JP4170964B2 - 炭素繊維シート、これを用いたコンクリート構造物の電気防食方法及び防食構造 - Google Patents
炭素繊維シート、これを用いたコンクリート構造物の電気防食方法及び防食構造 Download PDFInfo
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Description
2H2O→O2+4H++4e―
2Cl-→Cl2+2e―
C+O2→CO2(炭素電極の場合)
し難くなるような様々な手段が考え出されている。例えば、特許第3295120号公報に示すようにニッケルを被覆した繊維長10mm程度の短炭素繊維を混入したモルタルをコンクリート表面に塗布し、電流を分散させることにより、1次陽極に電流を集中させないようにしてガスの発生を抑制する方法が検討されている。また特願2001−209043号公報に示すようにガスが発生しても陽極が劣化しないように、陽極面積を大きくして酸を拡散するといった工夫がなされている。
ここで、各隙間の一辺をほぼ2mm〜20mmにするのは、セメントモルタル等の固体電解質との接合力を高めるためである。例えば、各隙間の一辺が20mmを超える炭素繊維シートでは連続単繊維が破損したり、望ましくない電圧損失が起こることがあり、また一辺が2mm未満である場合には、セメントモルタルを塗布したり、あるいは吹き付けて押さえたりする際に隙間にセメントモルタルが入り込まず、炭素繊維シートとコンクリート表面との接合力が低下する虞がある。
炭素繊維シートを構成する連続単繊維は、直径が1〜15μm程度であることが好ましい。このような連続単繊維の複数を束ねた帯状繊維束は幅2mm〜20mm、厚さ0.05mm〜0.5mmであることが好ましい。このような帯状繊維束を編んで炭素繊維シートを形成することにより、炭素繊維シートを敷設したコンクリート表面では、防食電流が帯状繊維束の長さ及び幅に沿って分布し、これにより有害な電流集中が防止できるといった効果が得られる。
また陽極反応によるpHの変動を可能な限り小さく抑えるために、セメントモルタルの練混ぜ水は、緩衝溶液を用いるのが好ましい。緩衝溶液は共役塩基である、例えば、NaOH、KOH、LiOH等のアルカリ金属の水酸化物で調整することが可能であるが、Na+イオン、K+イオンはアルカリ骨材反応の劣化因子であることを考慮すると、緩衝溶液としてはLiOHが好ましいものと考えられる。緩衝溶液は、濃度が高いほど緩衝能力が大きくなる一方で、濃度が高いと析出しやすくなるため、LiOH濃度は2〜4wt%程度が好ましい。
前記コンクリート表面に敷設された前記炭素繊維シートは、隙間を含む面積がコンクリート表面積の3/4以上にすることが好ましい。このように炭素繊維シートをコンクリート表面積の3/4以上に敷設すれば、常に酸素発生電位がより低くなる電流密度が保証され、最大の陽極寿命及び鋼材の効果的な電気防食が達成される。
図1は本発明に用いる炭素繊維シート10の一例を示す平面図であり、図2は異なる実施態様を示す平面図である。図1の炭素繊維シート10は、縦方向の帯状繊維束11と横方向の帯状繊維束12とが交互に交錯し、両方向の帯状繊維束11,12の一本置きに隙間13ができるように織り込まれたものである。一方、図2の炭素繊維シート20は、縦方向の帯状繊維束21と横方向の帯状繊維束22とが交互に交錯し、両方向の帯状繊維束21,22のそれぞれ二本置きに隙間23ができるように織り込まれたものである。
なお、図1及び図2の炭素繊維シート10,20は、何れもコンクリート構造物の電気防食構造及び電気防食方法に使用することができるものであるが、炭素繊維シート20は炭素繊維シート10よりも形状維持性能が良好である点で異なる。
本発明の電気防食構造30を形成するためには、最初に、コンクリート構造物31の表面にサンドブラスト等を使用して下地処理を実施する。下地処理の後に、セメントモルタル32を塗布或いは吹き付けて、このセメントモルタル32の上に炭素繊維シート10,20の何れか一方を敷設する。この炭素繊維シート10,20の敷設作業の前後には、炭素繊維シート10,20を上下から挟むように電流接続部材33を設け、電流接続部材33とコンクリート構造物31の鉄筋35にそれぞれ接続線36,37を接続し、これら接続線36,37を電源38まで延ばして接続する。そして、炭素繊維シート10,20の上側にセメントモルタル34を塗布或いは吹き付けて平滑に仕上げれば、電気防食構造30は形成される。このように構成した電気防食構造30を用いた電気防食方法では、炭素繊維シート10,20を陽極として作用させ、鉄筋35や鉄骨等の鋼材を陰極として作用させるように通電する。
また炭素繊維シート10,20は隙間13,23を有する格子状に編成されたものであるため、特に下側のセメントモルタル32が隙間13,23に入り込み、炭素繊維シートが上下のセメントモルタル32,34に一体化される。これらセメントモルタル32,34では、硬化した後にも、セメントの水和反応に必要の無い過剰な水が毛細管空隙中に残り、この空隙水はpH12〜13程度である。このような空隙水のイオンにより、セメントモルタル32には防食電流を流すことが可能になるのであるが、セメントモルタル32の層厚は4m以上、少なくとも8mm以上にする必要があり、このように構成すればイオン伝導性が高く防食電流が流れやすくなる。すなわち、セメントモルタル32の層厚が5mmよりも薄くなると、セメントモルタルが乾燥しやすくなり、電解質が減少し、イオン伝導性が低下して防食電流が流れ難くなるからである。
炭素繊維シート10,20には、耐酸化性金属による厚さ0.05〜0.5μm程度の被膜が設けられているので、この耐酸化性金属の被膜表面に、さらに酸化物や水酸化物等の被膜が形成され、表面からの活性溶解を防止する。これらの酸化物や水酸化物等の被膜は不働態被膜と呼ばれるものであり、このような不働態被膜は安定しており、導電性を有するので、炭素繊維シート10,20は、長期に及ぶ耐久性が求められる陽極としての使用が可能である。この耐酸化性金属の被膜厚が0.05μm未満であると、長期にわたる炭素基材の酸化消耗の防止に不十分であり、また電気化学的活性が不十分であるために、低い電位で酸素が発生せず、有害な塩素や次亜塩素酸を発生させることなく酸素の発生反応を促進することが難しい被膜となる。他方、耐酸化性金属による被膜が0.5μm以上である場合には、膜厚が必要以上に厚くなり、耐酸化性金属の材料コストが上昇するのみである。
さらに、炭素繊維シート10,20の体積抵抗率は7.5×10-5Ω・cm以下のものが好ましい。体積抵抗率をこのような範囲にすることにより、適正電流密度である20mA/m2で陽極の接続線36から5mの距離におけるIRロスを計測すれば、300mV以下となり、均一に電流分布が得られる距離に対し、良好な効果が得られる。接続線36は、炭素繊維シート10,20と下側のセメントモルタル32との間に配置される。接続線36,37はチタン線に白金被膜が設けられたものが好ましい。
試験体は、長さ340mmのD13鉄筋を格子状に組んで配筋し、鉄筋の所定箇所に埋設型飽和KCl銀塩化銀照合電極を設け、縦400mm、横600mm、厚さ100mmのコンクリート版を形成した。コンクリート配合は、早強ポルトランドセメントを使用して水セメント比を45.5%にし、鋼材腐食を促進するために塩化物イオンCl-を6kg/m3添加した。コンクリート版の表面を下地処理した後にセメントモルタルを塗布し、セメントモルタルが未硬化のうちに、炭素繊維シートを敷設し、端部に電流接続板を固定した後に、その上をセメントモルタルで被覆し、これを試験体とした。電流接続板と鉄筋は電線により電源と接続した。
電気防食試験は、二つの試験体を屋外に250日間暴露し、この暴露期間中、一方には通常の電流密度である20mA/m2を通電し、他方にはこれを5倍に促進した電流密度100mA/m2を通電した。試験結果を図4に示した。
5倍に促進した電流密度100mA/m2の試験体においても、陽極インスタントオフ電位は0.8V(Ag/AgCl)以下となり、通常の電流密度の試験体と比較しても安定していることが判った。
11 帯状繊維束
12 帯状繊維束
13 隙間
20 炭素繊維シート
21 帯状繊維束
22 帯状繊維束
23 隙間
30 電気防食構造
31 コンクリート構造物
32 セメントモルタル
33 電流接続部材(通電手段)
34 セメントモルタル
35 鉄筋
36,37 接続線(通電手段)
38 電源(通電手段)
Claims (7)
- 炭素からなる連続単繊維が耐酸化性金属で被覆され、該連続単繊維の複数が束ねられて帯状繊維束が形成され、該帯状繊維束が隙間を有する格子状に編成され、該各隙間は一辺がほぼ2mm〜20mmである炭素繊維シートを準備し、コンクリート構造物における防食対象域のコンクリート表面にセメントモルタルを用いて上記炭素繊維シートを固定し、さらに固定した炭素繊維シートをセメントモルタルで被覆し、該炭素繊維シートを陽極とすると共にコンクリート構造物中の鉄筋や鉄骨等の鋼材を陰極とするように通電することを特徴とするコンクリート構造物の電気防食方法。
- 前記炭素繊維シートにおける耐酸化性金属は、ニッケル、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、白金の群から選択された一つの金属、または選択された2つ以上の金属の合金である請求項1に記載の電気防食方法。
- 前記炭素繊維シートにおける帯状繊維束は、幅2mm〜20mm、厚さ0.05mm〜0.5mmに形成されたものである請求項1に記載の電気防食方法。
- 前記炭素繊維シートにおける隙間は、縦方向に並行させた帯状繊維束の複数束置き、且つ横方向に並行させた帯状繊維束の複数束置きに配置されたものである請求項1に記載の電気防食方法。
- コンクリート構造物における防食対象域のコンクリート表面に、セメントモルタルを介して炭素繊維シートが敷設され、該炭素繊維シートがセメントモルタルで被覆され、該炭素繊維シートを陽極とすると共にコンクリート構造物中の鉄筋や鉄骨等の鋼材を陰極とするように通電手段が接続されたものであって、前記炭素繊維シートが、炭素からなる連続単繊維が耐酸化性金属で被覆され、該連続単繊維の複数が束ねられて帯状繊維束が形成され、該帯状繊維束が隙間を有する格子状に編成され、該各隙間は一辺がほぼ2mm〜20mmである炭素繊維シートであるコンクリート構造物の防食構造。
- コンクリート表面に敷設された前記炭素繊維シートは、隙間を除いた面積がコンクリート表面積の3/4以上である請求項5に記載のコンクリート構造物の防食構造。
- 請求項1記載の電気防食方法に用いる炭素繊維シートであって、炭素からなる連続単繊維が耐酸化性金属で被覆され、該連続単繊維の複数が束ねられて帯状繊維束が形成され、該帯状繊維束が隙間を有する格子状に編成され、該各隙間は一辺がほぼ2mm〜20mmであるコンクリート構造物の電気防食用炭素繊維シート。
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