JP4118646B2 - イオン導電性組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン導電性組成物、更に詳しくは光電池の電荷移動層として好適に使用することができるイオン導電性組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽光発電は、化石燃料を用いず地球温暖化の原因となる二酸化炭素などを放出しないエネルギー源として注目されており、さまざまな太陽電池が研究開発され実用化されている。
【0003】
そのなかでも色素増感による酸化物半導体を用いた湿式太陽電池(非特許文献1参照)は、比較的高いエネルギー変換効率を得ることができ、しかも安価に製造することが可能である。なお、該湿式太陽電池は、負極として機能する光電変換素子、電荷移動層及び対向電極で構成され、該光電変換素子は導電性支持体と感光層とからなっており、更に該感光層は色素が吸着した半導体層を含んでいる。また、上記電荷移動層はヨウ化物等の電解質及び溶媒を含むイオン導電性組成物からなっており、光電変換素子で発生した電子が負極を及び外部回路を通って対向電極に至り、対抗電極でヨウ化物を還元することにより電池として機能するものである。
【0004】
該湿式太陽電池は、上記したような優れた特徴を有する反面、電荷移動層のイオン導電性組成物として低沸点溶媒を多量に含む電解液を用いている為に長期に渡って使用すると電解液の蒸発や水の混入により光電変換効率が著しく低下するという問題がある。また、上記湿式太陽電池には、光電変換素子の半導体層で発生した電子の全てが負極に移動せずにその一部が電解質のヨウ素化合物を還元するのに使われてしまう(このような電子の流れを暗電流ともいう)のが避けられず、開放電圧が低下して変換効率をより向上させるのが困難であるという問題がある。
【0005】
上記溶媒に関する問題は、イオン導電性組成物を高分子マトリックス中に保持することにより改善が図られており、暗電流の問題に関しては、電解液に4−tert−ブチルピリジンや2−ビニルピリジンを添加する方法が知られている(非特許文献2参照)。
【0006】
【非特許文献1】
Gratzel等,「ネーチャー(Nature)」,1991年、第353巻,p.737
【非特許文献2】
「ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー(J. phys. chem.)B」,1977年,第101巻,p.2576。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記非特許文献2に示されるような化合物を用いた湿式太陽電池は、暗電流の発生が抑制されれた結果、開放電圧が向上し変換効率は向上するもののその効果は必ずしも満足行くものではなく、またその耐久性(開放電圧向上効果の持続性)も十分とは言えなかった。そこで、本発明は、光電変換効率、特に開放電圧および耐久性の優れた光電気化学電池を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決すべく、芳香族ヘテロ環系化合物(上記4−tert−ブチルピリジンもこのような化合物に含まれる)に着目し、様々な芳香族ヘテロ環系化合物を電解液に添加したときの湿式太陽電池性能を評価したところ、特定の芳香族へテロ環系化合を添加した場合には、4−tert−ブチルピリジンや2−ビニルピリジンを添加したときよりも高い開放電圧を示し、その耐久性も高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、(I)下記i)〜vi)
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
から選ばれる少なくとも1種の芳香族へテロ環系化合物、(II)電解質、及び( III )溶媒を含有してなり、(I)芳香族へテロ環系化合物の添加量が、( II )電解質のモル数を1としたときに0.001〜0.1の量比になる量であり、( III )溶媒の添加量が、( II )電解質1質量部に対して1〜30重量部であることを特徴とするイオン導電性組成物である。
【0010】
また、他の本発明は、上記イオン導電性組成物を用いた電荷移動層を具備する光化学電池である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のイオン導電性組成物は、下記i)〜 vi )
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
から選ばれる少なくとも1種の芳香族へテロ環系化合物 、及び(II)電解質を含有してなる。上記特定の芳香族へテロ環系化合物を用いることにより、光電変換効率、特に開放電圧および耐久性の優れた光電気化学電池を得る、本発明の前記目的が達成される。
【0012】
本発明のイオン導電性組成物で使用する電解質は、水その他の溶媒に溶解して溶液がイオン電導を行うような物質であれば特に限定されない。例えば、湿式太陽電池の電荷移動層として使用する場合には、リチウムヨウ化物、ナトリウムヨウ化物、カリウムヨウ化物などの金属ヨウ化物、アルキルアンモニウムヨウ化物、四級ピリジニウムヨウ化物、又は四級イミダゾリウムヨウ化物などの従来の湿式太陽電池で使用されている電解質を使用することができる。これら電解質は単独で或いは異なった種類のものを混合して使用することができる。
【0013】
本発明のイオン導電性組成物に含まれる前記i)〜vi)から選ばれる少なくとも1種の芳香族へテロ環系化合物と電解質との量比は、湿式太陽電池の電荷移動層として使用する場合において、少量では開放電圧の向上効果は十分でなく、添加量が多すぎると短絡電流量が小さくなり光電流変換効率の低下を招くという理由から、電解質のモル数(電解質が混合物である場合には総モル数を表す)を1としたときの上記芳香族へテロ環系化合物のモル数が0.001〜0.1、特に0.003〜0.007となる量比である。なお、上記芳香族へテロ環系化合物は、化合物i)〜vi)をそれぞれ単独使用しても混合して使用してもよい。
【0014】
また、本発明のイオン導電性組成物は溶媒を含ませて使用される。かかる溶媒としては、従来の湿式太陽電池の電解移動層で用いられる溶媒が制限無く使用できる。このような溶媒を具体的に例示すれば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートのカーボネート類、アセトニトリルやメトキシアセトニトリルやプロピオニトリルなどのニトリル類、及びこれらの混合物を挙げることができる。これら溶媒の使用量は、湿式太陽電池の電荷移動層として使用する場合には、電解質1重量部に対して1〜30重量部、特に5〜15重量部使用するものである。
【0015】
さらに本発明のイオン導電性組成物は、上記のような溶媒を加えた上に、アクリロイル基やメタクリロイル基のような重合性基を持つ化合物、例えばアクリロニトリルやメタクリロニトリル等を加えて重合し、得られた架橋体をマトリックスとして、該マトリックスに保持させた形で使用することもできる。
【0016】
本発明のイオン導電性組成物は、湿式太陽電池に代表される光化学電池の電荷移動層として好適に使用することができ、本発明のイオン導電性組成物を電荷移動層として用いた本発明の光化学電池は、開放電圧が高く光電変換効率に優れ、高い耐久性を持つという特長を有する。このような効果が発現するのは、本発明のイオン導電性組成物に含まれる前記i)〜 vi )から選ばれる少なくとも1種の芳香族へテロ環系化合物が、湿式太陽電池の感光層である半導体層(例えばTiO2粒子)表面に吸着するために半導体層表面で不可避的に起こる電解質のヨウ素化合物の還元反応が抑制されて開放電圧が高くなったものと考えられる。また、上記化合物i)〜 vi )は、従来同じ目的で添加される既知の化合物(例えば4−tert−ブチルピリジン又は2−ビニルピリジン)と比べてその吸着力が強いので開放電圧向上効果がより高くなっているばかりでなく、従来の化合物を用いた場合にはヨウ素濃度の高い電解質組成物を用いた場合には開放電圧が低くなってしまい光電変換効率が低下してしまうのに対し、前記化合物i)〜 vi )を用いた場合には、このような条件下でも開放電圧の低下、ひいては光電変換効率の低下を抑制することが可能となっている。
【0017】
以下、図面を参照して本発明の光化学電池について更に詳しく説明する。図1に代表的な本発明の光化学電池1の模式図を示す。該光化学電池1は、基本的には従来の湿式太陽電池と同様の構造を有し、光電変換素子2と、電荷移動層3と、対向電極4とで構成されている。上記光電変換素子2は負極として作用し、例えばガラスからなる基板5a上に例えばITO等の導電性物質から成る導電層6が形成された導電性支持体7と、感光層8とから成り、上記対向電極4は、ガラス等の基板5b上に金属膜9が積層された構造を有する。また、上記感光層8は図2に示すように色素10が吸着した半導体11からなり、上記電荷移動層3は本発明のイオン導電性組成物で構成されている。本発明の光化学電池で使用する各構成部材は、従来の光化学電池で使用されているものと特に変わることは無い。例えば、導電性支持体としては光透過性及び電気導電性を有するもの、具体的にはガラスもしくは透明プラスチック基板にITOや酸化亜鉛等の導電性の金属酸化物を塗布したものが好適に使用できる。
【0018】
また、感光層を構成する半導体としては、TiO2、ZnO、SnO2、Fe2O3、WO3、Nb2O5等が使用でき、中でも製造コストと原材料確保とエネルギー変換効率の点からTiO2微粒子が特に好適に使用できる。また、色素としては、米国特許4927721号、同4684537号、同5084365号、同5350644号、同5463057号、同5525440号および、特開平7−249790号明細書等に記載された錯体色素、より具体的には、シス−ジシアネート−ビス−2、2'−ジピリジル−4、4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)等が使用できる。
【0019】
なお、上記感光層の形成は、例えば、ゾル−ゲル法等により作製した上記平均粒子径1〜1000nmの半導体微粒子に分散媒を加え調製した分散液を導電性支持体に塗布後、乾燥して焼結した後に含浸法当により色素を吸着させる方法等が挙げられる。用いる分散媒としては水、有機溶媒、あるいはその混合物などが特に制限無く用いることができる。また、必要に応じて界面活性剤などを分散液に添加しても良い。塗布する方法としては、ブレード法、印刷法、スプレー法などを用いることができる。焼成は空気中あるいは不活性ガス中で300〜700℃で行い感光層を形成する。膜厚は厚いほど半導体層中の色素の量が多くなり光の吸収が強くなるが、導電性支持体までの距離が増し電気抵抗が大きくなるために、感光層の厚みは0.1〜100μm、好ましくは1〜50μmである。
【0020】
また、対向電極としてはガラスもしくは透明プラスチック基板上に金属を蒸着またはスパッタリングによって金属薄膜を形成したものが好適に使用できる。このような部材を用いた場合には、感光層の支持体側から入射した光が対向電極で反射するので、光の利用効率が高くなる。
【0021】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。下記実施例及び比較例で使用した芳香族へテロ環系化合を以下に示す。
【0022】
【化19】
【0023】
なお、上記各化合物は、それぞれ以下に示す文献に記載された方法に基づいて合成した。
【0024】
化合物i)(実施例1で使用):Chemistry of Heterocyclic Compounds volume 32 (6)、1996、page 672〜681
化合物ii)(実施例2で使用):Chemistry of Heterocyclic Compounds volume 32(6)、1996、page 672〜681
化合物a)(比較例1で使用):Tetrahedrone Letters、volume 40(14)、1999、page 2747〜2748
化合物b)(比較例2で使用):Magnetic Resonance inChemistry,volume 26、1988、page 134
化合物iii )(実施例3で使用):Recueil des Travaux chemiques des Pay−Bas、volume 98、1999、page 258〜262
化合物c)(比較例3で使用):Journal of Organic Chemistry、volume 42(7)、1977、page 1153〜1159
化合物d)(比較例4で使用):Journal of Organometallic Chemistry、 volume 355、1987、page359〜364
化合物iv )(実施例4で使用):Journal of Chemical Society perkin Transactions 1、volume3、1984、page 481〜486
化合物v)(実施例5で使用):Aldrich社製
化合物e)(比較例5で使用):Journal of ChemicalSociety perkin Transactions 1、volume3、1984、page 481〜486。
化合物f)(比較例6で使用):Bulletin of Societede France,1967、page 2630
化合物vi )(実施例6で使用):Heterocycles、volume23、(9)、1985、page 1645〜1649
化合物g)(比較例7で使用):Chemische Berichte、volume 91、1958、page 2830〜2833
化合物h)(比較例8で使用):Journal of ChemicalSociety Perkin Transactions 1、 volume 9、2001、page 1103〜1108
化合物i)(比較例9で使用):Aldrich社製。
【0025】
実施例1〜6及び比較例1〜9
電解液に添加する芳香族へテロ環系化合物としてそれぞれ上記した化合物を用い、光化学電池の作成し、その評価を行った。その結果を表1に示す。なお、光化学電池の作製は、“色素増感太陽電池の最新技術”(シーエムシー社、2001)の44〜53項に記載された方法、或いはインターネット上の東北大学多元物質科学研究所のホームページに掲載された方法(kuroppe.icrs.tohoku.ac.jp/~masaki/wet_cell/main-j.htm)等に基づき下記(1)〜(4)の手順で作製し、得られた光化学電池の光電変換効率を下記(5)に示すようにして測定した。
【0026】
(1) 半導体電極の作製
和光純薬工業株式会社から購入したチタンイソプロポキサイド125mlを0.1Mの硝酸水溶液750mlに攪拌しながらゆっくり滴下した。80度8時間攪拌後室温まで放冷後、オートクレーブを用いて225℃で12時間水熱処理を行い酸化チタンの含有量が11重量%になるよう調整した。得られたコロイド溶液1重量部に和光純薬株式会社製Triton−Xを0.02〜0.05重量部加え均一な分散液とした。フッ素をドープした酸化スズ透明電極付ガラス基板にこの分散液をブレード法で塗布し100℃で1時間乾燥した後、450℃で1時間焼成した。その後0.1Mの四塩化チタン水溶液を一滴滴下し一晩放置した。その後水洗し、再び100℃で1時間乾燥した後、450℃で1時間焼成し作製した。
【0027】
(2) 色素の固定
色素の固定はルテニウム増感色素(シス−ジシアネート−ビス−2、2−ジピリジル−4、4'−ジカルボキシレート)ルテニウム(II)0.3mmol含むエタノール溶液に上記チタニア板を一晩浸漬し固定した。
【0028】
(3) 電解液の調整
電解液はアセトニトリルにヨウ化リチウム、1、2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨウ化物、ヨウ素、及び各実施例及び比較例で使用する種芳香族へテロ環系化合物をアセトニトリルにヨウ化リチウム0.3M、1、2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨウ化物0.5M、ヨウ素0.05M、各種芳香族へテロ環系化合物0.5Mとなるように添加して調製した。
【0029】
(4) 光化学電池の作製
前記(2)で作製したチタニア基板を光電変換素子とし、対向電極として白金をスパッタしたガラス基板を用いた。スペーサーをはさんで電極をはさみ、注入口2箇所を残しエポキシ系接着剤で周りを封止後、電解液を注入し、注入後注入口をエポキシ系接着剤で封止した。この後電極にリード線を取り付けて光化学電池とした。
【0030】
(5)光電変換効率の測定
500Wのキセノンランプの光をAM1.5フィルターとUVカットフィルターを通した擬似太陽光を作製した光化学電池に照射し発電性能の測定を行った。また、寿命試験として240時間の照射前後の光電変換効率を測定した。これらによって得られた光電気化学電池の開放電圧、短絡電圧、変換効率をまとめて表1に示す。尚、劣化の度合いを表す数値として変換効率低下度 =(240時間後変換効率/初期変換効率) X 100を求め、どの程度低下したかの指標とした。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示されるように、比較例の光化学電池に比べて実施例の光化学電池は開放電圧が高く(その結果光電変換効率も高くなっている)、また240時間後においても変換効率も劣化が少なくなっている。
【0033】
【発明の効果】
本発明により開放電圧および耐久性の向上に優れた光電気化学電池を提供することができる。
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