JP4190257B2 - 窒化珪素質工具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化珪素質工具に関するものであり、高強度で熱衝撃に強い窒化珪素質焼結体およびダクタイル鋳鉄の高速フライス加工用工具に用いても、工具刃先の欠損率が低く、良好な工具寿命が得られる、窒化珪素質工具に関する。
【0002】
【従来技術】
窒化珪素は酸、高温の溶融金属に対する耐薬品性、耐熱性に優れており、るつぼやノズルに応用されている。また、生体内で安定なために人工膝関節などの生体材料としても使われている。
単体または添加剤を加えて焼成した焼結体は絶縁体であるために、積層基板の基体やSiトランジスターにおける絶縁材料に使われている。また、熱膨張係数が小さく、熱衝撃性が高いためにヒーターの基体、エレベーターの停止装置、ガスタービンの羽根などに応用されている。さらに、耐磨耗性が大きいことから切削工具や軸受けに利用されている。
【0003】
窒化珪素質工具は従来、普通鋳鉄(FC)材の切削加工用工具として、切削速度が500m/min程度の比較的低速条件下において主として旋削加工で用いられてきた。
【0004】
近年、自動車の燃費向上を目的としてFC材を主としている自動車部材の軽量化が望まれている。このことを背景として、FC材と比較して薄肉化、軽量化を図れるダクタイル鋳鉄(FCD)部材の需要が高まっている。また、部材を低コストかつ高能率にて加工するために、高速域での切削加工が必要とされている。
【0005】
窒化珪素質焼結体は高強度、高靱性であることが知られており、FC材の切削加工用の工具に用いられている。このことは、特開平11−268957号(特許文献1参照)にFC材を旋削加工する際に、窒化珪素基材の強度および靭性が高いことにより切削加工時の刃先欠損が生じず、長寿命となる例が開示されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−268957号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、FC材よりも更に高強度なFCD材を切削加工するためには、窒化珪素質焼結体を用いても強度、破壊靭性が不足してしまい、刃先欠損が生じてしまう。したがって、上記の特開平11−268957号公報に記載の窒化珪素工具をFCD切削加工に用いると刃先欠損が認められ十分な寿命が得られないという問題があった。
【0008】
また、他に挙げられる刃先欠損の原因としては、高速加工する際に刃先に生じる加工熱の集中により発生する熱クラックがある。この熱クラック発生の原因となる加工熱の集中を抑制するためには、窒化珪素基材内での熱伝導率を向上させる必要がある。また、熱クラックが発生したとしてもクラックの進展を抑制することができれば、結果的に工具刃先の欠損まで至らない。すなわち、クラック進展初期の破壊靱性値を向上させれば、熱クラックが発生したとしても工具欠損まで至らず長寿命となる。
【0009】
これに関して、窒化珪素粒内に固溶しやすいアルミニウムおよび酸素量を低減して熱伝導率を向上させる高熱伝導材料の例(特開2001―10864号公報)、あるいは粒界相のSiO2/Re2O3(Re:希土類元素)比の制御および粒界相の結晶化により熱伝導率を向上させる高熱伝導材料の例(特開2001−19556号公報)が開示されている。
【0010】
しかしながら、単に熱伝導率を高めるだけでは、高速フライス加工時に繰り返し熱衝撃を受ける過程において、基材の熱膨張・収縮による熱クラックの進展エネルギーの一部を緩和するだけに過ぎず、クラック進展初期の破壊靭性値を併せて向上させなければ、十分な熱クラック進展抑制効果は得られないという問題があった。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、クラックの発生に関与する窒化珪素質焼結体の強度、従来の普通鋳鉄の低速旋削加工と比較して、基材の熱クラック発生および成長と密接に関係する熱伝導率、およびクラック進展抵抗に関与する破壊靱性に優れた窒化珪素質工具を提供することをその主たる目的としている。
【0012】
【課題を解決するための手段】
(1)前記目的を達成するための請求項1の発明は、窒化珪素を主成分、残りがSiO2および添加助剤の結晶相およびガラス相より構成される窒化珪素質焼結体において、組織中の窒化珪素粒子の平均長軸径が0.45〜0.75μm、平均短軸径が0.20〜0.40μm、平均長軸径/平均短軸径より算出されるアスペクト比が1.7以上であり、IF法により圧入荷重9.8Nの条件で測定した破壊靭性値Kcが、5.0MPa・m0.5以上である窒化珪素質焼結体からなり、ダグタイル鋳鉄部材を切削加工するための窒化珪素質工具を要旨としている。
【0013】
組織についてはセラミック材料に関しては一般に組織中の粒子が微細・均一である方が、組織中に発生する強度低下の原因となりうる欠陥寸法や残留応力も小とすることができ、強度を向上させる結果となる。しかし、組織を微細にしすぎると、基材に発生したクラックの進展を湾曲させる、いわゆるディフレクション効果が十分に得られない。そのため、破壊靭性値が低下し熱クラック発生後の中期寿命が短くなった結果、(←工具については後述)欠損が生じやすくなり、短寿命となる。従って、全体の平均粒径は小さくしながらも、窒化珪素粒子の長軸径、短軸径を適当な値に制御することが、強度および破壊靭性値を維持するために重要である。
【0014】
ここで、平均長軸径=0.45〜0.75μm、平均短軸径=0.20〜0.40μmに限定するのは、上記窒化珪素質焼結体の強度・破壊靭性値の両方を確保するためである。平均長軸径が0.45μm、平均短軸径が0.20μm以上であると破壊靭性値が向上し、十分なクラック進展抵抗が得られ、また平均長軸径が0.75μm、平均短軸径が0.40μm以下に抑えることで均一性を保つことで、欠陥寸法や残留応力を抑制することができ、結果として強度についても確保することができる。
【0015】
なお、本発明において平均長軸径および短軸径の測定方法は以下の通りである。まず走査型電子顕微鏡(SEM)により焼結体中心部の断面写真を撮影する。次にこの写真を画像解析して、一つの粒子の中で最も幅が大きい部分をその粒子の長軸径(図1中X)とし、500〜1000ヶの粒子の長軸径の平均を平均長軸径とする。また、長軸に対して垂直方向で最も幅が大きい部分をその粒子の短軸径(図1中Y)とし、短軸径の平均を平均短軸径とする。
【0016】
熱クラック発生初期における、クラック進展抵抗性に関しては、JIS R1607(1994)のIF法による圧入荷重9.8Nの短クラック長における破壊靭性値Kcを測定し比較検討を行った。その結果、FCD材の高速フライス加工において、長寿命が得られる窒化珪素基材の破壊靭性値Kcは短寿命の窒化珪素基材の破壊靭性値Kcと比較し高値である。具体的には破壊靭性値Kcが5.0MPa・m 0.5 以上であると顕著に熱クラックの進展が抑制することができる。
【0017】
窒化珪素粒子の平均長軸径が0.45〜0.75μm、平均短軸径が0.20〜0.40μm、平均長軸径/平均短軸径より算出されるアスペクト比が1.7以上となっているために、強度・破壊靭性値の両方に優れ、刃先の欠損およびクラックの進展の両方が生じにくい工具を得ることができる。また、25℃における熱伝導率を50W/m・K以上とすることにより、チップ刃先に集中した加工熱が十分に拡散されるため刃先の欠損を抑制することができるので、更に長寿命である工具を得ることができる。
【0018】
さらに、破壊靭性値Kcを5.0MPa・m 0.5 以上とすることにより、顕著に熱クラックの進展を抑制することができ、工具寿命に対して最も影響を及ぼす、熱クラック発生後の中期寿命を延長することができる。なお、熱クラック発生初期における、クラック進展抵抗性に関しては、JIS
R 1607(1994)のIF法による圧入荷重9.8Nの短クラック長における破壊靭性値Kcを測定し比較検討を行った。その結果、破壊靭性値Kcが5.0MPa・m 0.5 以上であると顕著に熱クラックの進展が抑制されることとなり、工具寿命に対して最も影響を及ぼす、熱クラック発生後の中期寿命が延長されることとなる。
【0019】
(2)請求項2の発明は、上記窒化珪素質焼結体の25℃における熱伝導率が、50W/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素質工具を要旨としている。
【0020】
熱伝導率に関しては、より高値であるほうが、熱クラックの発生・成長を抑制するため、長寿命化に関して効果的であると予想されたが、実際には50W/m・K以上であれば、窒化珪素質焼結体に生じた熱が熱伝導により十分に拡散されるため、欠損を抑制することができる。よって、本発明においては熱伝導率を50W/m・K以上とするのが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明に係る窒化珪素質工具の好ましい態様について、以下に説明する。平均粒径1.0μm以下のα−Si3N4粉末および焼結助剤として平均粒径1.0μm以下のMgO粉末、Yb2O3粉末をMgO=1wt%、Yb2O3=2wt%、残Si3N4の配合割合で秤量した。次に、この秤量した原料を、Si3N4製内壁ポット、Si3N4製ボールを用いて、エタノール溶媒にて96時間混合してスラリーとした。このスラリーを325メッシュのふるいに通し、エタノールを溶解したマイクロワックス系の有機バインダを5.0重量%添加しスプレードライした。
【0023】
そして、得られた造粒粉末をISO規格でSNGN120412の形状にプレス成形した後に、加熱装置内において1気圧の窒素雰囲気中で600℃にて60分、脱脂を行った。
次に脱脂を行った成形体の一次焼結を行った。1気圧の窒素雰囲気下、窒化珪素製サヤ内にセットし、表1中に記載されているの中間保持条件にて保持を行った。その後、1800〜1900℃まで昇温させ、その状態で60〜120分保持を行った。
最後に、熱間静水圧成形(HIP)により2次焼結を行った。2次焼結は1000気圧の窒素雰囲気下において1600〜1800℃で180分加熱した。
【0024】
こうして得た窒化珪素質焼結体をISO規格でSPGN120412形状に研摩加工して、実施例No.A〜Eの切削工具を得た。また、比較例として同様の方法にてNo.F〜Jを作成した。なお本実施例で得られた窒化珪素質工具は図2に示されるものである。
得られた実施例および比較例の工具の上面を鏡面研磨加工し、刃先となる部分の破壊靭性値をJIS R 1607(1994)に従い、圧入荷重9.8Nにて測定した。その結果を、表1に示す。また、窒化珪素粒子径は走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、5000倍の観察倍率で断面の観察・写真撮影した後、その写真を画像解析することで、窒化珪素粒子の平均長軸径および平均短軸径を得た。その結果を、表1に示す。さらに、上記SPGN120412形状チップを内接円φ10mm、厚み10mmになるように研磨加工し、JIS R 1611(1994)に従ってレーザーフラッシュ法により25℃における熱伝導率を算出した。その結果を表1に示す。
【0025】
さらに実施例と比較例の切削工具の刃先に図3、図4に示されるように、面取り幅Aを0.1mm、面取り角Bを25°とする面取り刃先加工を行ない、これをホルダー付き工具4にセットし、下記にしめす加工条件にて切削加工を行なって工具刃先が欠損するまでの衝撃回数を調査した。その結果を表1に示す。
ここで切削工具を装着したホルダ付き工具について説明する。図5に示す様に、本実施例のホルダ付き工具(フライスカッター)4は略円柱状のカッターボディ本体(ホルダ)5を有し、その先端側(加工面側)の外周に沿って、6箇所に凹状の切削部6が設けられたものである。つまり、ホルダ5の先端側の外周に沿って、6箇所に凹状の取付部7が設けられ、この取付部7内に、前記切削工具(チップ)2、切削工具2を取り付けるための合金鋼製のカートリッジ8、および同じ合金鋼製のクサビ9等の部材が配置されて、切削部6が構成されている。なお、図5では、フライスカッターの構造を明瞭にするために、6箇所の切削部6のうち、2箇所の切削部6には切削工具2が配置されておらず、1箇所の切削部6には切削工具2およびくさび9が配置されていない状態を示している。
【0026】
(加工条件)
・被削材:JIS FCD600(ダクタイル鋳鉄)
・切削速度:500m/min
・送り速度:0.2mm/刃
・切り込み深さ:2.0mm
・切削油:湿式
・使用カッター:φ100、1枚刃にて加工。
【0027】
【表1】
【0028】
表1より、実施例A〜Eの切削チップは、クラック進展初期における破壊靭性値Kc(圧入荷重9.8N)が5.0MPa・m0.5以上、25℃での熱伝導率が50W/m・K以上となり、その結果として切削による工具刃先の欠損率の低下をもたらすことができた。
以上において、本発明に好適な実施形態を記載したが、これに限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更を加えることができることはいうまでもない。
【0029】
【発明の効果】
以上に記述したように本発明のダグタイル鋳鉄部材を切削加工するための窒化珪素質工具においては、窒化珪素粒子の長軸径および短軸径が最適化されていることにより、従来の窒化珪素質焼結体と比べて熱伝導率および破壊靭性値Kcが向上したため、熱衝撃性に優れた窒化珪素焼結体となり、熱伝導率および破壊靭性値Kcの向上によって、高速フライス加工における工具のクラック進展を抑制し、熱クラックの発生による工具刃先の欠損率を低下させる。結果として高速フライス加工において長寿命化を図ることができ、高速加工による加工能率の向上および低コスト化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶粒の長軸径および短軸径の求め方を示す図である。
【図2】本発明の実施例におけるチップの外観図である。
【図3】図2の側面図である。
【図4】図3の面取り部の拡大図である。
【図5】実施例の切削工具をフライス用のカッター本体に取り付けた状態における、上面図である。
【図6】図5の正面図である。
【符号の説明】
1 結晶粒
2 窒化珪素質工具
3 面取り部
X 結晶粒の長軸
Y 結晶粒の短軸
A 面取り幅
B 面取り角
Claims (2)
- 窒化珪素質焼結体において、組織中の窒化珪素粒子の平均長軸径が0.45〜0.75μm、平均短軸径が0.20〜0.40μm、平均長軸径/平均短軸径より算出されるアスペクト比が1.7以上であり、
IF法により圧入荷重9.8Nの条件で測定した破壊靭性値Kcが、5.0MPa・m0.5以上である窒化珪素質焼結体からなり、
ダグタイル鋳鉄部材を切削加工するための窒化珪素質工具。 - 上記窒化珪素質焼結体の25℃における熱伝導率が、50W/m・K以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化珪素質工具。
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