JP4009255B2 - サーメット粉末ならびに耐ビルドアップ性および耐酸化性に優れた炉内ロール - Google Patents
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Description
図1に、炉内ロール1の表面に形成されたビルドアップ2を示すが、このビルドアップ2は、鋼帯3の通過部に沿って円周方向に並列に形成される。
たとえば、特許文献1には、5〜20mass%Cr2O3-Al2O3 と95〜80mass%CoNiCrAlYからなるサーメット溶射材料をロール表面に溶射する技術が提案されている。
特許文献2には、51〜95 vol%Al2O3 とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)からなるサーメット溶射材料をロール表面に溶射する技術が提案されている。
特許文献3には、30〜80mass%ZrSiO4とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)からなるサーメット溶射皮膜の表面に、酸化クロムを被覆する技術が提案されている。
特許文献4には、 Al2O3−MgOを最上層とする Al2O3−MgOと結合金属との多層被膜を形成する技術が提案されている。
特許文献5には、5〜50 vol%ホウ化物とMCrAlY(Mは、Fe,NiまたはCo)のメカニカルアロイ複合粉末をロール表面に溶射する技術が提案されている。
特許文献6には、CrB2,ZrB2,WB、TiB2等のホウ化物の少なくとも1種を1〜60体積%(実質は25体積%以上)含むと共に、 Cr3C2,TaC,WC,ZrC,TiC,NbC等の炭化物の少なくとも1種を5〜50体積%(実質的に15体積%以上)含み、残部が実質的にメタル(MCrAlY)からなるサーメット皮膜が提案されている。
特許文献7には、サーメット粉末全量に対して、MCrAlY中のAlを3〜8mass%、Crを16〜25mass%、Yを 0.1〜1mass%含有し、残部はCoおよび/またはNiからなり、かつセラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、ホウ化物を1〜5mass%および/または炭化物を5〜10mass%含有させた溶射被覆用サーメット粉末が提案されている。なお、上記中、MCrAlYとは、通常、Fe,Ni,Coの少なくともいずれか1種を基として、Cr,Al,Yを適量添加した耐熱合金を指す。
しかしながら、近年のハイテン鋼の増加に伴い、これらの技術ではビルドアップに対して有効であるとは言えなくなってきた。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.セラミック粉末および耐熱合金粉末の混合粉からなるサーメット粉末であって、該セラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、Cr23C6を10〜20mass%およびY2O3を10〜20mass%、かつ両者の合計:30mass%以下を含有し、一方該耐熱合金粉末は、サーメット粉末全量に対して、Alを4〜6mass%、Crを12〜16mass%およびYを1mass%以下含有し、残部はCoおよび/またはNiからなることを特徴とするサーメット粉末。
さて、本発明のサーメット粉末は、セラミック粉末と耐熱合金粉末(MCrAlY)の混合粉からなる。ここに、MCrAlYとは、前述したとおり、Fe,Ni,Coの少なくともいずれか1種類を基として、Cr,Al,Yを適量添加した耐熱合金を指す。
本発明では、セラミック粉末中の炭化物として、従来使用されてきた Cr3C2の代わりにCr23C6を使用するところに最大の特長がある。
このことは、従来、耐ビルドアップ性の点では問題ありとされながらも、耐酸化性改善の点から、保護皮膜中に比較的多量の含有を余儀なくされていたAlやCrを低減しても、炭化物として Cr3C2ではなくCr23C6を用いれば、耐酸化性が低下することがないため、耐酸化性の低下を招くことなしに耐ビルドアップ性の向上が図れることが、本発明者らの研究により判明したことに基づいている。
すなわち、 Cr3C2は 800℃以上の高温で変態してCr23C6になるが、その際、体積変化により皮膜に引張応力が発生して破断し、皮膜がロール表面から剥離してしまう箇所が部分的に生じてくる結果、耐酸化性が低下する。この点、炭化物として最初からCr23C6を使用しておけば、上記のような高温変態に基づく体積変化は生じないので、耐酸化性が低下することはない。
また、Y2O3は、Alの外方への拡散の抑制を図る上で有用な元素であるが、含有量がサーメット粉末全量に対して10mass%に満たないと上記の効果に乏しく、一方20mass%を超えると、やはり皮膜がポーラスになり易いため、Y2O3の添加量はサーメット粉末全量に対して10〜20mass%の範囲に限定した。
なお、これら高融点のセラミックの量が多すぎると、未溶融のセラミック粉末が残り、皮膜形成が困難になるため、Cr23C6とY2O3は合計で30mass%以下に制限する必要がある。
また、セラミックとしては、上記したCr23C6とY2O3の他、少量(1.0 mass%以下)であれば、 Al2O3やCr2O3 などの混入を許容することができる。
従来、MCrAlY中のAlは、表面の保護皮膜中に5〜12mass%程度含有させることが、耐ビルドアップ性および耐酸化性の向上に必要であると考えられていた。
しかしながら、ハイテン鋼の熱処理の場合には、保護皮膜中の酸化Alと鋼帯表面に濃化したMnとが反応して強固なビルドアップ(スピネル型Mn2AlO3)を形成し、成長することが判明した。
そこで、発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った。
ここで、前述のしたとおり、発明者らの研究により、耐酸化性については、従来、セラミック中の炭化物として使用されてきた Cr3C2に代えて、Cr23C6を使用することによって、十分に補い得ることが判明した。
そこで、この点を踏まえて、Cr含有量について検討した結果、12〜16mass%が適正であることが判明した。すなわち、保護皮膜中のCr量が16mass%を超えると耐ビルドアップ性が低下し、一方12mass%を下回ると炭化物としてCr23C6を添加しても耐酸化性が低下する。従って、保護皮膜中のCr量すなわちサーメット粉末全量に対するCr量は12〜16mass%の範囲に限定した。
なお、溶射皮膜の密着性の観点からは、残部はCoまたはCo−Ni合金とするのが多少有利である。
上記のセラミック粉末と耐熱合金粉末を混合し、粒径が10〜100 μm 程度の混合粉末とする。
ついで、耐熱鋳鋼等を素材とする炉内ロールの表面に溶射するわけであるが、溶射方法および溶射条件については特に制限はなく、従来公知の方法および条件で行えば良い。
例えば、溶射方法としては、爆発式溶射法(D-GUN法) 、高速ガス燃焼溶射法(D-JET法)およびガスプラズマ溶射法等が有利に適合する。
上記のサーメット粉末をそれぞれ、25mm×25mm×10mmの寸法の SUS基材の表面に、爆発式溶射法(D-GUN 法)によって溶射し、100 μm 厚の溶射皮膜を形成した。ついで、溶射皮膜の表面を研削仕上げした。
かくして得られた溶射皮膜付き鋼板を2枚用意し、図2に示すように、溶射面を内側にして、その間にハイテン鋼(Mn:1.2 mass%,Si:0.05mass%,Al:0.04mass%を含有)を挟み込んで、一つのテストピースとした。
図中、番号4が SUS基材、5が溶射皮膜、6がハイテン鋼である。
また、同時に、50mm×50mm×10mmの寸法の SUS基材の表面に、爆発式溶射法(D-GUN 法)で100 μm 厚の溶射皮膜を形成後、表面を研削仕上げした試験片をそれぞれ用意し、実験炉内で1000℃, 30秒間の加熱後、取り出して、水冷を行う耐剥離性のテストを実施した。
ビルドアップの発生は、EDXにより測定されたMn量で評価した。大別すると、表1中「大」は、Mn量が30mass%以上、「中」はMn量が15mass%以上30mass%未満、「小」はMn量が5mass%以上15mass%未満、そして「極小」はMn量が5mass%未満の場合である。
また、耐酸化性は、SEMで測定した表面の酸化スケールの厚みで評価するものとし、表1中「大」はスケール平均厚みが20μm 以上、「中」はスケール平均厚みが10μm 以上20μm 未満、「小」はスケール平均厚みが5μm 以上10μm 未満、そして「極小」はスケール平均厚みが5μm 未満の場合である。
さらに、耐剥離性は、上記の耐剥離性のテストにおける加熱・冷却を1サイクルとして、皮膜剥離に至るまでの回数で評価した。
また、比較のため、従来のサーメット粉末(サーメット粉末全量に対して、Al:6mass%、Cr:25mass%およびY:0.8 mass%を含有し、残部はCoの耐熱合金粉末に、ホウ化物であるZrB2を3mass%、Y2O3を14mass%混合したサーメット粉末)を、本発明例と同様に、D-GUN 法を用いて炉内ロール( 800mmφ×2000mmL)の表面に溶射(皮膜厚:100 μm)し、従来の炉内ロールとした。
その結果、従来ロールでは、30ヶ月経過した時点から微小剥離が徐々に見られるようになり、42ケ月後にロール交換を余儀なくされたのに対し、本発明のロールを使用した場合には、48ヶ月経過後もビルドアップは全く発生せず、しかも被膜酸化に起因すると見られる微小剥離も認められなかった。
2 ビルドアップ
3 鋼帯
4 SUS 基材
5 溶射皮膜
6 ハイテン鋼
Claims (2)
- セラミック粉末および耐熱合金粉末の混合粉からなるサーメット粉末であって、該セラミック粉末として、サーメット粉末全量に対して、Cr23C6を10〜20mass%およびY2O3を10〜20mass%、かつ両者の合計:30mass%以下を含有し、一方該耐熱合金粉末は、サーメット粉末全量に対して、Alを4〜6mass%、Crを12〜16mass%およびYを1mass%以下含有し、残部はCoおよび/またはNiからなることを特徴とするサーメット粉末。
- 請求項1に記載のサーメット粉末を用いて、熱処理炉の炉内ロールの表面に、皮膜厚:70〜120 μm の溶射層を形成したことを特徴とする、耐ビルドアップ性および耐酸化性に優れた炉内ロール。
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