以下、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、さらに詳しく説明する。
本発明者らは、懸濁重合法を用いるトナーの製造工程において、重合開始剤として特にパーオキシジカーボネート系重合開始剤を用いた場合、トナーを構成する結着樹脂を容易に低分子量化することができ、このパーオキシジカーボネート系重合開始剤とその他の重合開始剤を併用して重合を行った場合には、前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤に由来する低分子量の重合体成分を保持した状態のまま、これとは別に併用する重合開始剤に由来するより高分子量の重合体成分を結着樹脂中に形成させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、本発明の製造方法の特徴としての懸濁重合法について説明する。
懸濁重合法は、重合性単量体に重合開始剤や、必要に応じて多官能性単量体、連鎖移動剤等を加えた単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させて造粒を行い、これを加熱することによって重合を行う方法である。前記単量体組成物中に、予め着色剤やその他トナー粒子中に内包する必要のある物質を溶解あるいは分散させて重合を行うことにより、重合終了後の重合体粒子をそのままトナー粒子とする、いわゆる懸濁重合法トナーを製造することができる。
本発明に係る懸濁重合法トナーは、以下のように製造される。
まず、トナー組成物、すなわち結着樹脂となる重合性単量体に少なくとも着色剤を加え、ホモジナイザー、ボールミル、コロイドミル、超音波分散機等の分散機を用いてこれらを均一に溶解あるいは分散させた単量体組成物を調製する。このとき、上記単量体組成物中には、必要に応じて多官能性単量体や連鎖移動剤、また、離型剤や荷電制御剤、可塑剤、さらにその他の添加剤、例えば、高分子重合体や分散剤等を適宜加えることができる。
次いで、上記単量体組成物を、予め用意した分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁させて造粒を行う。このとき、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような高速分散機を使用して一気に所望の粒子サイズとすることにより、得られるトナー粒子の粒度分布をシャープ化することができる。
重合開始剤は、少なくともパーオキシジカーボネート系重合開始剤を含む2種類以上の重合開始剤を併用する。これらの重合開始剤は、重合性単量体中に他の添加剤を混合する際に同時に加えてもよく、水系媒体中に懸濁させる直前に混合してもよい。また、造粒中や造粒完了後、すなわち重合反応を開始する直前に、重合性単量体あるいは他の溶媒に溶解した状態で加えることもできる。
その後、得られた懸濁液を、通常の撹拌機を用いて粒子状態が維持され、且つ粒子の浮遊や沈降が生じない程度に撹拌しながら重合反応を行う。重合反応後は、公知の方法によって濾過し、洗浄した後乾燥を行う。こうして本発明の懸濁重合法トナーが得られる。
パーオキシジカーボネート系重合開始剤は下記一般式(1)に示す化学構造を有しており、10時間半減期温度はおおよそ40〜50℃の範囲で、アルキル基(R)の種類に拠らずほぼ一定である。これは、アルキル基(R)に隣接する酸素原子(O)の影響によるものと考えられている。
一般に低分子量の重合体を得ようとする場合、上述したような連鎖移動剤を添加する方法の他、多量の重合開始剤を使用する、あるいは重合温度を高くするといった方法が用いられるが、パーオキシジカーボネート系重合開始剤を用いた場合には、比較的少量で、且つ柔和な重合条件であっても容易に低分子量化することができる。
また、通常、複数の重合開始剤を併用して重合を行った場合には、得られる重合体は各々の重合開始剤を単独で用いたときの分子量分布に対して中間的な分子量分布を示すのが一般的である。ところが、パーオキシジカーボネート系重合開始剤とその他の重合開始剤を併用して重合を行った場合、その作用機構については明らかではないが、得られる重合体は前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤に由来する重合体成分と、併用する他の重合開始剤に由来する重合体成分とによる、複数の分布を持った特異な分子量分布を示すことが明らかになった。
ここで、低分子量の重合体成分は、上述の通りパーオキシジカーボネート系重合開始剤を用いることによって容易に形成させることができる。一方、高分子量の重合体成分を形成させるためには、共存させる重合開始剤は少なくとも前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤よりも高い10時間半減期温度を有しており、且つ、その内の少なくとも1種は10時間半減期温度の差が10〜50℃の範囲であることが好ましい。共存させる重合開始剤の10時間半減期温度が上記範囲よりも低いと、高分子量成分の分子量を十分に高くすることができず、耐高温オフセット性の改善効果が得られなくなる。また、共存させる重合開始剤の10時間半減期温度が上記範囲より高いと、重合開始剤の利用効率が低下して低温定着性または耐高温オフセット性いずれかの改善効果が損なわれ、また、重合反応の完結後に未反応の重合性単量体が重合体粒子中に残留し易くなるといった不具合を生じることがある。
したがって、本発明によれば、少なくともパーオキシジカーボネート系重合開始剤を含む、上述のような2種類以上の重合開始剤の共存下で懸濁重合を行うことにより、互いに分子量分布が異なる低分子量成分と高分子量成分とを含有する重合体粒子を容易に得ることができる。
また、前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤を用いて低分子量の重合体成分を形成させた場合、一般の連鎖移動剤を用いた場合と比べてブロッキングや現像性の低下、感光体固着に影響を及ぼすような、極低分子量のポリマーやオリゴマーの生成が少ない。さらに、こうして形成された低分子量成分と高分子量成分の重合体粒子中における分布状態は極めて均一であり、着色剤や荷電制御剤、ワックス等各種成分の分散性が損なわれることがないため、カブリ等の画像汚れや感光部材等への融着、フィルミング等の不具合が生じることもない。したがって、本発明によれば、長期の使用における耐久性にも優れた重合トナーを得ることができる。
上記重合体粒子の分子量分布は、THF可溶分のGPC測定において、分子量5000〜20000の領域に少なくとも1つのピークまたは肩を有し、且つ、分子量50000〜500000の領域に少なくとも1つのピークまたは肩を有していることが好ましい。すなわち、低分子量成分と高分子量成分の各々の分子量分布を、上記したような範囲に制御することによって、低分子量成分による低温定着性の改善効果と高分子量成分による耐高温オフセット性の改善効果を有効に発現させることができ、本発明の目的である低温定着性と耐高温オフセット性との両立を達成することが可能になる。
また、本発明によれば、前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤と組み合わせる重合開始剤の種類によっては、トナーを構成する結着樹脂中に適度なTHF不溶分を形成させることができる。これは、形成された低分子量成分と高分子量成分とが均一に絡み合うことによって発現されるものと考えられ、これによってトナーの耐高温オフセット性をさらに改善することができる。また、こうして形成されるTHF不溶分は、高分子鎖の末端が化学的な結合を持たない擬似的な架橋構造を有するものであり、この結着樹脂を用いたトナーは上述したフィルム定着方式においてもトナー粒子が加熱によって容易に変形するため、ワックスの染み出しが容易となり、低温定着性が阻害されることはない。また、本発明において、耐高温オフセット性の改善効果をさらに助長させることを目的として、例えば単量体組成物中に多官能性単量体を少量添加するといった方法でTHF不溶分の形成量を増大させることもできる。この場合、THF不溶分の好ましい形成量は樹脂成分100質量部当たり5〜30質量部である。THF不溶分量が5質量部未満になると耐高温オフセット性に対する助長効果が得られず、THF不溶分が30質量部を超えると低温定着性に対する改善効果が著しく損なわれてしまう。
このように、本発明は、特定の構造を有する重合開始剤と他の重合開始剤との併用によって発現される新たな作用効果により、低温定着性と耐高温オフセット性との両立を実現しようとするものであって、単に10時間半減温度の異なる重合開始剤を組み合わせただけでは本発明の目的を達成することは不可であり、また、多官能の重合開始剤と1官能性重合開始剤との併用や、単に連鎖移動剤による分子量調整作用と多官能単量体による架橋反応とのバランス調節によって改善を図ろうとする、従来の技術とは異にするものである。
以上の通りであるから、本発明によれば、良好な低温定着性と耐高温オフセット性とを両立した重合トナーの実現が可能である。
ここで、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)による、分子量分布およびピーク分子量は、以下のようにして測定することができる。
まず、試料トナーをTHFに浸漬し、樹脂成分の濃度が0.05〜0.6質量部となるように抽出を行い、この抽出液を孔径0.5μmの耐溶剤性メンブランフィルターで濾過して試料溶液とする。次いで、カラムを40℃のヒートチャンバー中で安定させ、この温度におけるカラムに、溶媒としてTHFを1ml/minの流速で流し、上記試料溶液を50〜200μl注入して測定する。試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作成された検量線の対数値とカウント数の関係から算出する。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、例えばPressure Chemical Co.製あるいは東ソー製の分子量が6×102、2.1×103、4×103、1.75×104、5.1×104、1.1×105、3.9×105、8.6×105、2×106、4.48×106のものを用い、少なくとも10点程度の標準ポリスチレン試料を用いるのが適当である。また、検出器にはRI(屈折率)検出器を使用する。なお、カラムとしては、103〜2×106の分子量領域を適格に測定するために、市販のポリスチレンゲルカラムを複数組み合わせるのがよく、本発明においては、次の条件で測定される。
GPC測定条件
装置 :HLC−8120GPC(東ソー製)
カラム :KF801,802,803,804,805,806,807
(Shodex製)
カラム温度:40℃
solv.:THF
また、THF不溶分量は、以下のようにして測定することができる。
まず、試料トナーを秤量し、円筒濾紙(例えば、東洋濾紙社製No.86R:サイズ28×100mm)に入れて、これをソックスレー抽出器に挿入する。抽出溶媒としてTHF200mlを用い、THFの抽出サイクルが約4〜5分に1回となるような還流速度で、20時間抽出を行う。抽出終了後、円筒濾紙を取り出して乾燥し、残留するトナー質量を秤量することによってTHF不溶分を算出する。トナー中に樹脂成分以外の磁性体や顔料のような不溶分を含有している場合は、円筒濾紙に入れたトナーの質量をW1とし、抽出されたTHF可溶樹脂成分の質量をW2とし、トナーに含まれている樹脂成分以外のTHF不溶成分の質量をW3としたとき、トナー中の樹脂成分のTHF不溶分は下式(1)を用いて算出する。
式(1)
THF不溶分(質量%)=〔(W1−(W3+W2))/(W1−W3)〕×100
本発明で使用される重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレンなどのスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのメタクリル酸エステル類、その他、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどの単量体が挙げられる。
これらの単量体は、単独もしくは混合して使用することができる。これらの単量体の中でも、スチレンまたはスチレン誘導体を単独で、あるいは他の単量体と混合して使用することが、トナーの現像特性および耐久性の点から好ましい。
本発明で使用されるパーオキシジカーボネート系重合開始剤としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−ブチルパーオキシジカーボネート、ジ−n−ペンチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート、 ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジ(3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
本発明で使用されるパーオキシジカーボネート系重合開始剤と共存させる重合開始剤は特に限定されるものではなく、公知の過酸化物系重合開始剤やアゾ系重合開始剤を用いることができる。
過酸化物系重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド系重合開始剤として、ジイソブチリルパーオキサイド、ジイソノナノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ−m−トルオイルパーオキサイド、ベンゾイル−m−トルオイルパーオキサイドなどが挙げられる。
また、パーオキシエステル系重合開始剤として、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソノナノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−アミルパーオキシネオデカノエート、t−アミルパーオキシピバレート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシアセテート、t−アミルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシベンゾエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサンなどが挙げられる。
その他、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシアリルモノカーボネートなどのパーオキシモノカーボネート系、1,1−ジ−t−ヘキシルパーオキシシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキサン、2,2−ジ−t−ブチルパーオキシブタンなどのパーオキシケタール系、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド系などが挙げられる。
アゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどが例示される。
これらの重合開始剤の中でも、過酸化物系重合開始剤は分解物の残留が少ないため好適である。また、10時間半減期温度は前記パーオキシジカーボネート系重合開始剤よりも高く、且つ、その差が50℃以下のものが好ましい。すなわち、概ね50〜100℃の10時間半減期温度を有するものが好適である。このような条件を満たす重合開始剤としては、ジアシルパーオキサイド系重合開始剤およびパーオキシエステル系重合開始剤を挙げることができ、ジアシルパーオキサイド系重合開始剤が特に好適に用いられる。
また、本発明においては、必要に応じて連鎖移動剤を使用することができる。具体例としては、n−ペンチルメルカプタン、イソペンチルメルカプタン、2−メチルブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘプチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン、n−ペンタデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、t−ヘキサデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタンなどのアルキルメルカプタン類、チオグリコール酸のアルキルエステル類、メルカプトプロピオン酸のアルキルエステル類、クロロホルム、四塩化炭素、臭化エチレン、四臭化炭素などのハロゲン化炭化水素類、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
これらの連鎖移動剤は必ずしも使用する必要はないが、使用する場合の好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.05〜3質量部である。
また、本発明においては、少量の多官能性単量体を併用することができる。多官能性単量体としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレンなどの芳香族ジビニル化合物、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレートなどの二重結合を2個有するカルボン酸エステル、または、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホンなどのジビニル化合物、さらに、3個以上のビニル基を有する化合物が挙げられる。
これらの多官能性単量体を併用する場合の好ましい添加量は、重合性単量体100質量部に対して0.01〜1質量部である。
本発明において使用される分散安定剤としては、公知の界面活性剤や有機分散剤、無機分散剤が使用できる。これら中でも無機分散剤は有害な超微粉が生成しにくく、重合温度を変化させても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナーに悪影響を与えにくいため、好適に使用することができる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛などのリン酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、ベントナイト、アルミナなどの無機酸化物が挙げられる。
これら無機分散剤を用いる場合、そのまま水系媒体中に添加して用いてもよいが、より細かい粒子を得るため、該無機分散剤を生成し得る化合物を用いて水系媒体中にて無機分散剤粒子生成させて用いることもできる。例えば、燐酸カルシウムの場合、高速撹拌下、燐酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性の燐酸カルシウムを生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。この時、同時に水溶性の塩化ナトリウムが副生するが、水系媒体中に水溶性塩が存在すると、重合性単量体の水への溶解が抑制されて、乳化重合による超微粒径トナーが発生しにくくなるので、より好都合である。無機分散剤は、重合終了後に酸あるいはアルカリを加えて溶解することにより、ほぼ完全に取り除くことができる。
また、これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.2〜20質量部を単独で使用することが望ましいが、必要に応じて、0.001〜0.1質量部の界面活性剤を併用してもよい。該界面活性剤としては、例えばドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどが挙げられる。
本発明において使用される着色剤としては、公知のものが使用でき、黒色着色剤としてのカーボンブラック、磁性粉体、また、以下に示すイエロー/マゼンタ/シアン着色剤が挙げられる。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントイエロー12、13、14、15、17、62、74、83、93、94、95、109、110、111、128、129、147、168、180等が好適に用いられる。
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アンスラキノン、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、23、48:2、48:3、48:4、57:1、81:1、122、144、146、166、169、177、184、185、202、206、220、221、254等が好適に用いられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アンスラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物等が用いられる。具体的には、C.I.ピグメントブルー1、7、15、15:1、15:2、15:3、15:4、60、62、66等が好適に用いられる。
これらの着色剤は単独または混合し、更には固溶体の状態で用いることができる。黒色着色剤として磁性粉体を用いた場合、その添加量は重合性単量体100質量部に対して40〜150質量部であることが好ましい。また、カラートナーの場合、色相角、彩度、明度、耐候性、OHP透明性、トナー中への分散性の点から選択され、その好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して1〜20質量部である。
これらの着色剤を懸濁重合法トナーに用いる場合、着色剤の持つ重合阻害性や水相移行性に注意を払う必要があり、必要に応じて表面改質、例えば、重合阻害のない物質による疎水化処理を施すことが好ましい。
特に、染料系の着色剤やカーボンブラックは、重合阻害性を有しているものが多いので、使用の際には注意を要する。染料系の着色剤を表面処理する好ましい方法としては、予めこれら染料の存在下に重合性単量体を重合させる方法が挙げられ、得られた着色重合体を単量体系に添加する。カーボンブラックについては、上記染料と同様の処理の他に、カーボンブラックの表面官能基と反応する物質、例えば、ポリオルガノシロキサンでグラフト処理を行ってもよい。
また、磁性粉体は、四三酸化鉄、γ−酸化鉄などの酸化鉄を主成分とするものであり、一般に親水性を有しているため、分散媒としての水との相互作用によって磁性粉体が粒子表面に偏在しやすく、得られるトナー粒子は表面に露出した磁性粉体のために流動性および摩擦帯電の均一性に劣るものとなる。したがって、磁性粉体はカップリング剤によって表面を均一に疎水化処理することが好ましい。使用できるカップリング剤としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられ、特にシランカップリング剤が好適に用いられる。
本発明のトナーは、定着性向上のために離型剤を含有することが好ましい。使用可能な離型剤としては、例えば、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラクタムなどの石油系ワックスおよびその誘導体、モンタンワックスおよびその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックスおよびその誘導体、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンワックスおよびその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックスなど、天然ワックスおよびその誘導体などが挙げられる。誘導体には、酸化物やビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物などが含まれる。さらに、高級脂肪族アルコール、ステアリン酸、パルミチン酸などの脂肪酸、あるいはその化合物、酸アミドワックス、エステルワックス、ケトン、硬化ヒマシ油およびその誘導体、植物系ワックス、動物性ワックスなども使用できる。これらの離型剤は単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
これらの離型剤の中でも、示差熱分析による吸熱ピークが40〜130℃のもの、すなわち、示差走差熱量計により測定されるDSC曲線において昇温時に40〜130℃の領域に最大吸熱ピークを有するものが好ましく、さらには45〜120℃の領域に有するものがより好ましい。上記温度領域に最大吸熱ピークを有することにより、低温定着性に大きく寄与しつつ、離型性をも効果的に発現する。最大吸熱ピークが40℃未満であると離型剤成分の自己凝集力が弱くなり、結果として耐高温オフセット性が悪化する。また、定着時以外での離型剤の染み出しが生じやすくなり、トナーの帯電量が低下するとともに、高温高湿下での耐久性が低下する。一方、最大吸熱ピークが130℃を超えると定着温度が高くなり、低温オフセットが発生しやすくなるため好ましくない。さらに、懸濁重合法によって直接トナーを製造する場合、該最大吸熱ピーク温度が高いと、主に造粒中に離型剤成分が析出するなどの問題を生じ、離型剤の分散性が低下するため好ましくない。
離型剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対し1〜30質量部であることが好ましく、3〜20質量部であることがより好ましい。離型剤の含有量が1質量部未満では、十分な添加効果が得られず、オフセット抑制効果も不十分である。一方、30質量部を超えると、長期間の保存性が低下するとともに、離型剤や着色剤など他のトナー材料の分散性が悪くなり、トナーの流動性の低下や画像特性の低下を招く。また、定着時以外にも離型剤成分の染み出しが生じるようになり、高温高湿下での耐久性に劣るものとなる。
また、本発明のトナーは、荷電特性を安定化するため、必要に応じて荷電制御剤を配合することができる。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、直接重合法によってトナーを製造する場合には、重合阻害性が低く、水系分散媒体への可溶化物を実質的に含まない荷電制御剤が特に好ましい。具体的な化合物としては、ネガ系荷電制御剤として、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸などの芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料あるいはアゾ顔料の金属塩または金属錯体、スルホン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーンなどが挙げられる。また、ポジ系荷電制御剤として、四級アンモニウム塩、該四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物などが挙げられる。
これらの電荷制御剤の使用量としては、結着樹脂の種類、他の添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるもので、一義的に限定されるものではないが、好ましくは結着樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部の範囲で用いられる。
また、懸濁重合法によってトナーを製造する場合、上述した単量体組成物中に樹脂を添加して重合を行ってもよい。例えば、単量体としては水溶性であり、水性懸濁液中では溶解して乳化重合を起こすために使用できなかったアミノ基、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、ニトリル基など親水基含有の単量体成分をトナー中に導入したい時などは、これらとスチレンあるいはエチレンなどのビニル化合物とのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体などの形にして、あるいはポリエステル、ポリアミドなどの重縮合体、ポリエーテル、ポリイミンなどの重付加重合体の形にして使用することが可能となる。こうした極性官能基を含む高分子重合体をトナー中に共存させることによって、前述のワックス成分が相分離しやすくなり、より内包化が強力となるため、耐ブロッキング性、現像性の良好なトナーを得ることができる。
これら樹脂の添加量としては、重合性単量体100質量部に対して1〜20質量部が好ましい。1質量部未満では添加効果が小さく、20質量部以上添加するとトナーの種々の物性設計が難しくなる。
そして、本発明のトナーには、流動性向上剤が外部添加されていることが画質向上のために好ましい。流動性向上剤としては、ケイ酸微粉体、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの無機微粉体が好適に用いられる。これら無機微粉体は、シランカップリング剤、シリコーンオイルまたはそれらの混合物などの疎水化剤で疎水化処理されていることが好ましい。
本発明のトナーは、そのまま一成分系現像剤として、あるいは磁性キャリアと混合して二成分系現像剤として使用することができる。二成分系現像剤として用いる場合、混合するキャリアの平均粒径は、10〜100μmであることが好ましく、現像剤中のトナー濃度は、2〜15質量部であることが好ましい。
本発明によって得られるトナーの平均円形度は、0.970以上であることが好ましい。平均円形度とは、トナー粒子の凹凸度合いを表す指標であり、トナーが完全な球形の場合1.000を示し、表面形状が複雑になるほど小さな値となる。すなわち、平均円形度が0.970以上であるということは、トナー形状が実質的に球形であることを意味している。このような形状を有するトナーは、帯電が均一になりやすく、カブリやスリーブゴーストの抑制に効果的である。また、トナー担持体上に形成されるトナーの穂が均一であるため、現像部での制御が容易となる。さらに、球形であるが故に流動性も良好であり、現像器内でのストレスを受けにくいため、高湿度下での長期の使用においても帯電性が低下しにくい。そして、定着時においても熱や圧力がトナー全体に均一にかかりやすいため、定着性の向上にも寄与する。
なお、本発明における平均円形度は、粒子の形状を定量的に表現する方法として用いたものであり、東亞医用電子製フロー式粒子像分析装置「FPIA−1000」を用いて測定を行い、3μm以上の円相当径の粒子群について求めたものである。
ここで、平均円形度(C)は、各粒子の円形度(Ci)を下式(2)によってそれぞれ求め、さらに下式(3)に示すように、測定された全粒子の円形度の総和を全粒子数(m)で除した値として定義される。
但し、本発明に用いた測定装置「FPIA−1000」では、各粒子の円形度から平均円形度を算出するに当たって、求められた円形度の値によって円形度0.40から1.00の範囲を61分割した分割範囲に振り分けた後、各々の分割範囲の中心値とその時の頻度値を用いて算出する方法を用いている。この算出法で算出される平均円形度の値と、上述した各粒子の円形度を直接用いる算出法によって算出される平均円形度の値との誤差は極めて少なく、実質的に無視できる程度のものであるため、一部変更したこのような算出法を用いても何ら問題はない。
測定手順としては、以下の通りである。
界面活性剤約0.1mgを溶解した水10mlに、試料トナー約5mgを分散させて分散液を調製し、該分散液に5分間超音波分散処理(20KHz、50W)を施した後、分散液濃度を5000〜2万個/μlとして前記装置により測定を行い、3μm以上の円相当径を有する粒子群の平均円形度を求める。なお、本測定において3μm以上の円相当径の粒子群についてのみ円形度を測定する理由は、3μm未満の円相当径の粒子群にはトナー粒子とは独立して存在する外部添加剤の粒子群も多数含まれるため、その影響によりトナー粒子群についての円形度が正確に見積もれないためである。
本発明によって得られるトナーの重量平均粒径は、より微小な潜像ドットを忠実に現像し、高画質な画像を得るため、3〜10μmであることが好ましい。重量平均粒径が3μm未満になると、転写効率の低下から感光体上の転写残トナーが多くなり、接触帯電工程における感光体の削れやトナー融着の抑制が難しくなる。また、トナー全体の表面積が増大することに加え、粉体としての流動性および撹拌性が低下し、個々のトナー粒子を均一に帯電させることが困難となることから、ゴースト、カブリ、転写性が低下する傾向となり好ましくない。一方、重量平均粒径が10μmを超えると、文字やライン画像に飛び散りが生じやすく、高解像度が得られにくくなる。また、装置が高解像度になっていくと、1ドットの再現性が悪化する傾向になる。
ここで、トナーの平均粒径および粒度分布は、コールターカウンターTA−II型あるいはコールターマルチサイザー(いずれもコールター社製)などを用いて測定することが可能である。本発明では、コールターマルチサイザーを用い、これに個数分布と体積分布を出力するインターフェイス(日科機製)、およびPC9801パーソナルコンピューター(NEC製)を接続した。また、電解液には、1級塩化ナトリウムを用いて調製した1%NaCl水溶液を使用した。
測定法としては、前記電解液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルフォン酸塩を0.1〜5ml加え、さらに測定試料を2〜20mg加える。次いで、この電解液に超音波分散器で約1〜3分間分散処理を施し、前記コールターマルチサイザーにより、アパーチャーとして100μmアパーチャーを用いて2μm以上のトナー粒子の体積および個数を測定して体積分布と個数分布とを算出する。それから、体積分布から求めた体積基準の重量平均粒径(D4)、個数分布から求めた個数基準の長さ平均粒径、すなわち個数平均粒径(D1)を求める。
次に、本発明のトナーを好適に用いることのできる画像形成装置を、図に沿って具体的に説明する。ここでは、一例として、着色剤として磁性粉体を用いた磁性トナーに好適な画像形成装置を示した。
図1において、100は感光体ドラムで、その周囲に帯電ローラー117、現像装置140、転写ローラー114、クリーナー116、給紙ローラー124などが設けられている。感光体ドラム100は、帯電ローラー117によって−700Vに帯電される。次いで、レーザー発生装置121から照射されるレーザー光123によって露光される。こうして感光体ドラム100上に形成された静電潜像は、現像装置140によって磁性トナーで現像される。感光体ドラム100上のトナー画像は、転写材Pを介して感光体ドラム100に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像をのせた転写材Pは搬送ベルト125によって搬送され、定着装置126で定着される。また、一部感光体ドラム100上に残されたトナーは、クリーナー116によってクリーニングされる。現像装置140には、図1に示すように、感光体ドラム100に近接してアルミニウム、ステンレスなど非磁性金属で作られた円筒状のトナー坦持体102(以下現像スリーブと称す)が配設され、感光体ドラム100と現像スリーブ102との間隙は、図示されないスリーブ/感光体間隙保持部材などによって約230μmに維持されている。現像スリーブ102内には、不図示のマグネットローラーが現像スリーブ102と同心的に配設、固定されており、現像スリーブ102のみ回転する構造となっている。マグネットローラーには、複数の磁極が具備されており、S1は現像、N1はトナーコート量規制、S2はトナーの取り込み/搬送、N2はトナーの吹き出し防止にそれぞれ寄与している。さらに、現像スリーブ102に付着して搬送される磁性トナー量を規制する部材として、弾性ブレードが配設されており、現像スリーブ102に対する当接圧により現像領域に搬送されるトナー量が制御される。現像領域では、感光体ドラム100と現像スリーブ102との間に直流および交流の現像バイアスが印加され、現像スリーブ102上の磁性トナーは、静電潜像に応じて感光体ドラム100上に飛翔して可視像となる。
以下、本発明の製造方法について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定するものではない。
<実施例1>
イオン交換水720質量部に0.1モル/リットル−Na3PO4水溶液450質量部を投入し、撹拌しながら60℃に加温した後、1.0モル/リットル−CaCl2水溶液68質量部を添加してさらに撹拌を続け、Ca3(PO4)2からなる分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
一方、以下の処方をアトライター(三井三池化工機製)を用いて均一に分散混合し、単量体組成物を調製した。
スチレン: 80質量部
n−ブチルアクリレート: 20質量部
飽和ポリエステル樹脂(テレフタル酸−プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA重縮合体,Mw:2万,Tg:60℃,酸価:10mgKOH/g): 8質量部
荷電制御剤(BONTRON(登録商標),E−84(オリエント化学社): 1質量部
疎水性磁性酸化鉄: 80質量部
上記単量体組成物を60℃に加温し、これにスチレン変性パラフィンワックス(DSCにおける吸熱ピークの極大値:74℃)10質量部を添加して混合溶解した。
次いで、重合開始剤として、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート(パーオキシジカーボネート系,10時間半減期温度:51℃)3質量部と、ジステアロイルパーオキサイド(ジアシルパーオキサイド系,10時間半減期温度:62℃)2質量部を混合し、上記単量体組成物中にさらに添加して溶解した。
これを前記水系媒体中に投入し、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて、60℃、窒素雰囲気下にて、10,000rpmで15分間撹拌して造粒を行った。
さらに、得られた懸濁液をパドル撹拌翼で撹拌しつつ、70℃にて10時間重合を行った。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて分散安定剤を溶解した後、濾過し、水洗および乾燥して重合体粒子を得た。
その後、ヘキサメチルジシラザンおよびシリコーンオイルで処理した、一次粒径12nm、BET比表面積が120m2/gの疎水性シリカ微粉体を用意し、上記重合体粒子100質量部に対して、該疎水性シリカ微粉体1質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて混合した。
こうして、本発明の製造方法によるトナーを作製した。
<実施例2>
イオン交換水720質量部に0.1モル/リットル−Na3PO4水溶液450質量部を投入し、撹拌しながら60℃に加温した後、1.0モル/リットル−CaCl2水溶液68質量部を添加してさらに撹拌を続け、Ca3(PO4)2からなる分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
一方、以下の処方をアトライター(三井三池化工機製)を用いて均一に分散混合し、単量体組成物を調製した。
スチレン: 80質量部
n−ブチルアクリレート: 20質量部
ジビニルベンゼン: 0.2質量部
飽和ポリエステル樹脂(テレフタル酸−プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA重縮合体,Mw:2万,Tg:60℃,酸価:10mgKOH/g): 8質量部
荷電制御剤(BONTRON(登録商標),E−84(オリエント化学社): 1質量部
疎水性磁性酸化鉄: 80質量部
上記単量体組成物を60℃に加温し、これにスチレン変性パラフィンワックス(DSCにおける吸熱ピークの極大値:74℃)10質量部を添加して混合溶解した。
次いで、重合開始剤として、ジ(2エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート(パーオキシジカーボネート系,10時間半減期温度:49℃)3質量部と、ジイソノナノイルパーオキサイド(ジアシルパーオキサイド系,10時間半減期温度:61℃)2質量部を混合し、上記単量体組成物中にさらに添加して溶解した。
これを前記水系媒体中に投入し、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて、60℃、窒素雰囲気下にて、10,000rpmで15分間撹拌して造粒を行った。
さらに、得られた懸濁液をパドル撹拌翼で撹拌しつつ、70℃にて10時間重合を行った。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて分散安定剤を溶解した後、濾過し、水洗および乾燥して重合体粒子を得た。
その後、ヘキサメチルジシラザンおよびシリコーンオイルで処理した、一次粒径12nm、BET比表面積が120m2/gの疎水性シリカ微粉体を用意し、上記重合体粒子100質量部に対して、該疎水性シリカ微粉体1質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて混合した。
こうして、本発明の製造方法によるトナーを作製した。
<実施例3>
実施例1において、重合開始剤として、ジステアロイルパーオキサイド2質量部に代えてt−アミルパーオキシピバレート(パーオキシエステル系,10時間半減期温度:55℃)2質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして本発明のトナーを作製した。
<実施例4>
実施例1において、重合開始剤として、ジステアロイルパーオキサイド2質量部に代えて、t−ブチルパーオキシイソノナノエート(パーオキシエステル系,10時間半減期温度:102℃)2質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして本発明のトナーを作製した。
<比較例1>
実施例1において、重合開始剤として、ジ−sec−ブチルパーオキシジカーボネート5質量部を単独で使用したこと以外は、実施例1と同様にして比較例のトナーを作製した。
<比較例2>
実施例1において、重合開始剤として、ジステアロイルパーオキサイド5質量部を単独で使用したこと以外は、実施例1と同様にして比較例のトナーを作製した。
<比較例3>
実施例1において、重合開始剤として、t−アミルパーオキシピバレート3質量部と、ジステアロイルパーオキサイド2質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして比較例のトナーを作製した。
<比較例4>
実施例1において、重合開始剤として、t−アミルパーオキシピバレート3質量部と、t−ブチルパーオキシイソブチレート(パーオキシエステル系,10時間半減期温度:82℃)2質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様にして比較例のトナーを作製した。
<比較例5>
イオン交換水720質量部に0.1モル/リットル−Na3PO4水溶液450質量部を投入し、撹拌しながら60℃に加温した後、1.0モル/リットル−CaCl2水溶液68質量部を添加してさらに撹拌を続け、Ca3(PO4)2からなる分散安定剤を含む水系媒体を調製した。
一方、以下の処方をアトライター(三井三池化工機製)を用いて均一に分散混合し、単量体組成物を調製した。
スチレン: 80質量部
n−ブチルアクリレート: 20質量部
ジビニルベンゼン: 1質量部
t−ドデシルメルカプタン: 2質量部
飽和ポリエステル樹脂(テレフタル酸−プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA重縮合体,Mw:2万,Tg:60℃,酸価:10mgKOH/g): 8質量部
荷電制御剤(BONTRON(登録商標),E−84(オリエント化学社): 1質量部
疎水性磁性酸化鉄: 80質量部
上記単量体組成物を60℃に加温し、これにスチレン変性パラフィンワックス(DSCにおける吸熱ピークの極大値:74℃)10質量部を添加して混合溶解した。
次いで、重合開始剤として、t−アミルパーオキシピバレート5質量部を上記単量体組成物中にさらに添加して溶解した。
これを前記水系媒体中に投入し、クレアミックス(エム・テクニック社製)を用いて、60℃、窒素雰囲気下にて、10,000rpmで15分間撹拌して造粒を行った。
さらに、得られた懸濁液をパドル撹拌翼で撹拌しつつ、70℃にて10時間重合を行った。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて分散安定剤を溶解した後、濾過し、水洗および乾燥して重合体粒子を得た。
その後、ヘキサメチルジシラザンおよびシリコーンオイルで処理した、一次粒径12nm、BET比表面積が120m2/gの疎水性シリカ微粉体を用意し、上記重合体粒子100質量部に対して、該疎水性シリカ微粉体1質量部を加え、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機製)を用いて混合した。こうして、比較例のトナーを作製した。
実施例1乃至4、および比較例1乃至5において、使用した重合開始剤の種類、10時間半減期温度、添加部数および架橋剤、連鎖移動剤の添加部数を表1にまとめて示した。
これらのトナーの評価には、画像形成装置としてキヤノン製レーザービームプリンターLBP−1760を改造し、概ね図1に示される構造のものを使用した。
定着装置としては、オイル塗布機能のない、フィルムを介してヒーターにより加熱圧着するフィルム定着方式のものを使用した。このとき、加圧ローラーには、フッ素系樹脂の表面層を有する直径30mmのものを使用した。定着温度は180℃とし、ニップ幅を7mmに設定した。また、定着性の評価には、同様の構成の外部定着器を用いた。
なお、転写材としては75g/m2の紙を使用した。
具体的な評価方法と、その判断基準は、以下の通りである。評価は、すべて常温常湿環境下(23℃,60%RH)にて行った。
(1)画像濃度
画像濃度はベタ画像部を形成し、このベタ画像をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定を行った。
(2)転写効率
ベタ黒画像転写後の感光体ドラム上の転写残トナーをマイラーテープによりテーピングしてはぎ取り、これを紙上に貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をAとし、転写後定着前のトナーの載った紙上にマイラーテープを貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をBとし、未使用の紙上にマイラーテープのみを貼リ付けてマクベス濃度を測定し、その値をCとした。転写効率は、近似的に以下の式により算出した。
転写効率(%)=(B−A)/(B−C)×100
上記の計算式から得られた転写効率を以下の基準で判断した。
A:転写効率が96%以上
B:転写効率が92%以上,96%未満
C:転写効率が89%以上,92%未満
D:転写効率が89%未満
(3)カブリ
カブリの測定は、東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。フィルターはグリーンフィルターを用い、下式により算出した。
カブリ(%)=標準紙の反射率(%)−サンプル非画像部の反射率(%)
なお、カブリの判断基準は以下の通りである。
A:非常に良好(1.5%未満)
B:良好(1.5%以上,2.5%未満)
C:普通(2.5%以上,4.0%未満)
D:悪い(4%以上)
(4)定着性
単位面積当たりのトナー載り量を0.7mg/cm2に調整したベタ画像部を形成し、定着器の設定温度を130〜230℃の範囲で順次昇温し、5℃毎に定着画像を出力した。得られた定着画像は、4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけたシルボン紙で5往復摺擦し、摺擦前後の画像濃度の低下率が10%以下となる温度を定着開始温度とした。また、高温オフセット温度については、定着画像面上の非画像部および紙裏の汚れの有無を、目視にて観察し、評価した。
実施例1乃至4、および比較例1乃至5で作製した各トナーについて、物性値を表2にまとめて示した。また、表3には、定着性の評価結果および、印字率2%の横線のみからなる画像パターンで2000枚の画出し耐久試験を行った後の画像濃度、転写効率、カブリの各評価結果をそれぞれまとめて示した。
表2に示すように、パーオキシジカーボネート系重合開始剤と他の重合開始剤とを併用した本発明のトナーは、いずれも低分子量側と高分子量側にそれぞれピークを持った分子量分布を示すことがわかった。但し、実施例3のトナーのように併用する重合開始剤の10時間半減期温度が比較的低い場合には、高分子量側のピーク分子量は小さくなる傾向を示した。また、実施例4のトナーのように併用する重合開始剤の10時間半減期温度が高い場合には、高分子量成分は僅かに認められただけであり、重合開始剤の利用効率が低下していることが示唆された。
一方、比較例のトナーは、いずれも分子量分布において複数のピークを示すことはなかった。重合開始剤を単独で使用した比較例1、比較例2および比較例5のトナーは当然のこととして、比較例3および比較例4のトナーでは、2種類の重合開始剤を併用しているにもかかわらず、複数のピークは認められなかった。このことから、パーオキシジカーボネート系重合開始剤以外の重合開始剤を組み合わせた場合や、単に10時間半減期温度の異なる重合開始剤を併用しただけの場合には、本発明のような分子量分布を有するトナーを得ることはできず、少なくともパーオキシジカーボネート系重合開始剤を用いる必要があることが明らかになった。
また、表3に示すように、本発明のトナーは、いずれも低温定着性、耐高温オフセット性ともに優れており、広い定着領域を有していることがわかった。また、画出し耐久試験後の画像特性も良好であった。そして、実施例1および実施例2から明らかなように、併用する重合開始剤として、適度な10時間半減期温度を有するものを選択することによって、耐高温オフセット性をより効果的に発現させることが可能であり、さらに、少量の架橋剤の添加によるTHF不溶分の形成も、耐高温オフセット性の改善効果を助長させる上で有効であることがわかった。
これに対し、比較例1のトナーは低温定着性には優れるものの、早期に高温オフセットが発生し、また、比較例2のトナーは耐高温オフセット性には優れるものの、低温定着性の低下が著しく、いずれも定着領域の狭いものであった。また、いずれの場合も耐久試験後の画像特性の劣化が顕著であった。また、比較例3のトナーのように、パーオキシジカーボネート系重合開始剤以外の重合開始剤を組み合わせた場合や、比較例4のトナーのように、単に10時間半減期温度の異なる重合開始剤を併用しただけの場合には、本発明のような広い定着領域を有するトナーを得ることはできないことがわかった。