JP4114199B2 - エンジンの燃焼制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの燃焼制御装置に関し、詳細には、予混合圧縮燃焼が行われるエンジンの燃焼制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ディーゼルエンジンの燃焼には、トレードオフの関係にあるNOx低減と煤(パーティキュレート:PM)低減の両者を同時に達成することが求められる。このような課題を解決するため、近年、燃料の噴射時期を大幅に進角させて、予混合燃焼が主体の燃焼状態とすることにより、NOxと煤とを同時に且つ格段に低減できる予混合圧縮着火燃焼と呼ばれる燃焼形態が提案されてる。例えば、特許文献1に記載のディーゼルエンジンでは、EGRによって多量の排気を還流させるとともに、気筒の圧縮行程で燃料を噴射して空気と十分に混合し、この予混合気を圧縮行程の終わりに自着火させて、燃焼させるようにしている。
【0003】
このような予混合燃焼(予混合圧縮着火燃焼)のときには、EGRによって吸気中に還流させる排気の割合(EGR率)を従来よりも高く設定する。すなわち、空気に比べて熱容量の大きい排気を吸気中に多量に混在させ、予混合気中の燃料及び酸素の密度を低下させることで、着火遅れ時間を延長して燃料を吸気(空気及び排気)と十分に混合させ、そのように形成された予混合気の着火のタイミングを圧縮上死点(TDC)近傍まで遅延させて、サイクル効率の高い熱発生のパターンとしている。また、そのようにして着火した予混合気中では燃料及び酸素の周囲に不活性な排気が略均一に分散するので、これが燃焼熱を吸収し、NOx生成が大幅に抑制される。
【0004】
【特許文献1】
特開2000−110669号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような予混合圧縮着火燃焼では、燃料が早期に噴射されるため、噴射された燃料が過早着火を起こし、所望の出力や燃焼形態が得られないことがあるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、安価な構成で、過早着火を検出し、所望の出力や燃焼形態が得られるようにするエンジンの燃焼制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、
エンジンの気筒内の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記エンジンからの排気の一部を前記燃焼室に還流させるEGR手段と、
前記燃料噴射弁に要求トルクに応じた量の燃料を吸気行程から圧縮行程上死点付近までの所定時期に噴射させ、前記EGR手段に所定量の以上の排気を前記燃焼室に還流させることにより、前記燃焼室において予混合燃焼を行わせる予混合燃焼制御手段と、
前記燃焼室内の異常燃焼を検出するノッキングセンサと、
前記ノッキングセンサの検出値が大きいときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正を行う補正手段と、
前記補正手段により増量補正する排気の還流量が上限値を超えたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づき、前記燃料噴射弁、前記EGR手段または前記予混合燃焼制御手段の作動状態を診断する診断手段と、
を備えていることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置が提供される。
【0008】
本発明の好ましい態様によれば、前記予混合燃焼制御手段は、前記所定時期に行われる燃料噴射の後に前記燃焼室内の温度上昇に伴って発生する冷炎反応から熱炎反応への移行を遅延させるように燃料を噴射させる副噴射を行わせ、前記補正手段は、前記ノッキングセンサの検出値が大きいときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正を行う前に、前記副噴射による噴射量を増量させる補正を行い、前記副噴射による噴射量がガード値を超えたときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正に移行する。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の第1の実施形態のエンジンの燃焼制御装置を詳細に説明する。図1は、第1の実施形態のエンジンの燃焼制御装置が適用されるエンジンシステムの概略的なブロック図である。このエンジンシステムは、車両に搭載されたディーゼルエンジン1を備え、このエンジン1は4本の気筒2(1つのみ図示する)を有している。各気筒2内には、往復動可能にピストン3が嵌挿され、ピストン3により各気筒2内に燃焼室4が形成されている。また、燃焼室4の天井部にはインジェクタ5(燃料噴射弁)が取付けられ、その先端部の噴口から高圧の燃料が燃焼室4に直接、噴射される。各インジェクタ5の基端部は、それぞれ分岐管6a,6a,…(1つのみ図示する)により共通の燃料分配管6(コモンレール)に接続されている。コモンレール6は、燃料供給管8により高圧供給ポンプ9に接続され、高圧供給ポンプ9から供給される燃料を各インジェクタ5に所定のタイミングで供給できるように高圧の状態で蓄えている。燃料分配管6には、内部の燃圧(コモンレール圧力)を検出するための燃圧センサ7が取付けられている。
【0020】
高圧供給ポンプ9は、図示しない燃料供給系に接続されるとともに、歯付ベルト等によりクランク軸10に駆動連結されていて、燃料をコモンレール6に圧送するとともに、その燃料の一部を電磁弁を介して燃料供給系に戻すことにより、コモンレール6への燃料の供給量を調節する。電磁弁の開度が燃圧センサ7による検出値に応じてECU40(後述)により制御されることによって、燃圧がエンジン1の運転状態に対応する所定値に制御される。
【0021】
また、エンジン1の上方には、吸気弁及び排気弁をそれぞれ開閉させる動弁機構(図示せず)が設けられている。エンジン1の下部には、クランク軸10の回転角度を検出するクランク角センサ11と、過早着火等の異常燃焼を検出するノッキングセンサ12と、冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ13とが設けられている。クランク角センサ11は、クランク軸端に設けた被検出用プレートとその外周に相対向するように配置した電磁ピックアップとからなり、被検出用プレートの外周部全周に亘って等間隔に形成された突起部が通過する度に、パルス信号を出力する。
【0022】
エンジン1の一方(図の右側)の側面には、エアクリーナ15で濾過した空気(新気)を各気筒2の燃焼室4に供給する吸気通路16が接続されている。吸気通路16の下流端部にはサージタンク17が設けられ、サージタンク17から分岐した各通路がそれぞれ吸気ポートにより各気筒2の燃焼室4に連通しているとともに、サージタンク17には吸気の圧力状態を検出する吸気圧センサ18が設けられている。
【0023】
また、吸気通路16には、上流側から下流側に向かって順に、外部からエンジン1に吸入される空気の流量を検出するホットフィルム式エアフローセンサ19と、後述のタービン27により駆動されて吸気を圧縮するコンプレッサ20と、このコンプレッサ20により圧縮した吸気を冷却するインタークーラ21と、バタフライバルブからなる吸気絞り弁22とが設けられている。吸気絞り弁22は、弁軸がステッピングモータ23により回動され、全閉から全開までの間の任意の状態を採り得るものであり、全閉状態でも吸気絞り弁22と吸気通路16の周壁との間には空気が流入するだけの間隙が残るように構成されている。
【0024】
一方、エンジン1の他方(図の左側)の側面には、各気筒2の燃焼室4からそれぞれ燃焼ガス(排気)を排出する排気通路26が接続されている。排気通路26の上流端部は、各気筒2毎に分岐して排気ポートにより燃焼室4に連通する排気マニホルドであり、排気マニホルドよりも下流の排気通路26には上流側から下流側に向かって順に、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサ29と、排気流を受けて回転されるタービン27と、排気中の有害成分(HC、CO、NOx、煤等)を浄化可能な触媒コンバータ28とが配置されている。
【0025】
タービン27と吸気通路16のコンプレッサ20とからなるターボ過給機30は、可動式のフラップ31によりタービン27への排気の通路断面積を変化させるようにした可変ターボ(以下VGTという)であり、フラップ31は、各々、図示しないリンク機構を介してダイヤフラム32に駆動連結され、ダイヤフラム32に作用する負圧の大きさが負圧制御用の電磁弁33により調節されることで、フラップ31の回動位置が調節される。
【0026】
排気通路26には、タービン27よりも排気上流側の部位に臨んで開口するように、排気の一部を吸気側に還流させるための排気還流通路(EGR通路)34の上流端が接続されている。EGR通路34の下流端は吸気絞り弁22及びサージタンク17の間の吸気通路16に接続され、排気通路26から取り出された排気の一部を吸気通路16に還流させるように構成されている。また、EGR通路34の途中には、その内部を流通する排気を冷却するためのEGRクーラ37と、開度調節可能な排気還流量調節弁(以下EGR弁という)35とが配置されている。EGR弁35は負圧応動式のものであり、VGT30のフラップ31と同様に、ダイヤフラムへの負圧の大きさが電磁弁36によって調節されることにより、EGR通路34の断面積をリニアに調節して、吸気通路16に還流される排気の流量を調節する。
【0027】
各インジェクタ5、高圧供給ポンプ9、吸気絞り弁22、VGT30、EGR弁35等は、いずれもコントロールユニット(Electronic Contorol Unit:以下ECUという)40からの制御信号を受けて作動する。一方、このECU40には、燃圧センサ7、クランク角センサ11、ノッキングセンサ12、エンジン水温センサ13、吸気圧センサ18、エアフローセンサ19、リニアO2センサ29等の出力信号がそれぞれ入力され、さらに、図示しないアクセルペダルの踏み操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ39からの出力信号が入力される。
【0028】
ECU40によるエンジン1の基本的な制御では、主にアクセル開度に基づいて基本的な目標燃料噴射量が決定され、インジェクタ5の作動制御によって燃料の噴射量や噴射時期が制御されるとともに、高圧供給ポンプ9の作動制御により燃圧、即ち燃料の噴射圧力が制御される。また、吸気絞り弁22やEGR弁35の開度の制御によって燃焼室4への排気の還流割合を制御し、さらに、VGT30のフラップ31の作動制御(VGT制御)によって吸気の過給効率を向上させる。
【0029】
具体的には、図2の制御マップ(燃焼モードマップ)に示すように、エンジン1の温間の全運転領域のうちの相対的に低負荷側には、予混合燃焼領域(H)が設定され(設定運転状態)、この領域では、インジェクタ5により圧縮行程中期から後期にかけて燃料を噴射させ、予めできるだけ均質な混合気を形成した上で自着火により燃焼させる。このような燃焼形態は、予混合圧縮着火燃焼と称され、気筒の1サイクル当たりの燃料噴射量があまり多くないときにその燃料の噴射時期を適切に設定して、燃料を適度に広く分散させ且つ空気と十分に混合した上で、その大部分を略同じ着火遅れ時間の経過後に自着火させて、一斉に燃焼させるものである。つまり、予混合圧縮着火燃焼は、予混合燃焼の割合が拡散燃焼の割合よりも多い燃焼状態である。
【0030】
尚、インジェクタ5による燃料の噴射は、圧縮上死点近傍よりも気体の圧力や密度状態が低い燃焼室4に燃料を噴射する場合には、燃料噴霧の貫徹力が強くなり過ぎることを避けるため、圧縮行程中期から後期にかけて、複数回に分けて行われても良い。従って、燃料噴射量が多いほど燃料噴射の回数(分割回数)を増やすのが好ましい。
【0031】
予混合圧縮着火燃焼の際には、EGR通路34のEGR弁35を相対的に大きく開いて吸気通路16に多量の排気を還流させる。これにより、新気、即ち外部から供給される新しい空気に不活性で熱容量の大きい排気が多量に混合され、これに対して燃料の液滴及び蒸気が混合されることになるから、予混合気自体の熱容量が大きくなるとともに、その中の燃料及び酸素の密度は比較的低くなる。このことで、着火遅れ時間を延長して空気と排気と燃料とを十分に混合した上で、着火、燃焼させることが可能になる。
【0032】
図3のグラフは、エンジン1の低負荷域で圧縮上死点前(BTDC)の所定のクランク角(例えばBTDC30°CA)に燃料を噴射して予混合圧縮着火燃焼させたときに、熱発生のパターンがEGR率(新気量及び還流排気量を合わせた全吸気量に対する還流排気量の割合)に応じてどのように変化するかを示した実験結果を示している。図3に仮想線で示すように、EGR率が低いときには燃料はTDCよりもかなり進角側で自着火してしまい、サイクル効率の低い過早な熱発生のパターンとなる。一方、EGR率が高くなるに連れて自着火のタイミングは徐々に遅角側に移動し、図に実線で示すようにEGR率が略55%のときには、熱発生のピークが略TDCになってサイクル効率の高い熱発生パターンとなることがわかる。
【0033】
また、図3のグラフによれば、EGR率が低いときには熱発生のピークがかなり高くなっており、燃焼速度の高い激しい燃焼であることが分かる。このときには燃焼に伴うNOxの生成が盛んになり、また、極めて大きな燃焼音が発生する。一方、EGR率が高くなるに連れて熱発生の立ち上がりが徐々に緩やかになり、そのピークも低下する。これは、前記の如く混合気中に多量の排気が含まれる分だけ、燃料及び酸素の密度が低くなることと、その排気によって燃焼熱が吸収されることとによると考えられる。そして、そのように熱発生の穏やかな低温燃焼の状態では、NOxの生成が大幅に抑制される。
【0034】
図4のグラフは、前記の実験においてEGR率の変化に対する燃焼室4の空気過剰率λ、排気中のNOx及び煤の濃度の変化を示し、図4(a)によれば、この実験条件においてEGR率が0%のときには空気過剰率λがλ≒2.7と大きく、EGR率が大きくなるに従い空気過剰率λが徐々に小さくなって、EGR率が略55〜60%のときに略λ=1になっている。すなわち、排気の還流割合が多くなるに連れて混合気の平均的な酸素過剰率λが1に近づくのであるが、たとえ燃料及び酸素の比率が略λ=1であっても、それらの周囲には多量の排気が存在しているから、燃料や酸素の密度自体はあまり高くはないのである。従って、図4(b)に示すように、排気中のNOxの濃度はEGR率の増大とともに一様に減少していて、EGR率が45%以上ではNOxは殆ど生成しなくなる。
【0035】
一方、煤の生成については、図4(c)に示すように、EGR率が0〜略30%では殆ど煤が見られず、EGR率が略30%を超えると煤の濃度が急激に増大するが、EGR率が略50%を超えると再び減少し、EGR率が略55%以上になると略零になる。これは、まず、EGR率が低いときには一般的なディーゼル燃焼と同じく、予混合燃焼の割合よりも拡散燃焼の割合が多い燃焼状態になり、しかも、吸気中には燃料に対して酸素が過剰に存在することから、激しい燃焼の際にも煤は殆ど生成しないが、EGR率が増大して吸気中の酸素が少なくなると、拡散燃焼の状態が悪化して煤の生成量が急増するということである。一方、EGR率が略55%以上になると、上述したように、新気と排気と燃料とが十分に混合された上で燃焼するようになり、このときには煤は殆ど生成しないと考えられる。
【0036】
本実施形態では、エンジン1が低負荷側の予混合燃焼領域(H)にあるときには、燃料を比較的早期に噴射するとともに、EGR弁35の開度を制御して、EGR率を予め設定した所定値(第1設定値:前記の実験例では略55%くらいであり、一般的には略50〜略60%くらいの範囲に設定するのが好ましい)以上とすることで、NOxや煤の殆ど生成しない予混合燃焼が主体の低温燃焼を実現している。
【0037】
一方、図2の制御マップに示すように、予混合燃焼領域(H)以外の高速ないし高負荷側の運転領域(D)では、混合気の拡散燃焼の割合が予混合燃焼の割合よりも多い一般的なディーゼル燃焼を行うようにする。インジェクタ5により主に気筒2のTDC近傍で燃料を噴射させて、初期の予混合燃焼に続いて大部分の燃料を拡散燃焼させるようにする(以下、この運転領域(D)を拡散燃焼領域というが、この運転領域では気筒2の圧縮上死点近傍以外でも燃料を噴射するようにしてもよい)。
【0038】
このときEGR弁35の開度は、前記した予混合燃焼領域(H)に比べれば小さくして、EGR率が予め設定した所定値以下になるようにする。これは、拡散燃焼が主体の一般的なディーゼル燃焼において煤の増大を招かない範囲で、NOxの生成をできるだけ抑制するように設定され、具体的には図6のグラフに一例を示すように、拡散燃焼領域(D)におけるEGR率の上限は、例えば略30〜略40%の範囲に設定するのが好ましい。また、エンジン1の負荷が高くなるほど気筒2への新気の供給量を確保する必要があるので、高負荷側ほどEGR率は低くなり、しかも、高速ないし高負荷側ではターボ過給機30による吸気の過給圧が高くなるので、排気の還流は実質的に行われない。
【0039】
上述したように、エンジン1を予混合圧縮着火燃焼させる場合には、燃焼室4へ還流させる排気の流量が多ければ良いというものではなく、EGR率が高くなり過ぎれば、予混合気の着火タイミングが遅くなり過ぎてサイクル効率が低下し、燃え残りが多くなるとともに、失火する虞れもある。このため、通常は、エアフローセンサ19からの信号に基づいて求められる吸気量の変化やエンジン回転速度の変化に対応して、ECU40によりEGR弁35の開度を制御するようにしている。
【0040】
しかし、例えばエンジン1の加速運転時には、吸気流量の増大に対して排気の還流量が遅れて変化することになるから、一時的にEGR率が低下して、前記第1設定値を大幅に下回る虞れがある。特に、この実施形態のようにターボ過給機30を備えるたエンジン1の場合、過給圧の変化によって排気の還流量が大きく変化することから、EGR率の変化が大きくなり易く、このことによる着火時期の変動が問題となる。
【0041】
また、たとえEGR率が同じであっても、還流する排気の温度状態が変化すると、そのことによって着火遅れ期間が変化する。すなわち、還流する排気の温度状態が高いほど着火遅れ期間は短くなり、反対に、排気の温度状態が低いほど着火遅れ期間は長くなるし、さらに、厳密には燃焼室4そのものの温度状態や吸気温度の変化によっても着火遅れ期間は変化するから、このような温度変化に起因する着火時期の変化も問題となる。
【0042】
エンジン1を予混合圧縮着火燃焼の状態にする場合、単にEGR弁35の開度を制御するだけでは、予混合気の着火のタイミングをTDC近傍の適切な範囲に維持することはできず、必ずしも最適な熱発生パターンを実現することはできない。
【0043】
このため、本実施形態では、エンジン1の気筒2の圧縮行程終盤に燃焼室4の温度状態が徐々に上昇する状態で、予混合気の冷炎反応が開始した後の所定時期に追加で燃料噴射(以下、副噴射という)を行うと、これによって冷炎反応から熱炎反応への移行、即ち着火が遅延し、この遅延時間が追加噴射の量に応じて変化するという知見に基づいて、以下のような副噴射を行っている。
【0044】
エンジン1の低負荷域でEGR率を第1設定値よりも低い略50%として、気筒2の圧縮行程の比較的早期(例えばBTDC30〜45°CA)に燃料を噴射(以下、主噴射ともいう)するとともに、圧縮行程終盤の所定の時期(例えばBTDC15°CA近傍)に燃料を副噴射したときの熱発生率を示している図6のグラフによれば、副噴射する燃料の量が多いほど、予混合気の着火タイミングが遅角側にずれていくことが分かる。
【0045】
詳細には、副噴射を行わない場合(副噴射量が零)、図に仮想線のグラフAとして示すように、BTDC20°CA近傍から冷炎反応による小さな熱発生が見られ、その後、BTDC8°CA近傍から熱発生率が急激に立ち上がって、TDC前で比較的高いピークを示す。すなわち、EGR率が第1設定値よりも低いことから、予混合気が過早なタイミングで着火してしまい、このことで、図7(a)、(b)にそれぞれ示すようにNOxや煤の生成が多くなるとともに、図7(c)に示すように出力も相対的に低くなる(燃費の悪化を招く)。
【0046】
これに対し、副噴射を行うようにすると、図6、8にそれぞれ破線B、C及び実線Dとして示すように、BTDC15〜10°CAあたりで一旦、熱発生率が低下して筒内温度の上昇が緩やかになるとともに、その後に熱発生が大きく立ち上がる着火のタイミングが遅角側に移動する。このとき、主噴射及び副噴射を合わせた全噴射量は略同じにして、グラフB→C→Dの順に副噴射量が多くなるに従って(それぞれ全噴射量に対する副噴射量の割合が略14%、略23%、略33%)、着火時期が徐々に遅角側に移動するとともに、その立ち上がりが緩やかになり、実線Dや一点鎖線Eのグラフに示すように副噴射量が主噴射量と同じくらいになると(Eのグラフでは副噴射量の割合は58%)、着火時期が略TDCになって、サイクル効率の高い最適な熱発生のパターンとなる。
【0047】
このように副噴射によって着火時期が遅延するのは、副噴射された燃料が気化する際にその周囲の予混合気から熱を吸収して温度を低下させることによると考えられる。すなわち、一般に、予混合気が自着火する前の前炎反応は、燃料と酸素との反応によって中間生成物が生まれる比較的低温の酸化反応(冷炎反応)と、この中間生成物ないし燃料と酸素との反応によって水や二酸化炭素が生成される比較的高温の酸化反応(熱炎反応)とに大別され、この熱炎反応が一旦、開始すれば、その反応が爆発的に進行する燃焼状態になると考えられている。
【0048】
そのような前炎反応の進行は、燃料及び酸素の密度や雰囲気温度によって大きく左右され、比較的温度が低く且つ燃料等の密度も低い状態では、比較的長い冷炎反応の期間を経た後に熱炎反応へ移行することになり、或いは熱炎に至らないこともある(失火)。一方、雰囲気温度や燃料等の密度が高いときには冷炎反応の期間が短く、速やかに熱炎反応に移行する。
【0049】
そうすると、仮に燃料の副噴射を冷炎の開始前に行うと、この副噴射された燃料が主噴射による予混合気と一体になって部分的に過濃な混合気が形成され、この部分の燃料密度が高いことから早期に熱炎反応が開始することが予想される。一方、冷炎の開始後に副噴射を行えば、この副噴射された燃料が気化する頃には既に冷炎反応によって燃料の一部が消費されていて、燃料密度の特に高い部分が生じ難いので、この場合には、副噴射燃料の気化潜熱によって予混合気の温度が低下することで、熱炎反応の開始が遅延すると考えられる。
【0050】
但し、副噴射のタイミングが遅すぎて、予混合気中で熱炎反応が開始してしまえば、前記のように副噴射によって予混合気の温度を低下させても燃焼を停止させることはできないから、副噴射はあまり遅すぎては効果がなく、例えばBTDC略20〜略10°CAくらいの範囲にて行うのが好ましい。尚、副噴射時期があまり遅くなると、この副噴射燃料の大部分が拡散燃焼するようになり、着火を遅延させる効果が得られないばかりか、副噴射した燃料の燃焼によって煤の濃度が高まるという不具合を生じる。
【0051】
以上のように、気筒2の圧縮行程で比較的早期に燃料を主噴射し、この燃料により形成された予混合気中で燃焼室4の温度上昇に伴い冷炎反応が開始した後に、圧縮行程終盤の所定の時期において燃料の副噴射を行うようにすれば、この燃料の気化潜熱によって予混合気の温度を低下させて、着火のタイミングを遅延させることができるから、例えばEGR率が第1設定値に満たない状況にあっても燃料の副噴射量を変更することによって、着火時期を調節することができる。
【0052】
但し、気筒2の圧縮行程終盤で行う副噴射の量があまり多くなると、今度は燃焼全体に占める拡散燃焼の割合が急激に増大し、図6、8にそれぞれ一点鎖線のグラフF、Gとしてで示すように(それぞれ副噴射量割合は78%、100%)、TDC近傍で急激な熱発生が起きて筒内温度も高くなる。こうなると、燃焼速度の高い激しい燃焼によって煤の生成が急増してしまう(図7(b)参照)。
【0053】
そこで、この本実施形態の燃焼制御装置では、エンジン1が予混合燃焼領域(H)にあるときに、各気筒2毎のインジェクタ5により燃料の主噴射に加えて副噴射を行い、且つその副噴射の量を適切に制御して着火時期を最適化するようにした。尚、前記の実験結果を考慮すれば、全噴射量に対する副噴射量の割合は略20〜略70%とするのがよく、略30〜略60%とするのがさらに好ましい。
【0054】
さらに、本実施形態では、ノックセンサ12によりエンジンの過早着火を検出し、以下のように、ノッキング(過早着火)を抑制できるように副噴射量を制御している。
【0055】
次に、ECU40による燃料噴射の制御の内容を図9のフローチャートに沿って説明する。まず、ステップS1において、燃圧センサ7からの信号、クランク角センサ11からの信号、ノッキングセンサ12から信号、吸気圧センサ18からの信号、エアフローセンサ19からの信号、リニアO2センサ29からの信号、アクセル開度センサ39からの信号等を入力し、また、ECU40のメモリに記憶されている各種データを読み込む(データ入力)。
【0056】
続いて、ステップS2において、予混合燃焼を行う運転領域にあるか否かを判定する。即ち、燃焼モードマップ(図2)を参照して、目標トルクTrqとエンジン回転速度neとに基づいてエンジン1が予混合燃焼領域(H)にあるかどうか判定する。
【0057】
ステップS2でNOのときには、ステップS3に進み、目標トルクTrqとエンジン回転速度neとに基づいて、図10(a)に示すような噴射量マップの拡散燃焼領域(D)から基本噴射量QDを読み込み、また、同様に図10(b)に示すような噴射時期マップから基本噴射時期ID(インジェクタ5の針弁が開くクランク角位置)を読み込み、設定する。
【0058】
ステップS2でYESのときには、即ち、予混合燃焼領域(H)にあるときには、ステップS4に進み、どの気筒(x)に対する燃料噴射制御を行うのかを判別して、ステップS5に進み、その気筒(x)に対する、基本噴射量Qbと、噴射形態を設定する。本実施形態では、予混合燃焼領域において、1サイクル分の基本噴射量Qbの燃料が、図11に示すように、分割噴射▲1▼、分割噴射▲2▼、分割噴射▲3▼に3分割されて噴射され、3回目の噴射▲3▼が、冷炎反応時に合わせてBTDC22°〜13°CAに実行される副噴射となっている。この副噴射の噴射タイミングは、エンジン回転数neが高い程、早めに設定される。そして、ステップS5では、各分割噴射▲1▼、▲2▼、▲3▼のそれぞれの噴射量Q1b(x)、Q2b(x)、Q3b(x)および噴射タイミングI1b(x)、I2b(x)、I3b(x)が設定され噴射形態が決定される。これらの噴射量、噴射時期は、所定のマップから読み出して決定される。
【0059】
次いで、ステップS6に進み、ノッキングセンサ12の検出結果に基づいて、今回の制御対象である気筒(x)において、前回の燃焼時にノッキングが発生していたか否かを判定する。ノッキングは、ノッキングセンサ12からのノックピーク値が、判定値Nc0を越えたときに発生とされる。ステップS6でYESのときには、ステップS7に進み、副噴射の補正量であるΔQ3(x)に所定値αが加えられる。さらに、ステップS8に進み、ステップS7でαだけ増量させた補正量ΔQ3(x)をQ3b(x)に加え、副噴射の補正済みの燃料噴射量Q3(x)とする。さらに、ステップS9に進み、補正済みの燃料噴射量Q3b(x)が、ガード値Q30を越えたか否かを判定し、越えたときには、ステップS10に進む。
【0060】
ステップS10で、補正済みの燃料噴射量Q3b(x)をガード値Q30で置き換え、ステップS11に進み、カウンタの値cfに1を加算し、ステップS12で、加算されたカウンタの値が所定値cf0を越えたか否かを判定する。ステップS12でYESのときには、ステップS13で、EGRに関する制御内容を補正するためにフラグFffを1とする。
【0061】
一方、ステップS6でNOのときには、ステップS14に進み、カウンタcfとフラグFffをリセットし、ステップS15に進み、アクセル開度変化率がほぼ0である定常状態が所定時間継続したか否かを判定する。ステップS15でYESのときには、ステップS16に進み、補正量ΔQ3(x)が正であるか否かを判定し、YESのときには、ステップS17で、補正量ΔQ3(x)からβを引いて、減量した補正量ΔQ3(x)とする。減量の値βは、ステップS7の増量値α以下の値とされる。これは、αは大きめにして速やかなノッキング防止を達成し、βは制御の安定性を優先して設定されているためである。
【0062】
さらに、ステップS18で、減量した補正量ΔQ3(x)が負であるか否かを判定する。ステップS18でNOのときには、ステップS19に進み、補正量ΔQ3(x)が0にならない期間をカウントすべく、カウンタの値Crに1を加算し、ステップS20に進み、カウンタの値Crが所定値Cr0より大きいか否かを判定する。ステップS20でYESのときには、初期設定に収束しないと判断し、ステップS21に進み、初期設定の学習補正を行う。この学習補正では、定常運転が所定期間継続した後の、定常運転における補正量ΔQ3(x)を読み出し、これを平均化処理して、この値に基づいて、副噴射の噴射量Q3b(x)を補正する。
【0063】
ステップS18でYESのときには、ステップS22に進み、減量した補正量ΔQ3(x)を0にして、更に、ステップS23でカウンタの値Crをリセットする。ステップS21またはステップS23の処理が終了すると、ステップS24に進み、ステップS17でβだけ減量した補正量ΔQ3(x)をQ3b(x)に加え、副噴射の補正済みの燃料噴射量Q3(x)とする。また、ステップS15でNO、または、ステップS16でNOのときにも、ステップS24に進む。
【0064】
ステップS3、ステップS13、ステップS24の処理を終了したとき、または、ステップS9あるいはステップS12でNOのときには、ステップS25に進み、設定された噴射量および噴射時期に噴射が実行される。
【0065】
上記構成では、補正済みの燃料噴射量Q3b(x)が、所定期間、ガード値Q30を越え続けたときに、ステップS12に進む処理であるが、補正済みの燃料噴射量Q3b(x)がガード値Q30を越えたとき即ちステップS9でYESとなったとき、直ちにステップS13の処理を行う構成でもよい。
【0066】
また、ノッキング発生時に、分割噴射▲3▼前に実行される分割噴射▲1▼、▲2▼の噴射時期を進角させる制御を、上述の制御に加えて、あるいは、これとは独立して行ってもよく、定常状態でノッキング収束すれば、進角させた噴射時期を基本のI1b、I2bに修正する処理を行っても良い。
【0067】
次に、ECU40によるEGR制御の内容を図12のフローチャートに沿って説明する。
【0068】
ステップS30で、燃圧センサ7からの信号、クランク角センサ11からの信号、吸気圧センサ18からの信号、エアフローセンサ19からの信号、アクセル開度センサ39からの信号等を入力し(データ入力)、また、ECU40のメモリに記憶されている各種フラグの値を読み込む。次いで、ステップS31で、エンジン1の燃焼モード、即ち、予混合燃焼領域(H)であるか否かを判定する。ステップS31でNOすなわち拡散燃焼領域(D)であれば、ステップS32に進み、ECU40のメモリに電子的に格納されているEGRマップから、拡散燃焼領域用のEGR弁35開度目標値EGRDを設定し、ステップS33でEGRDをEGR量とする。
【0069】
一方、ステップS31でYES即ち、エンジン1が予混合燃焼領域(H)にあるときには、ステップS34に進み、EGRマップから予混合燃焼領域(H)に対応するEGR弁35の開度の目標値EGRHを読み込み設定する。さらに、ステップS35で、上記処理のステップS13でたてるEGRに関する制御内容を補正するためにフラグFffが1であるか否かを判定する。ステップS35でYESのときには、ステップS36に進み、EGR補正値EGRcに所定数γを加え、ステップS37で増量したEGR補正値EGRcが所定の上限値EGRc0を超えたか否かを判定する。ステップS37でYESのときには、ステップS38に進み、上限値EGRc0をEGR補正値EGRcに置き換え、ステップS39で、EGR系と冷炎燃焼時の副噴射系に異常がある旨の警告行う。警告は、運転席の表示灯などで行う。
【0070】
ステップS39の処理を終了、または、ステップS35あるいはステップS37でNOのときには、ステップS40に進み、予混合燃焼領域のEGR量EGRHにEGR補正値EGRcを加えたものをEGR量とする。ステップS33またはステップS40の処理を終えると、ステップS41に進み、設定されたEGR量に基づいてEGR弁が駆動される。
【0071】
このような処理により、副噴射の増量ではノッキングが十分に抑制できないときには、EGR量の増量によるノッキング抑制が行われることになる。
【0072】
EGRマップは、エンジン1の運転状態に対応する目標EGR率を、予混合燃焼領域(H)では略50〜60%に、また拡散燃焼領域(D)では略40%以下になるように、EGR弁35の開度の最適値を予め実験的に求めて、目標トルクTrqとエンジン回転速度neとに対応付けて設定したものである。また、EGR弁35の開度の目標値EGRH、EGRDを、予混合燃焼領域(H)と拡散燃焼領域(D)とでそれぞれアクセル開度Accが大きいほど、またエンジン回転速度neが高いほど小さくなるように設定している。
【0073】
EGRによるノッキング制御は、EGR遅れにより応答性が悪くなるので、マップの値にEGR遅れを加味した値をEGRH、EGRDとしても良い。
【0074】
上記第1の実施形態の変形例として、図13に示すように、図9の処理のステップS10からステップS13を、基本噴射量Qbと噴射時期、拡散燃焼用の基本噴射量Qbと噴射時期Ibを設定するステップS50と、移行制御を行うステップS51に置き換え、ステップS14のFffをリセットする処理を無くした処理としてもよい。ステップS51で行われる移行制御とは、拡散燃焼に移行する際の煤や騒音を減少させるため、EGR量の変化に応じて、噴射形態を変更する処理である。この変型例の処理では、冷炎燃焼時の副噴射量を変更してもノッキングが抑制でききないときには、燃焼形態を拡散燃焼に変更する制御が行われることになる。この処理によれば、例えば、経年変化に伴った最適な予混合燃焼領域と拡散燃焼領域とが設定されることになる。
【0075】
このような燃料噴射制御を行うときは、図12のようなEGR量補正を伴うEGR制御は行われず、図14に示すような、データを入力し(ステップS52)て、領域を判定し(ステップS53)、判定結果に応じたEGRの目標値を設定し(ステップS54、ステップS55)、この設定に基づいてEGR弁を作動させる(ステップS56)EGR制御が行われることになる。
【0076】
なお、拡散燃焼に移行するとき、予混合燃焼時よりもEGR率を50%前後に減少させ、これと同時に、圧縮行程中と圧縮トップのややリタードした時期に噴射を実行させ、予混合燃焼割合を減らしていく制御を行い、燃焼形態の急激な変化による煤、騒音の発生を抑制してもよい。
【0077】
次に、本発明の第2の実施形態の説明をする。第2の実施態様の第1の実施形態との相違は、燃料噴射制御およびEGR制御の制御内容である。以下、この相違点を説明する。
【0078】
第2の実施態様のエンジンの燃焼制御装置における燃料噴射制御では、図9のステップS11ないしステップS13が削除された処理が行われる。一方、EGR制御は、図15のフローチャートに示すように行われる。すなわち、ステップS60で、燃圧センサ7からの信号、クランク角センサ11からの信号、ノッキングセンサ12からの信号、吸気圧センサ18からの信号、エアフローセンサ19からの信号、アクセル開度センサ39からの信号等を入力し(データ入力)、また、ECU40のメモリに記憶されている各種フラグの値を読み込む。次いで、ステップS61で、エンジン1の燃焼モード、即ち、予混合燃焼領域(H)であるか否かを判定する。ステップS61でNOすなわち拡散燃焼領域(D)であれば、ステップS62に進み、ECU40のメモリに電子的に格納されているEGRマップから、拡散燃焼領域用のEGR弁35開度目標値EGRDを設定し、ステップS63でEGRDをEGR量とする。
【0079】
一方、ステップS61でYES即ち、エンジン1が予混合燃焼領域(H)にあるときには、ステップS64に進み、EGRマップから予混合燃焼領域(H)に対応するEGR弁35の開度の目標値EGRHを読み込み設定する。さらに、ステップS65で、連続して爆発する複数気筒で、連続してノッキングが発生しているか否かを判定する。ステップS65でYESのときにはてステップS66に進み、ステップS66に進み、EGR補正値EGRcに所定数γを加え、ステップS67で、増量したEGR補正値EGRcが所定の上限値EGRc0を超えたか否かを判定する。ステップS67でYESのときには、ステップS68に進み、上限値EGRc0をEGR補正値EGRcに置き換える。
【0080】
ステップS65またはステップS67でNO、または、ステップS68の処理を終了したときには、ステップS69に進み、予混合燃焼領域のEGR量EGRHにEGR補正値EGRcを加えたものをEGR量とする。さらに、ステップS63またはステップS69の処理を終えると、ステップS70に進み、設定されたEGR量に基づいてEGR弁が駆動される。EGR制御には遅れが生じるので、副噴射によるノッキング抑制制御よりも長い期間毎に制御に適している。このため、図15のフローチャートに示す処理は、所定期間または所定時間毎にスタートさせるのが好ましい。
【0081】
このような構成の第2の実施態様では、ノッキングが発生しているときには、副噴射量の調整によるノッキング抑制制御と、EGR量増量によるノッキング抑制制御とが独立して行われることなる。また、ノッキング発生時だけEGR量を補正し、EGR変化量のばらつきに対応した制御のみを対象として、定常時には、EGR量を基本値に設定し、制御および排気の安定を図っているが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0082】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された技術事項の範囲内で種々の変更又は変形が可能である。
【0083】
上記実施形態は、ディーゼルエンジンを対象にしたエンジンの燃焼制御装置であったが、本発明は、火花着火式エンジン即ちガソリンにも適用可能である。
【0084】
また、副噴射量、EGR量のいずれか一方のみによって、ノッキング制御を行う構成でもよい。
【0085】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、安価な構成で、過早着火を検出し、所望の出力や燃焼形態が得られるようにするエンジンの燃焼制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1実施形態のエンジンの燃焼制御装置が適用されるエンジンシステムの構成を示す概略的なブロック図である。
【図2】 エンジンの燃焼モードを切換える制御マップの一例を示す図である。
【図3】 EGR率を変更して、それぞれ、クランク角の進行に伴い変化する熱発生率の様子を示したグラフ図である。
【図4】 EGR率の変化に対する空気過剰率(a)、NOx濃度(b)及び煤の濃度(c)の変化を互いに対応付けて示すグラフ図である。
【図5】 ディーゼル燃焼のときのEGR率の変化に対する排気中のNOx及び煤の濃度の変化をそれぞれ示すグラフ図である。
【図6】 副噴射量を変更して、それぞれ、クランク角の進行に伴い変化する熱発生率の様子を示したグラフ図である。
【図7】 副噴射量を変更したときの排気中のNOxの濃度(a)、煤の濃度(b)及び出力(c)の変化を示すグラフ図である。
【図8】 副噴射量を変更したときの、それぞれ、クランク角の進行に伴い変化する筒内温度の様子を示したグラフ図である。
【図9】 本発明の第1の実施形態の燃料噴射制御の処理を示すフローチャート図である。
【図10】 エンジンの噴射量マップ(a)及び噴射時期マップ(b)の一例を示す図面である。
【図11】 本発明の第1の実施形態の燃料噴射タイミングを示すタイムチャートである。
【図12】 本発明の第1の実施形態のEGR制御の処理を示すフローチャート図である。
【図13】 本発明の第1の実施形態の変型例における燃料噴射制御の処理の一部分を示すフローチャート図である。
【図14】 本発明の第1の実施形態の変型例におけるEGR制御の処理を示すフローチャート図である。
【図15】 本発明の第2の実施形態におけるEGR制御の処理を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
1:エンジン本体
2:気筒
3:ピストン3
5:インジェクタ
6:コモンレール
12:ノッキングセンサ
34:EGR通路
40:ECU
Claims (2)
- エンジンの気筒内の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁と、
前記エンジンからの排気の一部を前記燃焼室に還流させるEGR手段と、
前記燃料噴射弁に要求トルクに応じた量の燃料を吸気行程から圧縮行程上死点付近までの所定時期に噴射させ、前記EGR手段に所定量の以上の排気を前記燃焼室に還流させることにより、前記燃焼室において予混合燃焼を行わせる予混合燃焼制御手段と、
前記燃焼室内の異常燃焼を検出するノッキングセンサと、
前記ノッキングセンサの検出値が大きいときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正を行う補正手段と、
前記補正手段により増量補正する排気の還流量が上限値を超えたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段の判定結果に基づき、前記燃料噴射弁、前記EGR手段または前記予混合燃焼制御手段の作動状態を診断する診断手段と、
を備えていることを特徴とするエンジンの燃焼制御装置。 - 前記予混合燃焼制御手段は、前記所定時期に行われる燃料噴射の後に前記燃焼室内の温度上昇に伴って発生する冷炎反応から熱炎反応への移行を遅延させるように燃料を噴射させる副噴射を行わせ、前記補正手段は、前記ノッキングセンサの検出値が大きいときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正を行う前に、前記副噴射による噴射量を増量させる補正を行い、前記副噴射による噴射量がガード値を超えたときに、前記EGR手段による排気の還流量を増量させる補正に移行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの燃焼制御装置。
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