JP4140152B2 - 一方向クラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ころを用いた一方向クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のこの種の一方向クラッチは、図9に示すように、内輪85、外輪86、複数のころ87、保持器88、コイルバネ89を有している。
【0003】
図例の一方向クラッチでは、内輪85の円周数カ所に平坦なカム面85aが設けられており、この内輪85のカム面85aと外輪86の円筒形の内周面とによりくさび状空間が形成される。
【0004】
また、カム面85aが設けられる内輪85に対して保持器88が固定状態で外嵌されており、この保持器88のポケット88aに対してころ87およびコイルバネ89が各1つずつ収納されている。
【0005】
通常、保持器88は、円環状に形成されていて、その円周数カ所に径方向内外に貫通するポケット88a設けた形状であり、ポケット88aそれぞれの間には軸方向に沿う柱部88bが存在している。
【0006】
このような保持器88において、コイルバネ89を保持器88に非分離に装着するために、従来では、各柱部88bの一方壁面に、突起部88cを設け、この突起部88cに対してコイルバネ89の一端側を外嵌装着させて保持させる形態としている。
【0007】
そして、上記一方向クラッチの場合、内輪85に保持器88を取り付けて、保持器88のポケット88a内にころ87を組み込んだ状態、つまり、外輪86のみを組み付ける前の半完成状態の段階で、保持器88のポケット88aにおいて余っている空間にグリースなどの潤滑剤を注入させるようにしている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来例の一方向クラッチでは、潤滑剤の注入作業を一方向クラッチの組み立て途中で行わなければならないので、一方向クラッチの製造効率が悪くなっており、改良の余地がある。
【0009】
なお、図9に示す一方向クラッチの場合、保持器88と内輪85のカム面85aとの間にわずかな隙間が存在しているものの、この隙間は、わずかであって、潤滑剤注入ノズルを差し込むことができないので、上述したような方法を採用していたのである。
【0010】
このような事情に鑑み、本発明は、一方向クラッチにおいて、その構成要素のすべてを組み立てた後でも保持器ポケット内に潤滑剤を注入できるような構造とし、一方向クラッチの生産性向上を図ることを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の一方向クラッチは、内周面が円筒形に形成される外輪と、外輪の内周に挿通され円周数カ所に前記外輪の円筒形内周面との間でくさび状空間を形成するカム面が設けられる内輪と、前記くさび状空間それぞれに1つずつ配置されるころと、内周面が前記内輪の外周面に合致して回り止めされる状態で外嵌される形状とされかつ前記各ころが周方向転動範囲を規制された状態で収納されるポケットを有する円環状の保持器と、この保持器のポケットに配設されて前記ころをくさび状空間の狭い側へ弾発付勢するコイルバネとを含み、前記コイルバネは、前記ポケットの周方向一方の内壁面に突設された突起に装着されており、前記保持器において前記ポケットそれぞれの軸方向一側方に位置する側壁部の内径面の前記突起に対応する位相領域に、径方向外向きに陥没する凹部が設けられ、この凹部と内輪外周面とで、本一方向クラッチの外部から軸方向に沿って前記ポケット内に直接潤滑剤を注入しうる流路が設けられ、前記凹部の底面位置と、前記突起の内径面位置とが径方向で同一レベルに設定されていることを特徴としている。
【0013】
このように、本発明では、保持器において各ポケットの軸方向一側方の側壁部分にポケット内への潤滑剤注入用の流路を設けているから、一方向クラッチを完成状態に組み立てた状態においても、保持器ポケット内へ外部から簡単に潤滑剤を注入できるようになる。これにより、従来のように潤滑剤注入を一方向クラッチの組み立て途中で行う必要がなくなり、一方向クラッチの組み立て作業を最初から終わりまで連続的に行えるなど、効率がよくなる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1ないし図5に本発明の実施形態1を示している。ここでは、一方向クラッチをプーリユニットに内蔵した例を挙げる。図1は、プーリユニットの縦断面図、図2は、図1の(2)−(2)線断面の矢視図、図3は、一方向クラッチにおける内輪および保持器を示す斜視図、図4は、一方向クラッチ単体に対して潤滑剤を注入する形態を示す説明図、図5は、一方向クラッチの保持器の成形金型を示す説明図である。
【0016】
図例のプーリユニットAは、プーリ1、中空軸2、一方向クラッチ3、2つの転がり軸受4,5を有している。
【0017】
プーリ1は、例えば自動車エンジンのクランクシャフトによりVリブドベルトBを介して回転駆動されるもので、その外周にはVリブドベルトBが巻き掛けられる波状溝が形成されている。
【0018】
中空軸2は、プーリ1の内周に挿通されて、図示しないが自動車エンジンの補機の入力軸(例えばオルタネータのロータ)に固定される。
【0019】
一方向クラッチ3は、プーリ1と中空軸2との対向環状空間の軸方向中央に介装されるもので、内輪10、外輪11、合成樹脂製の円環状の保持器12、複数のころ13、弾性部材として楕円形のコイルバネ14とを備えている。
【0020】
2つの転がり軸受4,5は、プーリ1と中空軸2との対向環状空間の軸方向両側に1つずつ介装される。これらの転がり軸受4,5は、いずれも一般的な深溝型玉軸受とされており、内輪21,31、外輪22,32、複数の玉23,33と、合成樹脂製の円環状の保持器24,34を備えている。これらの転がり軸受4,5の軸方向外端側には、シール6が装着されている。
【0021】
上記一方向クラッチ3の各構成要素を説明する。
【0022】
内輪10は、上記中空軸2に対して圧入により外嵌されるもので、その外周面の円周数カ所には平坦なキー状のカム面10aが設けられている。この例では、カム面10aを八つとしており、そのために内輪10の外径形状が八角形になっている。
【0023】
外輪11は、上記プーリ1に対して圧入により内嵌されるもので、その内周面は円筒形に形成されている。
【0024】
保持器12は、上記内・外輪10,11の対向環状空間に配設されて内輪10に対して周方向ならびに軸方向に位置決めされた状態で外装されるもので、その円周数カ所つまり内輪10のカム面10aに対応する領域には、径方向内外に貫通形成されるポケット12aが設けられている。このポケット12aそれぞれの間には軸方向に沿う柱部12bが存在している。
【0025】
ころ13は、保持器12の各ポケット12aに1つずつ周方向転動範囲が規制された状態で収納される。
【0026】
コイルバネ14は、保持器12の各柱部12bの内壁面に突設される突起12cに対して装着されて、ころ13をカム面10aと外輪11内周面とで形成するくさび状空間の狭い側(ロック側)へ押圧するものである。
【0027】
なお、保持器12の内周面について、内輪10の多角形の外周面形状に合致嵌合する形状に形成することにより、保持器12を内輪10に対して周方向に回り止めさせている。
【0028】
そして、一方向クラッチ3の両側に配設される2つの転がり軸受4,5の各内輪21,31の外径寸法R1,R2を、一方向クラッチ3の保持器12の内径寸法rよりも大きく設定することにより、一方向クラッチ3の保持器12を両側の転がり軸受4,5の内輪21,31で軸方向から挟む形態として、一方向クラッチ3の保持器12における軸方向変位量を規制するようにしている。
【0029】
次に、上記プーリユニットAの動作を説明する。要するに、プーリ1の回転速度が中空軸2よりも相対的に速くなると、一方向クラッチ3のころ13がくさび状空間の狭い側へ転動させられてロック状態となるので、プーリ1と中空軸2とが一体化して同期回転する。しかし、プーリ1の回転速度が中空軸2よりも相対的に遅くなると、一方向クラッチ3のころ13がくさび状空間の広い側へ転動させられてフリー状態となるので、プーリ1から中空軸2へ回転動力の伝達が遮断されることになって中空軸2が回転慣性力のみで回転を継続するようになる。
【0030】
ちなみに、上記プーリユニットAを自動車エンジンのオルタネータに利用する場合だと、ベルトBの駆動源となるエンジンのクランクシャフトの回転変動に関係なく、オルタネータのロータの回転を高域に維持して、発電効率を高めるようにすることができる。つまり、クランクシャフトの回転数が上昇するとき、一方向クラッチ3がロック状態となって内側環体2を外側環体1と同期回転させるようにし、一方、クランクシャフトの回転数が低下するとき、一方向クラッチ3がフリー状態となって中空軸2をプーリ1の減速と無関係に自身の回転慣性力により回転継続させるようにすればよい。
【0031】
この実施形態1では、一方向クラッチ3における保持器12の形状について特徴があるので、以下において詳細に説明する。
【0032】
つまり、保持器12において、各ポケット12aの軸方向両側には、側壁部12d,12dが存在しており、片側の側壁部12dの内周面において各ポケット12a内の突起12cに対応する位相領域に、径方向外向きに陥没する潤滑剤注入用の凹部12eがそれぞれ設けられているとともに、この凹部12eの底面位置を前記突起12cの内径面位置と同一レベルに設定することにより、突起12cを柱部12bにおいて外径側にずらしている。
【0033】
このような保持器12の凹部12eを確保して突起12cを外径側にずらす方法について説明する。
【0034】
すなわち、ここでの保持器12は、合成樹脂材を用いて成形することにより製作される。この成形では、図5に示すように、保持器12の内周面にあてがわれる内金型40と、保持器12の外周面にあてがわれる外金型41と、ポケット12aを形成するための複数の棒状金型42・・・とを用いる。このうち、内金型に対して、保持器12の各凹部12eと対応する複数の凸部43・・・を設けておき、この凸部43からの反転転写で得るようにしている。
【0035】
そして、上述したように保持器12に凹部12eを設けていれば、一方向クラッチ3を完成状態に組み立てた状態で、保持器12のポケット12a内において余っている空間に対してグリースなどの潤滑剤を注入させることが可能になる。詳しくは、一方向クラッチ3を完成状態に組み立てても、保持器12に設けてある凹部12eによって内輪10の外周面との間に軸方向に沿う流路が形成されることになるので、図4に示すように、この凹部12eと内輪10とで形成する流路に潤滑剤注入ノズル7を差し入れることにより、保持器12のポケット12a内に潤滑剤を充填させることができるようになるのである。したがって、一方向クラッチ3の製造工程の途中で潤滑剤注入作業を行う必要がなくなり、製造工程を最初から終わりまで連続的に行えるようになるので、生産性の向上に貢献できるようになる。
【0036】
さらに、上記保持器12の突起12cを外径側にずらして設ける理由について説明する。すなわち、この突起12cに対してコイルバネ14が装着されるのであるが、もし仮に、突起12cの内径面を保持器12の内周面と同一レベルに設定していると、突起12cの内径面が内輪10のカム面10aに対して当接してしまうために、突起12cに対してコイルバネ14を装着したままでは内輪10に対して保持器12を外嵌装着することができなくなるのである。そこで、凹部12eを得るための金型形状を利用して突起12cの内径面の位置を外径側にずらしていれば、突起12cと内輪10のカム面10aとの間に、コイルバネ14を介入させるための隙間が確保されることになるのである。
【0037】
図6ないし図8に本発明の実施形態2を示している。図6は、プーリユニットの縦断面図、図7は、図6の(7)−(7)線断面の矢視図、図8は、一方向クラッチにおける内輪および保持器を示す斜視図である。
【0038】
この実施形態2のプーリユニットAは、部品点数ならびに製造コストを削減するために、一方向クラッチ3の内・外輪10,11および2つの転がり軸受4,5の各内・外輪21,31,22,32を省略し、これらの内輪21,31についてプーリユニットAの中空軸2で兼用させて、外輪22,32についてプーリユニットAのプーリ1で兼用させた構成としている。
【0039】
これに関連して、第1転がり軸受4として、複数の玉23およびそれを保持する冠形保持器24からなる深溝玉軸受を、第2転がり軸受5として、複数のころ33およびそれを保持する保持器34からなるケージアンドローラをそれぞれ用いている。
【0040】
なお、この実施形態2での一方向クラッチ3は、保持器12ところ13とコイルバネ14とで構成されることになるが、その保持器12の構成については上記実施形態1で説明したものと全く同じものを利用できる。この場合、保持器12のポケット12A内にころ13およびコイルバネ14を組み込んだアッセンブリを、プーリ1と中空軸2との間に装着して、第2転がり軸受5を組み込む前の段階で、保持器12のポケット12a内に潤滑剤を充填させることが容易に行えるようになる。仮に、プーリ1と中空軸2との間に前述したアッセンブリを組み込む前に保持器12のポケット12a内に潤滑剤を充填しておいた場合だと、アッセンブリの組み込み過程で潤滑剤がたれるなど取り扱いにくくなることが懸念される。この点で特に有利となる。
【0041】
このようなプーリ1および中空軸2の形状について詳細に説明する。
【0042】
まず、中空軸2において軸方向中間領域2aの円周数カ所には、一方向クラッチ3の平坦なカム面10aが形成され、その軸方向両側領域2b,2cには、転がり軸受4,5の内輪軌道部が確保されている。なお、中空軸2の中間領域2aは八角形に、両側領域2b,2cは円形に形成されている。
【0043】
そして、中空軸2において第1転がり軸受4の内輪軌道部となる領域2bの外径寸法が、第2転がり軸受5の内輪軌道部とする領域2cの外径寸法よりも大きく設定されている。これは、プーリ1と中空軸2との間に、一方向クラッチ3や2つの転がり軸受4,5を軸方向一方から順番に簡単に組み込めるようにするためである。
【0044】
また、プーリ1の内周面および中空軸2の外周面において大径に設定した軸方向一端側の領域2bには、深溝玉軸受からなる第1転がり軸受4の玉23が介装される軌道溝が形成されている。
【0045】
また、プーリ1の内周面および中空軸2の外周面において小径に設定した軸方向他端側の領域2cには、周溝2dが設けられており、この周溝2dに対してケージアンドローラからなる第2転がり軸受5の保持器34の内周に設けられてある径方向内向きの輪状突起34aが係入されることにより、当該保持器34が軸方向に位置決めされるようになっている。
【0046】
そして、一方向クラッチ3の保持器12は、中空軸2の外周面において軸方向中間領域2aの外形形状と合致する形状つまり八角形に形成されており、この保持器12にころ13それぞれを保持させた状態で中空軸2の軸方向中間領域2aに外嵌されることにより、周方向に回り止めされている。
【0047】
また、一方向クラッチ3の保持器12は、中空軸2における中間領域2aのカム面10aと大径の領域2bとを連接するテーパ状段差部2eによって、第1転がり軸受4側への動きが封じられ、中空軸2に対して軸方向位置決めされた第2転がり軸受5の保持器34によって第2転がり軸受5側への動きが封じられるようになっている。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態のみに限定されるものではなく、種々な応用や変形が考えられる。
(1)上記実施形態では、一方向クラッチ3をプーリユニットAに内蔵した形態で説明したが、一方向クラッチ3は、種々な用途の装置に利用することができ、よって使用対象としてプーリユニットAだけに限定されない。
(2)上記実施形態での一方向クラッチ3における細部の構成についても限定されるものでなく、種々な変形が考えられる。
【0049】
【発明の効果】
本発明の一方向クラッチは、保持器のポケットにおける軸方向一側方の側壁部にポケット内への潤滑剤注入用の流路を設けることにより、一方向クラッチを完成状態に組み立てた状態においても、保持器ポケット内へ外部から簡単に潤滑剤を注入できるようにしているから、従来のように潤滑剤注入を一方向クラッチの組み立て途中で行う必要がなくなり、一方向クラッチの組み立て作業を最初から終わりまで連続的に行えるなど、効率がよくなる。したがって、一方向クラッチの生産性の向上に貢献できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1のプーリユニットの上半分の断面図
【図2】図1の(2)−(2)線断面の矢視図
【図3】実施形態1のプーリユニットに内蔵される一方向クラッチにおける内輪および保持器を示す斜視図
【図4】実施形態1の一方向クラッチ単体に対する潤滑剤注入形態を示す説明図
【図5】実施形態1の一方向クラッチの保持器の成形金型を示す説明図
【図6】本発明の実施形態2のプーリユニットの縦断面図
【図7】図6の(7)−(7)線断面の矢視図
【図8】実施形態2の一方向クラッチにおける内輪および保持器を示す斜視図
【図9】従来例の一方向クラッチの上半分の断面図
【符号の説明】
3 一方向クラッチ
10 一方向クラッチの内輪
10a 内輪のカム面
11 一方向クラッチの外輪
12 一方向クラッチの保持器
12a 保持器のポケット
12d 保持器の側壁部
12e 側壁部の凹部
13 一方向クラッチのころ
14 コイルバネ
Claims (1)
- 内周面が円筒形に形成される外輪と、
外輪の内周に挿通され円周数カ所に前記外輪の円筒形内周面との間でくさび状空間を形成するカム面が設けられる内輪と、
前記くさび状空間それぞれに1つずつ配置されるころと、
内周面が前記内輪の外周面に合致して回り止めされる状態で外嵌される形状とされかつ前記各ころが周方向転動範囲を規制された状態で収納されるポケットを有する円環状の保持器と、
この保持器のポケットに配設されて前記ころをくさび状空間の狭い側へ弾発付勢するコイルバネとを含み、
前記コイルバネは、前記ポケットの周方向一方の内壁面に突設された突起に装着されており、
前記保持器において前記ポケットそれぞれの軸方向一側方に位置する側壁部の内径面の前記突起に対応する位相領域に、径方向外向きに陥没する凹部が設けられ、この凹部と内輪外周面とで、本一方向クラッチの外部から軸方向に沿って前記ポケット内に直接潤滑剤を注入しうる流路が設けられ、前記凹部の底面位置と、前記突起の内径面位置とが径方向で同一レベルに設定されている、ことを特徴とする一方向クラッチ。
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