JP4374154B2 - ピストンリング - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ピストンリングに関し、更に詳しくは、ピストンリング溝の側面との初期なじみ性、耐スカッフ性および耐摩耗性に優れ且つAl凝着が抑制されたピストンリングに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、内燃機関の軽量化と高出力化に伴い、ピストンリングにも耐摩耗性や耐スカッフ性等のさらなる向上が要求されている。
【0003】
こうした中、ピストンリングの外周摺動面や上下面には、従来よりCrめっき皮膜や窒化処理層等が形成され、耐摩耗性の向上や耐スカッフ性の改善が図られている。また、近年においては、PVD(物理的蒸着)法で作製されたCrN(窒化クロム)やTiN(窒化チタン)等の硬質皮膜を採用することにより、上記の要求に対応している。
【0004】
上述したCrめっき皮膜、窒化層またはPVD法で作製された硬質皮膜がピストンリングの上下面に形成されている場合においては、特にピストンリングの上下面がAl合金製からなるピストンリング溝の側面を攻撃する傾向があり、その結果、A1凝着現象を起こしてピストンリング溝内の摩耗を増大させるおそれがあった。
【0005】
こうした問題に対しては、特開平11−166625号公報および特開平12−120869号公報に開示されているように、硬質炭素皮膜(ダイヤモンドライクカーボン皮膜ともいわれることがある。以下同じ。)をピストンリングの上下面に形成してAl凝着現象を抑制することが検討されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ピストンリングの上下面は、ピストンが上下に摺動するたびにピストンリング溝内の側面に叩かれ、その結果、ピストンリングの上下面、特に下面側にAl凝着が発生したり、摩耗が発生しさらには促進するおそれがあるが、上述した従来のピストンリングにおいては、上下面に形成された硬質炭素皮膜の耐Al凝着性および耐摩耗性について十分に検討されているとはいえないものであった。
【0007】
本発明は、こうした問題を解決すべくなされたものであって、ピストンリング溝の側面との間の耐Al凝着性に優れ耐摩耗性に優れたピストンリングを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、少なくとも上面及び下面に硬質炭素積層皮膜が形成されたピストンリングであって、該硬質炭素積層皮膜は、その表面側に位置し50〜70wt%の割合でSiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第1硬質炭素皮膜と、該第1硬質炭素皮膜下に位置し55〜85wt%の割合でWを含有し、3〜10wt%の割合でNiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第2硬質炭素皮膜とからなり、前記第2硬質炭素皮膜が、前記第1硬質炭素皮膜下のみならずピストンリングの外周摺動面に連続して形成されていることに特徴を有する。
【0009】
この発明によれば、50〜70wt%の割合でSiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第1硬質炭素皮膜と、その第1硬質炭素皮膜下に形成された55〜85wt%の割合でWを含有し、3〜10wt%の割合でNiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第2硬質炭素皮膜とからなる硬質炭素積層皮膜が、ピストンリングの少なくとも上面および下面に形成されているので、第1硬質炭素皮膜により耐スカッフ性の向上を図ることができ、第2硬質炭素皮膜により耐摩耗性の向上を図ることができ、さらにそれらの硬質炭素皮膜によりAl凝着現象を抑制することができる。本発明のピストンリングは、作用の異なる2つの硬質炭素皮膜を積層したので、従来の単一層からなる硬質炭素皮膜に比べて積層する各硬質炭素皮膜の個々の特性を最適なものに調整し易いという利点があり、ピストンリングの上下面の耐Al凝着性および耐摩耗性をより一層向上させることができる。また、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜がピストンリングの外周摺動面に更に連続して形成されているので、シリンダライナの内周面に摺動接触する外周摺動面の耐摩耗性を向上させることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のピストンリングにおいて、前記第2硬質炭素皮膜が、ピストンリングの内周面に更に連続して形成されていることに特徴を有する。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、ピストンリングの全ての面に耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜が連続して形成されているので、使用中における第2硬質炭素皮膜のクラック及び/又は欠けを発生させる起点が少なく、第2硬質炭素皮膜の耐剥離性を向上させて長期間優れた耐摩耗性をピストンリングの全周で維持することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のピストンリングにおいて、前記第1硬質炭素皮膜は、前記第2硬質炭素皮膜が形成されたピストンリングの外周摺動面またはピストンリングの外周摺動面および内周面の何れか一以上の面に形成されていることに特徴を有する。
【0013】
この発明によれば、耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜は、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜が形成された外周摺動面、内周面の何れか一以上の面に形成されているので、その第1硬質炭素皮膜の形成面における初期なじみ性と耐スカッフ性をより一層向上させることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載のピストンリングにおいて、前記第1硬質炭素皮膜は、含有するSiの比率が、表面側から第2硬質炭素皮膜側に向かって連続的又は段階的に増加することに特徴を有する。
【0015】
この発明によれば、含有するSiの比率が表面側から第2硬質炭素皮膜側に向かって連続的又は段階的に増加する第1硬質炭素皮膜を有するので、第2硬質炭素皮膜側のSiの比率が高い部分は、第2硬質炭素皮膜との密着性が高くなる。その結果、第1硬質炭素皮膜の耐剥離性を向上させることができ、第1硬質炭素皮膜に基づく耐スカッフ性をより一層向上させることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載のピストンリングにおいて、前記ピストンリングの少なくとも外周摺動面には、スパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層から選択された何れかが下地皮膜または下地層として形成されていることに特徴を有する。
【0017】
この発明によれば、ピストンリングの少なくとも外周摺動面には、硬くて靱性のあるスパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層から選択された何れかが下地皮膜として形成されているので、外周摺動面の耐摩耗性をより一層向上させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れかに記載のピストンリングにおいて、前記ピストンリングの少なくとも上面および下面には、少なくともCrを含有する下地層が形成されていることに特徴を有する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のピストンリングについて図面を参照しつつ説明する。
【0020】
本発明のピストンリング10は、図1〜図3に示すように、少なくとも上面8および下面9に硬質炭素積層皮膜2が形成されている。そして、本発明の特徴とするところは、その硬質炭素積層皮膜2が、上面8および下面9の表面に形成された少なくともSiを含有する第1硬質炭素皮膜11と、その第1硬質炭素皮膜11下に形成された少なくともWまたはW、Niを含有する第2硬質炭素皮膜12とからなることにある。こうした構成からなる本発明のピストンリングは、第1硬質炭素皮膜11により耐スカッフ性の向上を図ることができ、第2硬質炭素皮膜12により耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0021】
本発明のピストンリング10は、ピストンに形成されたピストンリング溝に装着され、ピストンの上下運動(往復運動に同じ。)によってシリンダライナの内周面を摺動接触しながら、さらにピストンリング溝内の側面に叩かれながら、上下運動する摺動部材である。本発明のピストンリング10は、トップリング、セカンドリング、オイルリングの何れかであってもまたはそれらの全てであってもよい。
【0022】
ピストンリング10は、従来より使用されている材質からなるものであればよく特に限定されない。したがって、いかなる材質からなるピストンリング10に対しても本発明を適用でき、従来より好ましく用いられている例えばステンレススチール材、鋳物材、鋳鋼材、鋼材等にも適用できる。なお、本発明のピストンリング10は、アルミニウム合金製のピストンに装着されるピストンリングとして好ましく用いられ、また、鋳鉄、ボロン鋳鉄、鋳鋼、アルミニウム合金等からなるシリンダライナに対するピストンリングとして好ましく用いられ、本発明の所期の目的を達成することができる。
【0023】
硬質炭素積層皮膜2は、その表面には耐Al凝着性および耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜11を有し、その第1硬質炭素皮膜11の下にはその第1硬質炭素皮膜が摩耗した後に現れる耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12を有する。
【0024】
先ず、第1硬質炭素皮膜について説明する。
【0025】
第1硬質炭素皮膜11は、硬質炭素積層皮膜2における表面層を構成し、少なくともSi(ケイ素)を含有するSi−C系の硬質炭素皮膜である。Siを含有する第1硬質炭素皮膜11は、ピストンリング溝の側面に対する耐Al凝着性および耐スカッフ性に優れると共にピストンリング溝の側面との間の初期なじみ性にも優れたものである。こうした特徴を有する第1硬質炭素皮膜11は、後述する第2硬質炭素皮膜12に比べて耐摩耗性については若干落ちるものの、厚さの下限値を0.5μmとすることによって、優れた耐スカッフ性を発揮することができ、初期なじみ性も著しく改善することができる。なお、第1硬質炭素皮膜11の好ましい厚さの範囲は、0.5〜15μmであり、更に好ましくは3〜10μmである。こうした範囲内に第1硬質炭素皮膜の厚さを設定することによって、ピストンリングの上下面8、9に優れた耐スカッフ性と初期なじみ性を付与することができると共に、そうした第1硬質炭素皮膜によりピストンリング溝の側面との間のAl凝着現象を抑制することができる。
【0026】
第1硬質炭素皮膜11の組成については特に限定されないが、Si:50〜70wt%好ましくは55〜65wt%、C:残部、その他不可避不純物からなることが好ましい。こうした第1硬質炭素皮膜11中に含有するSiは、金属Siとして含まれていても、SiCとして含まれていても、または、金属SiおよびSiCとして含まれていてもよい。
【0027】
また、第1硬質炭素皮膜11は、その下に後述する第2硬質炭素皮膜12を必ず有するので、第1硬質炭素皮膜11と第2硬質炭素皮膜12とが高い密着性をもって積層されていることが望ましい。こうした要求を満たすため、本発明においては、第1硬質炭素皮膜11中のSi含有比率を、表面側から第2硬質炭素皮膜側に向かって連続的又は段階的に増加するように傾斜させて形成することが好ましい。そうすることにより、少なくともWまたは、W及びNiを含有する第2硬質炭素皮膜12近傍の第1硬質炭素皮膜11のSi含有比率を高くして、第1硬質炭素皮膜12と第2硬質炭素皮膜12との密着性を向上させることができる。その結果、耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜を密着性よく第2硬質炭素皮膜上に設けることができるので、ピストンリング10の上下面8、9における耐Al凝着性および耐スカッフ性を顕著に向上させることができる。
【0028】
図4は、第1硬質炭素皮膜11が含有するSiの含有比率を膜厚方向に傾斜させた態様を示している。図4に示すように、Siの含有比率が表面側から第2硬質炭素皮膜側に向かって高くなるように曲線状に変化させたり、直線状に変化させることができる。このとき、第2硬質炭素皮膜12に接する部分の第1硬質炭素皮膜11のSiの含有比率を高くし、およそ70〜100重量%とすることが好ましい。Si含有比率をこうした範囲内とすることにより、第2硬質炭素皮膜12との密着性がより向上する。このとき、最外周側の第1硬質炭素皮膜11のSi含有比率は低くなり、およそ0〜70重量%となる。
【0029】
次に、第2硬質炭素皮膜について説明する。
【0030】
第2硬質炭素皮膜12は、上下面8、9に形成された硬質炭素積層皮膜2における下層、すなわち硬質炭素積層皮膜2における第1硬質炭素皮膜11の下層を構成するものである。
【0031】
この第2硬質炭素皮膜12は、少なくともW(タングステン)を含有するW−C系の硬質炭素皮膜または、更にNiを含有するW−Ni−C系の硬質炭素皮膜である。こうした第2硬質炭素皮膜12は、金属W及び/又はWCを含有しているので、極めて耐摩耗性に優れている。さらに、第2硬質炭素皮膜12が含有するWの作用により、膜厚形成能が向上し厚膜化が可能となる。その結果、生産性のよい耐摩耗性皮膜を形成できるという利点がある。
【0032】
なお、Niは第2硬質炭素皮膜形成用Wターゲット中に含有されている場合が多く、第2硬質炭素皮膜12中に含有されやすい元素である。Niを含有する第2硬質炭素皮膜形成用Wターゲットはコスト削減の観点から有利である。
【0033】
第2硬質炭素皮膜12の厚さは、1〜30μmであることが好ましく3〜20μmであることがさらに好ましい。こうした範囲内の厚さを有する第2硬質炭素皮膜12は、優れた耐摩耗性を発揮することができる。第2硬質炭素皮膜12の厚さが1μm未満では、膜厚が薄いので、摩耗が僅かながら進行した際にピストンリングの上下面8、9の耐摩耗性を十分担保できないことがある。一方、第2硬質炭素皮膜12の厚さが30μmを超えると、摺動接触中に剥離することがある。
【0034】
第2硬質炭素皮膜12の組成については特に限定されないが、W−C系の第2硬質炭素皮膜12の場合には、W:50〜85wt%好ましくは60〜80wt%、C:残部、その他不可避不純物であることが、上述した優れた作用効果の観点から好ましい。また、W−Ni−C系の第2硬質炭素皮膜12の場合には、W:55〜85wt%好ましくは60〜80wt%、Ni:3〜10wt%好ましくは5〜8wt%、C:残部、その他不可避不純物であることが、上述した優れた作用効果の観点から好ましい。
【0035】
さらに、後述するように、第2硬質炭素皮膜12は、反応性スパッタリング法およびプラズマCVD法等により成膜されるが、成膜中にガス流量を変化させ、母材1側から表面側に向かって第2硬質炭素皮膜の成分組成を連続的または段階的に徐々に変化させることもできる。こうした手段により、厚さ方向の第2硬質炭素皮膜の耐摩耗性を徐々に変化させることができる。
【0036】
以上説明したように、ピストンリングは、ピストンの上下運動によりシリンダライナの内周面を摺動接触しながら且つピストンリング溝内の側面に叩かれながら、上下運動するものであるが、本発明のピストンリング10においては、上述の硬質炭素積層皮膜2が上面8および下面9に形成されているので、先ず、表面に形成された第1硬質炭素皮膜11の作用により、ピストンリング溝の側面に対する耐スカッフ性が向上し、さらにピストンリング溝の側面との間の初期なじみ性も改善される。次いで、ピストンリング溝の側面との摺動接触が進行すると、その第1硬質炭素皮膜11が徐々に摩耗し、その第1硬質炭素皮膜11の下に形成された第2硬質炭素皮膜12が現れる。現れた第2硬質炭素皮膜12は、耐摩耗性に優れるので、上面および下面の摩耗が抑制され、良好な摺動接触を長期間継続させることができる。しかも、こうした各硬質炭素皮膜11、12は、ピストンリング溝の側面との間のAl凝着現象を抑制することができる。
【0037】
次に、上下面以外の面について説明する。
【0038】
本発明のピストンリングは、図1(a)〜(c)に示すように、少なくとも上面8および下面9に硬質炭素積層皮膜2を有するものであるが、必ずしも上面8および下面9にのみ硬質炭素積層皮膜2が形成されている必要はない。したがって、上下面8、9以外の面、すなわち、ピストンリングの外周摺動面6や内周面7にも硬質炭素積層皮膜2を形成することができる。
【0039】
図1(b)に示すように、硬質炭素積層皮膜2がピストンリング10の上下面8、9および外周摺動面6に連続して形成される場合には、ピストンリング溝内の側面とピストンリングの上下面8、9との間における耐Al凝着性、耐スカッフ性および耐摩耗性を向上させることができると共に、シリンダライナの内周面とピストンリングの外周摺動面6との間における耐スカッフ性および耐摩耗性の向上を図ることができる。
【0040】
図1(c)に示すように、硬質炭素積層皮膜2がピストンリング10の上下面8、9、外周摺動面6および内周面7に連続して形成される場合には、ピストンリング溝内の側面とピストンリングの上下面8、9との間における耐スカッフ性と耐摩耗性の向上およびAl凝着現象を抑制することができると共に、シリンダライナの内周面とピストンリングの外周摺動面6との間における耐スカッフ性および耐摩耗性の向上を図ることができる。しかも、ピストンリングの内周面7を含めた全周全てに硬質炭素積層皮膜2が連続して形成されているので、使用中における硬質炭素積層皮膜2のクラック及び/又は欠けを発生させる起点が少なく、硬質炭素積層皮膜2の耐剥離性を向上させることができる。その結果、ピストンリングを長期間使用した場合であっても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0041】
上述の場合において、ピストンリング10の外周摺動面6に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さは、0.3〜80μmであることが好ましい。この硬質炭素積層皮膜2のうち、耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜11の厚さは少なくとも0.1μmであればよく、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12の厚さは少なくとも0.2μmであればよい。ピストンリング10の外周摺動面6に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さを0.3〜80μmとしたのは、シリンダライナの内周面との間の耐摩耗性および耐スカッフ性、および製造上の観点によるものである。具体的には、外周摺動面6に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さが0.3μm未満では、結果的に第2硬質炭素皮膜12の膜厚が薄くなり、シリンダライナの内周面との間で耐摩耗性の向上が図れないことがある。一方、外周摺動面6に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さが80μmを超えると、形成された硬質炭素積層皮膜2に剥離が発生し、十分な耐摩耗性を発揮できないことがある。
【0042】
上述の場合において、ピストンリング10の内周面7に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さは、0.015μm以上であることが好ましい。この硬質炭素積層皮膜2のうち、第1硬質炭素皮膜11の厚さは少なくとも0.005μmであればよく、第2硬質炭素積層皮膜12の厚さは少なくとも0.01μmであればよい。0.015μm以上の硬質炭素積層皮膜2を内周面7に形成したピストンリング10は、硬質炭素積層皮膜2の耐剥離性を向上させることができる。また、内周面7に形成される硬質炭素積層皮膜2の厚さは、後述のように、成膜時に隣接するピストンリング間の隙間を大きくすることによって厚くすることができるので、外周摺動面6や上下面8、9の厚さとの差を適宜調整できる。
【0043】
また、本発明のピストンリング10は、図2(a)(b)に示すように、上述の第2硬質炭素皮膜12を、ピストンリングの外周摺動面6にも、さらには内周面7にも連続して形成することが好ましい。
【0044】
図2(a)に示すように、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12を単一層としてピストンリング10の外周摺動面6に更に連続して形成する場合には、シリンダライナの内周面とピストンリングの外周摺動面6との間の耐摩耗性の改善を図ることができる。
【0045】
図2(b)に示すように、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12をピストンリングの全ての面に単一層として連続して形成する場合には、使用中における第2硬質炭素皮膜のクラック及び/又は欠けを発生させる起点が少なく、第2硬質炭素皮膜の耐剥離性を向上させて長期間優れた耐摩耗性を維持することができる。
【0046】
また、本発明のピストンリング10は、図2(c)に示すように、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12をピストンリングの全ての面に単一層として連続して形成し、第1硬質炭素皮膜11を上面8及び下面9以外の外周摺動面6にも更に連続して形成して積層させてもよい。すなわち、第1硬質炭素皮膜11を、第2硬質炭素皮膜12が更に連続して形成されたピストンリングの外周摺動面6またはピストンリングの外周摺動面6および内周面7の何れか一以上の面に形成して、部分的に積層させてもよい。第1硬質炭素皮膜11を、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12が更に連続して形成された外周摺動面6、内周面7の何れか一以上の面に形成することにより、その積層部分は上述した硬質炭素積層皮膜2を構成し、その第1硬質炭素皮膜形成面における初期なじみ性と耐スカッフ性さらには耐摩耗性をより一層向上させることができる。
【0047】
上下面8、9以外の面に第2硬質炭素皮膜等を形成した場合における第2硬質炭素皮膜12の厚さは、ピストンリング10の外周摺動面6については、2〜50μmであることが好ましい。ピストンリング10の外周摺動面6に形成される第2硬質炭素皮膜12の厚さを2〜50μmとしたのは、シリンダライナの内周面との間の耐摩耗性および製造上の観点によるものである。
【0048】
また、ピストンリング10の内周面7に形成される第2硬質炭素皮膜12の厚さについては、耐摩耗性の観点から少なくとも0.01μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.3〜27μmの範囲内である。0.01μm以上の第2硬質炭素皮膜12を内周面7に形成したピストンリング10は、第2硬質炭素皮膜12の耐剥離性を向上させることができる。また、内周面7に形成される第2硬質炭素皮膜12の厚さは、後述のように、成膜時に隣接するピストンリングの隙間が大きくなるように配置することによって厚くすることができるので、外周摺動面6や上下面8、9の厚さとの差を適宜調整できる。
【0049】
また、そうした第2硬質炭素皮膜上に必要に応じて形成する第1硬質炭素皮膜の厚さは、初期なじみ性と耐スカッフ性の観点から、0.005μm以上であればよく、好ましくは0.15〜14μmである。
【0050】
次に、硬質炭素積層皮膜等の成膜方法およびその厚さの調整方法について説明する。
【0051】
上述した第1硬質炭素皮膜11および第2硬質炭素皮膜12は、反応性イオンプレーティング法や反応性スパッタリング法等のいわゆるPVD法によって形成することができる。また、プラズマCVD法等のCVD法によっても形成することができる。さらに、PVD法とCVD法との組合せによっても形成することができる。こうしたPVD法やCVD法は、ワークの形状要因に基づいて、ワークの各部で厚さの差が生じることがあり、特に、本発明のピストンリング10のように、例えば反応性イオンプレーティング装置や反応性スパッタリング装置のチャンバー内の治具に取り付けられて成膜されるワークにあっては、外周摺動面6が最も厚くなりやすく、上面8と下面9が続き、内周面7が最も薄くなりやすい。そうした厚さの差は、ピストンリングの母材1を治具に取り付ける際に、隣接するピストンリングの母材1との隙間を調整することによってコントロールすることができ、例えば、その隙間を大きくすることによって各々の面の厚さの差を小さくでき、隙間を小さくすることによって各々の面の厚さの差を大きくすることができる。なお、本発明においては、上面8および下面9における硬質炭素積層皮膜2の厚さを100(指数)としたときに、外周摺動面6における硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12の厚さを100〜200(指数)とすることが好ましく、また、内周面7における硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12の厚さを1〜99(指数)とすることが好ましい。
【0052】
さらに、本発明のピストンリング10においては、硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜を内周面7に形成することにより、ピストンリング10の摺動時におけるオイル焼けに基づくすすの付着の問題を解決することができるという利点がある。すなわち、従来においては、ピストンリングとピストンリング溝との間で起こるオイル焼けによって発生したすすが、ピストンリングの下面9および内周面7に付着または凝着して、ピストンリングを拘束してしまうことがあった。こうしたことは、ピストンリングとピストンリング溝との間にすすがたまりやすい矩形形状のピストンリングの場合に顕著であり、ハーフキーストンリングや、ディーゼルエンジンに好ましく採用されているフルキーストンリングの場合であっても同様な傾向を示した。こうしたすすの付着の問題に対して、本発明のピストンリング10は、全周、特にこうしたすすの問題が起こる下面9および内周面7に硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12を形成することができるので、すすが付きにくく、たとえ付着したとしても容易に砕くことができ、すすを排除し易くなる。その結果、すすの付着を防止することができ、ピストンリングが拘束されるのを防ぐことができるという顕著な効果を有している。
【0053】
次に、下地皮膜または下地層について説明する。
【0054】
図3(a)〜(d)に示すように、本発明のピストンリング10の少なくとも外周摺動面6には、スパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層から選択された何れかを下地皮膜または下地層(以下、下地皮膜または下地層を、「下地皮膜3」という。)として形成することができる。
【0055】
下地皮膜3は、外周摺動面6のみに形成しても、外周摺動面6、上面8および下面9に形成しても、外周摺動面6、内周面7、上面8および下面9の全周に形成してもよく、適宜必要に応じて設けることができる。
【0056】
スパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層から選択された何れかの下地皮膜3を上述した硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12の下地皮膜として外周摺動面6に形成すれば、外周摺動面6の耐摩耗性をより向上させることができるので特に好ましいが、それらの硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12が形成されていない場合においても表面皮膜として外周摺動面6に形成することが好ましく、外周摺動面6に好ましい耐摩耗性を付与することができる。
【0057】
好ましい下地皮膜3は、イオンプレーティング法で形成されるイオンプレーティング皮膜であり、特に、CrN、Cr2N、TiN、Cr−O−N、Cr−B−N等の硬質皮膜であることが好ましい。イオンプレーティング皮膜は、硬くて靱性があるので、摺動面として作用するピストンリング10の外周摺動面6の耐摩耗性を更に向上させることができる。なお、イオンプレーティング法の代わりに反応性スパッタリング法等の薄膜形成法によって形成された下地皮膜3であってもよい。こうした下地皮膜3の厚さは、5〜50μm程度であることが好ましい。
【0058】
クロムめっき皮膜および窒化層の形成手段についても特に限定されない。窒化層においては、イオン窒化層でも、ガス窒化層でもよく、その形成手段には特に限定されない。
【0059】
また、ピストンリング10の少なくとも上面及び下面に形成される下地層としては、少なくともCrを含有するものであることが好ましい。硬質炭素積層皮膜2または硬質炭素皮膜12の下地層として少なくともCrを含有する皮膜を形成することで、下地のピストンリング母材1と硬質炭素積層皮膜2または硬質炭素皮膜12との密着性を向上させることができる。この少なくともCrを含有する下地層は、スパッタリング法、イオンプレーティング法またはCrめっき法により形成するのが望ましい。
【0060】
次に、本発明のピストンリングを製造する方法の一例について説明する。
【0061】
先ず、第2硬質炭素皮膜12を形成する。ピストンリング母材1を反応性スパッタリング装置のチャンバー内の取付治具にセットし、そのチャンバー内を真空引きする。その後、取付治具を回転させつつアルゴン等の不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントによってピストンリング母材1の表面を清浄化する。その後、先ず、Crターゲットをイオン化したアルゴン等でスパッタリングし、チャンバー内の蒸発したCr原子をピストンリング母材1上に析出させ、次いで、炭素源であるメタン等の炭化水素ガスをチャンバー内に導入し、WおよびNiが含まれている金属ターゲットをイオン化したアルゴン等でスパッタリングし、チャンバー内の炭素原子と蒸発した金属原子とが結合してピストンリング母材1上に少なくともWおよびNiを含有する皮膜として析出させ、耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜12を形成する。WおよびNiの含有比率は、それらの元素の蒸発速度および反応性ガスの圧力等を調整することによって制御される。この場合において、第2硬質炭素皮膜12を形成しない面にはマスキング等の処理を施す。
【0062】
次に、第1硬質炭素皮膜11を形成する。第2硬質炭素皮膜12が形成されたピストンリングをプラズマCVD装置のチャンバー内の取付治具にセットし、そのチャンバー内を真空引きする。その後、取付治具を回転させつつアルゴン等の不活性ガスを導入し、イオンボンバードメントによって第2硬質炭素皮膜が形成されたピストンリングの表面を清浄化する。その後、炭素源であるメタン等の炭化水素ガスをチャンバー内に導入し、Siが含まれているシランガス等を導入して、プラズマで活性化し、チャンバー内の炭素原子と蒸発した金属原子とが結合してピストンリング上に少なくともSiを含有する皮膜として析出させ、耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜11を形成する。Siの含有比率は、Si元素を含む反応性ガスの圧力等を調整することによって制御される。この場合においても、第1硬質炭素皮膜11を形成しない面にはマスキング等の処理を施す。
【0063】
なお、スパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層の何れかを下地皮膜3として有するピストンリング10は、そうした下地皮膜3を予めスパッタリング装置、イオンプレーティング装置、クロムめっき装置、窒化装置等によって形成し、その後、上述の反応性スパッタリング装置等に供して硬質炭素皮膜を形成して製造される。
【0064】
【実施例】
以下に、実施例と比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明する。
【0065】
(実施例1〜8)
17Crステンレス鋼製のピストンリング母材1を作製し、その母材1上の少なくとも上下面8、9に硬質炭素積層皮膜2を反応性イオンプレーティング装置により形成した。上下面8、9以外の面には、硬質炭素積層皮膜2または第2硬質炭素皮膜12を任意に形成し、さらに必要に応じて第1硬質炭素皮膜11を任意に形成した。下地皮膜3を有したピストンリングとする場合には、予め、クロムめっき皮膜、窒化処理層、イオンプレーティング皮膜の何れかを形成した。各硬質炭素皮膜および各下地皮膜3の形成条件を以下に示す。
【0066】
硬質炭素皮膜:第2硬質炭素皮膜12はW−Ni−C系とし、ターゲットおよび炭素含有ガス圧などの反応条件を制御することによって、W:75wt%、Ni:8wt%、C:残部、および不可避不純物からなる組成とした。第1硬質炭素皮膜11はSi−C系とし、ターゲットおよび炭素含有ガス圧などの反応条件を制御することによって、Si:60wt%、C:残部、および不可避不純物からなる組成とした。ピストンリングの上下面8、9には第1硬質炭素皮膜11および第2硬質炭素皮膜12からなる硬質炭素積層皮膜2が少なくとも形成されているように各実施例を構成した。
【0067】
クロムめっき皮膜:フッ化クロム浴中での電解めっきにより、厚さ150μmのクロムめっき皮膜を形成した。その後、クロムめっき皮膜の表面を研削加工し、研磨ペーパーを用いた表面研磨を行い、粗さ1μmRzとなるとように調整した。最終的な皮膜厚さを120μmとした。形成されたクロムめっき皮膜のビッカース硬さはHv900であった。
【0068】
窒化処理層:ガス窒化法により窒化層を形成した。アンモニア分解ガス雰囲気中で590℃×6時間保持し、さらに、540℃×2時間保持して、厚さ100μmのガス窒化層を形成した。その後、窒化層の表面を研削加工し、研磨ペーパーを用いた表面研磨を行い、粗さ1μmRzとなるとように調整した。最終的な皮膜厚さを70μmとした。形成された窒化層のビッカース硬さはHv1100であった。
【0069】
イオンプレーティング皮膜:イオンプレーティング法により、主に{200}に配向した厚さ30μmのCrN皮膜を形成した。その後、イオンプレーティング皮膜の表面を研削加工し、研磨ペーパーを用いた表面研磨を行い、粗さ1μmRzとなるとように調整した。最終的な皮膜厚さを20μmとした。形成されたイオンプレーティング皮膜のビッカース硬さはHv1500であった。
【0070】
作製した実施例1〜8の構成を表1に示した。
【0071】
(比較例1)
17Crステンレス鋼製のピストンリング母材1を作製し、その母材1の全周に窒化層を上記実施例と同じ方法により形成した。外周摺動面6には、厚さ30μmのイオンプレーティング皮膜を形成した。窒化層およびイオンプレーティング皮膜の形成条件は上記実施例と同様にした。こうして比較例1のピストンリングを作製した。作製した比較例1の構成を表1に示した。
【0072】
【表1】
【0073】
(摩耗試験)
摩耗試験は、アムスラー型摩耗試験機を使用し、試験片のほぼ半分を油に浸漬し、相手材を接触させ、荷重を負荷して行った。試験片としては、アムスラー試験片を用いた。このアムスラー試験片は、実施例1〜8および比較例1のピストンリングと同様の処理を施したものを使用した。各試験片を用いて摩耗試験を行い、耐摩耗性の評価を行った。試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、油温:80℃、周速:1m/秒(478rpm)、荷重:150kgf、試験時間:7時間の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材として行った。このボロン鋳鉄からなる相手材は、所定に形状に研削加工した後、研削砥石の細かさを変えて順次表面研削を行い、最終的に2μmRzとなるように調整した。摩耗量の測定は、粗さ計による段差プロファイルで摩耗量(μm)を測定して評価した。
【0074】
耐摩耗性は、比較例1に対応する試験片の摩耗量と実施例1〜8に対応する各試験片の摩耗量とをそれらの相対比として比較し、比較例1に対応する試験片の結果に対する摩耗指数として評価した。従って、各試験片の摩耗指数が100より小さいほど摩耗量が少ないことを表す。実施例1〜8に対応する各試験片は、比較例1に対応する試験片よりも僅かに摩耗指数が悪いが、比較例1に対応する試験片の結果とほぼ同等であり、大きな問題が発生することはない。結果を表2に示した。
【0075】
(スカッフ試験)
スカッフ試験は、アムスラー型摩耗試験機を使用し、試験片に潤滑油を付着させ、スカッフ発生まで荷重を負荷させて行った。試験片としては、アムスラー試験片を用いた。このアムスラー試験片は、実施例1〜4、6および比較例1のピストンリングと同様の処理を施したものを使用した。各試験片を用いてスカッフ試験を行い、耐スカッフ性の評価を行った。試験条件は、潤滑油:クリセフH8(1号スピンドル油相当品)、周速:1m/秒(478rpm)の条件下で、ボロン鋳鉄を相手材として行った。このボロン鋳鉄も上述の方法により最終的に2μmRzとなるように調整した。
【0076】
耐スカッフ性は、比較例1に対応する試験片のスカッフ発生荷重を100とし、実施例1〜4、6に対応する各試験片のスカッフ発生荷重を比較例1に対応する試験片の結果に対する耐スカッフ指数として比較した。従って、実施例1〜4、6に対応する各試験片の耐スカッフ指数が100より大きいほど、スカッフ発生荷重が大きくなり、比較例1に対応する試験片よりも耐スカッフ性に優れることとなる。外周摺動面に硬質炭素積層皮膜を有する実施例1〜4に対応する各試験片の耐スカッフ指数は、220であり、比較例1に対応する試験片よりも著しく耐スカッフ性に優れていた。結果を表2に示した。
【0077】
(たたき試験)
たたき試験は、図5に示す高温弁座摩耗試験機51を使用して行った。すべりたたき試験片としては、実施例1〜8および比較例1と同様の処理を施したものを使用し、たたき摩耗量の評価を行った。試験条件は、ストローク:4mm、繰り返し速度:500回/分、リング回転数:3rpm、試験時間:10時間、ピストン材温度:340℃、ピストン材:AC8Aの条件下で行った。なお、凝着の有無は、表面を15倍に拡大して観察し、評価した。ここで、「すべりたたき試験」とは、ピストン材53を試験機51に対して軸方向移動不能に固定し、ピストンリング材52をピストン材53に同心に装着し、ピストンリング材52の内周面側に備わっているシリンダライナ相当の鋳鉄製円棒55を軸方向に往復させることにより、ピストンリング材52に、回転しつうピストン材53を叩く動作モードを付与する試験である。試験機51は、被験材加熱用のヒータ54を有しており、実際に燃料を燃焼させずともエンジン内の燃焼時の高温状態を再現することができ、ピストン材の状態変化を模すことができる。この試験により、ピストン側摩耗(ピストン材の摩耗量)、ピストンリング摩耗(ピストンリング材の摩耗量)を評価した。
【0078】
結果は、ピストンリングの上下面における摩耗指数で表した。その値は、比較例1のピストンリングのたたき試験の摩耗量の結果を100とし、実施例1〜8の各試験片の結果を比較例1の結果に対する摩耗指数として比較した。従って、実施例1〜8の摩耗指数が100より小さいほど、摩耗量が小さくなり、比較例1よりも耐摩耗性に優れることとなる。上下面に硬質炭素積層皮膜を有する実施例1〜8のピストンリングの摩耗指数は、60または80であり、比較例1の試験片よりも著しく耐摩耗性に優れていた。その結果を表2に示す。
【0079】
(耐剥離性試験)
耐剥離性の試験は、NPR式衝撃試験装置(特公昭36−19046号、めっき密着度の定量的試験装置)の改良試験機を使用し、表面に1回当たり43.1mJ(4.4kgf・mm)の衝撃エネルギーを加え、剥離発生までの回数で評価した。試験片としては、上述の実施例1〜3、5、7のピストンリングを使用した。各試験片を用いて耐剥離性試験を行い、耐剥離性の評価を行った。剥離の有無は、表面を15倍に拡大して観察し、評価した。図6は、測定に使用したNPR式衝撃試験装置を示す。なお、図6において、21はピストンリング、22は圧子、23は当て金である。
【0080】
耐剥離性は、実施例7の試験片の剥離発生回数を100とし、実施例1〜3、5の各試験片の剥離発生回数を実施例7の結果に対する耐剥離性指数として比較した。従って、実施例1〜3、5の各試験片の耐剥離性指数が100よりも大きくなると、実施例7の試験片よりも多い回数で剥離が発生することとなるので、耐剥離性に優れることとなる。実施例1〜3、5の耐剥離指数は、105〜110であり、実施例7のピストンリングに比べ、耐剥離性に優れていた。結果を表2に示した。
【0081】
【表2】
【0082】
(評価)
実施例1〜8のピストンリングは、比較例1のピストンリングに比べ、その何れも上下面にAl凝着の発生はみられなかった。また、上下面の耐摩耗性は著しく向上した。また、外周摺動面の耐摩耗性および耐スカッフ性は、硬質炭素積層皮膜が形成されることにより、耐スカッフ性において著しく向上した。また、全周面に硬質炭素積層皮膜を形成することにより、耐剥離性にも優れていた。
【0083】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のピストンリングによれば、少なくともSiを含有する耐スカッフ性に優れた第1硬質炭素皮膜と、その第1硬質炭素皮膜下に形成された少なくともWまたはW、Niを含有する耐摩耗性に優れた第2硬質炭素皮膜とからなる硬質炭素積層皮膜が、ピストンリングの上下面に少なくとも形成されているので、第1硬質炭素皮膜により耐スカッフ性の向上を図ることができ、第2硬質炭素皮膜により耐摩耗性の向上を図ることができる。本発明のピストンリングは、作用の異なる2つの硬質炭素皮膜を積層したので、従来の単一層からなる硬質炭素皮膜に比べて、積層する各硬質炭素皮膜の個々の特性を最適なものに調整し易いという利点があり、Al凝着現象の抑制効果に加え、摺動時の初期なじみ性、耐スカッフ性および耐摩耗性をより一層向上させることができる。
【0084】
こうした本発明のピストンリングは、今後開発が予想される高出力、高温高負荷のエンジンにも十分に使用することができ、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のピストンリングの例を示す断面図である。
【図2】本発明のピストンリングの他の例を示す断面図である。
【図3】下地皮膜または下地層が形成された本発明のピストンリングの他の例を示す断面図である。
【図4】第1硬質炭素皮膜のSi含有比率を傾斜させた態様の例である。
【図5】高温弁座摩耗試験機である。
【図6】NPR式衝撃試験装置の改良試験機である。
【符号の説明】
1 母材
2 硬質炭素積層皮膜
3 下地皮膜(下地層)
6 外周面
7 内周面
8 上面
9 下面
10 ピストンリング
11 第1硬質炭素皮膜
12 第2硬質炭素皮膜
Claims (6)
- 少なくとも上面及び下面に硬質炭素積層皮膜が形成されたピストンリングであって、該硬質炭素積層皮膜は、その表面側に位置し50〜70wt%の割合でSiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第1硬質炭素皮膜と、該第1硬質炭素皮膜下に位置し55〜85wt%の割合でWを含有し、3〜10wt%の割合でNiを含有し、残部がC、その他不可避不純物である第2硬質炭素皮膜とからなり、
前記第2硬質炭素皮膜が、前記第1硬質炭素皮膜下のみならずピストンリングの外周摺動面に連続して形成されていることを特徴とするピストンリング。 - 前記第2硬質炭素皮膜が、ピストンリングの内周面に更に連続して形成されていることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
- 前記第1硬質炭素皮膜は、前記第2硬質炭素皮膜が形成されたピストンリングの外周摺動面またはピストンリングの外周摺動面および内周面の何れか一以上の面に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のピストンリング。
- 前記第1硬質炭素皮膜は、含有するSiの比率が、表面側から第2硬質炭素皮膜側に向かって連続的又は段階的に増加することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のピストンリング。
- 前記ピストンリングの少なくとも外周摺動面には、スパッタリング皮膜、イオンプレーティング皮膜、クロムめっき皮膜および窒化層から選択された何れかが下地皮膜または下地層として形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のピストンリング。
- 前記ピストンリングの少なくとも上面および下面には、少なくともCrを含有する下地層が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のピストンリング。
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