ところで、一般的な光ピックアップ装置において、軸外特性やトラッキング特性等を考慮すると、対物光学素子に入射する光束は、有限光束でなく無限平行光束であることが望ましい。そこで光源から出射された発散光束をコリメートレンズにより平行光束に変換し、対物光学素子に入射させるのが一般的である。
ところが、上述したように、高密度光ディスクと従来のDVD及びCDに対して互換可能に情報の記録及び/又は再生を行おうとした場合、使用波長が短く、NAも高く、高い精度を必要とする高密度光ディスクにおいて無限平行光束とした設計が行なわれることが多く、かかる条件下で波長が長くかつ保護層の厚さが厚いCDに対して無限平行光束を入射させると、波長と保護層厚の差に起因する球面収差が大きくなり問題となる。これを解決するためには、例えば対物光学素子に互換させるための位相構造を持つ補正素子を用いてCDでも球面収差を補正しながら無限平行光束を入射させる等の方法がある。しかし、保護層の厚さが厚いCDに対して無限平行光束を入射させると、CDのワーキングディスタンス(作動距離ともいい、対物光学素子の光ディスク側の最突出位置と光ディスクとの間隔)が小さくなってしまい、回転する光ディスクが対物光学素子と干渉(衝突)する可能性が高くなる。これにより互換可能な光ピックアップ装置が成立しなくなる恐れがあり問題である。これに対し、ワーキングディスタンスを長く確保するために、CDに対して情報の記録及び/又は再生を行う際に用いる光束を、有限の発散光束として対物光学素子に入射させる構成が考えられる。
しかしながら、対物光学素子に有限発散光束を入射させようとすると、光束の軸線と、対物光学素子の光軸との間にズレが生じたときに、コマ収差が発生する恐れがあり、従ってトラッキング特性が悪化するという問題がある。
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、十分なワーキングディスタンスを確保しつつも、高密度光ディスクとDVDとCDを含む異なる種類のディスクに対して情報の記録及び/又は再生を適切に行うことができる対物光学素子を搭載した光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
本明細書においては、情報の記録/再生用の光源として、青紫色半導体レーザや青紫色SHGレーザを使用する光ディスク(光情報記録媒体ともいう)を総称して「高密度光ディスク」といい、NA0.85の対物光学系により情報の記録/再生を行い、保護層の厚さが0.1mm程度である規格の光ディスク(例えば、BD:ブルーレイディスク)の他に、NA0.65乃至0.67の対物光学系により情報の記録/再生を行い、保護層の厚さが0.6mm程度である規格の光ディスク(例えば、HD DVD)も含むものとする。また、このような保護層をその情報記録面上に有する光ディスクの他に、情報記録面上に数〜数十nm程度の厚さの保護膜を有する光ディスクや、保護層或いは保護膜の厚さが0の光ディスクも含むものとする。また、本明細書においては、高密度光ディスクには、情報の記録/再生用の光源として、青紫色半導体レーザや青紫色SHGレーザを使用する光磁気ディスクも含まれるものとする。
また、本明細書において、「対物光学素子」とは、光ピックアップ装置において光ディスクに対向する位置に配置され、光源から射出された波長が互いに異なる光束を、記録密度が互いに異なる光ディスクのそれぞれの情報記録面上に集光する機能を有する集光素子を少なくとも含む光学素子を指す。
更に、本明細書においては、DVDとは、DVD−ROM、DVD−Video、DVD−Audio、DVD−RAM、DVD−R、DVD−RW、DVD+R、DVD+RW等のDVD系列光ディスクの総称であり、CDとは、CD−ROM、CD−Audio、CD−Video、CD−R、CD−RW等のCD系列光ディスクの総称である。記録密度は、高密度光ディスクが最も高く、次いでDVD、CDの順に低くなる。
請求項1に記載の光ピックアップ装置は、第1波長λ1の第1光束を射出する第1光源と、第2波長λ2(λ2>λ1)の第2光束を射出する第2光源と、第3波長λ3(λ3>λ2)の第3光束を射出する第3光源と、前記第1光束を厚さt1の保護層を介して第1光情報記録媒体の情報記録面上に集光させ、前記第2光束を厚さt2(≧t1)の保護層を介して第2光情報記録媒体の情報記録面上に集光させ、前記第3光束を厚さt3(>t2)の保護層を介して第3光情報記録媒体の情報記録面上に集光させ、アクチュエータにより光軸方向及び光軸と交差する方向に駆動されるようになっている対物光学素子と、を有し、前記光源からの光束を前記対物光学系を介して前記光情報記録媒体の情報記録面に集光させることによって情報の記録及び/又は再生を行う光ピックアップ装置であって、
前記第3光源からの光束は、前記対物光学素子に対して有限発散光束として入射するようになっており、
前記対物光学素子と別体であって、少なくとも前記第3光源からの光束が通過する光路内において、前記対物光学素子よりも前記光源側に固定された補正素子が設けられ、
前記補正素子は、前記第3光情報記録媒体の情報記録面に対して情報の記録及び/又は再生を行う際に、前記アクチュエータによる前記対物光学素子の駆動に起因して生じるコマ収差を補正する回折構造を、前記第3光情報記録媒体の使用時における開口数NA3より外側の領域に設けたことを特徴とする。
図1は、本発明にかかる光ピックアップ装置の補正素子と対物光学素子の断面図であり、第3光情報記録媒体(光ディスクともいう)に対して情報の記録及び/又は再生を行う状態を示している。図2は、図1に示す光学系における波面収差の横収差図((a)はメリジオナル方向の断面を示し、(b)はサジタル方向の断面を示す)である。
図1において、第3光情報記録媒体CDの不図示の光源側に、光学素子L1、L2からなる対物光学素子OBJが配置され、更にその光源側に補正素子SEが配置されている。対物光学素子OBJは一体で、不図示のアクチュエータにより光軸方向及び光軸直交方向に駆動されるようになっている。一方、補正素子SEは、光学面の周囲に補正機能部(例えば回折構造)SE1を形成している。第3波長λ3の光束は、有限発散光束の状態で、補正素子SEを通過し、対物光学素子OBJに入射するようになっているので、十分なワーキングディスタンスを稼ぐことができる。図示していないが、第1波長λ1の光束は無限平行光束の状態で、対物光学素子OBJに入射するようになっている。第2波長λ2の光束は無限平行光束又は有限発散光束の状態で、対物光学素子OBJに入射するようになっている。
ここで、図1(a)に示すように、対物レンズOBJの光軸が、補正素子SEの光軸に一致している場合、波長λ3の光束はコマ収差の発生がない状態で第3光情報記録媒体CDの情報記録面に入射するようになっている。しかるに、図1(b)に示すように、対物光学素子OBJがトラッキング駆動されると、対物光学素子OBJの光軸が、補正素子SEの光軸に対しずれることとなる。かかる場合、波長λ3の光束は有限発散光束で対物光学素子OBJに入射するので、光軸ズレに起因してコマ収差が発生する恐れがある(図2の点線に示す収差)。
これに対し、本発明においては、補正素子SEが、補正機能部SE1を形成しているために、対物光学素子OBJのトラッキングにより、補正機能部SE1を通過した光束が対物光学素子OBJに入射するようになる。補正機能部SE1は、通過した第3波長λ3の光束(図1(b)でハッチングで示す部分)に対してコマ収差を補正するように機能する。従って、対物光学素子OBJをトラッキング駆動しても、第3波長λ3の光束におけるコマ収差を補正して、第3光情報記録媒体に対して適切に情報の記録及び/又は再生を行うことができる(図2の実線に示す収差)。
請求項2に記載の光ピックアップ装置は、請求項1に記載の発明において、前記補正素子は、前記第1光源からの光束と、前記第2光源からの光束と前記第3光源からの光束が共通して通過する光路内に配置されていることを特徴とするので、光源から光情報記録媒体までに存在する光学系を共通化し簡素化できる。例えば、3つの光源としての半導体レーザを1つのチップ上に構成した3LD1P(3レーザ1パッケージ)を用いる場合には、共通光路に用いることの出来ない補正素子を用いると、CD用の光束の光路だけ別としたりする構成等で対応しなければならなくなり、装置の複雑化と大型化を招いて望ましくない。
請求項3に記載の光ピックアップ装置は、請求項1又は2に記載の発明において、前記対物光学素子は、前記第1乃至第3光情報記録媒体の保護層の厚さに起因して生じる球面収差を補正する機能を有することを特徴とする。3つの異なる保護層厚に対して球面収差を補正していることで、例えば高密度光ディスクとDVD、CDの3つの光情報記録媒体に対応することが可能となり、仕様の拡張を図ることが出来る。
請求項4に記載の光ピックアップ装置は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記補正素子は、その光学面に光軸を中心とした同心円状の領域を形成したことを特徴とする。
例えば光軸からCD使用時の開口数NA3までの領域を平板として、NA3より外側の領域でトラッキングにより前記対物光学素子が光軸と垂直方向に最大シフトした状態で最外光束がコマ収差用の補正素子の光学面を通過する位置までの領域をコマ収差補正に用いれば、トラッキング等によるレンズシフトが発生しない状況での収差に影響を与えることなく使用することが可能となる。
例えば光軸からCD使用時の開口数NA3までの領域を平板として、NA3より外側の領域でトラッキングにより前記対物光学素子が光軸と垂直方向に最大シフトした状態で最外光束がコマ収差用の補正素子の光学面を通過する位置までの領域を回折構造とすれば、トラッキング等によるレンズシフトが発生しない状況での収差に影響を与えることなくレンズシフト時のコマ収差補正に回折効果を使用することが可能となる。
請求項5に記載の光ピックアップ装置は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記回折構造は、周期的な階段構造を有する重畳型回折構造であることを特徴とする。
回折構造を周期的な階段構造を有する重畳型回折構造とすることで、例えば高密度光ディスクやDVDと共通の光路中にコマ収差用の補正素子を用いる場合、CDよりNAの大きい高密度光ディスク使用時の第1波長λ1や、DVD使用時の第2波長λ2の光束で光を回折させず透過させ、CD使用時の第3波長λ3の光束のみ回折することが可能となるので、高密度光ディスクやDVDの光束に対して影響することなくCD使用時のみコマ収差の補正効果を持たせることが可能となる。
請求項6に記載の光ピックアップ装置は、請求項5に記載の発明において、前記回折構造が以下の式を満たすことを特徴とする。
4.8q≦D・(N1−1)/λ1≦5.2q (2)
D:階段構造の段差
N1:波長λ1の光束に対する前記補正素子の媒質屈折率
q:自然数
(2)式の上下限以内で用いることで、例えば高密度光ディスク使用時の第1波長λ1(390〜420nm)の光束や、DVD使用時の第2波長(650〜680nm)の光束の光利用効率を高くしつつ、CD使用時の第3波長λ3(750〜810nm)のみを回折させてコマ収差補正に寄与させることが出来るので望ましい。
請求項7に記載の光ピックアップ装置は、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明において、前記第1光源からの光束は、前記対物光学素子に対して無限平行光束として入射するようになっていることを特徴とする。
前記第1光源からの光束について無限平行光束を入射させると、トラッキング等によるレンズシフトでコマ収差等の発生がなく望ましい。使用波長が短く、NAも高く、高い精度を必要とする高密度光ディスクにおいて光束を有限光束として対物光学素子に入射させると、トラッキング等によるレンズシフトで発生するコマ収差が問題となる恐れがあるので望ましくない。
請求項8に記載の光ピックアップ装置は、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明において、前記第2光源からの光束は、前記対物光学素子に対して無限平行光束として入射するようになっていることを特徴とする。
前記第2光源からの光束について無限平行光束を入射させると、トラッキング等によるレンズシフトでコマ収差等の発生がなく望ましい。
請求項9に記載の光ピックアップ装置は、請求項1乃至7のいずれかに記載の発明において、前記第2光源からの光束は、前記対物光学素子に対して有限発散光束として入射するようになっていることを特徴とする。
前記第2光源からの光束について有限発散光束を入射させると、ワーキングディスタンスの確保に対して有利となるので望ましい。
請求項10に記載の光ピックアップ装置は、請求項9に記載の発明において、前記第2光源から出射された光束が前記対物光学素子に入射する際の倍率は、前記第3光源から出射された光束が前記対物光学素子に入射する際の倍率に等しいことを特徴とする。
両者の倍率を等しくすることで、例えばDVDとCDに対応する2つの光源である半導体レーザを同一チップ上に構成した2LD1P(2レーザ1パッケージ)を用いた場合に、1つのカップリングレンズを移動等させることなく用いることが出来、装置の簡素化が図れるので望ましい。また、ここで、第2光束のコマ収差を補正するためのコマ収差用の補正素子を設けると、第2光束で問題となるトラッキング等によるレンズシフト時のコマ収差の補正も可能となり望ましい。その際、第3光束のコマ収差用の補正素子と別体のコマ収差用の補正素子としてもよいが、それらと同一のものとして2つのコマ収差補正機能を有する1つ素子として用いると、部品点数が削減され装置の簡素化や低コスト化に効果があるので望ましい。
請求項11に記載の光ピックアップ装置は、請求項9に記載の発明において、前記第2光源から出射された光束が前記対物光学素子に入射する際の倍率は、前記第3光源から出射された光束が前記対物光学素子に入射する際の倍率と異なることを特徴とする。
例えばDVD使用時の有限倍率をCD使用時の有限倍率よりも小さくすることで、DVD使用時のトラッキング等によるレンズシフト時のコマ収差の発生を低減することが可能となるので、コマ収差用の補正素子のような外部補正が不要となり、装置の簡素化や低コスト化が図れる。
請求項12に記載の光ピックアップ装置は、請求項9乃至11のいずれかに記載の発明において、前記補正素子は、前記第3光源から出射される波長λ3の光束に対して選択的に補正を行うことを特徴とする。
前記補正素子が波長λ3の光束に対して選択的に補正を行う構成とすることで、例えば高密度光ディスクやDVDと共通の光路中にコマ収差用の補正素子を用いる場合、CD使用時よりNAの大きい高密度光ディスク使用時の第1波長λ1や、DVD使用時の第2波長λ2の光束に影響することなく、選択的にCD使用時の第3波長λ3の光束のみに機能させることが可能となるので、高密度光ディスクやDVDの光束に対して影響することなくCDのみコマ収差の補正効果を持たせることが可能となる。
本発明によれば、十分なワーキングディスタンスを確保しつつも、高密度光ディスクとDVDとCDを含む異なる種類のディスクに対して情報の記録及び/又は再生を適切に行うことができる対物光学素子を搭載した光ピックアップ装置を提供することができる。
本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しつつ説明する。
[第1の実施の形態]
図3は、高密度光ディスクHD(第1光情報記録媒体)とDVD(第2光情報記録媒体)とCD(第3光情報記録媒体)との何れに対しても、適切に情報の記録/再生を行える第3の光ピックアップ装置PU1の構成を概略的に示す図である。高密度光ディスクHDの光学的仕様は、第1波長λ1=408nm、第1保護層PL1の厚さt1=0.1mm、開口数NA1=0.85であり、DVDの光学的仕様は、第2波長λ2=658nm、第2保護層PL2の厚さt2=0.6mm、開口数NA2=0.65であり、CDの光学的仕様は、第3波長λ3=785nm、第3保護層PL3の厚さt3=1.2mm、開口数NA3=0.49である。
光ピックアップ装置PU1は、高密度光ディスクHDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され408nmのレーザ光束(第1光束)を射出する第1の発光部E1(第1光源)と、DVDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され658nmのレーザ光束(第2光束)を射出する第2の発光部E2(第2光源)と、CDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され785nmのレーザ光束(第3光束)を射出する発光部E3とを同一パッケージ内に収容した(一体化された)3レーザ1パッケージ3L1Pを有している。3レーザ1パッケージ3L1Pにおいて、光学系の設計上最も厳しい第1の発光部E1が、光ピックアップ装置PU1の光軸上に配置されていると好ましいが、第2の発光部E2又は第3の発光部E3を光ピックアップ装置PU3の光軸上に配置しても良く、或いは全ての発光部を軸外に配置しても良い。更に、第3の実施の形態(及び後述する第4の実施の形態)では、光検出器を別に設けているが、3レーザ1パッケージ3L1P内部又はその近傍に設けることもでき、それにより偏光ビームスプリッタPBSと光検出器PDとを省略できる。
光ピックアップ装置PU1において、高密度光ディスクHDに対して情報の記録/再生を行う場合には、3レーザ1パッケージ3L1Pを作動させて第1の発光部E1を発光させる。第1の発光部E1から射出された発散光束は、図3において実線でその光線経路を描いたように、ビーム整形素子BSを透過することにより、その断面形状が楕円形から円形に整形され、偏光ビームスプリッタPBSを透過し、コリメートレンズCOLを経て平行光束又は略平行光束(略平行光束とは、光軸と光束マージナル光がなす角度が±1度以内である光束をいう)とされた後、1/4波長板QWP及び補正素子SEを通過し、絞りSTOにより光束径が規制され、対物光学素子OBJによって第1保護層PL1を介して情報記録面RL1上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL1で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、補正素子SE及び1/4波長板QWPを通過し、コリメートレンズCOLによって収斂光束とされ、偏光ビームスプリッタPBSで反射されて、センサ用レンズCULを透過した後、光検出器PDで受光される。光検出器PDの出力信号を用いて、高密度光ディスクHDに記録された情報を読み取ることができる。
また、光ピックアップ装置PU1においてDVDに対して情報の記録/再生を行う場合には、3レーザ1パッケージ3L1Pを作動させて第2の発光部E2を発光させる。第2の発光部E2から射出された発散光束は、図3において点線でその光線経路を描いたように、ビーム整形素子BSを透過することにより、その断面形状が楕円形から円形に整形され、偏光ビームスプリッタPBSを透過し、コリメートレンズCOLを経て平行光束又は略平行光束とされた後、1/4波長板QWP及び補正素子SEを透過し、絞りSTOにより光束径が規制され、対物光学素子OBJによって第2保護層PL2を介して情報記録面RL2上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL2で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、補正素子SE、1/4波長板QWPを通過し、コリメートレンズCOLによって収斂光束とされ、偏光ビームスプリッタPBSで反射されて、センサ用レンズCULを透過した後、光検出器PDで受光される。光検出器PDの出力信号を用いて、DVDに記録された情報を読み取ることができる。
また、光ピックアップ装置PU3においてCDに対して情報の記録/再生を行う場合には、第3光束が有限発散光束の状態でコリメートレンズCOLから射出されるように、1軸アクチュエータAC2によりコリメートレンズCOLを移動させる。その後、3レーザ1パッケージ3L1Pを作動させて第3の発光部E3を発光させる。
第3の発光部E3から射出された発散光束は、図3において一点鎖線でその光線経路を描いたように、ビーム整形素子BSを通過し、偏光ビームスプリッタPBSを透過し、コリメートレンズCOLを経て発散角を変更された後、1/4波長板QWP及び補正素子SEを透過し、絞りSTOにより光束径が規制され、対物光学素子OBJによって第3保護層PL3を介して情報記録面RL3上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL3で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、補正素子SE、1/4波長板QWPを通過し、コリメートレンズCOLによって収斂光束とされ、偏光ビームスプリッタPBSで反射されて、センサ用レンズCULを透過した後、光検出器PDで受光される。光検出器PDの出力信号を用いて、CDに記録された情報を読み取ることができる。
ここで、対物光学素子OBJには有限発散光束が入射するが、コリメートレンズでCDのみを発散有限光束にするには、例えばCD使用時においてコリメートレンズCOLを高密度光ディスク使用時やDVD使用時のコリメートレンズCOLの位置から光軸と平行な方向に移動させることにより可能である。また、コリメートレンズに回折構造HOE等の位相構造を設けて、例えばCDの波長λ3光束のみを選択的に回折させて発散光束を発生させる方法や、コリメートレンズCOL以外で、ビームエキスパンダーを移動させて発散光束を発生させる方法もある。また、本実施の形態ではコリメートレンズCOLを1枚で構成しているが、これを2枚以上の複数枚数で構成し、それらをそれぞれ別に移動させることで発散光束を発生させてもよい。
本実施の形態の光ピックアップ装置は、コマ収差を補正する補正素子SEと、プラスチックからなるL1レンズとガラス材料からなるL2レンズからなる対物光学素子OBJとを有している。
図4に補正素子SEの概略断面図を示す。コマ収差の補正素子SEは対物光学素子OBJの光源側に配置され、平板形状であり、光源側面S1と光ディスク側面S2からなり、前記光ディスク側面S2はNA3内の領域に対応する光軸を含む第1領域AREA1Cと、NA3からNA3光路径に対して〜+0.2〜0.5mmまでの領域に対応する第2領域AREA2Cと、NA3光路径に対して+0.2〜0.5mmの領域より外側の第3領域AREA3C、の3つの領域に分割されていて、その第2領域AREA2Cに、コマ収差補正のための位相構造が配置されている。
コマ収差補正のための位相構造は、図4に示すように、階段構造が形成された複数の輪帯が光軸を中心として配列された構造である回折構造HOEである。第2領域AREA2Cに形成された回折構造HOEにおいて、各輪帯内に形成された階段構造の深さDは、
4.8q ≦ D・(N1−1)/λ1 ≦ 5.2q (2)
で算出される値とすることが望ましいが、本実施形態では階段構造の深さDは、
D・(N1−1)/λ1=5 (3)
で算出される値に設定され、各輪帯内の分割数Pは2に設定されている。但しλ1は第3の発光点EP1から射出されるレーザ光束の波長をミクロン単位で表したものであり、(ここでは、λ1=0.408μm)、N1は波長λ1に対する収差補正素子L1の媒質屈折率、qは自然数である。
光軸方向の深さDがこのように設定された階段構造に対して、第1波長λ1の第1光束が入射した場合、隣接する階段構造間では5×λ1(μm)の光路差が発生し、第1光束は実質的に位相差が与えられないので回折されずに0次回折光として透過する。
また、この階段構造に対して、第2波長λ2(ここでは、λ2=0.658μm)の第2光束が入射した場合、隣接する階段構造間では(5×λ1/(N1−1)・(N2−1)/λ2)×λ2(μm)の光路差が発生する。但し、N2は波長λ2に対する収差補正素子L1の媒質屈折率である。第2波長λ2はλ2/(N2−1)とλ1/(N1−1)の比が略5:3の関係であるので、隣接する階段構造間では略3×λ2(μm)の光路差が発生し、第2光束も第1光束と同様に、実質的に位相差が与えられないので回折されずに0次回折光として透過する。
コマ収差の補正素子SEが平板形状で、かつ第1波長λ1の第1光束及び第2波長λ2の第2光束は回折せずに0次光で透過することから、これら波長の光束は、コマ収差の補正素子SEにより影響されることなく対物光学素子OBJに入射することになる。
一方、この階段構造に対して、第3波長λ3(ここでは、λ3=0.785μm)の第3光束が入射した場合、隣接する階段構造間では{5×λ1/(N1−1)×(N3−1)/λ3}×λ3={5×0.408/(1.5242−1)×(1.5050−1)/0.785}×λ3=2.5・λ3(μm)の光路差が発生する。各輪帯内の分割数Pは2に設定されているため、第3光束は±1次の方向にほぼ同じ回折効率で回折する(+1次回折光と−1次回折光)。本実施例ではCD使用時のトラッキング等による光軸と垂直方向へのレンズシフトの際のコマ収差を+1次回折光を用いて行っており、このときの第2光束の+1次回折光の回折効率は、40%強となる。また−1次回折光は、フレア光となる。
ここで、+1次回折光の回折効率を高くするために、例えば階段形状の光軸と平行な面と光軸と平行でない方の面の傾きを最適化したり、例えば前記光軸と平行でない面の形状を波面収差的に望ましいとされる形状から少し変えたりすることが、よって改善することが出来る。また、L1を構成する材料の媒質分散を変えて、なおかつ階段形状の分割数Pを変えることで効率を高くすることも可能である。
次に、対物光学素子OBJについて説明する。対物光学素子OBJは、プラスチックからなるL1レンズとガラス材料からなるL2レンズからなる。L1レンズは、その光源側面S3に、図5で示すような階段構造が形成された複数の輪帯が光軸を中心として配列された構造である回折構造HOEが形成されており、この位相構造によって第1の波長λ1=408nmの光束は、回折されず0次光として透過し、第2の波長λ2=658nmの光束は+1次の方向に回折される。L1の光ディスク側面S4は、ここでは平面であるが、図7や図8で示すような、設計基準状態においては第1の波長λ1=408nmの光束も第2の波長λ2=658nmの光束も回折することなく透過するが、半導体レーザの波長誤差や、光ピックアップ装置使用時の温度上昇による半導体レーザ波長変化等、設計から波長がずれた場合に、輪帯構造が作用し、上記波長差や温度差で発生する収差を補正する働きをする、輪帯構造が設けられていてもよい。これら光学面S3及びS4のベースとなる面形状は平板形状であるが、これを非球面や複数領域を持つ面としても構わない。
L2レンズはガラスモールド等で作成されるガラスの両面非球面レンズであり、対物光学素子OBJは、L2レンズ単体で倍率M1=0と第1保護層PL1との組合せに対して球面収差が最小となるように設計されている。そのため、本実施の形態のように、第1光束に対する第1倍率M1と、第2光束に対する第2倍率M2を同じ0とする場合、第1保護層PL1と、第2保護層PL2の厚さの違いにより、対物光学素子と第2保護層PL2とを透過した第2光束の球面収差は位相構造なしでは補正過剰方向となってしまう。
L1レンズは、d線での屈折率ndが1.5091であり、アッベ数νdが56.4のプラスチックレンズであり、λ1=408nmに対する屈折率は1.52424、λ2=658nmに対する屈折率は1.50643である。また、L2は、d線での屈折率ndが1.5435であり、アッベ数νdが56.7のプラスチックレンズである。L1レンズとL2レンズとを一体化する場合には、別部材の鏡枠を介するのが普通である。しかし、L1レンズの光学機能部(第1光束が通過するL1レンズの領域)の周囲に、光学機能部と一体に成形されたフランジ部FL1を設け、かかるフランジ部FL1とL2の一部同士を融着や接着等で接合することで一体化されている構造とすることも可能である。
L1レンズの半導体レーザ光源側の光学面S3は、図6(a)に示すように、NA2内の領域に対応する光軸を含む第1領域AREA1と、NA2からNA1までの領域に対応する第2領域AREA2とに分割されており、第1領域AREA1には、図5(a)、(b)に示したような、その内部に階段構造が形成された複数の輪帯が光軸を中心として配列された構造である回折構造(以下、この回折構造を「回折構造HOE」という。)である回折構造HOEが形成されている。
第1領域AREA1に形成された回折構造HOEにおいて、各輪帯内に形成された階段構造の深さD1(μm)は、
D1・(N1−1)/λ1=2・q (4)
で算出される値に設定され、各輪帯内の分割数Pは5に設定されている。但し、λ1は第1の発光点EP1から射出されるレーザ光束の波長をミクロン単位で表したものであり(ここでは、λ1=0.408μm)、N1は波長λ1に対するL1の媒質屈折率、qは自然数である。尚、深さD1とは、回折構造HOEにおける階段の最小ステップの光軸方向長さをいうものとする(図5参照)。
光軸方向の深さD1がこのように設定された階段構造に対して、第1波長λ1の第1光束が入射した場合、隣接する階段構造間では2×λ1(μm)の光路差が発生し、第1光束は実質的に位相差が与えられないので回折されずにそのまま0次回折光として透過する。
一方、この階段構造に対して、第2波長λ2(ここでは、λ2=0.658μm)の第2光束が入射した場合、隣接する階段構造間では{2×λ1/(N1−1)×(N2−1)/λ2}×λ2={2×0.408/(1.52424−1)×(1.50643−1)/0.658}×λ2=1.199・λ2(μm)の光路差が発生する。各輪帯内の分割数Pは5に設定されているため、隣接する輪帯同士で第2波長λ2の1波長分の光路差が生じることになり((1.199−1)×5≒1)、第2光束は+1次の方向に回折する(+1次回折光)。このときの第2光束の+1次回折光の回折効率は、約87%となるが、DVDに対する情報の記録/再生には十分な光量である。
また、ここでL1レンズの光ディスク側の光学面S4は、平面形状であるが、図6(c)に示すように、NA2内の領域に対応する光軸を含む第3領域AREA3と、NA2からNA1までの領域に対応する第4領域AREA4とに分割されていてもよく、それぞれにおいて異なる係数の非球面形状や位相関数を持つ複数の輪帯が光軸を中心として配列された構造とする等で設計自由度を増やすことが出来る。
L1レンズの半導体レーザ光源側の光学面S3に設けられた回折構造HOEの各輪帯の幅は、第2光束が入射した場合に、回折作用により+1次回折光に対して補正不足方向の球面収差が付加されるように設定されている。回折構造HOE1による球面収差の付加量と、第1保護層PL1と第2保護層PL2の厚みの差により発生する補正過剰方向の球面収差とが互いに相殺することで、回折構造HOEと第2保護層PL2とを透過した第2光束はDVDの情報記録面RL2上で良好なスポットを形成する。
このように回折構造HOEを用いることで2種類の光ディスクに1つの対物光学系で対応しながらそれぞれの光束の倍率M1、M2を0にすることが可能となる。結像倍率を0とすることで、第1光ディスクと第2光ディスクに対して情報の記録/再生を行う際のトラッキングによるレンズシフトで発生するコマ収差の問題が解決されるので非常に好ましい構成である。
また本実施例ではL1レンズに回折構造HOEを設けたが、少なくとも1つの回折構造HOEをL2レンズに設けてもよい。
更に、L1レンズの半導体レーザ光源側光学面S3の第2領域AREA2や光ディスク側の光学面S2には、光軸を含む断面形状が鋸歯形状の複数の輪帯から構成された回折構造(以下、この回折構造を「回折構造DOE」という。)が形成されていても良い。回折構造DOEは、対物光学系の色収差を抑制するための構造である。
回折構造DOEにおいて、光軸に最も近い段差の高さd1は、波長390nm〜420nmに対して所望次数の回折光の回折効率が100%となるように設計されている。このように段差の深さが設定された回折構造DOE1に対して、第1光束が入射すると、回折光が95%以上の回折効率で発生し、十分な回折効率が得られるとともに、青紫色領域で色収差補正も可能となる。
本実施の形態における対物光学素子OBJでは、こういった回折構造DOEを設けていないが、これら回折構造DOEは前述第2領域AREA2以外にL2レンズの光学面上に設けても良い。その際の回折構造DOEは、L2レンズで回折構造DOEを設けた光学面全域を1つの領域として1つの回折構造DOEとしても構わないし、L2レンズで回折構造DOEを設けた光学面を、光軸を中心とする同心円状の2つの領域として、それぞれの領域で異なる回折構造DOEを設ける構成としても構わない。これら際のそれぞれの領域における回折効率は、第1光束と第2光束が共通に透過する領域では第1光束と第2光束に対して回折効率を振り分けるようにすれば良い。(例えば段差の高さを、波長390nm[L1レンズの、波長390nmに対する屈折率は1.5273]に対して回折効率が100%となるように設計すれば、第1光束が入射すると、+2次回折光が96.8%の回折効率で発生し、第2光束が入射すると、+1次回折光が93.9%の回折効率で発生する、という回折効率の振り分けが可能である。)または第1波長λ1に対して最適化することで、第1光束の回折効率を重視した構成としても良い。
さらに、回折構造DOEは、青紫色領域において、入射光束の波長が長くなった場合に、球面収差が補正不足方向に変化し、入射光束の波長が短くなった場合に、球面収差が補正過剰方向に変化するような球面収差の波長依存性を有する。これにより、環境温度変化に伴い集光素子で発生する球面収差変化を相殺することで、高NAのプラスチックレンズである対物光学素子の使用可能な温度範囲を広げている。
本実施の形態のL1レンズでは、半導体レーザ光源側の光学面S3に回折構造HOEを形成したが、これとは、逆に、光学面S4に回折構造HOEを形成した構成としてもよい。
また、本実施の形態では、NA3に対応した開口制限行うための開口素子として、接合部材Bを介して対物光学素子と一体化された開口制限素子APを備え、2軸アクチュエータAC1により、開口制限素子APと対物光学素子とを一体にトラッキング駆動させるようになっていてもよい。
開口制限素子APの光学面上には、透過率の波長選択性を有する波長選択フィルタWFが形成されていると好ましい。この波長選択フィルタWFは、NA3内の領域では第1波長λ1乃至第3波長λ3の全ての波長を透過させ、NA3からNA1の領域では第3波長λ3のみを遮断し、第1波長λ1及び第2波長λ2を透過する透過率の波長選択性を有しているので、かかる波長選択性によりNA3に対応した開口制限を行うことができる。
なお、収差補正素子L1の光学機能面上に波長選択フィルタWFを形成してもよく、あるいは、集光素子L2の光学機能面上に形成してもよい。
また、回折構造HOEはNA2内に対応する第1領域AREA1内に形成されているので、第2領域AREA2を通過する第2光束はDVDの情報記録面上RL2上へのスポット形成に寄与しないフレア成分となる。これは、対物光学素子OBJがNA2に対する開口制限機能を有しているのと透過であり、この機能によりNA2に対応した開口制限が行われる。
更に、開口の制限方法としては、波長選択フィルタWFを利用する方法だけでなく、機械的に絞りを切り替える方式や後述する液晶位相制御素子LCDを利用する方式でも良い。
また、L2レンズをプラスチックレンズで構成してもよい。L2レンズをプラスチックレンズとする場合は、環状オレフィン系のプラスチック材料を使用するのが好ましく、環状オレフィン系の中でも、例えば波長405nmに対する温度25℃での屈折率N405が1.54乃至1.60の範囲内であって、−5℃から70℃の温度範囲内での温度変化に伴う波長405nmに対する屈折率変化率dN405/dT(℃−1)が−10×10−5乃至−8×10−5の範囲内であるプラスチック材料を使用するのがより好ましい。
また、L2レンズをガラスレンズとする場合は、ガラス転移点Tgが400℃以下であるガラス材料を使用すると、比較的低温での成形が可能となるので、金型の寿命を延ばすことが出来る。このようなガラス転移点Tgが低いガラス材料としては、例えば(株)住田光学ガラス製のK−PG325や、K−PG375(共に製品名)がある。
ところで、ガラスレンズは一般的にプラスチックレンズよりも比重が大きいため集光素子をガラスレンズとすると、重量が大きくなり対物光学系を駆動するアクチュエータに負担がかかる。そのため、集光素子をガラスレンズとする場合には、比重が小さいガラス材料を使用するのが好ましい。具体的には、比重が3.0以下であるのが好ましく、2.8以下であるのがより好ましい。
また、上述の集光素子の材料として、プラスチック材料中に直径が30nm以下の粒子を分散させた材料を使用しても良い。温度が上昇すると屈折率が下がるプラスチック材料に、温度が上昇すると屈折率が上昇する無機材料を均質に混成することで両者の屈折率の温度依存性を打ち消すことが可能となる。これにより、プラスチック材料の成形性を保持したまま、温度変化に伴う屈折率変化が小さい光学材料(以下、かかる光学材料を「アサーマル樹脂」と呼ぶ)を得ることが出来る。
ここで、集光素子の屈折率の温度変化について説明する。温度変化に対する屈折率の変化率は、Lorentz−Lorenzの公式に基づいて、屈折率nを温度Tで微分することにより、以下の数式(数1)のAで表される。
(数1)
A=(n2+2)(n2−1)/(6n)・{(−3α)+1/[R]・δ[R]/δT}
但し、nはレーザ光源の波長に対する前記集光素子の屈折率であり、αは集光素子の線膨張係数であり、[R]は集光素子の分子屈折力である。
一般的なプラスチック材料の場合は、第1項に比べて第2項の寄与が小さいので第2項はほぼ無視出来る。たとえば、アクリル樹脂(PMMA)の場合、線膨張係数αは7×10−5である、上式に代入すると、A=−12×10−5となり、実測値と概ね一致する。ここで、アサーマル樹脂では、直径が30nm以下の微粒子プラスチック材料中に分散させることにより、実質的に上式の第2項の寄与を大きくし、第1項の線膨張による変化と打ち消しあうようにさせている。具体的には、従来は−12×10−5程度であった温度変化に対する屈折率変化率を、絶対値で10×10−5未満に抑えることが好ましい。より好ましくは、8×10−5未満、更に好ましくは、6×10−5未満に抑えることが、集光素子の温度変化に伴う球面収差変化を低減するうえで好ましい。
例えば、アクリル樹脂(PMMA)に、酸化ニオブ(Nb2O5)の微粒子を分散させることにより、このような温度変化に対する屈折率変化の依存性を解消することが出来る。母材となるプラスチック材料は、体積比で80、酸化ニオブは20程度の割合であり、これらを均一に混合する。微粒子は凝集しやすいという問題があるが、粒子表面に電荷を与えて分散させる技術も知られており、必要な分散状態を生じさせることが出来る。
尚、この体積比率は、温度変化に対する屈折率の変化の割合をコントロールするために、適宜増減できるし、複数種類のナノサイズ無機粒子をブレンドして分散させることも可能である。
体積比率では、上記の例では80:20であるが、90:10〜60:40までの間で適宜調整可能である。90:10よりも体積比率が小さいと屈折率変化抑制の効果が小さくなり、逆に、60:40を超えるとアサーマル樹脂の成形性に問題が生じるために好ましくない。
微粒子は無機物であることが好ましく、更に、酸化物であることが好ましい。そして酸化状態が飽和していて、それ以上酸化しない酸化物であることが好ましい。無機物であることは、高分子有機化合物であるプラスチック材料との反応を低く抑えるために好ましく、また酸化物であることによって、青紫色レーザの長時間の照射に伴う透過率劣化や波面収差劣化を防ぐことが出来る。特に、高温下において青紫色レーザが照射されるという過酷な条件において、酸化が促進されやすくなるが、このような無機酸化物であれば、酸化による透過率劣化や波面収差劣化を防ぐことが出来る。
尚、プラスチック材料に分散させる微粒子の直径が大きいと、入射光束の散乱が生じやすくなり集光素子の透過率が低下する。高密度光ディスクにおいて、情報の記録/再生に使用される青紫色レーザの出力が十分高くない現状においては、集光素子の青紫色レーザ光束に対する透過率が低いと、記録速度の高速化、多層ディスク対応という観点で不利となる。従って、プラスチック材料に分散させる微粒子の直径は、好ましくは20nm以下、更に好ましくは10〜15nm以下であることが集光素子の透過率低下を防ぐ上で好ましい。
図9は、高密度光ディスクHD(第1光ディスク)とDVD(第2光ディスク)とCD(第3光ディスク)との何れに対しても、簡略な構成で適切に情報の記録/再生を行える第2の光ピックアップ装置PU2の構成を概略的に示す図である。高密度光ディスクHDの光学的仕様は、第1波長λ1=408nm、第1保護層PL1の厚さt1=0.1mm、開口数NA1=0.85であり、DVDの光学的仕様は、第2波長λ2=658nm、第2保護層PL2の厚さt2=0.6mm、開口数NA2=0.65であり、CDの光学的仕様は、第3波長λ3=785nm、第3保護層PL3の厚さt3=1.2mm、開口数NA3=0.49である。
光ピックアップ装置PU2は、高密度光ディスクHDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され408nmのレーザ光束(第1光束)を射出する第1の発光部E1(第1光源)と、DVDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され658nmのレーザ光束(第2光束)を射出する第2の発光部E2(第2光源)とを同一パッケージ内に収容した(一体化された)2レーザ1パッケージ2L1Pと、CDに対して情報の記録/再生を行う場合に発光され785nmのレーザ光束(第3光束)を射出する赤外半導体レーザ(第3光源)と光検出器とが一体化されたホログラムレーザHLと、を有している。
光ピックアップ装置PU2において、高密度光ディスクHDに対して情報の記録/再生を行う場合には、2レーザ1パッケージ2L1Pを作動させて第1の発光部E1を発光させる。第1の発光部E1から射出された発散光束は、図9において実線でその光線経路を描いたように、ビーム整形素子BSを透過することにより、その断面形状が楕円形から円形に整形され、偏光ビームスプリッタPBSを透過し、コリメートレンズCOLを経て平行光束又は略平行光束とされた後、ダイクロイックプリズムDP及び1/4波長板QWPを通過し、絞りSTOにより光束径が規制され、対物光学素子OBJによって第1保護層PL1を介して情報記録面RL1上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL1で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、1/4波長板QWP、ダイクロイックプリズムDPを透過し、コリメートレンズCOLによって収斂光束とされ、偏光ビームスプリッタPBSで反射されて、第1カップリングレンズCUL1を介して、光検出器PDに受光される。かかる光検出器PDの出力信号を用いて、高密度光ディスクHDに記録された情報を読み取ることができる。
また、光ピックアップ装置PU2においてDVDに対して情報の記録/再生を行う場合には、2レーザ1パッケージ2L1Pを作動させて第2の発光部E2を発光させる。第2の発光部E2から射出された発散光束は、図9において点線でその光線経路を描いたように、ビーム整形素子BSを透過することにより、その断面形状が楕円形から円形に整形され、偏光ビームスプリッタPBSを透過し、コリメートレンズCOLを経て平行光束又は略平行光束とされた後、ダイクロイックプリズムDP及び1/4波長板QWPを通過し、絞りSTOにより光束径が規制され、対物光学素子OBJによって第2保護層PL2を介して情報記録面RL2上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL2で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、1/4波長板QWP、ダイクロイックプリズムDPを透過し、コリメートレンズCOLによって収斂光束とされ、偏光ビームスプリッタPBSで反射されて、第1カップリングレンズCUL1を介して、光検出器PDに受光される。かかる光検出器PDの出力信号を用いて、DVDに記録された情報を読み取ることができる。
また、光ピックアップ装置PU2においてCDに対して情報の記録/再生を行う場合には、ホログラムレーザHLの半導体レーザを発光させる。半導体レーザから射出された発散光束は、図9において一点鎖線でその光線経路を描いたように、第2カップリングレンズCUL2及び補正素子SEを通過し、ダイクロイックプリズムDPで反射され、1/4波長板QWPを通過し、絞りSTOにより光束径が規制され、有限発散光束の状態で対物光学素子OBJに入射し、対物光学素子OBJによって第3保護層PL3を介して情報記録面RL3上に形成されるスポットとなる。対物光学素子OBJは、その周辺に配置された2軸アクチュエータAC1によってフォーカシングやトラッキングを行う。情報記録面RL3で情報ピットにより変調された反射光束は、再び対物光学素子OBJ、絞りSTO、1/4波長板QWPを透過し、ダイクロイックプリズムDPで反射されて、補正素子SE及び第2カップリングレンズCUL2を透過した後、ホログラムレーザHLの光検出器で受光される。光検出器の出力信号を用いて、CDに記録された情報を読み取ることができる。
本実施の形態における補正素子SEと対物光学素子OBJは、第1の実施の形態で用いたものと同様なものを用いることができるが、補正素子SEに関しては、少なくとも1面以上の曲率を持つレンズとしても良いし、例えばその少なくとも1つの面を非球面とした、片面又は両面非球面レンズとしても良いし、その他、位相構造を持つレンズ面や、NA3より内側の中央領域とNA3より外側の領域の2領域を設けた複数領域を持つレンズとしても構わない。また中央部を平板とし、周辺部を非球面とすることも効果がある。更には、第1の実施形態で用いた光学面と非球面を組合わせた光学面である補正素子としても構わない。非球面タイプの補正素子SEは、第1の実施の形態でも用いることができるが、共通した光路内におくと、高密度光ディスクやDVDに対して情報の記録及び/又は再生を行う際に悪影響を与える恐れがあるので、第2の実施の形態のように、CD専用光路内におく方が望ましい。
以上の実施の形態に限らず、DVDに対して情報の記録及び/又は再生を行う際に用いる光束は、対物光学素子OBJに対して有限発散拘束の状態で入射させるようにしても良い。
(実施例1)
次に、実施例について説明する。実施例1は、図3又は9に示す光ピックアップ装置に好適な集光光学系のものである。実施例1のレンズデータを表1に示す。尚、これ以降(表のレンズデータ含む)において、10のべき乗数(例えば、2.5×10−3)を、E(例えば、2.5E―3)を用いて表すものとする。
HWLは回折格子のブレーズ化波長(ここでは回折構造HOEの設計波長)である。
尚、対物光学系の光学面は、それぞれ数2式に表1に示す係数を代入した数式で規定される、光軸の周りに軸対称な非球面に形成されている。
ここで、X(h)は光軸方向の軸(光の進行方向を正とする)、κは円錐係数、A2iは非球面係数、hは光軸からの高さである。
また、回折構造により各波長の光束に対して与えられる光路長は数3式の光路差関数に、表1に示す係数を代入した数式で規定される。