼材としては、各種ステンレス鋼が想定されるが、実際に柱や梁などの建築構造に使用されている鋼材としては、意匠性などが重視される極く限られた用途でのオーステナイト系ステンレス鋼 (例えばSUS304)を除けば殆ど見られない。その最大の理由は、構造物に必須となる強度、靭性と溶接性をバランス良く満たす鋼種がなかったためであるが、最近では特開平11−323507号公報に開示されたように、溶接性に有害なCを低減してNiを添加したマルテンサイト系ステンレス鋼を建築構造用材料に展開する技術が提唱されてきている。しかしながら、前述の耐火性の要請に対して十分応えられる技術には至っていない。
【0005】
また、建築用途以外の分野では、例えばラインパイプにおいて、特開平9−316611号公報に開示されたように、溶接性、耐食性に優れ、パイプラインとして十分な高温強度を有するマルテンサイト系ステンレス鋼材が提案されてきている。しかしながら、パイプラインで定義される高温とは100ないし150℃程度であり、建築用耐火鋼材で規定される600℃に比べると遥かに低い。
したがって、無塗装で建築構造に適用可能な低C系マルテンサイト系ステンレス鋼において、常温での強度・靭性は無論のこと、600℃の高温条件で十分な強度が得られる鋼材は未だ提示されていない状況にある。
【0006】
さらに、構造物として完成された場合、母材のみならず溶接部での高温強度が問題であり、特に溶接金属部が重要となる。図1に示す溶接構造部の断面において、溶接金属は溶接材料と母材の一部が溶け込んで構成されるものであり、自ずと母材と異なる成分組成となる。母材の高温強度が十分でも溶接金属で不十分であれば、構造物全体としては十分な高温強度が得られない。そして、従来のJIS Z3321などに記載されているステンレス用溶接材料を用いた場合には、溶接金属部で十分な高温強度が得られないという問題がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題を克服するものであり、特に溶接部において600℃での耐力が常温での耐力規格最小値の2/3以上を保証するマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、先ずマルテンサイト系ステンレス鋼母材の強度、靭性、耐食性、高温耐力からみた成分設計を行い、次に種々の溶接材料を用いた溶接試験を重ねて溶接部の高温耐力を評価してきた。
その結果、母材と同等の高温耐力を得るための溶接金属の成分条件を解明した。本発明は、上記の知見に基づいて構築したものであり、その要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)質量%で、
C :0.005〜0.1%、 Si:0.50%以下、
Mn:1.5%以下、 Cr:10.0〜15.0%、
Ni:0.5〜6.0%、 Mo:0.3〜3.0%
N :0.03%以下、 Al:0.15%以下、
Ti:0.003〜0.050%
を含有し、NiとMoの含有量が下記(1)式の関係を満たして、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、600℃における耐力が常温での耐力に対して2/3以上であるマルテンサイト系ステンレス鋼母材と、前記母材と同一範囲内の成分を含有し、なおかつ下記(2)および(3)式で定義するB値、C値がそれぞれ14.0以上17.0以下、−11.8以上の範囲にある溶接金属とを有することを特徴とする耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。
A=[Mo]−4.41[Ni]+22.94≧0 ……(1)
B=[Ni]+0.5[Mn]+30[C]+0.8[Cr]+0.8[Mo]+1.2[Si] ……(2)
C=[Ni]+0.5[Mn]+30[C]−1.1[Cr]−1.1[Mo]−1.6[Si] ……(3)
【0010】
(2)更に、質量%で
P≦0.030%、 S≦0.0050%
および必要に応じ、
Cu:3.0%以下、 W:1.0%以下、
Sn:1.0%以下、 Nb:0.05%以下、
V :0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)記載の耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。

(3)更に、質量%で、
P≦0.030%、 S≦0.0050%、
および
Ca:0.0005〜0.005%、B:0.0005〜0.0050%の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)または(2)のいずれかに記載の耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
先ず、本発明における母材の成分の限定理由について述べる。
C:Cは、Moと同様に高温強度を確保するために必要な元素であり、0.005%未満の含有量では600℃における高温耐力が不十分となる。しかしながら、含有させ過ぎると溶接熱影響部の靭性が劣化する。このため、両者のバランスから最適範囲を0.005%〜0.1%とした。
【0012】
Si:Siは、精錬工程での脱酸のために添加されて残留しているもので、溶接熱影響部での靭性に有害なフェライト相を形成する元素であるため、脱酸に必要とされる最小限の含有量とすべきであり、0.5%以下を適正範囲とした。
【0013】
Mn:Mnは母材の成形過程において重視される熱間加工性に有害なSを硫化物として固定して無害化する元素であると共に、オーステナイト安定化元素でもあり、熱影響部靭性に有害なフェライトの形成を抑制する作用を有するため含有させるが、含有し過ぎてもその効果は飽和するため、上限を1.5%とした。
【0014】
Cr:Crは耐食性の確保に必須の元素であり、10.0%以上の含有が必要であるが、反面フェライト安定化元素でもあり、含有量が多いと溶接熱影響部靭性を劣化させるフェライト相が形成され易くなるため、15.0%を上限とした。
【0015】
Ni:Niは耐食性改善に有効な元素であり、かつオーステナイトを安定化させフェライト生成を防止する効果をもつ元素である。このため、0.5%を下限として含有させる。しかしながら、多量に含有させると600℃における高温耐力が低下するため、その上限を6.0%とした。なおNiの含有量は、後述のMo含有量との関係で最適化される。
【0016】
Mo:MoはCrと同様、耐食性に有効な元素であると共に、高温耐力を維持する上で必要かつ不可欠の元素である。このため、0.3%を下限として含有させるが、フェライト形成能の強い元素であるため、溶接部靭性にも配慮して含有量上限を3.0%とした。
【0017】
N:Nは、溶接熱影響部の硬さを上昇させ、靭性を低下させる元素であり、Cのように高温強度を改善する効果を有さない。このため0.03%を上限として規制した。
【0018】
Al:AlはSiと同様、脱酸に必要な元素であると共に、脱硫を促進して前記のS含有量を安定的に確保するために含有させるが、過度に含有させると酸化物系介在物が多くなることに加えて窒化物も生成されるようになり、靭性が低下する。このため含有量の上限を0.15%とした。
【0019】
Ti:Tiは、酸化物または窒化物として存在し溶接熱影響部の粒成長を抑止して靭性を改善する効果を有する。またMnと同様、熱間加工性に有害なSを硫化物として固定して無害化する効果も有する。このため、0.003%を下限として含有させるが、過剰に含有させると粗大窒化物が現われて熱間加工性が低下すると共に、炭化物が形成されて靭性劣化をきたすため、上限を0.050%とした。
【0020】
A値(=[Mo]-4.41[Ni]+22.94 ≧0):高温耐力に及ぼすMo,Ni量の影響を図2に示す。これより、本発明のNi含有量で高温耐力の点から、必要となる条件はA≧0となる範囲である。
【0021】
以上の組成をべ一スとして、さらに高温耐力、耐食性、溶接性や靭性、熱間加工性を改善するために、以下に述べる元素の1種以上を選択的に添加することができる。
Cu:CuはNiと同様、耐食性改善に有効な元素であると共に、フェライト生成防止効果を有する元素であるため含有させるが、過剰に含有させると熱間加工性が劣化するので上限を3.0%とした。
【0022】
W:WはMoと同様、高温耐力を向上させるのに有効な元素であるため、Mo含有量が低い場合には補足的に含有させても良いが、高価な元素でもあることから含有量の上限は1.0%とした。
【0023】
Sn:Snは高温耐力を向上させる効果を有するため、Wと同様に、Mo含有量が低い場合には補足的に含有させても良いが、過剰に含有させると熱間加工性や溶接性が劣化するので、上限を1.0%とした。
【0024】
Nb,V:Nb,Vは、いずれも高温耐力を僅かながら改善させる効果を有すると共に溶接熱影響部硬さを低下させるのに有効である。しかしながら、多く含有させても効果は飽和するので、含有量の上限をそれぞれNb:0.05%,V:0.1%とした。
【0025】
Ca:0.0005〜0.005%、B:0.0005〜0.0050%
Ca:Caは、熱間加工性改善に有効な元素であり、必要に応じて0.0005%以上含有させるが、含有量が多すぎると粗大酸化物による靭性劣化を招くため、含有量の上限を0.005%とした。
B:Bも熱間加工性改善に有効な元素であり、0.0005%を下限として含有させるが、0.0050%超えて含有させると溶接割れを起こすため、適正範囲を0.0005〜0.0050%とした。
【0026】
P,S:P,Sは不可避的に含まれる不純物元素であり、高温耐力には直接影響しないが、靭性や熱間加工性に害する作用をもつため可及的に低レベルとするのが望ましい。現在の精錬技術で工業的かつ経済的に到達可能な範囲として、P:0.03%以下、S:0.005%以下が望ましい。
【0027】
次に、溶接金属の成分に関する限定理由について述べる。
以上の組成よりなり600℃での耐力が常温耐力の2/3以上となる母材と成分系が同一条件にあることを前提とした上で、さらに前記(2),(3)式で定義する成分指標B値,C値が所定の範囲にある必要がある。
【0028】
これらB,C値は、溶接金属の高温耐力に影響する金属組織に関連する指標である。当該成分系の溶接金属の金属組織は、マルテンサイト単相、あるいはマルテンサイト+オーステナイトの2相、あるいはマルテンサイト+フェライトの2相、あるいはマルテンサイト+オーステナイト+フェライトの3相のいずれかとなるが、マルテンサイトは高温強度確保には有利であるが靭性が劣り、オーステナイトは靭性に優れるものの高温強度を低下させ、フェライトはマルテンサイトと類似の作用を有する他、溶接金属の割れ防止にも役立つ。したがって、耐火建築構造に適用される溶接金属としては、これら3相が最適条件でバランス良く共存することが必要となる。
【0029】
溶接金属は凝固状態であるから、その金属組織における相分率は概ね成分含有量をもって近似することができるので、その最適条件をB値,C値をもって以下のように決定した。
B値:低すぎるとオーステナイト相が出現せず靭性の低い溶接金属となってしまう。また高すぎるとオーステナイト分率が多くなり過ぎて高温耐力が母材より大幅低下してしまう。このため、適正範囲として14.0から17.0の範囲を設定した。
C値:低すぎるとフェライトが出現せず溶接金属に割れが生じてしまうので、−11.8以上を適正とした。
【0030】
【実施例】
実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
表1に示す組成の鋼を溶製して造塊法にて鋳造した後、該鋳片を1200℃に加熱して板厚10mmの板圧延を施し、室温まで冷却した後、焼戻処理を施して母材とした。この母材に開先加工を行い、表2に示す成分の溶接材料を用いてTIG溶接を行った。この溶接部および母材部を対象として、JIS Z2241に従った常温引張り試験およびJIS G0567に従った600℃での高温引張試験を行った。
【0031】
試験結果を表3に示す。No. 1〜9の本発明では、溶接部において目的とする常温耐力の2/3以上の600℃耐力が得られる。一方、比較例 No.10,11,12は、母材が本発明の成分範囲から外れているため、母材部の耐火特性で溶接部全体の耐火特性が決定されている。比較例 No.13は溶接金属部においてもB値が発明範囲を外れているため、所期の耐火特性は得られない。また、比較例 No.14は、溶接金属部のC値が本発明範囲を外れているため、溶接割れが生じる。
【0032】
【表1】
Figure 0004592173
【0033】
【表2】
Figure 0004592173
【0034】
【表3】
Figure 0004592173
【0035】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によって、母材および溶接金属の成分を最適化することにより、耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】溶接部の断面を示す図である。
【図2】A値と高温耐力/常温耐力比の関係を示す図である。

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C :0.005〜0.1%、 Si:0.50%以下、
    Mn:1.5%以下、 Cr:10.0〜15.0%、
    Ni:0.5〜6.0%、 Mo:0.3〜3.0%
    N :0.03%以下、 Al:0.15%以下、
    Ti:0.003〜0.050%
    を含有し、NiとMoの含有量が下記(1)式の関係を満たして、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、600℃における耐力が常温での耐力に対して2/3以上であるマルテンサイト系ステンレス鋼母材と、前記母材と同一範囲内の成分を含有し、なおかつ下記(2)および(3)式で定義するB値、C値がそれぞれ14.0以上17.0以下、−11.8以上の範囲にある溶接金属とを有することを特徴とする耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。
    A=[Mo]−4.41[Ni]+22.94≧0 ……(1)
    B=[Ni]+0.5[Mn]+30[C]+0.8[Cr]+0.8[Mo]+1.2[Si] ……(2)
    C=[Ni]+0.5[Mn]+30[C]−1.1[Cr]−1.1[Mo]−1.6[Si] ……(3)
  2. 更に、質量%で
    P≦0.030%、 S≦0.0050%
    および
    Cu:3.0%以下、 W:1.0%以下、
    Sn:1.0%以下、 Nb:0.05%以下、
    V :0.1%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。
  3. 更に、質量%で
    P≦0.030% S≦0.0050%
    および
    Ca:0.0005〜0.005%、B:0.0005〜0.0050%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の耐火性に優れたマルテンサイト系ステンレス鋼溶接構造体。
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