JP4415161B2 - 有機金属錯体並びに該錯体を用いた気体吸蔵物質、水素化反応用触媒及び水素化反応方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、金属を含有するポルフィリン構造を有する新規な有機金属錯体、並びに、この錯体を用いた気体吸蔵物質、水素化反応用触媒、及び水素化反応方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゼオライト等の多孔体は、細孔の存在に基づく吸着作用、イオン交換作用、触媒作用等の特性によって、化学工業的に広く利用されており、近年、その応用範囲は多岐に亘っている。
【0003】
中でも、有機金属錯体を構成要素とする多孔体の合成が活発に研究されている。原料である配位子を選択することにより精密な多孔体のデザインが可能であり、分子認識や触媒作用に対して新しい機能の展開も期待されている。
【0004】
様々な細孔構造を有する有機金属錯体が合成されている中で、下記式(A)に表わされるポルフィリン構造を繰り返し単位として有する有機金属錯体が合成・同定されており、水素化反応が試みられた報告がある(非特許文献1)。
【0005】
【化2】
【0006】
しかしながら、その活性に関する知見は明らかになっていない。また、その構造中に金属ポルフィリン骨格を有する有機金属錯体は、未だ報告されていない。
【0007】
【非特許文献1】
日本化学会第80秋季年会(2001)、講演予稿集、p114、1B9−14
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ポルフィリン骨格を有する新規な構造を有するとともに、気体吸蔵物質や水素化反応用触媒として優れた活性を有する有機金属錯体を提供すること、並びに、この有機金属錯体を用いた気体吸蔵物質及び水素化反応用触媒、更にはこの触媒を用いた水素化反応方法を提供することに存する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、金属ポルフィリン骨格を有する新規な構造のジカルボン有機金属錯体を見出し、驚くべきことにこれが顕著なガス吸蔵能力・触媒能を有するとの知見を得、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の要旨は、金属原子と、該金属原子に配位結合した金属ポルフィリン構造を有する配位子とから構成された、下記一般式(1)に示される2次元格子構造を繰り返し単位として有することを特徴とする有機金属錯体に存する。
【0011】
【化3】
(上記一般式(1)中、M1 は、Rh、Cr、Pd、Zn、Mo、Cu、Ru、W、Re、及びOsより選択される金属原子を表わし、M 2 は、Cu、Cr、Rh、Ru、Pd、Mo、Zn、及びWより選択される金属原子を表わす。R1、R2、R3、及びR4は各々独立に、フェニル基、シクロヘキシル基、ナフチル基、及びデカヒドロナフチル基より選択される基を表わす。R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数が1以上20以下の、アルキル基;アルコキシ基;アリール基;ビニル基;アミノ基;ホルミル基;カルボキシル基;及びチオール基より選択される基を表わす。)
【0012】
また、本発明の別の要旨は、上記の有機金属錯体を含有することを特徴とする気体吸蔵物質及び水素化反応用触媒に存する。
【0013】
更に、本発明の別の要旨は、上記の水素化反応用触媒の存在下で水素化反応を行なうことを特徴とする水素化反応方法に存する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明につき詳細に説明する。
(1)本発明の有機金属錯体の構造:
本発明に係る有機金属錯体は、金属原子と、該金属原子に配位結合した金属ポルフィリン構造を有する配位子とから構成された、下記一般式(1)に示される2次元格子構造を繰り返し単位として有する。
【0015】
【化4】
以下、上記一般式(1)における各符号について説明する。
【0016】
(1−1)M1:
M1は金属原子を表わす。具体的には、2個のM1に対してカルボキシル基が二座で配位できる金属原子である。
二座配位が可能な金属原子であれば、その種類は特に限定されないが、通常はRh、Cr、Pd、Zn、Mo、Cu、Ru、W、Re、及びOsから選択される。中でも、本発明の有機金属錯体を触媒として使用した場合に特に高い触媒活性が得られることから、Rh、Ru、Mo、Pdが好ましい。
複数のM1は、同じであっても異なっていてもよいが、製造の便宜性や、触媒として使用した場合に反応の効率性が良いという観点からは、同じである方が好ましい。
【0017】
(1−2)M2:
M2は金属原子であり、具体的には、ポルフィリン系化合物に配位する能力を有する金属である。
ポルフィリン系化合物に配位する能力を有する金属原子であれば、その種類は特に限定されないが、通常用いられる金属としては、Mg、Al、Si、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Ba、Pr、Eu、Yb、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Th、Be、P等が挙げられる。これらの中でも、ポルフィリン系化合物に配位して金属ポルフィリンを形成し易いという点で、Mg、Al、Si、Ca、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Pd、In、Sn、Pb、Pが好ましい。また、触媒として使用した場合に反応の効率性が良いという点からは、Cu、Cr、Rh、Ru、Pd、Mo、Zn、Wが好ましい。
【0018】
なお、M2は軸配位子を有していても良い。その場合、M21個当たりの軸配位子の数は、通常1又は2である。
軸配位子の種類は、M2に軸配位子として配位するものであれば、特に限定されないが、通常の分子量は100以下であり、反応系に影響を及ぼさないものの中から選択される。
【0019】
具体例としては、F-、Cl-、Br-、I-等のハロゲンイオン;OR-、OPh-、NCS、N3 -、OH-、CN-、CH3COO-、CF3COO-、BF4 -、PF6 -、ClO4 -、パラトルエンスルホン酸アニオン;ピリジン、イミダゾール等の塩基;NO、CO、O2等のガス;水等が挙げられる(なお、前記の記載中、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基を表わし、Phは、置換基を有していてもよいフェニル基を表わす。)。
これらの金属含有ポルフィリン化合物は、二次元格子構造中に1種類が単独で存在してもよいし、2種類以上が任意の組み合わせで存在してもよい。
【0020】
(1−3)R1〜R4:
R1、R2、R3、R4は各々独立に、M1にカルボキシル基を介して配位結合できる二価の有機基を示す。なお、上記一般式(1)中、M1に配位している2個の酸素原子は、該カルボキシル基の酸素を表す。
【0021】
M1に配位できるカルボキシル基と結合できる有機基であれば、その種類は特に限定されないが、安定した二次元格子構造を形成する上で、ポルフィリン骨格とM1とをより直線状に結合させる置換基が好ましく、直鎖構造を有する置換基がより好ましい。
【0022】
有機基の炭素数は、通常1以上、好ましくは2以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上であり、通常100以下、好ましくは60以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。
【0023】
有機基の種類としては、M1に配位しているカルボキシル基を含めた形で、カルボキシアルキレン基、カルボキシアリーレン基、カルボキシシクロアルキレン基、カルボキシアルキニレン基が好ましい。
中でも、通常10個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは2個以下のベンゼン核および/又はシクロアルキル環を有する、カルボキシアリーレン基、カルボキシアルキニレン基又はカルボキシシクロアルキレン基が好ましく、4−カルボキシナフチレン基、4−カルボキシデカヒドロナフチレン基が特に好ましく、4−カルボキシフェニレン基が最も好ましい。
【0024】
(1−4)R5〜R12:
R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、及びR12は各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、又は一価の有機基を表わす。これらの基は、それぞれ同じでもよく、互いに異なっていてもよい。
【0025】
ハロゲン原子の場合、その種類は特に限定されないが、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素が好ましく、中でもフッ素、塩素がより好ましい。
一価の有機基の場合、その炭素数は通常1以上であり、20以下、好ましくは18以下である。有機基の種類は特に制限されないが、無置換又は置換の一価の炭化水素基が好ましい。
【0026】
炭化水素基の種類としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ビニル基、アミノ基、ホルミル基、カルボキシル基及びチオール基が挙げられる。中でも、アルキル基又はアリール基が好ましい。
【0027】
アルキル基の場合、炭素数1〜6のものが好ましく、その具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
アルコキシ基の場合も、炭素数1〜6のものが好ましく、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキソキシ基等が挙げられる。
【0029】
アリール基の場合、核炭素数6〜18のものが好ましく、その具体例としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナンスリル基、ビフェニル基等が挙げられる。
【0030】
炭化水素基が置換基を有する場合、その種類としては、アルコキシ基、アリール基、ビニル基、アミノ基、ニトロ基、水酸基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、チオール基などが挙げられる。
これらの中でも、水素、ハロゲン原子、アルキル基が好ましい。
【0031】
(2)本発明の有機金属錯体の製造方法:
本発明の有機金属錯体は、▲1▼上記M2を含む金属含有ポルフィリン構造を有する配位子と上記M1を含む金属化合物との反応により二次元格子構造を形成させて製造しても、▲2▼ポルフィリン構造を有する配位子と金属化合物とを反応させて二次元格子構造を形成させた後ポルフィリン構造部分に金属導入してもよいが、通常は▲1▼の方法で製造する。
以下、▲1▼の製造方法について、詳細に説明する。
【0032】
(2−1)金属含有ポルフィリン構造を有する配位子:
金属含有ポルフィリン構造を有する配位子は、金属に配位できる官能基を有するポルフィリンと上記M2に相当する金属の化合物とを反応させて、ポルフィリンの中心にM2金属を導入することにより、容易に合成することができる。合成法としては、例えば、Yutaka A. et al., Porphyrins 1998; 7(2・3) に記載の方法を使用することができる。
【0033】
<ポルフィリン>
中心金属を含まないポルフィリンとして、具体的には、下記一般式(2)で表わされる構造のポルフィリン化合物が使用される。
【化5】
上記一般式(2)中の符号は、上記一般式(1)の同じ符号と同義である。
【0034】
上記一般式(2)で表わされるポルフィリン化合物は、例えば、金属に配位できる官能基を有するアルデヒド誘導体及びピロール誘導体を原料として、公知の方法より合成することができる(Green Chemistry, 2001, 6, 267)。あるいは、天然に存在するヘムを出発原料として、これを縮合することにより合成することもできる。
【0035】
<M2金属化合物>
M2を含む金属化合物の種類は、M2を含む化合物であれば特に限定されないが、通常はM2を含む金属塩を用いる。
金属塩の種類は特に限定されないが、通常はハロゲン化物、酢酸塩、金属アセチルアセトナ−ト錯体、又は金属カルボニル錯体を用いる。中でも、脱離基としての反応容易性の点でハロゲン化物が好ましい。
【0036】
M2の種類、及びこれを含む金属塩の種類は、一種のみでも二種以上の組み合わせでもよいが、一種を単独で用いるのが好ましい。
M2を含む金属化合物を上記のポルフィリン化合物と反応させることにより、M2金属がポルフィリン骨格の中心に取り込まれる。中心金属は、中心金属を含むポルフィリン面に対して上下に配位子(軸配位子)を有する場合がある。
【0037】
<反応方法>
ポルフィリン骨格への中心金属M2の導入は、上記の中心金属を含まないポリフィリン化合物を、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼン、エーテル、クロロホルム、ピリジン等の有機溶媒中で、上記のM2を含む金属化合物とともに、還流しながら加熱することにより行なうことができる。
【0038】
反応時の温度は、通常は室温以上、好ましくは50℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の範囲である。また、反応時の圧力は、溶媒が液相を保持する反応圧力であれば特に限定されない。
【0039】
反応時間は、反応条件に応じて異なるが、通常は30分以上、好ましくは5時間以上、また、通常は24時間以下、好ましくは10時間以下で行なうのが好適であるため、上記範囲で反応が完結する様に反応条件を選択するのが好ましい。
【0040】
なお、反応中にポルフィリン中心金属と溶媒が反応し、溶媒が軸配位子として金属に配位する場合がある。
以上の手順により金属含有ポルフィリン化合物が得られるが、得られた金属含有ポルフィリン化合物は、そのまま配位子として使用することができる。
【0041】
(2−2)M1を含む金属化合物:
M1を含む金属化合物の種類は特に制限されないが、通常はM1を含む金属塩を用いる。塩の種類は特に限定されないが、通常、酢酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、硝酸塩、硫酸塩、燐酸塩、ハロゲン塩、過塩素酸塩、テトラフルオロほう酸塩、ヘキサフルオロ燐酸塩が用いられる。中でも、反応が容易な蟻酸塩、酢酸塩が好ましい。
【0042】
(2−3)金属含有ポルフィリン構造を有する配位子とM1を含む金属化合物との反応:
上記の金属含有ポルフィリン構造を有する配位子(金属含有ポルフィリン配位子)と、上記の金属M1を含む金属化合物とを反応させることにより、本発明の有機金属錯体が合成される。
【0043】
金属含有ポルフィリン配位子は、二次元格子構造中に1種類が単独で存在してもよいし、2種類以上が存在してもよいが、安定した二次元格子構造を得るためには、1種類のみを用いることが好ましい。
手順としては、上記金属化合物と金属含有ポルフィリン配位子の両者が溶解する溶媒中で、室温又は加熱条件下で反応させ、合成する。
【0044】
溶媒の種類は特に限定されないが、通常はメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド、スルホラン、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタンなどの汎用有機溶媒又はそれらの混合溶媒が用いられる。中でも、メタノールが好ましい。
【0045】
反応温度は、反応溶媒が凝固しない温度以上、反応溶媒が液相状態を保てる温度以下であれば、特に限定されないが、通常は5℃以上、好ましくは25℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは170℃以下である。
反応圧力は、用いられる溶媒が液相を保持できる反応圧力であれば、特に制限されないが、通常は常圧以上、5MPa以下の範囲である。
【0046】
反応時間は、反応条件に応じて異なるが、通常は1時間以上、好ましくは5時間以上、また、通常は24時間以下、好ましくは5時間以下で行なうのが好適であるため、上記範囲で反応が完結する様に反応条件を選択するのが好ましい。
【0047】
<回収方法>
反応後、生成物は通常、自然に固体として析出させるか、もしくは溶媒をエバポレートして除去し、固体状の沈殿又は微結晶として回収することができる。
【0048】
<回収後の処理>
得られた固体状の生成物は、適切な溶媒を用いて洗浄した後、室温又は加熱条件下において、また、常圧又は減圧条件下において乾燥することにより、最終的に目的とする本発明の有機金属錯体を、通常1μm〜1cm程度の大きさで得ることができる。
最終的に得られる本発明の有機金属錯体の構造は特に限定されないが、好ましくは結晶構造を取る。また、その形状も特に限定されず、微粉末やそれらが凝集した凝集体等の様々な形状を取り得る。
【0049】
(3)本発明の有機金属錯体の用途:
(3−1)気体吸蔵物質:
本発明の有機金属錯体は、通常、孔径5〜20オングストロームの、2次元格子構造により規定される細孔を有する。そして、この細孔内に気体を吸着することにより、気体吸蔵能(気体吸着能、気体貯蔵能)を有することから、気体吸蔵物質の材料として好適に用いられる。なお、本発明において「気体吸蔵能を有する」とは、77Kにおけるアルゴンの最大吸蔵量が、金属原子(ポルフィリン化合物の配位を受ける金属原子)1モル当たり0.01モル以上であることを表わす。
【0050】
本発明の有機金属錯体が吸蔵できる気体の種類は特に制限されない。具体例としては、水素ガス、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガス、メタン、メタンを含む天然ガス等が挙げられる。
【0051】
本発明の有機金属錯体の細孔径は、原料とする金属M2の種類や金属ポルフィリン構造を有する配位子、特に置換基R1〜R4の種類によって制御することが可能であり、これによって気体吸蔵量を調整することができる。例えば、ポルフィリン化合物としてテトラキス(4−カルボキシフェニル)ポルフィリンを使用した場合、得られる有機金属錯体は、孔径が約6オングストロームの細孔を有する。この有機金属錯体は、液体窒素温度(77K)において、ポルフィリン分子1モルあたり最大約5モルの窒素ガスを吸蔵する。
【0052】
なお、本発明の有機金属錯体を気体吸蔵物質として用いる場合には、なるべく細孔径分布が狭く、均一な細孔を有する有機金属錯体を用いることが望ましい。
【0053】
(3−2)各種触媒
本発明の有機金属錯体は、触媒能を有する金属ポルフィリン化合物を配位子として用いたり、細孔内部に反応場としての機能を持たせたりすることにより、酸化触媒、還元触媒、不斉酸化触媒、不斉還元触媒、水素添加触媒、不斉水素化触媒、光触媒、水分解触媒、脱硝触媒等の気相又は液相用の各種触媒として使用できる。
【0054】
中でも、本発明の有機金属錯体は、水素化反応用の触媒として、特に好適に用いることができる。
本発明の有機金属錯体を水素化反応用触媒として用いる場合、上述の方法で得られた微粉状や微紛凝集体状等の有機金属錯体をそのまま用いてもよく、これを公知の手法に従って造粒して用いても良い。造粒する場合、その形状や大きさにも特に制限は無く、任意に選択することができるが、使用目的に応じて、例えば通常5μm〜1cm程度の大きさに造粒できる。
【0055】
以下、本発明の有機金属錯体を触媒として用いた水素化反応の方法について説明する。
【0056】
<反応基質>
反応基質は、水素化反応の対象となる物質であれば特に制限されないが、通常はオレフィン性化合物を用いる。オレフィン性化合物としては、末端又は内部位に炭素−炭素二重結合を有する、直鎖又は分岐鎖状のオレフィン化合物が挙げられる。中でも、直鎖状のオレフィン性化合物が好ましい。オレフィン性化合物の炭素数は、通常2以上、また、通常16以下、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。オレフィン性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせで混合して用いることもできる。
【0057】
中でも好ましいオレフィン化合物として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−又は2−ペンテン、2−メチルブテン−1、2−メチルブテン−2、3−メチルブテン−1、1−、2−又は3−ヘキセン、プロペンの二量化の際に得られるC6−オレフィン混合物(ジプロペン)、ヘプテン、2−又は3−メチル−1−ヘキセン、オクテン、2−メチルヘプテン、3−メチルヘプテン、5−メチルヘプテン−2、6−メチルヘプテン−2、2−エチルヘキセン−1、ブテンの二量化の際に得られる異性C8−オレフィン(ジブテン)の混合物、ノネン、2−又は3−メチルオクテン、プロペンの三量化の際に得られるC9−オレフィン混合物(トリプロペン)、デセン、2−エチル−1−オクテン、ドデセン、プロペンの四量化又はブテンの三量化の際に得られるC12−オレフィン混合物(テトラプロペン又はトリブテン)、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ブテンの四量化の際に得られるC16−オレフィン混合物(テトラブテン)等が挙げられる。
【0058】
<反応系及び反応形式>
反応系の種類は特に限定されず、液相系、気相系の何れを採用することも可能である。中でも気相系の方が、反応の効率が良く、反応後の処理も不要であることから好ましい。気相系を採用する場合、その反応形式としては、本発明の有機金属錯体を反応器中に固定化させ、これに反応基質を作用させる、固定床流通反応による方式が一般に用いられる。
【0059】
一方、液相系を用いる場合、その反応形式としては、反応基質を含む反応溶液中に本発明の有機金属錯体を分散させて行なう液相懸濁床による方式や、本発明の有機金属錯体を反応器中に固定化させ、これに反応基質を作用させる固定床流通反応による方式などを、適宜選択して採用することができる。何れの場合も、反応終了後に公知の固液分離法を用いて本発明の有機金属錯体を回収し、必要に応じて公知の手法により洗浄等することにより、水素化反応用触媒として再利用することが可能となる。
【0060】
<反応条件>
水素化反応時の圧力は、通常0.5MPa以上、好ましくは1MPa以上、また、通常10MPa以下、好ましくは4MPa、より好ましくは2.5MPa以下の範囲である。
【0061】
水素化反応時の温度は、室温以上、220℃以下の範囲から適宜選択するのが望ましい。本発明の有機金属錯体は高い触媒能を有するので、従来よりも低温で効率的に水素化反応を行なうことが可能である。
【0062】
(3−3)その他の用途:
本発明で配位子として使用する金属ポルフィリン化合物は、触媒能、光応答性(いわゆる光アンテナ機能)、酸素輸送機能等、工業分野や生化学分野において有用な機能を有する化合物である。よって、本発明の有機金属錯体は、配位子として用いる金属ポルフィリン化合物を適切に選択することにより、光動力学療法に対する増感材、ディスプレイ等の表示装置における発光素子、有機染料(着色剤)、レーザー光に対応する光学記録媒体など、各種の光機能材料や有機−無機電子材料として、多くの工業的用途が期待できる。また、化学的にも安定であることから、化粧品や脱臭剤としての用途などにも利用できる。
【0063】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の記載において「TCPP」とは、テトラキス(4−カルボニルフェニル)ポルフィリンを表わす。
【0064】
・参考例1{TCPPRh(II)錯体}:
<錯体の製造>
酢酸ロジウム(II)二量体二水和物100.1mg(2.094×10-4mol)と、TCPP165.6mg(2.094×10-4mol)と、脱水メタノール25mlとを、窒素気流下でオートクレーブ中に密閉し、180℃で3時間加熱することにより配位子交換し、二次元ブロック錯体を合成した。オートクレーブを冷ました後、遠心分離しメタノールで洗浄後、真空乾燥することにより、中心金属を有さないポルフィリン系有機金属錯体であるTCPPロジウム(II)錯体[TCPPRh(II)錯体]を得た。
【0065】
<元素分析>
得られたTCPPRh(II)錯体の元素分析の結果は以下の通りである。
分析値:C=56.39%,H=3.39%,N=4.94%。
計算値{Rh2(C20N4H10)(C6H4COO)4(H2O)0.5(CH3OH)2}:C=56.35%,H=3.31%,N=5.26%。
【0066】
<気体吸蔵量の温度依存性の測定>
Cahn(モデル:Cahn−1000)電子天秤を使用し、圧力20torr、温度77〜250Kの条件下で、窒素ガスについての気体吸蔵量の測定を行なった。測定によって得られた、気体吸蔵量と温度との関係を表わすグラフを、図1に示す。液体窒素温度(77K)において、ポルフィリン1モルに対して5.7モルの窒素ガスを吸蔵した。図1に示される様に、多量の気体吸蔵量がみられることから、気体はTCPPRh(II)錯体の表面ではなく、その細孔中に吸蔵されることが分かる。
【0067】
また、気体吸蔵量より求められる細孔分布を図2に示す。図2より、TCPPRh(II)錯体の有効細孔径は5.7オングストロームであり、極めて均一な細孔を有することが分かる。
【0068】
<磁化率の温度依存性の測定>
SQUID磁化率測定装置(Quantum Design, MPMS-5S)を使用して、磁化率の温度依存性を温度2〜300Kの条件で測定した。測定によって得られた、磁化率と温度との関係を表わすグラフを図3に示す。Bleaney-Bowersの方法(B. Bleaney and K. D. Browers, Proc. R. Soc. London, Ser A. 214, 415 (1952))により、このTCCPRh(II)錯体は、2核構造のHeisenbergモデルに従うことが分かった。また、得られた物理定数{S(スピン数)=1/2、2J(カップリング定数)=−1920cm-1、g(g−因子)=2.09}からも、TCPPRh(II)錯体が酢酸銅と同様の2核構造を有することが判る。
【0069】
・実施例1(PdTCCPRh(II)錯体):
<錯体の製造>
塩化パラジウム100.1mg(5.639×10-4mol)と、TCPP200.1mg(2.529×10-4mol)とに、ジメチルホルムアミド(DMF)60mlを加え、130℃で6時間環流した。濃縮後、アセトンで沈殿を洗浄し、真空乾燥することにより、中心金属(Pd)を有するポルフィリン化合物であるパラジウムTCPP(PdTCPP)を得た。
【0070】
このPdTCPP60.0mg(6.702×10-4mol)と、酢酸ロジウム(II)二量体二水和物36.7mg(7.677×10-5mol)と、脱水メタノール25mlとを、窒素気流下でオートクレーブ中に密閉し、180℃で3時間加熱することにより配位子交換し、二次元ブロック構造の錯体を合成した。オートクレーブを冷ました後、遠心分離して沈殿生成物を収集し、メタノールで洗浄後、真空乾燥することにより、中心金属(Pd)を有するポルフィリン系有機金属錯体であるパラジウムTCPPロジウム(II)錯体[PdTCPPRh(II)錯体]を得た。
【0071】
<元素分析>
得られたPdTCPPRh(II)錯体の分析結果は以下の通りである。
分析値:C=48.34%、H=3.57%、N=4.30%。
計算値{Rh2(C20N4H8Pd)(C6H4COO)4(H2O)4.5(CH3OH)2}:C=48.35%;H=3.33%;N=4.51%
<気体吸蔵量の温度依存性の測定>
参考例1と同様の手順によって、PdTCPPRh(II)錯体の気体吸蔵量を測定した。測定によって得られた、気体吸蔵量と温度との関係を表わすグラフを図1に示す。液体窒素温度(77K)において、ポリフィリン1モルあたり窒素ガスを5.0モル吸蔵した。
【0072】
<錯体を用いた水素化反応>
上記の方法で製造したPdTCCPRh(II)錯体0.07gを、容積155.69mlのガラス製の反応容器に仕込み、エチレンと水素の混合気流下に放置し、閉鎖系のガス循環ポンプにてガスを2時間循環させた。
【0073】
反応生成物を、PropackQカラムを用いたガスクロマトグラフィーにより分析した。反応温度193Kでのエタンの収率は100%であった。反応開始から5分後には反応は完結した。
反応開始から5分後の平均水素化速度は2.4×10-3モル/秒・g、10分後のそれは3.4×10-3モル/秒・gであった。
【0074】
・実施例2(CuTCPPRh(II)錯体):
<錯体の製造>
塩化銅(II)74.0mg(5.639×10-4mol)と、TCPP198.8mg(2.529×10-4mol)とに、ジメチルホルムアミド(DMF)60mlを加え、130℃で30分環流した。放冷後、濃縮しアセトンで沈殿を洗浄し、真空乾燥することにより、中心金属(Cu)を有するポルフィリン化合物である銅TCPP(CuTCPP)を得た。
【0075】
このCuTCPP60.1mg(7.040×10-5mol)と、酢酸ロジウム(II)二量体二水和物36.8mg(7.677×10-5mol)と、脱水メタノール25mlとを、窒素気流下でオートクレーブ中に密閉し、180℃で3時間加熱することにより配位子交換し、二次元ブロック錯体を合成した。オートクレーブを冷ました後、遠心分離しメタノールで洗浄後、真空乾燥することにより、中心金属(Cu)を有するポルフィリン系有機金属錯体である銅TCPPロジウム(II)錯体[CuTCPPRh(II)錯体]を得た。
【0076】
<元素分析>
得られたCuTCPPRh(II)錯体の分析結果は以下の通りである。
分析値:C=48.97%、H=3.62%、N=4.57%。
計算値{Rh2(C20N4H8Cu)(C6H4COO)4(H2O)6(CH3OH)2}:C=49.04%、H=3.41%、N=4.52%)
<気体吸蔵量の測定>
参考例1と同様の手順によって、CuTCPPRh(II)錯体の気体吸蔵量を測定した。測定によって得られた、気体吸蔵量と温度との関係を表わすグラフを図1に示す。液体窒素温度(77K)において、ポリフィリン1モルあたり窒素ガスを6.4モル吸蔵した。この気体吸蔵量から求めた細孔径は、8.0オングストロームであった。
【0077】
<錯体を用いた水素化反応>
上記手順で合成したCuTCPPRh(II)錯体を用いて、実施例1と同様の条件で水素化反応を実施した。水素化の反応初期速度は656×10-9モル/秒・gであった。
【0078】
・比較例1(TCCPRh(II)錯体):
参考例1で製造したTCPPRh(II)錯体を用いて、実施例1と同様の条件で水素化反応を実施した。
5分後の平均水素化速度は4.6×10-4モル/秒・g、10分後のそれは1.48×10-3モル/秒・gであった。
【0079】
上記の結果より、実施例1の有機金属錯体(PdTCCPRh(II)錯体)及び実施例2の有機金属錯体(CuTCCPRh(II)錯体)は、比較例1の有機金属錯体(TCCPRh(II)錯体)と比較して、何れも高い触媒活性を有しており、優れた水素化反応用触媒として使用できることが分かる。
【0080】
以上の結果から明らかなように、本発明の金属含有ポルフィリン構造を有する有機金属錯体は、水素化反応の触媒として用いた場合に、低温でも優れた触媒活性を示し、工業的に極めて有利であることが見出された。本発明の有機金属錯体は、細孔の存在によって単位体積当たりのガス吸着能力が高いことから、反応物質と活性を有する金属部分とが効率良く接触でき、且つ、ポルフィリン部分の中心に金属が存在することで、より高い触媒能力が発揮されたものと考えられる。
【0081】
【発明の効果】
本発明の有機金属錯体は、ポルフィリン骨格を有する新規な構造を有するとともに、気体吸蔵物質や水素化反応用触媒として優れた活性を有することから、これらの用途に好適に用いることができる。また、容易且つ安価に製造でき、工業的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1及び実施例1,2の有機金属錯体の気体吸蔵量と温度との関係を表わすグラフである。
【図2】参考例1の有機金属錯体の細孔分布を表わすグラフである。
【図3】参考例1の有機金属錯体の磁化率と温度との関係を表わすグラフである。
Claims (5)
- 金属原子と、該金属原子に配位結合した金属ポルフィリン構造を有する配位子とから構成された、下記一般式(1)に示される2次元格子構造を繰り返し単位として有することを特徴とする有機金属錯体。
- 請求項1に記載の有機金属錯体からなることを特徴とする気体吸蔵物質。
- 上記一般式(1)中、M 1 がRhであり、M 2 がPdであり、R 1 、R 2 、R 3 、及びR 4 が各々フェニル基であり、R 5 、R 6 、R 7 、R 8 、R 9 、R 10 、R 11 、及びR 12 は各々水素である、請求項1に記載の有機金属錯体からなることを特徴とする水素化反応用触媒。
- 請求項3記載の水素化反応用触媒の存在下で水素化反応を行なうことを特徴とする水素化反応方法。
- 該水素化反応が気相中で行なわれることを特徴とする、請求項4記載の水素化反応方法。
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