本発明は、検体中の化学物質又は生体分子の検出を行なうためのセンサに関し、特に、検体中の化学物質又は生体分子等の検出を手軽に、かつ高速に行なう事ができるバイオケミカルセンサ及び測定装置に関する。
近年、ライフスタイルの変化に伴う生活習慣病の増加が問題となっている。環境破壊に伴う健康被害の増加も問題となっている。さらに、生活環境が複雑になっている事等により、抑圧や精神的ストレスを受ける人が増加している。この様な現代社会において、心身の健康を保つ事が人々の重要な関心事の一つとなっている事は当然である。
心身の健康を保ち、生活の質を向上させるためには、心身に明らかな異常を感じてから治療を受けるという対症療法のみでは不十分である。健康な状態を保つためには、定期的に健康診断を受ける事等の事前予防により、心身の異常の早期発見及び早期治療に努める事が望ましい。
健康診断には、検体の採取、その分析、及び診断が必要である。これらを適切に行なうためには、従来は適切な設備と適切な訓練を受けた人員とが必要であるとされていた。その結果、従来は、健康診断は病院で行なわれるものが一般的であった。しかし、技術の進歩により、この様な従来の健康診断とは異なった方法による健康診断も可能となってきている。それを可能にしたのは、例えばバイオ技術の進歩及びインターネット等の通信技術の整備である。
例えば、次の様な方法がある。簡単な訓練のみで操作できる装置を用い、家庭において検体を採取し分析して、検体についてのデータを得る。そのデータを、インターネット経由で病院に送る。送付されたデータを元に医師が診断を行なう。診断結果は、再びインターネット経由で家庭に送られる。この様な健康診断は、病院に行かなくても行なう事ができる。そのために必要な時間も少なくて済む。従って手軽に行なう事ができ、心身の健康を保つ上で有効である。
しかし、この様な健康診断方法を普及させるためには、そのために必要な技術を確立する事が必要となる。日常生活の一環として健康診断が行なえる様にするためには、検体の採取及び分析を手軽かつ迅速に行なう事ができる様にしなければならない。従って、健康診断の検体の採取のための装置は、小型で、かつ容易に操作できるものである必要がある。また、検体の分析も、大規模な設備なしで行なえる様にする必要がある。
現在のところ、こうした要求にこたえるために有望なのはバイオケミカルセンシング技術である。その一例が、人間の排泄物に基づいて健康状態をチェックする便器である。その他のバイオケミカルデバイスの具体例について身体面及び精神面に分けて、以下で説明する。
身体面においては、近年、食生活及び生活習慣等の乱れから、生活習慣病患者が増加している。一例として糖尿病がある。糖尿病の早期発見及び早期治療のため、並びに糖尿病患者の生活の質を向上させるためには、日常的に疾病の進行状態等を把握しておく事が大切である。この様な必要性に応えて、糖尿病判定の際に有用な血中グルコース量を迅速に検知する使い捨てグルコースセンサが実用化されている。このグルコースセンサは、バイオケミカルデバイスの一例である。
精神面においては、近年、社会の複雑化に伴うストレス等に悩む人が増加している。ストレスは、場合によっては重大な結果を引起こす。ストレスのかかった状態をなるべく早期に緩和するためには、まずストレスがかかっている事を早期に知る必要がある。そのためには、ユーザのストレス状態を正しく測定する装置が必要となる。ストレスを検出する具体的な方法として、血液、尿、及び唾液を採取し、その中のストレス関連物質であるコルチゾール(生体ホルモンの一種)等の検出を行なう方法がある。コルチゾールの検出にもバイオケミカルデバイスが用いられる。
以上の様に、現在では、身体面及び精神面ともに、健康状態を簡便に診断できる技術が必要とされており、より一層進歩した技術の開発が望まれている。従って、身体面及び精神面の健康に関する情報を高感度で、高速に、簡略に、かつローコストで検出する事ができるバイオケミカルセンサ技術の開発は、重要な課題である。また、そうした技術は、健康診断のためだけでなく、他の用途にも有効であると考えられる。
バイオケミカルセンシングを高感度で実現する技術としては、抗原−抗体反応と多孔質材料とを用いるものがある。例えば、検出ターゲット物質(以下単に「ターゲット」と呼ぶ。)となる抗原に対し、多孔質材料の細孔中に抗体を包摂させて担持させる方法である。なお、こうした技術は抗原−抗体反応に限らず、一般的に、特異的に反応する二つの物質に関して適用可能である。しかし、以下の説明では、ターゲットとして抗原を、細孔中に包摂及び担持される物質として抗体を例にとる。
抗体を包摂し担持する構造を実現しつつ、抗体を失活させない材料として、多孔質シリカがあり、多孔質シリカを用いたバイオセンシング技術を開示した文献として、特許文献1に開示がある。多孔質シリカは、主として有機シリケートを原料とするゾルゲル法及び無機シリケートを用いる凍結乾燥法などにより形成される。前者をゾルゲル多孔質シリカ、後者を凍結乾燥多孔質シリカと呼ぶ事にする。
これらの多孔質シリカは、多孔質構造の微細孔内に、機能を損なわせずに抗体等を包摂できる。これらの多孔質シリカは透光性も有する。この様な特徴を持つ多孔質シリカを用いてバイオケミカルセンサを作製する事ができる。以下、このバイオケミカルセンサを用いて抗原を検出する方法について述べる。
まず、蛍光色素分子等で蛍光標識された一定量の抗原が標準試料として準備される。次に、ターゲットとなる、蛍光標識されていない抗原を含む検体試料と、上記した蛍光色素分子等で蛍光標識された抗原を含む標準試料とを混合する。そして、この混合試料を、抗体を包摂及び担持した多孔質シリカに与える事により、混合試料中の抗原と多孔質シリカ中の抗体とを反応させる。抗原−抗体反応により、試料に含まれる抗原と多孔質シリカに包摂された抗体とが結合する。結合された抗原及び抗体に蛍光標識に用いられた蛍光色素分子を励起する励起光を照射すると、標準試料に由来する抗原からは蛍光が生じる。生じた蛍光の強度を光検出器で検出する事により、以下の様にして検体試料に含まれていた抗原の量が計測できる。
混合試料中の抗原は、標準試料由来のもの(蛍光標識あり)と検体試料由来のもの(蛍光標識なし)とに分類される。標準試料由来のものの量は一定である。それに対して検体試料由来のものの量は、検体試料中の抗原の量により変化する。従って混合試料中の標準試料由来の抗原と検体試料由来の抗原との存在比率は変化する。また、多孔質シリカ中の抗体の量は一定である。その結果、抗体と結合する全抗原のうちの、標準試料由来のものと検体試料由来のものとの存在比率は、混合試料中の標準試料由来の抗原と検体試料由来の抗原との存在比率に従って変化する。蛍光は標準試料由来のものからのみ生じるので、蛍光強度はこの存在比率に従って変化する事になる。その結果、蛍光強度から、もとの検体試料中の抗原の量を以下の様にして知る事ができる。
予め、蛍光色素分子等による蛍光標識がある抗原とない抗原との組成を変化させた混合試料を複数用意しておく。これら混合試料の各々について、上記した方法により蛍光検出を行なう。得られた蛍光強度に基づいて、検量線を作製する。検量線とは、蛍光標識がある抗原とない抗原との混合比に応じ、蛍光強度がどの程度になるかをグラフ化したものである。この検量線を用いる事により、蛍光色素分子等で蛍光標識された未知量の抗原について、標準試料と混合して得た蛍光強度の変化を測定する事により、量を知る事ができる。
上記した特許文献1に開示の従来技術は、基体材料の表面に、微細孔を持つゾルゲル多孔質シリカを膜状に形成したものにおいて、微細孔内に抗体を固定化する技術に関するものである。この技術によると、安定に抗体を固定化する事ができる。
しかし、この方法によっても、微細孔内に有効に担持されて測定に利用できる抗体量は、基体材料の表面に膜状に形成された微細孔の面積により制限される。この制限により、抗原の検出感度が不十分となりがちである。
また、抗原が微細孔内に包摂及び担持された抗体まで浸透して到達し、抗体と結合するのには時間がかかる事が一般的である。検出速度はこの浸透速度により律速されるため、特許文献1に記載の技術では、高感度かつ迅速なセンシングは困難である。
検出感度の不十分さ及び高感度かつ迅速なセンシングが困難となるという問題点を解決するための技術として、非特許文献1に開示されたものがある。非特許文献1に開示の技術は、抗体等の、所定の物質と反応して反応物質を生成する様な機能性を有する物質を包摂及び担持した多孔質シリカの構造体に関する。
非特許文献1に開示された発明は、コルチゾールの検出を目的としたものである。非特許文献1はさらに、有機シリケート原料を用いてゾルゲル法で形成した多孔質シリカによる抗体の担持を用いる技術についても開示している。
非特許文献1によると、当該多孔質構造を作製するために、まず、有機系の材料であるテトラメチルオルトシリケート、水、及び希塩酸が混合されてシリカヒドロゾルが作製される。この混合物をさらに、抗コルチゾール抗体を含むリン酸塩バッファと混合する。この混合物をゲル化させるゾルゲル法により、抗コルチゾール抗体を含む多孔質シリカモノリス体が形成される。
特開2004−83501
J.C.Zhou, et al., Immunoassays for cortisol using antibody-doped sol-gel silica, J. Mater. Chem., 2004, 14, 2311-2316
非特許文献1に開示の技術では、抗コルチゾールを微細孔内に包摂・担持した多孔質シリカのモノリス体が形成される。そのため、特許文献1に開示された様に、基体材料の表面に膜状に形成された多孔質物質に抗体を包摂・担持させるものと比較すると、抗原の検出の感度は上昇する。しかし、この非特許文献1に開示のものによっても、測定に利用できる抗体の量に制約があり検出感度が十分得られないという問題がある。その理由について以下に説明する。
抗原分子がモノリス体に与えられた時に、抗原分子は、モノリス体表面付近に包摂・担持された抗体分子とは比較的速やかに反応できる。しかし、表層から深い場所に包摂及び担持された抗体まで抗原が到達して反応するためには、抗原分子が多孔質の網目構造を通過し、モノリス体の深部まで拡散する必要がある。抗原分子がモノリス内の深部に到達するのには、当然に長時間が費やされる。その結果、抗原−抗体反応にも長時間が費やされてしまう。
この問題を解消するために、比較的薄い(例えば厚さ1mmの)多孔質シリカモノリス体を作製する事も考えられる。しかし、そうしたモノリス体でも以下の様な問題点が生じる。まず、モノリス体における拡散距離は、通常拡散時間の平方根に比例する。同様の材料からなるモノリス体で厚さ10μmの薄膜を通過する場合と比較すると、1mmのモノリス体を通過するためには、104倍の時間が必要となる。すなわち、わずか1mm厚であっても単純構造のゾルゲルシリカモノリス体を用いた場合には、長時間をかけなければ、深部の抗体の存在する位置まで抗原が十分には浸透できない。従って、短時間の間に反応に供する事のできる抗体量は、モノリス体の表面層付近に包摂及び担持されたものに限られる。この様なバイオケミカルセンサにおいては、抗原と反応が可能な抗体の量は、実質的にモノリス体の表面積に比例する。その結果、表面積が小さい場合には抗原と抗体との反応量が小さくなり、高感度の検出を行なうセンサの実現が困難となる。一方、表面積を大きくすると取扱いが困難となるという問題が生じる。
すなわち、非特許文献1に記載の技術では、モノリス体の深部に担持された抗体まで有効に利用して抗原の検出を行なおうとすると、測定時間が長くなってしまう。測定時間を短縮しようとすると、表面積が小さい場合には検出強度は不十分となってしまう。表面積を大きくすると取扱いが困難となる。
センサの感度に関する条件について、例を挙げて説明する。極微量のターゲットの検出の一例として、ストレス関連物質の例を挙げる。この様な物質の一例は、唾液中のコルチゾールである。唾液中のコルチゾール(MW:362)について有意義なデータを得るためには、通常、1.0〜30.0pモル/ml程度の範囲の濃度が測定可能である必要がある。対して非特許文献1に開示の技術では、唾液中のコルチゾールを27.6pモル〜2.76nモル/mlの範囲でしか検出できない。さらに、有意義なデータの取得という観点で、他の物質に関して必要とされる測定可能範囲をあげると、唾液中のヒトクロモグラニンA(ヒトCgA)(MW:68000)であれば、0.4〜1.2pモル/ml程度の微量を検出可能である必要がある。また、イムノグロブリンA(MW:200000)であれば0.5〜5.0nモル/ml程度の微量を検出可能である必要がある。
非特許文献1に開示の技術では、基体材料の表面付近のみに形成された多孔質体に包摂及び担持された抗体の量に比較すると多く抗体を吸着できるという利点を有している。しかし、それでも依然として検出すべき物質量を短時間で十分な感度で検出する事はできず、感度を上げようとすれば検出に長時間を要するという問題がある。
それゆえに、本発明は、短時間に高感度で所望の物質を検出しその量の測定を行なう事ができるバイオケミカルセンサを提供する事を目的とする。
本発明の他の目的は、短時間に高感度で抗原を検出しその量の測定を行なう事ができるバイオケミカルセンサを提供する事を目的とする。
本発明はさらに、短時間に高感度で所望の複数種類の物質を検出しその量の測定を行なう事ができるバイオケミカルセンサを提供する事を目的とする。
本発明の第1の局面にかかるバイオケミカルセンサは、検体中の所定のターゲット物質の検出を行なうためのバイオケミカルセンサであって、第1及び第2の表面を有し、第1の表面から第2の表面に向けて形成された、検体が流入可能な1又は複数個のチャネルを有し、1又は複数個のチャネルの内周は多孔質物質で形成されており、1又は複数個のチャネルの内周を形成する多孔質物質は、所定のターゲット物質との間の相互作用により反応物質を形成する機能を有する機能性物質を多孔質内に担持している事を特徴とする。
このバイオケミカルセンサによると、検体が、チャネルを伝ってその内部に容易に流入できる。チャネルの内周は多孔質物質で形成されているので、検体が多孔質物質に浸潤できる。それゆえ、多孔質物質で形成された隔壁に担持された機能性物質が、微細孔に浸潤した検体に含まれた所定のターゲット物質と短時間のうちに反応できる。その結果、ごく少量の検体を利用する事によっても、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中のターゲット物質を検出する事ができる。
好ましくは、所定のターゲット物質は所定の抗原を含み、機能性物質は、所定の抗原に対し抗原−抗体反応を生ずる抗体を含む。
このバイオケミカルセンサによると、チャネルの内周を形成する多孔質物質に所定の抗体が担持される。検体中の抗原は、短時間のうちにチャネルとチャネル内周の多孔質とを通じて抗体に到達する。従って、検体中に含まれる所定の抗原物質との間で、短時間のうちに抗原−抗体反応を生ずる。その結果、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の所定の抗原を検出する事ができる。
好ましくは、所定の機能性物質は酵素であり、所定のターゲット物質は、酵素の存在下で所定の反応を生じる事により既知の反応生成物を生ずるものである。
このバイオケミカルセンサによると、チャネルの内周を形成する多孔質物質に所定の酵素が担持される。検体中のターゲット物質は、チャネルとチャネル内周の多孔質とを通じて短時間のうちに酵素の存在する部位に到達できる。それゆえ、検体中に含まれるターゲット物質は、所定の酵素との間で、所定の反応を生ずる。この反応生成物の量を測定する事により、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の所定のターゲット物質を検出する事ができる。
好ましくは、バイオケミカルセンサは、所定のセラミック材料からなっていてもよいし、複数個のチャネルを有する形状に成形された所定の金属基材と、複数個のチャネルの内周部において金属基材表面にコーティングされた所定のセラミック材料とからなっていてもよい。
好ましくは、バイオケミカルセンサは、透光性を有する所定の多孔質材料からなる。
このバイオケミカルセンサによると、多孔質材料が透光性を有する。それゆえ、所定の反応の際に生じた反応生成物に光源から光を照射したときに反応生成物から生じる光を測定する事が容易になる。従って、蛍光色素分子を用いた測定を行なう事ができる。その結果、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の所定の物体の量を検出する事ができる。
好ましくは、バイオケミカルセンサは、複数個のチャネルを有し、当該複数個のチャネルは、その軸方向と交差する方向の断面において同様の形状を有する。
さらに好ましくは、複数個のチャネルは、第1の表面において、縦横にそれぞれ同様の間隔をおいて2次元的に配置されている。
好ましくは、複数個のチャネルは、それぞれ隔壁により区分され、各チャネルの内周は、当該チャネルを隣接するチャネルから区分する隔壁により形成されており、当該隔壁の厚みは、複数個のチャネルの、軸方向と交差する方向の断面における幅よりも小さく形成されている。
このバイオケミカルセンサによると、隔壁の厚みは、複数個のチャネルの、軸方向と交差する方向の断面における幅よりも小さい。従って、検体が隔壁の全体に浸潤する時間を短くできる。その結果、迅速に、検体中の所定の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
好ましくは、複数個のチャネルは、第1の表面から第2の表面まで貫通して形成されている。
このバイオケミカルセンサによると、複数個のチャネルが第1の表面から第2の表面まで貫通しているので、検体のチャネルへの流入がスムーズに行なわれる。その結果、高感度及び迅速な方法で、検体中の所定の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
好ましくは、このバイオケミカルセンサは、第1層のセンサと、当該第1層のセンサの第1の表面上に配置された、第2層のセンサとを含む。
このバイオケミカルセンサによると、2層構造を形成するセンサによって、検体に含まれた所定の物質の検出を行なう事ができる。その結果、高感度及び迅速な方法で、検体中の所定の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
好ましくは、第1層のセンサは第1のターゲット物質を、第2のセンサは第1のターゲット物質とは異なる第2のターゲット物質を、それぞれ検出するためのものであり、第1層のセンサが担持する機能性物質と、第2層のセンサが担持する機能性物質とは互いに異なっている。
このバイオケミカルセンサによると、2層構造を形成するセンサによって、検体に含まれたそれぞれ異なった所定の物質の検出を行なう事ができる。その結果、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中に含まれる所定の複数の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
本発明の第2の局面にかかる、バイオケミカルセンサを使用した測定装置は、所定の波長を有する光を発するための発光手段と、発光手段からの光を平行光に変換するための光変換手段と、光変換手段により変換された平行光中に配置された、上記のいずれかのバイオケミカルセンサからの光を受ける様に配置され、あらかじめ定められる波長の光強度を検出するための光強度検出手段とを含む。
この測定装置によると、光強度を用いた検出を行なう事ができる。それゆえ、所定の検体に含まれた物質と隔壁に担持された物質との反応によって生じた反応物質に光を照射し、発生した光強度を利用して所定の反応物質を検出する事ができ、蛍光色素分子等を測定に用いる事ができる。その結果、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の所定の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
さらに好ましくは、この測定装置は、バイオケミカルセンサを、バイオケミカルセンサのチャネルの軸方向が平行光の方向とほぼ一致する様に保持するための手段をさらに含む。
この測定装置によると、透光性の高い方位を通過して、上記した光強度を検出する事ができる。その結果、高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の所定の物体を検出する事のできるバイオケミカルセンサを提供する事ができる。
本発明のバイオケミカルセンサは、複数個のマイクロチャネルを隔てる様に隔壁を備えている。隔壁は、六角形等を形成し、蜂の巣状の構造体(以下、これをハニカム構造体と呼ぶ)を有し、この隔壁は機能化されている。ここで、機能化とは、多孔質物質から成る隔壁の表面及び内部に、所定の物質と反応して反応物質を生成する様な機能性を有する物質を担持及び包摂させる事である。
それゆえ、検体中の化学物質及び生体分子等を高感度で迅速に検出する事ができる。その結果、ごく少量の検体を利用する事により高感度、迅速、及び比較的簡便な方法で、検体中の化学物質や生体分子等を検出する事ができる。
また、本発明のバイオケミカルセンサは、個別に機能化された複数個のハニカム構造体を積層する事ができる。それゆえ、検体中の複数の化学物質及び生体分子等を並行して検出する事ができる。その結果、複数の物質を効率的に検出する事が可能となる。
<構成>
本発明における、ハニカム構造体の構成について図1〜図3を用いて、以下で説明する。図1は、本発明のハニカム構造体の一例であるハニカム構造体30全体を、斜め上方より俯瞰した状態を模式的に示す図である。図2は、ハニカム構造体30を上面より観察した際の平面図である。図3は、図2の一点鎖線3により示される断面での断面図である。
図1〜図3を参照して、ハニカム構造体30は、凍結乾燥シリカ等の多孔質物質からなる、所定の厚みを持つ円盤状である。ハニカム構造体30は、上面31及び下面(図示せず)を有する。ハニカム構造体30には、上面から見た断面形状が六角形などの多角形をなし、上面31と下面との間を貫通する様に所定の直線軸に沿って複数個のマイクロチャネル32、34、40、42、44、46、48、及び50等(以下単に「マイクロチャネル32等」と呼ぶ。)が形成されている。
図2及び図3を参照して、ハニカム構造体30は、複数個のマイクロチャネル32等を相互に区分する隔壁60、62、64、66、及び68等(以下「隔壁60等」と呼ぶ。)を含む。これら隔壁60等は多孔質からなり、マイクロチャネル32等の内周を規定しており、かつその表面及び内部は機能化されている。すなわち、化学物質及び生体分子等のターゲット(例えば抗原)と何らかの相互作用により結合する機能を持つ物質(例えば抗原に対する抗体)が、多孔質の表面及び微細孔の内部表面に存在している。この様に機能化された隔壁60等の表面及び内部に存在する物質を利用して、ターゲットを検出できる。
図4に、図3の一点鎖線4で示される断面での隔壁の矢視方向断面図を示す。図4を参照して、隔壁60の微細孔80等には、抗体分子82が包摂及び担持されている。
<抗原の量の測定>
図5を参照して、本実施の形態に係るハニカム構造体30において、抗原−抗体反応を用いて抗原の量の測定を行なう方法を示す。
図5を参照して、既に説明した通り、ハニカム構造体30(図1参照)において、マイクロチャネル40等(図3参照)を相互に区分する隔壁60等(図3参照)は、微細孔80を多数有する多孔質構造から成る。つまり、マイクロチャネル40等の内周は、複数の微細孔を含む多孔質物質から成る。ただし、上述した様に、隔壁は、多孔質物質から成っているので、各マイクロチャネルは互いに完全に区分されているわけではない。微細孔を通して、各マイクロチャネルは、互いにつながっている部分もある。ハニカム構造体30の微細孔には抗体分子82が多数担持されている。ターゲットとなる抗原分子84を含む検体と、標準試料とを混合した混合試料がハニカム構造体30に液体状又は気体状で供給されると、抗原分子84はマイクロチャネル40等に入り、さらにマイクロチャネル40の内周を構成する部分の隔壁60等の微細孔80に到達する。これら抗原分子84は拡散過程により微細孔80を通ってハニカム構造体30の多孔質内部に進入する。抗原分子84はさらに、微細孔80に担持された抗体分子82と遭遇し、抗原−抗体反応によって反応生成物88が生成される。生成した反応生成物88の大部分は微細孔80中に留まる。
反応生成物88の中には、標準試料由来の抗原を持つものと、検体由来の抗原を持つものとが存在する。標準試料由来の抗原は蛍光色素分子で蛍光標識されている。検体由来の抗原は蛍光標識されていない。蛍光標識に用いられた蛍光色素分子を励起する様な光をハニカム構造体30に照射し、生じる蛍光の強度を測定する事により、検体内の抗原の量(濃度)を測定できる。
なお、本実施の形態では抗原−抗体反応を例に挙げたが、本実施の形態に係る機能化されたハニカム構造体は、酵素反応等を用いて検体中のターゲット分子の量を測定する場合にも適用できる。酵素反応の場合、ハニカム構造体30の微細孔の内部に担持されている分子の分解、又は気体分子等の発生等の反応生成物を伴う。これらの反応生成物は、蛍光励起特性、光吸収特性、及び化学ルミネセンス等の、主に光学的な手法により検出及び評価が可能である。
<反応生成物の検出方法>
上記した抗原−抗体反応等により形成される反応生成物を検知するには、市販の蛍光スペクトロメータであるJobin Yvon製Fluorolog等を用いる事ができる。しかし、本実施の形態に係るハニカム構造体30の場合、高価な分析機器を必要とせずに、簡便かつ迅速に反応生成物を検出する事も可能である。以下で、簡便かつ迅速な反応生成物の検出方法について説明する。
図6に、簡便かつ迅速に抗原−抗体反応の反応生成物の量を、標準試料中の抗原をラベル付けした蛍光色素分子からの蛍光により光学的に検出するための装置の構成を示す。図6を参照して、この装置は、蛍光標識された抗原を励起するのに適した波長を有するレーザ光を出射する半導体レーザ素子90と、半導体レーザ素子90により発光されたレーザ光を平行光に変換するための、凹レンズ92及び凸レンズ94を含むビームエキスパンダとを含む。このビームエキスパンダにより変換された光は平行光であるという特徴を持つ励起光102となる。この励起光102はハニカム構造体30に、マイクロチャネル40等の軸方向とほぼ平行に与えられる。従って図6に示す装置は、ハニカム構造体30が半導体レーザ素子90、凹レンズ92、及び凸レンズ94に対して上記した様な位置になる様にこれらの部品及びハニカム構造体30を支持する構造を含む。ハニカム構造体30中の、蛍光標識された抗原は、この励起光102によって蛍光を発生する。
この装置はさらに、標準試料の蛍光標識に用いられた蛍光色素分子の励起光の波長付近の波長を持つ光を選択的に透過する光フィルタ98と、光フィルタ98を通過した透過光の強度を検出するCCD(charge coupled device)等から成る光センサ100とを含む。光フィルタ98及び光センサ100とは、ハニカム構造体30に関して半導体レーザ素子90とは反対側に、蛍光104を受ける様に配置される。
<検出装置の動作>
図6を参照して、この検出装置は以下の様に動作する。なお、ハニカム構造体30には既に混合試料が供給され、抗原−抗体反応が全て完了したものとする。半導体レーザ素子90は、蛍光標識された抗原を励起するのに適した波長を有するレーザ光を発する。このレーザ光をビームエキスパンダを用いて平行光である励起光102に変換する。変換された励起光102をハニカム構造体30に照射する。ハニカム構造体30中の、抗原−抗体反応の反応生成物のうち、蛍光標識された抗原を持つ反応生成物は、励起光102により励起されて、励起光である例えば蛍光104を発光する。蛍光104は、光フィルタ98を通過して光センサ100に到達する。光センサ100が、この蛍光104の強度を測定する。測定された光の強度に基づき、あらかじめ準備された検量線により、試料中のターゲット(抗原)の量を測定する。
なお、図6に示す装置による測定方法は、ハニカム構造体30の光透過異方性を利用して有効に行なう事ができる。このハニカム構造体30においては、マイクロチャネル軸に垂直な方向においては多孔質シリカと空気との周期構造を持つために透光性が劣る。しかし、マイクロチャネル軸と平行な方向では、光は一様な透光性を持つ多孔質シリカ内を通過する。又は、マイクロチャネル内に充填された一様な透光性を持つ空気中を通過する。その光路では透光性は一様である。それゆえ、マイクロチャネル軸と平行な方向では透光性が高い。そこで、図6に示す様に、マイクロチャネル軸と平行な方向に光を照射する様な装置の構成を採用し、光源として平行性、可干渉性の高いレーザ光を用いる事が適している。レーザ光を使用すると、レーザ光の平行性を損なう事なくビームエキスパンダでビーム径を拡大する事ができる。図6に示す構成では、マイクロチャネル軸と平行な方向では、数100μm〜数mm厚程度の光路長であっても透光性が維持される。その結果、高感度の光学的測定を実現できる。
上記した実施の形態では、ターゲットには抗原、ハニカム構造体30には抗体を、それぞれ用いた。しかし、本発明はその様な実施の形態に限定されるわけではない。抗原−抗体反応以外で生じる反応生成物であっても、その検出には蛍光及びケミルミネセンス等を利用できる。それゆえ、抗原−抗体反応以外で生じる反応生成物であっても、図6に示した装置構成により評価を行なう事ができる。
<ハニカム構造体30の作製方法>
ハニカム構造体30の作製方法は、包摂及び担持される物質が変化すると変化する。そこで、具体的な作製方法については実施例1以下で詳細に説明する事とし、典型的な方法について以下で説明する。なお、機能化されていない単なるハニカム構造体の作製方法の詳細は、文献(S. R. Mukai et al,, Formation of monolithic silica gel microhoneycombs (SMHs) using pseudosteady state growth of micostrucural ice crystals, Chem. Commun., 2004, 874-875)に示されている。
ハニカム構造体は、典型的には次の様にして作製される。脱イオン蒸留水で希釈されたナトリウムシリケート溶液を、さらにpH調整して得られたヒドロゾルを準備する。この様なヒドロゾルが、ポリプロピレンチューブ等の容器に注入され、エイジングされた後、液体窒素又はその他の媒質からなる冷却槽にゆっくりと挿入される。この挿入により、氷の結晶がテンプレートとして形成される。この様な方法により本発明の実施の形態におけるハニカム構造体を作製する事ができる。この方法を一方向凍結ゲル化法と呼ぶ。
この様にして作製されるハニカム構造体は、相互にほぼ平行に走る軸を有する複数個のマイクロチャネルが、相互に隔壁によって区分された構造を有する。これらの隔壁であり、マイクロチャネルの内周を形成する物質は、形成条件にもよるが、多数のミクロ孔(<2nm)及びメソ孔(2〜50nm)等を有する多孔質構造となっている。
マイクロチャネルのチャネル方向に垂直な断面におけるマイクロチャネルの形状は、六角形又は四角形のものが通常得られやすい。マイクロチャネルのサイズ及び直径は、作製条件により、数μm〜200μmとなる。本実施の形態においては、ハニカム構造体の形成過程で、シリカヒドロゾルが形成された状態において、抗体等の機能性を有する分子が混合される。その結果、複数個のマイクロチャネルを相互に区分する隔壁に、高感度のバイオセンシングに適用可能な分子を包摂及び担持する様な機能化したハニカム構造体が得られる。
抗体等の分子が担持されていないハニカム構造体を最初に作製し、事後的に拡散過程を利用して、抗体等の機能性を有する分子をハニカム構造体の隔壁の微細孔にしみ込ませる事も可能である。
一般的に、隔壁の機能化方法には、検体中の化学物質及び生体分子等に関して、酸化、還元、及びイオン化等を含む各種の化学反応、化学結合、及び酵素反応等を行なわせる様な機能性の物質を隔壁の微細孔に担持させる必要がある。そのために、隔壁に対して機能性の物質の担持、表面修飾、及び表面改質等を行なう必要がある。機能性の物質を隔壁に担持させる時点は、担持される分子の大きさ、化学的安定性、ターゲットとなる化学物質、及び生体分子の大きさ等を考慮して選択される。
例えば、ストレス関連物質である3分子、コルチゾール(MW:362)、ヒトCgA(MW:68000)、及びイムノグロブリンA(MW:200000)を考える。これらはいずれもストレス関連物質であるが、分子量は大きく異なる。従って、これらの作製方法も異なってくる。
例えば、コルチゾール分子について考える。コルチゾール分子自体は非常に小さいが、コルチゾールに対する抗体である抗コルチゾール(MW:〜15000)は、15nm程度の大きさである。この程度の大きさの物質であれば、一方向凍結ゲル化法において、ヒドロゲルを作製した時点でヒドロゲルに混合させる事により、抗コルチゾールをシリカネットワークに包摂して担持した多孔質ハニカム構造体を作製できる。この場合、ハニカム構造体のうち、抗コルチゾールを包摂していない部分はメソ孔等が主体の多孔質構造となる。しかし、コルチゾール分子自体が小さいため、抗体を包摂した部分にコルチゾールが拡散する事により、比較的容易にターゲットの検出を行なう事ができる。
これに対して、分子サイズが大きいヒトCgA及びイムノグロブリンA等では、上記した様にヒドロゲルに直接抗体を混合させて多孔質ハニカム構造体を作製する事がむずかしい。従ってこれらの場合、最初に抗体を担持しないハニカム構造体を形成した後、アンモニア処理等により微細孔サイズを拡大させる。こうして微細孔サイズを拡大させた後、抗ヒトクロモグラニン(抗ヒトCgA)及び抗イムノグロブリンAを溶液からの拡散過程を利用して微細孔に包摂及び担持させる。
<非特許文献1との比較>
本実施の形態による複数個のマイクロチャネル40等(図3参照)を相互に区分する隔壁60等(図3)で構成されるハニカム構造体30を含むバイオケミカルセンサの特徴を、非特許文献2におけるゾルゲル法による多孔質シリカモノリス(厚み1mm)及びゾルゲルシリカ薄膜(厚み1μm)と比較して以下に説明する。
ここでも、例とするのは、抗原−抗体反応によるものである。この比較において、材料の外形面積は、いずれの場合も1cm2とする。この場合、抗体の担持量はそれぞれの試料の体積に比例し、それぞれの構造における抗体の担持量(相対値)を以下の様に推定できる。
構造 大きさ 抗体担持量(相対値)
ゾルゲルシリカモノリス:1cm2×1mm厚 1.0
ゾルゲルシリカ薄膜 :1cm2×1μm厚 0.001
ハニカム構造体 :1cm2×1mm厚 0.43
ターゲットである抗原は、上記の異なった3つの構造である、ゾルゲルシリカモノリス体、ゾルゲルシリカ薄膜、及びハニカム構造体に担持された抗体に遭遇し、抗原−抗体反応により抗体に結合する。
ゾルゲルシリカモノリス体の場合には、抗体の担持量が多くても、ターゲットとなる抗原が厚さ1mmのモノリス体中に速やかに進入できなければ測定に寄与する事ができない。1μmのゾルゲルシリカ薄膜への抗原の拡散時間を20分程度と仮定した場合、1mm厚のゾルゲルシリカモノリス体への拡散時間は20分の106倍と推定される。この事は、ゾルゲルシリカモノリス体での拡散距離が時間の平方根に比例するという仮定に基づいて算出できる。この様な時間をかけてターゲットを測定する事は無意味である。
一方、迅速な測定を行なうために拡散時間を5分と仮定する。この場合には、モノリス体における5分間での抗原の拡散距離は0.5μmとなる。一方、同じく5分間という短時間の拡散時間では、本実施の形態に係るハニカム構造体を用いれば、隔壁部の厚み全体への拡散が可能となる。これは、このハニカム構造体では、まずマイクロチャネルを通して試料がハニカム構造体の全体に速やかに行き渡り、さらにマイクロチャネルの内周を規定する隔壁内の微細内に進入する事による。しかも隔壁の厚みはシリカ薄膜と同程度であり、0.1〜10μm程度のオーダである。従って、短時間のうちに、隔壁の微細孔に担持された抗体の大部分に抗原が行き渡り、抗原−抗体反応を引起こす。もちろん、微細孔内部だけではなく、隔壁表面に担持された抗体も抗原−抗体反応に寄与する。すなわち、ハニカム構造体を用いる本実施の形態によれば、迅速かつ高感度の測定を実現する事ができる。
5分処理後に試料中に注入されるターゲットの推定量を比較すると、以下の様になる。
構造 表面積 注入されるターゲットの推定量(相対値)
シリカモノリス :2cm2 2×0.5=1
シリカ薄膜 :1cm2 1×0.5=0.5
ハニカム構造体 :225cm2 750×1=750
なお、ここでの推定には、ハニカム構造体のマイクロチャネル内径が3μm角、隔壁厚が1μmであると仮定している。この様に、本実施の形態に係るハニカム構造体を用いる事により、ゾルゲル法によるシリカモノリスやシリカ薄膜を用いた場合と比較して、2〜3桁に及ぶ感度向上が可能である。
以上の様に本実施の形態に係るハニカム構造体では、従来のゾルゲル薄膜及びゾルゲルモノリス体と比較して、反応に寄与する表面積を飛躍的に向上できる。さらに、抗体が担持されるのはマイクロチャネル間に介在する隔壁部である。そこで、ゾルゲル薄膜と同様に、ターゲットが、微細孔内に担持された抗体全体に速やかに到達できる。その結果、迅速な測定が可能である。
さらに、本実施の形態に係るハニカム構造体を用いたバイオケミカルセンサは、複数個のマイクロチャネルを相互に区分する様な隔壁から構成されるハニカム構造体を採用している。マイクロチャネルの内周を規定する隔壁は多孔質の物質で形成され、その微細孔内部にターゲットと反応する抗体を多量に担持できる。ターゲットを含む検体試料は、マイクロチャネルを通じてハニカム構造体全体の隔壁に速やかに行き渡り、ハニカム構造体の全体の隔壁において、ほぼ同時に隔壁内に進入する。隔壁自体の厚みは小さく、従って隔壁内に担持されている抗体の大部分にターゲットが行き渡る。従って、同時に多くの抗原−抗体反応が生じ、速やかに試料中のターゲットを検出できる。その結果、ターゲットの検出感度の向上と同時に反応時間の短縮化が可能となる。
本実施の形態によるハニカム構造体の形状及び寸法は、後に実施例として述べる様に、作製方法によってフレキシブルに制御できる。しかし、高感度で迅速な測定をするためには、マイクロチャネルの内径が1.0〜100.0μm及び隔壁厚が0.1〜10.0μm程度に形成される事が望ましい。
本実施の形態のバイオケミカルセンサは、隔壁がシリカ、アルミナ、及び酸化チタン等のセラミック材料によって形成されている。しかし本発明はその様な実施の形態には限定されず、ステンレス及びアルミ等の金属基材に、この様なセラミック材料をコーティングする事でハニカム構造体を作製してもよい。この場合でも隔壁についてはその両面から試料が微細孔内部に進入するため、反応時間を短くする事ができる。
なお、上記実施の形態では、蛍光の強度の測定において、半導体レーザ素子90(図6参照)からのレーザ光の平行性を得るために、ビームエキスパンダを使用している。しかし本発明はその様な実施の形態には限定されない。例えば、半導体レーザ素子からのレーザ光を光ファイバを通して試料表面に導き、光ファイバ自身を機械的に走査する方法もある。
また、本実施の形態に係るハニカム構造体及び当該ハニカム構造体を用いたバイオケミカルセンサによれば、複数個のマイクロチャネルを区分する隔壁を共通に機能化している。この構成により、ハニカム構造体の全体で単一の化学物質又は生体分子等を高感度で検出する事ができる。しかし、本発明はその様な実施の形態には限定されない。例えば、複数個の隔壁を個別に別々のターゲットにあわせて機能化したり、単一に機能化したハニカム構造体を積み重ねて使用したりする事もできる。この構成により、検体中に含まれる複数種類のターゲットを同時に検出する事が可能となる。複数のハニカム構造体を積み重ねる場合、各ハニカム構造体のマイクロチャネルの大きさは別々でもよい。この構成により、例えば、いずれも心的ストレスの主要な関連物質であるコルチゾール、ヒトCgA、及びイムノグロブリンAを同時に計測する事ができる。この方法によると、一つのストレス関連物質に関するデータだけではなく、複数のデータが同時に得られる事により、ストレス状態がより的確に計測される。
また、上記実施の形態は、抗原−抗体反応を利用したバイオケミカルセンシングに関連したものである。しかし本発明はこの様な実施の形態に限定されるものではなく、抗原−抗体反応以外の分子結合反応や酵素反応等にも適用が可能である。
また、本実施の形態では、複数のマイクロチャネルを有するハニカム構造体について説明したが、単数のマイクロチャネルを有する構造体であってもよい。また、マイクロチャネルは全て表面から裏面に貫通しているが、その一部又は全部が裏面まで貫通せず、底部を有するものであってもよい。
さらに、マイクロチャネルの軸と直交する面での断面形状は、一例としては六角形であるが、これはハニカム構造体の作成過程での自己組織化により得られたものである。マイクロチャネルの断面形状は六角形又は四角形のものが得られやすいが、これらに限られるものではない。その他の形状、例えば三角形等であってもよい。また正六角形、正方形などの様に各辺の長さが等しいものだけでなく、互いに異なっている形状でもよい。
以下では、実施例1として、抗コルチゾールを包摂及び担持したハニカム構造体の作製方法と評価実験結果とについて説明する。
まず、54%珪酸ナトリウム溶液が脱イオン蒸留水で希釈された。そして、1.9mol/lのSiO2濃度の珪酸ナトリウム水溶液24mlを得た。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂29mlを攪拌しながら加え、水溶液のpHを3.0程度に予め調整した。そして、イオン交換樹脂を取り除き、アンモニア水を数滴滴下した。この滴下により、水溶液のpHが5.8を示すシリカヒドロゾルが得られた。
得られたシリカヒドロゾル6mlに、40μモルのEast Coast Biologic社製抗コルチゾールを含む緩衝液(20mモルリン酸緩衝液、pH7.2)を9ml混合した。その後、底から1cm程度までガラスビーズを詰めた、内径1.0cmのポリプロピレン製チューブに上記した混合液を注ぎ込み、蓋をして30℃で静置した。試料は静置してから2時間後に、均一なゲル状物質となった。
この様に試料がゲル化してから2時間後に、このゲル状物質が、2cm/時という一定速度を保ちつつ、−20℃のエタノール冷媒槽に挿入された。この時、シリカヒドロゲルにおける相分離に起因して、挿入端から少し離れた場所から擬似定常状態の氷の成長が始まった。この成長は、ポリプロピレンチューブ内のゲル全体が凍結するまで続き、氷の結晶をテンプレートとするハニカム構造体が形成された。
次に、この試料を243Kに保たれた恒温槽中へと移し、2時間保持し構造を安定化させた。この様にして最終的に得られた直径1cm、長さ3cmの試料を室温で解凍した。その後、試料は、ポリプロピレンチューブから取り出された直後に、鋭利な剃刀を用いて1.0mm厚の薄片ディスク状に切削された。
得られた試料は、図3の断面図に示した様に、内径が3〜4μmの多数個のマイクロチャネル40等を隔てる様に形成された、厚みがおよそ1μmの隔壁60等から成るマイクロハニカム構造を有していた。
該隔壁部分は、多孔質で、その細孔サイズは形成条件にもよるが、細孔径平均9.2nmのメソ孔を有する多孔質構造を有していた。このマイクロハニカム構造を乾燥させた後にBET(Brunauer-Emmett-Teller式)法で評価した比表面積は80m2、メソ孔容積は0.21cm3/gであった。
この様にして得られた薄片ディスク状のハニカム構造体試料は、使用前までリン酸緩衝液中に保存された。
[評価実験]
上述した様に作製された、抗コルチゾールを包摂及び担持し、1mm厚に切削されたハニカム構造体と、同様の原料から作製したモノリス体とについてターゲット検体に関する検出感度を比較する評価実験を行なった。
なお、比較対象であるモノリス体の作製方法は以下の通りである。まず、シリカヒドロゾルと抗コルチゾールを含む緩衝液が混合された。そして、その混合液が内径1.0cmのポリプロピレン製容器に注入された。その後、容器に蓋がされて30℃で2時間静置された。静置される事により、混合液がゲル化され、モノリス体が形成された。
上記したリン酸緩衝液に保存されたマイクロハニカム構造体及びモノリス体が使用直前に取り出され、実験に使用された。測定試料は、120μlの1×PBS、60μlの0.33モルOG(Oregon Red)−コルチゾール(オレゴンレッドで蛍光標識されたコルチゾール)、及び120μlの血清コルチゾール標準試料からなる混合サンプル300μlであった。
コルチゾール濃度依存性を観察するために、血清コルチゾール標準試料として、試料中のコルチゾール量が10μl/dl及び100μl/dlの2種類が用意された。蛍光標識には、波長495nmの光により励起され、波長527nm付近の蛍光を発生する蛍光色素分子を用いた。
それぞれの血清コルチゾールを含む混合サンプルの各300μlが注入された石英容器に、ハニカム構造体及びモノリス体のそれぞれの試料が浸漬され、20分放置された。これは、測定試料がハニカム構造体及びモノリス体の全体に浸透する様にするためである。これらの試料が石英容器から取り出されて乾燥された後に、図6の様な構成の装置を使用して蛍光評価が行なわれた。
図6を参照して、本実施例では、半導体レーザ素子90として発光波長495nmの窒化ガリウム系単一量子井戸型レーザダイオードを用いた。このレーザダイオードにより発光された光が、レンズ92及び94からなるビームエキスパンダで可干渉性の高い直径8mmの平行光である励起光102に拡大され、ハニカム構造体30(及びモノリス体)に照射された。レーザ光励起によりハニカム構造体30(及びモノリス体)で発生した蛍光104は、所定の蛍光波長(527nm)近傍のみを透過させる帯域フィルタ98を通過する。その結果、蛍光104のうち所定の蛍光波長のみが選択的に得られる。その後、シリコンCCD100を用いて、光フィルタ98の透過光のうち、蛍光波長527nm付近の波長のスペクトル強度が測定された。本測定では、CCDの各画素は同じ蛍光を受光する。従って、これらの画素信号を積算処理する事により高感度測定が可能であった。
図7に、マイクロハニカム体及びモノリス体からの積算値である蛍光検出強度が血清標準試料中のコルチゾール量に対してプロットされたグラフを示す。図7を参照して、曲線110は、モノリス体を使用した場合の結果である。曲線112はマイクロハニカム構造体を使用した場合の結果である。本測定においては競合アッセイにより、OG−コルチゾールによる蛍光が、ターゲット試料である血清コルチゾールにより弱められる現象を利用している。従って、血清コルチゾールに対して検体中のコルチゾール量が増えた場合には相対検出強度が減少している。図7から明らかな様に、10μl/dl(114及び115)及び100μl/dl(116及び117)のいずれのコルチゾール量に対しても、積算値である蛍光検出強度は、モノリス体に比べてハニカム構造体の方が1〜2桁程度高くなる。従って、本実施の形態に係るマイクロハニカム構造体が、モノリス体と比較してターゲットの検出感度がはるかに高い事がわかる。
以下では、実施例2として、抗ヒトCgAを包摂及び担持したハニカム構造体の作製方法と評価実験結果とについて説明する。本実施例ではターゲットはヒトCgAであり、ヒトCgAと抗ヒトCgAとの間の抗ヒトCgA−ヒトCgA反応によって生成された反応生成物による蛍光強度分析を行なう。
本実施例ではハニカム構造体は以下の様にして作製した。まず、54%珪酸ナトリウム溶液を脱イオン蒸留水で希釈する事により、1.9mol/lのSiO2濃度の珪酸ナトリウム水溶液24mlが得られた。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂29mlを攪拌しながら加え、珪酸ナトリウム水溶液のpHが2.5付近に調整されたシリカヒドロゾルを得た。その後、6mlのシリカヒドロゾルを、底から1cm程度ガラスビーズを詰めた内径1.0cmのポリプロピレン製チューブに注入した。そのチューブに蓋をし、30℃で静置した。静置された試料は2時間後に均一なゲル状物質となった。
試料がゲル化してから2時間後に、得られたゲル状物質を、2cm/時という一定速度を保ちつつ、−30℃のエタノール冷媒槽に挿入した。この時、シリカヒドロゲルにおける相分離に起因して、挿入端から少し離れたところから擬似定常状態の氷の成長が始まった。この成長は、ポリプロピレンチューブ内のゲル全体が凍結するまで続いた。
次に、この試料を243Kに保たれた恒温槽中へと移し、2時間恒温槽中に保持した。この処理により、氷の結晶をテンプレートとするマイクロハニカム構造の強度が強められた。この様にして得られた試料を室温で解凍した後、チューブから取り出した。その後、この試料を25℃の12%アンモニア水に24時間浸漬する事により、微細孔サイズの拡大を促した。
その後、この試料をt−ブタノールに浸漬し、十分時間をかけて、溶媒をアンモニア水からt−ブタノールに置換した。ここでさらに、試料を−10℃で凍結乾燥する事によってハニカム構造体形状が得られた。次に、得た試料を鋭利な剃刀を用いて1mm厚の薄片ディスク状に切削した。その後、内部空気が純窒素で置換された焼成炉において温度900℃でこの試料を30分間アニールした。これは、試料の構造強度及び透光性を向上させるためである。
次に、0.27μモルの抗ヒトCgA(矢内原研究所製)に蒸留水12mlを加えた溶液に、得られた試料を24時間浸漬する事により、抗ヒトCgAを包摂及び担持したハニカム構造体が得られた。
この様にして得られた試料は、図3の断面図と同様、内径が3〜4μmの多数個のマイクロチャネル40等が、およそ1μmの厚みを持つ隔壁60等により相互に区分されたマイクロハニカム構造を有していた。該隔壁60等はメソポーラス構造を有していた。
このマイクロハニカム構造体をBET法により評価した。すると、細孔径は平均18.6nm、表面積は13.0m2/g、及びメソ孔容積0.36cm3/gであった。
[評価実験]
上述した様に作製された、抗ヒトCgAを包摂及び担持し、1mm厚に切削されたハニカム構造体を用いて、唾液中に存在するヒトCgAをターゲットとした測定を行なった。測定は矢内原研究所によるプロトコール「YK070 Human Chromogranin A EIA」に準じた。
すなわち、独Starsted社製唾液採取チューブに800μlの唾液サンプルを入れ、3000rpmにて遠心区分した。その後、この唾液サンプルは、小さなポリプロピレンチューブに移され、−30℃にて保存された。この唾液サンプルを検体として用いた。
予め、標準ヒトCgA抗原(矢内原研究所製)を濃度30pモル、10pモル、1pモル、及び0.3pモルでリン酸緩衝液に溶解・希釈した標準液をそれぞれ200μlずつ用意した。次に、1.2cm角及び深さ5mmの石英容器5個が用意された。それらの容器の各々に、100μlの1×PBS、100μlのビオチン標識ヒトCgA抗原溶液、及び200μlの標準ヒトCgA抗原、又は、100μlの1×PBS、100μlのビオチン標識ヒトCgA抗原溶液、200μlの唾液検体サンプルのいずれかの混合サンプル400μlを注入して攪拌した。その後、上述した方法で作製された抗ヒトCgAを担持するハニカム構造体が混合サンプルに浸漬された。その後、抗ヒトCgAを担持するハニカム構造体は8時間放置されて、測定試料をハニカム構造体全体に染みわたらせた。
その後、各石英容器中の混合液を除き、さらに石英容器を洗浄した。その後、HRP(Horseradish Peroxidase)結合Streptavidin溶液が各石英容器に200μl入れられて、2時間反応させた。
さらに、各石英容器の液を除いて各石英容器を洗浄した。そして、0.15%過酸化水素を含む0.1モルリン酸−クエン酸緩衝液25mlにO−フェニレンジアミンの錠剤を溶かした溶液を各石英容器に100μl入れた。それらの混合溶液と、ハニカム構造体とを室温で30分間反応させ、再度洗浄を行なった。この様にして処理の終了した5個のハニカム構造体が石英容器から取り出され、吸光度計にセットされた。
図8は、実施例2の評価実験結果を示すグラフである。縦軸には吸光度が、横軸にはヒトCgA濃度が、それぞれ示されている。グラフ中の黒丸120、122、124、及び126はヒトCgA標準試料を示し、白丸128は唾液検体を示している。
図8を参照して、黒丸で示されたヒトCgA標準試料に対する測定データ120、122、124、及び126と、白丸で示された唾液検体の測定データ128とを比較した。標準サンプル120では0.3pモル/mlの微量でも検出が可能であった。一方、測定に供した唾液検体中のヒトCgA濃度(白丸128)は、0.43pモル/mlであった。そこで、この実施例2における測定方法でも、唾液検体中に含まれるヒトCgA濃度を十分に測定する事が可能であると結論付けられた。
以下では、実施例3として、実施例1及び2で作製したディスク状ハニカム構造体を積み重ね、図9に示す様な2重の積層構造を作製した。この積層ハニカム構造体の評価実験結果について以下で説明する。この実施例における、積層ハニカム構造体は、実施例1及び2で説明したマイクロハニカム構造体を積層する事により容易に作製する事ができる。従ってその作製方法についての記述は省略する。
[評価実験]
図9に、2重積層構造ディスク状ハニカム構造体140を示す。図9を参照して、2重構造ディスク状ハニカム構造体140は、実施例2で作製したハニカム構造体と同様の構造を持つハニカム構造体152と、ハニカム構造体152の上に積層された、実施例1で作製したハニカム構造体と同様の構造を持つハニカム構造体150とを含む。
この2重積層構造ディスク状ハニカム構造体140を使用して、唾液試料中のコルチゾール及びヒトCgAの同時測定を行った。唾液サンプルは実施例2で用いたものと同様のものを用いた。
1.2cm角、深さ5mmの石英容器を用意した。その中に50μlの1×PBS、100μlのビオチン標識ヒトCgA抗原溶液、50μlの0.33モルOG−コルチゾール、及び200μlの唾液検体サンプルから成る混合サンプル400μlを注入し、攪拌した。この混合溶液中に、積層型ハニカムを浸漬し、24時間放置した。この様に放置する事により、測定試料がマイクロハニカム全体に染みわたる様にした。
その後、石英容器の液を取除き、洗浄した後、テキサスレッドで蛍光標識したStreptavidin溶液400μlを石英容器に注入した。そして、この溶液と試料とを2時間反応させた。その後、試料をさらに洗浄及び乾燥させた。処理が終了すると、2重積層ハニカムを石英容器から取出し、蛍光測定を行なった。
蛍光測定においては、波長495nmの窒化ガリウム系単一量子井戸レーザダイオードを用いて蛍光励起を行なった。コルチゾールに由来するオレゴングリーンの527nm及びヒトCgAに由来するテキサスレッドの615nmの両波長からの蛍光を検出した。この事から、両ストレス関連物質の同時評価が可能である事がわかった。
また、本方法で測定されるストレス関連物質の量は、コルチゾール及びヒトCgAについて、それぞれ、およそ8.4pモル/ml及び0.21pモル/mlである事がわかった。
以下では、実施例4として、馬ミオグロビンを包摂及び担持したハニカム構造体の作製方法と評価実験結果とについて説明する。
本実施例では、馬ミオグロビン−一酸化炭素反応を用いる。ハニカム構造体の隔壁の微細孔には、馬ミオグロビンを包摂及び担持させ、ターゲットである一酸化炭素をこのハニカム構造体に供給する。その結果、ハニカム構造体に包摂及び担持された馬ビオグロビンと一酸化炭素との間の馬ミオグロビン−一酸化炭素反応によって、反応生成物が生ずる。この反応生成物の蛍光強度を測定する事により、一酸化炭素の濃度を測定する。
まず、54%珪酸ナトリウム溶液を脱イオン蒸留水で希釈し、1.9mol/lのSiO2濃度の珪酸ナトリウム水溶液24mlを得た。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂29mlが攪拌しながら加え、水溶液のpHを3.0程度に予め調整した。イオン交換樹脂を取り除いた後、アンモニア水を数滴滴下した。この滴下により、pHが5.8を示すシリカヒドロゾルが得られた。
次に、得られたシリカヒドロゾルに、Sigma Chemical社製の馬ミオグロビン2mMが添加されたミオグロビン水溶液9mlを加え、混合した。その後、底から1cm程度までガラスビーズを詰めた内径1.0cmのポリプロピレン製チューブにこの混合液が注入され、蓋をして30℃でこのチューブを静置した。静置された試料は2時間後に均一なゲル状物質となった。
試料がゲル化してから2時間後に、−20℃のエタノール冷媒槽にゲル化した試料を2cm/時という一定の速度を保ちつつ挿入した。この時、シリカヒドロゲルにおける相分離に起因して、挿入端から少し離れたところから擬似定常状態の氷の成長が始まった。この成長は、ポリプロピレンチューブ内のゲル全体が凍結するまで続き、氷の結晶をテンプレートとするマイクロハニカム構造が形成された。
次に、この試料を243Kに保たれた恒温槽中へ移し、2時間保持した。この様にして得られた直径1cm、長さ3cmの試料を室温で解凍した。その後、ポリプロピレンチューブから取出されて直ぐに、その試料を鋭利な剃刀を用いて1.0mm厚の薄片ディスク状に切削した。
この様にして得られた試料は、図3の断面図に示したものと同様、内径が3〜4μmの多数個のマイクロチャネル40等が、およそ1μmの厚みを持つ隔壁60等により相互に区分されたマイクロハニカム構造を有する。さらに、該隔壁60等は多孔質である。多孔質部分は、形成条件にもよるが、細孔径2〜50nmのメソ孔を有する。そして、試料を乾燥させた後にBET法で評価した試料の比表面積は90m2、メソ孔容積は0.17cm3/gであった。
この様にして得られた薄片ディスク状のハニカム構造体試料は、使用前までリン酸緩衝液中に保存しておいた。
[評価実験]
評価実験では、上記の様にして作製された、馬ミオグロビンを包摂及び担持したハニカム構造体の一酸化炭素検出に関する検出感度を評価した。
馬ミオクロビンを包摂及び担持したハニカム構造体は10cm角の容器にセットされ、一酸化炭素を1000ppm含む空気に暴露された。
その結果、オキシミオグロビンからカルボキシルミオグロビンが生成される事に由来する波長470nmでの吸収係数が減少した。この事は、一酸化炭素がハニカム構造体に包摂及び担持された馬ミオグロビンに結合した事を示す。
以下では、実施例5として、HRPとGOD(glucose oxidase)とを包摂及び担持したハニカム構造体の作製方法と評価実験結果とについて説明する。
まず、54%珪酸ナトリウム溶液を脱イオン蒸留水で希釈し、1.9mol/lのSiO2濃度の珪酸ナトリウム水溶液24mlを得た。ここへH+型強酸性イオン交換樹脂29mlを攪拌しながら加え、水溶液のpHを3.0程度に予め調整した。イオン交換樹脂を取り除いた後、アンモニア水が数滴滴下された。この滴下により、pHが5.8を示すシリカヒドロゾルを得た。
一方、10mgのHRP及び25mlの5000UのGODを、pH6.0のリン酸緩衝液に加えて、HRP/GOD溶液を作製した。その後、上記シリカゾル10mlにHRP/GOD溶液10mlを混合した。その混合液を、底から1cm程度ガラスビーズを詰めた内径1.0cmのポリプロピレン製チューブに注ぎ込み、蓋をして30℃で静置した。静置された試料は2時間後に均一なゲル状物質となった。
試料がゲル化してから2時間後に、−20℃のエタノール冷媒槽に、2cm/時の速度を保ちつつ、ゲル化した試料を挿入した。この時、シリカヒドロゲルにおける相分離に起因して、挿入端から少し離れたところから擬似定常状態の氷の成長が始まった。この成長は、ポリプロピレンチューブ内のゲル全体が凍結するまで続き、氷の結晶をテンプレートとするマイクロハニカム構造が形成された。
次に、この試料を243Kに保たれた恒温槽中へと移し、2時間保持した。この様にして得られた直径1cm及び長さ3cmの試料が室温で解凍された。その後、この試料は、ポリプロピレンチューブから取り出された直後に、鋭利な剃刀を用いて1.0mm厚の薄片ディスク状に切削された。
この様にして得られた試料は、図3の断面図に示されたものと同様に、内径が3〜4μmの多数個のマイクロチャネル等が、およそ1μmの厚みを持つ隔壁60等により相互に区分されたマイクロハニカム構造を有していた。また、該隔壁60等は多孔質で、形成条件にもよるが、細孔径2〜50nmのメソ孔を有する構造を有していた。この多孔質構造を、乾燥させた後にBET法で評価した比表面積は60m2及びメソ孔容積は、それぞれ、0.48cm3/g及び0.11cm3/gであった。
この様にして得られた薄片ディスク状のハニカム構造体試料は、使用前までリン酸緩衝液中に保存された。
[評価実験]
実施例5で作製したHRP/GODを包摂及び担持し、1mm厚に切削されたハニカム構造体についてグルコースの検出テストを行った。グルコースの標準試料は次の様にして作成した。すなわち、グルコースを148mMのNaCl、4.0mMのKCl、及び2.3mMのCaCl2をそれぞれ含むリンガー水溶液を用いて希釈した。これにより0.8〜10mM/lの濃度の標準試料が準備された。
酵素とグルコースとの反応により発生するH2O2を高感度で検出するための試薬として、1000mlの蒸留水にそれぞれ、1.8gのルミノール及び4gのNaClを加えたルミノール溶液を用意した。
それぞれの濃度のグルコースを含む標準サンプル各150mlが注入された石英容器に、ハニカム構造体の試料を浸漬し、3時間放置した。この放置により、測定試料がハニカム構造体の全体に浸透した。
次に、当該石英容器内を蒸留水で洗浄した後、元の容器内の蒸留水を、上記のルミノール溶液によって置換し、その中に試料を10分間放置した。その後、ハニカム構造体を石英容器から取り出して乾燥した後、試料の蛍光評価を図6の様に行なった。
図6を参照して、まず、半導体レーザ素子である発光波長495nmの窒化ガリウム系単一量子井戸型レーザダイオード90を発光させた。その光を、レンズ92及び94から成るビームエキスパンダで可干渉の高い平行光である励起光102に拡大し、ハニカム構造体試料に照射した。レーザ光励起により試料で発生した蛍光104で、光フィルタ98を通過した光のうち、蛍光波長590nm付近の光のみのスペクトル強度を、CCD100を用いて測定した。本実施例でも画素信号を積算処理する事により高感度測定が可能であった。
グルコース標準試料から積算値として得られた蛍光検出強度を各試料中のグルコース濃度に対してプロットし、グラフを作製した。図10に、そのグラフを示す。図10において、縦軸は蛍光強度を、横軸はグルコース濃度を、それぞれ示す。曲線160はグルコース濃度と蛍光強度との関係を示す曲線である。図10に示す様に、グルコース濃度が増加するのに応じて蛍光検出強度が増加するデータが得られた。さらに、グルコースが最も低濃度である0.8mM/l(162)に対しても十分な感度で測定を行なう事が可能であった。
今回開示された実施の形態は単に例示であって、本発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。本発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含む。
本発明のハニカム構造体の一例である、ハニカム構造体30全体を斜め上方より俯瞰した状態を模式的に示す図である。
ハニカム構造体30の平面図である。
図2の一点鎖線3におけるハニカム構造体30の矢視断面図である。
隔壁の模式的断面図である。
抗原−抗体反応が生じた後の隔壁の模式的断面図である。
簡便かつ迅速に反応生成物を光学的に検出するための装置を示す図である。
実施例1における、評価実験結果を示すグラフである。
実施例2の評価実験結果を示すグラフである。
実施例3の2重積層構造ディスク状ハニカム構造体140を示す斜視図である。
実施例3の評価実験結果を示すグラフである。
符号の説明
30 ハニカム構造体、32,34,及び40〜50 マイクロチャネル、60〜68 隔壁、80 微細孔、82 抗体物質、84 抗原物質、88 反応物質、90 半導体レーザ素子、92 凹レンズ、94 凸レンズ、98 光フィルタ、100 光センサ、102 励起光、104 蛍光