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JP5424132B2 - 電気防食方法 - Google Patents

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JP5424132B2 JP2011072268A JP2011072268A JP5424132B2 JP 5424132 B2 JP5424132 B2 JP 5424132B2 JP 2011072268 A JP2011072268 A JP 2011072268A JP 2011072268 A JP2011072268 A JP 2011072268A JP 5424132 B2 JP5424132 B2 JP 5424132B2
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Description

本発明は、鋼材に対して陽極材から電流を供給することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法に関する。
水中、土壌中、またはコンクリート構造物中などに配設されている鋼材(鉄製の配管や鉄筋など)は、表面に不動態皮膜が形成されることによって、本来、腐食から保護されている。ところが、沿岸地域や凍結防止剤が頻繁に使用される地域などのように、塩素成分が多量に存在する環境下では、鋼材に塩素成分が接触して不動態皮膜が部分的に破壊される場合がある。そして、不動態皮膜が破壊された部分からは、鋼材中の鉄イオンが溶出して、鋼材の腐食(酸化)を促進させる。このような鋼材の腐食は、鋼材自体の強度を低下させると共に、コンクリート構造物中においては腐食部分の体積の膨張によってコンクリート構造物に亀裂、如いてはコンクリートの剥落を生じさせる虞がある。
上記のように、鋼材に部分的に腐食が生じることによって、鋼材の腐食した領域(アノード部)と腐食していない領域(カソード部)との間には電位差が生じることとなる。これにより、アノード部からカソード部へ電子が流れることで腐食電流が発生し、アノード部からの鉄イオンの溶出が更に進行する。
このような腐食の進行を防止する方法としては、例えばチタンなどの素材を用いて形成された陽極材からコンクリートを介してコンクリート構造物中の鋼材に電流(防食電流)を供給する電気防食方法が知られている。該電気防食方法は、鋼材に対して防食電流を供給することで、アノード部とカソード部との間に生じる電位差を解消し、腐食電流が発生するのを防止する方法である。
該電気防食方法では、効果的な防食効果を得るために、供給する電流の管理(あるいは、陽極材と鋼材との間にかける電圧の管理)、つまりは防食電流量の管理が行われる。供給電流の管理は、電流を供給した際の鋼材の分極量や、供給電流を遮断した後の鋼材の復極量が所定の範囲となるように管理することで行われる。また、鋼材が配設される環境によっては、分極量および復極量に加えて、鋼材のインスタントオフ電位の管理を行う場合もある。鋼材の分極量、復極量、およびインスタントオフ電位は、鋼材の近傍に配設された照合電極を基準として鋼材の電位を測定することで算出され、良好な防食効果が得られる値となるように、防食電流の供給が行われる(特許文献1参照)。
特開平7−70774号公報
しかしながら、上記のように、照合電極を用いた方法では、照合電極が寿命を迎えたり損傷したりした場合には、分極量等を測定することができなくなるため、照合電極を交換する必要があり、交換作業に手間とコストがかかることとなる。特に、コンクリート構造物中に埋設された照合電極を交換する際には、埋設された照合電極近傍のコンクリートを除去して照合電極を交換した後、再度、コンクリートで埋め戻す必要があるため、交換作業に多大な手間とコストがかかっている。
そこで、本発明は、電気防食を行うに際し、照合電極を用いることなく分極量および復極量を電気防食に適した範囲に管理することができる電気防食方法を提供することを課題とする。
本発明にかかる電気防食方法は、コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給するに際し、コンクリート構造物の陽極材が設置される領域における供給電流密度を調節することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法において、前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定する陽極材電位測定工程と、鋼材へ電流が供給されておらず陽極材と鋼材との間の電位差が安定している状態で、陽極材と鋼材との間の電位差Vacを測定するVac測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とを備え、前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位に基づいて得られる陽極材の電位であって前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corrから、前記Vac測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vacを差し引くことで鋼材の自然電位Ec-corrを算出し、前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対して前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioから、Vac-io測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを差し引くことで鋼材の電位Ec-ioを算出し、上記で算出した鋼材の自然電位Ec-corrから、鋼材の電位Ec-ioを差し引いて算出される分極量が所定の範囲となるように供給電流密度を調節することを特徴とする。
本発明にかかる電気防食方法は、コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給するに際し、コンクリート構造物の陽極材が設置される領域における供給電流密度を調節することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法において、前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定する陽極材電位測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた状態から供給電流を遮断した後、陽極材と鋼材と間の電位差が安定した際の陽極材と鋼材との間の電位差Vac’を測定するVac’測定工程と、鋼材へ電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とを備え、前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位に基づいて得られる陽極材の電位であって前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corr’から、前記Vac’測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac’を差し引くことで鋼材の復極後電位Ec-corr’を算出し、前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対して前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioから、前記Vac-io測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを差し引くことで鋼材の電位Ec-ioを算出し、鋼材の復極後電位Ec-corr’から、鋼材の電位Ec-ioを差し引いて算出される復極量が所定の範囲となるように供給電流密度を調節することを特徴とする。
かかる構成によれば、照合電極を用いて直接測定することなく鋼材の自然電位Ec-corr、鋼材の復極後電位Ec-corr’、および鋼材の電位Ec-io(防食電流遮断直後の電位)を求めることができるため、照合電極を用いることなく分極量および復極量の算出を行うことができる。
また、供給電流遮断直後に測定される陽極材と鋼材との間の電位差(以下、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧とも記す)Vac-ioを設定することで、分極量および復極量を所定の範囲に設定することが可能となる。具体的には、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することによって、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioに対応した供給電流密度に対して陽極材電位測定工程で測定された陽極材の電位Ea-ioを求めることができ、上記のようにして鋼材の電位Ec-ioを算出することができる。斯かる鋼材の電位Ec-ioは、照合電極を基準に測定した鋼材のインスタントオフ電位に相当するものである。つまり、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位を算出することができる。このため、算出される鋼材の自然電位Ec-corrおよび鋼材の復極後電位Ec-corr’を基準に、鋼材への供給電流を調整して陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、分極量および復極量を所定の範囲に設定することが可能となる。これにより、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを測定することによって、照合電極を用いることなく電気防食に最適な分極量および復極量に管理することができる。
また、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを測定することで、照合電極を用いることなく、鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位Ec-ioが求まるため、分極量や復極量に加えて鋼材のインスタントオフ電位(即ち、鋼材の電位Ec-io)を所定の範囲に管理する必要がある場合であっても、照合電極を用いることなく、鋼材の電位Ec-ioを所定の範囲に管理することができる。
前記陽極材の分極曲線は、電気防食の対象となる鋼材が配設された環境中に照合電極を配設し、該照合電極を基準に陽極材のインスタントオフ電位を測定することで作成されることが好ましい。
かかる構成によれば、陽極材の分極曲線は、実際に電気防食を行う鋼材が埋設された環境中に配設された照合電極を用いて陽極材の電位を測定することで作成されることで、実際に電気防食を行う環境(気温やコンクリート構造物中の塩化物量など)に対応した分極曲線を得ることができる。これにより、実際に電気防食を行う環境で照合電極を用いて測定した分極量や復極量と、分極曲線を用いて算出された分極量や復極量との間に大きな差が生じるのを抑制することができる。このため、鋼材と共に埋設された照合電極が寿命などで機能しなくなった後においても、電気防食を行う環境に対応した分極量および復極量を算出することができ、照合電極を用いた場合と同様に分極量および復極量の管理を行うことができる。
以上のように、本発明によれば、電気防食を行うに際し、照合電極を用いることなく分極量および復極量を電気防食に適した範囲に管理することができる。
第1実施形態に係る電気防食方法の流れを示したフローチャート図。 第1および第2実施形態に係る電気防食方法における陽極材の分極曲線の例を示した図。 第2実施形態に係る電気防食方法の流れを示したフローチャート図。 実施例で作製した分極曲線を示した図。
以下、本発明の実施形態について、図1および2を参照しつつ説明する。
<第1実施形態>
本実施形態に係る電気防食方法は、水中、土壌中、またはコンクリート構造物中などに配設された鋼材に対して陽極材から電流を供給して電気防食を行うに際し、鋼材の分極量が所定の範囲となるように、鋼材へ電流の供給を行うものである。以下では、コンクリート構造物中に埋設された鋼材の電気防食を行う場合について、図1に示すフローチャートに沿って説明する。
<電気防食設備の設置>
コンクリート構造物中の鋼材の電気防食を行う際には、コンクリート構造物中に陽極材を埋設すると共に、鋼材の近傍に照合電極を埋設する。この際、陽極材および鋼材は、陽極材と鋼材との間の電圧を調節する電源装置に導線を介して連結されると共に、陽極材と鋼材との間の電位差を測定する電圧計に導線を介して連結される。一方、照合電極および鋼材は、照合電極と鋼材との間の電位差を測定する電圧計に導線を介して連結されると共に、照合電極および陽極材は、照合電極と陽極材との間の電位差を測定する電圧計に導線を介して連結される。
陽極材を埋設する態様としては、特に限定されるものではなく、例えば、面状に形成された陽極材を用いる場合には、電気防食を行う領域を覆うように配置した陽極材をコンクリートで埋め込む態様とすることができる。または、帯状に形成された陽極材を用いる場合には、コンクリート構造物の表面に陽極材に対応した形状の溝を複数形成し、各溝内に陽極材を配置した後、コンクリートで埋め込む態様とすることができる。さらに他の態様としては、棒状に形成された陽極材を用いる場合には、コンクリート構造物の表面から鋼材側へ向かって孔を複数形成し、各孔に陽極材を差し込んだ後、コンクリートで埋め込む態様とすることができる。陽極材を形成する素材としては、一般的に用いられるものを使用することができ、チタン製の素材等を用いることができる。
照合電極は、陽極材および鋼材の電位を測定する際の基準となるものである。具体的には、照合電極と陽極材との間の電位差が陽極材の電位として測定され、照合電極と鋼材との間の電位差が鋼材の電位として測定される。照合電極としては、一般的に用いられるものを使用することができ、例えば飽和銀塩化銀照合電極、銅硫酸銅照合電極、鉛照合電極、または二酸化マンガン照合電極等を用いることができる。また、照合電極は、コンクリート構造物中に埋設されることによって、内部の電解質がコンクリート構造物中に吸収されるため、経時的な使用によって安定した電位を示さなくなる。このため、照合電極の寿命は、一般的に20年程度となっている。
<照合電極使用期間中の分極量の管理>
上記のように陽極材および照合電極をコンクリート構造物中に埋設した後、電源装置を用いて陽極材から鋼材へ電流を供給して電気防食を行う際には、鋼材の分極量が所定の範囲となるように電流の供給を行う。分極量が所定の範囲となることで、鋼材に生じる腐食電流を効果的に消失させることができる。分極量とは、鋼材に電流を供給した際の鋼材電位の変化量を意味する。具体的には、分極量とは、鋼材へ電流が供給されていない状態(電流供給前、または、供給電流を遮断して鋼材の電位が安定した後)の鋼材電位(以下、鋼材の自然電位とも記す)から電位がどれだけ卑側へ変化したかの変化量である。
本実施形態では、実際に電気防食を行う鋼材と共に埋設された照合電極が寿命を迎えるまでの期間(以下、照合電極使用期間と記す)においては、照合電極を基準に鋼材の分極量を算出する。具体的には、鋼材へ電流が供給されていない状態において、照合電極を基準に鋼材の電位を測定することで鋼材の自然電位を求める。更に、電流を供給して鋼材の電位を安定させた後、電流を遮断した直後に照合電極を基準に鋼材の電位を測定することで鋼材のインスタントオフ電位(後述する鋼材の電位Ec-ioに相当するもの)を求める。そして、鋼材の自然電位から鋼材のインスタントオフ電位を差し引くことで鋼材の分極量を算出する。
つまり、照合電極使用期間中おいては、上記のようにして分極量が算出されるため、測定される鋼材の自然電位を基準に、鋼材への供給電流を調整して(即ち、電源装置によって陽極材と鋼材と間に生じる電圧を調整して)鋼材のインスタントオフ電位を設定することで、分極量が所定の範囲となるように設定することができる。これにより、鋼材のインスタントオフ電位を測定することで、分極量が所定の範囲となるように管理することができる。
<分極曲線の作成>
本実施形態では、照合電極使用期間中に、供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を測定する(陽極材電位測定工程)。具体的には、上記のように埋設された照合電極を用いて供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を測定し、分極曲線を作成する(分極曲線作成工程)。斯かる分極曲線は、陽極材から鋼材へ電流を供給した際の供給電流密度(陽極材が埋設された領域の単位面積当りに流れる電流の密度)の変化に対する陽極材のインスタントオフ電位の変化を表すものである。陽極材のインスタントオフ電位は、鋼材へ電流を供給して鋼材の電位を安定させた後、供給電流を遮断した直後に測定される陽極材の電位である。本実施形態では、電源装置を調節することによって供給電流密度を変化させ、この変化に対する陽極材のインスタントオフ電位の変化を照合電極を基準に測定し、得られた陽極材のインスタントオフ電位の変化を供給電流密度の変化に対してグラフ化することによって、図2に示すような分極曲線を作成する。つまり、陽極材の分極曲線は、供給電流密度の増加に伴って陽極材のインスタントオフ電位が貴側へ変化するような曲線となる。
また、上記のようにして作成される陽極材の分極曲線は、実際に鋼材の電気防食を行う環境に応じて形状が変動する。このため、実際に電気防食の対象となる鋼材が埋設されている環境の変動に応じて、複数の分極曲線を作成することが好ましい。例えば、照合電極使用期間中の気温の変化や塩素成分量の変化等に応じて分極曲線を複数作成することが好ましい。このように複数の分極曲線を作成することで、後述するように、陽極材の分極曲線を用いて鋼材の分極量を算出する際に、実際に電気防食を行う環境に対応した分極曲線を選択して用いることができる。これにより、分極曲線に基づいて読み取る陽極材の電位と、実際に電気防食を行う現場で照合電極を用いて測定される陽極材の電位との間に、大きな差が生じるのを抑制することができる。これにより、後述するように、分極曲線を用いて得られる鋼材の自然電位Ec-corrおよび鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位Ec-ioが、実際に電気防食を行う現場で照合電極を用いて測定される電位から大きくズレてしまうのを抑制することができる。
<照合電極使用期間経過後の分極量の管理>
上述したように、コンクリート構造物中の照合電極は、経時的な使用によって寿命を迎え、適切に機能しなくなる。このため、照合電極使用期間が経過した後には、照合電極を利用して分極量を求めるができなくなる。従って、照合電極使用期間経過後には、以下で説明する方法によって分極量を求め、斯かる分極量が所定範囲となるように電流の供給を行う。
具体的には、鋼材へ電流が供給されておらず陽極材と鋼材との間の電位差が安定している状態(電流供給前、または、供給電流を遮断して供給電流の影響が消失した後)で陽極材と鋼材との間の電位差Vacを測定するVac測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とで測定される値から、分極曲線作成工程で作成した陽極材の分極曲線を利用し、分極量の算出に必要な鋼材の自然電位Ec-corrおよび鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位Ec-io(防食電流遮断直後の電位)を算出することで、分極量の算出を行う。
照合電極使用期間経過後の鋼材の自然電位Ec-corrは、陽極材の分極曲線における供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位(以下、陽極材の自然電位とも記す)Ea-corrから、Vac測定工程で測定される陽極材と鋼材との間の電位差(以下、陽極材鋼材間の分極前電位差とも記す)Vacを差し引くことで算出される。つまり、鋼材の自然電位Ec-corrは、下記(1)式によって算出される。

「Ec-corr」=「Ea-corr」−「Vac」・・・(1)
上記のように算出される鋼材の自然電位Ec-corrは、照合電極使用期間中に測定される鋼材の自然電位に相当するものである。また、陽極材鋼材間の分極前電位差Vacは、陽極材と鋼材との間に生じる電圧であり、陽極材および鋼材に連結された電圧計によって測定することができる。一方、分極曲線に基づく陽極材の自然電位Ea-corrは、照合電極使用期間中において、鋼材へ電流が供給されていない状態(電流供給前、または、電流の供給を遮断して供給電流の影響が消失した後)に測定可能な陽極材の電位に相当するものである。
鋼材のインスタントオフ電位に相当する鋼材の電位Ec-ioは、Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の電流密度(遮断前電流密度)に対して前記分極曲線に基づいて定まる陽極材の電位(以下、分極曲線による陽極材の分極時電位とも記す)Ea-ioから、Vac-io測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差(以下、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧とも記す)Vac-ioを差し引くことで算出されるものである。つまり、鋼材のインスタントオフ電位Ec-ioは、下記(2)式によって算出される。

「Ec-io」=「Ea-io」−「Vac-io」・・・(2)
陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioは、陽極材と鋼材との間に生じる真の電圧である。そして、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioは、鋼材へ電流を供給して陽極材と鋼材との間に生じる電圧が安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材および鋼材に連結された電圧計によって、測定されるものである。また、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioは、鋼材へ電流を供給する際の供給電流密度を調節すること(即ち、電源装置によって陽極材と鋼材との間に生じる電圧を調整すること)によって設定することが可能である。供給電流密度としては、5〜30mA/m2程度であることが好ましい。一方、分極曲線に基づく陽極材の分極時電位Ea-ioは、照合電極使用期間中において、鋼材への電流供給時に測定可能な陽極材の真の電位に相当するものである。
「真の電圧」および「真の電位」は、陽極材と鋼材との間、および陽極材と照合電極との間にはコンクリートが存在しているため、測定される電圧および電位は、コンクリートの電気抵抗などの影響を受けるため、真の電圧および電位ではない。しかしながら、上記のように供給電流を遮断することで、コンクリートの影響を排除することができるため、供給電流が遮断された直後に測定される電圧および電位が真の電圧および電位となる。
上記のように、陽極材の分極曲線を利用して求めた鋼材の自然電位Ec-corrから、分極曲線を利用して求めた鋼材の電位Ec-io(鋼材のインスタントオフ電位に相当するもの)を差し引くことで、照合電極使用期間経過後においても分極量が算出される。つまり、照合電極使用期間経過後においては、鋼材の分極量は、下記(3)式によって算出される。

分極量=「Ec-corr」−「Ec-io」・・・(3)
つまり、照合電極使用期間経過後においては、鋼材のインスタントオフ電位を測定して把握することができないため、(1)式より算出される鋼材の自然電位Ec-corrを基準に、鋼材への供給電流を調整して(即ち、電源装置によって陽極材と鋼材との間に生じる電圧を調整して)陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、鋼材の分極量が所定の範囲となるように設定することができる。これにより、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを測定することで、該分極量が所定の範囲となるように管理される。
電気防食を行う際の分極量の設定範囲の基準(防食基準)としては、一般的には、電気化学的防食工法設計施工指針(案)土木学会発行で定められた基準を採用することができ、具体的には、鋼材の分極量が100mV(即ち、鋼材の電位を−100mVよりも卑側)となるように管理することが好ましい。言い換えれば、鋼材へ電流を供給した際の鋼材の自然電位からの電位の変化量が100mV以上となるように管理することが好ましい。このような分極量となるように供給電流の管理を行うことで、鋼材に腐食電流が流れるのを効果的に防止することができ、良好な防食効果を得ることができる。
また、鋼材のインスタントオフ電位およびそれに相当する鋼材の電位Ec-ioが卑側になり過ぎることによって(過防食となることによって)弊害が生じる場合には、これらが所定の範囲となるように、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定する。例えば、プレストレストコンクリート構造物中に鋼材が配設されている場合には、過防食によって鋼材表面に水素が発生し、鋼材の脆化(水素脆化)を引き起こす虞がある。このような弊害が生じる場合には、鋼材のインスタントオフ電位およびそれに相当する鋼材の電位Ec-ioを電気化学的防食工法設計施工指針(案)土木学会発行で定められた基準値、具体的には、−1000mV vs CSEよりも貴側となるように、供給電流量を調整して陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することが好ましい。
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係る電気防食方法は、鋼材へ供給されている電流を遮断した後の鋼材の復極量が所定の範囲となるように鋼材への電流の供給を行う点で、第1実施形態と相異する。従って、以下では、第1実施形態と異なる点について説明し、共通する構成については説明を省略する。
<照合電極使用期間中の復極量の管理>
上記のように陽極材および照合電極をコンクリート構造物中に埋設した後、電源装置を用いて陽極材から鋼材へ電流を供給して電気防食を行う際には、鋼材の復極量が所定の範囲となるように電流の供給を行う。復極量が所定の範囲となることで、鋼材に生じる腐食電流を効果的に消失させることができる。復極量とは、鋼材に供給されている電流を遮断した後の鋼材電位の変化量を意味する。具体的には、復極量とは、電流を供給することで卑側に変化した鋼材の電位が、電流を遮断した後にどれだけ貴側へ変化するかの変化量である。
本実施形態では、照合電極使用期間においては、照合電極を基準に鋼材の復極量を算出する。具体的には、電流を供給して鋼材の電位を安定させた後、電流を遮断した直後に照合電極を基準に鋼材の電位を測定することで鋼材のインスタントオフ電位(後述する鋼材の電位Ec-ioに相当するもの)を求める。更に、電流を供給して鋼材の電位を安定させた状態から供給電流を遮断した後、鋼材の電位が安定した際の鋼材の電位を照合電極を基準に測定することで鋼材の復極後電位を求める。そして、鋼材の復極後電位から鋼材のインスタントオフ電位を差し引くことで鋼材の復極量を算出する。
つまり、照合電極使用期間中おいては、上記のようにして復極量が算出されるため、測定される鋼材の復極後電位を基準に、鋼材への供給電流を調整して(即ち、電源装置によって陽極材と鋼材と間に生じる電圧を調整して)鋼材のインスタントオフ電位を設定することで、復極量が所定の範囲となるように管理する。
<分極曲線の作成>
なお、本実施形態においても、供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を測定する(陽極材電位測定工程)。具体的には、第1実施形態と同様の方法よって、照合電極使用期間中に、陽極材の分極曲線を作成する。
<照合電極使用期間経過後の復極量の管理>
第1実施形態と同様に、照合電極が寿命を迎え、照合電極使用期間が経過した後には、照合電極を利用して復極量を求めるができなくなる。従って、照合電極使用期間経過後には、以下で説明する方法によって復極量を求め、斯かる復極量が所定範囲となるように電流の供給を行う。
具体的には、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた状態から供給電流を遮断した後、陽極材と鋼材との間の電位差が安定した際の陽極材と鋼材との間の電位差Vac’を測定するVac’測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とで測定される値から、分極曲線作成工程で作成した陽極材の分極曲線を利用し、復極量の算出に必要な鋼材の復極後電位Ec-corr’および鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位Ec-ioを算出することで、復極量の算出を行う。
本実施形態に係る鋼材の電位Ec-ioは、第1実施形態と同一の方法で算出されるものであり、第1実施形態における(2)式と同一である下記(5)式によって算出される。

「Ec-io」=「Ea-io」−「Vac-io」・・・(4)
照合電極使用期間経過後の鋼材の復極後電位Ec-corr’は、陽極材の分極曲線における供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位(陽極材の自然電位)Ea-corr’から、Vac’測定工程で測定される陽極材と鋼材との間の電位差(以下、陽極材鋼材間の復極後電位差とも記す)Vac’を差し引くことで算出されるものである。つまり、鋼材の復極後電位Ec-corr’は、下記(4)式によって算出される。

「Ec-corr’」=「Ea-corr’」−「Vac’」・・・(5)
上記のように算出される鋼材の復極後電位Ec-corr’は、照合電極使用期間中に測定される鋼材の復極後電位に相当するものである。また、陽極材鋼材間の復極後電位差Vac’は、陽極材と鋼材との間に生じる電圧であり、陽極材および鋼材が連結された電圧計によって測定することができる。一方、分極曲線に基づく陽極材の自然電位Ea-corr’は、照合電極使用期間中において、供給電流を遮断してから陽極材の電位が安定した際の電位に相当するものである。なお、本実施形態における分極曲線に基づく陽極材の自然電位Ea-corr’は、第1実施形態における分極曲線に基づく陽極材の自然電位Ea-corrと等しくなる。
上記のように、陽極材の分極曲線を利用して求めた鋼材の復極後電位Ec-corr’から、分極曲線を利用して求めた鋼材の電位Ec-io(鋼材のインスタントオフ電位に相当するもの)を差し引くことで、照合電極使用期間経過後においても復極量が算出される。つまり、鋼材の復極量は、下記(6)式によって算出される。

復極量=「Ec-corr’」−「Ec-io」・・・(6)
つまり、照合電極使用期間経過後においては、鋼材のインスタントオフ電位を測定し把握することができないため、(5)式より算出される鋼材の復極後電位Ec-corr’を基準に、鋼材への供給電流を調整して(即ち、電源装置によって陽極材と鋼材との間に生じる電圧を調整して)陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、鋼材の復極量が所定の範囲となるように設定することができる。これにより、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを測定することで、該復極量が所定の範囲となるように管理される。
電気防食を行う際の復極量の設定範囲の基準(防食基準)としては、一般的には電気化学的防食工法設計施工指針(案)土木学会発行で定められた基準を採用することができ、具体的には、鋼材の復極量が100mV(即ち、鋼材の電位を100mVよりも卑側)となるように管理することが好ましい。言い換えれば、鋼材への供給電流を遮断した直後から鋼材の電位が安定するまでの電位の変化量が100mV以上となるように管理することが好ましい。このような復極量となるように供給電流の管理を行うことで、鋼材に腐食電流が流れるのを効果的に防止することができ、良好な防食効果を得ることができる。
また、第1実施形態と同様に、過防食によって弊害が生じる場合には、鋼材の電位Ec-ioが所定の範囲となるように、供給電流量を調整して陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioの設定を行うことが好ましい。
以上のように、本発明に係る電気防食方法によれば、電気防食を行うに際し、照合電極を用いることなく分極量および復極量を電気防食に適した範囲に管理することができる。
即ち、照合電極を用いて直接測定することなく鋼材の自然電位Ec-corr、鋼材の復極後電位Ec-corr’、および鋼材の電位Ec-ioを求めることができるため、照合電極を用いることなく分極量および復極量の算出を行うことができる。
また、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、分極量および復極量を所定の範囲に設定することが可能となる。具体的には、供給電流量の調整により陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することによって、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioに対応した供給電流密度から分極曲線に基づいて陽極材の電位Ea-ioを求めることができ、これにより、上記のように鋼材のインスタントオフ電位に相当する鋼材の電位Ec-ioを算出することができる。つまり、算出される鋼材の自然電位Ec-corrおよび鋼材の復極後電位Ec-corr’を基準に、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、分極量および復極量を所定の範囲に設定することが可能となる。これにより、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを測定することで、照合電極を用いることなく電気防食に最適な分極量および復極量に管理することができる。
また、陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを設定することで、照合電極を用いることなく、鋼材のインスタントオフ電位に相当する電位Ec-ioが求まるため、分極量や復極量に加えて鋼材のインスタントオフ電位を所定の範囲に管理する必要がある場合であっても、照合電極を用いることなく、鋼材の電位Ec-io(即ち、鋼材のインスタントオフ電位)を所定の範囲に管理することができる。
また、実際に電気防食を行う鋼材が埋設されたコンクリート構造物中に配設された照合電極を用いて陽極材の分極曲線を作成することで、実際に電気防食を行う環境(気温やコンクリート構造物中の塩化物量など)に対応した分極曲線を得ることができる。これにより、実際に電気防食を行う環境で照合電極を用いて測定した分極量や復極量と、分極曲線を用いて算出された分極量や復極量との間に大きな差が生じるのを抑制することができる。このため、鋼材と共に埋設された照合電極が寿命などで機能しなくなった後においても、電気防食を行う環境に対応した分極量および復極量を算出することができ、照合電極を用いた場合と同様に分極量および復極量の管理を行うことができる。
なお、本発明に係る保持具は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
例えば、上記実施形態では、実際に電気防食を行うコンクリート構造物中に鋼材と共に照合電極を埋設し、該照合電極を用いて作成された分極曲線が用いられているが、これに限定されるものではなく、例えば、照合電極を埋設したコンクリート構造物の試験片を作成し、実際に電気防食を行う環境とは異なる種々の環境(コンクリート構造物中のpHや塩化物量)毎に分極曲線を作成し、斯かる複数の分極曲線から実際に電気防食を行う環境に対応した分極曲線を選択して用いてもよい。
また、上記実施形態では、分極曲線を用いて陽極材の自然電位Ea-corr等を求めているが、これに限定されるものではなく、陽極材電位測定工程で測定された供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位の関係から陽極材の自然電位Ea-corr等を求めてもよい。つまり、分極曲線を作成することなく、供給電流密度の値とそれに対応する陽極材のインスタントオフ電位の値から陽極材の自然電位Ea-corr等を求めてもよい。
<実施例1>
1.試験体
モルタル(JIS R 5201に規定されるもの)中に、チタンメッシュからなる陽極材(住友大阪セメント社製)および鉄筋(直径13mmの異形鉄筋)が埋設された試験体(サイズ:135×76×100mm)を作製した。陽極材および鋼材は、試験体の長手方向に沿って埋設されている。また、陽極材と鋼材間の距離は、50mmである。そして、鉄筋の側方であって陽極材と間の位置に鉛照合電極(日本防蝕社製)を埋設した。さらに、陽極材と鉄筋とを直流電源装置(北斗電工社製 ポテンショガルバノスタットHA−151A)によって連結した。
2.陽極材鋼材間の分極前電位差Vacの測定
試験体を作製して1ヶ月後、鉄筋への電流供給を行う前に、電圧計(FLUKE 8062A)を用いて陽極材鋼材間の分極前電位差Vacを測定した。測定結果については、下記表1に示す。
3.分極曲線の作製
陽極材鋼材間の分極前電位差Vacを測定した後、陽極材の設置面積当り5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行って陽極材の電位を安定させた。その後、電流の供給を停止して24時間後、上記実施形態と同様に、電流密度の変化に対する陽極材のインスタントオフ電位の変化を測定し、分極曲線を作製した。得られた分極曲線は、図4に示す通りである。
4.陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioの測定
その後、5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行い、7日間後に陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを電圧計を用いて測定した。測定結果については、下記表1に示す通りである。
5.分極量の算出
得られた分極曲線から、電流密度が0mA/m2である時の陽極材のインスタントオフ電位(陽極材の自然電位)Ea-corrを読み取った。また、電流密度が5mA/m2である時の陽極材のインスタントオフ電位(分極曲線による陽極材の分極時電位)Ea-ioを読み取った。陽極材の自然電位Ea-corrおよび分極曲線による陽極材の分極時電位Ea-ioについては、下記表1に示す通りである。
得られた陽極材の自然電位Ea-corr、および陽極材鋼材間の分極前電位差Vacから上記実施形態の(1)式を用いて鋼材の自然電位Ec-corrを算出した。また、分極曲線による陽極材の分極時電位Ea-io、および陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioから上記実施形態の(2)式を用いて供給電流遮断直後の鋼材の電位Ec-ioを算出した。そして、上記実施形態の(3)式を用いて分極量を算出した。各算出結果については、下記表1に示す通りである。
Figure 0005424132
<比較例1>
1.照合電極を基準にした鉄筋の自然電位の測定
実施例1の試験体において、試験体を作製して1ヶ月後、鉄筋への電流供給を行う前に、電圧計(FLUKE 8062A)を用いて照合電極を基準に鉄筋の自然電位を測定した。測定結果については、下記表2に示す通りである。
2.鉄筋のインスタントオフ電位の測定
5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行い、7日間後に鉄筋のインスタントオフ電位を測定した。測定結果については、下記表2に示す通りである。
3.分極量の算出
鉄筋の自然電位から鉄筋のインスタントオフ電位を差し引くことで、分極量を算出した。算出結果については、下記表2に示す通りである。
Figure 0005424132
<まとめ>
実施例1と比較例1とを比較すると、分極曲線を用いて算出された分極量と、照合電極を基準に算出された分極量とが近似する値となっていることが認められる。つまり、本願発明のように分極曲線を用いて分極量を算出し、斯かる分極量を管理することで、従来のように照合電極を用いて算出された分極量を管理する場合と同様の管理を行うことができると認められる。
<実施例2>
1.陽極材鋼材間の復極後電位差Vacの測定
実施例1の試験体において、5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行って陽極材と鋼材との間の電位差が安定した後、供給電流を遮断して24時間経過後の陽極材鋼材間の復極後電位差Vac’を電圧計(FLUKE 8062A)を用いて測定した。測定結果については下記表3に示す通りである。
2.陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioの測定
その後、5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行い、7日間後に陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioを電圧計を用いて測定した。測定結果については、下記表3に示す通りである。
5.復極量の算出
実施例1と同一の分極曲線から、電流密度が0mA/m2である時の陽極材のインスタントオフ電位(陽極材の自然電位)Ea-corr’を読み取った。また、電流密度が5mA/m2である時の陽極材のインスタントオフ電位(分極曲線による陽極材の分極時電位)Ea-ioを読み取った。陽極材の自然電位Ea-corr’および分極曲線による陽極材の分極時電位Ea-ioについては、下記表3に示す通りである。
得られた分極曲線による陽極材の分極時電位Ea-io、および陽極材鋼材間のインスタントオフ電圧Vac-ioから上記実施形態の(4)式を用いて供給電流遮断直後の鋼材の電位Ec-ioを算出した。また、陽極材の自然電位Ea-corr’、および陽極材鋼材間の分極前電位差Vac’から上記実施形態の(5)式を用いて鋼材の自然電位Ec-corr’を算出した。そして、上記実施形態の(6)式を用いて復極量を算出した。各算出結果については、下記表3に示す通りである。
Figure 0005424132
<比較例2>
1.照合電極を基準にした鉄筋の自然電位の測定
実施例1の試験体において、5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行って陽極材と鋼材との間の電位差が安定した後、供給電流を遮断して24時間経過後の鋼材の自然電位を電圧計(FLUKE 8062A)を用いて照合電極を基準に測定した。測定結果については、下記表4に示す通りである。
2.鉄筋のインスタントオフ電位の測定
5mA/m2の電流密度で鉄筋への電流供給を行い、7日間後に鉄筋のインスタントオフ電位を測定した。測定結果については、下記表4に示す通りである。
3.復極量の算出
鉄筋の自然電位から鉄筋のインスタントオフ電位を差し引くことで、復極量を算出した。算出結果については、下記表4に示す通りである。
Figure 0005424132
<まとめ>
実施例2と比較例2とを比較すると、分極曲線を用いて算出された復極量と、照合電極を基準に算出された復極量とが近似する値となっていることが認められる。つまり、本願発明のように分極曲線を用いて復極量を算出し、斯かる復極量を管理することで、従来のように照合電極を用いて算出された復極量を管理する場合と同様の管理を行うことができると認められる。

Claims (5)

  1. コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給するに際し、コンクリート構造物の陽極材が設置される領域における供給電流密度を調節することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法において、
    前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定する陽極材電位測定工程と、鋼材へ電流が供給されておらず陽極材と鋼材との間の電位差が安定している状態で、陽極材と鋼材との間の電位差Vacを測定するVac測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とを備え、
    前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位に基づいて得られる陽極材の電位であって前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corrから、前記Vac測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vacを差し引くことで鋼材の自然電位Ec-corrを算出し、
    前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対して前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioから、Vac-io測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを差し引くことで鋼材の電位Ec-ioを算出し、
    上記で算出した鋼材の自然電位Ec-corrから、鋼材の電位Ec-ioを差し引いて算出される分極量が所定の範囲となるように供給電流密度を調節することを特徴とする電気防食方法。
  2. コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給するに際し、コンクリート構造物の陽極材が設置される領域における供給電流密度を調節することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法において、
    前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定する陽極材電位測定工程と、電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた状態から供給電流を遮断した後、陽極材と鋼材と間の電位差が安定した際の陽極材と鋼材との間の電位差Vac’を測定するVac’測定工程と、鋼材へ電流を供給して陽極材と鋼材との間の電位差を安定させた後、供給電流を遮断した直後に陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを測定するVac-io測定工程とを備え、
    前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位に基づいて得られる陽極材の電位であって前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corr’から、前記Vac’測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac’を差し引くことで鋼材の復極後電位Ec-corr’を算出し、
    前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対して前記陽極材電位測定工程で測定された陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioから、前記Vac-io測定工程で測定された陽極材と鋼材との間の電位差Vac-ioを差し引くことで鋼材の電位Ec-ioを算出し、
    鋼材の復極後電位Ec-corr’から、鋼材の電位Ec-ioを差し引いて算出される復極量が所定の範囲となるように供給電流密度を調節することを特徴とする電気防食方法。
  3. 前記陽極材電位測定工程おいて測定された前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を用いて陽極材の分極曲線を作成し、前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corrを前記分極曲線から求めると共に、前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioを前記分極曲線から求めることを特徴とする請求項1に記載の電気防食方法。
  4. 前記陽極材電位測定工程おいて測定された前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位を用いて陽極材の分極曲線を作成し、前記供給電流密度が0mA/m2のときの陽極材の電位Ea-corr’を前記分極曲線から求めると共に、前記Vac-io測定工程における供給電流を遮断する直前の前記供給電流密度に対する陽極材のインスタントオフ電位Ea-ioを前記分極曲線から求めることを特徴とする請求項2に記載の電気防食方法。
  5. 前記陽極材の分極曲線は、電気防食の対象となる鋼材が配設された環境中に照合電極を配設し、該照合電極を基準に陽極材のインスタントオフ電位を測定することで作成されることを特徴とする請求項3又は4に記載の電気防食方法。
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