以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
図1〜図4は本発明の一実施例を示すものであり、図1は車両用ブレーキ装置の全体構成を示す図、図2は右後輪用車輪ブレーキの縦断面図、図3はイコライザおよびパーキングブレーキ力発生手段の縦断面図、図4はパーキングブレーキ作動状態での図3に対応した縦断面図である。
先ず図1において、車両が備える左右の駆動輪である左、右前輪には、ディスクブレーキである左、右前輪用車輪ブレーキ5FL,5FRが装着され、左右の従動輪である左、右後輪には、後述の図2で示すパーキングブレーキ機構50をそれぞれ備えるディスクブレーキである左、右後輪用車輪ブレーキ5RL,5RRが装着され、左、右前輪用車輪ブレーキ5FL,5FRおよび左、右後輪用車輪ブレーキ5RL,5RRは、第1ブレーキ系統B1の左前輪用車輪ブレーキ5FLおよび右後輪用車輪ブレーキ5RRと、第2ブレーキ系統B2の右前輪用車輪ブレーキ5FRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RLとに分けられる。
車両運転者がブレーキペダルPを操作するのに応じてブレーキ液圧を出力するマスタシリンダMはタンデム型のものであり、このマスタシリンダMは、車両運転者がブレーキペダルPに加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する第1および第2出力ポート1A,1Bを備えており、第1出力ポート1Aは第1ブレーキ系統B1に対応した第1出力液圧路3Aに接続され、第2出力ポート1Bは第2ブレーキ系統B2に対応した第2出力液圧路3Bに接続される。
第1出力液圧路3Aは、第1レギュレータ弁17Aを介して第1液圧路20Aに接続され、第2出力液圧路3Bは、第2レギュレータ弁17Bを介して第2液圧路20Bに接続される。
第1液圧路20Aは、液圧制御手段4FLを介して左前輪用車輪ブレーキ5FLに接続されるとともに液圧制御手段4RRを介して右後輪用車輪ブレーキ5RRに接続され、第2液圧路20Bは、液圧制御手段4FRを介して右後輪用車輪ブレーキ5FRに接続されるとともに液圧制御手段4RLを介して左後輪用車輪ブレーキ5RLに接続される。
液圧制御手段4FL,4RRは、第1液圧路20Aならびに左前輪用車輪ブレーキ5FLおよび右後輪用車輪ブレーキ5RR間に設けられる常開型電磁弁6FL,6RRと、それらの常開型電磁弁6FL,6RRに並列に接続される一方向弁7FL,7RRと、第1リザーバ8Aならびに左前輪用車輪ブレーキ5FLおよび右後輪用車輪ブレーキ5RR間に設けられる常閉型電磁弁9FL,9RRとを備える。
液圧制御手段4FR,4RLは、第2液圧路20Bならびに右前輪用車輪ブレーキ5FRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RL間に設けられる常開型電磁弁6FR,6RLと、それらの常開型電磁弁6FR,6RLに並列に接続される一方向弁7FR,7RLと、第2リザーバ8Bならびに右前輪用車輪ブレーキ5FRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RL間に設けられる常閉型電磁弁9FR,9RLとを備える。
第1および第2リザーバ8A,8Bは、共通な電動モータ11で駆動される第1および第2ポンプ10A,10Bの吸入側にそれらのポンプ10A,10B側へのブレーキ液の流通を許容する一方向弁19A,19Bを介して接続されており、前記第1および第2液圧路20,20Bは、第1および第2サクション弁18A,18Bを介して第1および第2ポンプ10A,10Bおよび前記一方向弁19A,19B間に接続されるとともに、第1および第2ダンパ13A,13Bを介して第1および第2ポンプ10A,10Bの吐出側に接続される。
このような液圧制御回路において、第1および第2レギュレータ弁17A,17Bを開弁し、第1および第2サクション弁18A,18Bを閉弁した状態での通常ブレーキ時には、各常開型電磁弁6FL〜6RRが消磁、開弁状態とされるとともに各常閉型電磁弁9FL〜9RRが消磁、閉弁状態とされ、マスタシリンダMの第1出力ポート1Aから出力されるブレーキ液圧は常開型電磁弁6FL,6RRを介して左前輪および右後輪用車輪ブレーキ5FL,5RRに作用する。またマスタシリンダMの第2出力ポート1Bから出力されるブレーキ液圧は、常開型電磁弁6FR,6RLを介して右前輪用および左後輪用車輪ブレーキ5FR,5RLに作用する。
上記ブレーキ中に車輪がロック状態に入りそうになったときには常開型電磁弁6FL〜6RRのうちロック状態に入りそうになった車輪に対応する常開型電磁弁が励磁、閉弁されるとともに、常閉型電磁弁9FL〜9RRのうち上記車輪に対応する常閉型電磁弁が励磁、開弁される。これにより、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧の一部が第1リザーバ8Aまたは第2リザーバ8Bに吸収され、ロック状態に入りそうになった車輪のブレーキ液圧が減圧されることになる。
またブレーキ液圧を一定に保持する際には、常開型電磁弁6FL〜6RRが励磁、閉弁されるとともに常閉型電磁弁9FL〜9RRが消磁、閉弁されることになり、さらにブレーキ液圧を増圧する際には、常開型電磁弁6FL〜6RRが消磁、開弁状態とされるともに、常閉型電磁弁9FL〜9RRが消磁、閉弁状態とされればよい。
このように各常開型電磁弁6FL〜6RRおよび各常閉型電磁弁9FL〜9RRの消磁・励磁を制御することにより、車輪をロックさせることなく、効率良く制動することができる。
ところで、上述のようなアンチロックブレーキ制御中に、電動モータ11は回転作動し、この電動モータ11の作動に伴って第1および第2ポンプ10A,10Bが駆動されるので、第1および第2リザーバ8A,8Bに吸収されたブレーキ液は、第1および第2ポンプ10A,10Bに吸入され、次いで第1および第2ダンパ13A,13Bを経て第1および第2出力液圧路3A,3Bに還流される。このようなブレーキ液の還流によって、第1および第2リザーバ8A,8Bのブレーキ液の吸収によるブレーキペダルPの踏み込み量の増加を防ぐことができる。しかも第1および第2ポンプ10A,10Bの吐出圧の脈動は第1および第2ダンパ13A,13Bの働きにより抑制され、上記還流によってブレーキペダルPの操作フィーリングが阻害されることはない。
また非ブレーキ操作中に、第1および第2サクション弁18A,18Bを励磁、開弁するとともに電動モータ11で第1および第2ポンプ10A,10Bを駆動し、第1および第2レギュレータ弁17A,17Bによって第1および第2液圧路20A,20Bの液圧を調整することにより、トラクション制御や車両安定性制御を行うことができる。
図2において、右後輪用車輪ブレーキ5RRでは、車輪とともに回転するブレーキディスク21の両側に第1摩擦パッド22および第2摩擦パッド23が対向して配置される。これらの第1および第2摩擦パッド22,23は、ブレーキディスク21に当接可能なライニング22a,23aと、ライニング22a,23aの背面に固定された裏板22b,23bとで構成されるものであり、車体に固定されたブラケット24に、前記裏板22b,23bがブレーキピストン28の軸線方向に移動自在に支持される。またブラケット24には、第1および第2摩擦パッド22,23を跨ぐブレーキキャリパ25が前記ブレーキピストン28の軸線方向に移動自在に支持される。
ブレーキキャリパ25は、第1摩擦パッド22の裏板22bに対向する第1挟み腕25aと、第2摩擦パッド23の裏板23bに対向する第2挟み腕25bとを備えており、第1および第2挟み腕25a,25bはブレーキディスク21の外周部を通る架橋部25cにより一体に連結される。第1挟み腕25aにはシリンダ孔26が設けられており、このシリンダ孔26にカップ状のブレーキピストン28がシール部材27を介して摺動自在に嵌合される。第1摩擦パッド22の裏板22bに当接可能に対向するブレーキピストン28の先端部はベローズ状のダストカバー29によってシリンダ孔26の開口端に接続され、またブレーキピストン28の背面を臨ませるブレーキ液圧室30が第1挟み腕25a内に形成され、このブレーキ液圧室30は、第1挟み腕25aに設けられるポート31を介して常開型電磁弁6RRおよび常閉型電磁弁9RRに接続される。
前記ブレーキキャリパ25の第1挟み腕25a内には、アジャスト機構32が設けられるものであり、このアジャスト機構32は、ブレーキピストン28に相対回転不能に連結されて前記ブレーキ液圧室30に収納される調整ナット33と、該調整ナット33に前端部が螺合される調整ボルト34と、前記ブレーキ液圧室30の後部に配置されるとともに軸線まわりの回転を不能としつつ軸線方向の移動を可能としてブレーキキャリパ25に液密にかつ摺動自在に嵌合される中継ピストン35と、前記調整ボルト34の後部に一体にかつ同軸に連設されて前記中継ピストン35に液密にかつ摺動自在に嵌合されるとともに前記中継ピストン35に摩擦係合する方向に弾発付勢される小ピストン36とを備える。
ブレーキキャリパ25の第1挟み腕25aにおいてブレーキディスク21とは反対側の端部にはシリンダ孔26よりも小径の中継シリンダ孔37が同軸に設けられており、段付きの中継ピストン35の後部が、その前部をシリンダ孔26の後部に挿入しつつシール部材38を介して中継シリンダ孔37に摺動自在に嵌合される。しかもブレーキキャリパ25および中継ピストン35には、シリンダ孔26および中継シリンダ孔37と平行な軸線を有してシリンダ孔26の軸線からオフセットした位置に配置される規制ピン39の両端部が嵌合される。これにより中継ピストン35は、シリンダ孔26および中継シリンダ孔37と同軸の軸線まわりに回転することが阻止されるとともに前記軸線に沿う方向への移動を可能としてブレーキキャリパ25に支承されることになる。
中継ピストン35には、テーパ状のクラッチ面40を前端開口部に備える小シリンダ孔41が同軸に設けられる。一方、調整ボルト34の後部には、前記クラッチ面40に摩擦係合し得る可動クラッチ体42と、前記小シリンダ孔41に液密にかつ摺動自在に嵌合する小ピストン36とが同軸にかつ一体に連設される。
シリンダ孔26の内面に装着されたクリップ44に係合支持されるリテーナ45には、可動クラッチ体42を中継ピストン35のクラッチ面40に摩擦係合させるばね力を発揮するクラッチばね43の一端が当接され、該クラッチばね43の他端は可動クラッチ体42に当接する。
調整ナット33および調整ボルト34は、ピッチの粗い複数条のねじ山およびねじ溝を有する早ねじ47により噛み合っている。調整ナット33をブレーキピストン28側に付勢するばね力を発揮するオーバーアジャスト防止ばね48の一端が調整ナット33に当接され、ブレーキピストン28の内面に装着されたクリップ49に係合支持されるリテーナ50に前記オーバーアジャスト防止ばね48の他端が当接、支持される。
調整ナット33およびブレーキピストン28は、それらの当接部の凹凸係合により相対回転不能であり、かつ第1摩擦パッド22の裏板22bおよびブレーキピストン28は、それらの凹凸係合により相対回転不能である。
このようなアジャスト機構32では、通常ブレーキ時にブレーキ液圧室30に液圧が供給されると、その液圧を受けたブレーキピストン28がシール部材27を弾性変形させながらシリンダ孔26内を図2の左側に移動し、第1摩擦パッド22をブレーキディスク21の一側面に押し付けると、その反作用でブレーキキャリパ25がブレーキピストン28の移動方向と逆方向の右側に移動し、第2挟み腕25bが第2摩擦パッド23をブレーキディスク21の他側面に押し付ける。その結果、第1および第2摩擦パッド22,23がブレーキディスク21の両面に均等な面圧で当接し、車輪を制動するブレーキ力が発生する。
上記ブレーキ中に、ブレーキ液圧室30に供給された液圧は、調整ナット33には軸線方向の荷重を発生させることはないが、調整ナット33に噛み合う調整ボルト34と一体の可動クラッチ体42には、小ピストン36の断面積に前記液圧を乗算した大きさの右向きの荷重を発生させ、その荷重に応じた摩擦係合力が可動クラッチ体42および中継ピストン35のクラッチ面40間に作用する。
ところで、通常ブレーキ時にはブレーキ液圧室30に作用する液圧は比較的低いため、可動クラッチ体42および中継ピストン35間に作用する摩擦係合力も比較的小さい。このため第1および第2摩擦パッド22,23のライニング22a,23aの摩耗の進行に伴ってブレーキピストン28が前進すると、調整ナット33はオーバーアジャスト防止ばね48の弾発力によりブレーキピストン28と共に前進し、調整ナット33に噛み合う調整ボルト34と一体の可動クラッチ体42が、ブレーキ液圧室30に作用する液圧およびクラッチばね43の弾発力に抗して中継ピストン35のクラッチ面40から引き離される。
可動クラッチ体42が中継ピストン35のクラッチ面40から離れると、可動クラッチ体42に作用する液圧およびクラッチばね43の弾発力で右向きに付勢された調整ボルト34は、回転不能な調整ナット33に対して早ねじ47において相対回転しながら右向きに移動し、可動クラッチ体42が中継ピストン35のクラッチ面40に再び係合する。
このようにして、第1および第2摩擦パッド22,23におけるライニング22a,23aの摩耗が進行するに伴い、その摩耗量を補償するように調整ボルト34に対して調整ナット33が左側に相対移動するため、非制動時における第1および第2摩擦パッド22,23のライニング22a,23aとブレーキディスク21とのクリアランスを自動的に一定に保つことができる。
ブレーキ状態を解除すべくブレーキ液圧室30に作用する液圧を減圧すると、シール部材27の変形復元力でブレーキピストン28は後退するが、その後退力が調整ナット33および調整ボルト34を介して可動クラッチ体42を中継ピストン35のクラッチ面40に係合させるため、調整ナット33に対する調整ボルト34の相対回転が規制される。したがってブレーキピストン28は調整ナット33および調整ボルト34間のバックラッシュ分のストロークしか後退することができず、第1および第2摩擦パッド22,23と、ブレーキディスク21との間には前記バックラッシュ分の適正なクリアランスが与えられる。
また強力な制動が行われた場合には、ブレーキ液圧室30の液圧が所定値に上昇するまで上記自動調整が行われ、その液圧が前記所定値を超えると、可動クラッチ体42が中継ピストン35のクラッチ面40に液圧で強く押し付けられるため、可動クラッチ体42および中継ピストン35が相対回転不能に結合される。その結果、調整ボルト34が回転不能に拘束され、もともと回転不能な調整ナット33は調整ボルト34上に留まるため、液圧によるブレーキキャリパ25の弾性変形に伴ってブレーキピストン28が更に前進すると、オーバーアジャスト防止ばね48を圧縮しつつ、調整ナット33を残してブレーキピストン28だけが前進する。このようにして、強力な制動が行われた場合の調整ナット33および調整ボルト34間のオーバーアジャストが防止される。
パーキングブレーキ機構50は、ブレーキキャリパ25における第1挟み腕25aの外端部に配設されるものであり、シリンダ孔26の軸線と直交する軸線を有するとともにニードルベアリング53を介して第1挟み腕25aの外端部に回転自在に支承されるカム軸52と、前記中継ピストン35の後端に対向して前記カム軸52に形成されたカム面54および前記中継ピストン35の後端間を連接するプッシュシュロッド55と、第1挟み腕25aから突出したカム軸52の一端に基端部が固着されるレバー56とを備える。
前記レバー56の先端にはワイヤ57RRが連結されており,このワイヤ57RRに牽引力が作用すると、レバー56およびカム軸52は図2の反時計方向に回動し、カム面54で押されるプッシュロッド55によって中継ピストン35が前方(図2の左方)に押されることになる。
したがって右後輪用車輪ブレーキ5RRをパーキングブレーキ状態とするときにはワイヤ57RRを牽引すればよく、そうすれば、中継ピストン35が調整ボルト34および調整ナット33を介してブレーキピストン28を押すことになり、第1および第2摩擦パッド22,23をブレーキディスク21に押しつけて制動力を得ることができる。
左後輪用車輪ブレーキ5RLも、上述の右後輪用車輪ブレーキ5RRと同様に構成されており、ワイヤ57RL(図1参照)に牽引力を作用せしめることにより、左後輪用車輪ブレーキ5RLをブレーキ作動せしめてパーキングブレーキ状態を得ることができる。
図1に示すように、前記ワイヤ57RR,57RLにはイコライザ58から均等な牽引力が作用するものであり、このイコライザ58には、パーキングブレーキ力発生手段60から牽引力が作用する。
図3において、前記イコライザ58は、車両の図示しない車体に固定されるイコライザケース61と、該イコライザケース61を移動自在に貫通する前記ワイヤ57RR,57RLが同一方向から連結されるようにして前記イコライザケース61内に移動可能に収納されるイコライザプレート62と、前記イコライザケース61に固定される支持部材63と、前記ワイヤ57RR,57RLを緩める側に前記イコライザプレート62を付勢するばね力を発揮するようにして前記支持部材63およびイコライザプレート62間に縮設される戻しばね64とを備え、前記両ワイヤ57RR,57RLの連結部間の中央で前記イコライザプレート62には、前記イコライザケース61を移動自在に貫通するパーキングワイヤ65の一端が、前記ワイヤ57RR,57RLと反対側から連結される。
而してパーキングワイヤ65が牽引されると、イコライザプレート62を介して両ワイヤ57RL,57RRに牽引力が均等に伝達され、それにより右後輪用車輪ブレーキ5RRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RLによるパーキングブレーキ状態が得られることになる。
パーキングブレーキ力発生手段60は、回動中心Cまわりに回動可能であるとともに前記パーキングワイヤ65の他端が一端に連結される回動レバー66と、液圧作用に応じて前進作動する第1および第2パーキングピストン67,68を有するとともにそれらのパーキングピストン67,68の前進作動に応じて前記パーキングワイヤ65を牽引する側に前記回動レバー66を回動すべく該回動レバー66の他端に前記パーキングワイヤ65とは反対側から第1パーキングピストン67の前端を連接せしめる液圧シリンダ69と、前記回動中心Cを中心とした仮想円弧SA上に並んで前記回動レバー66の側面に設けられる複数のラチェット歯70…ならびに該ラチェット歯70…に係合する係合爪71を有するととともに前記回動レバー66に関して前記液圧シリンダ69とは反対側に配設されるラチェット機構72とを備える。
前記回動レバー66の中間部は、車体に取り付けられる支持体73に、軸線を前記回動中心Cとした支軸74を介して回動可能に支承される。また前記液圧シリンダ69のシリンダ体75は、前記回動レバー66側の一端を開放するとともに他端が蓋部材76で液密に閉じられるようにして前記支持体73に一体に形成されており、シリンダ体75の軸線CLは、前記回動レバー66から離反するにつれて前記パーキングワイヤ65の長手方向延長線Lに近接するように該延長線Lに対して傾斜して配置される。
第1および第2パーキングピストン67,68は、第1パーキングピストン67の後方に第2パーキングピストン68が配置されるようにして同一シール外径を有しつつ前記シリンダ体75に摺動可能に嵌合される。また第1パーキングピストン67は、相互間に環状凹部67cを形成するようにして軸方向に間隔をあけた前方側ランド部67aおよび後方側ランド部67bを有し、後方側ランド部67bがシリンダ体75に液密に嵌合される。また前方側ランド部67aには、その一直径線に沿う凹部85が前方に開くようにして設けられ、該凹部85内に挿入される回動レバー66の他端部が前記凹部85の閉塞端に当接される。第2パーキングピストン68は、相互間に環状凹部68cを形成するようにして軸方向に間隔をあけた前方側ランド部68aおよび後方側ランド部68bを有し、後方側ランド部68bがシリンダ体75に液密に嵌合され、前方側ランド部68aが第1パーキングピストン67の後端に同軸に当接される。
而して第1パーキングピストン67の後方側ランド部67bおよび第2パーキングピストン68の後方側ランド部68b間でシリンダ体75内には、第1パーキングピストン67の背面を臨ませる第1パーキング液圧室77が形成され、シリンダ体75の後部端壁である蓋部材76および第2パーキングピストン68の後方側ランド部67b間には第2パーキングピストン68の背面を臨ませる第2パーキング液圧室78が形成される。
第1パーキング液圧室77は、前記シリンダ体75に取り付けられる常閉型電磁弁79Aおよび導圧路80A(図1参照)を介して第1ブレーキ系統B1の第1液圧路20Aに接続され、第2パーキング液圧室78は、前記シリンダ体75に取り付けられる常閉型電磁弁79Bおよび導圧路80B(図1参照)を介して第2ブレーキ系統B2の第2液圧路20Bに接続される。
而して第1および第2液圧路20A,20Bに、マスタシリンダMからの液圧もしくは第1および第2ポンプ10A,10Bからの液圧が作用している状態で、常閉型電磁弁79A,79Bを開弁して第1および第2パーキング液圧室77,78に液圧を作用せしめると、図4で示すように、第1および第2パーキングピストン67,68が前進作動し,それにより回動レバー66がパーキングワイヤ65を牽引する方向に回動作動し、右後輪用車輪ブレーキ5RRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RLをブレーキ作動せしめてパーキングブレーキ状態が得られることになる。
ラチェット機構72は、パーキングブレーキ状態を得るように回動した回動レバー66に係合して該回動レバー66の回動位置を機械的に保持するものであり、係合爪71は、前記支軸74の軸線と平行な軸線を有する他の支軸81を介して支持体73に回動可能に支承されるとともに、ラチェット歯70…の1つに係合する方向にねじりばね82でばね付勢される。
このようなラチェット機構72によれば、ラチェット歯70…が係合爪71をはね上げるようにして回動した回動レバー66の静止時には、係合爪71がラチェット歯70に係合することにより、回動レバー66の回動位置が機械にロックされることになる。
しかも液圧シリンダ69の作動に応じて回動レバー66が回動した状態すなわち図4で示した状態にあって、前記液圧シリンダ69の前記回動レバー66への液圧力作用点および前記回動中心C間の距離をr1、前記パーキングワイヤ65の回動レバー66への連結点および前記回動中心C間の距離をr2、前記仮想円弧SAの半径をr3としたときに、r1<r2,r3≦r2に設定されている。
前記ラチェット機構72による回動レバー66のロック状態は、前記支持体73に取り付けられるソレノイド83で解除されるものであり、該ソレノイド83は、通電時に引き込まれる連結ロッド84を有し、該連結ロッド84は、ソレノイド83の通電時に前記ラチェット歯70との係合を解除する側に前記係合爪71を強制的に回動するようにして係合爪71に連結される。而してソレノイド83によって連結ロッド84を引っ張って回動レバー66のロック状態を解除する際には、ラチェット歯70および係合爪71の係合を解除し易くするために、常閉型電磁弁79A,79Bを一旦開弁して第1および第2パーキング液圧室77,78に液圧を作用することで液圧シリンダ69を伸長作動せしめて回動レバー66を回動させつつ前記ソレノイド83に通電する。
次にこの実施例の作用について説明すると、右後輪用車輪ブレーキ5RRおよび左後輪用車輪ブレーキ5RLに設けられたパーキングブレーキ機構50…を作動せしめるためのパーキングワイヤ65を牽引する力を発生するパーキングブレーキ力発生手段60は、回動中心Cまわりに回動可能であるとともにパーキングワイヤ65が一端に連結される回動レバー66と、液圧作用に応じて前進作動する第1および第2パーキングピストン67,68を有するとともにそれらのパーキングピストン67,68の前進作動に応じて前記パーキングワイヤ65を牽引する側に前記回動レバー66を回動すべく該回動レバー66の他端に前記パーキングワイヤ65とは反対側から第1パーキングピストン67の前端を連接せしめる液圧シリンダ69と、前記回動中心Cを中心とした仮想円弧SA上に並んで前記回動レバー65の側面に設けられる複数のラチェット歯70…ならびに該ラチェット歯70…に係合する係合爪71を有するととともに前記回動レバー65に関して前記液圧シリンダ69とは反対側に配設されるラチェット機構72とを備えている。
このように液圧シリンダ69の作動によって回動レバー66を回動してパーキングワイヤ65を牽引するようにしたパーキングブレーキ力発生手段60の構成によれば、複雑なリンク機構を不要とするとともに液圧シリンダ69の長さを極力短く設定することを可能としつつ、パーキングワイヤ65を充分な量だけ牽引することが可能であり、またパーキングワイヤ65を牽引した状態で回動レバー66の回動位置を保持するためのラチェット機構72では充分な長さにわたってラチェット歯70…を配設することができる。
しかも液圧シリンダ69は、回動レバー66から離反するにつれてパーキングワイヤ66の長手方向延長線Lに近接するように該長手方向延長線Lに対して傾斜した軸線CLを有するものであるので、パーキングワイヤ65の長手方向に沿ってパーキングブレーキ力発生手段60をコンパクトに構成することができる。
また回動レバー66、液圧シリンダ69およびラチェット機構72が共通の支持体73に配設されるとともにラチェット機構72による回動レバー66のロック状態を解除するためのソレノイド83も支持体73に配設されており、回動レバー66、液圧シリンダ69、ラチェット機構72およびソレノイド83をユニット化して車体への組付け性を高めることができる。
しかもパーキングブレーキ力発生手段60の作動状態において、液圧シリンダ69の前記回動レバー66への液圧力作用点および前記回動中心C間の距離をr1、前記パーキングワイヤ65の回動レバー66の連結点および前記回動中心C間の距離をr2としたときに、r1<r2に設定されるので、パーキングワイヤ65を充分な量だけ牽引するために液圧シリンダ69の作動ストロークが大きくなり過ぎることはなく、またラチェット歯70d…が並設される仮想円弧SAの半径をr3としたときに、r3≦r2に設定されるので、ラチェット機構72の配置によるパーキングブレーキ力発生手段60の大型化を抑えることができる。
さらにパーキングブレーキ力発生手段60の液圧シリンダ69は、第1ブレーキ系統B1の第1液圧路20Aならびに第2ブレーキ系統B2の第2液圧路20Bに個別に接続される第1および第2パーキング液圧室77,78に背面をそれぞれ臨ませた第1および第2パーキングピストン67,68が共通なシリンダ体75に摺動可能に嵌合されて成るものであり、マスタシリンダMの出力液圧ならびに第1および第2ポンプ10A,10Bの出力液圧のいずれでも液圧シリンダ69を作動せしめて回動レバー66を回動し、パーキングブレーキ機構50…を作動せしめることができる。しかも第1および第2液圧路20A,20Bのいずれか一方で液圧失陥が生じても、他方の液圧路の液圧を第1および第2パーキング液圧室77,78の他方に作用せしめることで第1および第2パーキングピストン67,68の少なくとも一方を前進作動せしめることができ、一対のブレーキ系統B1,B2のいずれで液圧失陥が生じても確実にパーキングブレーキ機構50…を作動せしめることができる。
しかも同一シール外径を有する第1および第2パーキングピストン67,68が、第1パーキングピストン67の後方に第2パーキングピストン68が配置されるように同軸に並んで前記シリンダ体75に摺動可能に嵌合され、前記シリンダ体75の後部端壁76および第2パーキングピストン68間に第2パーキング液圧室78が形成され、第1および第2パーキングピストン67,68間に第1パーキング液圧室77が形成され、第1パーキングピストン67の前端が前記回動レバー66の他端部に連接されるものであるので、液圧失陥が生じていない状態では、第1および第2パーキング液圧室77,78に同時に液圧を作用せしめることで、第1パーキングピストン67をより速やかに前進作動せしめることができ、パーキングブレーキ時の応答速度を速めることができる。さらにマスタシリンダMの出力液圧でパーキングブレーキ状態を得るときには、両ブレーキ系統B1,B2での液損を等しくし、両ブレーキ系統B1,B2間で制動力のアンバランスが生じることはない。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。