JP4144323B2 - 燃料電池の状態判定装置および燃料電池システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池の状態判定装置および燃料電池システムに関し、詳しくは、燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池の状態を判定する燃料電池の状態判定装置および燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池を有する燃料電池システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、燃料電池システムとしては、湿潤状態で良好なプロトン導伝性を呈する電解質膜とこの電解質膜を狭持するアノード電極およびカソード電極とからなる単セルとこのセル間の隔壁をなすセパレータとにより構成された単電池を複数積層した燃料電池を有するものが知られている。セパレータには、アノード電極と共に燃料ガスとしての水素ガスを単セル内に行き渡らせるための燃料ガス通路が形成されると共に、カソード電極と共に酸化ガスとしての空気を単セル内に行き渡らせるための酸化ガス通路が形成されている。
【0003】
この電解質膜は通常湿潤状態で良好なプロトン導電性を呈する電解質として機能するため、燃料ガスや酸化ガスを予め加湿したうえで供給することにより電解質膜の湿潤状態を維持しているが、種々の理由によりフラッディング現象(水分過多の状態)が発生し種々の不都合が生じることがある。例えばフラッディング現象が発生すると、ガス通路に水が生成してガス流れの抵抗になり、ガス拡散電極に対して十分なガスを供給できなくなることがある。したがって、燃料電池の水分状態を的確に把握して、燃料電池内を適切な水分状態に維持することは、燃料電池を効率よく運転する上で極めて重要である。
【0004】
この点、従来の燃料電池システムとしては、燃料電池の出力電圧の時間微分値を演算しこの時間微分値と予め定めた設定値とに基づいて燃料電池への燃料ガスや酸化ガスの供給量,燃料ガスや酸化ガスの加湿量,燃料電池の温度を制御するものが提案されている(特許文献1参照)。この燃料電池システムでは、燃料電池の出力電圧がスパイク状に変化したときには燃料電池にフラッディング現象が生じていると判定して、燃料ガスや酸化ガスの供給量を増やしたり、燃料ガスや酸化ガスの加湿量を減らしたり、燃料電池の温度を上げたりすることにより、燃料電池のフラッディングを迅速に解消することができるとされている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−148253号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、こうした燃料電池システムでは、燃料電池に要求される要求出力が変更されたときに関しては何ら考慮されていない。即ち、燃料電池の出力電圧は、燃料電池の出力(発電電力)が変更されたときにも変化するから、燃料電池の電圧がスパイク状に変化したとしても燃料電池が水分過多の状態でない場合もあり、燃料電池の水分状態を誤判定する可能性がある。このため、燃料電池の水分状態が適切な状態に管理できずに燃料電池の運転効率が却って低下してしまうおそれがある。
【0007】
本発明の燃料電池の状態判定装置は、こうした問題を解決し、燃料電池の状態、特に水分状態をより適切に判定することを目的の一つとする。また、本発明の燃料電池システムは、燃料電池の水分状態をより適切な状態に管理することを目的の一つとする。更に、本発明の燃料電池システムは、燃料電池の運転効率をより向上させることを目的の一つとする。
【0008】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
本発明の燃料電池の状態判定装置および燃料電池システムは、上述の目的の少なくとも一部を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の燃料電池の状態判定装置は、
燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池の状態を判定する燃料電池の状態判定装置であって、
前記燃料電池の電圧を検出する電圧検出手段と、
前記燃料電池に要求される要求出力の変化に対する前記燃料電池の電圧の変化を推定する電圧変化推定手段と、
前記燃料電池に要求される要求出力が変更されたとき、該変更に伴って前記電圧変化推定手段により推定される電圧の変化と、該変更の前後に前記電圧検出手段により検出される電圧とに基づいて前記燃料電池の状態を判定する状態判定手段と
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本発明の燃料電池の状態判定装置では、電圧検出手段が、燃料電池の電圧を検出し、電圧変化推定手段が、燃料電池に要求される要求出力の変化に対する燃料電池の電圧の変化を推定する。そして、状態判定手段が、燃料電池に要求される要求出力が変更されたとき、変更に伴って推定された燃料電池の電圧の変化と変更の前後に検出された燃料電池の電圧とに基づいて燃料電池の状態を判定する。これにより、燃料電池の要求出力が変更されたときに生じる燃料電池の電圧の変化により燃料電池の状態を誤判定するのを抑制することができる。この判定された燃料電池の状態を用いて燃料電池を運転するものとすれば、燃料電池の効率をより向上させることができる。なお、この本発明の燃料電池の状態判定装置は、燃料電池の状態を燃料電池に含まれる水分状態として判定するものとすることができる。
【0011】
こうした本発明の燃料電池の状態判定装置において、前記電圧変化推定手段は、前記燃料電池の電流と電圧との関係を表わす出力特性に基づいて前記燃料電池の要求出力の変化に対する前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段であるものとすることもできる。こうすれば、より適切に燃料電池の状態を判定することができる。
【0012】
また、出力特性に基づいて燃料電池の電圧の変化を推定する態様の本発明の燃料電池の状態判定装置において、前記燃料ガスの供給圧を検出する供給圧検出手段を備え、前記電圧変化推定手段は、前記検出された燃料ガスの供給圧に対応する前記出力特性を用いて前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段であるものとすることもできる。
【0013】
また、出力特性に基づいて燃料電池の電圧の変化を推定する態様の本発明の燃料電池の状態判定装置において、前記燃料電池の温度を検出する温度検出手段を備え、前記電圧変化推定手段は、前記検出された燃料電池の温度に対応する前記出力特性を用いて前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段であるものとすることもできる。
【0014】
燃料電池の状態を水分状態として判定する態様の本発明の燃料電池の状態判定装置において、前記状態判定手段は、前記検出された電圧の変化が前記推定された電圧の変化に対する許容範囲内にないときに水分過多と判定する手段であるものとすることもできる。
【0015】
本発明の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池を有する燃料電池システムであって、
燃料電池の状態として水分状態を判定する上述の各態様の燃料電池の状態判定装置と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池に酸化ガスを供給する酸化ガス供給手段と、
前記状態判定装置により判定された水分状態に基づいて前記燃料ガス供給手段による燃料ガスの供給および/または前記酸化ガス供給手段による酸化ガスの供給を制御する制御手段と
を備えることを要旨とする。
【0016】
この本発明の燃料電池システムでは、燃料電池の状態を水分状態として判定する態様の上述の各態様の本発明の燃料電池の状態判定装置により判定された水分状態に基づいて、燃料電池への燃料ガスの供給または燃料電池への酸化ガスの供給を制御するから、より適切に判定された水分状態に基づいて燃料電池の水分状態をより適切に管理できる。この結果、燃料電池の効率をより向上させることができる。
【0017】
こうした本発明の燃料電池システムにおいて、前記制御手段は、前記状態判定装置により水分過多と判定されたとき、前記燃料電池に要求される要求出力の変更の前後に前記状態判定装置の前記電圧検出手段により検出された電圧の変化の程度と該要求出力の変更に伴って前記電圧変化推定手段により推定された電圧の変化の程度との差に基づいて前記燃料ガス供給手段による燃料ガスの供給および/または前記酸化ガス供給手段による酸化ガスの供給を制御する手段であるものとすることもできる。
【0018】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、前記燃料ガス供給手段と前記酸化ガス供給手段は、前記燃料電池内の圧力を調節可能な手段であり、前記制御手段は、前記燃料電池内の圧力を調節する手段であるものとすることもできる。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図1は、本発明の一実施例である燃料電池システム20を備える自動車の構成の概略を示す構成図である。実施例の燃料電池システム20は、図示するように、水素タンク22からポンプ24を介して供給された燃料ガスとしての水素ガスとエアポンプ28により供給された空気中の酸素とにより発電する燃料電池30と、燃料電池30からの直流電圧および直流電流を調節するDC/DCコンバータ32と、DC/DCコンバータ32により調節された直流電力をモータ36の駆動に適した交流電力に変換するインバータ34と、DC/DCコンバータ32の出力端子にインバータ34と並列して接続されたバッテリ38と、システム全体および車両の走行をコントロールする電子制御ユニット70とを備える。
【0020】
燃料電池30は、図示しないが、電解質膜とこの電解質膜に狭持されたアノード電極およびカソード電極とからなる単セルとセル間の隔壁をなすセパレータとが複数積層した燃料電池スタックにより構成されており、セパレータに形成されたガス流路を通じてアノード電極とカソード電極に供給された水素ガスと空気による電気化学反応により水の発生を伴って発電する。なお、燃料電池30には、図示しないが、冷却媒体(例えば、冷却水)が循環可能な循環路が形成されており、この循環路内の冷却媒体の循環により燃料電池30内の温度が適温(例えば、65℃〜85℃)に保持されるようになっている。
【0021】
燃料電池30から排出される排出ガス(酸素系の排出ガスおよび水素系の排出ガス)の排出管路62,64には、排出ガスの流量を調節する流量調節弁58,60が取り付けられており、この流量調節弁58,60のアクチュエータを駆動して排出ガスの流量を調節することにより燃料電池30内を調圧できるようになっている。したがって、燃料電池30にフラッディングが発生しているときには、流量調節弁58,60による燃料電池30内の圧力変動を利用することにより、燃料電池30内の水分を排出することができる。なお、排出管路58からの排出ガスに含まれる未反応の水素は、図示しない燃焼室で燃焼させてから排気できるようになっている。勿論、未反応の水素を燃料電池30に循環させて再び燃料として使用するものとしてもよい。
【0022】
モータ36は、例えば、電動機として機能すると共に発電機として機能する周知の同期発電電動機として構成されており、その回転軸にはディファレンシャルギヤ14を介して車輪12に接続された出力軸39が連結されている。したがって、モータ36から出力された動力はディファレンシャルギヤ14を介して車輪12に伝達され、車両の推進力が得られる。
【0023】
バッテリ38の出力端子には、ポンプ24やエアポンプ28、流量調節弁58,60のアクチュエータなどの補機に直流電力を供給するためのDC/DCコンバータ40が接続されている。
【0024】
電子制御ユニット70は、実施例の燃料電池システム20のコントロールと燃料電池システム20を搭載する自動車の走行のためのコントロールとを兼ねるものとしてCPU72を中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、処理プログラムが記憶されたROM74と、一時的にデータを記憶するRAM76と、入出力ポート(図示せず)とを備える。この電子制御ユニット70には、燃料電池30の温度を検出する温度センサ50からの燃料電池温度Tfcや水素タンク22から燃料電池30へ供給される水素ガスの供給圧を検出する圧力センサ52からの水素ガス供給圧Ph、燃料電池30の出力端子間に取り付けられた電圧センサ54からの出力電圧Vfc、燃料電池30の出力端子に取り付けられた電流センサ56からの出力電流Ifc、バッテリ38の出力端子に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、シフトレバー81のポジションを検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジション、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度AP、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキ開度BP、車両の走行速度を検出する車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。また、電子制御ユニット70からは、ポンプ24への駆動信号や、エアポンプ28への駆動信号、DC/DCコンバータ32やDC/DCコンバータ40への制御信号、インバータ34へのスイッチング信号、流量調節弁58,60の各アクチュエータへの駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。
【0025】
こうして構成された実施例の燃料電池システム20の動作、特に、燃料電池30内の水分状態の判定するための動作や判定結果に基づく水分状態の管理のための動作について説明する。図2は、実施例の燃料電池システム20の電子制御ユニット70により実行される運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。以下、実施例の燃料電池システム20の動作を、車両の走行に適用したときの動作として説明する。
【0026】
運転制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度APやブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキ開度BP、車速センサ88からの車速V、電圧センサ54からの燃料電池30の出力電圧Vfco、圧力センサ52からの水素ガス供給圧Ph、温度センサ50からの燃料電池温度Tfc、バッテリ38の充放電電流に基づいて演算されたバッテリ38の残容量(SOC)などを入力し(ステップS100)、入力したアクセル開度APとブレーキ開度BPと車速Vとに基づいて出力軸39に要求される要求動力Poを設定する(ステップS102)。要求動力Poの設定は、実施例では、アクセル開度APとブレーキ開度BPと車速Vと要求出力Poとの関係を予め求めてマップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度APやブレーキ開度BP,車速Vが与えられると、マップから対応する要求動力Poを導出するものとした。
【0027】
要求動力Poが設定されると、バッテリ38の残容量(SOC)に基づいてバッテリ38から出力すべきバッテリ出力Pb(放電側を正とし充電側を負とする)を設定する(ステップS104)。バッテリ出力Pbの設定は、バッテリ38の残容量(SOC)が所定の範囲内に維持されるように行なわれる。具体的には、バッテリ38の残容量(SOC)が所定の上限値よりも大きいときにはバッテリ38に放電が必要であるとしてバッテリ出力Pbに正の値を設定し、バッテリ38の残容量(SOC)が所定の下限値よりも小さいときにはバッテリ38に充電が必要であるとしてバッテリ出力Pbに負の値を設定する。
【0028】
そして、要求動力Poからバッテリ出力Pbを減じて燃料電池30から出力すべき燃料電池要求出力Pfcを設定し(ステップS106)、この設定された燃料電池要求出力Pfcが変更されたか否かを判定する(ステップS108)。この判定は、具体的には、今回のルーチンで設定された燃料電池要求出力Pfcと前回このルーチンで設定された燃料電池要求出力Pfc(前回Pfc)との比較により行なわれる。
【0029】
燃料電池要求出力Pfcが変更されたと判定されたときには、ステップS100で入力された水素ガス供給圧Phおよび燃料電池温度Tfcに対応する出力特性に基づいて燃料電池要求出力Pfcの変更に伴う予想電圧変化量ΔVrefを推定し(ステップS110)、燃料電池要求出力Pfcが変更されていないと判定されたときには、予想電圧変化量ΔVrefとして値0を設定する(ステップS112)。ここで、燃料電池30の出力特性とは、図3に示すように、燃料電池30の出力電流Ifcと出力電圧Vfcとの関係を表わす特性である。また、予想電圧変化量ΔVrefは、燃料電池30を要求出力Pfcで運転することにより出力電力が変化したときに、その出力電力の変化に伴って予想される出力電圧の変化の量を意味し、実施例では、図4に示すように、ステップS100で入力された燃料電池30の出力電圧Vfcoと燃料電池30の出力特性上における燃料電池要求出力Pfcに対応する燃料電池30の出力電圧との偏差により導出するものとした。一般に、燃料電池30内にフラッディング(水分過多の状態)が発生すると、燃料電池30内のガス流路が塞がれるため燃料電池30内の反応面積が減少してその出力電圧は低下するが、燃料電池30の出力電力を増加したときにもその出力電圧は低下する(図3参照)。このため、単純に燃料電池30の出力電圧の変化量に基づいてフラッディングの発生を判定するものとすると、フラッディングが発生していないにも拘わらずフラッディングが発生したと誤判定する場合がある。したがって、予想電圧変化量ΔVrefを用いて燃料電池30の出力電圧の変化が燃料電池30の出力電力の変化に起因するものか燃料電池30のフラッディングの発生に起因するものかを区別することにより、より正確にフラッディング発生を判定することができるのである。なお、水素ガス供給圧Ph毎および燃料電池温度Tfc毎に対応する出力特性を用いるのは、水素ガス供給圧Phや燃料電池温度Tfcによって燃料電池30の出力特性が変動するためである。実施例では、水素ガス供給圧Ph毎および燃料電池温度Tfc毎の燃料電池30の出力電流Ifcと出力電圧Vfcとの関係を予め求めてマップとして記憶しておき、水素ガス供給圧Phと燃料電池温度Tfcとが与えられると、マップから対応する出力電流Ifcと出力電圧Vfcとの関係を出力特性として導出して、この導出された出力特性を用いるものとした。このマップの一例を図5に示す。
【0030】
そして、燃料電池30の出力特性を用いて燃料電池要求出力Pfcを出力可能な燃料電池30の運転ポイントVfc*,Ifc*を設定し(ステップS114)、設定された運転ポイントVfc*,Ifc*で燃料電池30が運転されるようDC/DCコンバータ32を駆動制御すると共に要求動力Poが出力軸39に出力されるようインバータ34を駆動制御する(ステップS116)。その後、電圧センサ54からの燃料電池30の出力電圧Vfcを入力し(ステップS118)、この出力電圧VfcからステップS100で入力された出力電圧Vfcoを減じて実際の燃料電池30の出力電圧の変化量としての電圧変化量ΔVfcを計算し(ステップS120)、この電圧変化量ΔVfcとステップS110で推定された予想電圧変化量ΔVrefとの偏差ΔVを計算する(ステップS122)。
【0031】
偏差ΔVが計算されると、偏差ΔVが予め設定された許容範囲内にあるか否かを判定し(ステップS124)、許容範囲内にないと判定されたときには、燃料電池30にフラッディングが発生或いはそのおそれがあると判断して、偏差ΔVを打ち消す方向、すなわち燃料電池30内の水分を排出するように燃料電池30の排出管路62,64に設けられた流量調節弁58,60のアクチュエータを駆動制御する処理を行なって(ステップS126)、本ルーチンを終了する。これにより、流量調節弁58,60のアクチュエータの駆動制御により燃料電池30内に圧力変動が発生して、燃料電池30内に溜まっている水分が排出されることになる。なお、流量調節弁58,60のアクチュエータの駆動制御は、実施例では、偏差ΔVを用いて次式(1)により目標流量Sを設定し、設定された目標流量Sとなるように比例制御により行なうものとした。ここで、Kはゲインを示す。なお、偏差ΔVが許容範囲内にあると判定されたときには、流量調節弁58,60の調節は行なわずに本ルーチンを終了する。
【0032】
S=K・ΔV (1)
【0033】
なお、運転処理ルーチンにおいては、ポンプ24における水素ガスの供給量について説明しなかったが、燃料電池30に要求される要求出力Pfcに基づいて調節するものとしてもよいし、出力軸39への要求出力Poやバッテリ38の残容量(SOC)に基づいて調節するものとしてもよい。また、一定量の燃料が燃料電池30に供給されるようポンプ24を制御するものとしても構わない。
【0034】
以上説明した実施例の燃料電池システム20によれば、燃料電池30に対する要求出力Pfcが変更されたときには、その変更に伴う燃料電池30の出力電圧の変化量を前もって推定すると共にその変更に伴って実際に燃料電池30を運転(DC/DCコンバータ32やインバータ34を駆動)させたときの燃料電池30の出力電圧の変化量を検出し、両者を比較することによりフラッディングの発生の有無を判定するから、燃料電池30の出力(電力)の変化に起因する出力電圧の変化をフラッディングとして誤判定することがない。この結果、より適切にフラッディングの発生の有無を判定することができる。しかも、フラッディングが発生したと判定されたときには、推定された出力電圧の変化量と実際に検出された出力電圧の変化量との偏差に応じて流量調節弁58,60の開度を調節するから、燃料電池30内をより適切な水分状態に管理することができ、燃料電池30の運転効率をより向上させることができる。
【0035】
実施例の燃料電池システム20では、圧力センサ52により検出された水素ガス供給圧Phと温度センサ50により検出された燃料電池温度Tfcとに基づいて燃料電池30の出力特性を設定し、設定された出力特性を用いて燃料電池30の運転制御やフラッディングの判定を行なうものとしたが、出力特性に与える影響が小さい燃料電池であれば、水素ガス供給圧Phおよび燃料電池温度Tfcのいずれか一方に基づいて燃料電池30の出力特性を導出するものとしても構わないし、水素ガス供給圧Phや燃料電池温度Tfcに拘わらず所定の出力特性を用いるものとしても構わない。
【0036】
実施例の燃料電池システム20では、燃料電池30の排出管路62,64に設けられた流量調節弁58,60の開度を調節することによる圧力変動を利用して燃料電池30内の水分を排出するものとしたが、ポンプ24やエアポンプ28により燃料電池30へ供給する燃料ガスや酸化ガスの流量を調節することにより、例えば、ガスの流量を一時的に増加させることにより燃料電池30内の水分を排出するものとしても構わない。また、燃料電池30内に形成された循環路内を流れる冷却媒体の循環を調節して、燃料電池30の温度を上昇させることによりフラッディングを解消させるものとしても構わない。
【0037】
実施例の燃料電池システム20では、燃料電池30の出力端子間の電圧を検出して燃料電池30のフラッディングの有無を判定するものとしたが、燃料電池30を構成する単セル毎あるいは幾つかのセルを一のグループとしてグループ毎の電圧を検出して単セル毎あるいはグループ毎にフラッディングの有無を判定するものとしても構わない。
【0038】
実施例の燃料電池システム20では、自動車の走行に適用するものとしたが、他の如何なる負荷の駆動に適用するものとしても構わないのは勿論である。
【0039】
実施例では、要求出力の変更に伴って推定された出力電圧の変化と要求出力の変更の前後に検出された出力電圧とに基づいて燃料電池内の水分状態を判定すると共に判定結果に基づいて燃料電池内を水分管理する燃料電池システム20の形態として説明したが、燃料電池内の水分状態を判定する水分状態判定装置の形態としても構わない。
【0040】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例である燃料電池システム20を備える自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図2】 実施例の燃料電池システム20の電子制御ユニット70により実行される運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図3】 燃料電池30の出力電流Ifcと出力電圧Vfcとの関係を表わす出力特性の一例を示す説明図である。
【図4】 燃料電池30の出力特性を用いて予想電圧変化量ΔVrefを導出する様子を示す説明図である。
【図5】 水素ガス供給圧Phと燃料電池温度Tfcと出力電圧Vfcと出力電流Ifcとの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
12 車輪、14 ディファレンシャルギヤ、20 燃料電池システム、22水素タンク、24 ポンプ、28 エアポンプ、30 燃料電池、32 DC/DCコンバータ、34 インバータ、36 モータ、38 バッテリ、39 出力軸、40 DC/DCコンバータ、50 温度センサ、52 圧力センサ、54 電圧センサ、56 電流センサ、58,60 流量調節弁、62,64 排出管路、70 電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ。
Claims (8)
- 燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池の状態を判定する燃料電池の状態判定装置であって、
前記燃料電池の電圧を検出する電圧検出手段と、
前記燃料電池に要求される要求出力の変化に対する前記燃料電池の電圧の変化を推定する電圧変化推定手段と、
前記燃料電池に要求される要求出力が変更されたとき、該変更の前後に前記電圧検出手段により検出される電圧と該変更に伴って前記電圧変化推定手段により推定される電圧の変化とに基づいて前記燃料電池に含まれる水分状態を判定する状態判定手段と
を備える燃料電池の状態判定装置。 - 請求項1記載の燃料電池の状態判定装置であって、
前記電圧変化推定手段は、前記燃料電池の出力電流と出力電圧との関係を表わす出力特性に基づいて前記燃料電池の要求出力の変化に対する前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段である
燃料電池の状態判定装置。 - 請求項2記載の燃料電池の状態判定装置であって、
前記燃料ガスの供給圧を検出する供給圧検出手段を備え、
前記電圧変化推定手段は、前記検出された燃料ガスの供給圧に対応する前記出力特性を用いて前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段である
燃料電池の状態判定装置。 - 請求項2または3記載の燃料電池の状態判定装置であって、
前記燃料電池の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記電圧変化推定手段は、前記検出された燃料電池の温度に対応する前記出力特性を用いて前記燃料電池の電圧の変化を推定する手段である
燃料電池の状態判定装置。 - 請求項1ないし4いずれか1項に記載の燃料電池の状態判定装置であって、
前記状態判定手段は、前記検出された電圧の変化が前記推定された電圧の変化に対する許容範囲内にないときに水分過多と判定する手段である
燃料電池の状態判定装置。 - 燃料ガスと酸化ガスとの供給を受けて電気化学反応により発電する燃料電池を有する燃料電池システムであって、
請求項1ないし5いずれか1項に記載の燃料電池の状態判定装置と、
前記燃料電池に燃料ガスを供給する燃料ガス供給手段と、
前記燃料電池に酸化ガスを供給する酸化ガス供給手段と、
前記状態判定装置により判定された水分状態に基づいて前記燃料ガス供給手段による燃料ガスの供給および/または前記酸化ガス供給手段による酸化ガスの供給を制御する制御手段と
を備える燃料電池システム。 - 請求項6記載の燃料電池システムであって、
前記制御手段は、前記状態判定装置により水分過多と判定されたとき、前記燃料電池に要求される要求出力の変更の前後に前記状態判定装置の前記電圧検出手段により検出された電圧の変化の程度と該要求出力の変更に伴って前記電圧変化推定手段により推定された電圧の変化の程度との差に基づいて前記燃料ガス供給手段による燃料ガスの供給および/または前記酸化ガス供給手段による酸化ガスの供給を制御する手段である
燃料電池システム。 - 請求項6または7記載の燃料電池システムであって、
前記燃料ガス供給手段と前記酸化ガス供給手段は、前記燃料電池内の圧力を調節可能な手段であり、
前記制御手段は、前記燃料電池内の圧力を調節する手段である
燃料電池システム。
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JP2002314282A JP4144323B2 (ja) | 2002-10-29 | 2002-10-29 | 燃料電池の状態判定装置および燃料電池システム |
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