以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1および図2は、本発明の車両用無段変速機の制御装置1および内燃機関2などを含む車両駆動系の概略構成を示している。
内燃機関(以下「エンジン」という)2は、ガソリンエンジンであり、車両Vに搭載されている。このエンジン2は、フライホイール4、自動変速機5および差動ギヤ機構6などを介して、駆動輪7、7に連結されており、エンジン2のトルクがこれらの要素4〜6を介して駆動輪7、7に伝達される。
フライホイール4は、エンジン2のクランクシャフト2aに連結されており、エンジン2のトルクを、その変動を低減するとともにねじり振動を減衰させた状態で、自動変速機5に伝達する。
自動変速機5は、前後進切換機構30、無段変速機40および発進クラッチ50などによって構成されている。この前後進切換機構30は、入力軸31と、この入力軸31に取り付けられた遊星歯車装置32を備えている。入力軸31は、一端部がフライホイールダンパー4に連結されるとともに、中空状のメインシャフト41に回転自在に貫通している。遊星歯車装置32は、サンギヤ32aと、サンギヤ32aに噛み合う複数(例えば4つ)のピニオンギヤ32bを回転自在に支持するキャリヤ32dと、各ピニオンギヤ32bに噛み合うリングギヤ32cなどにより構成されている。
サンギヤ32aは、入力軸31と一体に設けられており、入力軸31のサンギヤ32aよりもエンジン2側の部分は、フォワードクラッチ33のクラッチインナー33aに連結され、そのクラッチアウター33bは、リングギヤ32cおよびメインシャフト41に連結されている。このフォワードクラッチ33の接続および遮断は、後述するECU3によって制御される。また、キャリヤ32dには、リバースブレーキ34が連結されている。このリバースブレーキ34の動作もまた、ECU3によって制御される。
以上の前後進切換機構30の構成により、車両Vの前進時には、リバースブレーキ34が解放され、フォワードクラッチ33が接続されることによって、入力軸31とメインシャフト41が直結され、入力軸31の回転がそのままメインシャフト41に伝達されるとともに、各ピニオンギヤ32bは、その軸を中心として回転せずに、キャリヤ32dが入力軸31と一体になって同方向に回転する。以上のように、車両の前進時には、メインシャフト41が入力軸31と同方向に同回転数で回転する。一方、車両Vの後進時には、上記とは逆に、フォワードクラッチ33が遮断され、リバースブレーキ34が係合されることによって、キャリヤ32dがロックされる。これにより、入力軸31の回転が、サンギヤ32aおよびピニオンギヤ32bを介してリングギヤ32cに伝達されることによって、リングギヤ32cおよびこれに連結されたメインシャフト41が、入力軸31と反対方向に回転する。このように、車両の後進時には、メインシャフト41が入力軸31と反対方向に回転する。
無段変速機40は、ベルト式のものであり、上記メインシャフト41、ドライブプーリ42、カウンタシャフト43およびドリブンプーリ44などによって構成されている。
ドライブプーリ42は、円錐台形状の可動部42aおよび固定部42bを有している。可動部42aは、メインシャフト41に、その軸線方向に移動可能にかつ回転不能に取り付けられており、固定部42bは、メインシャフト41に固定され、可動部42aと対向している。また、可動部42aおよび固定部42bの互いに対向する面は、それぞれ斜面状に形成されており、それにより、可動部42a、固定部42bおよびメインシャフト41によって、V字状のベルト溝42cが形成されている。
ドリブンプーリ44は、ドライブプーリ42と同様に構成されており、円錐台形状の可動部44aおよび固定部44bを有している。可動部44aは、カウンタシャフト43に、その軸線方向に移動可能にかつ回転不能に取り付けられており、固定部44bは、カウンタシャフト43に固定され、可動部44aと対向している。また、可動部44aおよび固定部44bの互いに対向する面は、それぞれ斜面状に形成され、可動部44a、固定部44bおよびカウンタシャフト43によって、V字状のベルト溝44cが形成されている。
両プーリ42、44のベルト溝42c、44c間には、金属ベルト45が巻き掛けられている。また、可動部42a、44aには、これらをその軸線方向に移動させるためのプーリ幅可変機構46、46がそれぞれ設けられている。各プーリ幅可変機構46は、可動部42a、44aの背面側に設けられた油室46aと、油室46aに供給される油圧を制御する油圧制御弁46bなどで構成されている。油圧制御弁46bは電磁弁で構成されており、その開度は、ECU3による制御の下、供給される駆動電流量に応じて制御される。
以上の無段変速機40の構成により、油圧制御弁46bの開度がECU3によって制御されることにより、油室46aの油圧が制御され、可動部42a、44aがこの油圧に応じた位置に位置決めされる。それにより、可動部42a、44aと固定部42b、44bとの間の距離、すなわちベルト溝42c、44cの幅が別個に無段階に設定されることによって、メインシャフト41とカウンタシャフト43との間の回転速度比、すなわち無段変速機40の変速比を無段階に制御することが可能である。
また、後述するように、無段変速機40の変速モードは、制御装置1により次の3つの変速モードのいずれかに設定される。
1.車両Vの運転状態に応じて変速比を無段階に設定する無段自動変速モード(以下「CVTモード」)
2.車両Vの運転状態に応じて変速比を複数の所定の変速比の1つに設定する有段自動変速モード(以下「ATモード」)
3.運転者の変速意思に従って変速比を複数の所定の変速比の1つに設定する有段手動変速モード(以下「MTモード」)
このように、本実施形態では、ATモードとMTモードによって有段変速モード(以下、適宜「TIPモード」という)が構成される。
発進クラッチ50は、カウンタシャフト43上に回転自在に設けられたギヤ43aと、カウンタシャフト43との間を接続・遮断するものであり、その動作は、ECU3によって制御される。また、このギヤ43aは、アイドラシャフト51上に設けられた大小のアイドラギヤ51a、51bを介して、差動ギヤ機構6のギヤ6aに噛み合っている。以上の構成により、発進クラッチ50が接続されると、カウンタシャフト43の回転が、これらのギヤ43a、51a、51bおよび6aを介して駆動輪7、7に伝達されることによって、車両Vが発進される。
図3は、運転者によって操作されるシフトレバーのシフトレンジおよびシフト位置を示している。シフトレバーのシフトレンジとして、パーキング(P)、リバース(R)、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、スポーツ(S)、ロー(L)の各レンジが設定されていて、その順にシフト位置が並んでいる。このスポーツレンジでは、エンジンをより高回転状態で使用するようにするために、無段変速機40の変速比がより高い側に設定される。また、シフトレバーには、そのシフト位置を検出するシフト位置センサ20が設けられており、ECU3は、その検出信号に応じて、前述したフォワードクラッチ33、リバースブレーキ34、プーリ幅可変機構46および発進クラッチ50の動作を制御する。
また、図4に示すように、ハンドルHには、MTスイッチ21および変速段変更スイッチ22、22が設けられており、変速段変更スイッチ22、22は、ハンドルHの左右に、MTスイッチ21は、右側のスイッチ22の下側に、それぞれ配置されている。MTスイッチ21は、無段変速機40の変速モードとしてMTモードを開始または終了するために、運転者によって操作されるものである。このMTスイッチ21の操作状態を表す信号はECU3に出力され、ECU3は、この操作信号に応じて、無段変速機40の変速モードを後述するように設定する。
各変速段変更スイッチ22は、MTモード中に無段変速機40の変速段をシフトさせるために運転者によって操作されるものであり、アップスイッチ22aとダウンスイッチ22bを有している。変速段変更スイッチ22の操作状態を表す信号はECU3に出力され、ECU3は、MTモード中にアップスイッチ22aが操作されるごとに、変速段をそのときの変速段から1段、アップさせ、ダウンスイッチ22bが操作されるごとに、変速段を1段、ダウンさせる。
また、ECU3には、クランク角センサ10からCRK信号が出力される。このCRK信号は、エンジン2のクランクシャフト2aの回転に伴い、所定のクランク角ごとに出力されるパルス信号である。ECU2は、このCRK信号に基づいて、エンジン2の回転数NEを算出する。さらに、ECU2には、ドライブプーリ回転数センサ11から、ドライブプーリ42の回転数(以下「ドライブプーリ回転数」という)NDRWを表す検出信号が、車速センサ12から、車両Vの速度(以下「車速」という)VPを表す検出信号が、アクセル開度センサ13から、アクセルペダル(図示せず)の開度(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が、それぞれ出力される。
ECU3は、本実施形態において、変速段シフト手段、目標変速比設定手段、変速比制御手段、変化速度制御手段、目標変速比補正手段およびフィードバックゲイン設定手段を構成するものであり、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどから成るマイクロコンピュータで構成されている。上記のセンサ10〜13およびスイッチ21〜22などからの検出信号は、I/OインターフェースでA/D変換がなされた後、CPUに入力される。CPUは、これらの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、無段変速機40の変速モードを、CVTモード、ATモードまたはMTモードのいずれかに設定するとともに、設定した変速モードに従って、無段変速機40の変速比を制御する。
図5は、無段変速機40の変速モードを設定する変速モード設定処理を示すフローチャートである。この処理は、シフトレンジがドライブレンジまたはスポーツレンジに設定されているときに実行される。まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、無段変速機40の故障がすでに検出されているか否かを判別する。
この答がYESで、無段変速機40の故障が検出されているときには、ATモード実行フラグF_ATおよびMTモード実行フラグF_MTを「0」にセットし(ステップ2、3)、本プログラムを終了する。一方、ステップ1の答がNOのときには、MTモード実行フラグF_MTおよびATモード実行フラグF_ATが「1」であるか否かをそれぞれ判別する(ステップ4、5)。
これらの答がいずれもNOで、F_MT=0およびF_AT=0のとき、すなわち変速モードがCVTモードに設定されているときには、MTスイッチ21が操作されたか否かを判別する(ステップ6)。この答がNOで、CVTモード中にMTスイッチ21が操作されなかったときには、そのまま本プログラムを終了し、CVTモードを維持する。
ステップ6の答がYESで、CVTモード中にMTスイッチ21が操作されたときには、ATモード実行フラグF_ATを「1」にセットし(ステップ7)、変速モードをATモードに設定する。このように、CVTモード中にMTスイッチ21が操作されたときには、変速モードを、直ちにMTモードに切り換えるのではなく、ATモードに一時的に設定する。このステップ7の実行によって前記ステップ5の答がYESになるので、その場合には、MTスイッチ21が操作されたか否かを判別する(ステップ8)。
この答がYESで、ATモード中にMTスイッチ21が操作されたときには、ATモード実行フラグF_ATを「0」にセットし(ステップ9)、変速モードをCVTモードに設定する。このような設定により、CVTモード中に誤ってMTスイッチ21が操作されたためにATモードに移行したような場合には、MTスイッチ21を再度、操作することによって、変速モードをCVTモードに直ちに復帰させることができる。
前記ステップ8の答がNOで、ATモード中にMTスイッチ21が操作されなかったときには、変速段変更スイッチ22のアップスイッチ22aまたはダウンスイッチ22bが、操作されたか否かを判別する(ステップ10)。この答がNOで、そのような操作がなかったときには、そのまま本プログラムを終了し、ATモードを維持する。
ステップ10の答がYESで、ATモード中に変速段変更スイッチ22のアップシフト操作またはダウンシフト操作が行われたときには、CVTモード中のMTスイッチ21の操作が誤操作ではなく、運転者がMTモードを望んでいるとして、ATモード実行フラグF_ATを「0」にセットする(ステップ11)とともに、MTモード実行フラグF_MTを「1」にセットする(ステップ12)ことにより、変速モードをATモードからMTモードに切り換える。このステップ12の実行により、前記ステップ4の答がYESになるので、その場合には、MTスイッチ21が操作されたか否かを判別する(ステップ13)。この答がNOのときには、そのまま本プログラムを終了し、MTモードを維持する。
ステップ13の答がYESで、MTモード中にMTスイッチ21が操作されたときには、MTモード実行フラグF_MTを「0」にセットする(ステップ14)ことによって、変速モードをMTモードからCVTモードに切り換え、本プログラムを終了する。
図6は、目標回転数の設定処理を示すフローチャートである。この処理は、上述のようにして設定された変速モードおよび車両Vの運転状態に応じて、変速比または変速段を設定するとともに、ドライブプーリ回転数NDRWの目標回転数を設定するものである。
この処理ではまず、ステップ21および22において、MTモード実行フラグF_MTおよびATモード実行フラグF_ATがそれぞれ「1」であるか否かを判別する。両ステップの答がいずれもNOで、変速モードがCVTモードに設定されているときには、CVTモードにおける目標回転数を設定し(ステップ23)、本プログラムを終了する。この目標回転数は、図示しないテーブルに基づき、車速VPおよびアクセル開度APに応じて設定される。このテーブルでは、目標回転数は、車速VPが大きいほど、およびアクセル開度APが大きいほど、大きな値に設定されている。以上のように、CVTモードでは、車速VPおよびアクセル開度APに応じて、目標回転数が無段階に設定されることによって、無段変速機40の変速比が無段階に設定される。
一方、前記ステップ21の答がYESで、変速モードがMTモードに設定されているときには、変速段変更スイッチ22の操作状態に応じて、変速段を第1〜第7段の1つに設定する(ステップ24)。具体的には、変速モードがATモードからMTモードに切り換えられたときには、変速段が、この切り換え直前のATモードにおける変速段から1段、アップまたはダウンされ、その後、変速段変更スイッチ22が操作されるごとに、変速段が1段、アップまたはダウンされる。このように、MTモードでは、無段変速機40の変速段は、運転者による変速段変更スイッチ22の操作状態に従って、第1〜第7速の1つに設定される。
また、前記ステップ22の答がYESで、変速モードがATモードに設定されているときには、無段変速機40の変速段を、図7に示す変速段テーブルに基づき、車速VPおよびアクセル開度APに応じて設定する(ステップ25)。
この変速段テーブルは、アップシフト用(実線)とダウンシフト用(点線)に分けて設定されており、第1〜第7速の変速段の領域が、境界線L12〜L67およびL21〜L76によって区分され、互いに大きなヒステリシスを有するように設定されている。具体的には、変速段の設定・変更は次のように行われる。CVTモードからATモードへの切り換え直後においては、そのときの車速VPとアクセル開度APが含まれるアップシフト用の領域に対応する変速段に設定される。また、例えば、変速段が第1段に設定されている場合において、アクセル開度APが一定で、車速VPが上昇することにより、アップシフト用の第1段と第2段との境界線L12を超えたときには、変速段が第1段から第2段に変更される。また、変速段が第2段に設定されている場合に、車速VPが下降することにより、車速VPがダウンシフト用の境界線L21を超えたときには、変速段が第2段から第1段に変更される。以上のように、ATモードでは、無段変速機40の変速段は、車速VPおよびアクセル開度APに応じて、第1〜第7速の1つに設定される。
なお、上述したようにMTモードまたはATモードにおいて変速段が設定されると、設定した変速段を表す変速段番号TIPNOが設定される。具体的には、この変速段番号TIPNOは、変速段が第1〜第7速のときにはそれぞれ値1〜7に、変速段が設定されないCVTモードのときには値0に、それぞれ設定される。
次に、前記ステップ24または25に続くステップ26では、上記のように設定された変速段などに応じ、MTモードまたはATモード、すなわち有段変速モード(TIPモード)における目標回転数NTIPSFTを設定し、本プログラムを終了する。
この目標回転数NTIPSFTの設定は、図8のサブルーチンに従って行われる。この処理ではまず、基本回転数NTIPHILを、ステップ24または25で設定した変速段および車速VPに応じ、図9のNTIPHILマップを検索することによって求める(ステップ31)。このNTIPHILマップは、第1〜第7速の変速段ごとに、車速VPに対する目標回転数の基本的な関係を定めたものであり、その傾きが変速比に相当する。このため、基本回転数NTIPHILは、変速段が高いほど、車速VPに対する傾きが小さくなるように設定されている。
次いで、回転数補正量NTIPUDを算出する(ステップ32)。この回転数補正量NTIPUDは、TIPモード中に変速段がシフトされたときに、変速比の変化速度を大きくするために適用されるものであり、後述する図10の算出サブルーチンによって算出される。
次に、ステップ31で求めた基本回転数NTIPHILに、ステップ32で算出した回転数補正量NTIPUDを加算することによって、TIPモードにおける目標回転数NTIPSFTを最終的に設定し(ステップ33)、本プログラムを終了する。したがって、TIPモードでは、ドライブプーリ回転数NDRWが上記のように設定した目標回転数NTIPSFTになるように、無段変速機40を制御することによって、無段変速機40の変速比が、目標回転数NTIPSFTに対応した目標変速比に制御される。
次に、図10を参照しながら、上記のステップ32で実行される回転数補正量NTIPUDの算出処理について説明する。この処理ではまず、変速段番号TIPNOの前回値TIPNO1が値0であるか否かを判別する(ステップ41)。この答がYESのとき、すなわち今回がCVTモードからTIPモードに移行した直後のループであるときには、後述する補正戻し量DNTIPUDおよび補正戻しディレイ時間TMTIPUDをそれぞれ値0にリセットする(ステップ42、43)とともに、回転数補正量NTIPUDを値0にリセットする(ステップ44)。
一方、前記ステップ41の答がNOで、今回がCVTモードからTIPモードに移行した2回目以降のループであるときには、変速段番号TIPNOが前回値TIPNO1と等しいか否かを判別する(ステップ45)。この答がYESで、前回と今回の間で変速段のシフトが行われていないときには、後述するステップ53に進む。
前記ステップ45の答がNOで、前回と今回の間で変速段がシフトされているときには、変速段番号TIPNOが前回値TIPNO1よりも大きいか否かを判別する(ステップ46)。この答がYESのとき、すなわち今回の変速段のシフトがアップシフトのときには、変速段番号TIPNOおよびドライブプーリ回転数NDRWに応じ、図11のNTIPUDUPテーブルを検索することによって、アップシフト時用の回転数補正量NTIPUDUPを求め、回転数補正量NTIPUDとして設定する(ステップ47)。
同図に示すように、このNTIPUDUPテーブルは、第2および第3速用と第4〜第7速用の2つのテーブルで構成されている。このうち、第2および第3速用のNTIPUDUPテーブルでは、回転数補正量NTIPUDUPは、負の値に設定されており、ドライブプーリ回転数NDRWが第1所定値NDRW(例えば3000rpm)以下のときには、NDRW値が高いほど、その絶対値がリニアに大きくなるように設定されている。これは、基本回転数NTIPHILが図9に示すように設定される関係上、ドライブプーリ回転数NDRWが高いほど、アップシフト時に減少させるべき回転数差が本来的に大きいため、それに応じて、シフト時に変速比の変化速度を大きくするための回転数補正量NTIPUDUPもまた、大きくする必要があるからである。また、回転数補正量NTIPUDUPは、NDRW値が第1所定値NDRWよりも大きいときには、過大な値にならないよう、NDRW値にかかわらず、所定のリミット値NTIPUDUPLMT(例えば−300rpm)に設定されている。
一方、第4〜第7速用のNTIPUDUPテーブルでは、回転数補正量NTIPUDUPは、ドライブプーリ回転数NDRWにかかわらず、値0に設定されている。すなわち、第4速以上の変速段へのアップシフトの場合には、回転数補正量NTIPUDによる補正は行われない。これは、中〜高変速段間でのアップシフトの場合には、シフト時に減少させるべき回転数差が本来的に小さいため、シフト時に変速比の変化速度を大きくする必要性に乏しいからである。
図10に戻り、前記ステップ47に続くステップ48では、変速段番号TIPNOに応じ、図12のテーブルを検索することによって、アップシフト時用の補正戻し量DNTIPUDUPnを求め、補正戻し量DNTIPUDとして設定する。この補正戻し量DNTIPUDは、変速段のシフト時に算出した回転数補正量NTIPUDを徐々に減少させるためのものである(図16(a)参照)。図12に示すように、このテーブルでは、補正戻し量DNTIPUDUPnは、シフト先の変速段が第2および第3速のときには、−0.5rpmに設定され、第4〜第7速のときには、回転数補正量NTIPUDによる補正が行われないため、値0に設定されている。
次いで、ステップ48に続くステップ49では、変速段番号TIPNOに応じ、図13のテーブルを検索することによって、アップシフト時用の補正戻しディレイ時間TMTIPUDUPnを求め、補正戻しディレイ時間TMTIPUDとして設定し、ダウンカウント式のタイマ(図示せず)にセットする。この補正戻しディレイ時間TMTIPUDは、変速段のシフト後、補正戻し量DNTIPUDによる回転数補正量NTIPUDの減少を開始するまでのディレイ時間を定めるものである(図16(a)参照)。図13に示すように、このテーブルでは、補正戻しディレイ時間TMTIPUDUPnは、シフト先の変速段が第2および第3速のときには、500msに設定され、第4〜第7速のときには、回転数補正量NTIPUによる補正が行われないため、値0に設定されている。
一方、前記ステップ46の答がNOで、TIPNO<TIPNO1のとき、すなわち今回の変速段のシフトがダウンシフトのときには、ステップ50〜52において、前記ステップ47〜49と同様にして、ダウンシフト時用の回転数補正量NTIPUD、補正戻し量DNTIPUDおよび補正戻しディレイ時間TMTIPUDを設定する。まず、ステップ50では、変速段番号TIPNOおよびドライブプーリ回転数NDRWに応じ、図11のNTIPUDDNテーブルを検索することによって、ダウンシフト時用の回転数補正量NTIPUDDNを求め、回転数補正量NTIPUDとして設定する。このNTIPUDDNテーブルでは、回転数補正量NTIPUDDNは、正の値に設定され、ドライブプーリ回転数NDRWが第2所定値NDRW(例えば5000rpm)以下のときには、アップシフト用の回転数補正量NTIPUDUPの場合と同じ理由から、NDRW値が高いほど、リニアに大きくなるように設定されている。また、回転数補正量NTIPUDDNは、NDRW値が第2所定値NDRWよりも大きいときには、NDRW値にかかわらず、所定のリミット値NTIPUDDNLMT(例えば−250rpm)に設定されている。
ステップ51では、変速段番号TIPNOに応じ、図14のテーブルを検索することによって、ダウンシフト時用の補正戻し量DNTIPUDDNnを求め、補正戻し量DNTIPUDとして設定する。このテーブルでは、補正戻し量DNTIPUDDNnは、シフト先の変速段が第1および第2速のときには2rpmに、第3〜第6速のときには、より小さな0.5rpmに設定されている。これは、TIPモードでは、変速段が低いほど、車速VPに対する基本回転数NTIPHILの傾きが大きいために、ダウンシフト時に増加させるべき回転数差が本来的に大きいことから、それに応じて、シフト時に変速比の変化速度を大きくするための回転数補正量NTIPUDも大きくする必要があるからである。
また、ステップ52では、変速段番号TIPNOに応じ、図15のテーブルを検索することによって、ダウンシフト時用の補正戻しディレイ時間TMTIPUDDNnを求め、補正戻しディレイ時間TMTIPUDとして設定し、タイマにセットする。このテーブルでは、補正戻しディレイ時間TMTIPUDDNnは、シフト先の変速段にかかわらず、一定の500msに設定されている。
前記ステップ45、49または52に続くステップ53では、補正戻しディレイ時間TMTIPUDをセットしたタイマの値が、0であるか否かを判別する。この答がNOのときには、そのまま本プログラムを終了する。すなわち、変速段のシフト後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過するまでは、回転数補正量NTIPUDは、ステップ47または50で設定された値に保持される。
一方、前記ステップ53の答がYESで、変速段のシフト後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過したときには、回転数補正量NTIPUDの絶対値が補正戻し量DNTIPUDの絶対値よりも大きいか否かを判別する(ステップ54)。この答がYESで、|NTIPUD|>|DNTIPUD|のときには、回転数補正量NTIPUDから補正戻し量DNTIPUDを減算した値を、新たな回転数補正量NTIPUDとして設定し(ステップ55)、本プログラムを終了する。一方、前記ステップ54の答がNOで、|NTIPUD|≦|DNTIPUD|が成立したときには、回転数補正量NTIPUDを値0に設定し(ステップ56)、本プログラムを終了する。
以上のような算出処理により、回転数補正量NTIPUDは、変速段がアップシフトされた場合には、図16(a)に示すように、アップシフトの直後に(時点t1)、アップシフト時用の負の値のNTIPUDUP値に設定され(ステップ47)、その後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過するまで(t1〜t2間)、その値に保持されるとともに、その経過後(t2以降)、負の値の補正戻し量DNTIPUDが減算される(ステップ55)ことによって、徐々に絶対値が小さくなり、その絶対値が補正戻し量DNTIPUDの絶対値以下になった時点(t3)で、値0に設定される。なお、前述したように、このような回転数補正量NTIPUDの算出は、第2速または第3速へのアップシフトの場合に限って行われ、第4速以上の変速段へのアップシフトの場合には行われない。
前述したように、目標回転数NTIPSFTは、図9のマップから求められる基本回転数NTIPHILと回転数補正量NTIPUDとの和として算出される。したがって、目標回転数NTIPSFTは、回転数補正量NTIPUDが上記のように設定されるのに伴い、図16(b)に示すように、アップシフトの直後に、シフト先の変速段(この例では第3速)の基本回転数NTIPHILよりも回転数補正量NTIPUDだけ減少した値に補正され、その後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過した後に、補正戻し量DNTIPUDが減算されることによって、基本回転数NTIPHILに徐々に戻される。
また、変速段がダウンシフトされた場合、回転数補正量NTIPUDは、図17(a)に示すように、ダウンシフトの直後に(時点t4)、ダウンシフト時用の正の値のNTIPUDDN値に設定され(ステップ50)、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過するまで(t4〜t5間)、その値が保持されるとともに、その経過後(t5以降)、正の値の補正戻し量DNTIPUDが減算される(ステップ55)ことによって、徐々に小さくなり、補正戻し量DNTIPUD以下になった時点(t6)で、値0に設定される。
これに伴い、目標回転数NTIPSFTは、図17(b)に示すように、ダウンシフトの直後に、シフト先の変速段(この例では第4速)の基本回転数NTIPHILよりも回転数補正量NTIPUDだけ増加した値に補正され、その後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDが経過した後に、補正戻し量DNTIPUDが減算されることによって、基本回転数NTIPHILに徐々に戻される。
以上のように、変速段のアップシフト時には、目標回転数NTIPSFTを、基本回転数NTIPHILよりも回転数補正量NTIPUDだけ減少側に補正する。したがって、アップシフト時に、シフト先の変速段の目標回転数NTIPSFTに向けて制御される際のドライブプーリ回転数NDRWの実際の減少速度を、目標回転数NTIPSFTの減少分に対応する分だけ早めることができ、アップシフト時の変速比の変化速度を非シフト時よりも大きくすることができる。同様に、変速段のダウンシフト時には、目標回転数NTIPSFTを、基本回転数NTIPHILよりも回転数補正量NTIPUDだけ増加側に補正するので、ダウンシフト時におけるドライブプーリ回転数NDRWの実際の増加速度を、目標回転数NTIPSFTの増加分に対応する分だけ早めることができ、ダウンシフト時の変速比の変化速度を非シフト時よりも大きくすることができる。
したがって、変速段のシフト時における変速動作の応答性を向上させることができ、それにより、スポーティーな有段運転感覚を得ることができる。一方、TIPモードにおいて変速段がシフトされていないときには、目標回転数NTIPSFTとして基本回転数NTIPHILを用いることで、シフト時よりも変速比の変化速度をより小さく制御するので、目標変速比への変速比の収束性を良好に維持でき、それにより、制御のハンチングを防止しながら、安定した変速比制御を実現することができる。
また、シフト後、補正戻しディレイ時間TMTIPUDの間、回転数補正量NTIPUDの値を保持するので、回転数補正量NTIPUDによる変速比の変化速度の増大効果を確実に得ることができる。さらに、補正戻し量DNTIPUDにより、回転数補正量NTIPUDを徐々に戻し、目標回転数NTIPSFTを基本回転数NTIPHILに徐々に近づけるので、変速比をシフト先の変速段が有するべき本来の目標変速比に円滑に復帰させることができる。
図18および図19は、本発明の第2実施形態を示している。本実施形態は、無段変速機40の油圧制御弁46bへの駆動電流量ICMDHCを、ドライブプーリ回転数NDRWが目標回転数になるようにフィードバック制御する際の制御項のゲインを、TIPモード中の変速段のシフト時に変更することによって、変速比の変化速度を制御するものである。
図18は、TIPモードにおいて実行される駆動電流量ICMDHCの算出処理を示している。この処理ではまず、ステップ61において、目標回転数NDRCMDとドライブプーリ回転数NDRWとの偏差(=NDRCMD−NDRW)を算出し、回転数偏差NDRERRとして算出する。なお、この場合の目標回転数NDRCMDは、図9のマップにより求められる基本回転数NTIPHILに等しい。次に、ドライブプーリ回転数NDRWに応じ、図示しないテーブルを検索することによって、フィードバック制御のP項(比例項)のゲインKPHを求める(ステップ62)。
次に、変速段番号TIPNOの前回値TIPNO1が値0であるか否かを判別する(ステップ63)。この答がYESで、今回がCVTモードからTIPモードに移行した直後のループであるときには、P項(制御項)の高回転ゲインKPHREV(ゲイン)を所定の初期値YKPHREV1に設定し(ステップ64)、後述するステップ70に進む。
前記ステップ63の答がNOで、今回がCVTモードからTIPモードに移行した2回目以降のループであるときには、変速段番号TIPNOが前回値TIPNO1よりも大きいか又は小さいか否かを、それぞれ判別する(ステップ65、66)。これらの答がいずれもNOのとき、すなわち前回と今回の間で変速段のシフトが行われていないときには、ステップ61で算出した回転数偏差NDRERRに応じ、図19のテーブルを検索することによって、非シフト時用の高回転ゲインKPHREVTを求め、高回転ゲインKPHREVとして設定する(ステップ67)。このテーブルでは、高回転ゲインKPHREVTは、回転数偏差NDRERRが大きいほど、より大きな値に設定されている。
前記ステップ65の答がYESで、前回と今回の間で変速段がアップシフトされているときには、回転数偏差NDRERRに応じ、図20のテーブルを検索することによって、アップシフト時用の高回転ゲインKPHREVUPを求め、高回転ゲインKPHREVとして設定する(ステップ68)。このテーブルでは、高回転ゲインKPHREVUPは、回転数偏差NDRERRが大きいほど、より大きな値に設定されるとともに、非シフト時用の値KPHREVTよりも大きな値に設定されている。また、このテーブルでは、高回転ゲインKPHREVUPは、変速段が高いほど、より小さな値に設定されている。これは、変速段が高いほど、無段変速機40の油室46aに供給される油圧が、低変速比側の限界値に近くなるため、その状態から、アップシフトに伴って変速比を低変速比側へ変化させようとすると、供給油圧をさらに限界値側に向かって変化させることになり、供給油圧に余裕がなく、変速比の変化速度がより制限されるためである。
一方、前記ステップ66の答がYESで、変速段がダウンシフトされているときには、回転数偏差NDRERRに応じ、図21のテーブルを検索することによって、ダウンシフト時用の高回転ゲインKPHREVDNを求め、高回転ゲインKPHREVとして設定する(ステップ69)。このテーブルにおいてもまた、高回転ゲインKPHREVDNは、回転数偏差NDRERRが大きいほど、より大きな値に設定されるとともに、非シフト時用の値KPHREVTよりも大きな値に設定されている。また、このテーブルでは、高回転ゲインKPHREVDNは、アップシフト時用のそれとは逆に、変速段が低いほど、より小さな値に設定されている。これは、ダウンシフトの場合には、アップシフトの場合とは逆に、変速段が低いほど、油室46aへの供給油圧を、高変速比側の限界値により近い状態からさらに限界値側に向かって変化させることになり、変速比の変化速度がより制限されるためである。
次いで、ステップ70では、回転数偏差NDRERRに、前記ステップ62で求めたゲインKPHと、前記ステップ64、67、68または69で求めた高回転ゲインKPHREVを乗算することによって、P項PEHを算出する。
次のステップ71では、回転数偏差NDRERRおよびI項ゲインなどから、I項(積分項)SEHWを算出する。そして、目標変速比やエンジン2からの入力トルクなどに基づいて算出した基本電流量ICMDFFに、P項PEHおよびI項SEHWを加算することによって、駆動電流量ICMDHCを算出し(ステップ72)、本プログラムを終了する。このように算出された駆動電流量ICMDHCを無段変速機40の油圧制御弁46bに供給することによって、ドライブプーリ回転数NDRWが目標回転数NDRCMDになるようにフィードバック制御される。
以上のように、本実施形態によれば、TIPモード中において、ドライブプーリ回転数NDRWが目標回転数NDRCMDになるようにフィードバック制御するための駆動電流量ICMDHCのP項PEHの高回転ゲインKPHREVを、変速段のアップシフト時およびダウンシフト時に、非シフト時よりも大きな値に設定する。したがって、変速段のシフト時においては、無段変速機40の変速比の変化速度を早め、目標変速比への制御の応答性を高めるとともに、非シフト時においては、目標変速比への変速比の収束性を良好に維持できるなど、前述した第1実施形態による効果を同様に得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、変速段のシフト時における変速比の変化速度を増大させるために、第1実施形態では、回転数補正量NTIPUDによる目標回転数NTIPSFTを補正し、第2実施形態では、目標回転数NDRCMDを目標とするフィードバック制御のP項PEHの高回転ゲインKPHREVの設定を変更しているが、これを他の適当な制御パラメータを用いて行ってもよい。例えば、無段変速機40の油室46aに供給する油圧のゲインを変更することも可能である。
また、第1実施形態では、アップシフトの場合、第2および第3速へのシフトのときのみ目標回転数の補正を行っているが、これを第4速以上の変速段へのアップシフトのときにも行ってもよい。さらに、第1実施形態では、目標回転数の補正の実行期間を基本的に時間によって決定しているが、例えば、シフト動作の終了を判定し、その判定結果に応じて補正を終了するようにしてもよい。また、第1実施形態で示した回転数補正量NTIPUD、補正戻し量DNTIPUDおよび補正戻しディレイ時間TMTIPUDの値は、あくまでも例示であり、他の値を適宜、設定できることはもちろんである。さらに、第2実施形態では、変速段のシフト直後にのみ、P項PEHの高回転ゲインKPHREVの設定を変更しているが、これを、シフト後の所定時間、あるいはシフト動作が終了するまでの間、行うようにしてもよい。
また、実施形態は、無段変速機の有段変速モードとして、MTモードに加えてATモードを有する例であるが、MTモードのみを有する場合において、その変速段のシフト時に本発明を適用してもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。